経済産業省
文字サイズ変更

ヘッジファンド研究会(第3回) 議事要旨

日時:平成19年12月21日(金)14:00~16:00

場所:経済産業省別館5階第509共用会議室

議事概要

1.ヘッジファンドの変遷と金融システムに及ぼす影響
(講師:日本銀行金融機構局大手金融グループ担当総括 清水季子企画役)

清水企画役より、I.ヘッジファンドの特徴や変遷、金融市場に与えた影響等と、これらに関する金融当局の役割について、II.サブプライム住宅ローン問題について、の2つのテーマを資料に沿って説明。

2.金融安定性と効率性の観点から見たヘッジファンドのリスクと規制
(講師:早稲田大学大学院ファイナンス研究科 四塚利樹教授)

四塚教授より、ヘッジファンドの経済的機能と規制のコスト、サブプライム問題との関わり、情報の非対称性から生じる問題等について、資料に沿って説明。

その後の主な議論の要旨は以下のとおり。

  • 日本では今後、(1)ヘッジファンドの投資活動に対する一層の理解促進、(2)国内外の市場参加者が安心して自由な金融活動を行ない得る環境整備、の2つの取組みが必要であるとのことだが、それぞれ具体的にどのように行えば良いのか。
    • どちらについても、具体的な手法についての議論はまだ行なっていない。
    • しかし一般論としては、(1)については、業界団体が自らもっと情報を発信して、投資家や当局を啓蒙することが必要。金融当局は、客観的な情報を発信し、業界による活動を補完していく立場になるだろう。
    • (2)については、最終的には制度や法律の改正を伴うものかもしれないが、そこにたどり着くまでには、市場関係者の意見が不可欠。現状、特に投資家からの意見表明が不充分であると感じている。運用会社は国内にいてくれた方が投資家としても便利なはず。投資家がもっと声を大きくすれば行政も動きやすくなると思う。
  • ヘッジファンドの大きな特徴の1つである「解約制限」による長期資本の確保は、市場混乱時における急激な資金の引き上げを抑制し、最終的には投資家の利益にもつながり得るとの指摘があった。一方で、資金の出し手が市場リスク(保有資産の価格変動リスク)を管理するためには、時価評価(Mark to Market, MTM)をタイムリーに行い、評価損が一定限度を超えたら直ちに(ポジション解消や資金引き上げ等の)一定のアクションをとれる仕組みを設けておくことが望ましいと考えられる。それぞれの立場は相反すると考えられるが、市場の安定化に対してどのように影響するのだろうか。
    • 解約制限が存在することで、市場混乱時でもヘッジファンドが投資家のパニック的行動によって急激なポジション調整を強要されることは少なくなっており、これは市場の安定にも貢献している。他方で、ヘッジファンドと(ヘッジファンドへの与信を行なう)プライムブローカーとの間では、市場の変化に応じて頻繁にマージンコール(追加担保差し入れ)が行われるのが普通であり、市場混乱時には担保が不足して急なポジション解消が必要になる場合もある。このように、MTMに基づく担保のやり取りには市場を不安定化させる側面もあるが、プライムブローカーのリスク管理の観点からは必須の仕組みである。
    • ヘッジファンドにとっての「資本」(投資家の出資金)については、解約制限によって資金の長期性が確保できている。他方、ヘッジファンドの「負債」についてはこのような長期性が確保できていないため、レバレッジの水準が市場の安定性に及ぼす影響が重大になってくる。流動性リスクの定量的管理手法を工夫し、レバレッジを抑制することで、市場混乱時にも耐えうるリスク量にしておくことが重要。
    • ヘッジファンドによっては、格付を取得して(無担保の)長期社債による借入を行うなど、(プライムブローカーによる与信以外の)新たな流動性管理手法を採用する動きも見られる。
  • 投資家のガバナンス力を高めることで市場規律を働かせ、ヘッジファンドによって生じうるリスクを抑えようという考え方は理解できる。しかし、投資家を教育・啓蒙することはできても、直接規制することはできない。本当に実効性のあるのは、ヘッジファンドを直接規制することなのではないか。
    • 投資家が金融機関である場合には、日常のモニタリング等を通じて充分に効果的な対話が可能である。
    • また、最近はヘッジファンドが自発的に情報を開示したり、洗練されたリスク管理の仕組みを構築することで、自らが信頼に足るファンドであることをアピールするようになってきている。機関投資家も知識・ノウハウを蓄積しつつあり、彼らが投資先を選定する過程で、自動的に市場規律が働く仕組みになっている。
    • 国内の年金基金も、5~6年前と比較すれば明らかにヘッジファンド選定能力が向上している。新たに参加する初心者の失敗もあるが、それはある程度やむを得ないと考えるべきで、全体的には確実に向上している。
  • ヘッジファンドが国際金融市場に及ぼしてきた影響については、学術論文等によっても大小様々に評価されている。直近ではどのように捉えられているのか。
    • (1)ヘッジファンドが投資対象とする資産の範囲が広がっている、(2)市場取引量に対するシェアが高まっている、という2点から、ヘッジファンドの影響力(存在感)は過去よりも高まっているといえる。例えば、市場モニタリングの目的で日本国債の取引動向について情報収集を行なっても、(特に目立った売買主体として)ヘッジファンドの名前が挙がることが多い。
    • ここで影響力というのは、(当局や別の市場参加者に)脅威を与えている、というような意味合いではない。同一の投資戦略を取る多くのファンドが比較的マイナーなアセットクラスに集中的なポジションをもつといった事情がなければ、ヘッジファンドを特別視する必要性は低下している。
    • ただし、存在感の高まりと共に、多くのファンドが特定のアセットクラスに集中したポジションをもっているときに、市場で何らかのネガティブ・イベントが起きると、多くのファンドが一斉に「出口」を求めることで市場が混乱するリスクは高まっていると言える。
  • 新興国市場の当局は、ヘッジファンドをどのように評価しているのか。
    • 97年のアジア通貨危機での経験もあり、5年くらい前までは、アジア各国の当局は基本的に「ヘッジファンドには(自国の市場に)入ってきて欲しくない」とのスタンスであった。しかし、ここ2年くらいは、ヘッジファンドを拒絶していては市場振興を図れないことが理解されてきたようで、当局の目が届く範囲であるならば、ヘッジファンドが自国市場で利益を挙げていても構わない、との態度に変わってきている。
    • 他方、一部のファンドには、やや「乱暴な」投資行動をとってきたものもあるため、新興国の当局には不安もあるように見受けられる。個別ファンドの戦略・行動によって、当局の評価が分かれるというのが正直なところだろう。
  • ヘッジファンド市場においては、「一定の戦略が成功し、高い利益を挙げる」⇒「投資家からの資金が大規模に流入する」⇒「その戦略の有効性が失われ、収益率が低下する」⇒「失望して資金が大量に流出する」といった現象をしばしば目にする。このような経緯を経験した戦略が、再び復活することはあるのだろうか。
    • 転換社債アービトラージ戦略が代表的な例だが、このような現象は循環的に繰り返されているようにみえる。しかし、投資家が学習するにつれて、こうした(資金流出入の)振幅は次第に小さくなっていくのではないか。
  • 流動性リスク管理策の強化は、ファンド自身によって行なわれるべきであろうか、それとも当局等の規制によって行なわれるべきだろうか。
    • 国際的な議論は、規制ではなく、市場規律を優先するという方向。
    • 流動性は、「(1)市場の流動性」と「(2)個別ファンドの資金調達にかかる流動性」に分けられる。
    • 「(1)市場の流動性」については、個々のファンド側に決定的な対策はないが、各市場参加者が、自らのポジションと市場の厚みとを比較し、当該市場に対して過剰なポジションを持たないようにコントロールしようと試みることが重要。
    • 中央銀行等が集まって国際的な情報交換を行なってきた経験からは、複数の情報を組み合わせることで何らかの問題の兆候に気づくこともある。こうした情報をどのような形で発信するかについては、情報を発信することで「問題が自己実現してしまう」懸念もあるため、悩ましい。
    • 「(2)個別ファンドの資金調達にかかる流動性」については、欧米の大手金融機関を中心に、従来の管理策に関する見直しが、現在まさに生じているところである。この見直しは、自己の業務内容と資金調達能力との対応をより厳密に検討しようというもの。
    • 流動性リスク量の定量化手法は、実は(市場リスク、信用リスク等の)その他のリスクと比較してやや遅れている分野である。投資対象や戦略によっても大きく異なる面があり、共通の手法を確立するのは難しい。それでも目下のところ各所で改良が続けられており、今後効果的な共通の枠組みが確立することを期待している。
  • ヘッジファンド市場の規模が大きくなりすぎているのでは、との感触はないのか。
    • ヘッジファンド自身がそれに気づいていると思う。自らの投資戦略に対して適正規模以上の資金流入圧力が続く場合、ヘッジファンドの側では、(1)募集を中止する、(2)目標利回りを下げて公募投信のような商品性に転換する、という二者択一を迫られることになる。
    • 近年ヘッジファンドのベータが総じて高まっているという現象が指摘されているが、これは一部のヘッジファンドが投信のような伝統的投資に近づきつつある可能性を示している。
    • 今後はヘッジファンド業界が二極化していくのかもしれない。投資家も、自らのリスク負担能力を勘案しながら、どちらのヘッジファンドを選ぶかを考えることになる。
    • ヘッジファンドが公募投信のような商品性に転換するならば、当然、20%という高い成功報酬は維持できなくなるだろう。
  • ヘッジファンドと伝統的資産運用とは、例えば個別銘柄の割安/割高を判断する能力が付加価値の源泉となっている点など、本質的には非常に近い部分も多いはずである。それにもかかわらず両者の運営実態のギャップは極めて大きく、これがヘッジファンドに資金が流れ込みすぎている原因ではないか。
    • 伝統的資産運用の分野に設けられた規制が多すぎる面がある。ただし、具体的にどの規制をどのように緩めるべきか、という点については(望ましい投資家保護を失わない配慮が不可欠である等)簡単に結論付けられない。
    • 両者の報酬体系が違いすぎる点については、ようやく各所でも話題にのぼるようになってきた。とはいえ議論の成果がみえ、実際の反応につながるまでには長い時間がかかるだろう。
  • 投資家側の知識不足も問題である。日本の投資家教育は、もっと真剣に進められるべきではないか。
    • 日本の年金基金などは人材を内部で賄おうとしすぎている。外部からより適切な人材が投入されるべきであるが、社会全体の人材の流動性が低い点も問題になっている。
    • 母体企業の経営上、年金問題に関する優先度が低いのも問題である。これは企業年金の制度上の問題にも由来している。
    • 米国では年金運用者にかなりの報酬が支払われている。日本でも報酬体系の変更を検討できるのではないか。或いは、報酬体系を変えなくても、年金運用者のステータスが高まれば優秀な人材が増えるのではないかとの期待を抱いている。

以上

 
 
最終更新日:2008年3月26日
経済産業省 〒100-8901 東京都千代田区霞が関1-3-1 代表電話 03-3501-1511
Copyright Ministry of Economy, Trade and Industry. All Rights Reserved.