経済産業省
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ヘッジファンド研究会(第4回) 議事要旨

日時:平成20年2月13日(水)14:00~17:00

場所:経済産業省本館17階東7第2共用会議室

議事概要

1.資産運用(ヘッジファンド)業界の現況と課題
(講師:ユナイテッド・マネージャーズ・ジャパン株式会社 小柴正浩代表取締役社長)

小柴代表取締役社長より、ヘッジファンドを中心とする資産運用業界の現況と課題について、資料に沿って説明。その後の主な議論の要旨は以下のとおり。

  • 日本の資産運用業界には独立系の会社が少ないとの指摘があったが、これは運用業界だけに限った話ではなく、経済構造全体の特徴ではないか。日本においてベンチャービジネスを開始する場合、会社を新たに設立するよりも、大企業内の社内ベンチャーとして立ち上げられる傾向がみられ、資産運用業もこれと同様の状況にあると考えることもできる。仮にこれが世界で一般的にみられる現象とは異なっているとしても、ビジネス立ち上げのリスクを担える仕組みが存在して(結果として望ましい水準の新規ビジネスが登場して)いるのであれば、独立系の運用会社が少ないことを問題にする必要はないのではないか。
    • 金融業界であれ、その他の業界であれ、欧米と比較して日本でベンチャー企業を立ち上げにくいのは確かである。背景には、労働慣行や心理的な要因等があるのかもしれないが、リスクマネーが不足しており、創業に必要な資金が調達できない点は大きな問題として指摘したい。
    • 個人金融資産の半分は、依然として現預金である。銀行は資金を貸付以外の手法で運用せざるを得なくなっており、銀行の預貸率(貸付金残高÷預金残高)は現在平均75%程度と低水準に留まっている。多額の資金を運用するには、個別の資金ニーズが少額であるベンチャー企業はふさわしくないので、結果としてベンチャー企業に資金が流れにくい構造になっている。
    • もっと創業者のコストを引き下げてあげるような政策的支援があれば、現状よりも創業が促進されると考えている。ヘッジファンドについていえば、規制・税制の影響によって創業が大幅に抑制されていると思う。例えば、PE等の問題により日本と海外でそれぞれ事業体を作らざるを得ないという状況は、2倍のコストがかかるということである。これにより、日本におけるヘッジファンドの設立件数は、半減どころか1/3~1/5まで抑制されている、という感触を持っている。制度面の国際競争力を高めていくという視点も重要である。
    • 日本には、大規模なリスクを負担する主体も存在しない。海外では、Warren Buffettによる大手金融保証会社の救済策(提案)、シンガポール政府投資公社(GIC)によるCitigroupやUBSへの出資等の事例がある。何故日本ではこの様な大規模な負担を負う主体が現れないのか、という論点について、本来は金融危機後に真剣に議論するべきであったが、ハゲタカ排除論に流れていってしまったことが今も尾を引いているように感じる。
  • ベンチャーファンドの資金量と比較して投資対象となりうるベンチャー企業の数が不足しており、結果としてこれらの株式価格が既に上場済みの小型株の価格以上に割高に評価されている、という現象をどう捉えているか。
    • 国内のベンチャー企業についても、特にアーリーステージの企業を中心として厳しい資金調達環境にある企業が、自分の周辺にも多数存在している。国内のベンチャーキャピタルのリスクのとり方(≒投資基準)やデューデリジェンスのやり方は、どの会社も似通っているので、同じようなタイプの資金需要にしか対応できていない。
  • 買収防衛策を上場企業の3~4割が導入するなど、ここ2~3年は外資を排除するような流れになっている。外資を排除したことで外国人による買いが減り株価が低迷し、結果的に外資に買収される危機を高めるという本末転倒が生じている。
    • 投資家層の薄さが最大の問題である。(1,500兆円もの資金を保有する家計部門を中心とした)お金の「出もと」に対して思い切った改革を行なわないと悪循環は止まらないだろう。とはいえ、どこをどのように動かしたらよいのか、という点が目下の悩みである。
    • 昨年までは投資信託の残高が拡大を続けるなど良い流れであったものが、金融商品取引法の施行後、販売が落ち込んでいる。「適合性の原則」が厳格になったのが影響している。適合性の原則を各銀行が販売ルールとして具体化する際に、コンプライアンス上の要請から不自然なまでに厳しいルールを定めてしまっている模様である(例:70歳以上の人は1人では投資信託を購入できなくなっている、詳細なリスクの説明に長い時間がかかるため電話での勧誘が実質的にできなくなっている、等)。結果として投資信託の販売量が40%も落ち込んでいる。
    • バーゼルIIによって銀行からファンドへお金が流れなくなり、金融商品取引法によって個人から投資信託等にお金が流れなくなる、という影響が重なり、期待していた方向に逆行している。既に大規模な運用会社が定着している米国等が採用すべき政策と、貯蓄から投資への流れを創出する途上にある日本が採用すべき政策とは異なっていても良いのではないか。ファンド設立のコストを下げる政策と、消費者保護を高める政策とは相反する面があるが、現在の日本は後者を優先しすぎではないか。
  • ファンド設立のコストを下げても、一般の個人投資家がリスクを取るようになるとは限らない。日本と諸外国の投資家の最大の相違は、富裕層がリスクを取るかどうかだと思う。ヘッジファンドからみて、日本の富裕層はどのように捉えられているのか。
    • 資産構成面で不動産と自社株にかたよっている印象がある。また、現金性の資産もファミリーオフィス、富裕層の一族の資産管理・運用を行う会社のような形でプロの投資アドバイザーを雇って運用する形態が少なく、結果としてヘッジファンド投資が国内ではまだ活発化していない。一部スイスのプライベートバンクを利用するか、日本のメガバンクを通じてファンド・オブ・ファンズに投資するというのが多少ある程度か。

2.ヘッジファンドを取り巻く現状
(講師:シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 渋澤健代表取締役)

渋澤代表取締役より、ヘッジファンドを取り巻く現状について、資料に沿って説明。その後の主な議論の要旨は以下のとおり。

【日本の資産運用業、ファンドについて】

  • ファンドは、「株式会社導入」以来の技術革新である。様々なリスク特性や利益配分ルールを自由に設計できる新たな仕組みであり、日本の投資家がその恩恵に与れないとすれば不幸なことだ。
  • 一部の地域金融機関の預貸率は50%を切っているのに、残りの50%超の資金を運用する部門の人員が異常に少ないのは改善すべき問題だ。人材育成がついていっていないのだろう。
  • 日本では資産運用のプロが少ないので、逆に大きなビジネスチャンスでもある。しかし、税率の水準が高いという根本的な問題を除外して考えても、人材が弱い(例えば英語に堪能でない)等の障壁がある。改善には時間がかかる。
  • 日本では2003年以降にファンドの数が増えた。当時の相場環境では、真に超過収益を挙げる能力がなくても、単純に小型株の比重を高くすること等でそれなりのパフォーマンスを挙げることができたため、外部からマネージャーの優劣を判断するのが難しかったが、ようやくここにきて淘汰、そして選別が起こっているように思う。

【ファンド規制について】

  • バーゼルIIの自己資本比率規制を採用する際に、ファンドの取扱い(適用すべきリスクウェイトを導くための詳細ルール等)が実務レベルで固まりきっていない点があったり、制度設計した当局が想定していた以上に銀行側が「検査リスク」を恐れ、結果的にリスクテイクが萎縮された面がある。極めて高率のウェイトが適用されるのではないかとの懸念から、2005年の暮頃から地域金融機関等を中心にファンドから資金を引き上げる動きが広がり始めた。ただ、現在は解約は出尽くした状況にあり、新規投資を検討するところも出てきている。(参考:(「バーゼルIIにおけるファンドの取り扱い」(PDF形式:28KB)PDFファイル外部リンク、金融庁、2006年12月27日))
  • 強い規制が存在し、それに慣れてしまうことによって、自らリスクを回避しようとする「自然な感覚」が弱くなってしまうことがある。一方で、規制が全くなくて預金する銀行を選ぶのに個人がいちいち自分で財務諸表を分析しなければならないような社会もありえない訳で、ある程度の(最低限の品質を保証してくれるような)規制は必要である。ヘッジファンド、公募投信、銀行預金等、各々の金融商品の特徴に応じて、どの程度の規制が必要なのかを、もっと議論していかなければいけない。例えば、ヘッジファンド業界では機関化が進み信託との差異がなくなりつつあるが、それにも関わらず、規制面や投資マネージャーの成功報酬等で大きな違いがあるのには違和感がある。特に本来「パフォーマンス」の動機付けのために設けられている成功報酬性のあり方について議論が少ない。
  • 世界的には2000年頃からヘッジファンドの運用者が増え始めた。競争の激化によって報酬率は下がるのが経済の常識であるが、実際は上がった。トップのファンドには一層の資金が集まり、中には年間管理費3%、成功報酬50%という、希であるが、信じられない報酬をとるものも現れた。ヘッジファンドの報酬は、基本的に投資家と投資マネージャーのバーゲニング・パワーによって決まっている。

【日本の投資環境について】

  • 技術力のある未公開企業をはじめ、日本の会社を買いたいと思っている海外の投資家は多い。ただ、制度面や心理面で日本側の受け入れ態勢が整っていない。日本のベンチャー企業はほとんど日本国内からの資金を調達している状況にある。資金調達力は、企業競争力に直結するものであるため、強化していく必要がある。

【一連の「村上ファンド」にまつわる出来事について】

  • 脇の甘さや物事の進め方の荒っぽさを指摘する声も耳にするが、社会に刺激を与えたと言う意味でも、目指していたことは悪くはなかったと思う。また、ファンドの規模が大きくなりすぎると問題が生じやすくなるという点については、一つの教訓を提供したと思う。
  • 「村上」判決は、国内外のファンドマネージャーに対し、「インサイダー取引に関して日本では何をもって犯罪とされるのかわからない」という不安感を与えた。ファンドマネージャーは、日本の金融商品に投資する場合にもシンガポールや香港に拠点を置くことを選ぶだろう。また、海外投資家の視点では、日本への投資から遠ざかる理由を増やした。

【「ブルドック・スティール」事件について】

  • 公開企業にとって買収防衛策は「核」のようなもので、保有している場合でも、決して行使してはいけないものだと思う。しかも、防衛策を実際に行使したらどうなるかを経営者は正しく理解しないままで行使してしまった、というのが実態ではないだろうか。
  • また、防衛策の実態(つまり、企業価値を毀損する可能性)を株主総会で十分に説明したかも不透明だ。そのような状況で、株主総会で決議されたという理由だけで防衛策を正当化する判決はいかがなものか。防衛策出動により企業価値が毀損され一般株主が蒙った被害は、米国であれば訴訟の対象となりうるものであり、明らかに彼らへの配慮に欠けた決着となった。
  • 日本の企業経営者は、平常時にファンド運用者と接する場面は極めて少ない。対立的な関係を通じてしか経験していないために、ファンドに対して悪い先入観を持ってしまい、合理的な議論が出来なくなっているという側面もあるように思う。

※途中退席された出席者から、研究会終了後に別途以下のご意見を頂戴した。

  • (日本では資産運用のプロが少ないことについて)

    日本では、資産運用業の人材育成のモチベーション(例えば報酬性や社会的地位が低い等)に障壁がある。

  • (バーゼルII採用後の地域金融機関等によるファンド解約について)

    解約は出尽くした状況にあるものの、新規投資を再検討しているところは極一部ではないか。

  • (機関投資家等によるヘッジファンド投資の増加について)

    ヘッジファンドに投資をする機関投資家や年金基金が増えたのは2000年以降であるが、「絶対的リターン」という特徴に目を奪われ、ヘッジファンドは「債券投資の代替」という位置付けで勧誘、投資を実施することに違和感がある。ヘッジファンドと債券は、まったく異なるリスクを抱えている。

  • (「ブルドック・スティール」事件に関連して)

    法務当局も、平常時にファンド運用者と接する場面が極めて少ない。平常時に、ファンドおよび企業経営者との対話の機会も増やすべきだろう。

以上

 
 
最終更新日:2008年3月26日
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