欧州における自動車リサイクルの事例と我が国の制度の特徴
喜多川和典● (財)社会経済生産性本部エコマネジメントセンター長

EU廃車指令について

 EUは二〇〇〇年十月二十一日、EU廃車指令を制定した。EU廃車指令の概要は次の通りである。
  • 二〇〇七年以降、生産者(自動車製造業及び輸入業)は廃車の無料引取を保証する。
  • 二〇〇七年以降、生産者は廃車引取費用のすべて、またはそのほとんどを負担する。
  • 二〇〇六年までに廃車の八五%(内エネルギー回収五%以下)、二〇一五年までに九五%(同、一〇%以下)を再生する。
 EUは加盟国政府に対し、二〇〇二年四月までに準拠法の制定を求めているが、八月末時点で準拠法制定が完了したのは、ドイツ、オランダ等、数カ国に留まっている。本稿ではドイツとオランダの事例を簡潔に紹介した後、我が国の制度の特徴について触れたいと思う。

ドイツにおける新廃車政令

 ドイツでは、一九九八年四月から廃車リサイクルのための政令と産業界による自主規制が実施されてきた。これにより、解体事業者の認定制度が発足し、自動車の登録抹消において破壊証明書の提出が義務付けられた。
 しかしながら、解体事業者に関しては、鑑定人による審査のばらつきがあり、不法な解体業者も認定を受け営業を続けているとの批判がなされた。破壊証明書に関しても、破壊証明書を必要としない一時抹消から一定期間を経て永久抹消される車が大半であるため、実質的な効力は現れなかった。
 こうした反省を踏まえ、今年の七月一日、新廃車政令が発効された。その概要は次の通りである(図1参照)。

図1 ドイツの廃車リサイクルシステム
図1
  • 生産者は、全国規模の廃車の引取網を構築し、二〇〇七年以降、すべての廃車を無料引取しなければならない。
  • 引取所は廃車を認定解体事業者へ、認定解体事業者は廃車ガラを認定破砕事業者へ渡さなければならない。
  • 生産者は廃車の無料引取のために社内に廃車引取のための引当金を構築する。
 新政令では、解体事業者の選別が、鑑定人の審査と生産者の契約によって二重になされ、生産者との契約を取れない解体事業者は経営危機に直面することになる。数年前、約五〇〇〇社あった解体事業者は、現在、約一四〇〇社にまで淘汰された。新政令の実施によって、さらに三〇〇社以下に絞り込まれるとの予測もあり、解体業には厳しい時代が続く。
 また、新政令の特徴として、生産者の廃車引取費用調達のための引当金制度導入を挙げることができる。ドイツ政府は、引当金制度の適用理由を、特別な規制によって経済的なゆがみを生じさせることなく、廃車リサイクルが普通のビジネスとして健全に発展できるよう配慮したためであると説明している。

オランダの廃車リサイクルシステム

 自動車メーカーが存在しないオランダでは、一九九五年以来、ARN(Auto Recycling Nederland BV )と呼ばれる自動車リサイクルシステムが産業界によって自主的に運営されてきた。ARNは、新規登録される車の購入者が廃車処理料金を基金に払い込み、それを原資として自動車のリサイクルを実施する年金方式のシステムである(図2参照)。

図2 オランダの廃車リサイクルシステム
図2

 全車一律の廃車処理料金は、発足当時、二五〇ギルダーであったが、現在では九九ギルダー(四五ユーロ)にまで値下がりしている。一方、リサイクル品目は、当初の九品目から一九品目(表1参照)に拡大されている。ARNが車一台から回収する品目の合計重量は一〇〇kgを超えており、すべてが材料リサイクルされているとのことである。

表1 ARNの指定19品目
冷却液、オイル、ブレーキ液、バッテリー、ガラス、タイヤ、チューブ、ウレタンフォーム、ウェザーストリップ、樹脂バンパー、シートベルト、ココナツ繊維、ウィンドー洗浄液、グリル、後部灯火器、ホイールキャップ、燃料、LPGタンク、オイルフィルター

 解体事業者には、指定一九品目を回収するごとに、ほぼ作業費の実費に相当するプレミアム料金がARNから支払われる。回収品目は指定のコンテナーに収められ、リサイクル事業者に運搬されリサイクルされる。
 二〇〇一年、ARNは八六%の廃車リサイクル率を達成しており、EU指令の主要三課題、(1)無償引取、(2)再生目標値の達成、(3)実施状況のモニタリングを実現している欧州で唯ひとつの廃車リサイクルシステムである。
 ARNの成功の背景には、廃車処理料金を支払った場合にしか車両が登録されず、一旦登録された車両はすべてオンラインデータベース上で「生涯同一ナンバー制」のもと一元管理され、「走行可能車両」に登録されている限り、自動車税から逃れられない税制が導入されているといった、登録抹消制度、情報管理システム及び税制の確固たる組合せがあることは注目に価する。

我が国制度の特徴

 欧州では、廃車の無害化を含む包括的な廃車リサイクル制度を志向するのに対し、我が国の制度は、経済的・技術的なネックとなり得るフロン、エアバッグ、ASR(シュレッダーダスト)にポイントを絞って生産者責任を適用した。これにより、システム全体に揚力を与え、適正かつ円滑な実施をめざすものと見ることができよう。事実、これら三品目は廃車リサイクルにおける難題であり、特にASRの再資源化に関しては先行事例を見出すことさえ難しい。我が国の制度は、実施と同時に大いなる挑戦に挑むものと言える。

 EUにおいても各国の事情及び産業構造を反映し様々な制度が検討されている。我が国の制度も深刻な最終処分場不足等に対し最も効果的な制度を求めた結果と見ることができるであろう。

 また、リサイクル料金を自動車価格とは別徴収する方式も我が国制度の特徴である。欧州ではリサイクル費用を価格に内部化する方式が主流だが、それでは消費者の参加意識が失われるとの批判が欧州内部でも出されている。我が国のやり方はそうした指摘に応え得るものであり、生産者に対してもリサイクル性能を高めるインセンティブとなり得る。

 我が国では、指定三品目をリサイクル制度の中軸に据えつつ、欧州の先進事例が着実に取り組んできた基本的な課題にも十分に注意を払いその本旨を遂げることが求められる。