座談会【創業・ベンチャー活性化への道】

インフラは整備されてきたが…



桑田 まず清成先生から、創業・ベンチャーにかかわる政府の役割は何かという点と、これまで行われてきた諸施策についての評価をお聞かせください。

清成 ベンチャーの施策は、いろいろな施策が全体として有機的に関係づけられて一つの体系になることが重要です。創業支援政策から始まって、シーズが起業家に移転される仕組みづくり、スタートアップ段階での、特にファイナンス面での問題をどう解決していくか。ビジネススキルの問題。成長過程に入って組織ができると経営についての高度なスキルが要求される。次に株式の公開・上場。この段階では、株式市場の整備、株式市場に個人投資家の資金が回ってくるような仕組みが必要で、ベンチャーキャピタルの果たす役割が重要になってきます。
 ベンチャー育成にはこのような政策をトータルに展開する必要があります。これで成功したのが九〇年代のシリコンバレーです。日本でもようやく政策の体系化がなされてきましたが、施策というのはあくまでインフラです。政府はこのインフラを整備するうえで大きな役割を果たします。そのインフラの上で、主役の起業家、ベンチャーキャピタルが活発に動き出さなければ何も生まれません。この辺をどう活性化していくかが、これからの大きな課題だと思います。

鳥谷 ご指摘のとおり、ベンチャーという池の環境はすごくよくなりました。餌も豊富にある。ところが、その池のなかには稚魚がいない。いくら環境がよくなっても稚魚がいなければ何も育たない。まさにそういう状況だと思います。
 企業の経営資源はヒト、モノ、カネ、情報ですが、創業時にはヒトと情報はあるけれどもモノとカネがない。私どもはソフトウエアをつくる会社ですが、ソフトウエアはヒトがコストになる。大きなソフトをつくれば億単位の金がかかりますから、個人の資金ではとても続けることはできません。
 創業は九七年で、ちょうど山一証券が廃業に追い込まれた非常に厳しい時期でして、銀行融資等もほとんど受けられない時期でした。銀行系のベンチャーキャピタルなどは、売上が上がっていたら出してあげようという調子で、これではベンチャーキャピタルではありません。
 そんななかで私たちは、経済産業省の外郭団体で情報処理振興事業協会(IPA)系のMMCAという団体のプロジェクトに応募し、四回目の応募で採択率一・五%の門をクリアして八〇〇〇万円ほどの資金が調達でき、それで開発を継続することができました。ですから、そういう政府の支援がなければ、事業の継続すら危うかったのです。
 開業当初は開発費用が先行します。私どもでは、契約書を担保に銀行から融資を受けて、経営をつなぐといったような綱渡りをしたわけです。

セールスとマーケティングが弱すぎる

松本 私どもは、大学系を含め新規産業創出のためのベンチャーキャピタル、インキュベーションもやるベンチャーキャピタルとしてスタートしました。今までに五社ほど投資しました。うち三社はまったくのスタートから私たちが資本金を出して、社長がいないので社長もやって、オフィスも私どもの会社のなかにつくって開業しました。第二ラウンドで資金を集めるまでは、スタッフ七名全員でインキュベーションに専念しています。
 私ども、ベンチャーのビジネスプランを評価する機会が多いのですが、共通して圧倒的に弱いのがマーケティングとセールスです。ひどいときにはセールスのプラグが抜けている。あっても非常に弱い。この点が非常に日本の特徴的なところだと思います。
 一般論として、アメリカなどベンチャーが非常に成功している国と日本とで一番大きく違っているのは、エンジェルの存在です。日本はこれが非常に少ない。アメリカでは、起業して成功した人たちが、その利益をシーズ段階から投資してベンチャーの経営を支援しています。たぶんアメリカではベンチャーキャピタルの数よりそういうエンジェルのほうがはるかに多い。日本にはそれがほとんどありません。
 一九五〇年代にはソニーやホンダに象徴される国際的なベンチャーがスタートし成功したわけですが、あれ以降の日本は非常に安定した社会になり、ベンチャーのようなリスクを冒してまで経済活動をする状況にありませんでした。極端にいえば、ここ数十年間、日本にはベンチャーがなかった。起業家が育つ状況にはなかったといえます。
 いずれにせよ、エンジェルをどうやってエンカレッジするか、これは国の政策とからみますが、税制を含めて対策を考えるべきだと思います。
 それと、重要なのは規制緩和の推進です。これは経済産業省だけでなく、国全体の各省庁で規制緩和が必要です。特に放送分野で、ブロードバンドになりますと、総務省に規制緩和をやってもらわなければ広がっていかない。民間の活力が出てきません。ですから、もっと大胆に規制緩和を進めていく必要があると思います。
 しかしそれにしても、日本ではベンチャーが出にくい。国としてもいろいろ頑張っておられますが、なかなか出にくい。つきつめて考えますと、日本の教育制度にすべてつながってくるのではないでしょうか。知識の詰め込みでは新しい発想は生まれません。長期的に考えれば教育改革が原点になるということで、最近は教育の問題に取り組んでいます。

桑田 中村社長の会社は株式公開・上場をする準備をされているとのことですけれども、創業当初の資金状況はいかがでしたか。

中村 当社のビジネスは、実はお金のいらないビジネスで、かなり付加価値の高いビジネスです。必要に応じて物を生産していけばいい。ただ、通常の販売方法をとっていたら資金的に行きづまっていたかもしれません。
 私どもはリース方式を取り入れたのです。ユーザーさんに初期投資のいらないビジネスということで、ユーザーさんが省エネのできた金額のなかから設備をリースとしてお支払いいただくというやり方をとったのです。リースですから、完成したものをリース会社へ一括販売する。リース会社がユーザーさんにリースをしていくというやり方ですので、この方式にしてから資金的な苦労はあまりしていません。
 それと、最近は優秀な人材を選択することができるようになりました。リストラの影響でしょうか、募集すると数十人単位で応募があります。私たちの目的に合った、同意してくれる人材を集めることが容易になってきたことで、私たちにとってチャンスかなと思っています。
 ただ、大手がかなりこの業界に参入してきていますので、そこでの差別化ということになると、やはり技術力になってきます。その開発には莫大なお金がいります。ベンチャー資金で一〇〇〇万、二〇〇〇万円を調達しても、とても足りない。商売上の資金はリース方式に変えることでクリアできたけれども、開発費には従来の数十倍、数百倍というたいへんなお金がかかる。それも長期に固定される開発資金ですので、これは株式公開・上場という形でいくしかないと考えています。

ベンチャーはネットワークビジネス

桑田 小泉内閣は、大学発のベンチャーを盛り上げていく方針を打ち出しています。現在、アメリカでは千何百社の大学発ベンチャーがあり、これがある意味でアメリカ経済を活性化させてきた。それに対して日本の大学発ベンチャーは一二八社ぐらいしかない。これを三年で一〇〇〇社ぐらいにしていこうという目標を掲げています。
 実際に各大学も動き出し、産学連携も進みつつあると思うのですけれども、大学発ベンチャーの現状と課題、今後の展望について、それぞれの見方をお聞かせください。
 清成 昨年十一月に総合科学技術会議が事務局になって、産学官連携サミットが開かれました。出席して感じたのは、肝心のところが議論されていないのではないかということです。大学のシーズの評価がほとんどないことと、いかにビジネスモデル、ビジネスプランがよくても、事業化能力がなければだめなわけで、この点の議論が抜け落ちていました。それを一体どうするかが最大の問題です。
 TLO(technology licensing organization=技術移転機関)の制度ができて、すぐ始めた大学が何校かありますが、みんな音を上げています。TLOとしてのビジネスモデルもビジネスプランもないために、やってみたら赤字続きで、しかも赤字が永遠に続きそうだと。こうなると今度は文部科学省に補助金制度をつくれとか、減税措置をやれとかいう話になってくる。これは逆だと思います。
 アメリカではうまくいって、どうして日本でうまくいかないのか。アメリカでは、大学が基礎研究を積み上げて、応用研究から開発のシーズがたまっていたのです。それと、七〇年代にアメリカにはテクノロジートランスファーサービス産業ができあがっていきました。ベンチャーキャピタル、エンジェル、特許売買会社と、さまざまな形態があります。そういうものがインフラとして機能したし、そういう産業がマーケットに依存してできてきていたのです。
 ところが、日本はそういう前提がないのです。前提がないところにTLOの制度ができた。制度そのものは悪くないのだけれども、成功するうえで不可欠のインフラがまだ十分ではないのです。しかも、ビジネスプランなしにトライする。これではうまくいきません。
 それと、支援側のプレーヤーが整っていないことも大きな問題です。ベンチャーキャピタルにしても、銀行や証券が集めたファンドをサラリーマンが投資しているわけです。自分がお金を集めて、リスクを負って投資するのとわけが違います。  証券会社の場合には、自分の親会社の証券会社の幹事会社になって株式を公開するというところまでいけばいいと思っているし、銀行にしても融資につながればいいと思っているのが実際のところでしょう。この辺をきちんと整理せずに大学発ベンチャーということでトライしても、まずうまくいかないと思います。
 アメリカでも日本でも、技術系の人たちに起業家的な資質をもった人は少ないわけです。事業化能力、マーケティング能力はありませんから、そこをサポートするような経営資源を投入しなければいけません。ですから、ベンチャーというのはネットワークビジネスなのです。自分が何から何までもつ必要はない。外部のサポーターをうまく使って成功していくものです。特に大学発ベンチャーはそうしないとうまくいかないと思います。

鳥谷 私も大学に近いところにおりましたので、いろいろ大学発ベンチャーの方を知っていますが、ほとんど成功の可能性を感じません。なぜかといえば、マーケティング、セールスがわかっていないからです。
 自分の技術に関しては滔々と語るのですが、「何の役に立つのですか」「だれが使うのですか」となると、答えがない。ですから、とてもビジネスプランまでいってないわけでして、そういう人がほとんどだと思います。
 では、どうしたらいいのか。ビジネスのわかる人間と、アカデミックでテクノロジーの先端をいける人間とがペアを組むことが必要です。そこで出会いの場が必要になります。
 成功しているベンチャーに共通するのは、経営者同士のつきあいが非常に長いことだといいます。要するに、技術担当、営業担当、財務担当の経営者同士のつきあいが非常に長いこと。つまり、信頼関係ができ上がっていることだと。
 大学発ベンチャーの場合も同じで、大学できちんと学問した人とビジネスセンスのある人がお互いに信頼し合うなかでベンチャービジネスを立ち上げなければうまくいかないように思います。

専門家のマーケティングプランが必要

松本 大学で開発されたテクノロジーがそのまま商売になるかというと、これまた別な話です。そのテクノロジーを使ってどういう製品をつくるかというところは、大学の先生にはなかなかわからないわけです。ですから、大学と産業界との連携とか、ディールフローができていないというのは大きな問題だと思います。
 最近、日本にもベンチャーで成功した人がたくさん出てきています。そういう人が自分のお金を使っていろんなベンチャーを育てる。そのかわりその会社がうまくいって、上場や売却をしたときのキャピタルゲインに対しての課税は何%まではゼロであるとかという措置を講ずる。そこで得たお金でまたベンチャーを育成する。そういういい循環が社会にできてくるといいのですが。
 ベンチャーで成功した人はまさにそのプロセスを全部知っていますから、そういう人がアーリーステージ、まだ起業までいかない段階で、大学のテクノロジーでこれはこういう製品にするとニーズがあってものになる、経営をちゃんと指導しましょうと、こうやったら会社になりますと、セールス、マーケティングプランも一緒に考えましょうと、場合によったら人を連れてきますよという動きになれば、かなり現実性が出てきます。それには大学の先生方の意識改革、産業界の意識改革が必要でしょう。
 たとえばシスコとかサンマイクロといったベンチャーが成功したのは、セールス、マーケティングが非常に優れていたからです。たしかにシスコは大学でできた技術からスタートしたのですが、技術があって成功したのではありません。シスコもサンマイクロもマーケティングカンパニーで、セールス、マーケティングが優れていたので世界的に成功したのです。

清成 マイクロソフトもそうですね。

松本 そうです。

清成 マーケティングというのは、要するに市場をつくる、市場化のことで、市場化するためにはそれなりの能力が必要になります。

松本 その能力がなさすぎるのが一番の問題ですね。なぜこれほどないのか、不思議なぐらいです。逆にいうと、日本が大企業中心で、技術さえよければ売れる世界があったからではないですか。

清成 ちゃんとしたモデルがあって、キャッチアップしていけばよかった。

松本 ですから、日本の大企業のマーケティング部門は製品開発をしている研究開発本部のなかにあるのです。エンジニアリング部門の人間がマーケティングをやって、彼らの技術で製品開発して、営業に売ってこいという。営業主体ではなく技術主体で日本の企業はずっとやってきたのです。いまだにそういう環境にあります。それに対してアメリカは営業マーケティングが中心の社会です。

鳥谷 新しい技術をシーズからつくっていくときに、マーケティングでも新規市場創造のプロセスになります。その場合、マーケティングプランは仮説に基づいた、どっちに転ぶかわからないようなマーケティングプランになってしまいます。それで苦しんでいるわけですけれども、このあたりについてどう考えればいいのでしょうか。

松本 結局、各分野のマーケットを知っている人たちがマーケティングプランをやらなければいけないと思います。市場をよく知っていて、製品分析ができ、評価ができ、将来のニーズも予測ができる人たちがやるべきだと思います。
 その意味で、ディールフローになるような産学連携のフィールドを、各分野の企業がお金を出し合ってつくるような環境ができればいいなと思っています。それが各分野ごとにあればいい。

鳥谷 専門家が入り込んでマーケティングプランをつくるということですね。

松本 そうです。マーケットをよく知っている人たちがやらないと、ほんとうのプランはつくれないと思います。

鳥谷 まったくそのとおりですね。

桑田 いいニーズがあっても売れるとは限らないと。

中村 ほんとうです。それをすべてミックスしないとできない仕事を今やっています。トップランナーの商品をつくっていくためには、大学発のベンチャーを利用し始めているところです。ミクロの世界でのトップレベルの技術が私たちはほしい。大学のレベルは確かにミクロの部分では高いのですけれども、その先の応用ということを一切考えていません。
 ですから、私たちは逆にそこでいいものを見つけ出せるのではないかと。私たちが応用した製品を考え、販売方法を考えていく。私どもの会社がベンチャーというのであれば、ベンチャーがベンチャーを育てていく。ベンチャーのなかに複数のベンチャーを取り込んで、そこからいいものを引き出していくという形をとっていかなければ、大学の研究室でやっているようなベンチャーはつぶれてしまうのではないでしょうか。

清成 いまや応用分野でも学際的になっていまして、学と学の連携が必要な時代です。たとえば医学の部門で、現場で臨床をやっている教授のニーズははっきりしていて、具体的にこういうものがほしいという要望があるわけです。
 そこにIT(情報技術)の、特に画像処理の専門家やロボット工学、材料の専門家が出ていってそういうニーズを聞いてくる。そのニーズをうまく商品化するかということで、研究をして商品化すれば売れ筋の分野になるわけです。

松本 そういう大学のシーズに対して支援するモチベーションの高い産業界のグループがあって、大学のシーズを見たら、これはこのままではだめで、こう変えればニーズがある、これで製品になるというアドバイスをしてくれる人が必要なのです。

清成 そうですね。マーケティングをどうやるのか、顧客はどこにいるのか、市場規模はどのぐらいなのか、どういう市場の制度をつくったらいいのかという話をネットワーキングで支援してもらって、起業家が核になれば成功する。

松本 ベンチャーというのは新しい産業の創造でなければいけないという意味でいきますと、たとえば、新しい分野の新しいマーケットをつくる。シスコがやったのは、インターネットという産業を新しくつくってしまったわけです。そうすると世界に出ていける。世界に新しい潮流をつくる。そういう意味で、大学は一番可能性がある。期待しています。

清成 世界第一号のベンチャーキャピタルは、一九四六年にできたアメリカン・リサーチ・アンド・デベロップメント(ARD)です。できて一〇年間は鳴かず飛ばずで、一一年目にケン・オルセンがミニコンピューターのプロトタイプをもって現れた。専門家に意見を聞いたら「こんなものだめだ」という。
 ARDの社長はそういう専門家の意見があったにもかかわらず、ケン・オルセンという人物を見込んで、結局この男に投資するわけです。これがDECで、投資してから五〜六年のうちに株価が一万何千倍になってしまった。

松本 投資するときは、最終的にはやはり人ですね。

清成 人なんです。それが、すべてのベンチャーの始まりでした。それで、ベンチャーキャピタルが増え、大学からスピンオフする人が増えていった。当時ケン・オルセンはMIT(マサチューセッツ工科大学)のマスターの学生でしたから、DECというのは大学発ベンチャーなのです。

松本 そこから新しい産業の創出に結びつけていくことが大事だと思います。銀行系のベンチャーキャピタルは、株式公開したらそこまでが目的で、そこで全部引き揚げてしまう。ところが、ほんとうに大事なのは、そこから先も成長して伸びていくことです。今はそういう産業ができる仕組みになっていないので心配です。

清成 アメリカでは、九〇年と九五年を比較すると、雇用の絶対数を一番増やしたのはベンチャー企業なのです。大企業ではありません。九〇年代のアメリカはベンチャーにより新しい産業をつくって、雇用もそこで創出したのです。

松本 ですから、株式上場後、三年や五年でつぶれてしまったら意味がないわけです。数の問題ではなくて、しっかり成長を続けるベンチャーをどう育てるかが大事だと思います。そういう意味で、新規株式市場をつくったのはよかったけれども、ちょっと甘くなりすぎて、弱いベンチャーをつくっただけという反省をすべきかもしれません。

最大の課題は意識改革

桑田 ベンチャー活性化の一環として大企業からのスピンアウトを促すというテーマがありますが、これについてはどのようにみておられますか。

鳥谷 個人的な経験でいえば、大企業は非常に居心地がよくて、だれもやめたくないと思います。何のリスクもありませんし。やめる理由が何もない。
 私は、企業内ベンチャーをやっていたのです。ゼロから研究開発を始めて、製品化して、自分でマーケティングして、営業して、アメリカまで行って売ってというのをやりました。一応世界でもナンバースリーぐらいの製品ができたのですが、世界標準にしようと思ってできなかった。それが悔しくてベンチャーを始めたわけです。
 ですけど、ほんとうは大企業にいたかったのです。私がやろうとしたのはソフトウエアビジネスですが、前にいた会社はハードウエア大企業で、事業部をつくるとなったら一〇〇億、二〇〇億という単位のビジネスを考えます。ソフトウエアビジネスだと、一〇億、二〇億ぐらいしかビジネスプランは書けません。最初は、ゼロスタートです。「一〇〇億、二〇〇億も書けないようなプランは興味ない、勝手にやれば」ということになって、「じゃあ、やります」ということで始めた経緯があります。
 そういうことで、大企業出身でもいろいろなことを経験していなければベンチャー経営は苦しいと思います。日本発の世界標準を立てようという、日本の製造業を強くするようなソフトウエアインフラをつくろうという気概だけでやってきて、もしかしたら株式上場でお金持ちになれるかもしれないけれども、そういう志があれば、人も集まってきますし、求心力みたいなものが生まれるのかなと感じます。

桑田 あとに続く人が出ていますか。

鳥谷 これは、私たちが成功しないといけない。これで失敗すると、やっぱりベンチャーはやるものじゃないということになります。大企業でゆっくり二〇年ローンを返して、退職金をもらうほうがいいというふうになります。

清成 一年制のIT修士課程の大学院をつくったら、広報もしていないのに、定員の四倍の応募がありました。驚いたのは、大企業に勤めていた人たちが退職してきたことです。三十歳前後の人が退職してやってくる。将来どうするのか聞くと、会社を起こすという。大企業を見限ってくるんです。大企業でもリストラが激しく、自分の将来もわからない。もうキャリアチェンジだと、ITを勉強しようと入ってくる。

桑田 そういう三十代を励ますような方法を考えなければいけないですね。これから大学は、ある意味で非常におもしろくなるのでは。

清成 昨年、私立大学の三分の一は定員割れでしたが、目的をはっきりさせ、きちんと動機づけできるようなことをやれば人は集まるんです。

松本 基本的に大企業をエンカレッジして、スピンアウトしてベンチャーをつくらせるのは難しいような気がします。これは個人の意識の問題ですし。
 それとは別に、シーズは企業の研究所に埋もれています。ところが、ほとんどが死んでいる。それをどうやって掘り起こすかが非常に重要だと思います。
 意識の問題がものすごく大きな手かせ足かせになっているわけですが、シーズを見つけてベンチャーを立ち上げ、株式上場で知名度が上がれば、研究開発者の意識は変わるかもしれない。
 要するに、そういう実例をつくらない限り意識は変わらない。だれがその実例を最初につくるのかという問題があります。これは大学発のベンチャーも同じだと思います。最大の問題は意識改革です。

清成 これから、工業化時代のベンチャーとは違ったパターンのベンチャーが出てくると思います。これまで、工業化時代のブルーカラー型の加工屋さんの中小企業がたくさん生まれたわけですけれども、知的創造型ではなかった。ここを生み出すことができるかが、今、問われているのだと思います。

松本 私は、二十代から三十代前半の人たちに期待しています。三十代の前半で優秀な人たちが出てくる動きは、一方でかなりアクティブです。はじめ外資系に勤めてきた人が日本の大企業をスピンオフした人たちと組んで何かやりそうな気がします。そういう意味で、日本のベンチャーもこれから何か出てくるような気がします。問題は、それを支援する体制をどうつくるかです。

清成 一方で、大企業は相当に苦しくなってくると思います。失業者も増えてくる。そこではじめて大企業のリーダーも危機感をもつのではないでしょうか。今はまだ危機感がありません。最後はパニックになると思うのですが、そこを一回経験しないと、真の意味での改革は起きないように思います。そこから新たな日本が始まるのではないでしょうか。

桑田 私ども、ベンチャーの施策につきましては、遅ればせながら整備に力を入れてきまして、インフラとしてある程度の形は整ったのではないかと考えております。資本市場のほうも整ってきました。大切なのは、そういうインフラの上に立って有機的な活動を展開し、新たな産業創出、雇用創出につながるダイナミックな動きを生み出すことです。そのために、政府としてできることを、人材、技術、資産を投入していきます。
 本日は有用なご意見をありがとうございました。


この座談会及び関連寄稿論文は、経済省広報誌「経済産業ジャーナル」に掲載されたものを転載したものです。なお、ここに掲載された論文等のうち、意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りしておきます。
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