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アザラシ型のロボット「パロ」は、真っ白い毛で覆われ、体長約六〇センチほどの大きさである。撫でられたり、抱っこされたり、人の声を聞いたりすると、瞬きをしたり、手足を振ったり、首を動かしたりする。パロは、人との触れ合いにおいて、人の心に安らぎや楽しみを与え、心の豊かさを与えることを目的とする「メンタルコミットロボット」の一つである。一般家庭のほか、特に、人畜感染症、アレルギー、引っ掻き、噛み付きなどの点から、動物を飼うことが難しい病院や高齢者向け施設等での存在を想定している。そのため、隔離病棟にも導入できるように、パロには、抗菌加工、防汚加工、抜け毛防止等を施している。これまでのロボット・セラピーの実証実験により、心理的効果(リラックス、元気付け等)、生理的効果(ストレスの低減)、社会的効果(人とコミュニケーションを活発にする等)を確認した。
パロは、世界一癒し効果の高いロボットとしてギネス世界記録のの「セラピー用ロボット部門」に認定されるなど、現在国内外で高い評価を得つつあるが、この研究開発は、一九九三年から当時の工業技術院の他、多くの人々や機関の協力を得て、進めている研究が実ったものである。
当時の技術的な制約から、人と相互作用するロボットの研究として、人型ではなく、動物型にすることで、人の生理・心理に関わる研究ができると判断し研究を始めた。一九九五年から二年間、米国マサチューセッツ工科大学人工知能研究所で研究員を兼任し、心理実験を行ったり、手作りで犬型ロボットなどのプロトタイプを作ったりしながら、基礎的な技術の研究開発を進めた。同時に、パーソナルロボットの市場性についても研究した。人と動物との関係を調べ、米国ではペット産業が二兆円程の市場で成長産業であることや、アニマル・セラピーの効果等を調査した。なお、日本の産業用ロボットの市場規模は、五〇〇〇億円程である。また、頻繁に米国内の老人ホームを訪問し、介護されている高齢者の生活について研究した。プロジェクトが拡大したため、いったん帰国後、一九九八年にも客員研究員として研究を行った。なお一九九六年には、チューリッヒ大学で感情についての研究も行った。

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一九九七年に日本の大企業O社からロボットの研究開発を始めたいと相談があり、共同で身近な動物であるネコ型ロボットの研究開発を行った。一九九八年にはプロトタイプが完成し、話題となった。評価は高かったものの、本物の猫との主観的な比較で、厳しく評価される場合があった。兼業許可を得て、技術顧問契約を行って研究開発を進めていた。しかしながら、経済状況が悪化し、O社はロボット関連の研究から撤退することとなった。かろうじてネコ型ロボットの研究開発は継続が決まったが、研究部門ではなく、事業部門に移管することになった。技術顧問は、商品化や事業計画に関われなかったため、O社が単独で継続した。その後、担当者の苦労が実り、二〇〇一年に「NeCoRo」として商品化に至った。
ネコ型ロボットとは並行して、独自に、身近でなく、かわいいイメージの動物として、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルにして、アザラシ型ロボットの研究開発を進めていた。一九九九年には、大企業S社が、ロボットを将来の新規事業として興味をもったことから、技術指導として、アザラシ型ロボットを共同で改良することにした。なお途中から兼業許可を得て、技術顧問契約とした。改良型を作るにあたり、本格的なロボットにするため、電子、機械、センサ技術などを有する中小企業M社に協力を依頼した。富山県にある五〇人ほどの中小企業であるが、独自に様々なセンサを開発するなど、ポテンシャルが高い企業であった。景気の悪化で、S社は撤退したもの、M社との研究開発を続け、現在、パロは第七世代に成長した。
二〇〇〇年に、筑波大学付属病院小児病棟でロボット・セラピーの実験を行うことを目的に、第五世代のパロを開発した。短期の入院患者だけでなく、白血病や悪性リンパなどにより隔離病棟に長期に入院している子供たちも元気付けるため、軽量化や耐久性の向上の他に、衛生面で、抗菌加工や防汚加工などを施すことで、導入を可能にした。結果として、心理的効果、社会的効果が非常に高く、好評を得た。

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また二〇〇一年から、高齢者向け施設のデイサービスセンターと介護老人保健施設においてロボット・セラピーの実験を行った。心理的効果、社会的効果のほか、生理的効果に関して、尿検査によりストレスの低減を確認した。同時に、介護者の心労を低減することも確認した。二〇一五年には、日本国民の二五%が六十五歳以上になると予測されている。それに伴い、介護を必要とする高齢者と介護者の人数が増加する。ロボットによって、高齢者の生活の質を向上し、精神面から高齢者の健康を維持し、病の予防につなげられれば、心豊かな社会になる。結果として、社会コストの低減を期待できる。こうしたロボット技術を利用した新たな市場の基盤を作り出し、経済も潤い、心も潤う新しい社会へのパラダイムを提示する、国が行う技術開発の醍醐味である。
最後に、イギリスの二〇〇二年二月八日付け新聞デイリースター紙の記事を紹介しておく。
「日本政府によって開発されたアザラシ型ロボット。人々を心地よくさせる。ファンタスティック。撫でたりしてごらん、あなたの生活を豊かにしてくれるように反応するよ。どうして、英国政府はこのような研究開発をしないのか?」
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