3.中小企業の直接投資の成功と失敗
ここまでは直接投資を行う企業の特徴について見てきた。そこから明らかになったのは、規模が大きく、自己資本比率が高く、高い労働生産性を有し、研究開発集約度の高い企業が直接投資を行う傾向が強いということであった。それでは、こうした直接投資を行う企業のうち、どのような企業が実際に現地での競争に耐え抜き生き残るのであろうか。次にこの点について、本社及び現地法人の属性、戦略との関係に着目しつつ分析しよう。
(1)パフォーマンスの指標と直接投資以降の経過期間、規模の影響
直接投資の成功と失敗を考えるに当たり、まず注意しなければならないのは、本社及び現地法人の属性、戦略の違いによる直接投資の成功と失敗はどのような尺度で測るのか、いつの時点でこれを判断するか、初期投資の規模をどのように考えるかということである。
[1]パフォーマンスの指標
成功と失敗の尺度としてまず考えられるのが、現地法人の存続と撤退である。しかしながら、存続している現地法人が必ずしも成功しているとは限らない場合がある。例えば、現地での経営が上手くいかず、日本から追加的に資金補填を行っている場合などは成功しているとはいえないであろう。そこで、ここでは第一に直接投資先の現地法人の存続と撤退という観点から分析を行い、さらに存続している現地法人の利益額あるいは売上高が増加傾向か減少傾向かにより、成功、失敗という判断をすることとする(第2-2-30図)。
[2]直接投資実施以降の経過期間、規模の影響
このような指標を用いた直接投資の成功と失敗の判定には直接投資が行われてからの期間の影響を考慮しなければならない。というのは、直接投資においては現地に進出してから現地法人の経営が当初計画していた生産水準に達するという意味ですぐに軌道に乗るわけではないからである。「中小企業海外活動実態調査」により回答のあった約800社の中で2000年以前に設立された現地法人のうち、進出後1〜2年のうちに計画通りの生産水準に至った現地法人は約4割である(第2-2-31図)。このことから直接投資の成功と失敗の判断には、直接投資が行われてからの経過期間が関係しているといえる。
また、直接投資の成功と失敗の判定には初期投資の規模が関係してくることも重要である。第2-2-32図によると初期投資金額、直接投資直後の現地従業者数のどちらをとっても、存続現地法人の規模は撤退現地法人に比べ大きいという結果が得られる(付注2-2-6)。これは、直接投資を行う場合には、当初から撤退する可能性も考慮してリスクを軽減するためにあらかじめ投資規模を抑える企業が存在することや、一方で初期投資の規模が大きい企業は撤退時の損失額も膨らんでしまうため、現地法人の経営が上手くいっていなくとも、簡単に放棄できないといった要因が働くからであろう。
こうしたことから、ここで結果を紹介する基となる分析においては、直接投資以降の経過年数と直接投資実施の規模として直接投資実施時の現地従業者数を考慮している。
(2)直接投資の成否と本社の業績
まず、現地法人の成功・失敗と投資を行った日本本社の収支、財務の状況との関係について見ていこう。「中小企業海外活動実態調査」により、1998年以降に保有する海外拠点を1社でも撤退(注71)させた中小企業と同期間において1社も撤退させていない中小企業について、1998年の本社規模、自己資本比率、営業利益率を比較したところ、これらの指標で有意な差は見られなかった(付注2-2-7)。つまり、本社の財務状況が企業の海外進出意志決定に大きく関係している一方で、現地法人の成功・失敗には関係しないのである。直接投資の成功のポイントが投資先地域で経営資源を如何に活かしていくか否かであるとすると、本社業績が関係しないことは至極当然であるかもしれない。それでは、次項から直接投資を行う際の事前調査、属性、現地での取組が成功・失敗にどのように影響しているか見ていくこととしよう。
(3)直接投資の成否と事前の重視事項
先述したように直接投資は経営資源を海外に移転させるものであるが、移転先でその経営資源を活かせなければ、成功に結び付かない。では、中小企業の直接投資の際にはどのようなことが重視されるのであろうか。第2-2-33図により、直接投資を行う際に重視していた内容を本社の従業者規模別に見ると、「安価な労働力の確保」を重視して直接投資を行う企業は本社の従業者規模に関わらず総じて約5割となっている。また、「市場の大きさ」では、本社規模が大きい企業ほど回答している割合が高くなっている。
それでは、どのような項目を重視して行われる直接投資が成功に結びつくのであろうか。この点を見るために、中小企業の直接投資による1998年時点の現地法人のうち、2003年現在(注72)も存続している現地法人(以下「存続法人」という。)と1998年以降に撤退した現地法人(以下「撤退法人」という。)に分け、両者の重視した項目の違いを見ると共に、存続法人については最近5年間の利益額が増加傾向の法人と、減少傾向(又は変化なし)の法人に分け、重視した項目に違いがあるのかどうかを見てみよう。すると存続・撤退では、「安価な労働力の確保」を重視した現地法人が存続している傾向にある一方、利益動向については「市場の大きさ」、「法・税制の整備」を重視した現地法人が利益増加傾向にあった(第2-2-34図、付注2-2-8)。
つまり、中小企業の直接投資は、安価な労働力を重視して行われ、そうした直接投資による現地法人は存続する可能性が高いが、それだけでは同じ狙いで進出してきた多くの他の進出企業との競争により利益を十分に上げることはできない。現地法人が利益を上げるためには、市場の大きさや進出先での法律や税制度なども考慮して、進出先市場に製品を浸透させることが必要であるといえるのだろう。
(4)事前の情報収集
海外直接投資は日本国内とは異なる地域に法人を設立する行為であることから、日本国内と違って、情報を入手しにくい又は入手した情報が正確なものでは無いなどの情報不足が生じることがある。とりわけ、情報収集力の弱い中小企業ではそうしたことが生じやすいが、情報不足のまま直接投資を行った企業は、実施前には思いもつかなかった問題に直面し、現地での経営が円滑に行われず、最悪の場合撤退に至る可能性もある。では直接投資を行う前に企業はどのような機関(あるいは企業)から情報収集を行っているのであろうか。
第2-2-35図により直接投資を行う前の情報収集先について本社の従業者規模別に見たところ、本社規模の大きさに関わらず「同地域への直接投資経験のある日本企業」や「取引金融機関」から情報収集した企業の割合が高い。これは海外の生の情報が日本では伝わりにくいため、経験者やそのような経験のある取引先を豊富に持つ金融機関に求めることでそうした情報を仕入れているからなのであろう。
次に、どの機関(あるいは企業)から情報収集を得ることがその後のパフォーマンスに良い影響を与えるかを見るために、(3)と同様に中小企業の直接投資に係る1998年時点の現地法人を存続法人と撤退法人に分け、さらに存続法人については最近5年間の利益増減傾向を見てみよう。すると、「日本の業界団体」、「日本の公的機関」から情報収集した現地法人が存続している割合が高く、一方で「同地域への直接投資経験のある日本企業」、「取引金融機関」、「現地政府機関」から情報収集した現地法人の利益増加傾向の割合が高いことが分かる(第2-2-36図、付注2-2-9)。
つまり、日本の公的機関(注73)や日本の業界団体からの情報は、撤退に結びつきかねない重大な失敗を防げるという点では効果がある一方、直接投資経験のある日本企業から現地の事情、直接投資に際して注意すべき点などのノウハウを吸収することや、直接投資に関する情報が豊富な取引金融機関から客観的なアドバイスを得ること(注74)が利益額の増加という点で、その後のパフォーマンスに良い影響を与えていると考えられるのである。なお、現地政府機関からの情報収集は、その後の現地国からの公的支援をもたらす可能性があり、このことも現地政府機関に接触した場合のパフォーマンスの良さを示すのかもしれない。
(5)直接投資の出資形態
直接投資の出資形態には独資、合弁方式(注75)があるが、どのような出資形態で直接投資を行う企業が成功する傾向にあるのだろうか。また、前掲第2-2-11図、第2-2-12図に示したように中国を中心に近年独資での出資方式の割合が高くなっているが、出資形態は直接投資の成功・失敗に関係しているのであろうか。
まず、第2-2-37図により企業規模別に出資形態の割合を見ると、本社の従業者規模が50人以下の企業では、合弁方式による直接投資の割合がやや高くなっている。また、第2-2-38図により存続法人、撤退法人の割合を見ると、独資現地法人より合弁現地法人、特に出資比率の低い合弁現地法人が撤退割合が高いことが分かる(付注2-2-11)。独資、合弁のメリット・デメリットについては第1節1.(3)で述べたとおりであるが、ここでは合弁パートナーとのトラブルが生じる可能性があるという合弁のデメリットが、独資法人に比べて高い撤退割合に関係しているといえよう。
実際、日本企業以外との合弁現地法人の存続・撤退と現地パートナーとの経営方針の相違の有無の関係を見ると、現地パートナーとの経営方針の相違がない場合には撤退割合が12.4%であるのに対し、現地パートナーとの経営方針の相違があった場合は34.4%となっている(第2-2-39図、付注2-2-12)。つまり、自社と現地パートナーとの経営の方向性が一致しているかどうかが、合弁現地法人が存続するための重要な要件となっているといえる。
(6)直接投資先の最高責任者(注76)
次に現地法人の最高責任者はどのような者が任されているかを見てみよう。「中小企業海外活動実態調査」では現地の最高責任者の出自について尋ねている。これを本社規模別に見ると、本社の従業者数が50人以下の企業では、「本社の代表者」が自ら現地法人の最高責任者となっている割合が36.3%と最も高く、「合弁先の役員、従業者」がこれに続いている(第2-2-40図)。本社規模が大きくなるにつれて、現地の最高責任者が「本社の従業者」である割合が高くなり、逆に「本社の代表者」、「本社が選んだ現地国籍を有する者」の割合が減少している。
次に現地責任者をどのような者に任せるかにより、存続・撤退(注77)に影響があるかを見ていこう。第2-2-41図に示されるように、最高責任者を日本人とする場合、「本社の代表者」が自ら最高責任者となるよりも自社内の人間に任せていた方が存続する割合が高くなっている。また、現地国籍を有する者に任せる場合では、「合弁先の役員、従業者」より、「本社が選んだ現地国籍を有する者」に任せた方が存続する傾向にある(付注2-2-13)。
このように本社の代表者よりも自社内の人間や現地国籍を有する者を選び、その者に任せる方が撤退割合が低いことの背景には、意思決定に要する時間の問題があると考えられる。例えば、現地でトラブルが発生した場合でも、自社に海外拠点を統率できるような従業者が存在すればどのような取組を行うべきかを早急に判断することができるのに対して、本社の代表者が最高責任者となっている場合は、本社の業務もあるためそのようなトラブルへの対処が遅れる可能性があるのである。
では、日本人が現地の最高責任者となる場合について、海外に派遣する従業者にはどのような能力が求められるのであろうか。厚生労働省「産業労働事情調査(2001年)(注78)」では海外展開を行っている企業と行っていない企業の双方に対して、「経済のグローバル化の下で求められる人材能力」について尋ねている。これによると、海外展開している企業はそうでない企業に比べ、「戦略立案力」、「語学力」、「コミュニケーション能力」を挙げている企業の割合が高いことが分かる(第2-2-42図)。つまり、日本から派遣する従業者には、海外で自ら考えトラブルにも対応できる能力、海外でも通用する語学力、コミュニケーション能力を持つ者を選び、こうした者に対して現地の経営を任せることが必要なのであろう。
しかしながら、中小企業の場合、そうした人材を確保していることはまれである。本社従業者にそのような人材がいないのであれば現地関係機関等から「現地国籍を有する者」を日本側で選抜し、その者に経営責任者として任せることも選択肢として考えられる。先に述べたように現地国籍を有する者を最高責任者として任せた場合に、「本社が選んだ現地国籍を有する者」が、「合弁先の役員、従業者」に比べ存続する割合が高くなっている(前掲第2-2-41図)。このような差が生じる理由は何であろうか。そこで「合弁先の役員、従業者」と「本社が選んだ現地国籍を有する者」について、日本での経験等の有無を比較したのが第2-2-43図である。ここから分かるように、「合弁先の役員、従業者」が責任者の場合は、日本向けの経験がない場合が半分近くになるのに対して、「本社が選んだ現地国籍を有する者」が責任者の場合は日本での勤務経験や日本への留学経験のある者が多くなっている。つまり、現地国籍を有する者が最高責任者の場合、その者の日本での経験が重要な要素となるといえよう。
以上の結果からいえることは、本社の代表者が自ら現地法人の最高責任者となるよりは、自社内に現地法人を統率できるような戦略立案力、コミュニケーション能力のある日本人従業者を現地責任者とすること、また現地国籍を有する者に任せてしまう場合でも、日本での勤務経験を積ませて本社と現地法人の橋渡し役となれる者を選ぶことが存続できる要因であるといえよう。
(7)直接投資後の取組(生産管理)
ここまでは、直接投資の前段階の準備、投資形態によるパフォーマンスの違いについて見てきたが、ここでは直接投資後の生産管理、現地販売管理といった取組が、どのような影響を与えているかについて見ていくとしよう。
「中小企業海外活動実態調査」では、存続法人、撤退法人に「直接投資前にはあらかじめ想定していなかったが、実施後に生じた課題、問題」について尋ねている。この調査によると、生産管理面では「品質管理が困難」(38.1%)という課題、問題が生じた現地法人が多く(注79)、またこの課題、問題が発生した現地法人では、最近5年間の利益額が増加傾向の割合が減少傾向(又は変化なし)の割合に比べ、低くなっている(第2-2-44図、付注2-2-14)。このことから、品質管理の課題、問題が発生すると、利益動向にマイナスの影響を与えると考えられる(注80)。
他方、「現地での外注先の技術が未熟」、「現地従業者の技能レベルが低い」といったトラブルと利益動向には有意な関係が見られなかった。これは、例えば「現地での外注先の技術が未熟」という課題、問題が発生しても、自社の現地法人内部や日本国内で対応できる可能性があり、また「現地従業者の技能レベルが低い」という課題、問題についても、後述するような生産管理の取組により、解決できる可能性があるため、利益動向に対しては直接の影響を与えていない可能性があると考えられよう。
では、現地法人のうち、どのような生産管理を行っている現地法人が良好なパフォーマンスを示すのであろうか。第2-2-45図では現地法人の経営上の取組として、どのような生産管理を行ったかについて尋ねている。これによると、生産管理に関する取組については、「作業マニュアルの作成」「生産計画の作成」「整理整頓の徹底」が多くの現地法人で実施されている。また、本社の従業者規模別に見ると、本社規模が小さい企業ほど「熟練工の養成」に取組む現地法人の割合が高く、他の項目ではおおむね本社規模が大きい企業が取組む割合が高くなっている。
こうした生産管理における取組が生産活動に良好なパフォーマンスを与えるかを見るために、生産活動での各種の取組と最近5年間の利益額の増減傾向との関係を見ると、利益増加傾向に有意な関係があったのは「整理整頓の徹底」、「TQC(注81)活動の実施」、「複雑な操作を要しない生産設備の導入」である。逆に「多工程持ちの促進」、「熟練工の養成」は有意な関係を持たなかった(第2-2-46図、付注2-2-15)。つまり生産管理においては、整理整頓、TQC活動といった基本的な管理を行うこと、また、多工程持ち、熟練工など個人の技術に頼った生産体制よりも複雑な操作を要しない設備を導入し、組織的な生産体制を構築することが、現地法人の利益額を増加させることができるという点で成功の要件といえよう。
事例2-2 日本人による生産管理の改革
C社(神奈川県、従業員60人)は1968年に設立され、マグネット、希土類磁石の生産やファインセラミックスの精密加工などを行っている。1991年にD社(中国現地企業)と合弁で現地法人を設立し、現地でネオジム磁石の生産、販売を行なっている。
【現地で採れる原材料に着目して進出】
ネオジム磁石は世界最強の磁力を持つ永久磁石と言われ、MRI(磁気共鳴画像)等の医療機器に用いられる他、モーターやウォークマンのスピーカーなどの電子機器の小型化に大きく寄与している。また、この原材料は中国で豊富に採れることも特徴の一つである。現地法人ではこのような将来性の高い新商品を生産、販売して業容を拡大するという明快な目的を掲げ、中国進出するに至った。
【生産管理の甘さが露呈】
日本側C社が現金を中心に68%を出資し、中国側D社は設備や建物などを提供して事業を開始した。D社は製造技術の特許を保有するなど、生産に関しては相応の技術力を保有していたため、事業開始当初は重要な決済権限についてのみ社長(日本本社代表者)が日本から出張することで対応し、それ以外の生産管理、顧客対応などはほとんどD社に委ねていた。ところが、出来上がった製品は日本の基準から見ると、品質が不安定であることや完成品検査の甘さから来る欠品も多く、このままでは日本向けには販売できない状態であった。また、そのクレームを現地責任者に伝えても、当時は元々顧客志向という概念が無かったためか、ほとんど無視に近い状態であった。
【生産管理の改革に着手】
このように、生産管理の甘さや市場・顧客ニーズへの応対に不慣れな面が露呈したことから、間もなくC社側の主導による経営改革に乗り出した。まず、品質管理を徹底させるため、日本から技術者を派遣した。そこで品質管理として具体的に行ったことは、現地従業員に作業マニュアルを通じて生産工程を標準化させ、歩留まりに対する意識を高めることである。また、各自が責任感を持った規律ある職場環境を作るため、通常の5S(「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」)に加えて「スピード」「スマイル」「セーフティ」を加えて、8S運動を実施した。また、現地法人で特に弱かった検査・検品工程では、検査部門の長として日本から従業員を派遣した上、日本の工場と同じ程度の検査項目に拡充し、検査する現地従業員の数も増やした。
さらに、TQC活動(本文参照)に取組んだことで事務員や営業員にも品質管理に対する意識付けを行い、同時にユーザーの要望を重視する姿勢を浸透させる教育にも臨んだ。
【現地に常駐させている日本人が活躍】
これらの生産改革を実施するために、日本本社社長の長男を含めて日本人4名を現地常駐員として派遣した。現地に責任者がいないと、本社の決定を待つ時間が浪費する上、現場の実態を把握することにも限界があったからである。そこで、決済権限者が現地に常駐することが必要と考え、社長長男に決済権限を渡し、営業活動、生産管理など全ての面を現場の判断に任せている。また、現地に常駐しているC社の従業員が増えることで、工場の隅々まで目が行き届くため、製造過程の無駄を省いたり、労務管理の調整も行いやすくなっている。また、営業面では顧客への応対時に日本人がいることが、大きなメリットとなっている。
【生産管理を円滑に行うことで、営業面でもプラスの効果】
これらの経営改革を実施して以来、目論見通り現地従業者の意識が大きく変化し、進出当初に多く見られたような問題は無くなった。元々技術力があるだけに、生産管理面がしっかり行われると、営業面でも良い効果が現れる。実際、中国の現地企業が及ばない高い品質と顧客重視の姿勢は高い評価を受け、日本向けだけでなく、中国市場向けにも売上は年々拡大し続けている。進出当初は現地向けに販売していなかったが、現在は現地法人売上高の約50%が中国国内向けとなっている。さらに、今後の売上増加に向けて工場の拡張など事業拡大を図っており、海外展開は当初の予想以上に成果が上がっている。
(8)直接投資後の取組(現地販売管理)
直接投資の実施後、生産が軌道に乗ったとしても、その製品の販路が確保できなければ、直接投資に成功したとはいえないであろう。「中小企業海外活動実態調査」では「直接投資前にはあらかじめ想定していなかったが、実施後に販売面で生じた課題、問題」を尋ねている。それによると販売面の課題、問題としては「現地での競争激化による採算悪化」(18.5%)、「現地向けに見込んでいた販売額の確保が困難」(18.1%)、「日本国内向けに見込んでいた販売額の確保が困難」(8.9%)と回答する現地法人の割合が多くなっている(注82)。また、これらの課題、問題が生じた現地法人では、そうでない現地法人に比べ撤退する割合が有意に高くなっている(第2-2-47図、付注2-2-16)。つまり、販路の確保ができないまま、需要予測も立てずに海外に進出する企業は、結局的に撤退しやすい傾向にあるといえよう。
こうした販売面での課題を踏まえ、特に日本国内とは異なる商慣習が存在する現地向け販売を行っている現地法人について、販売管理において取組んだ内容を見てみよう。すると、「現地市場調査」「営業人員の育成・教育」が多くの現地法人で実施されているが、本社の従業者規模別に見ると本社規模が大きい企業の方が、これらに取組んでいる割合が高い(第2-2-48図)。つまり、本社規模が大きい企業は、現地での営業活動を積極的に行っているといえよう。
次に、販売管理における取組が現地法人の売上高の増加という点で、良好なパフォーマンスを与えるかを見るために、(7)と同様、販売管理での各種取組と最近5年間の売上動向との関係を見てみよう。すると、「現地市場調査」、「営業人員の育成・教育」、「アフターサービスの実施」に取組んだ現地法人ほど、現地法人の売上高が増加傾向にあることが分かる(第2-2-49図、付注2-2-17)。つまり、販売代理店や商社経由など他企業を介した営業活動よりも、自ら主体となって積極的に営業活動を行うことが現地販売には有効であるといえる。ここから分かることは、情報収集能力のある大企業に比べ、中小企業では現地市場の情報収集や販売ネットワークの構築が困難であるが、これらの困難を克服するために現地市場調査だけではなく、自ら現地市場に乗り込み根を張った活動を行うことが、現地販売において重要であるといえよう。
事例2-3 現地法人で営業人員を育成
E社(東京都、従業員85人)は、粉体用機器製造業者。当社の主力製品は粉体を供給・計量・混合する装置であり、その製品の全てが自社開発である。製造プロセスで粉体を扱う業種であれば、ほとんど全ての会社で使用されている。
【輸出から直接投資による現地販売に切換え】
元々、E社製品の25%程度を海外に輸出していたが、円高が進み、輸出に悪影響が出てきたことが海外進出のきっかけである。1995年当時、E社製品のエンドユーザーであった中国企業F社と北京に合弁現地法人を設立し、中国市場向けに粉体用機器の生産、販売を行い始めた。合弁現地法人にした理由は、当初から製品を中国国内に販売する計画であったため、独資よりも合弁方式の方が中国側の人、物(設備)、販売網を活かせることや商慣習の違いを克服できると考えたからである。また、合弁現地法人の出資比率についてはF社側から、「日本的経営により日本の技術で生産する会社なので、日本側が主導権を取って欲しい」という申入れがあって、E社の出資比率が60%、F社が40%となっている。
【現地企業向けに営業活動】
現地法人で生産しているのは、まだ連続流量計方式の粉体供給装置のみであり、ユーザーも特定業種に限定されている。現地法人の製品を全て中国現地企業に販売しており、日系現地企業、外資系企業にはほとんど販売しておらず、また日本国内に輸出もしていない。逆に、現地法人で作られていない装置については、現地法人の営業担当者がE社の製品(日本製)をセールスしている状況である。現状、現地法人での生産品目は限られているが、将来的には中国市場の成長、合弁現地法人の能力が拡充すれば、粉体製造機器だけでなく他の業界にも進出するつもりである。
【営業担当者を育成】
進出当初の現地法人では、操業開始後3年目までの売上高は日本円で1億円にも満たず、赤字続きであった。生産に関しては現地技術者全員に対し日本で研修を行ったこともあり、技術上の課題、問題はほとんど生じなかった。3年目までの赤字の要因は営業活動の問題が大きかったのである。営業担当は全て中国人に任せているが、当初は営業担当者に自社製品の性質、特徴を理解させないままに営業活動を行った結果、売上が伸び悩んだ。そこで、中国での営業担当者の育成の必要性を痛感し、以下のような取組を始めた。
[1]自社製品を技術的に理解させること
(具体的には、日本での技術研修の他、実際に使用現場の見学等を実施)
[2]自社製品に誇りを持たせること
(具体的には、実地テスト等により自社製品の性能が日本本社に劣らず世界一であるとの自覚を持たせた)
また、販売活動の一環として製品を顧客に納入後、製品説明、使用方法の講習などの研修受講制度を実施した。その結果、3年目ぐらいから営業担当者がようやく自信を持って営業活動を行うようになり、売上も増加し始めた。現地法人の業績については、設立4年目からは利益を計上し、5年目で累損を一掃することができた。
【現地パートナー、当社だけでなく、現地従業者にも利益を還元】
現地法人設立9年目のE社は直近1年間だけでも、出資金を超えるロイヤルティと配当を受け取っており、今まで受け取ったロイヤルティ、配当の合計で既に出資金の数倍を超える額を回収している。
一方、F社も十分な配当を得ており、現地法人自体でも内部留保は厚い。また、現地従業者に対しても他の現地法人とは比較できないほどの利益還元を行っており、当初の日本的経営の柱である株主と従業者、会社の三方がそれぞれ十分満足した状況にある。この点から単なる投資資金の回収ということだけでなく、小さいながらも日中友好、日中協力の架け橋になっているのではと自負している。日本から中国への輸出でこれだけの実績をあげることは大変である。その意味でも合弁による直接投資は成功であると認識している。
(9)現地中間管理職の養成
前節までは生産管理、販売管理について見てきたが、これらを円滑に実施するには現地従業者の労務管理を適切に行うことが重要である。ところが、日本と海外では商習慣や雇用慣行が異なるため、日本での労務管理の方式をそのまま持ち込まない企業が多い。実際、(財)日中経済協会「中小企業の中国展開実態調査」により中国で日系現地法人の労務管理の方法を見ると、「日本本社での研修制度」、「雇用契約内容の明確化」に加えて、現地の雇用慣行に合わせた「懲罰制度」「個人別の能力給又は出来高払い制度」が多く行われていることが分かる(第2-2-50図)。
このように日本と海外で雇用慣行が異なる現地法人で労務管理を行うにあたっては、経営者側と現地従業者の橋渡し役である現地中間管理職の存在が重要となる。「中小企業海外活動実態調査」により「現地の中間管理職の早期養成」を行ったか否か(注83)と、存続、撤退及び、最近5年間の売上増減傾向、利益増減傾向の関係を見ると、中間管理職の早期養成を行った現地法人の方が行っていない現地法人に比べ存続している割合が高く、売上増加傾向及び利益増加傾向の割合が高くなっている(第2-2-51図)。特に最高責任者が日本人の場合と現地国籍を有する者の場合に分けてこの点を比較すると、最高責任者が日本人の場合の方がより「現地中間管理職の早期養成」の効果は大きい(付注2-2-18)。つまり、現地法人の経営の意思決定が日本側にある場合、現地中間管理職を早期に育てあげることがその後のパフォーマンスにより大きな影響を与えるわけである。これは、特に最高責任者が日本人である場合、経営者と現地従業者の価値観や文化の相違を調整するために、現地中間管理職の役割が大きいものとなることを示しているのかもしれない。
第2-2-30図 直接投資の成功・失敗イメージ図
第2-2-31図 当初計画の生産水準に達するまでの期間
第2-2-32図 存続・撤退現地法人の初期投資の規模による差
第2-2-33図 直接投資時に重視する内容(本社規模別)
第2-2-34図 直接投資の際に重視した内容とその後のパフォーマンス
第2-2-35図 直接投資前の情報収集先(本社規模別)
第2-2-36図 直接投資時の情報収集先とその後のパフォーマンス
第2-2-37図 直接投資の出資形態(本社規模別)
第2-2-38図 中小企業の出資形態別の撤退割合
第2-2-39図 現地合弁パートナーとの経営方針の相違と撤退の関係
第2-2-40図 現地法人の最高責任者の属性(本社規模別)
第2-2-41図 現地法人の最高責任者の属性と存続・撤退の関係
第2-2-42図 経済のグローバル化において求められる人材能力
第2-2-43図 現地最高責任者の日本での経験
第2-2-44図 現地法人で発生しやすい課題、問題と利益動向
第2-2-45図 現地法人での生産管理の取組内容(本社規模別)
第2-2-46図 現地法人で実施される生産管理の方法
第2-2-47図 現地法人の販売面での課題、問題と撤退の関係
第2-2-48図 現地販売管理での取組内容(本社規模別)
第2-2-49図 現地販売において実施される販売管理の方法
第2-2-50図 中国で行われる人事管理方法
第2-2-51図 現地中間管理職の早期養成とその後のパフォーマンスの関係