第3節 国内取引との関係

 国内で生産活動を行っている中小企業の海外進出は、既存の国内工場での活動に影響を与えるはずである。本節では海外進出企業の国内の工場との分業関係を探り、日本の製造業で生き残るべき道、国内に留まり活動する中小企業の条件を考察する。

1.国内への影響について

(1)海外生産の増加と国内との関係
 直接投資が軌道に乗ると、海外での生産が増加する。直接投資の目的が日本で販売する製品の生産であるのか、海外の市場を狙ったものなのかによって事情が異なるが、海外生産拠点の本格稼動は日本国内生産拠点の活動に何らかの影響を与えるはずである。ここではそうした影響について見ていくこととしよう。
 はじめに、海外直接投資により本社の従業者(注84)規模別に国内生産拠点に与える影響を見てみよう。「中小企業海外活動実態調査」により最近5年間の海外拠点における生産数量の増加が国内生産拠点数の増減、及び国内生産数量の増減に与えた影響を本社の従業者規模別について見ていくと、本社規模が小さい企業ほど、海外生産の増加により国内生産拠点数、国内生産数量を減少させている企業の割合が高いと分かる(第2-2-52図付注2-2-19)。
 次に最近5年間の海外生産数量の増減と国内生産数量の増減の関係について見ると、海外拠点での生産数量が増加傾向の企業の64.0%は国内生産数量を減少させているのに対して、海外拠点での生産が減少傾向(又は変化なし)の企業では47.9%が国内生産数量を減少させている(第2-2-53図付注2-2-19)。したがって、海外生産数量の増加は国内生産数量を減少させる可能性があるといえよう。ただし、海外拠点の生産数量の増減に関わらずほぼ18%の企業は国内生産を増加させている。つまり、企業によって国内に与える影響も異なるのである。
 そこで、次項からは海外生産数量の増減と売上高、利益率、雇用の変化の関係を見ることを通じて、海外生産の増加が国内にどのような影響を与えるかを考察することとしよう。

(2)売上高、利益率への影響
 (1)で述べたように直接投資を行った企業の国内生産拠点はその数、生産活動の面で多くの場合、影響を受ける。このことはそのまま国内生産拠点の売上高や国内企業の利益率の低下につながるであろうか。第2-2-54図は最近5年間の海外生産拠点の生産数量が増加傾向の企業と減少傾向(又は変化なし)の企業に分け、同時期の日本本社の売上高の増減、売上高総利益率(注85)の水準にこれらの企業の間でどのような差があるのかを示したものである。
 ここから分かるように海外生産数量が増加傾向の企業は、減少傾向の企業に比べ売上高が上昇する傾向にある(付注2-2-20)。他方、日本本社の売上高総利益率には、海外生産数量の増減による差がほとんどない。つまり、海外拠点の生産数量の増加は、国内拠点の生産数量の減少や生産拠点そのものの消滅をもたらす可能性がある一方、売上高はむしろ増加し、売上高総利益率も変化しないことが観察されるのである(注86)
 それではこうした海外生産数量と売上高、売上高総利益率の動きの違いにはどのような背景が考えられるのだろうか。この点を考えるために海外現地法人での売上高や収益以外の、つまり直接投資の間接効果による本社へのメリット等について見ていくこととしよう。
 まず、第2-2-55図により現地法人の活動が日本本社にどのような影響を与えているかを見ると、「本社から現地へ輸出増加に貢献」と回答した企業が33.3%、「現地企業間の営業ネットワーク拡大により、日本国内での販路拡大に貢献(注87)」(事例2-4参照)と回答した企業が33.0%、「本社の調達コスト削減に貢献」と回答した企業が50.4%存在し、現地法人の活動により日本本社が間接的にメリットを享受する場合も少なくないことが分かる。
 こうした国内と海外現地法人の連結により生じるメリットについて国内企業はどのように評価しているであろうか。
 第2-2-56図は現地法人の活動により日本本社が間接的に享受できる上記のメリットのうち、「本社から現地へ輸出増加」について、1998〜2003年の間に海外拠点での生産数量が増加傾向の企業とそうでない企業を比較したものである。ここから分かるように、海外生産数量が増加傾向の企業は、減少傾向の企業より本社から現地への輸出増加に貢献している割合が高い。現地法人での海外生産の拡大は、日本本社から現地への部品輸出などを通じて、本社に売上増加の効果をもたらす可能性が高いといえよう。
 第2-2-57図は、現地法人の活動により日本本社が間接的に享受できる上記のメリットのうち、「現地企業間の営業ネットワーク拡大による日本での販路拡大」について、1998〜2003年の間に海外拠点での生産数量が増加傾向の企業とそうでない企業を比較したものである。ここから分かるように、海外生産数量が増加傾向の企業は、減少傾向の企業より日本国内でも販路拡大に貢献している割合が高い。つまり、現地法人での海外生産の拡大により、現地企業間でも取引社数が増加することで、日本国内でも新たに取引が始まる可能性が強いことがうかがわれる。前掲第2-2-54図で海外生産が増加傾向の企業は国内企業の売上高も増加していることを指摘したが、この背景としては海外生産拠点への輸出増加の他、こうした海外生産増加を通じた日本本社の販路拡大による効果も影響している可能性が考えられよう。


事例2-4 海外拠点のネットワークを強みに国内でも販路拡大

 G社(長野県、従業員52人)は、電子部品・精密機器用ばね製造業者。当地域に大手メーカーH、I社の生産工場があり、元々は同社向けにカメラ用ばねを納入していた。

【販売市場が海外に移ったことに着目】
 1985年頃からカメラの機構が電子式に変っていったため、G社の主力製品であったカメラ用ばねの受注が減少していた。また、大手メーカーが次々と日本からアジアに生産拠点を移す中、当時世界のテレビの約60%が製造されていたマレーシアに着目し、1990年にテレビのリモコン用ばねの生産拠点として現地法人を設立した。当時は系列部品メーカーの海外進出は少なく、現地では系列外の企業からも受注することができ、現地法人の経営はおおむね順調に進んできた。1990年代半ばからは、中国に進出している日系企業からの受注が増加し、日本、マレーシア工場から中国への輸出が増加したことから、1997年に中国・上海市に、2001年には中国・大連市にも独資現地法人を設立した。

【日本と海外拠点との生産体制】
 G社はマレーシア、中国においても原則として現地生産、現地販売を行う方針である(現状は中国工場の生産が追いつかないため、日本、マレーシア工場から中国に輸出する場合もある)。当社で開発した24時間無人運転が可能なNC工作機械を活用することで日本と中国、マレーシアとの賃金格差の影響はほとんど無くなったため、中国、マレーシア、日本のどの工場で生産しても、生産コストはほとんど変わらない状態となっている。実際、G社が扱うばねは小さく、輸送コストがかからないため、中国現地法人で受注したものを日本で生産することもある。
 一方、心臓用のカテーテルコイル、ゲルインクのボールペン用チップスプリングなどの超高精度が求められる製品については、日本のみで生産を行っている。ただし、材料の安定性、技術者の能力といった生産技術が中国、東南アジアに比べて優れているという理由だけではない。これだけの高品質を要求する顧客あるいは市場がいまだ中国、東南アジアには存在しないため、日本でこのような高精度製品の開発、生産を行っているのである。将来的に中国、東南アジア市場でもこのような高精度品の需要が出てくれば、海外拠点でもその需要に適応した製品開発を行うつもりである。

【海外進出の副次効果】
 日本の取引慣行で重視される系列や過去の取引歴は海外ではほとんど重視されず、技術力や提案力又は価格といった当社の実力で受注できるかどうかが決まるため、新規開拓により取引が成立する可能性は高い(逆にこのような実力が無い場合は、すぐに取引を解消される可能性もある)。したがって、取引関係が永続するかどうかは別にして、日本国内よりも新規開拓は行いやすいといえる。
 また、海外進出の副次的効果としては、現地で取引が始まった後、日本でも新たに受注を獲得できる場合もある。具体的には次の2ケースである。
 [1]現地で取引を新たに開始することで、顧客から当社製品が高く評価され、日本本社の製品も新たに取引を開始したいという要望があるケース
 [2]G社の中国、東南アジア、日本の3拠点のどこでも即応できる生産体制が評価され、海外で取引が始まった結果、日本本社でも取引が始まるケース
 実際、海外進出前は日本本社売上高のうち、大手メーカーH、I社向けが約50%を超えていたが、現在は約5%に低下しており、代わって増加したのが、海外で新たに取引が始まった日系企業の日本生産拠点向けなのである。特に最近はその傾向が顕著であり、1998年には日本本社の売上高がピーク時の約60%に落ち込んだが、その後前述した効果により取引先が増え、現在の売上高はそのピーク時を超えて増加している。

【海外こそ熾烈な競争が行われている】
 このようにG社は高度な製品開発力と、海外現地法人のネットワークを武器に、海外と国内を共存可能にしてきたが、この背景には当社の現地法人が海外での熾烈な競争(主に日系部品メーカーとの競争)に勝ち抜いてきたことが挙げられる。上述したように、海外こそ企業の実力が反映されるため、海外現地法人においても他の現地法人に勝る技術、ノウハウが必要なのであり、これらを習得することが、グローバル化への対応に成功する道といえよう。

 最後に、現地法人の活動により日本本社が間接的に享受できる上記のメリットのうち、「本社の調達コスト削減」について、これまでと同様に海外拠点での生産数量が増加傾向の企業とそうでない企業を比較すると、海外生産数量が増加傾向の企業は、減少傾向の企業より本社の調達コスト削減に貢献している割合が高く、調達コストの削減にも一応の効果があるといえよう(第2-2-58図)。

(3)雇用への影響
 (2)では、海外生産の増加が日本本社の売上増加にプラスの影響があることを見てきたが、雇用に対してはどのような影響を及ぼしているのであろうか。ここでも、海外生産拠点をもつ企業について(2)と同様に現地法人の海外生産数量が増加傾向の企業とそうでない企業に分類して1998年時点から2002年時点での従業者数(全従業者数、製造部門従業者数、非製造部門従業者数)の成長率との関係を見ていこう。
 第2-2-59図により海外拠点での生産品を主に日本に輸出している企業について見てみると、製造部門従業者数の成長率は、海外拠点での生産数量が増加傾向の企業でマイナス(注88)となっており、減少傾向(又は変化なし)企業に比べてのマイナス幅が大きい(付注2-2-21)。一方で、製造部門従業者とは反対に、非製造部門では海外生産が増加傾向企業の従業者数成長率がプラスとなっており、減少傾向(又は変化なし)企業よりプラス幅が大きくなっている。また、全従業者数については、海外生産の増加傾向、減少傾向(又は変化なし)企業共に従業者数成長率は、ほぼゼロに近い水準であることが分かる。
 このことは海外拠点での生産品を日本に輸出する企業の海外生産の増加は、製造部門以外で従業者数を増加させる影響があることを示唆しているが、企業としても海外拠点の生産が増加した場合、その製品を国内で円滑に販売するために営業拠点を拡充し、営業人員を増加させる等の国内での販売強化を図っていることや、輸入増が直接リストラに結びつくことが無いように雇用維持の努力をしているといえよう(注89),(注90)


第2-2-52図 海外生産の増加が国内生産拠点に与える影響(本社規模別)
第2-2-53図 海外生産の増加が国内生産数量に与える影響
第2-2-54図 海外生産の増加が売上高・利益率に与える影響
第2-2-55図 海外現地法人の活動による日本本社への貢献度合い
第2-2-56図 海外生産の増加による日本本社への影響(輸出)
第2-2-57図 海外生産の増加による日本本社への影響(日本国内販路拡大)
第2-2-58図 海外生産の増加による日本本社への影響(調達コスト)
第2-2-59図 海外生産数量の増加が雇用に与える影響


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