七、その他の諸問題
(一) 為替問題
外国為替の問題について昨年の経過を顧れば、この年こそ、外国為替問題が長い間の理論的検討から脱して、政策の現実面に浮び上り、貿易の方向と量を左右し、国内経済に強力な影響をもつに至った画期的な年であったといえる。
外国為替に関連して、この都市にまず現れた指標的な政策は、四月二十五日の対ドル三六〇円の一本レートの設定と、十二月一日の外国為替及び外国貿易管理法の制定による為替統制方式の前進との二つに要約される。その間にわが国の為替に動揺を与えた問題としては、九月のポンド切下げが想起される。
1、昭和二十四年度から貿易資金特別会計の制度が廃止されて、貿易特別会計に移行し、一米ドル三三〇円の換算基準が採用されるに及んで、はじめて外国為替の問題が現実にその萌芽を現わしてきた。しかしこの制度の下においても当初輸出入物資について一律に一ドル三三〇円を基準としつつも、これを上回る円安輸出品に補給金的部分を認め、また輸入品についても、補給金の支給を重要生産原材料及び一般物価水準に影響を及ぼすべき主食等主要消費物資について行っていた。
それが昨年四月二十五日司令部覚書をもって対ドル三六〇円の一本為替相場(その他通貨に対しては、国際通貨基金の定める対ドルレートに基く裁定相場)が施行されることになって、為替問題は更に一歩前進した。これは、必ずしも円高とはいえないが、その輸出に与えた影響が商品によっては甚大深刻であったことは、第一次白書にも既に述べたところであるが(第七一頁)輸出物資に対する影響をみても補給金の支給対象たる品目に該当する物資においては、払下価格の差当りの変化はなかったが、三三〇円の換算率を予定して換算せられた補給金額は、当然不足を生ずることとなり、将来における値上りが予想され、補給金の支給対象とならなかった物資については払下価格の騰貴と、それによる処分の困難と滞貨の累増を招来した。
2、為替レートの設定による変動に対して、国内市場が漸次適応を示しつつあった過程において、撹乱的作用を及ぼしたものは、九月十八日のポンド切下げの問題である。
すなわち同夜英国政府は、ポンドを四.〇三ドルから二.八〇ドルに、三〇.五%切下げる旨を発表したのであるが、これに伴い、スターリング諸国ないし欧州、中南米各国のうち、主要諸国のみでも三十数カ国がその国通貨の対ドルレートの切下げを行ったのである。これに対処して、わが政府は即日ポンド払契約の受付並びに輸出許可事務を一時停止する等、一連の対策をとるのやむなきにいたり、総司令部とともに、円の現行対ドルレートを変更しない旨を発表した。
これはわが国の輸出入並びに司令部勘定のポンド・バランスに甚大な衝撃を与えた。輸出入に与えた影響については、第一部において既に述べたところであるが、スターリング地域の物価高により、輸出に比較して輸入が抑制されたことから司令部勘定に生じたポンド残高は、対ドル関係において三割の減価をみた。このことは、スターリング地域向け輸出の大宗をなす綿製品の原料綿花が、OJEIRFまたはPL八二〇号に基く米外貨の借入れにより取得されたのに対し、製品売上げが多くポンドにより獲得されている実情においては、債務は三割加重を来したこととなった。
3、二十四年十二月一日実施された外国為替及び外国貿易管理法並びに外国為替特別会計法は、貿易統制方式並びに貿易に伴う外貨及び円価の政府経理の方式に転期を劃することになった。
(1) 新貿易方式は輸出については昨年十二月一日から、輸入については本年一月一日から実施せられ、政府会計における経理は、従来の外貨と無関係に貿易特別会計において行われた方式を改め、外国為替特別会計により、外国為替相場に基いて経理を行うこととなった。
(2) 外国為替特別会計は、その前身たる外国為替資金において、十一月一日以降円と外貨の対応記帳を行ってきたが、一月一日から司令部勘定から六千七百万ドルの外貨の移管を受け、正式に日本政府が外貨を管理する段階に入った。
(3) 外国為替相場については十二月六日より従来公示せられた一ドル三六〇円、一ポンド一〇〇八円を基準相場とし、これにドルに関しては一円五十五銭、ポンドに関しては四円三十四銭のマージンを認めて、外国為替銀行の対顧客売買相場が外国為替管理委員会によって定められた。これらが貿易取引における採算の基準となった。
(4) 為替予約が認められることとなり貿易取引の安全を図る便宜を認められた。
(5) 外国為替銀行は米英外国銀行とのコルレス契約の締結を行い、わが国外国為替業務も漸次平常状態に復しつつある。
外国為替面の進展に応じて、わが国経済は国際経済との連けいをいよいよ直接にすることとなる。このことがわが国経済に安定的効果を及ぼすか否かはなお将来の問題である。昭和二十四年度においては、輸出については為替相場設定または変更前の既契約を保護する措置によって、輸入については一般会計に計上された補給金によって、調整措置が採られてきた。したがって外国為替相場導入の効果もまたわが国経済に全面的に反映するに至らなかったとみるべきである。