第3節 外国為替および貿易金融
T 外 国 為 替
わが国では貿易に伴う為替取引はすべて外国為替銀行を通じて行われ,外国
為替銀行は貿易業者の実需に応じて,外国為替の売買を行つているが,従来資
金に不足を生じたときは,特別会計から買い,余裕を生じたときは特別会計に
売るという操作を行つて,銀行間の取引はせいぜい直接相対取引および一部短
資業者の仲介による直物取引にかぎられていた。しかるに55年に入つてから輸
出の伸長によつて,売買為替が均衡化し,55年4月には専業為替プローカーの
開業もあつて,銀行取引は活発となり先物取引も成立するようになつて,わが
国の外国為替市場も旧来の政府依存の態勢から脱しようとする機運を示してき
ている。
過去1年間における為替取引正常化の動きを概観すればつぎのとおりであ
る。
1. 外国為替銀行
(1)LUAについて
LUA制度は米ドルについては52年6月から,英ポンドについては53年3月
から実施されていたが,当初わが国外国為替銀行は資金操作に不慣れであつた
からLUAによる資金振替を受けることも少くなかつたが,その後為替業務に
も熟達し,国内の金融緩慢により自己資金による外貨手持も増加し,そのうえ
外国銀行から当座貸越等の信用供与を受けるなど対外的信用もたかまつて,今
ではLUAの発動はほとんどみられないまでにいたつた。
そこでLUA本来の目的が貿易に伴う短期商業取引にかんする保証であると
いう点から,大蔵大臣は55年11月に各LUA発行先外国銀行あてに書簡を送り,
55年12月20日以降発行される信用状等にもとずく保証債務,または同日以降起
される貸借でそれぞれ6カ月をこえるものについては,LUAは適用されない
こととした。さらに56年5月に至りLUA制度を8月16日以降全廃することに
決定した。
(注)LUA(保証および授権書)は外国為替資金特別会計を管理する大蔵
大臣がその預金預入先の外国銀行に差入れているものであつて,わが国の
甲種外国為替銀行から仕向けた為替取引にかかわる支払を保証するため,
外国銀行につぎの2点を確約している。
i)貴行のわが国甲種外国為替銀行名儀勘定に資金不足をきたした場合
自由に貴行における大蔵大臣名儀勘定から振替補填してよろしい。
A)貴行大蔵大臣名儀勘定には,常時右振替が可能となるだけの資金残
高を預入れておく。
(2)外貨預金について
外貨預金制度は,米ドルについては52年12月から,また英ポンドについては
53年3月から実施された。
54年9月に東京銀行がMOF勘定保有銀行となつたので,その後は本制度適
用銀行が11行となつた。この預金勘定は,各行別に預入限度額が設けられてお
り,またその運用については種々の制限が課せられている。従来用途別に第
1類,第2類,第3類に分類されていたが,効率的な運用と商社の借入手続簡
素化のため,55年4月の改正で,つぎのような大幅な緩和が行われた。
(イ)預金の区分が廃止された。
(ロ)使用範囲を拡大し,米ドルの外地運用資金についてはほとんど制限が
なくなり,また英ポンドについては米ドル並みの外地運用資金および自行ユー
ザンスが認められた。
(ハ)預金総額の増加が行われた。
かくして,外貨預金の運用については,管理法上要許可事項のみその面から
の規制を受けるだけで,原則として自由となつた。
ただし,わが国への輸入関係の外地貸付の期限は貨物の相手国船積時までと
するという制限だけは従来どおり残された。
(注)外貨預金制度とは,わが国甲種外国為替銀行が為替金融を行うに充分
な外貨資金を供給するため,政府はMOF勘定残高の1部を外国の通知預
金金利並みで預入れている制度をいう。なお,MOF勘定(Minister of
Finance a/c)とは,外国為替資金特別会計所属の大蔵大臣名儀預金勘定
の略である。
2.外国為替売買相場
戦後為替管理の発足当初にあつては,為替相場の全部について公定されてい
たが,その後甲種外国為替銀行は各種指定通貨について,また乙種銀行は米ド
ルについて,それぞれ保有が認められるなど,為替管理が緩和の方向に向うに
つれて,公定の対象が狭められるにいたつた。55年3月の銀行売買相場体系の
改正はこのような自由化をさらに前進させたもので,改正の主要点はつぎのと
おりである。
(イ)電信相場は従来どおり固定されるが,一覧払相場はその金利部分につ
いて銀行独自の採算をとりうることとした。
(ロ)期限付手形買相場の公定を廃止した。
(ハ)裁定相場については海外市場における実勢を反映させる写真相場方式
を一層忠実に実施するため,大蔵省告示により相場を明示する方式を改めて日
本銀行店頭に公示することにした。
(ニ)裁定相場変動の値巾を小刻みにした。
3.決 済 通 貨
すでに実質的意味を失い,廃止してもさしつかえない清算勘定協定について
は,国際的な為替取引正常化の線にそつて,これをなるべく現金決済方式に改
めることとし,まず日独清算勘定方式を55年9月末かぎりで廃止した。日独清算
協定は54年6月に分散支払方式をとつたのであるが,正常化をさらに進めて,
55年10月以降英ポンドまたはドイツ・マルクを決済通貨とすることとし,ここ
にドイツ・マルクが指定通貨に加えられた。ドイツ・マルクはフランクフルト
の対英ポンド相場と英ポンドのわが国における裁定相場により裁定し,その売
買相場の体系はカナダ・ドルおよびスイス・フランの場合と同様である。つづ
いて56年I月イタリアとの為替取引が清算勘定方式から現金決済方式に改めら
れ特別指定地域に加えられた。なお56年4月に日本スウェーデン清算勘定が廃
止されたことに伴い,新たにスウェーデン・クローネが指定通貨に指定された。
特別指定地域は,56年1月に新設された標準決済方法上の一区分であつて,
当初アングロ・エジプト・スタン,オーストリア,デンマーク,ノルウェー,
ポルトガル通貨地域および中共の6カ国がこれに指定され,ついでイタリアが
これに加わつたわけである。もちろんわが国側からみて受取の場合に米ドルを
受領することは従来通り標準決済(中共のみ不可)なのであるが,そもそもこ
の地域を新設したのは,従来からわが国の輸出は英ポンド受取が多く,この実
状にそつた改正を施して輸出促進をはかるとともに,輸入するときには米ドル
の流出をさけて累積英ポンドを使用することをねらいとしたものである。決済
通貨の点からいえばわが国管理法のスターリング地域と異るところがないが,
スターリング地域が英国為替管理法上の指定地域であるのに対して,今回の
「特別指定地域諸国」はいずれも「英国為替管理法上の振替可能勘定国」であ
つて,これら諸国は米ドルを節約して支払はなるべく振替可能ポンドによろう
とする傾向が強い。したがつてわが国もこれら諸国の政策に歩調を合わせて,
英ポンドが為替取引に用いられる範囲を一段と拡張したわけである。
4.商社外貨保有制度
商社の外貨運転資金の円滑な供給を目的として56年1月から商社外貨保有制
度が実施されたが,商社の海外店舗網,外地運用資金の利用状況,輸出入取扱
高等を勘案の上,さしあたり20社についてこの制度の利用を認めることとし
た。このため55年度下期外貨予算貿易外予備費から6.5百万ドルを貿易外予算
の長期資本取引に組入れ,商社からの申請により1〜3月の間にこの枠内で保
有のための外貨買入を行うことができることとした。なお,この予算枠は固定
的なものではなく,56年度上期外貨予算においては,その拡大がみこまれてい
る。本制度により保有できる通貨は,指定通貨すなわち米ドル,英ポンド,カ
ナダ・ドル,スイス・フラン,ドイツ・マルク,スウェーデン・クローネにか
ぎられ清算勘定ドルは保有を認められない。保有された外貨は海外支店または
現地法人に対して貸付けるか,外国にある銀行に本店名儀外貨預金勘定を開設
してそこに預入れられるが,その使途は,つぎの3つの事項については制限さ
れているほか,原則として自由である。
(イ)スワップまたは商品売買を通じて6カ月以内に指定通貨に回収するこ
とのできない指定通貨以外への転換
(ロ)船積以降におよぶ対日輸出金融
(ハ)米国政府証券および英国大蔵省証券以外の証券への投資
なお,商社はその保有している外貨が不要になれば,銀行に売上げて円貨に
戻すことができるが,この場合は外貨保有の許可はその額だけ消滅して,ふた
たび外貨を欲する時はあらためて許可をえなければならない。このような任意
集中とは別に,当初買入れた外貨の種別によつて銀行に売却するよう集中命令
が出ることがあることになつている。
ただし,海外支店等の運用益は原則として集中を免除される。
5 交互計算勘定方式
商社の外貨保有制度につづいて56年3月商社本支店間の交互計算勘定方式を
認めることとなつた。交互計算勘定方式を実施する狙いは本支店間取引に対す
る許可手続の簡素化にある。本支店間の貿易外決済は,個別許可による現金決
済方式によつていたのであるが,本制度は,取引発生ごとにこれを記帳し,一
定時期にその差額の貸借を決済することを認めたのである。
これを認める商社としては,さしあたり,外貨保有を認められた20社とし,
交互計算勘定にのせることのできる項目は,本支店間取引および本店または支
店が,それぞれ相手方のためにする立替受払により生じた債権,債務にかぎら
れるが,ただレ,つぎのものは記帳を許されず,従来どおり個別に決済されな
ければならない。
(イ) 輪出入貨物代金
(ロ) 海上積荷運賃(傭船料を含む),同保険料,ただし,三国間貿易にかかる
運賃,保険料で,円払のものを除く。
(ハ) 旅費,ただし,海外支店所属員の外国内,外国間の外貨払旅費,本邦内
の円払旅費を除く。
(ニ) 海外駐在員事務所経費
(ホ) 支店損益勘定尻ならびに現地法人からの配当金ならびに本店からの貸付
金の受取利息
(ヘ) 5%をこえる代理店支払手数料(支店分与口銭を含む)
なお,交互計算の表示通貨は,指定通貨でも円でもよく,清算勘定地域につ
いても認められる。
また,20社全体の記帳の限度額は,56年上期中に,帳簿上の本店の支店に対
する債務7百万ドル,帳簿上の本店の支店に対する債権3百万ドルとし,した
がつて差額4百万ドルまでは,随時決済することができるものとし,この枠内
で,商社ごとに一応の限度を定め,商社は,当該限度内で各支店別通貨別に必
要額につき,申請したところにしたがつて,あらかじめ外国為替管理令11条に
もとずく包括許可が与えられ,当該事項についての外国為替管理令17条の役務
契約の許可は要しないこととなつた。
海外支店の側からみると,交互計算勘定は,簿記でいうところの資産,負債
勘定であるが,正味財産勘定の変動については,別途,つぎのように処理され
る。すなわち,政府の個別許可を受けたときは,利益については,買取保有を
認められた外貨に準じて,集中免除され,また損失については繰越利益の範囲
内での補填が認められる。
なお,現地法人からの配当金および本店からの貸付金の受取利息も支店の利
益の場合に準じた取扱がなされる。