5.円の国際化


近年,我が国経済の規模の拡大と国際化の進展に伴って,「円の国際化」が徐々 に進んできているといわれている。「円の国際化」とは,たとえば,@貿易取引 における円使用の高まり,A対日証券投資や非居住者円預金等を通じる非居住者 による円資産保有の増加,B日本の資本市場における円建外債発行や本邦為銀に よる円建対外貸付等,国際的な費本・金融取引に円が使用されるようになること を言う(決済通貨,準備通貨の多様化については,第1章第3節参照)。このよう な意味で「円の国際化」の進展は,我が国経済の国際的地位の上昇を反映したもの であるが,同時に,我が国経済の国際化を一層促進し,我が国企業と海外との結 びつきを一層緊密なものとしていると言えよう。
(輸出入の円建取引の拡大と貿易金融の円シフト化)
我が国の貿易における円建取引の割合は,輸入については依然2〜3%にとど まっていると考えられるものの,輸出については近年次第に高まってきており, 81年には31.8%(輸出信用状べース)となっている(第2−1−22図)。
しかし,これを,欧米諸国の輸出入に占める自国通貨建比率と比較すると,我 が国の場合は相当程度低い状態となっている(第1ー3−5表参照)。これは,@我 が国はEC諸国と比べてドル圏を中心に貿易相手国が世界に分散しているため, ドル建部分を減らしにくいこと,A海外の取引業者にとって,円はなじみがそ れほど強くなく,また,現実にローカルマーケットでは,円為替のカバーがと りにくいことから敬遠されがちなこと,B我が国の輸入の大宗を占める原燃料, 食料等の国際商品は,慣行的にドル建・ポンド建等の外貨建で取引されてきて いることが多いこと,C 円は変動相場制に移行し て以来,基調的には円高 傾向をたどっていたた め,海外輸入業者が円建 化をきらうと同時に国内 輪入業者にとっても外貨 建輸入の方がむしろ有利 な状況が続いたこと等の 事情によるものと考えら れる。
さらに,従来から貿易金融が外貨に依存する割合が高いことも,我が国の貿易 取引の円建比率の低いことの原因となっていると考えられる。しかし,この貿易 金融の外貨依存は,高度成長期に国内金融がひっ迫しており,かつ,内外金利差 をみた場合,外貨金融による方が有利な状況にあったことによるものである。今 後,貿易取引の円建化を促すためには,貿易決済のため,短期円資金のアべイラ ビリティーの向上等,さらに解決すべき間題も多い。
いずれにせよ,貿易取引における決済通貨に円を用いるか,相手国通貨を 用いるか,第三国通貨を用いるかは,為替リスクを取引当事者のどちらが負担 するかの問題であって,最終的には,当事者の力関係によって決定されるもの である。しかしながら貿易取引の円建化が進んでいけば,我が国における輸出 企業,輸入企業の為替リスクの軽減,企業収益の安定に資するものと考えられ る。
(為替リスクの発生とその回避策)
変動相場制の下では,企業,為銀等は,さまざまな対外取引に伴い,為替相場 変動のリスクを負っているが,このような為替リスクの存在は,企業収益の不安 定化等をもたらすので,各企業とも可能な限りこのリスクを回避しようと努めて いる。この為替リスク回避のための具体的方法としては,@貿易取引の円建化, A為替の先物予約,B貿易金融の円金融化,Cリーズ・アンド・ラグズ,D輸出 債権と輸入債務の残高差の調整,インパクトローンの取入れ,外債の発行等によ るポジション調整,E為替変動保険制度等の組合せが用いられるのが一般的であ る。
このうち,貿易取引の円建化を見てみると,すでにみたとおり,輸出について は我が国輸出商品の国際競争力の強化とあいまって次第に増加してきているが, これを商品別にみると,比較的国際競争力の高いと考えられる船舶,原動機,自 動車,テープレコーダー等の円建比率が相対的に高く,原料品の多くを輸入する ため企業レベルで為替リスクがある程度相殺される鉄鋼,化学品,繊維品等は相 対的に低いことがわかる(第2−1−23表)。
ちなみに,為替の先物予約は,為替リスクの回避という点に関しては,貿易金 融の円金融化とほぼ同様の効果をもつと考えられる。しかし,先物予約の場合 は,先物でカバーできる期間に限界があり,また円金融化促進に伴う円資金需要 増大に対する円資金の供給力に限界があること,等の問題点も指摘されている。
なお,81年には円安の進行から,ドル建輸入を行い,かつ,為替の先物予約 が低水準にあった石油産業を中心とする巨額の為替差損の発生が大きな問題と なった。
本来,為替リスクをどの程度,また,どのような手段で回避するかは,各企業 の自主的判断によるが,変動相場制の下で不断に変動すると予想される替為相場 に対し,その為替リスクの回避を図ることは,企業経営の安定化という観点から 基本的に必要であるものと言える。貿易金融の円金融化は,このような為替リス ク回避の手段として有効であり,この面からも,貿易金融の円金融化の一層の進 展が望まれるところである。
(円の国際化の進展)
貿易の自由化の進行に続き,為替管理の自由化も,70年代以降,めざましい進 展をみた。この背景には,@為替管理の強化で,一層膨大となる資本の流れ全体 を変えることは困難であること,A変動相場制下では,為替管理の自由化により 資金の流れを厚くすることによって,円相場を安定化させる効果が期待できる面 があること,B為替自由化が我が国の一連の自由化政策の流れに沿うものである こと,等があった。この為替管理の自由化の最終段階として,「外国為替及び外 国貿易管理法」が改正され,80年12月から施行された。これにより,我が国の 対外取引は,これまでの「原則禁止」から「原則自由」へと大きく方向転換をしたと 言ってよい。そして,この外為法改正もあって,東京外国為替市場の取引高が拡 大するなど,円の国際化は一層の進展をみせており,今後とも,我が国の国際社 会に占める相対的な地位の向上と円に対する評価の高まりから,円の国際化が一 層進展することが予想される。

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