○日時:平成13年8月22日(水) 17:00-19:00
○場所:経済産業省国際会議室
○出席者(敬称略・50音順)
(1) 委員長 広瀬義州
(2) 委員 井上隆、植田リサ、奥田飛功、久保幸年、齋藤治彦、酒井剛、桜井久勝、
柴田和史、清水聰、杉本徹雄、西澤茂、平井直樹、福田眞也、松尾眞、
山田博之、吉見宏
(3) 経済産業政策局審議官 桑田始
(4) 経済産業政策局産業組織課 桜井和人、河西康之、橋本定和、石川浩
Ⅰ 第2回企業法制研究会(ブランド価値評価研究会)開会
(委員長)ただ今からブランド価値評価研究会の第2回会合を開催する。
(事務局)柿崎委員、森山委員に代わって新たに井上委員、酒井委員、平井委員に御参加
頂く。
Ⅱ 奥田委員報告「ブランド価値評価の実務」
我が社がブランドをどのように考え、どのようにマネジメントしているか、これまで行
ってきたブランドの価値評価について報告する。
組織変更により、我が社の本社機構は、グローバルハブ、経営プラットホームおよびエ
レクトロニクスヘッドクォーターに分離された。CI(コーポレート・アイデンティティ)
室はグローバルハブに含まれる一組織である。
CI室のミッションは、トップマネジメントの方針に基づいてソニーを標章するブラン
ドのポートフォリオ戦略を策定し、各関連会社および各カンパニーによる戦略実行の監督
を行うことにより、ブランド・エクイティの増大を図り、グループ企業価値の最大化に貢
献することにある。
CI室の業務内容は、ソニーおよびソニーをリプレゼントする基幹ブランドの使用・中
止規準を策定し、グループ会社に周知徹底させることである。具体的には、第一にブラン
ドのポジショニングの策定、第二にブランドの使用規準、第三に使用規準の啓蒙、第四に
使用規準の遵守の確認を行っている。
我が社が考えるブランドとは、企業活動の結果としてステークホルダーの心象世界に存
在する特別な認識である。ステークホルダーには、投資家、顧客、コミュニティ、従業員
などがあるが、ステークホルダーごとにブランドに対する視点、評価基準が異なっている。
例えば、顧客であれば、先端商品であるかどうか、楽しさを提供してくれるのかどうか、
夢を提供してくれるのかどうかなどに着目する。株主であれば、経営方針、成長力などに
着目し、ビジネス・パートナーであれば、技術力、グループ力などに着目する。さらに従
業員であれば、自己実現ができる会社であるのかどうか、誇りがもてる会社であるのかど
うかなどに着目する。グループ会社であれば、ブランドによる競争優位性などに着目する。
ブランド・エクイティとは、すべてのステークホルダーによるブランドに対する支援の
合計値と考えている。これを増大させるためには、各ステークホルダーに対する一貫した
メッセージの発信が必要になる。
また、ブランド・イメージとは、ステークホルダーによるブランドに対する評価と考え
ている。その評価要因としては、企業文化、経営理念、経営者の資質・能力、企業の達成
度(成長率、利益率)、商品力・サービス力、企業構造、コーポレートコミュニケーション
の透明度(IR活動)などがある。
ブランド・コミュニケーションには6つある。プロダクト・コミュニケーションとは、
製品の機能・デザインによるブランドの表現である。例えば、バイオは色・デザインによ
りブランドを訴求し、商品自体にソニー、バイオなどのネームが付されていなくても、ソ
ニー商品であるとわかるようにしている。マーケティング・コミュニケーションには広告
宣伝、販促、店舗、WEBなどがある。ビジュアル・アイデンティティには統一ロゴの一
定ルールに基づく一貫した利用がある。イメージ・クライシスには、ネガティブな各種情
報に対する迅速な対応がある。コーポレート・シチズンシップには、社会貢献活動、地球
環境に配慮した施設・製品がある。インベスタリレーションには、金融アナリスト、機関
投資家に対する情報の公開がある。
とりわけプロダクト・コミュニケーションについては、先端技術、ライフスタイルの提
案およびエンターテイメントの3つの軸を要素として、1950年代にテープレコーダー、ト
ランジスタラジオ、1960年代にマイクロテレビ、トリニトロン、1970年代にプロフィール、
ベータマックス、ウォークマン、1980年代にCD、ハンディカム、1990年代にMD、べガ、
バイオ、プレイステーション、アイボ、2000年代にプレイステーション2などの商品を打
ち出すことにより、ブランドの訴求を図ってきた。
ブランド・マネジメントについて申し上げると、経営理念、企業文化に源を発してコー
ポレート・アイデンティティ、企業としてどうありたいのかが導き出される。これをブラ
ンドに関連付けてブランド・アイデンティティが決定され、個別具体的にデザインなどの
プロダクト・アイデンティティ、ロゴ、ソニーとの関係性の表記などのビジュアル・アイ
デンティティが導き出される。これらに基づいて、上述したブランド・コミュニケーショ
ンを繰り返し行うことにより、ブランド・イメージが形成される。
我が社のブランド・マップ、ブランド階層について申し上げると、図の左側がハウス・
マーク(社標)で、コーポレート・ブランド、レンジ・ブランド(事業領域のブランド)、
プロダクト・ブランド、第三者にライセンスすることを想定したフォーマット・ロゴ、コ
ーポレート・スローガンがある。その下に、社名にソニーを含まない会社のロゴがある。
ブランド使用対価について申し上げると、従来は技術指導料、経営援助料、商標使用料、
知的財産パッケージ使用料などの名目でライセンスしてロイヤルティを徴収してきたが、
現在は、商標使用料、知的財産パッケージ使用料の2つの形態に集約している。具体的に
は、売上の一定率をロイヤルティとして徴収している。その根拠は、ソニーが商標権者で
あるため、ブランド・エクイティの構築・維持に係る費用を負担している点に求められる。
もともと価値評価プロジェクトの背景には、生産の現地化の進展によりモノによる回収
に限界が生じたために、財産価値をベースとした回収を図ることがあった。すなわち、本
社において形成されたブランド・エクイティから生じるリターンが、子会社が享受する価
値に見合うように子会社から本社に還流し、再投資されるメカニズムを検証しようとした。
ブランドの価値評価においては、セグメント別の顧客、市場をベースとした評価が重視
される。我が社の場合には事業領域が広いもののエレクトロニクスが中心であり、また海
外売上比率70%のうち30%以上がアメリカに依存しているため、アメリカにおけるコンシ
ューマー・プロダクツ事業を対象として価値評価を行った。
具体的なプロジェクト・フローとしては、事業特性、機能・リスク分析、カテゴリー別
シェア、プライス・プレミアム、売上などの調査から開始し、ブランド特性分析、ブラン
ド形成コストの範囲と分担、ブランドの所有と帰属などの調査を行った。これらの調査に
基づいて、ブランド使用料を算出した。
日本においてソニー・ブランドが生まれ維持されてきたが、ブランドをライセンスした
後にはアメリカにおいてもブランドの形成維持コストを負担している。したがって、アメ
リカにおいてもブランドが存在していることを前提に、利益分割のコンセプトに基づいて
ブランド価値評価を行った。
アメリカの事業特性として、各カテゴリーにおいて非常にシェアが高く、単一の事業セ
グメントであり、専門店、デパートを中心とした販売チャネルを利用した高価格帯のテレ
ビ、パーソナルビデオ、パソコン、ホームビデオ、量販店を中心とした販売チャネルを利
用したジェネラル・オーディオを販売している点があげられる。
機能分析として、アメリカ事業所における機能を製品カテゴリー別にブレークダウンし
た。すなわち、R&D、マーケティング販売、品質、生産、調達などが行われているかど
うかを調査し、それぞれの段階におけるブランド形成の寄与度を分析した。ここでいうマ
ーケティング販売とは、マーケティング計画、製品販売計画、ブランド調査・登録、CI
活動、広告宣伝活動、販売促進活動などを含む。分析の結果、ブランド維持に貢献するマ
ーケティングおよび広告宣伝は、ソニー本社の方針に基づいて、アメリカ事業所において
行われている。また、ほとんどの生産・販売活動も現地に移管されている。
したがって、ソニー本社の機能は、R&D、ブランド・マネジメント、マーケティング
管理機能に特化されている。
ブランド・エクイティが何から構成されているのかを各過程にブレークダウンして、各
過程のブランド形成に対する貢献度を明らかにし、その貢献活動に係るコストの処理方法
を検討した。各過程がもたらすブランド価値からブランド費用を控除してブランド利益を
算定するのが基本的な考え方である。
ブランド・エクイティ回収の方法として、移転価格方式も検討した。すなわち、ソニー
本社から各事業所に製品を販売する場合に、製品価格に無形資産相当分を上乗せする方法
である。この移転価格方式とロイヤルティ方式には、一長一短があるものの、最終的には、
ロイヤルティ方式を採用した。ただし、一部では移転価格方式を採用しているケースもあ
る。
Ⅲ 奥田委員報告をめぐるディスカッション
(委員)取引分析の検討において、ソニー本社が行う管理機能の1つとしてブランド・マ
ネジメントが挙げられていたが、ブランドマネジメントの具体的な内容は何か。
(委員)まず、商標権のプロテクションが挙げられる。これには、商標権の登録、更新活
動のほか、侵害品の対策などが含まれる。つぎに、実際には外部の調査会社に委託してい
るが、ブランド調査がある。さらに、ブランドに係るルール、ガイドラインを関連会社に
周知させるための啓蒙活動がある。ソニー本社においては、これらの活動に係るコストが
発生している。
(委員)ブランド使用料の算定において、売上、コスト、所有と帰属などの要素を加味し
ているとされていたが、具体的にどのように各要素を計算、集約してブランド使用料を算
出しているのか。
また、ブランド・エクイティ回収の方法として移転価格方式とロイヤルティ方式があり、
主にロイヤルティ方式を採用しているとされていたが、その理由、例外的に移転価格方式
を採用する製品の特徴について伺いたい。
(委員)実際のところは、ブランド使用料の徴収実務が先行しており、価値評価は徴収し
ているブランド使用料の妥当性を裏付けるために行った。したがって、ブランド使用料を
決定するために、価値評価を行ったわけではない。結果としては、すでに徴収しているブ
ランド使用料は妥当であると結論付けた。
次に、ロイヤルティ方式を採用した経緯、移転価格方式の現状については、調査して次
回以降の研究会において回答したい。
(委員)できればブランド価値評価の具体的な方法について伺いたい。
(委員)例えば、無形財産の形成コストを、試作研究費、開発研究費、広告宣伝、広告宣
伝に係る人件費、CIマネジメント費、品質管理費、アフターサービス費、広報・IR費
などにブレークダウンして、それぞれの活動コストがブランド形成に寄与している度合を
見積もった。さらにコストを何年で償却するのかをも考えて、ブランド・エクイティを算
定した。
(委員)ブランド価値評価において、5年以上の長期間にわたり効果が持続すると考えて
いるのか。
(委員)そのとおりである。
(委員)社名にソニーが入っているグループ会社が相当あるかと思われるが、これに対し
て使用料を徴収しているのか。
(委員)過去に商号の使用に対するロイヤルティ徴収を検討したが、現在は徴収していな
い。現在は、あくまでも商標を使用している会社からのみロイヤルティを徴収している。
例えば、ソニープラザという輸入雑貨を取り扱う会社があるが、取扱商品にソニーの商
標は用いられていないものの、プライス・タグ、ショッピング・バッグにソニー・ブラン
ドが用いられており、厳密にいえば商標法上は商標の使用に該当すると思われる。しかし、
我が社の内部ガイドライン上は、取扱商品自体に商標を使用していなければ、ロイヤルテ
ィの対象にしていない。
(委員長)ロイヤルティを徴収している場合、過去に対象会社の少数株主から代表訴訟を
起こされたことはあるのか。
(委員)そのような事例はない。
(委員長)ブランド使用料の徴収実務が先行して、その後にブランド価値評価を行ったと
されていたが、ブランド価値評価の結果、ブランド使用料の変更、またはその検討を行っ
たことはあるのか。
(委員)継続的に検討しているものの、まだ実際にブランド使用料の変更をおこなったこ
とはない。
(委員長)今後、より客観的なブランド価値評価モデルが確立すれば、先ほどのソニープ
ラザからもブランド使用料を徴収できるし、実際に徴収しているブランド使用料の変更が
行われることも考えられるのか。
(委員)その可能性はあると思われる。
Ⅳ 酒井委員報告「ブランドマトリクス評価」
我が社の連結子会社は、国内約50社、海外約50社、合計で約100社ほどであるが、現
在のところ、ブランド使用料は徴収していない。
ブランドマネジメントを行う組織は、コミュニケーション企画部と化粧品事業戦略本部
に属するブランドエクイティー管理室に大別される。
我が社では99年3月に資生堂の欧文ロゴを使用する事業を化粧品事業に限定することを
決定した。このブランドを全社的に守っていく組織としてコミュニケーション企画部があ
り、化粧品そのもの、すなわちプロダクト・ブランドを磨いていくことによりコーポレー
ト・ブランドを高めていく組織としてブランドエクイティー管理室がある。
コミュニケーション企画部は、企業広告、企業イメージ調査などを行い、企業全体の企
業価値を高めることを目的としている。ここでは、コーポレートブランドの価値を貨幣額
で測定はしていないが、定性的かつ定量的に、年に1回、コーポレート・ブランドのイメ
ージ調査を行っている。
本日は、ブランドエクイティー管理室が行っているブランドマトリクス評価について報
告する。ブランドマトリクス評価は、ブランドエクイティー管理室の管理対象であるプロ
ダクト・ブランドを数値化していくために行われている。
ブランドマトリクス評価は、資生堂の各プロダクト・ブランドについて、顧客の視点と
事業の視点の2つの面からブランドパワーを継続的に分析し、その結果をマーケティング
戦略に反映させることを目的として実施している。2000年に第1回目のブランドマトリク
ス評価が行われ、今年で2回目の評価が行われている。
ブランドマトリクス評価は、ブランドを縦横のマトリクスで分析するツールであり、縦
軸に顧客支持率、すなわち各プロダクト・ブランドがお客さまからどのように評価されて
いるのかの指標をとり、横軸に事業魅力度、すなわち各プロダクト・ブランドの収益性と
成長性はどの程度なのかの指標をとり、4象限でプロダクト・ブランドを評価している。
右上のスターブランドは、顧客支持率、事業魅力度ともに高いブランドである。ステデ
ィブランドは、顧客支持率は低いが、事業魅力度が高いブランドである。やんちゃブラン
ドは、事業魅力度は低いが、顧客支持率が高いブランドである。問題児ブランドは、顧客
支持率、事業魅力度ともに低いブランドである。
各象限に分類されるプロダクト・ブランドに対する示唆は、レジュメにあるように、ス
ターブランドであれば、現在のポジションを守り強化しながら拡大していくなどである。
まず、顧客支持率を具体的に評価するにあたっては、顧客支持率を、顧客形成力、イメ
ージ形成力、ロイヤリティ獲得力の3つの合計と考えている。顧客形成力は、ユーザー獲
得・拡大の基盤となるブランドのパワーをどれだけ持っているのかを測定・数値化する。イ
メージ形成力は、各プロダクト・ブランドの認知者に、魅力的なブランドとしてのイメー
ジがどれだけ形成されているのかを測定・数値化する。ロイヤリティ獲得力は、実際のユー
ザーにはブランドの魅力がどの程度伝わり、トライアルユーザーからロイヤリティユーザ
ーの獲得がどの程度できているのかを測定・数値化する。
次に、事業魅力度を具体的に評価するにあたっては、現在の規模として売上高および収
益率を指数化し、将来の見込みとして標的市場の魅力度およびブランド売上高成長性を指
数化する。標的市場の魅力度とは、ブランドは魅力度の高い市場に属しているかであり、
市場規模および市場成長性の2つで測定する。ブランド売上高成長性は、ブランドはどの
程度順調に売上を伸ばしているのかであり、売上高成長性で測定する。
以上の項目の調査は、実際の顧客を対象として行われる。我が社ではパネルセンサスと
呼ばれるパネルを持っており、これを利用している。15歳から69歳の全国の女性を対象と
し、サンプル数は2,000前後である。調査は、スプリングキャンペーンの時期、3月に決
算を迎える財務数値の入手を勘案して、2月上旬から下旬に行っている。
調査対象ブランドの選定にあたっては、市場セグメントをハイプレステージ市場、ジェ
ネレーション市場およびニーズ市場の3つに分類して行っている。なお、自社ブランドだ
けではなく、競合他社のブランドも調査対象に含め、合わせて43ブランドを調査対象とし
ている。
レジュメ6頁のマトリクスは、2001年版のブランドマトリクス評価である。次のレジュ
メ7頁は2000年から20001年にかけて、どのように同一ブランドが動いたのかを示して
いる。最も望ましいのは、全てのブランドが右上方向に動くことであるが、左下に向かっ
たり左に動くブランドもある。さらに、レジュメ8頁は2000年から2001年にかけての競
合ブランドの動きである。
ブランドマトリクス評価は、縦軸のポイントと横軸のポイントを足し合わせてランキン
グを付けることも可能である。実際にランキング評価を行って順位の変動を検討し、どの
ような要因によってランキングが上がったのかまたは下がったのかも分析している。
また、コーポレート・ブランドについても同じようなブランドマトリクス評価が可能で
あると思われるが、現在のところ、プロダクト・ブランドだけを対象にしている。
Ⅴ 酒井委員報告をめぐるディスカッション
(委員)どのような動きがあると維持管理投資を強化していく意思決定が行われるのか。
(委員)売上高については、規模の利益を獲得できるボリュームがあるために、まずはボ
リュームの数値化を図っている。また、プロダクト・ブランドの動きによって、ブランド
の価値も変わってくると考えられるため、様々な観点からの要素を数値化して足し合わせ
ている。ブランドのてこ入れについては、自社の他のプロダクト・ブランド、競合他社の
プロダクト・ブランドの動きと比較しながら、左下に動いたブランドをてこ入れしていく
のか、または見切りをつけて投資を控えるのかの意思決定を行っている。
(委員)顧客支持率のデータは認知率、イメージ、ロイヤリティを基礎としており、基本
的には意識調査に基づくと思われる。この意識レベルのデータと売上などに表れる実際の
行動レベルのデータとの対応をどのように考えているのか。
(委員)先ほども申し上げたように、縦軸と横軸を足してランキングを付けることは可能
であるが、ブランドエクイティー管理室としては、まず縦軸ありきで考えていきたい。化
粧品の商品としての性質からすると、もちろん売上が大きくて儲かればよいが、それより
も、どれだけ高いイメージを維持しながらお客さまの要望に応えていけるのかが重要であ
ると考えている。
(委員)両者のデータの関係は分析しているのか。
(委員)あまり関係していないブランドもある。やんちゃブランドには、その傾向が特に
みられるが、大きなパイを獲得するわけではないが、特定の顧客から非常に強い支持を受
けているものがある。その分析の結果、どこに重点的に投資を行っていくのかは、ブラン
ド・エクイティーとは別個の視点、事業戦略の視点から判断をしなければならない。ブラ
ンド・イメージは決して高くないが、販売チャネルのほうで頑張って売上を伸ばしている
ブランドもある。確かに会計上はもうかっているブランドのほうが魅力的ではあるが、も
うからないブランドを無視するわけではなく、両方とも大事に考えている。
(委員)コミュニケーション企画部とブランドエクイティー管理室の関係はどうなってい
るのか。
(委員)化粧品事業が全体売上6,000億のうち4,500億程度、4分の3を占めている。し
たがって、資生堂ブランドを磨いていく使命が、化粧品事業戦略本部に属するブランドエ
クイティー管理室にもある。もちろんコミュニケーション企画部も資生堂ブランドを高め
ていかなければならないが、その方向性が異なる。コミュニケーション企画部では、企業
イメージ調査、企業広告、企業を代表する対外的イベントの実施などを行う。これに対し
てブランド・エクイティー管理室は、化粧品事業だけに特化して、化粧品事業における個々
のプロダクト・ブランドを高めることにより、間接的にコーポレート・ブランドを高めよ
うとしている。
(委員)コミュニケーション企画部でもブランドマトリクス評価を行っているのか。
(委員)コミュニケーション企画部は、企業イメージの調査だけを行っており、数値化・
マトリクス化は行っていない。
(委員)コーポレート・ブランドの調査結果とブランドマトリクス評価結果との相関など
の関係はみられるのか。
(委員)ブランドマトリクス評価は、まだ開始してから間がなく、今年で2回目である。
したがって、今後、回数を重ねていくなかで、企業イメージ調査結果と比較検討していけ
ば、両者がどのように関係しているのかがみえてくると思われる。
(委員長)やんちゃブランドとスターブランド、問題児ブランドとステディブランドは、
さほど変わらないのではないのか。なぜならば、横軸として売上、売上利益率等を用いて
いるが、この財務データのとり方いかんによって、やんちゃになったりスターになったり
する可能性があると思われるからである。
(委員)確かに横軸の業績をどのようにとるのかによって、ブランドの位置付けは変わっ
てくると思われる。4象限を一本の線で区切ってはいるが、例えばスターブランドになっ
たブランドだけについてポジションの維持・拡大を図るわけではなく、どの位置にあるの
かによって、対応を変えていかなければならないと考えている。
また、競合他社のブランドについて、自社ブランドと同等のデータを入手できないため、
各企業全体の損益計算書などから個別プロダクト・ブランドの数値を推定している面もあ
る。したがって、データの入手可能性の面からも、ブランドマトリクス評価はまだ完全で
はないと思われる。
Ⅵ 桜井委員報告「ブランド価値評価モデルの現状」
ワーキング・グループでは、ブランド価値評価モデルについて先行研究等を参照しなが
ら検討を進めてきた。本日は、ワーキング・グループにおける検討の経過を報告する。
価値評価アプローチは、企業評価残差アプローチおよび独立評価アプローチに大別され
る。さらに独立評価アプローチは、原価アプローチ、取引価格アプローチおよび経済価値
アプローチに細分される。
本日は、価値評価アプローチそれぞれの長所および短所を中心に報告する。
企業評価残差アプローチとは、将来キャッシュ・フローの割引現在価値や株式時価総額な
どにより企業全体の推定価値を算出したうえで、すでにオンバランスされている資産額を
控除した残差をもって、ブランドの評価額とする方法である。
トヨタ自動車の連結財務諸表を用いて説明すると、2001年3月末現在で連結資産が16.7
兆円、連結負債が9.8兆円となっており、連結貸借対照表上の株主資本簿価は6.9兆円にな
っている。企業全体の価値として時価総額を用いると、37.5億株に当日の株価4,350円を
乗じて16.3兆円になる。時価総額は株主資本簿価を9.4兆円上回っており、この9.4兆円
にオンバランスされていないブランドの評価額が含まれているはずであろう。
このアプローチの長所および短所を考えてみると、まず長所として、株価は多くの人々
の企業評価がすり合わされて形成されているので、ブランド価値をも含む1つの重要な企
業評価尺度である点が挙げられる。
しかし、短所として、残差にはブランド価値だけではなく、他の要因も混在している点
が挙げられる。例えば、残差には、まずオンバランスされている資産の帳簿価額と公正価
値の差異、ブランドの公正価値、ブランド以外の無形資産の公正価値が含まれている。さ
らに時価総額を用いる場合には、株価が必ずしも正しい企業評価額になっているかどうか
は不明であるため、残差には、株価が誤って形成されていることに起因する差額が含まれ
るかもしれない。
したがって、企業評価残差アプローチを利用する場合には、ブランドの公正価値とそれ
以外の要因とをいかに区分するのかが問題である。
原価アプローチは、歴史的原価アプローチと取替原価アプローチに大別できる。歴史的
原価アプローチは、ブランドを現在の状態に到達させるために負担されてきたすべての歴
史的現価の合計額で評価する方法である。取替原価アプローチは、評価対象ブランドと類
似の特性をもった同等のブランドを再び創出するために負担が必要な見積り総コストで評
価する方法である。
このアプローチの長所および短所を考えてみると、まず長所として、第一に、他の独立
評価アプローチに比べて、実践が相対的に容易な点が挙げられる。第二に、広告宣伝支出
と企業価値の関連性を支持する実証結果とも首尾一貫する。
しかし、短所として、広告宣伝支出と企業価値との間に関係があるとしても、負担され
るコストとブランドの経済的価値の間には、必ずしも明確な対応関係はない点が挙げられ
る。すなわち、多くのコストを投入しても失敗するブランドもあれば、わずかなコストで
成功するブランドもある。
取引価格アプローチは、ブランドが市場で取引される場合の価格で評価する方法である。
このアプローチの長所として、実際の取引価格は公正価値の指標として最適である点が
挙げられる。しかし、短所として、第一に、ブランドは唯一無二の特性を備えているため
に、類似ブランドを想定しにくい点が挙げられる。第二に、ブランド取引の詳細な内容は
非公開が通常であるために、批准データの入手が困難である点が挙げられる。第三に、ブ
ランドが事業全体とは別個に売買される取引はほとんど存在しないため、ブランド評価に
ブランド以外の要因の評価が混入する点が挙げられる。
経済価値アプローチは、ブランドがもたらす超過利益または超過キャッシュ・フローに割
引率を適用して資本還元価値で評価する方法である。このアプローチを採用する場合には、
超過利益を何で測るのかによって、いくつかの考え方がある。
免除ロイヤルティ法は、もしもブランドを保有していなければ支払わなければならない
ロイヤルティで超過利益を測定する方法である。ただし、現実にロイヤルティの授受がな
ければ、類似ブランドの不在やデータの入手困難により、免除ロイヤルティの推定自体に
実践上の問題がある。
プレミアム価格法は、ブランドのない一般的な同等製品を上回ってブランド製品がもた
らす将来の価格プレミアムで超過利益を測定する方法である。しかし、価格プレミアムを
目的とするブランドだけではなく、同等の価格で販売数量の確保を目的とするブランドも
あるため、このようなブランドに対応できない問題がある。
したがって、価格と数量の両方を考慮したプレミアム利益法を考えなければならない。
プレミアム利益法は、ブランドの存在により追加的に生み出されている利益、キャッシュ・
フローにより、超過利益を測定する方法である。
プレミアム利益法を採用している具体例として、インターブランド社方式が挙げられる。
インターブランド社方式は、世界で最初に自己創設ブランドを計上した会社であるRHM
社で採用された方式である。
インターブランド社方式は、3つのステップから成っている。まず、ステップ1では超
過利益を算定する。次のステップ2およびステップ3ではブランド貢献部分を算定する。
具体例を用いて説明すると、レジュメ2頁にあるように、仮定①として、次期の予測売
上高は1,000であり、その後は5期先まで毎期10%ずつ増加し、6期先からは成長率がゼ
ロになるとする。仮定②として、売上高営業利益率(営業利益÷売上高)は10%であり毎期
一定とする。 仮定③として、税率は営業利益に対して42.3%で毎期一定とする。仮定④と
して、資本回転率(売上高÷投下資本)は1.25で毎期一定とする。仮定⑤として、資本コス
トは投下資本に対して7%で毎期一定とする。この7%は次のように計算される。負債コ
ストについては、税引後利子率2.8%とする。株主資本コストについては、CAPMに基づ
いて、消費の延期に対する報酬とリスク負担に対する報酬の両方を考慮する。消費の延期
に対する報酬は、国債の市場利回りなどの無リスク利子率を用いる。リスク負担に対する
報酬は、株式市場の平均投資収益率から無リスク利子率を控除した数値に対して、銘柄別
のリスク量を乗じて計算する。ここで、負債が60%、株主資本40%とすると、加重平均資
本コストは、7%と計算される。
1期先の予測売上高が1,000であれば、営業利益は売上の10%で100、税引後利益は営
業利益の42.3%を控除して57.7となり、投下資本は売上の80%で800、さらにその7%の
56が資本コストになる。したがって、57.7の税引後利益から56の資本コストを控除した
1.7が超過利益になる。以下同様にして、2期先から6期先までの超過利益をそれぞれ計算
できる。
上述した計算は営業利益を前提としているが、ほかにも超過キャッシュ・フロー、経済
付加価値、オールソンの残余利益などが超過的な業績尺度として考えられる。
超過利益の全てがブランドから生み出されているわけではないため、超過利益のうちブ
ランドが生み出している部分を計算する必要がある。すなわち、ステップ2では、超過利
益に一定の指数を乗じてブランドに起因する利益を算定する。
具体的な例を挙げると、香水などの場合には、ブランドに起因する部分が非常に大きい
と考えられ、パソコンなどの場合には、ブランドに起因する部分が半分くらいで、生産技
術や特許などブランド以外の無形資産が超過利益の獲得に貢献していると考えられる。さ
らに、素材産業などの場合には、ブランドに起因する部分が0に近いかもしれない。
ここでは仮に60%がブランドに起因する部分であるとすると、先ほど算定した超過利益
に0.6を乗じてブランド起因利益を算定できる。それが、レジュメ3頁の数値である。
次に、ステップ3として、各期間におけるブランド超過利益に割引率を適用して現在価
値を算定する。ここで用いる割引率には2つの考え方がある。第一に、超過利益は最終的
に株主に帰属するために、株主資本コストをもって割引率とする考え方がある。第二に、
超過利益が実現する確実性の程度はブランド力の強弱により異なるために、ブランド力の
強弱により割引率を変える考え方がある。このうち後者の考え方が、インターブランド社
方式で採用されている。
インターブランド社では、蓄積されたデータに基づいて、ブランド力スコアに応じた割
引率を算定する数式を用いている。このブランド力スコアは、7つの要素により決定され
る。レジュメにあるように、各要素に点数を配分し、かつ各要素ごとにブランド力スコア
を採点して、全体としてのブランド力スコアを算定している。ただし、この7つの要素が
必要十分であるのかどうか、与えられている配点が妥当であるのかどうかについては、検
討の余地がある。
例えば、ブランド力スコアが50点と算定され、これに対応する割引率が12%とすると、
この12%を用いて、先ほど算定したブランド起因利益を割引計算する。すなわち、1期先
は1.12で割り引き、2期先は1.12の2乗、すなわち1.25で割り引いていく。以下同様に
して割引計算を行うと、レジュメにあるように現在価値は11.48と計算される。
以上がインターブランド社方式によるブランド価値評価モデルである。
Ⅵ 桜井委員報告をめぐるディスカッション
(委員長)インターブランド社方式の問題点について、端的に説明してほしい。
(委員)ステップ1は通常の企業評価と全く同様である。通常の企業評価と異なるのは、
ステップ2とステップ3である。ステップ2では、超過利益のうちブランドに起因する部
分を製品の種類別に評価している。ここで用いられる指数の妥当性は検討する必要がある。
ステップ3では、ブランド起因利益を割引計算して現在価値を求めている。ここで用いら
れる割引率いかんによって、現在価値は大きく変動する。例えば、企業年金を考えてみる
と、割引率が1%違うだけで現在価値が数十億円違ってくる。したがって、ブランド力ス
コアと割引率の関係は慎重に検討する必要がある。
インターブランド社がブランド力スコアを算定するために考慮する要素を補足的に説明
すると、市場性については、市場規模が大きく、市場の成長性が高く、参入障壁が高いほ
ど、ポイントが高い。安定性については、ブランド使用期間が長いほど、優れた品質の裏
付けがあるほど、ブランド認知度が高いほど、顧客ロイヤルティが高いほど、ポイントが
高い。主導性については、マーケットシェアが高いほど、新製品開発力があるほど、価格
決定力があるほど、ポイントが高い。方向性については、マーケットシェアの継続的な上
昇など、右肩上がりの長期的な趨勢をもつブランドほど、ポイントが高い。サポート性に
ついては、ブランド力維持のための首尾一貫した広告投資などのサポートが強力なブラン
ドほど、ポイントが高い。展開性については、地域的・国内的なブランドより、国際的な
受容と支持を得ているブランドほど、ポイントが高い。法律的保護性については、法的保
護の対象となっているブランドは、そうでないものよりポイントが高い。これらの評価尺
度によりブランド力スコアを測り、これに見合う割引率を選択する。
ブランド力の強弱により割引率を変更することが妥当であるかどうか、妥当であるとす
ると、この7つの要素が十分であるのかどうか、7つの要素に与えられているウェートで
よいのかどうか、採点の客観性をどの程度確保できるのかが問題である。
(委員長)私がインタビューしたところでは、若干の修正がなされているようである。展
開性を地域性、主導性をマーケティング性と呼んでいたが、内容は変わっていないようで
ある。
(委員)計算式自体の理屈は理解できるが、製品別の指数の算定が非常に難しいと思われ
る。
(委員)そのとおりである。製品別の指数を算定する場合にも、いくつかの要素が決めら
れている。製品によっては、品質が重要であったり、生産技術が重要であったりする。こ
こでも、ブランド力スコアと同様に、要素が十分であるのか、要素のウェートが妥当なの
か、採点が客観的なのかの問題がある。
(委員長)インターブランド社方式の場合には、自社のクライアントを利用したデータで
あり、所与のブランド価値評価に基づくファクターが用いられているように思われるが、
この点はどうか。
(委員)確かにインターブランド社はコンサルティング会社であり、自社のクライアント
のブランド価値を高めることが主たる業務内容になっている。そうすると、どうしても自
社のクライアントを過大評価する傾向があるのかもしれない。
(委員)ステップ2のブランド役割指数は非常に興味深い。我が社グループはエレクトロ
ニクスが本業ではあるが、音楽、映画、ゲーム、流通、金融など様々な業種に進出してお
り、業種ごとに指数化できれば非常によいと思われる。ステップ3の7つの要素も、45位
の要素を集約した結果であると記憶している。ここに主観が入っているように思われる。
といっても、イギリスの会計基準ではインターブランド社モデルがデファクト・スタ
ンダードとして認められており、インターブランド社は世界で 2,000社以上のマーケテ
ィングをやっている。
そのブランドの市場評価の因子を絞って評価していく方向性がよいと思われる。また、
ブランドの源泉は何であるのか、コアか拡張か、事業特性すなわち顧客にとってのブラン
ドの重要度は何か、機能特性すなわちブランドがどのような過程で築き上げられたのか、
地域特性すなわちどのような地域でブランドが築き上げられたのかなども検討する必要が
ある。
(委員長)インターブランド社モデルがイギリスの会計基準で認められているとの趣旨の
ご発言であるが、確かにRHM社の頃にはそうであったかもしれないが、現在のFRS10
では認められていないように思われる。FRS10では客観的な市場価額がある場合にのみ、
自己創設ブランドの計上が認められている。逆説的ではあるが、かつてRHM社がインタ
ーブランド社モデルに基づいてブランドをオンバランスしたからこそ、FRS10にみられ
る厳格な規定が設けられ、自己創設ブランドの計上が制限されたともみることができるの
ではないか。
インターブランド社モデルは、基本的にはマーケティング・モデルであると思われる。
したがって、このままでは財務諸表にオンバランスする根拠となるモデルとしての要件を
満たしていないのではないかと思われる。これらの点については、次回以降の研究会で検
討して頂ければと考えている。
Ⅶ 今後の日程について
(事務局)次回の第3回目の研究会については、9月13日(木)午後2時から午後5時ま
で、経済産業省国際会議室での開催を予定している。
(委員長)これで第2回ブランド価値評価研究会を終了する。
-以上-
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