〜OECD「電子商取引に関する消費者保護ガイドライン」の解説〜

2000.6.2 通商産業省商務流通グループ

1.OECD「電子商取引に関する消費者保護ガイドライン」策定の経緯

OECD(経済協力開発機構)は、欧米先進国を中心に29か国が参加した国際機関で、様々な分野の経済政策に関する議論を各国の代表が行っています。

●OECDにおける議論のテーマの一つに「消費者保護」があります。様々な取引が行われる中で、消費者はそれらに関する情報を完璧に把握している訳ではなく、また、習熟している訳でもないことから、各国とも「消費者保護」のために、特別な法律ルールを有しています。「消費者保護」の分野で国際的に取り組むべき課題については、OECDの「消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policy)」という組織で議論が行われています。

●近年の急速なインターネットの普及に伴い、いわゆる「インターネット通販」あるいは「オンライン・ショッピング」と呼ばれる「消費者向け電子商取引(Business-to-Consumer Electronic Commerce:B2C EC)」が発展しており、これに対応した適切な消費者保護政策を構築するための「拠り所」を、OECDが検討すべきであるとの合意がなされ(OECD「電子商取引に関するオタワ閣僚会合」)、98年春から1年半近くの検討作業を経て、99年12月に『電子商取引における消費者保護ガイドライン』が公表されました。

(参考1)OECD「電子商取引に関する消費者保護ガイドライン」(英文)
(参考2)OECD「電子商取引に関する消費者保護ガイドライン」(和訳)

 

2.OECD「電子商取引における消費者保護ガイドライン」の背景

●さて、「消費者向け電子商取引」の特徴とは何でしょうか? 何のために国際的な場で消費者保護に関 するガイドラインを策定する必要があるのでしょうか?

【消費者向け電子商取引の特徴】

(1) 消費者は、ウェブ上の店舗のサイトを見て、そこに掲載された商品・事業者・取引条件(価格等)だけをもとに購入の判断をします。つまり、実際の店舗を訪れたり、店員からの勧誘等を受けることなく取引を行います。

(2) また、取引に際して、消費者はウェブ画面を見ながらの操作だけで注文を行うことになります。店頭での購入ならば、「あっ、ちょっと待って下さい。それを買うのは止めてこれにします」等ということもできますが、パソコン等の操作では一旦注文をしてしまえば「ちょっと待って」は普通はできません。

(3) 更に消費者は、購入した商品等に関する支払を、オンラインで行うこともできます(勿論、代金引換や銀行振込・郵便振替等も使える店舗も相当あります)。これに関しても特別な配慮が必要になります。

(4) また、電子商取引では、居ながらにして世界中のサイトを見ることが可能となりますので、消費者は極めて容易に国際越境取引を行うことができます。居ながらにして世界中の商品を注文できる代わりに、何らかのトラブルが発生した場合には解決は大変です。また、言葉の壁等もあります。さらに、悪質商法を取り締まる国内の法律は、現状では、外国の事業者には一般的には適用されない訳ですので、救済方法も限定されています。

【国際的なガイドラインが必要な理由】

(1) 電子商取引は、今後の消費生活を豊かにするための有効な手だてであり、同時に、今後の新たなビジネスチャンスと雇用の機会を提供する有力なツールです。これに対して、各国がまちまちな規制を行っていては、今後の世界経済の成長への足枷となりかねません。そこで、国際的なバランスの取れた消費者保護策を講じることが適切です。

(2) 電子商取引は、国際越境取引が極めて容易に行える取引手段です。前ページでも述べたように、国際的な取引でのトラブルを解決するための手段は、これから構築されるべきものです。その際、各国の消費者保護策が、一定の「標準形」に沿ったものでなければ、これらのトラブル解決策の構築は困難なものとなりかねません。

(3) 電子商取引に関連する情報技術の進歩は極めて速いものです。これに対応した消費者保護策は、技術の進歩を阻害しないものであるとともに、技術の内容によって左右されない(技術中立的)なものでなければなりません。このため、国際的な議論により偏りのないものを策定することが適当です。

 

3.OECDガイドラインの策定に各国政府はどう取り組んだか?

●各国でこの「ガイドライン」の策定に取り組んだのは、いわゆる消費者保護政策の担当部局です。我が国からは、「消費者向け電子商取引」を含む「通信販売」に関する具体的な消費者保護措置を定めた「訪問販売等に関する法律」の実施を行っている通商産業省(商務流通グループ)と、「消費者保護基本法」の実施を担当し、政府全体としての消費者保護のとりまとめを担当する経済企画庁(国民生活局)がOECDでの議論に加わりました。

(参考3)OECD/CCPへの各国政府参加機関一覧 (工事中)

●また、新しい取引形態である電子商取引に関する消費者保護政策を議論するには、ビジネスや消費者団体の声も反映することが不可欠です。この観点から、国際的なビジネス団体(BIAC)や消費者団体(CI:Consumer's International)も議論に参加しました。

 

4.OECDガイドラインの性格

●本ガイドラインは、一般的には各国の対応を法的に拘束するものではありません。「電子商取引における消費者保護ガイドライン」についても、各国は、その国内の実状等を踏まえて、法律、業界の自主規制、その他の手法により、ガイドラインの内容を実現することが期待されています。

 

5.OECDガイドラインの概要

(1)スコープ

●このガイドラインの対象は、「消費者向け(B2C:Business-to-Consumer)」の電子商取引。

(解説)電子商取引には「事業者間(B2B:Business-to-Business)」もあります。事業者間の場合は、消費者取引とは異なるビジネスのルールで行われています。このため、ガイドラインの対象を「消費者向け」に限定しています。

(2)一般原則

@透明で有効な消費者保護

●電子商取引の場合にも、その他の取引の場合を下回ることなく、透明かつ有効な水準の消費者保護が確保されるべき。

(解説)「その他の取引」とは、「電子的な手段」以外の手法で行われている、言うなれば「伝統的」な取引を意味します。すなわち、消費者が、電子商取引の場合であっても、通常の店舗で買い物をするのと同様の安心感を与えるための措置が必要、ということです。

●政府、事業者、消費者は、上記の保護を達成するために、電子商取引の特殊性に対応した如何なる変更が必要かの検討を、協力して実施すべき。

(解説)電子商取引だからといっても、その全てが「伝統的」な取引と異なる訳ではなく、全く新しいルールを一から作る必要がある訳ではありません。寧ろ、これまでに蓄積・普及されてきた「社会常識」や「ルール」を、電子商取引の特徴に対応してうまくアレンジ・翻訳すればいいことも多いのです。そのためには、取引の当事者である事業者・消費者、そして法律等を作る役割を担う政府関係者が、それぞれの立場から協力することが求められています。

A公正な営業・広告・販促行為

●事業者は、消費者の利益に配慮し、公正な営業・広告・販促行為を実施しなければならない。
・虚偽、誤解を招きやすい表現、詐欺的、不公正と考えられる表現は使用しないこと。
・消費者への不当なリスクを与える行為を行わないこと。
・明確で見やすく、正確で目に付き易い方法で情報提供を行うこと。

(解説)電子商取引の場合、消費者はウェブ上に示された情報のみをもとに、購入の判断を行うこととなります。そのため、営業・広告・販促活動においては、「消費者の判断に必要とされる情報を、正しく、かつ、判りやすく」示すことが不可欠です。実は、これは「伝統的」な形態の通信販売(カタログ、雑誌広告、TVショッピング等)でも同様で、各国ではいずれもオンラインショッピングが通信販売の一形態として位置付けられていることからも納得できます。

●電子商取引のグローバルな性格に注目し、事業者は様々な国の規制を考慮すべきである。

(解説)電子商取引では、「国境」を殆ど意識しないで取引を行うことが可能です。また、消費者保護のための規制や法律は、各国によって色々と違います。事業者にとって、世界中から注文が来る可能性があるとは言え、それらの規制を全て熟知し遵守することは簡単なことではありません。しかしながら、可能な範囲内で他国の規制や法律についても考慮することが重要です。

●ネットワークの特性を悪用した「正体隠し(雲隠れ・成りすまし)」や、消費者保護関連基準を遵守しない等のことをしないこと。

(解説)ウェブ上では、何の証拠も残さずにサイトを消去(「雲隠れ」)したり、他人に「成りすまし」たり、ということが可能になりやすいという特徴があります。こうした、インターネットの特性の悪用をすることは勿論認められませんし、詐欺罪に該当するような場合もあります。

●事業者は、消費者による「受信を希望した覚えのない電子メール広告」の受取り又はその拒否の選択を可能とするシステムを開発し、消費者が受取を拒否した場合には、その選択を尊重すること。

(解説)電子メールは、送信コストが極めて低く、また、一斉に大量の宛先に対する発信が可能なことから、これを用いて宣伝や広告を行う行為が時として見られます。こうしたものを一般に「スパムメール」とも呼びますが、事業者は、こうした電子メール広告を送る場合には、「今後も受信を希望するか否か」を消費者に尋ねるべきです。また、消費者からの回答に対しては、それを尊重することが求められます。

●広告・販促に際しては、子供や高齢者等への配慮を行うことが必要。

(解説)インターネットの利用は、未成年・子供及び高齢者へも急速に広がっています。こうした幅広い年齢層の消費者がウェブサイトを見ることを意識し、特に子供や高齢者向きの商品の広告を行う場合は、難解な表現を使わない、見やすい標記を用いる、丁寧な説明を行う、等の配慮がなされることが必要です。

Bオンラインでの情報開示

(3-A) 事業者に関する情報

●事業者の名称、地理的住所、電子メールアドレス、電話番号等についての、正確、完全かつ判りやすい情報の提供が行われるべき。

(3-B) 商品/サービスに関する情報

●事業者は、消費者が取引に入るための十分な情報に基づく判断を可能とするため、商品/サービスに関する正確かつ判りやすい情報を提供するべき。

(3-C) 取引条件に関する情報

●事業者による、契約条件、コスト等に関する十分な情報提供がなされるべき。
・明確かつ正確で判りやすく、消費者に取引前に「確認する機会」を与えること。
・事業者は、消費者による取引の記録へのアクセスや保管を可能とするよう、関連の取引条件を消費者に情報提供すること。
・関連の取引条件とは、「あらゆるコスト(価格・送料・付帯費用)」「配達に要する期間」「支払方法及び支払条件」「使用上の注意・制約」「契約撤回や返品に関する条件」「保証」等。

(解説)電子商取引の場合、消費者はウェブ上に示された情報だけで、購入の判断を行わなければなりません。そのためには、上記の情報が適切な形で消費者に提供されなければなりません。これらの項目のかなりの部分に関しては、我が国では、「景表法」や「訪問販売法」において法律で定められています。

(参考3)「訪問販売法」の解説

C確認プロセス

●消費者は、購入する商品/サービスにつき明確に意思表示をし、錯誤を認識・訂正し、十分な情報に基づく熟慮の上での購入の意思表示をし、取引の完全な記録を保存することが可能とならなければならない。

(解説)電子商取引では、消費者はウェブ上の「注文」ボタンをクリックするだけで、商品/サービスの購入を行うことができます。大変に「手軽」ですが、ついうっかり間違った注文をしたり、1回のクリックで注文が確実にされたかどうか不安になり2回クリックしたら同じ商品が2個届いてしまった、といったトラブルも発生しています。これを回避するために、事業者は、例えば「注文のプロセスを判りやすく図示する」「注文する前に、消費者の意思を確認する」「注文に対してお礼のメールとともに購入の意思の最終確認を行う」等の様々な工夫を行っています。また、消費者にも、注文したブラウザ画面を保存したり印刷したりすることができるようになっています。

D支払

●使い勝手が良く、安全な支払メカニズムと、そのセキュリティのレベルに関する情報を消費者に提供すること。

(解説)安全で信頼のおける支払手段の提供は、オンライン・ショッピング・ビジネスの成功の鍵と言えます。多くの消費者が、「ウェブ上でクレジットカード番号を入力する」行為になにがしかの不安を感じています。通信途上での漏洩を防ぐためにはSSLやSETといった暗号技術が用いられていますが、消費者の側でも充分に注意することが必要です。完全ではありません。また、店舗におけるカード番号管理も厳格さが要求されます。また、消費者の立場からは、代金引換、銀行振込、郵便振替、デビットカード、電子マネー等、多種多様な支払手段が使えることが歓迎されます。

E紛争解決と救済

A.準拠法及び裁判管轄

●現行の準拠法及び裁判管轄の枠組みが修正あるいは異なる適用を必要とするかどうかについての検討が必要。
・当該枠組みは、消費者・事業者への公正さを保ち、電子商取引を促進し、他の取引を下回らないレベルの消費者保護を提供するとともに、公正、適時的で、不当なコストや負担を課さないような紛争解決・救済を提供すべき。

(解説)準拠法とは、国際越境取引の場合に「契約等に関してどこの国(事業者の居住国? 消費者の居住国?)の法律に基づくか」ということで、裁判管轄とは、「トラブルが発生した場合にどの国の法廷で裁判を行うか」と言う問題です。

(参考4)「ハーグの国際私法会議の国際裁判管轄条約」の説明 (工事中)

B.紛争解決及び救済(裁判外紛争解決メカニズム等)

●公正で適時的な紛争解決・救済メカニズムへのアクセスが実現されることが必要。 ・事業者・消費者による消費者の苦情への対応メカニズムの構築
・事業者・消費者による自主規制プログラムの構築
・事業者・消費者代表・政府による裁判外紛争処理メカニズムの構築
・情報技術を活用した、消費者の意識喚起及び選択の自由の強化

(解説)準拠法や裁判管轄の問題が、仮に国際的に合意されたとしても、取引金額が小さく、時間的余裕も少なく、言葉の壁等がある中で法廷でトラブルを処理するのは、現実的な解とは言い難いものがあります。そこで、裁判というプロセスを経ることなく消費者取引に関する紛争を解決するメカニズムの必要性は大きいものがあります。

(参考5)「裁判外紛争解決メカニズム」について

F個人情報(プライバシー)保護

●OECDの既存ガイドライン(80年/98年閣僚宣言)に則って個人情報保護が確保されることが必要

(解説)消費者向け電子商取引において、個人情報保護は極めて大きな課題です。情報技術の発達により、消費者がウェブ上で行う購買活動等は、事業者に個人情報の蓄積をもたらします。勿論、これらをうまく使うことにより、消費者により一層便利な消費生活を提供することも可能となりますが、消費者本人の同意なしに個人情報が勝手に流出し、使用されることは好ましくありません。

(参考6)個人情報保護に関する我が国の取組みについて (工事中)

G啓蒙・周知

●消費者保護に関する、政府・消費者代表・事業者による様々な手法の活用や消費者への情報提供に係る協力が行われるべき。

(3)ガイドラインの実施

●本ガイドラインの確実な実施のため、国内的にも国際的にも、政府・事業者・消費者が協力すべき。
・技術中立性・メディア中立性の原則に立ち、法令や自主規制の見直しや制定が行われるべき。
・民間セクターによる、有効な自主規制メカニズムや消費者保護・強化のための技術開発等が奨励されるべき。

(参考7)ECOM(電子商取引推進協議会)の「ECOM消費者取引ガイドライン」
     JADMA((社)日本通信販売協会の「通信販売における電子商取引ガイドライン」 (工事中)

(4)国際協力

●グローバルな電子商取引の促進のため、国際協力が重要。
・政府、法曹界、規制・法執行機関による情報交換、調整、連絡及び共同での取組が重要。
・二国間又は多国間協定による国際協力の推進が重要。
・消費者保護の中核部分に係る国内及び国際コンセンサス形成への相互努力が必要。
・法執行に関する相互承認へ向けての協力が必要。

(参考8)「インターナショナル・インターネット・サーフデイ」の結果について

 

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