1.法律制定の背景

 化学物質は、その優れた機能性により幅広い産業において基幹的基礎資材として使用され、国民生活にも密着した存在となっています。一方、化学物質の中には、その固有の性状として何らかの有害性を示すものも少なくなく、その取扱いや管理の方法によっては、人の健康や環境への影響をもたらす可能性があります。

 このような有用な化学物質の利用に起因する人の健康へのリスクは、昭和40年代初期のポリ塩化ビフェニル(PCB)による環境汚染問題の発生により顕在化しました。PCBについては、化学的な安定性、絶縁性、不燃性などの特性を有することからトランス等の絶縁油、熱媒体等幅広い分野で使用されていましたが、昭和41年以降、世界各地の魚類等の体内からPCBが検出されるなど、PCBによる環境の汚染が明らかとなる中で、我が国においても、昭和43年に、食用油にPCBが混入し健康被害を発生させるというカネミ油症事件が起こりました。その後、様々な生物や母乳等からも検出され、PCBによる汚染が社会問題となりました。

 我が国においては、従来から、人への健康被害を防止する観点から、毒物や劇物などの急性毒性を有する化学物質や労働者が直接的に取り扱う化学物質の製造・使用等の規制、工場の煙突や排水口から環境中に排出された不要な化学物質についての排出規制等が講じられてきていました。しかしながら、PCBによる環境汚染問題は、化学工業により大量に生産される化学物質が製品等に使用され、それらの製品の通常の使用・消費・廃棄により環境に放出され、環境汚染を通じて人の健康を「じわじわ」と蝕んでいくものであり、従来の化学物質対策の盲点を突くものでした。

 このような状況の下、PCB類似の性状、すなわち、環境中では容易に分解せず(「難分解性」)、生物の体内に蓄積しやすく(「高蓄積性」)、かつ、「継続的に摂取される場合に人の健康を損なうおそれ(人への長期毒性)」を有する化学物質が環境汚染を通じて人の健康に被害を及ぼすことを防止するため、これらの化学物質の製造・使用等について厳格な管理を行う必要があることが強く認識されるに至りました。


(1)

次のページ