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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第105号

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◆技術のおもて側、生活のうら側 2017年3月30日 第105号

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使い方いろいろ、日常の様々な場面で活用が進むICタグ

 今回は、東京の秋葉原駅のほど近くにある「RFID(Radio Frequency IDentification)」という技術を利用した電気・電子機器の開発、販売を行う、「マイクロ・トーク・システムズ株式会社」を紹介する。同社は1994年に設立され、現在従業員が16名の会社である。

 RFIDは、無線又は電磁誘導を使用してタグやカードにデータを書き込み、あるいは、読み取る技術であり、電波によって非接触で情報を確認できるシステムである。

基本的な仕組みは次のようになっている。①タグが、リーダライタからの電波を受信し、信号を送信、②リーダライタのアンテナが信号を受信、③リーダライタが信号を解読(複合化)し、外部にデータを転送する。
創業者である社長が当時勤務していた企業にいるときにRFIDのことを知り、この技術の将来性に着目し、独立することを決めた。同社は、開発、試作を行い、製造は他社に委託している。

同社が最初に取り組んだのは、非接触のカギの開発である。バッテリーを持たないタグを内蔵したカギを、扉に設置された受信機にかざすだけで開錠するシステムを1996年に開発。2000年には年間3万個程度が売れるようになり、2005年には30万個まで売上を伸ばし、現在まで累計500万個の販売実績になっているという。主にマンションの共用玄関などに利用されている。

物流の分野でも、フレコンバックの所在管理用に開発、販売している。
また、この非接触のカギは、温浴施設やスポーツクラブでも活用されている。リストバンド内蔵のタグに、ロッカーのカギや財布代わりの決済機能も持たせ、施設内のサービスを現金の受け渡し無しで利用することが可能という。メタルキーを持つ必要がなく、軽量でなおかつセキュリティが高いのも特長である。

これらのタグはパッシブタグと呼ばれ、電池を内蔵しておらず、読み取りの際に一時的にリーダーから電気を受け取って動作する。電池を内蔵するアクティブタイプより、さらに軽量・小型で持ち運びやすく、電池切れもないため半永久的に利用が可能である。

一方、バッテリーをもつアクティブタイプは、自らの電力により、より遠くに信号を送信することができ、その反応も早いのが特長である。

PFIDのカギへの利用を進めている中、参加人口が増加していたマラソン大会へのこの技術の利用が要望されていた。マラソンは、多くの人が、一定以上のスピードで通過するため、従来の方法では正確に個人ごとのタイムを管理することが困難となっていた。

1980年代以降、海外で市民マラソンがポピュラーとなり、参加者が千人を超えるようになっていた。当時は、ゼッケンにバーコードを貼り付け、ゴールした順に参加者を並ばせてバーコードを読み取り、本人とタイムを紐つけしていたという。このため、確認作業に人手がかかるだけでなく、タイムも正確ではなかった。

1994年になると、オランダのチャンピオン・チップス社が、ロッテルダムマラソンにおいて、シューズにタグをつけ、マットを通過するとタグから電波が送られ、個人ごとのタイムを自動で計測できるシステムを実用化した。その後、オリンピックのマラソン大会にも採用され、2000年頃には、このシステムが主要なマラソン大会を独占する状況となった。

しかしながら、マラソンは胸の位置で記録を図るのが原則であり、チャンピオンシステム社のタグでは技術的に胸からマットアンテナまで信号を飛ばすことができなかったため、シューズではなく、胸にタグをつけて計測できるシステムの開発が求められていた。

チャンピオン・チップス社がマラソン大会の計測を独占する状況であったものの、胸にタグをつけて計測できるシステムを開発すれば勝機があると、2000年頃からゼッケンに装着可能な軽量化されたアクティブタイプのタグ「J-chip」の開発を開始した。

開発にあたっては、①70km/時のスピードに対応できること、②短時間で大人数の測定に対応できること、③防水や耐衝撃性など厳しい環境に対応できること、④マット型のアンテナから胸の高さ以上(約2メートル)にまで電波を飛ばすことができること、を目標にしたという。非常に開発が難しいアイテムだったことから、実用化までに5年を要することとなった。

製品の売り込みにあたっては、東京都の事業も活用し、ヨーロッパやアメリカに向けて宣伝を行い、このような努力もありスイスやイタリアのマラソン大会に採用され、徐々に実績を重ねていくことができるようになった。

現在、J-chipによるスポーツ計測機器は、ヨーロッパ、アメリカ、台湾など23カ国のマラソン大会で採用され、海外では年間数千大会、国内では数百大会で使用されている。世界陸上のマラソン競技や競歩競技をはじめ、国内ではNAHAマラソン、岐阜清流マラソン、霞ケ浦マラソンなど数多くの大会で採用されている。
また、マラソンのほかにも、トライアスロン、トレイルランや自転車競技などにも採用されている。

RFIDの技術を活用した計測システムの開発競争はますます激しなってきている中で、次世代の需要に対応できる高性能な「次世代J-chip」の開発を行っている。実際のマラソン大会での試行を経て、早ければ来シーズンの実用化を目指している。

さらに、同社はJ-chipの技術をベースに「S-Location」を開発した。
S-Locationは、ハンズフリーでタグをリーダーにかざすことなく、人の動態や所在場所まで管理できるシステムである。
従来の入退室管理システムの多くは、ICカードをリーダーにかざすことで認証を行い扉の開閉を行っているが、この方式だと扉を開閉した人が実際に入場したのかまでは確認できず、また一人が扉を開閉する間にほかの人が入退室したことが検知できない。このため、より厳格な入退室管理が求められる場所で、このハンズフリー型のシステムの導入が進みつつある。

S-Locationは、ピンポイントでの位置を検知し、「いつ」「どこで」「だれが」「どこにいるか」をハンズフリーで自動認識でき、複数人の入退場の同時検知が可能である。

仕組みはこうだ。①床面や天井などに配置したアンテナ(LFアンテナ)から磁界が生成される、②このLFアンテナから位置情報を載せた信号が発信される、 ③タグがこの磁界エリアに入ると自身のIDと位置情報を合わせて電波を発信する、④発信された電波は受信アンテナで受信され、受信機にデータが送られる、⑤このデータにより「どのタグ」が「いつ」「どこに」存在していたかを判別することができる。

このシステムは、原子力施設や高いセキュリティーが求められる企業のオフィス、食品加工工場、刑務所などに導入されている。
また最近では、小学校の登下校メール配信システムとしても使われており、約200校近くで導入されているという。学校の門の地面にLFアンテナを埋め込むとともに、門のそばに受信アンテナと目視でも確認できるよう監視カメラを設置し、児童が門を通ると登下校をリアルタイムで保護者にメール配信されるようになっている。このシステムを使ったサービスを提供する企業が設置費用を負担し、サービスを利用してくださる保護者の方々からの月々の利用料で設置費用を回収していく仕組みとなっているそうだ。

このようにICタグの活用は、様々なところに広がりつつある。今後さらに、そのニーズが高まっていくものと考えられ、日常のあらゆる場面で活用が進んでいくことだろう。

<取材協力>

 マイクロ・トーク・システムズ株式会社
  代表取締役社長 橋本 純一郎
  営業部部長代行 初見 和哉
 ウェブサイト:http://www.micro-talk-systems.co.jp/外部リンク

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