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産業技術メールマガジン/技術のおもて側、生活のうら側 第87号
◆技術のおもて側、生活のうら側 2015年9月24日 第87号
こんにちは。ご愛読いただき、心より感謝いたします。
このメルマガでは、身近な生活シーンから、社会生活に密着した産業技術を生活者の目線で紹介していきます。私たちの暮らしを支える産業技術を身近に感じていただければ幸いです。
製品の革新を支える小さな部品
ATM(現金自動預け払い機)には、ボールベアリングが200個以上使われているという。
ATMの中には、お札などを高速で誤差なく移動させるための搬送機構が収められている。作動と停止を瞬時に切替えつつ精確に作動する回転部の摩擦、騒音、発熱などを軽減し、お札とともに埃なども入ってくる過酷な条件下で故障せずに安定して作動するのを支えているのがボールベアリングだ。
回転する軸などを、摩擦やエネルギー損失を減らしつつ保持するのに使われるのがベアリング(軸受)である。用途に応じて、様々な構造のものが開発されている。機械産業のコメとも呼ばれる重要な部品だ。
ボールベアリング(玉軸受)はその一つで、回転軸の周りを筒状の軸受けで覆うスリーブベアリング(すべり軸受)に比べて複雑な構造となるが、より速い回転や回転数の変化に強く、回転軸に対して垂直にかかる力だけでなく、回転軸と同方向からの力にも耐えることができる。温度、圧力の変化やゴミ、塩水等の腐食物質への耐性も付与できる。
基本構造は、大小2本の円筒の間に、一般的に6個以上の丸い玉とその玉を等間隔に保つための保持器(通常は2枚、玉同士が接触すると抵抗が増える)を挟んでいる。
外周となる大きな円筒の内側と内周となる小さな円筒の外側に、玉が滑らかに回転するよう溝(レース面)を彫り表面を鏡のように仕上げる。その間に、同じ直径の玉を流し入れ、保持器で位置を決める。用途に応じてグリースや潤滑油等を充填し、カバー(シーリング)を取り付ける。
小型ボールベアリング市場で、世界の大きなシェアを占めているのがミネベア株式会社(本社:長野県北佐久郡)である。同社は、外径1.5mm、内径0.5mm、幅0.65mm、6個のボールを備える量産可能な世界最小のスチール製ボールベアリングを開発しており、ギネス世界記録に認定されている。
同社が創業したのは、1950年代初めである。航空産業向けなどにボールベアリングを製造販売していたそうだ。当時は、手作業で製造しており、ロットは小さく用途も限られていたようだ。
風向きが変わってきたのは、ビデオデッキ(VHSやベータマックス)に搭載されるようになってからという。回転方向や速度の変化に対応でき、静音性能を持ち、耐久性が高いということで小型ボールベアリングが採用されたそうだ。
その後、自動車の電装化の進展(エアコン、バルブの電子制御、ABS等制御機構用など)、パソコンの普及(冷却用ファンなど)、近年のデジタル家電へと年を経るに従って用途が広がり、需要が急拡大している。
ボールベアリングの性能は、玉のサイズ揃い、真球度の高さや表面の滑らかさに直結している。金属やセラミックなどの固い素材を削りながら既定の直径に近づけていく。小さいものは直径1mmを下回り、削りくずと製品を選り分けるのも困難になるという。
さらに、玉を収める2本の円筒の間隔や角度、溝の深さ等がわずかでもずれると、抵抗が増えたり、がたついたりして使えない。小型になるほど、わずかな誤差の影響が大きくなり、技術的ハードルも高くなる。
デリケートな製品で、製品に組み込まれ所定の位置に固定されると衝撃などにも耐えられるようになるが、単体(部品)のままだと落下させると歪み等が発生して使えなくなることがあるそうだ。このため製造工程や品質の管理も重要で、製造のための機械も大部分は内製しているという。
現在、同社だけで、月産2億4千万個のボールベアリングを出荷しており、製品の型も8千5百種類にもなるという。
実は、使う側からすると、使いたい部品ではないそうだ。しかし、コストが上がる代わりに、静音化や省エネ性能が上がることが期待できる。このため、より小型のボールベアリングが開発されると、そこから新しい用途が開拓され、新たな製品が構想・開発されていくそうだ。部品主導のイノベーション。次に使われるのは、どんな分野だろうか。
ベアリングの業界は、より精度が高いものになるほど、ミネベアをはじめとする日本企業の製品の競争力が高まっていくという。ものづくりを極める日本製造業の面目躍如ではないか。今後も、この小さな部品の進化が、まだ見たことのない新たな製品の誕生につながることを期待したい。
取材協力
ミネベア株式会社 執行役員 ベアリング統括部 責任者 小宮 康一郎
ベアリング統括部 営業推進部 営業技術課 次長 町田 進一
広報室 室長 小峯 康生
広報室 柴田 亜里沙
技術のおもて側、生活のうら側について
発行:経済産業省産業技術環境局産業技術政策課 担当/執筆:藤河、木村、田部井
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