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株式会社五香刃物製作所

会社概要

  • 株式会社五香刃物製作所
  • 本社所在地:〒277-0931 千葉県柏市藤ヶ谷369-10
  • TEL:04-7193-0271 FAX. 04-7193-0272
  • 創業年月日:1989年(平成元年)
  • 代表者:代表取締役 八間川 憲彦
  • 事業概要: 包丁、園芸用刃物の製造卸

会社HP

今回は、千葉県柏市の株式会社五香刃物製作所の代表取締役である八間川憲彦様と鍛冶師の八間川義人様からお話をお聞きします。まずは、御社がどのような刃物を取り扱われているか教えていただけますか。

 当社では、関東の手造り包丁、鋏を中心に取り扱っております。刃物問屋の信念として、価格のみを評価軸とはせず、鍛冶職人の手によるものを広め、次代に残していこうと取り組んでいます。
 伝統的な技法による刃物製造は家内手工業の感が強く、鍛冶師ひとりひとりの経験と技量によるところが大きいため、後継者を育て上げてくには少なくとも10年の期間が必要です。当社は刃物問屋として、鍛治師が製造に注力できる環境、後継者を育成できる環境を作り上げていきたいと考えています。1円でも安く買いたいという消費者心理は分かっていますが、単価が安くなればなるほど、鍛冶師の経営環境は厳しくなります。良い品には相応の価値をつける、そして、その価値を理解してもらうための努力をしていくことが求められています。
 
  
(同社事業所内の商品展示場には数多くの刃物が並ぶ)
 

御社が所在する千葉県をはじめ、関東には歴史ある鍛冶屋が一定数残っており刃物産地を形成されていますね。

 関東、特に千葉県には小規模な鍛冶屋が多いですね。これには、様々な歴史的経緯と土地事情があるものと推測しています。元々、江戸といった大消費地が近くにあったので包丁等の生活刃物の需要が大きかったですし、農業も盛んなため鎌、鍬といった農業用刃物も多く製造されていました。明治以降も西洋式の鋏や牛刀が製造され、刃物産地として一つの地位を築いてきたのです。
 そして、複雑な気分ではありますが、時代の変化に取り残されたために手造りによる鍛冶技術が今日まで残ってきたという側面もあります。
 今から35年ぐらい前からでしょうか。各地で大型量販店が展開されていく中で、刃物産業の中でも様々な動きがありました。量販店で商品を全国展開していくためには、均一な商品を大量に生産していく必要があります。刃物を一丁一丁手作りしてきた鍛冶屋の中にもこの流れに対応していくために、ある鍛冶屋は工場を大きくし人を増やし、また製品・工法の規格化を進める鍛冶屋もあり、製造工程の機械化を図った鍛冶屋もいました。
 このような時代の流れがある中で、地価が高い関東地方では工場の大規模化、機械化を進めることが難しかったこともあり、結果として、江戸の頃より続く鍛冶技術による刃物製造が続けられました。しかし、こうして残った鍛冶屋も少しずつ数を減らしているのが現状です。
 

平成7年には自ら鍛冶工房も構えられたようですが、そのきっかけは?

 鍛冶屋の数が減っていることに危機感を覚えていました。「関東牛刀」としてブランド化されていた洋包丁も価格競争の波にさらされ、後継者がいないために廃業を選ぶ鍛治師も出始めたころです。
 このような中で、柏市増尾で長年にわたって牛刀を製造していた関ナイフ製作所が工房閉鎖を考えているとの知らせがありました。同製作所の関守永師は、100年以上続く関東牛刀鍛冶技術の貴重な継承者です。この技術は決して絶やしてはいけないと、当社で工房を用意するので、製造を続けてくれと働きかけ、現所在地に会社を移動し工房を構えました。
 関師の鍛冶技術は、当社の鍛治師である八間川義人に受け継がれ、平成18年度には千葉県指定の伝統的工芸品にもなりました。
 
 
(関守永師の指導を得て設立した同社工房には様々な鍛冶道具がある)
 

牛刀(洋包丁)の技法を受け継ぐのは大変なご苦労もあったものかと思います。

 まさか、自分(八間川義人氏)が鍛冶職人になるなんて想像もしなかったです。関師が当社に来られまして、家業の一環として工房回りの雑用をこなし、習うわけでもなく見て覚え、鍛冶仕事も手伝うようになり、親方の指導を受けられるようになりと、気付いたら鍛冶職人の道に入っていたというところです。
 鍛冶屋の仕事には、マニュアルや技法書の類はありません。親方の作業を目で見て、手で真似て、ひとつひとつ覚えるしかないのです。言葉で教えてもらえることもありますが、それも「これぐらいの力加減でグッとやって、後はサッと」とか「この辺が歪んでいたら、こっちの方を叩いて」といった感じですので、修行が足らないと聞いても分からないということが多いです。修行を続けるうちに親方の言葉の意味を段々と理解できるようになっていきます。
 ただ、私は自分から親方の工房の門を叩いたわけではなく、自社に親方を呼んで仕事をしてもらい、その傍らで修行をするという形でしたので、今になって思い返すと恵まれた環境の中で技術を習得できたのだなと感じます。
 

(八間川義人氏の牛刀。銘は「光月」)

牛刀を製造していく中で心がけていることは?

 牛刀として実用に適うものを作っていくことが大事です。刃物と言うと、切れ味を唯一絶対の評価と考えられる方もおられますが、切れ味を突き詰めていって日本刀のような牛刀を作ったとしても、それでは料理がしにくくなります。日本刀には日本刀の、和包丁には和包丁の、牛刀には牛刀の役割と特徴があるのです。
 牛刀製造でポイントと言われているのは「硬すぎず、柔らかすぎず、折れず、曲がらず」仕上げることです。炉の中で鋼を熱し、赤めた色から温度を判断し、焼き入れ、焼き戻しを行いますが、季節による外気温の違いも考慮しなくてはいけませんので、非常に気を遣います。色加減から状況を見ますので、この作業はなるべく夜に行うようにしています。
 また、職人としての美意識に折り合いをつけることも大事です。職人としての美意識には天井がありませんので、何時間、何日かけたとしても質を高めようとしてしまいます。ただ、時間をかければかけるほど一日に作れる数は減りますし、一丁当たりの手間賃も高くなるのが悩みどころです。
 牛刀は当社の商品であり、日々使う実用品です。趣味の作品や美術品と違って、当然納期もありますし、受け入れてもらえる価格帯というものもあるのです。
 今は、100点満点ではなく、自分なりに商品としての合格点を設定して、80点のものを安定的に作ろうとしています。しかし、作業を始めると、ここをもう少し直したい、まだ良くなるのではないかと思ってしまうのが職人の性です。例えば、歪み取りといって、焼き入れ、焼き戻しで歪んだ刀身をタガネで叩いて修正する工程があるのですが、この工程だけに一日をかけたいという自分もいて、それを抑え込むのが大変です。
 
  
(焼き入れの工程。工房の中にあるのは炉の灯りのみとし、赤めた鋼の色味を見極めていく)
 
  
(歪み取りの工程。タガネで叩き、歪みを修整していく)
 

鍛冶仕事だけではなく、柄付け作業まで自社で行われているそうですね。

 自ら内製化したわけではなく、やらざるを得なかったというのが正直なところです。鍛冶師が鍛えた刀身に柄屋が柄を付けて、そこで牛刀になるのですが、ここでは大きく分けて三つの工程があります。柄を作る工程、柄を鋲で留めていく工程、最後にナカゴと合わせた柄を整形する工程です。
 当社のような手造りの牛刀は、プレス成型のものと違って一丁、一丁で微妙に寸法が異なるので、規格品の柄をそのまま付けることが出来ません。柄やツバの形状、鋲留めの位置を調整していく必要があります。10年程前までは専門の職人がいたのですが、手造りの刃物自体が減っていく中で、このような方々も後継者がいないまま隠居されてしまいました。
 牛刀一つをとっても、手造りの品には様々な職人の技術が込められています。その一つでも抜けてしまうと全てが狂ってしまいます。
 例えば、ツバ(口金)はガス(アセチレン)溶接で付けるのですが、刀身とツバのガス溶接が出来る職人は少なく、当社のような小ロットでは、なかなか引き受けてもらえません。それであれば自分でやるしかないと、隠居した職人に教えを請い、ガス溶接を覚えました。今では、ステンレスでも、ステンレスと鋼の異材溶接もガスで行えるようになりました。
 また、銘を打つための刻印を作ることが出来る職人も減っています。銘はブランドを示す大事なものですし、牛刀は製造工程の特徴上、深く銘を打つ必要があるので、自分で納得できるもの、相性の良いものを使わなければいけません。幸いにして、刻印屋さんはまだ残っていますが、仮にここがなくなってしまうと、刻印まで自分で作らないといけないのかと冷や冷やしています。
 

後継者の育成は、どの業界にとっても大きな課題です。

 ものづくりの現場に憧れを持つ方は増えていると思います。ただ、どうやって定着させていくかが難しいところです。
 特に日本の刃物は世界的に評価が高いですし、当社で製造する牛刀も国内外から引き合いを受けています。手造りで量産が出来ないため、新規の注文の場合は納品まで3ヶ月以上お待ちいただいているところです。
 このようなスポットライトが当たっている面、日本刀に代表される刃物鍛冶への憧れから、当社にも弟子入りしたいという問い合わせはよくあるのですが、現状を説明すると諦めてしまう方が大半です。
 当社のような規模の企業が新しく人を雇い入れて育てていくというのは、一種の博打に近いのです。憧れを持って入ってきたはいいけども、想像と違った、全然作らせてもらえない、上達したのに認めてもらえないといって2,3年で辞められてしまうと、その期間の労力、人件費が全て無駄になってしまいます。
 職人の育成には、長い時間がかかります。2,3年程度の修行で、とりあえず牛刀の形をしているレベルのものは作れるようになるかもしれませんが、とても商品として売っていけるものではありません。職人として独り立ちしていくためには、最低でも10年の期間はいるでしょう。修行をする弟子も大変ですが、教える側も持てるものを全て教え込んでいくために精一杯頑張っています。
 当社でも、今春から職人候補を一人雇い入れます。こちらも全身全霊で向き合っていくので、彼にもそれを受け止めてもらいたいと思っています。
 

最後に、刃物の卸、製造の二つの顔を持つ御社として、今後どのように事業展開していくのか教えてください。

 包丁や鋏から、鋸や鉋といった大工の手道具にまで、刃物は様々な場面で使われます。これらを製造する鍛治師がいなくなってしまえば、寺社仏閣の修繕をする宮大工も仕事が出来なくなりますし、日本の歴史・文化が消えてしまうおそれもあります。
 日本の文化を根っこの部分で支えている鍛治技術を残していくためにも、卸として、手造りによる刃物の魅力を伝えていきたいと考えています。
 そして、関東で100年以上続いてきた牛刀鍛冶の技術が絶えてしまうことのないよう後継者の育成を進めていきたいです。
 

 

お問合せ先

商務情報政策局 日用品室
電話:03-3501-1705(直通)
FAX:03-3501-6794

(伝統的工芸品産業について)
商務情報政策局 伝統的工芸品産業室
電話:03-3501-3544(直通)
FAX:03-3501-6794

最終更新日:2015年4月13日
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