経済産業省
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国民経済の発展の第10次五カ年計画に関する報告の概要

2001年10月5日、第9期全国人民代表大会第4回が開催され、冒頭、朱鎔基総理による「国民経済の発展の第10次五ケ年計画に関する報告」が発表されました。この10・5計画期間においては、一定程度の高成長を指向しつつも、同時に経済構造調整、環境制約、収入格差の是正といった多様な政策課題の解決が求められているなど政策目標は多元化しています。

具体的な政策措置については、以前にも増して現実的な設定がなされていますが、特に9億の人口を抱える農業基盤の強化と農村収入向上が最重要課題とされていることが今回大きな特徴と言えます。
  1. 10・5計画期間の目標と指導方針について

    (1) 内外経済情勢についての基本的認識

    国際経済における新技術の急速な発展、グローバル化の加速等は中国にとって深刻なチャレンジでもあるが、一足飛びの発展を達成し得るチャンスでもあるとしており(具体的にはIT技術の導入による産業構造の急速な高度化等が想定されています)、また、国内的には、WTO加盟により「まさに経済構造調整のカギとなる時期であり、改革は最も重大な局面にある」としています。

    (2)10・5計画の基本方針
    「発展こそが絶対の道理」であるとしつつも、「市場があり、効率のある速度での発展こそが真の発展であり、これが絶対の道理でもある」として、単にGDP成長率で高い数字を達成することを目標とすべきでなく、経済効率を高めつつ高成長を目指すことが確認されています。この点は、9・5計画でも、高成長と効率の同時指向を目指すことは含まれているものの、10・5計画では一層効率への関心が高まっています。

    10・5期間内の年間平均成長率は7%前後を予測目標としており、これは9・5計画期間内の年間平均成長率(8.3%)よりは低いものの、経済効率を高めながら成長を目指すという課題のもとではその実現には並々ならぬ努力が不可欠であるとしており、この背景には、高めの成長率を提示すれば、それを達成しようと無駄な投資や統計の水増し等の問題が発生しかねないことから、効率よい成長実現のためにはある程度着実な予測目標を提示しておくといった判断が念頭にあるものと考えられます。

    また、本予測目標の性格については、「国内外の不確定要素から計画の予測目標値は若干の余裕をもたせなければならない」と明確化されており、また、「戦略性、マクロ性、政策性を明確にしたもので、個別の指標(例として9・5計画にある財政、マネーサプライ等のマクロ経済指標や石炭、石油、自動車、鉄鋼等の個別生産目標)は減少したとしており、10・5計画はこれまでの指令性計画の性格を脱して、我が国の五ヶ年計画同様、政策誘導目標的(indicative)な性格を一層強めたことを明確にしています。

    経済構造調整推進の堅持として、まず「我が国経済は構造調整を行わなければ発展ができない時期に既に達している」と相当厳しい認識を示しています。

    これは80年代以降の改革・開放政策の成長方式、即ち社会主義的な統制からの自由化と投資等の資源の大量投入による成長の維持が既に限界に達しており、経済構造調整を行い、比較優位にあるセクターを成長させ、比較劣位にあるセクターを改革しなければ、長期的な成長が望めない段階に来ていることが明確にされています。

    また、10・5計画期間内の課題は「産業構造調整、地域及び都市農村構造の調整」であるが、特に重要なものは産業構造調整であるとしています。

  2. 個別政策分野について

    (1)農業

    農業の基礎的地位と農民収入の増加は経済政策のなかでの最重要課題である、との認識がこれまで通り示されています。

    具体的な方策としては、まず、農業・農村経済の構造調整がトップに挙げられ、これが農業の経済効率を高め、農民収入を増加させる根本的な道筋であるとしています。そのうえで、主要課題として「耕地を保護して食糧生産の安定を図る」と同時に、品種改良、質の向上等の効率向上を図るといった、これまでの農業、農村経済構造問題の諸施策が示されています。

    農村改革として、続いて、「土地経営権譲渡制度改革」の奨励や「農民の余剰穀物の保護価格による全量買上げ」は食糧主要生産基地に限定すること、農村の税負担等が示されています。

    最近問題が大きくなっているといわれている農村金融改革についても、農村信用社を中心とする改革の必要性が強調されています。

    農村インフラ整備では、水利に大きな比重が置かれています。

    (2)産業構造の最適化とグレードアップ
    ハイテク及び先進かつ適切な技術による伝統産業の改造の必要性がトップに挙げられています。特にWTO加盟でマイナスの影響が強いとされるエネルギー、冶金、化学工業、軽工業、紡績、機械機器、自動車、建材建築の分野における技術革新のほか、株式上場、合併吸収、リストラを通じた、突出し、かつ能力の高い大型企業や企業集団を形成が、産業構造調整や構造のレベルアップの核心的作用を担うとしており、WTO加盟による国際的競争の激化にも対応し得る企業を重点的に育成する方針を打ち出しています。

    また、IT関連、バイオ、新素材の発展も重点としていますが、「現実から出発し」との留保が付けられています。これは、各地域が自分の地域の実情や能力を考慮せず、ハイテク開発区を乱立させているといった現状への警告と言えます。

    インフラ整備に関しては、水資源と石油を重点にしたエネルギー開発が重点的に取り上げられています。

    水資源については、「我が国経済社会発展の重大な制約要因である」と明確に位置付けており、まずは節水型社会の建設を行うとしている点が注目されます。このためには節水技術の活用のほか、水価格の合理的な形成を行うとしている点も注目されます。

    石油については、既に国内供給では国内需要をまかなえないということを明確に宣言しており、いかなる手段を講じてても石油を節約し、石油・天然ガスの探索を積極的に行うほか、国外の資源を積極的に利用するとしており、今後中国も資源輸入に依存せざるを得ないとの認識も伺えます。

    (3)西部大開発
    個別具体的な政策内容は盛り込まれていません。

    ただし、先ずは中心都市の中核的作用と波及効果を重視するとして、とりあえずはこれら中核地区の発展を図る戦略が打ち出されています。具体的にはユーラシアランドブリッジ(中国連雲港~オランダロッテルダム)、長江水路、西南地区から海に出るルートを基幹として、「連雲港~蘭州鉄道、蘭州~ウルムチ鉄道沿線経済ベルト地帯や長江上流経済ベルト地帯、南寧(広西自治区)、貴陽(貴州省)、昆明(雲南省)等の経済地帯といった重点地域の明示が行われています。

    (4)教育、科学技術
    「科教興国」政策はこれまで国の重要政策と位置づけられてきましたが、科学技術、教育による国家振興の戦略を改め、今後5年間の諸般の任務を達成するための保証と位置づけました。特に科学技術については、ハイテク研究、在来産業(伝統産業)へのハイテクの浸透、遺伝子工学、情報科学(IT)、ナノテクノロジー科学、生態・地球科学等基礎研究、科学技術と経済の緊密な連携などの分野において、これまでの政策を更に一層強化する内容となっています。

    教育については、基礎的な教育環境の改善に重点が置かれています。特に、農村部における学校による乱収のために教育の機会すら与えられなくなっている貧困層への配慮が述べられています。また、留学人員の帰還の促進が述べられています。

    現代化建設の大局と長期的な発展の観点から、人材育成の重要性が大きく取上げられています。具体的には清廉で高い資質があり、専門知識を身に付けた公務員の育成と、経済と社会発展の必要に適応できる各種専門人材と企業の経営管理陣の育成のほか、人材育成に関する具体的方向性が示されています。

    (5)改革の深化と対外開放の拡大
    今回の報告では改革と対外開放、更にはマクロ経済政策の基本方針をまとめて取上げています。

    ア)国有企業改革
    国有企業改革問題の取扱いについては、以前の「政府活動報告」と比べると、今回分量、ウェイトともに引き下げられ、社会主義市場経済体制の整備の問題、あるいは構造改革の問題の中で取り上げられる形となっています。また、2000年が「国有企業改革の3年目標」の最終年次とされていましたが、これ以降の国有企業改革については、改革の具体的なスケジュールや目標が示されておらず、抜本的改革にはある程度の長い時間を要するものとみていることが伺えます。

    国有企業が経済に占めるウェイトについては「国民経済の命脈を握るもしくは国家の安全上重要な企業は国家が株式のマジョリティーを握らねければならないが、その他の企業ではその必要はない」とされており、これまでの姿勢から更に非国有セクターのウェイト増大を容認した、改革推進的な路線に更に沿ったものとなっています。

    国有企業改革で課題となる政府機関からの干渉の分離(政企分離)に関しては、第1に、持ち株によるコントロールを強く打ち出しており、直接企業経営に関与する形から持ち株を通じた管理に移行することで政企分離を進めるというこれまでの方針を強化したものとなっています。更には、新たに商会、業界別協会が政府と企業の仲介組織としての役割を果たすとしており、これまでの個別企業への行政の干渉を改革する具体的方策が示されています。このほか、行政的な審査、許認可を減らすといった事項が盛り込まれています。

    一方、非国有セクターの扱いについては、「公有性を主とし、国有経済に主導的作用を発揮させ、多様な形式の集体経済を発展させ、私営、個人経営企業の健全な発展を支持、奨励、引導する」としています。

    イ)市場経済秩序の整頓と規範化
    今後市場経済システムをさらに発展させるため、法律、法規の整備、「模造品の製造・販売、脱税、外貨詐取、密輸といった違法犯罪行為」や「金融秩序の整頓、規範化」を進めるなど、市場経済秩序の整頓と規範化を行うことを強調しています。昨年の廈門の密輸事件摘発、最近の証券インサイダー取引の摘発などに表れているように、市場経済を健全に発展させるために無秩序な現状を変える必要があるという政府の強い意思が表れています。

    ウ)財政・金融
    積極財政政策を堅持する方針に変化はないが、その実施期間は「今後一時期」としており、税の徴収・管理の強化、財政支出構造の調整・最適化など財政構造調整に配慮しています。

    金融面ではデフレの克服を図る一方で、潜在的なインフレにも警戒を強めており、引き続き穏健な金融政策と適度なマネーサプライの調節を行うとしています。また、金融制度改革では国有銀行の綜合的な改革や政策銀行、中小金融機関の機能強化などが主たる課題とされています。

    証券市場に関しては、規範化、健全化、投資家保護を柱として改革を継続することが示されています。特にWTO加盟を念頭に置いて証券市場の対外開放が示されており、具体的には、M&A、ベンチャーキャピタル、投資ファンド、証券投資などの手段を用いて外資利用の規模を拡大することが盛り込まれています。

    エ)対外開放
    WTO加盟を所与のものとして、それに対する準備を急ぐことが明言されています。具体的にはWTO加盟に備えた国内法体系整備が主要課題として指摘されています。WTO加盟がもたらす貿易投資の拡大といったプラスの側面はあまり触れられておらず、主として国内経済構造改革の必要性を示しています。

    (6)社会保障、就業、収入確保
    貧富の差の拡大、不公平感の増大といった現状を踏まえ、人民、特に低所得者層、社会的弱者の生活改善は今後の重要な課題であり、その基本となる社会保障制度改革は「改革、発展、安定の全局に関わる大事」として、これまでにない位置付けを与えています。

    社会保障制度では従来の労働者の基本生活保障と失業保障の一本化の実現を明示するとともに、医療保険制度に加えて薬品の乱売や価格高騰を抑制するための薬品流通体制改革を示しています。消費構造の調整では、社区におけるコミュニティ施設の建設による余暇消費拡大や政府機関・事業単位の給与引き上げなどが盛り込まれています。

    就業機会の拡大は国有企業改革等の諸改革を推進する上でベースになるものであり、その創出が特に強調されています。その対応としては、経済の比較的快速の発展を維持することが基本になるとしつつも、単に経済成長だけでは十分な解決が図られないことから、雇用弾力性の高い特にサービス業を中心とした労働集約型産業及び非国有セクターの成長の必要性を示しています。

    労働者の生活基盤となる賃金収入については、冒頭に最低賃金制度の確立、政府機関、事業体職員の賃金と離退職者の年金の定時・全額支給が掲げられ、低所得者への配慮を強調するものとなっています。

    (7)持続可能な発展
    ア)人口問題
    「低出産レベルの維持に努める」としており、9・5計画の「計画出産の基本的国策を揺るぎなく堅持する」とした姿勢からの転換が見られます。また、本報告では新たに高齢者に関する政策を真剣に実施するという人口高齢化への対応が新たな課題として盛り込まれています。

    イ)環境問題
    基本国策としての位置づけに変更はなく、植林や天然林保護を中心とした生態建設、重点地域及び都市における汚染防除対策を中心とした環境保護対策を継続することとしています。

    特に、農村における環境保護を重視することが盛り込まれており、とりわけ化学物質による汚染の防除に取り組まなければならないとしています。

    また、近年特に問題となっている北京・天津地区の砂塵発生源対策が盛り込まれています。

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