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農業交渉

農業交渉

議論の背景

現在行われているWTO農業交渉は、ウルグアイ・ラウンド合意に基づき、「助成及び保護を実質的かつ漸進的に削減する」という長期目標に向けた改革を継続するため、2000年3月に開始された。その後、2001年11月のドーハ閣僚宣言において、農業交渉も他の分野と同様にドーハ・ラウンドのシングル・アンダーテイキング(一括受託)の一部をなすものとして位置づけられたが、交渉のモダリティの確立期限とされた2003年3月までには合意が得られず、また、同年9月にメキシコ・カンクンで開催された閣僚会議もシンガポール・イシューを中心に先進国、開発途上国間の立場の違いが埋まらず、農業交渉を含め何ら具体的な合意のないまま閉会した。交渉は2004年3月から農業委員会特別会合が再開され、精力的な交渉が行われた結果、同年7月の一般理事会において枠組合意が成立した。2004年10月から、追加的な政治的意思決定を必要としない技術的問題を中心とした議論が行われたが、議論は収斂せず、2005年7月末のモダリティ(詳細な取極め)のたたき台の提示や、同年11月中旬までに提示することとなっていたモダリティ案の作成は見送られた。同年12月13日から18日に香港で行われた第6回閣僚会議では、WTO事務局長及び一般理事会議長から閣僚会議に送付された閣僚宣言案について少しでも内容の「上積み」を図る努力をすべき、との観点から、活発な議論が行われ、結局、輸出補助金の撤廃期限について、輸出国側が主張する2010年ではなく2013年とすること、また、輸出競争分野の並行的なモダリティが確立してはじめてこの撤廃期限が確定するとの条件をつけることが合意された。

香港閣僚宣言を踏まえ、2006年初めから、モダリティ合意等に向けて精力的に交渉が行われたが、各国の意見の収斂が見られず、7月下旬にはWTO事務局長の判断により、農業分野を含むすべての交渉が一時中断された。同年9月以降、閣僚レベルで交渉再開に向けた動きが示され、農業分野でも農業交渉議長が非公式農業少数国会合(ファイヤーサイドチャット)等を開催し、精力的に技術的議論を行った。

2007年1月末ダボス会議を経て交渉が本格的に再開し、7月にはNAMAと共に議長テキストが発出され、農業テキストについては、開発途上国を含め、各論では異論はあるものの、今後の交渉の議論のベースとして受け入れ可能であるという意見の下、マルチの場で議論を積極的に行っていくこととなった。

その後の議論を踏まえて、2008年2月、5月、7月にそれぞれ議長テキストが改訂された。7月の閣僚会合の際には、モダリティ合意に向けてWTO事務局長が調停案を提示したものの、農業分野における開発途上国向けの特別セーフガード措置(SSM)を巡り、一部の開発途上国と先進国が対立し、これらが原因となって交渉は決裂した。その後、事務レベルでの協議が再開され、12月には閣僚会合開催の機運が高まり、議論のたたき台となり得る改訂議長テキストが再びNAMAと同時に発出された。閣僚会合の開催に向けて調整が行われたものの、一部の開発途上国と先進国との溝が埋まらず、これらが原因となって閣僚会合の開催は見送られた。

2009年以降は、各種閣僚級会合における、ラウンド交渉の早期妥結に向けた各国の政治レベルでのコミットメントを受け、改訂議長テキストのうち10の未解決論点(①青の政策、②綿花、③重要品目、④上限関税、⑤関税割当(TRQ)新設、⑥関税簡素化、⑦途上国向け特別品目、⑧途上国向け特別セーフガード措置(SSM)、⑨熱帯産品、⑩特恵浸食)に関する議論が行われるとともに、テキストの曖昧論点の明確化や、モダリティ確立時に必要となるデータの整理、モダリティ確立後に各国が作成する譲許表等の様式の整備等の技術的な作業も重ねられた。しかし、非農産品市場アクセス(NAMA)交渉における米国等先進国と新興国の対立を背景に、農業分野においても、未解決論点について特段の進展は見られなかった。

2010年11月に行われたG20サミットやAPEC首脳会議においては、2012年は米国大統領選挙の年である事を踏まえ、2011年がドーハ・ラウンド妥結の「機会の窓」とされ、交渉の早期妥結への意思が確認された。これを受け、2011年1月のダボス非公式閣僚会合では、4月までに全分野の改訂テキストを揃え、7月までに実質合意を目指すことが確認された。農業交渉においても、1~4月の間、テキスト改訂に向け市場アクセス、国内支持、輸出競争分野について集中的な議論が行われたものの、各国の意見の隔たりが大きかったことから、農業テキスト改訂は行われず、我が国が重視する「重要品目」、「上限関税」、「関税割当の新設」を含めテキストを改訂するまでの進展はないとした議長報告書を発出するにとどまった。

農業を含め主要分やのテキスト改訂に至らなかったことから、WTO事務局長は、年末までの一括合意を断念し、部分合意を目指すことを表明、部分合意の候補として、農業の輸出競争を含めた9項目をパッケージとして提案し、各国で議論が行われた。しかし、各国の主張の隔たりを埋めることはできず、7月の非公式貿易交渉委員会にて、年末までに部分合意のパッケージを合意するのは難しいと表明するとともに、年末の閣僚会議に向け交渉以外の事項等について議論を継続することとなった。

その後、交渉以外の事項の1つとして、同年6月のG20農業大臣会合で合意された「食料価格乱高下及び農業に関する行動計画」に基づき、人道目的の食料援助を輸出規制の対象外とすることをWTOとして宣言すべきとEUが提案し、我が国を含む13ヶ国が共同提案国となり議論が行われたが、インド、中国等の反対により合意には至らなかった。12月の閣僚会議の議長総括には「ドーハ・ラウンド交渉については、その行き詰まりを認めつつ、部分合意も含め新たな手法により打開の道を探るべきこと」が盛り込まれた。

現在の概況

2012年前半には農業交渉に特段の動きは見られなかったが、第9回閣僚会議ではDDAに関し何らかの成果が必要との認識が高まる中、農業交渉においても2012年から2013年にかけて、第9回閣僚会議に向けてモダリティ案の一部を先行合意するものとして、新興国を中心とする途上国グループから現行モダリティ案(2008年12月の改訂議長テキスト)の一部を先行合意する提案が出された。こうした状況を踏まえ、農業分野においては、途上国の農業分野の市場開放について柔軟な扱いを主張するG33(インドネシア、インド、フィリピン等、途上国に柔軟な扱いを求めるグループ)から①途上国の食料安全保障目的の公的備蓄を国内支持の削減対象から除外する提案が出され、先進国の農業支持の大幅削減を主張するG20(ブラジル、インド、中国等、先進国の農業支持の大幅削減と途上国への配慮を求める主要途上国のグループ)から、②関税割当運用改善の提案、③輸出補助金抑制の提案が出され、最終的にはこれらの提案とともに農業以外の分野として税関手続等を簡素化する貿易円滑化、開発等の計3分野を合わせた「バリ・パッケージ」が合意された。

バリでの部分合意を踏まえ交渉が続けられていたところ、インドがバリ・パッケージに含まれた公的備蓄について議論が進んでいないことを問題視し、バリで合意されていた貿易円滑化協定をWTO協定の一部とする議定書の採択期限である2014年7月末を迎えたにもかかわらず採択に反対した。このことにより、バリ・パッケージの実施及びDDA全体の議論が宙に浮いた状態が続いた。その後、米国とインドとの二国間合意を受け、同年11月27日の一般理事会において貿易円滑化協定をWTO協定の一部とする議定書が採択されるとともに、公的備蓄の恒久解決に向けた議論の加速について決定がなされた。

こうした議論を経て、2015年に入ってからは、「野心の水準の再調整」という考えのもと各国が合意できる内容で成果を見出そうとする先進国と、途上国向けセーフガード措置や公的備蓄の恒久解決等に固執する途上国とで再び対立した。各国から様々な提案が出され議論を継続していく中で、意見の隔たりの大きい国内支持、市場アクセスは合意を得るのが困難であり、一方、唯一合意が可能なのは輸出競争ではないか、という意識が次第に醸成されていった。その結果、2015年12月の第10回閣僚会議では農業の輸出補助金の撤廃時期を含む輸出競争等について合意がなされた。一方、途上国向けセーフガード措置や公的備蓄の恒久解決については議論を継続することが合意された。また、今後の交渉の進め方については、閣僚宣言でも先進国と開発途上国両者の立場を両論併記する内容となるなど、明確な方針が出されなかった。その後、2016年に入ってからは国内支持の削減等の議論を進めるべきとの論調が高まり、10月にオスロで開催された非公式閣僚会合においても第11回閣僚会議の成果として国内支持の新規律を求める声が聞かれた。他方、米国は中国による米、小麦及びとうもろこしに対する農業補助金についてWTO紛争解決手続を開始し、2017年1月25日にパネルを設置することが決定された。このパネルでの議論も国内支持交渉に影響を与える可能性があり、注視する必要がある。我が国としては今後とも、「多様な農業の共存」を基本理念とし、引き続き輸出国と輸入国のバランスのとれた貿易ルールの確立を目指して交渉に取り組んでおり、食料輸入国としての我が国の主張が適切に反映されるよう引き続き最大限の努力を行っていく。

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