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サービス貿易自由化交渉

ドーハ開発アジェンダにおけるサービス貿易自由化交渉の動向

議論の背景

当初の交渉期限(2005年1月1日)まで

サービスの自由化交渉(特定約束交渉)は、農業と同様に、ウルグアイ・ラウンド最終合意において次回のラウンド開始を待たずに交渉を開始することが決められたアジェンダ(いわゆる「ビルト・イン・アジェンダ」)として、2000年初めから交渉が開始されることが決まっていた(GATS第19条)。シアトル閣僚会議以降、当初は必ずしも議論が順調に進まなかったが、一年近くにわたる議論を経て2001年3月に、交渉の目的、原則、範囲、方法等を定めた「交渉ガイドライン」が策定された。

その後、2001年11月のドーハ閣僚宣言において、サービス交渉の交渉期限が他の交渉項目と同様に2005年1月1日と設定されたことにより、サービス交渉も他の交渉項目とともに包括ラウンドの中でシングルアンダーテ-キング(交渉対象全分野の一括受諾)の対象として扱われることとなった。また、同閣僚宣言において、2002年6月末までに最初の貿易障壁撤廃要求(初期リクエスト)を、2003年3月末までに撤廃要求への最初の回答(初期オファー)を各国が提出することとされた。

我が国は、全加盟国に対して初期リクエストを提出し、またウルグアイ・ラウンド以降に自主的に自由化した分野を初期オファーに含めた。その他、包括的な交渉提案や、海運交渉の促進を提唱する共同提案、人の移動、最恵国待遇(MFN)免除、エネルギー及び教育それぞれに関する交渉提案を追加的に提出、更に、サービス貿易に係る分野横断的なルールについては、2003年に国内規制規律(GATS6条4項)に関する日本提案を提出する等、積極的に交渉に臨んできた。しかしながら、2003年3月末に初期オファーの提出期限が到来したにも拘らず、提出国は先進国を中心とした一部の国に止まったこと、更に同年9月にカンクンで行われた第5回閣僚会議の交渉が事実上決裂し、当初2005年1月1日までとされた交渉期限は事実上延期になったことにより、サービス交渉は停滞気味となった。

その後、2004年7月末の「枠組合意」において、2005年5月までに初期オファーを改善した「改訂オファー」を提出することが合意され、それに向けて各サービス貿易分野において交渉の進展の重要性を強調するステートメントが出されるなど、交渉再活性化に向けた動きが見られた。しかし、提出期限を過ぎても改訂オファーの提出数が伸びなかったことから、従来のリクエスト・オファー方式では十分な自由化が達成できないとして、同方式を補完するアプローチの必要性が加盟国の間で認識され、その具体的な方法として、量的目標設定、質的目標設定及び分野・モード別複数国間(プルリ)交渉の導入が議論されるようになった。
 

第6回閣僚会議(2005年12月、於:香港)以降

2005年12月の香港閣僚宣言では、(a)質的目標として各モードについての努力目標の設定、(b)交渉形式として分野・モード別のプルリ交渉の導入、(c)交渉日程として、2006年2月末までに(又はそれ以降可能な限り早急に)関心国の共同リクエスト、7月末までに各国の第二次改訂オファー、10月末までに各国の最終オファーを提出すること、が決まった。

交渉がなかなか進展しない背景の1つとして、サービス交渉自体に対する姿勢に先進国と開発途上国との間で大きな違いが存在することが指摘されている。すなわち、一般的に金融や電気通信等の主要サービス分野で競争力のあるサービス産業を有する先進国は本交渉に積極的であるのに対し、サービス産業が未発達な開発途上国側には、先進国主導でサービス貿易の自由化交渉が進められることに強い懸念があると考えられている。その違いはサービス貿易の4形態についての先進国と開発途上国の関心の違いにも現れており、先進国が最も関心を有しているのは、相手国に商業拠点を設置しての貿易(=第3モード)である一方で、開発途上国にとっては人の移動(=第4モード)が最大の関心事項となっている。

香港閣僚宣言を受けて、2006年2月から3月にかけて共同リクエストが提出され、21分野の共同リクエストが出揃った(2007年に提出された観光分野を含む)。我が国は、15分野(コンピュータ関連、金融、電気通信、海運、建設、流通等)でリクエスト国、残り6分野(人の移動、越境取引等)で被リクエスト国として、全分野の交渉に積極的に参加した。

2006年7月のEU主催の非公式サービス閣僚会合では、サービス分野の重要性が閣僚レベルで改めて確認されるとともに、香港閣僚宣言にて同月末が提出期限とされた第二次改訂オファーの内容について、各国がそれぞれ検討中のオファー内容を紹介するなど、極めて前向きな雰囲気となった。ただし、オファーの質やタイミングを農業分野の進展と関連づける開発途上国もあり、実際に期限前後に主要国のオファーが出揃うかどうかは明らかではない状況であった。そのような状況の中、7月下旬の農業・NAMAに係る閣僚会合の結果を受けて、WTO事務局長はラウンド交渉全体を中断することを宣言し、サービス分野における7月末の第二次改訂オファー提出期限も無効となった。その後、2006年11月の非公式貿易交渉委員会における、WTO事務局長の各交渉グループ議長の下での実務レベルの交渉再開宣言を受け、サービス分野においても、今後の進め方や第二次改訂オファーにおける自由化内容について協議が再開された。2007年1月、4月、9月、11月と断続的に交渉会合が開催され、次期改訂オファー提出期限の再設定やそのオファーに含まれるべき自由化内容の指針の作成等について議論が交わされた。
 

シグナリング閣僚会合(2008年7月)の開催

2008年に入ると更に交渉は加速し、ジュネーブでの高級実務者レベル(SOM)、大使級レベルの会合や本国首都における働きかけ・バイ交渉も行われ、「議長報告書」の発出と「シグナリング閣僚会合」開催という成果が見られた。すなわち2008年2月には、サービス交渉議長が、農業・NAMAのモダリティ合意時にサービス分野で合意されるべきテキストの案を実質的に含む、「議長報告書」を加盟国に提示。同年5月、7月にそれぞれ改訂版の報告書が提示され、2008年7月の非公式閣僚会合後に提示された同報告書には、(a)サービスにおける野心の水準、(b)次期オファーにおける自由化水準、(c)次期オファー及び最終約束表の提出期限(ドーハ開発アジェンダ全体の動向次第という趣旨でブラケットが付されている)等が規定された。また、2008年7月のWTO非公式閣僚会合時には次期自由化オファーの内容を予告(シグナル)する「シグナリング閣僚会合」が開催され(我が国から経済産業大臣が出席)、先進国・途上国問わず、多くの国が主要サービス分野において前向きな発言を行い、我が国産業界の関心の高い金融、電気通信、建設、流通等の分野において、外資規制の緩和等、市場アクセスの拡大を約束する旨が表明され、サービス分野での交渉の進展が確認された(会合の結果については、個々の国名を明記しない形で同会合を主催したWTO事務局長からの報告という形で概要が配布されている(WTO文書:JOB(08)/93))。しかしながら、WTO非公式閣僚会合は、主に農産品の輸入に係る途上国向け特別セーフガード措置(SSM)を巡って米国とインド・中国が対立し、モダリティ合意に至らないまま決裂した。

2008年7月のシグナリング閣僚会合以降は、GATS上のルール分野の技術的議論が続けられたが、まず農業・NAMAのモダリティ合意を目指すという観点から、サービスの自由化交渉は進まなかった(この間、米国発の金融危機を受け、2008年11月には、G20首脳間で、「今後12か月の間、投資及び物品・サービス貿易に対する新たな障壁を設け、輸出規制を課し、WTOに整合的でない輸出促進措置を講じることを自制する。」とした宣言が合意された)。

2009年7月G8サミット(イタリア・ラクイラ)での2010年中の妥結を目指す首脳合意を受け、同年10月以降、各サービス分野専門家を含めた交渉会合が開催された。しかし、リクエストと被リクエスト国の要求水準は隔たりが大きいままで、市場アクセス交渉のバイ協議については、各国とも既にやり尽くした徒労感すら見られ、シグナリング会合以降の実質的な進展は見られなかった。こうした交渉の停滞を打開するため、また、産業界に対し、サービス交渉の成果をよりわかりやすく示すため、2010年の半ば以降、例えばビジネスの実態にあわせて複数の関連分野をまとめて交渉するというクラスタリングアプローチ等、新たな交渉アプローチが提案され、推進派を中心に議論が行われた。

バリ合意(2013年12月)に向けて

2010年末のAPEC横浜やG20ソウルで表明された首脳レベルでのドーハ・ラウンド妥結へのコミットメントを受け、2011年年初より交渉が加速化し、市場アクセス交渉について集中的に議論が行われたが、その後の他分野の交渉の行き詰まりを受け、市場アクセス交渉は再び停滞した。そうした中で、進展がみられたのは、加盟国のうち後発開発途上国(LDC)に対する特恵供与の枠組みである「LDCモダリティ」である(GATSは第4条3項及び第19条3項においてLDCに対して特別の待遇をするものとしている。)。2011年6月、WTO事務局長は同年12月に開催される第8回閣僚会議で先行合意を目指す9項目を提示し、その中に、サービス分野におけるLDC向けの特恵制度が含まれた。

2011年に開始されたドーハ・ラウンド交渉が10年目を迎えた2011年12月の第8回閣僚会議においては、ドーハ・ラウンドが目指してきたシングルアンダーテーキングについて、近い将来での実現は困難であることを認めつつ、「新たなアプローチ」を見いだす必要性を共有し、進展が可能な分野で議論を進めることが合意された。また、LDCモダリティについて、(a)LDC加盟国に対して、サービス貿易における特恵措置を供与することができる、(b)具体的にどのサービス分野のどのサービス形態を特別扱いするかは特恵供与国が決定することとなる、(c)特恵供与期間は15年間、等の内容が決定された。

その後の交渉を通じて、貿易円滑化、農業の一部、開発が進展可能な分野であることの共通認識が形成され、2013年12月にインドネシア・バリで開催された第9回閣僚会議における精力的な交渉の結果、バリパッケージとして合意された。その中で、LDCモダリティについても、特恵供与の実現に向け、LDCが関心のある分野・モードを特定したリクエストを提示した6か月後にハイレベル会合を開催すること等の運用内容が決定された。

バリ合意後(ポスト・バリ)の対応

2013年の第9回閣僚会議においては、ポスト・バリの作業としてドーハ開発アジェンダ (DDA)の残された課題について12か月以内に明確な作業計画を策定することになっていた。しかし、2014年11月の一般理事会では、貿易円滑化協定の議定書の採択という大きな成果を得た一方で、サービス分野を含むポスト・バリ作業計画の期限は2015年7月末に延期された。その後も、加盟国間の意見の隔たりは埋まらず、期限の7月末を迎えても作業計画はまとまらなかった。

LDCモダリティについては、2014年7月、サービス貿易理事会に対してLDCより「LDCサービス特恵制度(ウェーバー)に関する共通リクエスト」が提出され、2015年2月、同理事会の公式会合という位置づけで、LDCサービス・ウェーバーに関するハイレベル会合が開催された。その結果、各国がLDCへの供与内容をWTO事務局に通報することとなり、日本は2015年7月末に通報を行った。

現在の概況

2015年の閣僚会議において、サービス貿易分野に関しても何らかの成果を出すべく検討が行われ、LDCサービス・ウェーバー(サービス・ウェーバーの期限の2030年までの延長、通報された特恵を活用するための技術支援及び能力開発を行うことの奨励、未通報国の早期通報の奨励、通報済みのウェーバーのレビュー等)及び電子商取引分野における関税不賦課のモラトリアム(補論3 電子商取引参照)延長が閣僚決定に組み込まれた。

なお、サービス貿易理事会及び下部組織における最近の議論を概観すると、以下のとおりである。

  1. サービス貿易理事会では、上記のLDCサービス・ウェーバーや、第10回閣僚会議で継続が決定された電子商取引の作業計画(補論3 電子商取引参照)、また、新たなサービス貿易協定(TiSA、下記参照)などに関する議論が行われている。

  2. 国内規制作業部会では、香港閣僚宣言において、今次ラウンドの終結までに国内規制規律(サービス提供に係る免許・資格の基準・手続等に関する国際的な規律)を策定することとされていることから、市場アクセス交渉と並行した集中的な協議の成果として、各国の対立点・論点となりうる箇所を記した注釈付き議長テキストが2010年3月14日に公表され、2011年に入り、集中的なドラフティング作業が行われたものの、規律の根幹となる重要事項について、加盟国間の立場に十分な収斂は見られなかった。現在は、主にGATS6条4項に基づく規律の策定、について議論が行われている。

  3. 特定約束委員会では、主に、ビジネスや技術の発展に伴って変わりうるサービス分類の問題が議論されている。現在は、これまでの分類に無い「新たなサービス」の分類問題に関する検討が行われている。

  4. GATSルール作業部会では、セーフガード措置、政府調達、補助金に関する議論が行われている。セーフガード措置に関しては、2014年に開始された地域貿易協定におけるセーフガード条項に関する議論が続いている。政府調達に関しても議論が継続されており、2014年11月にワーキングペーパーがとりまとめられた。補助金については、2015年1月に事務局が背景事情に関する覚え書きの改訂版をとりまとめ、数カ国の所見が示されているが、概念的な議論を深めていく必要がある。

  5. 金融サービス貿易委員会では、金融サービス貿易と開発、金融サービスにおける規制、技術的問題(分類問題)などに関する議論が行われている。金融サービス貿易と開発については、「金融包摂(financial inclusion)に関する議論が行われており、事務局が概況をまとめた。

電子商取引作業計画に基づく電子商取引の議論については、2014年11月にEUが電子認証に関する提案や、EUの電子署名等の新たな規則に関するプレゼンテーションを行った他、2014年11月に米国が国境を超えた情報の流通、ローカライゼーション要求、クラウドコンピューティング等に関する提案を行った。また、台湾が、2015年6月に個人情報の保護と電子商取引の発展に関する提案を行うとともに、本件に関するワークショップの開催を提案し、同じく、2015年6月に、中国も、サービス貿易理事会において、電子商取引に関する加盟国間での情報共有をすべきとし、常設のサブ議題とする案を提案した。2016年6月には、先進国から追加的な規律を検討すべきとの意見があがったが、電子商取引作業計画に基づく議論はいかなる規範的な成果も目指すべきでないとする意見もあり、同年10月にも、台湾が提案した電子商取引のサービス貿易に関するセミナーを巡って議論があり、同作業計画の下で議論をすることに概ねの合意があるものの、同作業計画に交渉権限はなく、開発に注意を払うべきとする意見もあり、議長の下で調整することとなった。

新たなサービス貿易協定の検討について

1995年のGATS発効以来長期間が経過し、この間にインターネットの普及をはじめとする技術革新の影響を受け、サービスの提供・消費の実態も大きく変化してきていることを背景に、WTOにおいても状況変化に対応した約束の改訂や新たなルールの策定が求められてきた。しかしながら、ドーハ・ラウンドは膠着し、急速な進展は見込めない状況となり、各国はEPA/FTAの締結等を通じてサービス貿易の自由化を推進してきた。

こうした中、2011年12月に開催された第8回WTO閣僚会議では、①途上国が強く支持するドーハ開発アジェンダは打ち切らない一方、②一括妥結は当面実現不可能であることを認め、部分合意、先行合意等の可能な成果を積み上げる「新たなアプローチ」を試みることで一致した。

これを受けて、2012年初頭から、「新たなアプローチ」の一環として、有志国によるサービス貿易自由化を目的とした新たな協定の策定に関する議論が開始された。2012年7月5日には、交渉のモメンタムの維持・拡大、途上国等に対する透明性の確保と議論への参加の奨励を目的として、それまでの約半年間の議論で方向性の一致したものを取りまとめたメディア・リリース「サービス貿易交渉の進展」が公表された(内容は2016年版P497参考参照)。有志国はその後も継続的に議論を重ね、2013年6月には,本格的交渉段階に移った。当該有志国は、23か国・地域(日、米、EU、豪州、カナダ、韓国、香港、台湾、パキスタン、イスラエル、トルコ、メキシコ、チリ、コロンビア、ペルー、コスタリカ、パナマ、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタイン及びモーリシャス(2017年2月現在))である。

本新協定の交渉では、現行GATS協定以上のサービス貿易分野の自由化及び既存のFTAの成果を取り入れた、21世紀にふさわしい先進的な新協定の策定を目指している。

我が国としても、サービス貿易という重要分野での合意形成に向けて、関係国と連携しつつ積極的に取り組んでいく。

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