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AD交渉

ドーハ開発アジェンダにおけるAD協定改正交渉の進捗状況

議論の背景

現行AD協定は、1994年に終結したウルグアイ・ラウンド交渉において改正されたものである(上記(2)①(b)参照)。しかし、AD措置の発動件数、発動国とも増大する中で、現行ルールの解釈や適用方法等に大きな差異が生じ、安易な措置の濫用が見られるようになってきた。AD措置の濫用は、ラウンド交渉による市場アクセスの改善の効果(関税及び非関税障壁の撤廃・削減)を無にしかねないものである。とりわけ、開発途上国からの輸入品をAD措置の対象とすることによって開発途上国の経済発展が阻害されることは大きな問題であるが、開発途上国同士でAD措置を発動し合うという傾向も見られた。

このような問題意識から、我が国は、自由貿易体制を維持し世界経済の発展を促進するためには、AD措置の濫用防止に向けたAD規律の強化を行うことが必要であると考え、我が国と同様の考えを持つ多くの国々とともに、新ラウンドにおけるAD協定改正のための交渉の実現を求めてきた。特に、2000年10月には、我が国は、AD規律強化を重視するグループ(ADフレンズ:後記③(a)参照)を立ち上げ、AD協定改正交渉を強く支持した。AD措置の発動が政治的に重要な事項となっている米国が規律強化に強く反対したが、協議が重ねられた結果、米国の立場にも配慮するべく若干の調整を行った上で、最終的には、ドーハ閣僚会議の閣僚宣言に明示的にAD協定改正交渉を行うことを盛り込むこととなった。
 

交渉の主な経緯

第1回交渉会合から議長テキスト発出までの動き(2002年3月~2007年11月)

ドーハ閣僚会議以降、貿易交渉委員会の下に設けられたルール交渉グループ(AD、補助金・相殺関税措置、地域貿易協定の交渉を所掌)では、2002年3月の初回会合以来、断続的に交渉会合が開催されてきた(2011年3月末までに55回開催)。我が国を含むADフレンズ(下記③(a)参照)は、AD協定の規律強化を行うべき論点を提示するとともに、改正内容を明示した詳細提案を順次提出するなど交渉をリードした。2005年4月からは、全体会合に加え、交渉を加速する一手段として、ルール交渉グループ議長(以下「ルール議長」という)のイニシアティブにより、10数か国程度の少数国会合が開催された。2005年9月会合からは個別項目ごとに「議長の友(ファシリテーター)」が指名され、2006年3月会合からはルール議長自らが議題設定を行い、ファシリテーターがメモを作成するなど、議論の更なる進展が図られた。

そして、2005年の香港閣僚会合では、他の交渉分野の議論の進展を踏まえつつ、議長に包括的な改正条文案(議長テキスト)を提示する権限を付与することを確認した。
 

ルール議長テキスト発出を巡る動き(2007年11月~2008年5月)

2007年11月末に、利害対立する様々な論点についてルール議長自らの考えで妥協案を提示した「議長テキスト」が公表された。AD分野については、2006年のサンセット・レビューに関する我が国の提案を踏まえ、一定の規律強化が盛り込まれるなど一部方向性が評価されるものもあったものの、これらについても更なる規律強化が必要であった。また、2006年4月の交渉会合において我が国が主張し、大多数の加盟国が支持したゼロイング方式の全面的な禁止については、2007年7月に米国が全面的に容認する内容の提案を行い、議長テキストにはゼロイング方式を容認する規定が入るに至った。このように、議長テキストは、全体としてバランスを逸しており、強く懸念をせざるを得ない内容となっていた。

その後、2007年12月の交渉会合において我が国は、ブラジル、中国、インド等の20か国と共同で、議長テキストにおいてゼロイング方式が容認され、バランスを失していることに対する強い懸念を表明する共同声明を発出した。また、2008年1月の交渉会合においても、我が国をはじめ中国、インドなど20か国が共同提案国としてゼロイング方式を全面的に禁止する代替案を提示した。大多数の加盟国がこれに賛同するとともに、議長テキストの内容は受け入れられないと主張した。さらに、サンセット・レビューについても、2008年3月の交渉会合において、我が国は更なる規律強化を提案した。我が国を始めとする多くの国は、その後も引き続き、ゼロイング方式の禁止、サンセット・レビューの規律強化など交渉の状況を反映させた「改訂議長テキスト」の発出を強く求めた。
 

ルール議長作業文書発出を巡る動き(2008年5月~7月)

各国から改訂議長テキストの早期発出の要望が強まる中、2008年5月、ルール議長から、改訂テキストではなく「議長作業文書」が公表された。議長は、当該文書のカバーレターにおいて、2007年11月の議長テキストを改訂する固い意志を引き続き有しているものの、改訂を行うだけの十分な土台がないため、「中間的なもの」として議長作業文書を発出することとした旨を説明した。議長作業文書は、議長テキスト発出以降の交渉を概括し、議長テキストの各論点についての各国の反応及び各国の提案条文を記したものであった。

議長作業文書発出を受けて、我が国は、経済産業大臣が、条文が何ら改訂されていないことに失望し、引き続き改訂議長テキストの早期発出を促す旨表明した。また、2008年7月には、ADフレンズや中国等19ヵ国とともに上記大臣談話に沿った内容の共同声明を発出した。
 

改訂議長テキスト発出からルール議長の交代までの動き(2008年12月~2010年5月)

議長作業文書公表以降、ルール交渉会合は開催されず、各国からは早期の改訂議長テキスト発出及び交渉の再開を求める声が強まった。その後、2008年12月末に「ルール改訂議長テキスト」が公表された。改訂議長テキストでは、各国の立場にある程度収れんが見られた点については、条文改正案が提示されたものの、各国の見解が対立する「ゼロイング」や「サンセット」など12項目についての条文改正案は盛り込まれず、ブラケット(テキスト上で各国間の意見の相違が明らかな論点や文言に付されている記号で、[ ]で表されている)に各国の見解とともに項目名のみが記載されるにとどまった。

改訂議長テキスト発出を受けて、我が国は、経済産業大臣が、改訂議長テキストの発出はルール交渉を再開させるとともにドーハ開発アジェンダ交渉の早期妥結に向けて議論を前進させる一歩であるが、多くの重要な論点が残されており、ルール分野において十分規律強化された最終成果を得るべく交渉に全力を傾ける旨を表明した。

2009年5月以降の交渉会合では、改訂議長テキストに基づき、①項目名のみ記載されたブラケットの論点、②条文改正案が提示された論点、③改訂議長テキストに反映されなかった論点につき並行的に議論を行なった。2009年12月の交渉会合までに、条文改正案が提示された論点については全て一読を終了し、ブラケットの論点についても、2010年3月の交渉会合において一読を終了した。
 

ルール議長の交代及び議長テキスト発出以降の動き(2010年5月~2014年11月)

2010年5月、ルール議長が退任し、同年7月に新しいルール議長が就任した。同年11月より、毎月、15か国~20か国程度の少数国交渉会合が開催され、改訂議長テキストに基づいてブラケットの論点及び条文化された論点について積極的な議論が行われ、2011年3月の交渉会合において議長テキストの一読を終了した。

しかし、新たなルール議長の下での初めてのテキスト一読であること、また、農業・非農産品市場アクセス(NAMA)等他分野における交渉の進捗とも関係することから、各国とも主要な論点について、これまでのスタンスを大きく変更することはなく、前ルール議長の下で行われた改訂議長テキストの一読時と同様の技術的な議論となった。そのため、議論の結果を踏まえて、2011年4月下旬にルール議長より新たな議長テキストが示されたものの、ブラケットの論点及び条文化された論点どちらについても、前の改訂議長テキストから特に大きな進展は見られなかった。

なお、2012年2月末のルール交渉グループ公式会合において、新たなルール議長が選任された。また、2011年4月の議長テキスト発出以降、ドーハ開発アジェンダ交渉全体の進展との関係から交渉会合そのものは開催されていないが、交渉が再開された際に速やかに対応できるよう、関心のある国がAD調査実務に関する技術的な意見交換を行う専門家会合が2012年に3回、2013年及び2014年に2回開催された。
 

ダボスWTO非公式閣僚会合~第10回WTO閣僚会議(MC10)(2014年11月~2015年12月)

 2014年11月の一般理事会で、2015年7月末までにポスト・バリ作業計画を策定する旨が決定されたことを受け、2015年1月にスイス・ダボスで開催されたスイス主催WTO非公式閣僚会合では、上記作業計画策定に向けた交渉の進め方が議論され、議論を加速させていくことで一致した。我が国は、ルール交渉について、AD規律強化に向けた議論の継続及び交渉の目標を7月の作業計画に組み込み、最終的には12月に開催されるMC10でAD規律強化に関する交渉成果を得ることを目指した。

まずは、ADフレンズとともに、4月に、AD交渉の今後の進め方について、まず透明性・適正手続関連論点に焦点を当て具体的議論を再開することを提案し、また、作業計画策定において考慮されるべき具体的内容として、6月には、2011年議長テキストの条文化された論点(un-bracketed issues)のうち、透明性・適正手続に関連するものを①WTO加盟国間の透明性、②AD調査手続の透明性、③適正手続の3要素に分類して、さらに、7月には、透明性・適正手続以外の論点を、それぞれ提案した。我が国は、これらの提案を通じてルール交渉の議論の活性化に貢献したものの、他分野の主要論点について議論が進展しなかったことから、7月末のポスト・バリ作業計画の策定自体が実現しなかった。

その後交渉全体の対象が縮小化していく中でも、ルールを含む複数分野の「透明性」をMC10の成果とし得る可能性は依然残っていたため、我が国は、10月に再度、実現可能性を配慮して、ルール交渉の対象として透明性及び適正手続に関する論点をさらに絞り込んで提案した。

最終的に、12月のケニア・ナイロビでのMC10において、他分野の交渉の進展状況による影響もあり、閣僚宣言においてルール分野に関する具体的な言及は残せなかったものの、我が国は、各ルール交渉会合や提案ペーパーを通じ、ADの調査手続の透明性及び適正手続の重要性を訴え続けた結果、多くの加盟国からこれに賛同し協調する動きがみられ、今後もドーハラウンドの文脈であるか否かにかかわらずAD規律強化に関する議論が継続されることが期待される。
 

ルール交渉における主要国の立場

ADフレンズ(我が国、ブラジル、チリ、韓国、ノルウェー、スイス、コロンビア、コスタリカ、香港、イスラエル、メキシコ、シンガポール、タイ、トルコ、台湾の計15ヶ国・地域)

AD措置の濫用防止のためにAD規律の強化・明確化を目的とする国々のグループ。専ら自国の輸出産業がAD措置のターゲットとなっている輸出国側の立場が強い国(香港、ノルウェー等)から、自らもAD措置発動を増加させつつある穏健なAD発動国(ブラジル等)まで幅広く含む。我が国は、ADフレンズのリーダーとしてAD交渉に積極的に参加している。これまでの交渉会合において、ADフレンズとして、ゼロイング方式の全面的禁止や「レッサー・デューティー・ルール」(AD税の税率を必要最低限に抑えること)の導入を提案したほか、ADフレンズのうち一部の国を除くものの、自動サンセット(一定期間の経過に伴う自動的な課税措置の失効)の導入や調査開始要件の明確化等の規律強化についても共同して提案している。但し、MC10に際しては、最近の主要なAD発動国であるブラジル・トルコ・メキシコが実質的に離脱した。
 

米国

WTOにおけるAD関連の紛争処理案件のうち、半数近くが米国のADを問題視したものである(バード修正条項、サンセット、ゼロイング等)。米国は、議会や産業界(鉄鋼等)にADの発動を求める強い意見があることを踏まえ、調査当局の裁量を最大限維持することを重視しており、ADの規律強化には消極的である。ただし、迂回防止措置等の一部の論点や、開発途上国によるAD措置濫用を防止するための手続の透明性向上には前向きである。なお、ゼロイングをWTO協定違反とする上級委員会の判断を激しく批判しており、交渉会合においてはゼロイング容認をWTO協定に盛り込むよう、引き続き強く求めていた。他方、透明性及び適正手続の議論については従来前向きな姿勢を示していたが、MC10に際してはドーハラウンド自体の収束及びルール分野を含む各種分野に関するドーハラウンドに代わる新しいアプローチに対して関心を有している。
 

EU

EUは、ADの規律強化に基本的には賛成の立場であるが、対開発途上国を中心にAD措置を積極的に活用していることから、米国と我が国等ADフレンズの中間的な立場を採っている。調査手続の透明性強化に高い関心がある。交渉において、我が国とは論点に応じて是々非々で連携しており、2003年7月には、我が国及びEUで「AD手続における調査コスト削減に関する提案」を共同提出した実績があり、MC10に際しては、EU単独で、AD手続に限らず補助金・RTA等も含むルール交渉分野横断的な透明性向上に関する提案を行った。
 

インド

インドは、AD措置の濫用防止を目指した提案を行っており、ADフレンズの主張と重なる部分もある。2006年3月のルール交渉会合では、レッサー・デューティー・ルールの義務化をブラジル・香港とともに共同提案した。また、ゼロイングについても我が国と同様に全面禁止の立場を採っている。その一方で、WTO加盟国第1位のAD措置発動大国であり、手続の透明性に欠けるとして各国から批判もある。また、開発途上国への「特別かつ異なる待遇」(Special and Differential treatment: S&D)の導入についても主張している。また、MC10に際しては、透明性及び適正手続の論点について、途上国の調査当局にとって過剰な負担になることへの懸念や農業等他の関心分野の交渉の進捗とのバランスの必要性を強く主張した。
 

中国

中国は、自らもAD措置の発動を増加させているが、米国等のAD措置の標的となっており、世界最大のAD被発動国であるため、ADの規律強化には前向きである。交渉においては、ゼロイングについても我が国と同様に全面禁止の立場を採り、10年での「自動サンセット」規律(AD措置が例外なく最長10年間で終了する旨の規定)の導入を主張するなど、規律強化や透明性の向上を強く主張している。

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