経済産業省
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ドーハラウンド

ラウンドとは?

GATT(ガット。関税及び貿易に関する一般協定)締約国は過去8度にわたり、集中的に多角的交渉を行ってきました。その中でも1960年に開始された第5回交渉(ディロン・ラウンド)以降、GATTにおける多角的自由化交渉は「○○ラウンド」と呼ばれています。ラウンドとは、鉱工業品・農林水産品の関税引き下げ、サービス分野の規制緩和など、幅広い分野について包括的に交渉を指します。

数次のラウンド交渉を経て、次第に関税引き下げが実現され、また、関税以外の貿易関連ルールも整備されました。前回のウルグアイ・ラウンドは、鉱工業品関税の引き下げ、農業、サービスの自由化のほか、貿易ルールの強化、紛争解決手続きの整備など、これまでのラウンドの中では極めて包括的な内容を有するものでした。これを受け、1995年1月、世界貿易機関(WTO)が発足しました。

ドーハラウンドとは?

2001年11月のドーハ閣僚会議でWTO発足後初となるラウンドの開始が決定されました。本閣僚会議の開催場所(カタール国首都ドーハ)にちなみ、「ドーハ・ラウンド」と呼ばれますが、途上国の意向を踏まえ、正式には「ドーハ・開発・アジェンダ」と言います。

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ドーハ開発アジェンダにおける交渉枠組みの検討

1.交渉の立ち上げから2004年7月枠組合意までの動向

2001年11月にカタール・ドーハでの第4回WTO閣僚会議において新ラウンド(ドーハ開発アジェンダ)の立ち上げが宣言された。ドーハ開発アジェンダは、WTOの前身であるGATT(ガット)時代から数えると通算9回目のラウンドであり、農業、非農産品市場アクセス(NAMA)、サービス、ルールのほか、1996年の第2回シンガポールWTO閣僚会議から議論が開始されたシンガポール・イシュー(貿易円滑化、投資、競争、政府調達透明性の4つの新しい交渉分野の総称。その後、2004年7月の枠組み合意において、貿易円滑化のみが交渉対象とされた)、知的所有権(TRIPS)、貿易と環境や貿易と開発といった当時の時代の要請に対応した幅広い分野を取り扱う包括的な内容となっている。

加盟国は2002年初頭より実質的な交渉を開始し、2003年9月のカンクン閣僚会議において、ラウンド合意に向けた土台となる主要事項につき合意することを目指したが、多くの分野について加盟国間、とりわけ先進国と開発途上国との間の対立を解消することができず、決裂した。その後、軌道に戻す取組が模索され、10月のAPEC閣僚会合及び非公式首脳会合では、ラウンドの成功裡の終結に向けて努力することを閣僚及び首脳レベルで確認し、個々の論点について立場の違いはあるが、カンクンで採択されなかった閣僚宣言案を基礎として議論を積み上げるべきことで一致した。

2004年初頭より、米通商代表や欧州委員による各国への働きかけなどを通じ、2004年をラウンドにとって「失われた年」としてはならず、交渉を軌道に戻すべく年央までに交渉の枠組みについて合意を目指すべきとの雰囲気が醸成されていった。2月に開催された一般理事会では、我が国の大使が一般理事会議長に選ばれたほか各交渉会合等の議長が新たに選出され、農業、NAMA、サービス、ルール(アンチ・ダンピング等)などの交渉グループの会合が順次再開された。また、OECD閣僚理事会(5月)、WTO非公式閣僚会合やAPEC貿易大臣会合(6月)、G8サミット(7月)においても、交渉の主要分野における7月末までの枠組みの合意に向けた政治的意志が改めて確認された。
 

2.2004年7月枠組合意から2005年12月香港閣僚会議までの動き

2004年7月31日の一般理事会において、ドーハ開発アジェンダの交渉の枠組みが合意された(通称:枠組合意)。非農産品の市場アクセスについての交渉の枠組みが合意されたほか、貿易円滑化の交渉開始を決定した。また、サービス、ルール、開発等の分野の今後の交渉の方向性が示されたことで、今後の包括的ラウンドの重要な基礎が作られ、カンクン閣僚会議以来、脱線状態にあったラウンドが再び軌道に乗ることとなった。

7月の一般理事会の結果を受けて、2004年末から2005年初頭にかけては、各交渉会合(NAMA、農業、ルール、サービス、貿易円滑化等)で技術的作業が進展した。2005年1月には、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(通称:ダボス会議)の際に、スイス主催でWTO非公式閣僚会合が開催された。同会合では、2006年中に交渉を終結させるべきであり、NAMA、農業、サービス、開発、貿易円滑化を含むルールの主要5分野について、2005年12月の香港閣僚会議に向けて、夏休み前までに「モダリティ(関税削減の方式等に関する詳細な取り決め)たたき台」を発出すべきとの認識が共有された。

ダボスでの議論は、2月にジュネーブでの高級事務レベル会合や貿易交渉委員会等を通じて、ほぼ全加盟国の共通認識となった。また、3月にケニア・モンバサで行われたWTOミニ閣僚会合(ケニア・モンバサ)では、夏前の「モダリティたたき台」の作成及び香港閣僚会議に向けての段取りが一定程度明らかになった。

4月には、ドーハ開発アジェンダの進展、特にNAMA分野の進展に貢献する観点から、経済産業大臣が、東アジアの主要国・地域の閣僚等を招き、千葉県幕張でNAMA非公式閣僚会合を主催した。関税削減方式(フォーミュラ)に関し、新たな開発と成長の機会につながる現実の市場アクセス改善を実現するため、開発途上国への配慮を考慮しながら、野心の水準を高くすることが必要であり、各国とも交渉に積極的に貢献する必要があること等につき認識が共有された。

5月から7月にかけてOECD閣僚理事会・WTO非公式閣僚会合(5月)、APEC貿易大臣会合(6月)、中国主催非公式閣僚会合(大連)(7月)が開催され、我が国を含む20~30の主要国の閣僚が集まり、交渉の前進を図るべく交渉が重ねられた。我が国は、これらの閣僚会合の機会を使って、東アジア諸国の閣僚等を集め、4月のNAMA閣僚会合のフォローアップ会合を開催し、6月のAPEC貿易大臣会合において野心の高い関税削減方式(スイス・フォーミュラ)支持への合意形成に大きく貢献した。

しかしながら、農業、NAMAなど主要分野においてWTO加盟国間の立場に収斂がみられなかったため、7月末の一般理事会では当初目標としていた「モダリティたたき台」は作成されず、各交渉分野の現状報告が行われるとともに、WTO事務局長から交渉全体の状況報告がなされ、12月の香港閣僚会議に向けて各国の結束が呼びかけられるに止まった。

その後夏休みを挟んで、9月1日にWTO事務局長が交替し、交渉が再開・本格化した。

交渉再開後、主要国閣僚レベルで調整が行われる最初の機会として、10月初頭にチューリヒで米国主催非公式閣僚会合が開催された。同会合では、焦点の1つとなっていた農業交渉において、米国がこれまでの立場から一歩踏み込んだ国内支持についての新たな提案を提出した。これに呼応する形でEU、G20、G10から提案が一通り出され、膠着状態にあった農業交渉に進展がみられた。11月中旬にはAPEC閣僚会合が開催され、各国閣僚が香港閣僚会議の成功のために最大限努力を払っていくことで認識が一致した。

こうした動きの中、少数国による交渉も活発化した。11月初頭に、WTO交渉主要関係国である米国、EU、インド及びブラジルの4か国が構成するG4グループに我が国が初めて加わる形でインド主催少数国閣僚会合がロンドンで開催された(我が国からは、経済産業大臣及び農林水産大臣が出席)。同会合では、農業、NAMA、サービス等の主要交渉分野のそれぞれにつき集中的な議論が行われるとともに分野横断的な観点から全体的な野心の水準についても議論された。これを機に、我が国は主要少数国の一員として交渉に深く関与していくことになった(11月後半以降は、G4に加え、我が国と豪州が参加した形(=G6)での少数国閣僚会合が開催されるようになった)。

一方、各分野の交渉会合においては、10月後半から11月後半にかけて、香港閣僚宣言案、交渉の現状報告案等につき具体的な議論を行い、各交渉議長は閣僚宣言案の素材となる交渉の状況報告をWTO事務局長に提出した。11月26日には、各交渉議長から提出された報告を合体した形の香港閣僚宣言草案がWTO事務局長より発出された。その後、主に、農業、NAMA及び開発について各国による文言調整が行われ、一部に空欄を残した形で12月2日の一般理事会で承認され、香港閣僚会議に提出された。

2005年12月13日から18日まで、香港にて開催された第6回閣僚会議は、18日に閣僚宣言を採択し閉幕した。我が国からは、経済産業大臣、農林水産大臣、外務大臣他が出席した。会議では、ドーハ・アジェンダの成功へ向けた確実な土台が築かれるとともに、特に開発途上国に対する開発支援策(「開発パッケージ」)が合意され、交渉の進展に大きな弾みがもたらされた。各交渉分野では、①農業において、国内支持、関税の階層削減の方式の具体化を推進、②非農産品(NAMA)においてスイス・フォーミュラに合意、③サービスにおいて分野別複数国間交渉の導入を含め交渉の具体的な進め方に合意、④ルールにおいて今後の交渉の範囲と目的等を確認、⑤開発において後発開発途上国(LDC)産品に対する原則無税無枠化に合意するなど、多方面で前進が見られた。

なお、開発に関しては、閣僚会議直前に総理大臣自らが、我が国の開発途上国への開発支援策である「開発イニシアティブ」を発表し、ラウンドへの貢献に対する強い決意を世界に対し発信し、多くの開発途上国から評価の声が寄せられた。

香港閣僚宣言では、2006年4月末がNAMA及び農業のモダリティ確立期限、7月末が譲許表案提出の期限とされていた。2006年1月末にスイス・ダボスで開催されたWTO非公式閣僚会合では、年内妥結に向けての強い決意が表明され、期限どおりに成果を出すべく、全分野にわたって積極的に取り組むことで一致した。また、同会合に先駆けて、G6閣僚会合が開催され、メンバーが密接に連携して交渉を進めていくことで意見が一致した。
 

3.香港閣僚会議以後 ~2006年7月から2007年1月の交渉中断を経て

香港閣僚会議で決められた2006年4月までのモダリティ確立の期限に向け、閣僚会合・二国間協議が続けられてきたが、農業の市場アクセス、農業の国内支持(農業補助金)、NAMAの3分野における主要国のスタンスが攻めと守りで交差するいわゆる「三角形」の膠着状態に陥り、4月末の期限を守ることができなかった。5月にパリで行われたOECDの閣僚理事会や6月にベトナムのホーチミンで行われたAPEC貿易担当大臣会合でも、農業及び非農産品市場アクセス(NAMA)のモダリティを6月末までに合意するために取り組む旨が確認された。この流れを受けて、6月29日から7月1日までジュネーブで開催された非公式閣僚会合では、農業とNAMAのモダリティ確立を目指して交渉が行われた。我が国からは、経済産業大臣及び農林水産大臣が参加し、G6諸国を中心として合意を模索したが、各国の立場の乖離が縮まることはなく、モダリティ合意を果たすことはできなかった。

7月に入り、膠着状態を打開するため、WTO事務局長の主要国訪問による調整、G8首脳による「1か月以内の農業とNAMAのモダリティ確立を目指す」旨の政治的意思の表明(サンクトペテルブルク・サミット)、G6閣僚によるジュネーブでの緊急会合といった努力が続けられ、7月23日よりG6閣僚会合を集中的に開催することが決定された。23日の同会合においては、約14時間に及ぶ議論が行われたものの、各国の立場の違いが埋まるには至らなかった。現状では議論の進展は見込めないとの判断から、WTO事務局長は24日の非公式貿易交渉委員会においてラウンド交渉を中断する旨発表し、年内の交渉妥結は困難と表明した。我が国をはじめとする各国とも遺憾の意を表明しながらも、事務局長の提案を了承した。

交渉中断後、夏から秋にかけて各国・地域において交渉再開にむけての働きかけが行われた。

8月の日中韓アセアン経済大臣会合においては、経済産業大臣より、遅くとも11月中旬からの交渉再開を目指し2007年の早期に農業・NAMAのモダリティを確立することを内容とする「交渉再開にむけた5つの行動」を提案し、各国より支持を得た。9月のG20閣僚会合(9~10日)、ASEM首脳会合(10~11日)ケアンズ閣僚会合(20~22日)でも、首脳・閣僚レベルで交渉の早期再開を目指す取組が続けられた。この間、我が国の経済団体による主要国へのミッションの派遣などに代表されるよう、民間からも交渉再開を求める声が上がった。

06年11月にベトナムで開催されたAPEC閣僚・首脳会合で、再開に向けた大きな一歩が踏み出された。WTO事務局長も参加した閣僚会合で各国から交渉再開を求める声が相次ぎ、APEC首脳による「突破口の確保に向けて必要な柔軟性と野心を確認する」との強い意志を示した独立宣言文が発出された。これを受け、WTO事務局長は事務レベルでの作業の再開を宣言し、停滞していた各交渉議長を中心とする作業が開始された。

2007年に入り、米・EU首脳会談を皮切りに、主要国の首脳・閣僚レベルでラウンド妥結へのコミットメントが相次いで示された。我が国も総理大臣の欧州訪問の際、英国首相、欧州委員会委員長との間で、WTOの早期妥結に向け相互に連携していくことを確認した。経済産業大臣や農林水産大臣も訪米・訪欧や電話会談等を通じ、主要国の担当閣僚との議論を活発に実施した。

1月27日にスイス・ダボスで開催されたWTO非公式閣僚会合では、ラウンド交渉を元に戻す必要性、ジュネーブでのフル・スケールの活動を早期に再開する必要性、すべての交渉分野を含む包括的なアプローチを取る必要性、透明性あるマルチのプロセスの必要性、ドーハ・ラウンド交渉の開発側面の重要性等について各国の認識が一致し、1月31日にジュネーブにおいて開催された非公式貿易交渉委員会を経て、交渉が本格的に開始されることとなった。
 

4.2007年6月のG4決裂から議長テキスト発出による交渉加速へ

2008年の米大統領選開始を控え、各国は2007年中の交渉妥結が重要であるとの認識を持ち、また2007年6月末で米国において行政府に通商交渉の包括的な権限を与える貿易交渉権限(TPA:Trade Promotion Authority)が失効することから、夏前のブレークスルーに向けて各国が交渉進展のための努力を行った。

1月末の交渉再開直後しばらくは、主要国の二国間協議を中心に議論が進展した。特にG4(米、EU、伯、印)/G6(G4+日、豪)の各国の間で、SOMレベル、閣僚レベルで二国間協議が集中的に行われ、我が国も二国間協議のプロセスを積み重ねた。4月には、前年7月の交渉中断以来9か月ぶりとなるG6閣僚会合がインド・ニューデリーで開催され、年内妥結に向けた強い決意を表明したコミュニケが発表された。それまで、交渉期限を設定することに対する根強い慎重論があったが、年内妥結という目標をG6で公に合意した意味は大きく、その後のマルチの動きの本格化を後押しする事となった。

この頃から、夏休み前の大きな進展を目指し、二国間プロセス、G4/G6といった少数国間プロセスとジュネーブでのマルチのプロセスの3つが並行して活発に動いた。二国間、少数国間では、5月中旬にパリで開催されたOECD閣僚理事会の機会を利用し、同地にて4月のニューデリーの会合に引き続き、G6閣僚会合が我が国主催で開催された。同時並行で行われていた、ジュネーブでのマルチの動きとしては、4月末、5月上旬に農業交渉議長のペーパーが2回にわたって発出され交渉会合の活性化をもたらした他、6月の非公式貿易交渉委員会にてWTO事務局長は農業及びNAMAのテキストは6月後半に同時に発出し、7月後半に閣僚ベースの交渉を行い、農業・NAMAのモダリティ合意を目指す旨を表明。夏休み前の進展に向けた議論の加速化を促した。

6月初旬にはG8サミットが開催され、各国首脳より交渉の早期妥結に向けて積極的なコミットメントが示された。G4/G6等の主要国は、主要国間の意見の収斂に向けた努力を続けながら、その成果を反映させる形で、夏休み前のNAMA、農業のモダリティ合意を目指したが、6月後半にドイツ・ポツダムで開催されたG4閣僚会合が意見の収斂を見ずに決裂したため(これに伴いG6閣僚会合も中止)、各国はジュネーブにおいてWTO事務局長、各交渉議長の下でのマルチのプロセスを進めていくこととなり、事務局長の指示で、農業・NAMAの議長テキストが発出されることになった。こうした状況の中、7月初旬に豪州ケアンズで開催されたAPEC貿易担当大臣会合では、交渉の年内妥結を改めて確認する旨の特別声明が採択された。

前述のAPECをはじめ、各国のマルチのプロセスへの支持を受け、7月17日、農業交渉議長、NAMA交渉議長により、農業、NAMAのモダリティに関する議長テキストが発出された。個別の論点については、我が国も含めた各国にとってその時点で同意できるものではなかったが、文書をたたき台としつつ、マルチの場で議論を積極的に行っていくことが肝要との認識が多くの関係国に共有され、テキストそのものを拒絶するような強い否定的反応は見られなかった。テキスト発出後に行われたジュネーブでの農業交渉会合、NAMA交渉会合でも、両議長テキストは、概ね9月以降の交渉のたたき台となることが確認された。

夏休み明けの9月初めにシドニーで開催されたAPEC首脳会議では、年内に交渉が最終局面に入ることを確保するとの声明が発出された。同時期にジュネーブでは、農業を皮切りに交渉グループごとの交渉が再開された。年内にモダリティ合意をすることはできなかったが、年末の一般理事会において、WTO事務局長は、2008年の早い時期に農業・NAMAのモダリティに合意することができれば2008年末までに交渉を妥結することができると前向きな発言を行った。
 

5.2008年7月の閣僚会合開催と決裂・12月の定期閣僚会合不開催

2008年1月26日、スイス・ダボスにおいて、WTO非公式閣僚会合が開催された。同会合において、主要国の政治情勢を勘案し、交渉の年内妥結を目指すこと、そのため農業・NAMAの改訂議長テキスト発出後、大使・高級実務者会合を経てイースター(3月23日)前後に閣僚会合でモダリティ合意とその他の分野での進展を図ることを目指して取り組むことが確認された。これを受け、WTO事務局長が、1月末の非公式貿易交渉委員会において、「年内妥結の必要性」、「2月4日の週に包括的な改訂テキストを発出後、農業・NAMAの水平的なプロセスを行い、その後農業・NAMAのモダリティ合意を目指す、また、交渉全体の妥結の前に譲許表作成作業で6~8か月が必要というスケジュール感」を示した。

その後、2月8日、農業・NAMA両交渉議長により、農業及びNAMAのモダリティに関する改訂議長テキストがそれぞれ発出された。しかし主要な数字については7月時点のテキストと同じ幅のある案が基本的に維持され、今後の議論に決着が委ねられた形となった。また、2月12日には「サービス交渉の終結に必要な要素」に係る議長報告が発出された。

これを受けて3月には水平的議論に向けてWTO事務局長が調整を本格化した。各国閣僚レベルでも電話会談、書簡等を通じて閣僚会合に関する議論が行われ、4月に入ってからは、英豪首脳会談、日仏首脳会談、G7、英米首脳会談、G8ビジネスサミット等で首脳レベルからも交渉加速のメッセージが多数発出された。

スイス・ジュネーブにおける分野毎の交渉が長引いたため、再改訂議長テキストの発出がずれ込んだが、5月19日、農業・NAMAの再改訂議長テキストが発出された。閣僚会合の日程についてはその後の調整に委ねられたが、WTO事務局長が5月7日の一般理事会で「年内妥結のためには、今後数週間でモダリティに合意する必要あり」と発言したことを受け、5月下旬から6月の閣僚会合が引き続き目指された。また、5月26日にはサービス交渉議長から議長報告の改訂版、28日にはルール交渉議長から作業文書が提示された。

6月1日~5日にかけてフランス・パリで開催されたOECD閣僚会合の機会を捉え、豪州貿易大臣の主催によるWTO非公式閣僚会合が開かれた。ここでは、ドーハ・ラウンドの年内妥結に向けて、以後数週間集中的な議論を行い、閣僚会合の開催を目指すことで合意した。

その後、テキスト発出を受けたスイス・ジュネーブにおける一連の次官級の会合の結果、6月25日の少数国大使級会合において、ついに、WTO事務局長が7月21日から閣僚会合を開催することを発表した。

7月7日~9日に行われた先進8ヵ国首脳会合(G8北海道洞爺湖サミット)では、成果文書に、①野心的でバランスのとれた包括的なラウンド妥結の重要性、②すべてのWTO加盟国に対する実質的な貢献の呼びかけ、③7月21日から始まる閣僚会合の招集を歓迎し、同じ機会に行われるサービス貿易に関するシグナリング会合を開催することを支持すること、が盛り込まれ、閣僚会合を前にした主要国首脳の決意が示された。

閣僚会合の日程が発表された後、閣僚レベルで主要な数字に合意してモダリティ合意を目指すための土台として、7月10日に農業・NAMA両議長により、農業及びNAMAの再々改訂議長テキストが発出された。個別論点については、依然として各国間の意見の収斂が得られていない点も多かったが、閣僚会合での議論の土台として各国に受け入れられた。

6月の発表通り、7月21日より、スイス・ジュネーブにてWTO非公式閣僚会合が開催された。25日にWTO事務局長より提示された裁定案では、NAMAについて各国の要望を反映した提案も盛り込まれるなど一定の進展も見られた。また、サービス分野では閣僚レベルでのシグナリング会合が開催され、各国からの積極的なオファーも見られた。しかし、主に農産品の輸入に係る途上国向け特別セーフガード措置(SSM)を巡って米国とインド・中国が対立し、立場の違いは最後まで埋まらず、閣僚会合はモダリティ合意に至らないまま29日に決裂した。

閣僚会合の決裂に対し、多くの各国は失望感を示すと共に、これまでの議論を土台として早急に交渉を再開すべきであるとの見解を示した。8月にはラウンドのモメンタムを維持するための努力が、バイ会談等の場で各国によって行われ、8月末のASEAN貿易大臣会合では、ラウンドの成功裡かつ早期の妥結のために引き続き努力していくことが謳われた。

9月に入ると、ジュネーブにおいて農業・NAMAそれぞれの事務レベルでの交渉が再開した。

一方、9月15日には米国のリーマン・ブラザーズが破綻し、世界の金融市場に衝撃を与えた。この米国発の金融危機が世界の実体経済に波及し急速な景気後退をもたらしていることが認識されるにつれ、1930年台に世界恐慌が保護主義の連鎖を生み、やがて世界大戦にまで至った過去を繰り返してはならないとの声が国際的に高まった。

米国・ワシントンDCで11月15日に開催された主要20か国による「金融・世界経済に関する首脳会合(G20)」では、首脳宣言の中に、以後12ヶ月間、貿易や投資に対する新たな障壁を設けないことの誓約と共に、「WTOドーハ開発アジェンダが、志が高く、かつ、バランスのとれた成果を得て、成功裡に妥結することに導くようなモダリティに、年内に合意に至るよう努める。我々は、この目標を達成するよう自国の貿易担当大臣に指示するとともに、必要に応じて自らが直接に支援する用意がある」との文言が盛り込まれた。また、これに続きペルー・リマにて開催されたAPEC首脳・貿易大臣会議の機会においても、11月22日に、同様の趣旨の「世界経済に関するAPEC首脳リマ声明」が発出された。このように、世界経済危機を受けて立て続けに首脳レベルで年内モダリティ合意への強い政治的決意が示されたことは、ラウンド交渉の気運を高めた。

主要国首脳からの力強い声明を受け、年内閣僚会合開催の可能性を探るべく、多くの国が首都やジュネーブでの意見調整に努め、12月6日には、農業・NAMA両議長が4回目となる改訂議長テキストを発出した。各国からは、テキスト自体についてはおおむね良好な反応が示されたが、閣僚会合については2度目の失敗を犯すことがないよう、成功の可能性を最大化させてから行うべきであるとの意見も多く聞かれた。WTO事務局長は、3つの分野、すなわちNAMAの分野別関税撤廃と農業のSSM、綿花について閣僚会合を開催する前に十分な政治レベルでの意志の確認を行う必要があるとの認識から、閣僚会合開催について慎重な検討を行った。主要各国の閣僚レベル、ジュネーブの大使レベルで様々なコンサルテーションが行われ、調整が続けられたが、12月12日、WTO事務局長は、分野別関税撤廃とSSMについて合意に必要な各国の政治的意志が欠けているとして、年内の閣僚会合開催を見送ると決定した。

その後、12月19日にはルール改訂議長テキストが発出された。本テキストは、各国の立場にある程度収斂のある点のみ、条文改正案を提示し、各国が対立するゼロイングやサンセットなどの論点は、各国の見解とともに項目名のみを記載した。

こうして、2008年には計4回の農業・NAMAの議長テキストが改訂され、年末にはWTO閣僚会合開催が検討されながらも、年内モダリティ合意を達成することが出来ず、その後の交渉の見通しがないまま米国の政権交代の年を迎えることとなった。
 

6.2009年9月のインド主催閣僚会合を契機とする交渉打開の模索

2009年1月31日には、スイス・ダボスにおいてWTO非公式閣僚会合が開催された。各国閣僚が保護主義を抑止することの必要性で一致し、ドーハ・ラウンド交渉について、残された問題の難しさを認めつつも早期妥結への決意を再確認した。また、20日に発足した米国新政権に対して、保護主義を抑制し、現在のラウンド交渉の枠組みとこれまでの交渉の積み重ねを維持して進展させるべきであるという、各国からの強いメッセージが示された。

その後、3月18日に、米国通商代表部(USTR)の代表が議会で承認された。世界経済の後退を受けて米国内でドーハ・ラウンドに後ろ向きな声が聞かれる中で、我が国を含め各国は、USTRに対し交渉を推進するよう働きかけた。4月2日にイギリス・ロンドンにて行われた第2回G20では、首脳は、前年11月の貿易や投資に対する新たな障壁を設けないことの誓約を2010年末まで延長するとともに、合意に反する措置を早期に是正することを約束した。また首脳は、「急務であるドーハ・ラウンドの志の高く、バランスのとれた妥結」を現在までの進展に立脚して達成することへのコミットメントを示した。

また、4月から5月中旬にかけて、WTOの主要プレーヤーの一つであるインドで総選挙が行われ、与党連合の圧勝により、第2次シン政権が発足した。2期目に伴う内閣改造の結果、WTO交渉を担当する商工大臣は前年の交渉で米国と激しく対立した大臣から交代した。

6月7日~9日には、インドネシア・デンパサールにて農業輸出国と主要国の閣僚によるケアンズ・グループ閣僚会合が開催された。米国・インドの新閣僚が初めて出席するWTO関係閣僚級会合となった本会合では、両国を含めた主要国がラウンドの早期妥結を目指すことで一致、共同声明では高級事務レベル交渉の夏休み前の再開が明記された。米国通商代表は、通商交渉の評価は終えたと明言し、2010年中の交渉妥結を目指し、主要国と二国間で交渉を開始する意向を表明、インド商工相も9月のG20首脳会合前に貿易担当大臣会合を自らの地元で主催することを提案するなど、新閣僚による積極的なコミットメントが示された。

同月末の6月25日には、OECD閣僚理事会に合わせWTO非公式閣僚会合が開催された。会合では、残された論点を整理するため、ジュネーブで夏前に高級事務レベル会合を再開し、閣僚が継続的にこれを支援することが決定され、交渉妥結を目指す機運が高まりはじめた。同7月8日~10日には、イタリア・ラクイラにおいてG8サミットが開催された。G8に新興国が加わった会合後に採択された首脳宣言では、ドーハ・ラウンドの2010年中の妥結という交渉期限目標が明記されるとともに、9月のG20ピッツバーグ・サミット前に貿易担当閣僚会合を開催することが合意された。続いて、7月21日にはAPEC貿易担当大臣会合が開催され、尼・豪が議論を主導した。本会合では、2010年までに最終合意を目指すこと、9月のG20サミット前に具体的進展がみられるよう、閣僚から事務レベルに具体的な指示を出すこと、等に概ね支持が得られた。

夏休み前の高級事務交渉の再開はかなわなかったものの、2010年中の交渉妥結に向けた、一連の首脳・閣僚レベルの強い政治的コミットメントを受け、WTO事務局長は7月末の非公式貿易交渉委員会において、秋は全ての交渉グループにとって非常に忙しい時期になるだろうと述べ、今後の各交渉分野におけるロードマップを示した。

夏休みが明けた9月、インドが事前のアナウンスどおり、WTOにおける主要国ないし途上国グループの代表約35カ国を招待し、デリーで非公式閣僚会合を主催した。会合では、ラクイラ・サミットで「ドーハ・ラウンド交渉の2010年までの妥結の追求」が合意されたことを受け、その実現のために今後どのように交渉を進めていくべきかについて専ら議論された。会合後のインド商工大臣による総括では、①9月14日の週にジュネーブにおいて高級事務レベルによる会合を開催し、作業工程を詰めていくこと、②交渉は、昨年12月までの成果を交渉の土台としていくこと、③マルチを主たるプロセスとして議論の透明性を確保しつつ、他のやり方(二国間・複数国間の協議)を通じて各国間の理解を深めていくこと、④LDCに配慮すること、⑤2010年までの妥結に向けて閣僚は引き続き進捗状況をレビューしていくこと、が本会合における成果のポイントとして示された。

閣僚からの指示を受け、9月15日からジュネーブにて開催された高級事務レベル会合でも、主に交渉プロセスに焦点をあてた議論がなされ、翌10月から12月まで毎月高級事務レベル会合を開催し、交渉の進捗を図ることが決定された。

9月24日、25日のG20ピッツバーグ・サミットでは、2010年中のドーハ・ラウンド妥結を目指し、多国間交渉に加えて二国間協議を促進すること、その成果を2010年初頭まで刈り取ることを各国貿易大臣に要請することが合意された。その後、11月14日、15日に開催されたAPEC首脳会議でも、保護主義的圧力に対抗し、世界経済の回復をするためには、2010年内の志の高くバランスの取れたドーハ・ラウンドの交渉妥結が最も有効な手段であること、交渉を加速し、最終的なパッケージを得るため、可能な限りの柔軟性を示し可能な限りのあらゆる手段を活用する用意があることが確認され、ラウンドを成功裡の妥結に導くためになすべきことについて緊密に協力し、2010年初めまでに進捗を評価することが閣僚に指示された。

11月30日から12月2日には、4年ぶりとなるWTO定期閣僚会議が開催され、我が国から経済産業大臣、農林水産大臣、外務副大臣が出席した。本会議で交渉の中身についての議論はなされなかったが、ドーハ・ラウンドが途上国における経済回復及び貧困削減にとって重要であることが再確認され、2010年中の交渉妥結及びそのための翌年第1四半期のストック・テーキング(進捗評価)の必要性、これに向け高級事務レベルのロードマップを準備することについて支持があった。
 

7.2011年中の妥結を目指した交渉の再活性化へ

2010年1月30日には、スイス・ダボスにおいてWTO非公式閣僚会合が開催され、我が国から経済産業大臣、農林水産大臣が出席した。3月に開催される予定の進捗評価会合は実施レベル(閣僚又は高級実務者)を予断せず、2月・3月に高級実務者で集中的に議論を行い、閣僚が判断すべき論点を絞り込むことで概ね一致がみられた。また、同日の昼食会では「貿易と環境」についての議論も行われ、気候変動と貿易との関連については、当面、COP(気候変動枠組条約締約国会議)での議論を見極めつつ対応していくべきとの意見が多数示されるとともに、WTOとしても、「貿易と環境」交渉において行われている環境物品・サービスの自由化交渉を引き続き進めていくことの重要性が確認された。

2月の高級実務者会合の結果、進捗評価会合は高級事務実務者で実施されることとなった。3月22~26日に開催された高級事務レベルによる進捗評価会合では、これまでの交渉状況を全般的に評価されたが、交渉期限については特段議論が行われず、ドーハ・ラウンド妥結に向けて全ての分野で交渉を続けていくことで合意された。今後はWTO事務局長が提示したカクテル・アプローチ(①各交渉グループ議長主導のプロセス、②透明性と包摂性のための貿易交渉委員会、③少数国・バイによる個別分野・分野横断的議論、の3つのプロセスの組み合わせによる交渉)に沿って、これまでの成果を基礎に実務的協議が進められることとなった。

進捗評価会合では、カクテル・アプローチによる交渉の継続が表明されたものの、具体的な交渉の進め方は決められていなかった。閣僚会合決裂以降の交渉停滞の主因は、2008年7月の合意案に加えて、新興途上国(中国、インド、ブラジル)に更なる市場アクセスを要求する米国と、これに反発し、途上国への配慮を強調する新興途上国の対立が解決されないことであった。しかし、不在が続いていた米国のジュネーブ大使が着任した5月以降、交渉打開の糸口を探るべく、ジュネーブにおいて実務レベルの様々な交渉形態が模索された。5月19~20日に開催されたEU・インド主催のG19高級事務レベル会合(最終的には20ヶ国が参加)はその一例である。

こうした中、一連の首脳/閣僚級の会合で、ドーハ・ラウンドに関する議論が行われた。5月27日には、OECD閣僚理事会に合わせてWTO非公式閣僚会合が開催された。同会合では、各国からラウンドの停滞が指摘され、最終的な着地点に関する大きな認識の差を埋めるべく、分野横断的な議論を推進し、政治的機運を高める必要性が共有された。

翌週6月5日及び6日には、札幌で外務大臣及び経済産業大臣が議長を務めるAPEC貿易大臣会合が開催され、「多角的貿易体制の支持と保護主義の抑止に関する閣僚声明」を閣僚声明と切り離した独立声明として発出した。声明ではラウンド妥結の期限は明示されなかったものの、ラウンドを可能な限り早期に妥結すべきとの決意が改めて確認された。また、開かれた貿易により裨益するAPECエコノミーとして交渉の主導的役割を担い、11月のAPEC首脳会議で進捗報告を行うことが合意された。続いて、同月26日及び27日のトロントG20サミットにおいて、首脳から、ラウンド交渉を早期に妥結すべきこと、11月のソウルG 20サミットで交渉の進捗状況を報告すべきことが指示された。

トロントG20サミットの後、7月7~8日に行われたEU・インド主催のG23高級事務レベル会合において、今後の進め方について問題提起がなされた。これを受け、個別論点ごとに交渉ではなく問題解決を目指した議論を行うための会合として、G11の大使を中心としたブレインストーミング会合を開催するアイディアが提示された。7月中に試験的に実施された漁業補助金と開発についての会合が新たなダイナミズムとして評価されたことを受け、夏休み明けの9月から、G11各国に論点毎に異なる数カ国を加えて大使級ブレインストーミング会合が実施された。同会合は、大使レベルで相互理解を深め、問題点を洗い出すプロセスとして有益だと評価されたが、交渉の実質的進展を目指したものではなく、この結果を具体的な交渉の進展に繋げることが求められた。

2010年11月には、横浜APEC閣僚会議(10~11日)、ソウルG20サミット(11~12日)、横浜APEC首脳会議(13~14日)が開催された。一連の会議では、ラウンドをバランスのとれた野心的な妥結に導くとの決意が改めて確認され、2011年を極めて重要な「機会の窓」として、最終段階に向けた包括的な交渉を行う決意が示された。「機会の窓」とは、2012年には米国の大統領選挙をはじめ各国の政治日程が重なるため、2011年が早期妥結のチャンスであるとの認識から生まれた言葉である。さらに、G20サミット及びAPECでは、首脳から交渉担当者へ積極的かつ実質的な交渉に関与するよう指示し、権限を付与することが表明された。

こうしたG20サミット及びAPECの結果は、11月30日の非公式貿易交渉委員会において、WTO事務局長から2011年中のラウンド妥結に向け強い政治的メッセージが発出できたと評価された。WTO事務局長は2011年夏前までの実質合意を目指し、1月から各交渉グループで集中的に議論を行い、改訂議長テキストを発出する作業計画を示し、各国もこれに同意した。12月6日には、それまで大使レベルの会合であったG11に高級実務者が参加し、その後の具体的な交渉の進め方が議論された。この会合により、2011年内の妥結に向け、年明けから農業、NAMA、サービスなどの分野横断的な議論を開始することになった。

翌2011年、例年より早い1月10日から交渉会合が開始され、2011年の「機会の窓」を活かすべく、改訂議長テキスト発出に向けて交渉官レベルで集中的議論が行われた。1月24日にはG11大使・高級実務者会合で初めて農業、NAMA、サービスの市場アクセスに関する実質的な議論が行われた。

閣僚レベルでは、1月28日に、例年のダボスにおけるWTO非公式閣僚会合に合わせてEUがG7閣僚夕食会を主催し、我が国からは経済産業副大臣が出席した。G7各国の担当閣僚のほとんどは2008年7月の閣僚会合の決裂以降に交代しており、主要国の現閣僚間で信頼関係を構築する貴重な機会となった。

翌29日のスイス主催のWTO非公式閣僚会合では23ヵ国・地域の閣僚が集まり、我が国からは経済産業大臣及び農林水産副大臣が参加した。WTO事務局長より、2010年11月のAPEC及びG20サミットにおける首脳の合意を受けて1月から行われている集中的交渉を加速し、4月のイースターまでに改訂議長テキストを発出し、7月の実質合意を目指すべきとのスケジュールが提示された。大半の国は2011年中の妥結を目指すことに賛同し、WTO事務局長の提示した交渉スケジュールが共有され、その後、ジュネーブにおいて主要国大使・高級実務者レベル等による会合・バイ会談が集中的に行われた。
 

8.交渉の危機表明と第8回定期閣僚会議

2011年4月21日、各交渉議長から、現在の交渉状況を反映した形での議長報告書(一部は改訂テキスト)が発出された。全交渉分野でまとまった文書が初めて揃うことになり、妥結に向けた包括的な検討材料として評価できる一方、文書は概ね交渉の現状を反映した報告書に留まり、当初目指していた7月の実質合意に向けた叩き台となるようなテキスト発出には至らなかった。また、WTO事務局長は冒頭文書で、鉱工業品の関税交渉を巡り現状では「橋渡しできない」明確な政治的ギャップがあると指摘し、「ラウンドにとって危機的状況である」と明言、今後の進め方について熟考するよう問題提起を行い、各方面で2011年の交渉の新たな着地点を巡る議論が始まった。

続く5月3日の一般理事会にて、WTO事務局長は、ドーハ・ラウンドのみでなく多国間貿易体制全体のために、加盟国全体で責任を共有した上で努力をすべきであり、12月の定期閣僚会議に向け、2011年中に成果を出すため、これまでのやり方を超えたアプローチが必要との認識を示した。具体的には、まず5月の一連の閣僚プロセスから、ジュネーブに政治的インプットがもたらされることが期待された。閣僚プロセスとしては、5月19日に米国モンタナ州ビッグスカイでAPEC貿易担当大臣会合が、5月26日にフランス・パリでWTO非公式閣僚会合(豪州主催)が開催され、年内妥結は困難との認識が共有された。パリでは、最終的な一括受諾の目標を諦めることなく、12月の定期閣僚会議に向けて一定の成果を出すべく、今後の進め方につきジュネーブで事務レベルの議論を進めることで概ね合意された。

一連のまとめとして、WTO事務局長は5月31日に非公式貿易交渉委員会会合を開催し、12月の定期閣僚会議の成果として、①LDC案件を優先させること、②開発要素を含むLDC案件以外の要素(LDCプラス)が必要であること、③NAMA、農業、サービスの市場アクセス、貿易救済措置、TRIPs関連事項は成果の候補とは見られていないことを明らかにした。加盟国とのコンサルテーションの結果、WTO事務局長は翌6月22日の非公式貿易交渉委員会で、ドーハ宣言パラ47にのっとった部分合意の成果を12月までに追求することとし、成果の候補としてLDCプラスのパッケージ案を示した。パッケージ案は、他のイシューを排除するものではないとしつつも、LDC案件として2005年の香港閣僚宣言にも含まれている無税無枠(DFQF)、原産地規則、綿花、サービスLDCウェーバー(サービス貿易のLDC向け特恵制度)が、「プラス」の候補案件として貿易円滑化、農業の輸出競争、S&Dモニタリングメカニズム、漁業補助金、環境物品・サービスが示され、交渉を開始するよう呼び掛けられた。その後、WTO事務局長が主催する少数国大使会合を中心に、ジュネーブ大使レベルでイシュー毎の議論が集中的に行われたが、議論はまとまらず、夏前の最後の非公式貿易交渉委員会(7月26日)にて、12月までにLDC プラスのパッケージに合意することは困難との結論を得た。9月以降は、12月の定期閣僚会議に向けて、ドーハ・ラウンド以外のWTOの定常作業計画と、ドーハ・ラウンドの12月以降の行動計画に関する議論を中心に進めることとなった。

まず9月7~9日にカナダのサスカトゥーンで開催されたケアンズ・グループ閣僚会合には、ケアンズ・グループ(豪、加など農産物輸出国18ヵ国)の他、日、米、EU等が参加し、交渉の停滞状況を憂慮しつつ、率直な議論を通じ、前進のための明確かつ現実的な道を開く必要性を共有した。

続いて11月のG20カンヌ・サミットでは、交渉を進めるために斬新で、信頼性のあるアプローチを追求する必要性を共有した。閣僚に対して、年末の第8回WTO定期閣僚会議(MC8)でこのようなアプローチに取り組むよう、また、グローバル化する経済の中での多角的貿易体制に対する課題及び機会に関する議論を行い、2012年のG20メキシコ・サミットまでに報告することを指示した。さらに同月に米国ハワイで開催されたAPEC閣僚・首脳会合でも、ドーハ・ラウンドの新たな斬新で信頼あるアプローチの探求を、MC8で開始する決意が確認された。同時に、貿易等の新たな障壁を引き上げない措置の約束(スタンド・スティル)を2015年まで延長するなど、保護主義抑止の重要性が再確認された。

ジュネーブでは、LDCプラスのパッケージの合意が困難との結論が出てから、MC8に向け、ドーハ・ラウンドに限らず、WTOに基づく多角的貿易体制の機能強化、保護主義抑止への取組等、幅広いイシューに関して議論が重ねられた。

12月15日~17日、ジュネーブで開催されたMC8には、我が国から経済産業大臣、外務大臣政務官、農林水産大臣政務官が出席した。MC8では、閣僚決定として、サービスLDCウェーバーなど7つの合意がなされたほか、①多角的貿易体制とWTOの強化、②貿易と開発、及び③ドーハ・ラウンドに関する政治的ガイダンスを含む議長総括が発表された。③について、近い将来の合意は困難であることを認めつつも、交渉をあきらめず、新たなアプローチを見出す必要性を共有し、進展が可能な分野で、先行合意を含め議論を進めることが約束された。また、保護主義抑止について、経済産業大臣を始め複数の閣僚から、新たな貿易制限措置を控えるスタンドスティル約束と、既に導入された措置を是正するロールバックを決意することが主張され、議長総括(議論の総括部分)に反映された。さらに、MC8では、WTO非加盟国のうち最大の経済大国であるロシアのWTO加盟が承認されたほか、14年間に渡った政府調達協定改正交渉が大筋合意に至り、自由貿易体制の一層の強化に貢献するものとなった。
 

9.第9回定期閣僚会議に向けた先行合意分野の模索

2012年1月28日、MC8終了後、初めて主要国閣僚が集まる機会となったダボスにおけるWTO非公式閣僚会合には、経済産業大臣及び農林水産副大臣が出席した。会議ではMC8で合意されたドーハ・ラウンドの「新たなアプローチ」に焦点が当てられ、現実的に、プラグマティックに進めるべきとの共通見解が得られ、具体的にはジュネーブでの技術的作業に委ねられた。

4月19日~20日にかけてメキシコ・プエルトバジャルタで開催されたG20貿易大臣会合では、OECD、WTOからグローバル・バリュー・チェーンについての研究報告がなされ、貿易円滑化の重要性について参加国間で一致し、貿易円滑化は進展が見込まれる有望分野であるとの共通認識が形成され、他の交渉分野とリンクさせずに進めることで一致した。その後、5月23日にフランス・パリで開催された豪州主催WTO非公式会合、6月4日~5日にロシア・カザンで開催されたAPEC貿易担当大臣会合、9月5日~6日にロシア・ウラジオストクで開催されたAPEC閣僚会議等を通じて、主要国間で貿易円滑化交渉の技術的議論を進展させることで一致する一方で、一部の途上国からは貿易円滑化の進展には、農業分野での成果が必要と強く主張された。

こうした情勢も踏まえて、貿易円滑化交渉では、統合テキスト案(事実上の貿易円滑化協定案)について具体的かつ技術的な議論が継続的に重ねられ、徐々に進捗が見られた。農業交渉については、新興国を中心とする開発途上国グループが、9月にはブラジルが主導する形で関税割当枠の透明性の確保や運用方法の規律強化に関する提案を行うとともに、11月にはインドが主導する形で途上国による食料安全保障目的の公的備蓄制度を政府支払い削減義務の対象外とする提案が行われ、これらについて進展可能な項目であるとして合意を求めた。

2013年1月26日、スイス・ダボスで開催されたスイス主催WTO非公式閣僚会合には我が国から経済産業大臣、農水副大臣が出席し、第9回WTO定期閣僚会議(MC9)で目指す成果とその達成方法について議論がなされた。同会合では、MC9の成果として貿易円滑化、一部の農業関連提案、開発分野が挙げられ、春頃に進捗状況を評価することで一致した。

4月11日に開催された非公式貿易交渉委員会(TNC)において、WTO事務局長(当時)は、貿易円滑化、農業の一部、開発の分野の進捗がMC9で成果を得るには不十分であり、各国は柔軟性を示すべきと報告し、一部の国からはMC9が失敗に終わればドーハ・ラウンドは失敗に終わると現状への強い懸念が示された。その後ジュネーブで続けられたMC9に向けた交渉の進捗は芳しくなかったものの、4月20日~21日にインドネシア・スラバヤで開催されたAPEC貿易大臣会合、5月30日にフランス・パリで開催された豪州主催WTO非公式閣僚会合等を通じて、貿易円滑化、農業の一部、開発からなるMC9の成果(バリ・パッケージ)への閣僚のコミットメントが繰り返し確認された。
 

10.第9回定期閣僚会議

2013年9月のWTO新事務局長就任以降、MC9の成功を目指し、10月末までのバリ・パッケージ妥結を目標に交渉が加速され、10月4日~8日にインドネシア・バリで開催されたAPEC閣僚・首脳会議においても、バリ・パッケージの交渉をMC9開始前にまとめるべく一層努力することが確認された。貿易円滑化、農業、開発の3分野のうち、政治的対立が比較的少ない開発については進展が見られたものの、貿易円滑化と農業については交渉が難航した。貿易円滑化については、論点を全て収束させることができず、また、農業の途上国による食料安全保障目的の公的備蓄提案については、政府支払い削減義務に違反した場合であってもWTO紛争解決機関に持ち込むことを自制する適用期間に関して、恒久的な解決策を求めるインドとそれに反対する米国が折り合わなかったため、合意に至らなかった。WTO事務局長は交渉期限を順次延長し、ジュネーブでの交渉を続けたものの、最終的には11月26日に開催された一般理事会において、最終合意目前に迫りながら合意に至らず、「MC9において閣僚間で交渉することは現実的ではないが、今後の対応について加盟国間で議論をして欲しい」と報告して、ジュネーブでの交渉を終了した。

このWTO事務局長の報告を受け、多くの国から同事務局長の交渉妥結に向けた努力を支持し、MC9最終日まで交渉妥結に向けた努力を続けるべきとの声があがるとともに、その後、貿易円滑化の途上国支援についてはLDCグループと主要関心国との間で合意が成立するなど一定の進展があった。一方で農業分野は合意に至らず、MC9においてバリ・パッケージに合意できるか否か不透明なまま12月3日からMC9に突入した。

MC9開会後は、食料安全保障目的の公的備蓄提案に関するインドと米国の交渉動向に注目が集まった。インドはステートメントにおいても食料安全保障について恒久的な解決が必要である旨強く主張するなど引き続き自国の立場を堅持し、バリ・パッケージ成立が危ぶまれた。会合中、米印間の水面下での交渉が当初の会議予定を超過し最終日(12月6日)の深夜まで続けられた結果、最終的にはWTO紛争解決機関に持ち込むことを自制する適用期間を定めないことで合意に至った。最終案に対して一部の国による強硬な反対も見られたが、最終的にはWTO事務局長の精力的な調整によって翌7日午前の閉会式で全会一致で合意に至った。

MC9で合意された貿易円滑化は、税関手続の簡素化及び透明化を通じて我が国企業のグローバルな活動を支えるものであると同時に、協定が発効すれば1995年のWTO設立以来初の全加盟国による協定となるものである。MC9は、停滞していたドーハ・ラウンド交渉において画期的な成果を挙げ、WTOの交渉機能の信認維持に大きく貢献した。
 

11.第9回定期閣僚会議後のドーハ・ラウンド交渉及び貿易円滑化協定に関する議定書の採択

バリ閣僚宣言(バリ合意)では、バリ・パッケージに加え、残るドーハ・ラウンドの交渉事項の進め方について12か月以内に作業計画(ポスト・バリ作業計画)を策定することについても合意した。2014年1月25日にスイス・ダボスで開催されたスイス主催WTO非公式閣僚会合には、我が国から経済産業大臣と農林水産大臣が出席し、MC9後のWTO交渉の進め方について議論が開始された。同会合ではポスト・バリ作業計画について、農業、非農産品の市場アクセス、サービスなどの分野間の相互関連性を考慮すること、プロセスの透明性及び包括性が重要であること、実現可能性と野心のバランスに注意を払うべきこと等について発言があった。これを踏まえ、2月10日の貿易交渉委員会(TNC)では、「開発が中心」、「実現可能性」、「分野間の相互関連性」、「創造性」、「透明性及び包括性」、「危機感」からなる6つの交渉指針が事務局長から提示され、加盟国間で引き続き議論を続けていくこととなった。

その後の議論を通して、農業、非農産品の市場アクセス、サービスの3分野がポスト・バリの中心であり、農業が全体の野心の水準を定め得るとの一定の共通認識が生まれた。しかし、新興国に応分の負担を求める先進国と、その他の途上国以上の責任を拒否し、途上国優遇を盛り込んだ2008年の議長テキストの維持を主張する新興国が、議論の入り口で対立した。5月7日にフランス・パリで開催された豪州主催WTO非公式閣僚会合において、事務局長は、問題解決に向けた具体的な対話・協議を行う第2ステップに移行すべきと述べ、各国が譲歩できる余地について協議することを求めた。

5月17日~18日、中国・青島で開かれたAPEC貿易担当大臣会合では、6つの交渉指針の支持や作業計画の年内策定へのコミットメントなどが表明されたほか、MC9で合意された7月末の期限までに貿易円滑化協定をWTO協定に追加するための改正議定書を採択することも確認された。同協定の形式的文言に関する法的整理も5月に完了し、議定書の作成作業が進められた。

しかし、7月に入ると、協定履行に係る支援への不安等から採択を憂慮していた一部途上国に同調する形で、インドが、食料安全保障目的の公的備蓄に関する作業が遅れているとして、途上国にとっての問題が解決されない限り議定書のコンセンサスに参加できないと主張するようになった。7月19日に豪州・シドニーで開催されたG20貿易大臣会合ではバリ合意の完全実施で一致したものの、7月24日から開催された一般理事会において、インドは、食料安全保障目的の公的備蓄制度に関する恒久的解決の期限について、MC9で合意された「2017年末」ではなく「2014年末」までに結論を得るべきであり、それまでは議定書の採択を延期すべきと新たに主張した。係る要求はバリ合意の内容を変更しかねないことから、日米EUのみならず、中南米、アセアン、アフリカなど多数の途上国も深い懸念を示したが、インドの立場は変わらなかった。結果、7月31日深夜、一般理事会は議定書の採択を行わずに終了し、事務局長は、期限内に採択が行われなかったことは単なる作業遅延でなく、他のすべての作業に重大な結果をもたらし得るものであると説明するとともに、今後の作業の進め方について、各国とも首都で検討した上で議論を行うことを呼びかけた。

9月15日の貿易交渉委員会(TNC)や10月21日の一般理事会などにおいて、状況を打開するための議論が交わされたものの、特段進展は見られなかった。11月7日~8日、11月10日~11日にそれぞれ中国・北京で開かれたAPEC閣僚会議及びAPEC首脳会議では、WTOの交渉機能の信認に影響を与えているとして、貿易円滑化協定の実施に関する行き詰まりに対し重大な懸念が表明され、全てのバリ合意事項を軌道に戻すべく他の加盟国とともに作業を進めていくことで一致した。

こうした中、11月13日、米国とインドが、二国間で貿易円滑化協定に関する議定書の採択に合意するとともに、食料安全保障目的の公的備蓄の扱いについて相互理解に達した旨発表した。この進展を受けて、議定書の採択に向けた最終的な調整が行われ、11月27日に開催された一般理事会において全会一致で以下の合意が成立した。

 

<2014年11月27日の一般理事会決定(計3件)>

①食料安全保障目的の公的備蓄について、各国はWTOの紛争処理手続に提訴しないとする措置が、恒久的解決が採択されるまで継続することを確認(期限の明確化)。恒久的解決を2015年末までに得るよう最大限努力する。
②貿易円滑化協定をWTO協定に追加するための改正議定書を採択。今後、同協定は全加盟国の3分の2以上の受諾で発効する。
③ポスト・バリ作業計画を2015年7月末までに策定する。
 

上記一般理事会決定を受けて、7月以降停滞していたポスト・バリの議論が再開された。1月24日にスイス・ダボスで開催されたWTO非公式閣僚会合には、我が国から宮沢経済産業大臣が出席し、2015年7月末までの作業計画策定に向けた交渉の進め方について議論を行った。同会合では、設立20周年にあたる2015年がWTOにとって極めて重要な年であり、12月の第10回定期WTO閣僚会議(MC10)では具体的な成果が必要との認識が共有された。作業計画については、新たなアプローチの検討や野心の水準の再調整などへの言及があり、交渉の大きな進展に向けての機運が高まった。これを受け、2月以降、農業、NAMA及びサービスの分野において、交渉議長が非公式全体会合や少数国会合を開催し、特に農業やNAMAでは、一部先進国が関税削減方式の簡素化を示唆した。

5月23日、フィリピンで開催されたAPEC貿易大臣会合では、宮沢経済産業大臣が、ドーハ・ラウンドの早期妥結や実際的かつ現実的な作業計画を7月末までに策定する必要性を訴え、多くの閣僚間で一致し、6月4日、パリで開催されたWTO非公式閣僚会合でも、作業計画を7月末までに策定する必要性で一致した。しかしながら、その後の議論でも主要論点について合意できず、7月31日の期限までに作業計画は策定できなかった。7月31日のTNC(貿易交渉委員会)会合において、アゼベド事務局長は、作業計画は策定できなかったものの、第10回WTO閣僚会議(MC10)で具体的な成果を得るためには、各国とも柔軟性及び政治的コミットメントを示す必要があると総括し、9月以降交渉を加速化させる必要性を呼びかけた。

9月15日、16日の少数国の高級事務レベル会合/大使級会合において、農業の国内支持や市場アクセス、NAMAの市場アクセス等で成果は見込めず、①農業の輸出競争、②LDC、③サービスの国内規制やルール分野(AD、漁業補助金等を含む)の透明性をナイロビのミニパッケージとするとのアイディアが出されたが、10月以降の議論では、論点を絞り込むことへの反対意見も多く、ナイロビ閣僚会議後のドーハ開発アジェンダの扱いや新しい事項についても大きな論点となったため、①~③のいずれについても調整がつかず、閣僚宣言について未調整のままMC10を迎えることとなった。
 

12.第10回定期閣僚会議

12月15日よりケニア・ナイロビでMC10が開催された。全体会合では、林経済産業大臣が政府代表演説を行い、多角的貿易体制の強化の重要性を指摘するとともに、具体的な取り組みとして、①ドーハ開発アジェンダは、これまでのやり方では成果が出来ない中で、新しいアプローチを考えていくことが必要、②最終局面に来ているITA拡大交渉の妥結を目指し最大努力すること、③電子商取引など新しい時代に即したルール作りに真剣に取り組むことが必要、④過剰設備問題の顕在化などを背景に、保護主義的な動きの連鎖を抑制してくことが必要、である旨主張した。

日本が議長国を務めていたITA拡大交渉は、関係国の調整がつかないまま閣僚会議を迎え、MC10期間中の妥結が危ぶまれたが、MC10で成果を出すべきとの認識のもと各国の努力により、最終妥結し、12月16日に参加メンバーによる閣僚記者会見を行った。ITA拡大交渉の妥結は、18年ぶりの、先進国と途上国が参加する大型関税交渉の妥結であり、WTOの交渉機能が保たれている証左となった。

また、ドーハ・ラウンド交渉については、農業の輸出競争(輸出補助金撤廃、輸出信用の規律強化等)、開発をめぐり先進国と途上国の立場の隔たりが大きく交渉が決裂しかけたが、アフリカ初のWTO閣僚会合を失敗させることはできないというケニア政府、アゼベド事務局長の強い決意の下、夜を徹した交渉を行った結果、各国が歩み寄りを見せ、農業や開発分野での合意を含む閣僚宣言を採択した。MC10後の交渉プロセスについては、ドーハ・ラウンド交渉のマンデートの再確認を求めるインド、中国等の途上国と、「新たなアプローチ」を主張する米、EU、日本等の先進国が対立した。最終的には、閣僚宣言に双方の主張を両論併記する形で決着し、また、新たな課題への取組を求める国があることも明記された。

MC10以降の議論では、2016年のG7首脳宣言、G20、APECの各首脳会合、貿易担当大臣会合の宣言文に見られるように、新たな課題への取り組みの重要性が引き続き取り上げられている。新たな課題としては、中小企業、投資及びグローバル・バリューチェーン(GVC)等もあるが、各国の関心が特に強いものは、電子商取引である。2016年7月のWTO電子商取引特別会合では、多くの国から電子商取引に関する論点や必要と考えるルールについて提案が出され、我が国からも、具体的ルール形成において積極的に参画すべく、TPPの電子商取引章の主要規律(データのフリーフロー原則、サーバ等の現地化やソースコードの開示要求禁止)をベースにした提案を行った。他方、交渉の進展を警戒する新興国・途上国からは、開発に焦点をあてた主張が展開され、議論は停滞している。

2017年1月にダボスで開催されたWTO非公式閣僚会合では、第11回定期閣僚会議(MC11 於ブエノスアイレス)に向けては、実現可能な分野について、具体的で的を絞った議論を始めるべきとの意見が多数を占めた。具体的には、電子商取引、漁業補助金、農業の国内補助金、中小企業、投資の円滑化等といった課題が挙げられている。
 

最終更新日:2017年9月8日
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