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WTOの紛争解決

 WTO協定の一つである「紛争解決に係る規則及び手続に関する了解」(“Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of Disputes”, 略称は“Dispute Settlement Understanding”, DSU)は、通商案件を巡る紛争を解決するための手続を規定しています。

 WTO設立前、GATTの時代には、紛争処理に関する手続は個別協定やGATT本体の中に規定されていました。しかし、従来の手続では、パネル(案件を審理する小委員会)の設置や、パネル報告の採択(小委員会が下す“判決”の確定)が、GATT理事会におけるコンセンサス(全会一致)により行われていたため、被提訴国の抵抗でパネル設置が遅れたり、敗訴国がパネル報告の採択をブロックしたりするなど、手続の実効性が必ずしも十分確保されていませんでした。また、そのような制度上の問題を背景に、政治的に大きな力を持つ国が、GATTの枠組みの外で一方的な制裁措置の発動を圧力として通商紛争の解決を図ろうとする動き(米国による「通商法301条」が代表的なケース)も問題となっていました。

 そこで、ウルグアイ・ラウンド交渉の成果の一つとして取りまとめられたのが、現行のDSUです。DSUにおいては、従来の手続から主に以下の改善が図られました。

(1)パネル手続の自動化・迅速化
→パネル設置や報告の採択等について、「逆コンセンサス方式」(全会一致で反対されなければ了承)の採用により各種決定手続が自動化されました。また、手続の遅延を防ぐため、手続の各段階について詳細な時間枠組みが規定されました。


(2)二審制の導入
→決定手続の自動化の一方で、十分な審理の機会を確保するため、パネル報告に不服がある場合は、上級審的な役割を持つ上級委員会に上訴できることとなりました。


(3)一方的な制裁措置の禁止
→WTO協定違反の措置による利益の侵害を回復するためには、WTO協定に基づく紛争解決手続を利用しなければならないと規定し、同手続を経ない一方的な制裁措置の発動を禁止しました。

 このような改善によって手続の実効性が高められたことで、WTO加盟国による紛争解決手続の利用機会は飛躍的に高まりました。WTO設立から現在まで、既に530件を越す紛争案件がDSUに基づき処理されています。ガットの下での紛争案件が1948年から94年の46年間で314件だったことを考えれば、現行のDSUがいかに加盟国から信頼され、活用されているかが解ります。

 このように、実効性の高められたWTO紛争解決手続は、単に紛争を解決する手段としてだけではなく、今や、加盟国によるWTO協定の遵守を確保するものとして、非常に重要な役割を果たしているのです。

WTOにおける紛争解決の流れ

 DSU第1条1は、同了解が適用される協定を以下のとおり規定している。

1. 本了解の附属書1に掲げる協定の協議及び紛争解決に関する規定に従って提起される紛争
2. WTO設立協定及び本了解に基づく権利及び義務に関する加盟国間の協議及び紛争解決

この規定に基づいて、具体的に適用される協定の代表的な例は次のとおりである。

・世界貿易機関を設立する協定
・関税及び貿易に関する一般協定(GATT)
・農業に関する協定
・衛生植物検疫措置に関する協定(SPS)
・貿易の技術的障害に関する協定(TBT)
・貿易に関連する投資措置に関する協定(TRIMs)
・1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定(アンチ・ダンピング協定)
・補助金及び相殺措置に関する協定(SCM)
・セーフガードに関する協定(SG)
・サービスの貿易に関する一般協定(GATS)
・知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPS)
・政府調達に関する協定(GPA)

 WTOの紛争解決におけるプロセスは次のとおりとなっている。

(1) 協議

 従来からGATTは、二国間協議を非常に重視してきており、二国間協議によって紛争が解決した事例も多い。GATTにはGATT第8条第2項(輸出入に関する手数料及び手続につき他国から要請を受けたときは、自国の法令の実施につき検討しなくてはならない旨規定)、「制限的商慣習に関する協議についての1960年GATT決定」(国際貿易における競争を制限する商慣習につき他国から協議要請を受けたときは、誠実な考慮を払い、協議のための適切な機会を与えなくてはならない旨規定)等全く独自の手続も存在するものの、パネル手続に先立つ、より「正式」な協議を規定する中心的条項としては、GATT第22条第1項及び第23条第1項が挙げられる。

 ①GATT第22条協議及び第23条協議

 両規定の違いとして、前者のGATT第22条に基づく協議においては、協定の運用に関するものであればいかなる問題についても申立てを行うことができる一方、後者のGATT第23条に基づく協議では、以下のとおり、協議の対象とできる措置に一定の制限が課されている点が挙げられる。すなわち、加盟国は、「(a)他の加盟国がこの協定に基づく義務の履行を怠った結果として、(b)他の加盟国がこの協定の規定に抵触するかどうかを問わず、何らかの措置を適用した結果として(c)又はその他の何らかの状態が存在する結果として、この協定に基づいて直接若しくは間接に自国に与えられた利益が無効にされ、若しくは侵害され、又はこの協定の目的の達成が妨げられていると認めるとき」は、当該他の加盟国に協議を申立てることができる旨規定されており、「協定上の利益の無効化・侵害」に関する紛争案件がその対象となる。また、2種類の協議におけるその他の相違点として、第三国参加が22条協議にしか認められないことが挙げられる。同様の区別はサービス協定第22条と第23条との間においても見られる。

②DSU第4条協議

 WTOの下における紛争解決手続を定めたDSUは、GATT第22条及び第23条に定められた従来のGATTの紛争手続の基本原則を踏襲することを定めている(DSU第3条1項)。協議手続に関してもDSU第4条に規定が置かれており、申立てを受けた国は、これに対し好意的な考慮を払い、かつ、その申立てに関する協議のため適当な機会を与えなければならない。また、協議においては、当該問題につき満足すべき調整を行うよう努めるべきとされている。 DSU上の協議要請は、協議要請の理由、問題となっている措置及び申立ての法的根拠を書面に示し、相手側に送付するとともに、WTOの紛争解決機関(DSB:Dispute Settlement Body)等に通報を行うことで成立する(DSU第4条4)。要請を受けた相手国は、要請を受けた日の後10日以内に回答を行い、かつ、相互に満足すべき解決を得るため、原則として要請を受けた日の後30日以内に誠実に協議を始めなければならない(DSU第4条3)。協議要請文書は当事国以外のWTO加盟国にも配布され、当事国以外の加盟国のうち、当該案件に関心を有する国は、第三国として参加を要請することができる。なお、被申立国は、第三国参加要請国に「実質的な貿易上の利害関係」がないことを理由に第三国参加要請を拒否することができることとされている(DSU第4条11)。

(2)小委員会(パネル)手続き

①パネル設置

 協議により満足すべき調整が行われなかった場合、GATT第23条第2項は、加盟国に対し前述のような「協定上の利益の無効化・侵害」に係る申立て事由につき紛争解決機関(DSB:Dispute Settlement Body、旧GATTの下では「締約国団」)に付託することを認めている。
 旧GATTの下では、紛争案件が締約国団へ付託されると、紛争当事国及び中立国によって構成される「作業部会」に案件が移されることもあった。「作業部会」は、当事国の主張を整理し議論をするが、法的判断を下すことまでは求められず、一種の交渉の場として機能し、紛争解決が図られていた。しかしその当時にも、政府・団体の代表としてではなく個人の資格で職務を遂行するパネリストによって構成され、当該紛争について主に法的観点から判断を下す「小委員会(パネル)」方式も存在し、その後は「小委員会方式」が定着した。また、WTO紛争解決手続では二審制が導入され、上級委員会が設置された。なお、GATTの規定上は、第23条第2項に基づきパネル設置をするために、第23条第1項に基づいて協議を経る必要があるが、慣行上は、第22条協議を行えば、第23条協議を経ずにパネルが設置できるとされてきた。
 WTO紛争解決手続においては、GATT第22条協議とGATT第23条協議を区別せず、被申立国が協議要請を受領した日の後60日以内に協議によって紛争が解決しなかった場合には、申立国はDSBに対し、文書でパネル設置を要請できる(DSU第4条7)。パネル設置を要請する文書には、協議が行われたという事実の有無及び問題となっている特定の措置を明記し、更に被申立国のどのような措置が協定に非整合的であるか等を記載する必要がある(DSU第6条2)。パネル設置要請文書の内容は、パネルの付託事項(terms of reference)を決定する効果があるので、極めて重要である。
 DSBの意思決定は原則コンセンサス方式とされているものの、小委員会の設置(第6条1)、小委員会及び上級委員会の報告の採択(第16条4、第17条14)、対象協定に基づく譲許その他の義務の停止の承認(第22条6)に関しては、DSBの会合に出席している加盟国のすべてが反対しない限り決定が行われる、いわゆる「ネガティブ・コンセンサス方式」が採用されている。DSBが小委員会を設置することについて限って述べれば、DSU第6条2に「小委員会を設置しないことが紛争解決機関の会合においてコンセンサス方式によって決定されない限り、遅くとも当該要請が初めて議事日程に掲げられた同機関の会合の次の会合において小委員会を設置する」と規定されている。
 なお被申立国は、パネル設置の承認に対して1回だけ拒否権を行使できることとなっており(DSU第6条1)、ほとんどの場合、第1回目のパネル設置要請においてはパネル設置に同意しない。このため、大半の場合、当該案件が議題として登録された2回目のDSB会合においてパネル設置が認められ、パネルが設置されることとなる。なお、パネル設置が承認される場ないし、パネル設置後10日以内に、当該案件に利害関係を有する等の理由から第三国参加を希望する加盟国はその意思を表明する必要がある。

②パネル構成

 パネルが設置された後はパネリストの選任手続に進むことになる。パネリストの選任は通常WTO事務局によるパネリスト指名の提案に基づいて行われる(DSU第8条6)。一般的には、WTO事務局が当事国を招集し、出身地域、職歴、専門性等、どのような条件のパネリストが望ましいか又は望ましくないかについて両当事国から聴取する。その後、事務局は、6名程度のパネリスト候補者の名前と略歴が記されたリストを作成し、両当事国に対して提示する。紛争当事国及び第三国参加した国の国民は、紛争当事国が別段の合意を行った場合を除いてパネリストを務めることはできないとされている(DSU第8条3)。
 両当事国は、「紛争当事国は、やむを得ない理由がある場合を除くほか、指名に反対してはならない」(DSU第8条7)とされているものの、反対の理由がやむを得ないか否かについては緩やかに解釈されているため、事務局から数度にわたって候補者が提示されても双方から受け入れられない場合も多い。なお、パネル設置20日以内にパネリストについて合意がなされない場合、事務局長が当事国等と協議の後、パネリストを決定することとなっている(DSU第8条7)。

③意見書の提出

 パネルが構成されると、パネリスト、事務局及び当事国が参加し、パネル手続の日程及び検討手続を確定するためのパネル組織会合が開催される。続いて、パネルの構成から3週間ないし6週間を経て、申立国は、問題の事実関係及び自国の主張を示す意見書をパネルに提出する。また、申立国の意見書受理後、2週間ないし3週間を経て、被申立国は意見書をパネルに提出する(DSU附属書三の12)。意見書の構成についてDSUにおいて特段の規定はないが、①序論、②背景となる事実、③手続的論点、④法的主張、⑤結論、の5つから構成されている例が多い。
 意見書の公開については、「小委員会の審議及び小委員会に提出された文書は、秘密のものとして取り扱われる。この了解のいかなる規定も、紛争当事国が自国の立場についての陳述を公開することを妨げるものではない」(DSU附属書Ⅲの3)と規定されており、当事国が自らの意見書を公開することは認められている。実際に、米国やEUは自国の意見書の多くを公開しているほか、我が国も自国の意見書の一部について、ウェブ上で公開している。

④パネル会合

 パネル会合は通常2回行われる。パネル会合は、法廷のような特別の設備において行われるわけではなく、WTO建物内の通常の会議室を用いて行われ、慣行により、他のWTOにおける会議と同様、原則、非公開とされている。パネル会合は通常、1~3日間開催される。
 第1回パネル会合は、被申立国からの意見書受理後1~2週間後に開催される(DSU附属書Ⅲの12)。第1回パネル会合は、はじめにパネル議長から会合の進め方について簡単な説明が行われ、続いて申立国、被申立国の順に提出した意見書についての口頭陳述が行われる。その後、パネルから当事国に対して質疑応答等が行われるほか、紛争当事国間で質疑応答が行われる場合もある。次に第三国会合が開催され、第三国のステートメント、質疑応答の順で進行される。原則として第三国参加国が参加できるのは第三国会合のみであり、当事国会合には参加できない。
 第2回パネル会合は、第1回パネル会合開催後、通常2か月から3か月後に開催される。第2回パネル会合では、主に第1回パネル会合における相手国の主張に対する反論が行われる。第1回パネル会合と異なり、第2回パネル会合の際に第三国会合は行われないほか、当事国で特別な合意を行わない限り、第三国参加国は、意見書の提出も行うことができず、当事国が提出する意見書も入手することもできない。

⑤中間報告書

 第2回パネル会合後、パネルから当事国へ中間報告書(秘密扱い)が送付される。中間報告書にはパネルによる事実認定及び結論が記述されており、当事国は、中間報告書において初めて自国の主張が認められたか否かについて知ることができる。中間報告書の内容について、当事国は技術的な部分について意見を提出し、修正を求めることができる。

⑥最終報告書

 DSUにおいて、パネルの構成及び付託事項について合意された日から最終報告書が当事国に送付されるまで「原則として6か月を超えない」とされている(DSU第12条8)。なお、パネルが6か月以内に報告書を送付することができない場合には、送付するまでに要する期間の見込みとともに遅延の理由を書面によりDSBに通報する(DSU第12条9)。案件が高度に技術的で事実認定が困難なものや、解釈の難しい法的論点が争点となっている等の事情により、パネルにおける審理期間が6か月を超える例が近年増加する傾向にある。
 中間報告書が当事国により確認された後、通常はそれほど間を空けずに、最終報告書が、まず当事国に配布され(秘密扱い)、その後WTO公用語(英語、フランス語、スペイン語)への翻訳作業を経て加盟国に配布及び公開される。
 パネル報告書は、結論部分にパネルの判断と問題とされた措置の是正に関する勧告が記載されている。この結論はDSBにおいて「ネガティブ・コンセンサス方式」による採択に付され、法的な拘束力を持つ「勧告及び決定」(recommendation and rulings)となる。報告書の採択は、報告書の加盟国配布から21日目以降60日目までに行われる(DSU第16条1及び第16条4)。

(3)上訴(上級委員会による検討)

 当事国がパネル報告書の論旨に異議がある場合、当事国はパネルによる法的解釈の妥当性について上級委員会で改めて審理を行うよう要請することができる(DSU第17条4)。上級委員会は、法律、国際貿易及び対象協定が対象とする問題一般についての専門知識により権威を有すると認められた、WTO全加盟国を代表し得る常任の7人の委員で構成されている委員会で、案件ごとに3人の上級委員が担当する。上級委員は、DSBにおける全加盟国のコンセンサスによって選任される。任期は4年であり、1回に限り再任されることができる(DSU第17条2)。
 上訴通知(Notice of Appeal)は、遅くともパネル報告書が採択される予定のDSB会合開催前までに提出する必要があり、パネル報告書の採択が、報告書の加盟国配布から60日以内に行うことを義務づけていることから、上訴も同60日内に行うこととなる(DSU第16条4)。
 上級委員会への申立ては、パネル報告において対象とされた法的な問題及びパネルが行った法的解釈に限定され(DSU第17条6)、原則としてパネルが行った事実認定を争うことはできない。法的解釈と事実認定については、「特定の出来事がある時間及び空間において起きたかどうかの決定は典型的な事実問題である。…しかしながら、所与の事実又は一連の事実が所与の条約の規定の要件に合致するかしないかは、法的性格付けの問題であり、法的問題である」とする先例がある(EC-ホルモンケース(DS26))。
 上訴が行われると、上級委員会から手続日程が提示される。上級委員会手続には主な手続として、①上訴国意見書提出、②被上訴国・第三国参加国意見書提出、③上級委員会会合(口頭聴聞)、の3つがあり、①上訴国意見書提出は上訴通知日から7日以内、②被上訴国、第三国参加国意見書提出は上訴通知日から25日以内、③上級委員会会合(口頭聴聞)は上訴通知日から35~45日以内となっている(上級委員会検討手続(WT/AB/WP/5)パラグラフ21、22、24、27)。なお、上級委員会手続における第三国参加については、パネル手続において第三国参加していたことが必要とされている(DSU第17条4)。第三国参加国は、意見書の提出及び上級委員会会合への出席が認められる。上級委員会会合は、原則として①上訴国、②被上訴国、③第三国参加国の順でそれぞれの主張を口頭で陳述する。続いて、上級委員より、当事国・第三国に対して質問が行われ、それに対して回答が求められる。質問は上級委員主導で行われ、当事国同士の質問は通常認められない。
 上級委員からの質疑応答が終了すると、通常、最後に、再度紛争当事国・第三国に意見陳述の機会が与えられる。上級委員会会合を経て、上級委員会は、上訴通知日から原則60日以内、遅くとも90日以内に上級委員会報告書を加盟国に配布する(DSU第17条5)。なお、パネル手続と異なり、上級委員会手続においては中間報告書についての規定は存在しない。

(4)報告書採択

 パネル、又は上級委員会における検討の結果作成される報告書は、DSBによって採択されることにより正式なものとなる。パネル報告書の採択については、DSUにおいて「加盟国にその検討のための十分な時間を与えるため、報告が加盟国に配布された日の後20日間は紛争解決機関により採択のために検討されてはならない」(DSU第16条1)とされている一方、「加盟国への送付の後60日以内に紛争解決機関の会合において採択される」と規定されている(DSU第16条4)。上級委員会報告書の採択については、DSUにおいて「加盟国への送付の後30日以内に採択する」とされており(DSU第17条14)、パネル報告書とともにDSB会合で採択され、DSBの勧告及び決定となる。

(5)勧告の実施

 DSUにおいて、被申立国は、措置の是正を勧告する報告書が採択された日から30日以内に開催されるDSB会合で、報告書における勧告を履行する意思を表明することとされている。被申立国が報告書における勧告を速やかに実施することができない場合には、履行のための「妥当な期間」(A Reasonable Period of Time、RPT)が与えられることとなっている。「妥当な期間」は、当事国間で合意することも可能だが、合意ができない場合には、期間を決定するための仲裁を求めることができる。通常、当該案件を審理した上級委員から選任される仲裁人は、報告書採択から90日以内に、「妥当な期間」についての裁定を行うこととされている。また、報告書における勧告を履行するのに必要な「妥当な期間」については、DSUにおいて、報告書採択から原則15か月を超えるべきではないとされている(DSU第21条3)。なお、DSBは、報告書採択の後、勧告の実施を監視することとされており、関係加盟国は、一定期間経過後当該問題の解決まで、勧告の実施の進展につきDSB会合で定期的に報告を提出する(DSU第21条6)。
 パネル・上級委員会の勧告は、通常、「問題の措置を協定整合的に改めるよう」指示するにとどまり、具体的な履行方法までは示さないことが慣行となっているため、被申立国が履行のためにとった措置の有無やそのWTO協定整合性について、申立国と被申立国との間で意見の対立をみることも少なくない。この点、DSUは「勧告及び裁定を実施するためにとられた措置の有無又は当該措置と対象協定との適合性について意見の相違がある場合」、履行確認のためのパネルを設置することを認めている(DSU第21条5)。この履行確認パネルは、通常、当該案件の原パネルを担当したパネリストによって構成され、問題がパネルに付託された日から90日以内に報告を出すこととされている。履行確認パネルは、通常のパネル手続と異なり、パネル設置に先立って協議を行う必要はなく、パネル会合は通常1回しか開催されない。また、履行確認パネルは、履行の有無等について疑義がある場合、何回でも提起することが可能であるほか、DSU上に特段の規定はないものの、実際には上級委員会における審理も行われている。

(6)譲許停止(対抗措置)

 申立国は、自国の利益を侵害した相手国がパネル勧告を妥当な期間内に履行しない場合であって、当該相手国と代償について合意に至らない場合には、DSBの承認を得て譲許の停止等の対抗措置を実施することができる。具体的には、「妥当な期間」内に履行のための措置が実施されなかった場合や、履行確認パネル・上級委員会によって、被申立国が勧告を十分履行していないことが確定した場合、申立国はDSBに対して、被申立国に対する対象協定に基づく譲許その他の義務の停止(対抗措置)を申請することができる(DSU第22条2)。
 ただし、対抗措置の承認にあたっては、対抗措置の分野・程度に関する原則が定められており、紛争分野(セクター)と同一の分野での措置を優先することや、「無効化・侵害」の程度と同等のものであること等が条件となっている(DSU第22条)。一方、同一分野での譲許その他の義務の停止ができない、あるいは効果的でないと認める場合には、同一の協定その他の分野に関する譲許その他の義務の停止を試みることができることとなっている(DSU第22条3(b))。更に、同一の協定その他の分野に関する譲許その他の義務を停止できない、あるいは効果的でなく、かつ、十分重大な事態が存在すると認める場合には、その他の協定に関する譲許その他の義務の停止を試みることができる(DSU第22条3(c))。特に後者は、「クロス・リタリエーション」と呼ばれ、例えば、知的財産について規定しているTRIPS協定違反の措置に対抗して、GATTに係る関税の譲許を停止する対抗措置をとる例が挙げられる。このクロス・リタリエーションは、WTO紛争解決手続における特徴の1つとされており、WTO協定が、物品の貿易だけでなく、サービス貿易や知的財産権の貿易についても規律の対象とすることとなったことに伴って導入されたものである(ただし、その特則として政府調達協定22条7項は「クロス・リタリエーション」を禁止しており、同協定以外の協定に関する紛争によって政府調達協定の譲許その他の義務を停止することはできず、また、政府調達協定に関する紛争によって同協定以外の協定の譲許その他の義務を停止することはできないとされている。)。
 なお、承認申請された対抗措置の内容・程度について疑義のある場合、被申立国はその妥当性を判断するために仲裁を要請することができる(DSU第22条6)。仲裁が行われた場合、仲裁の裁定が出された後に、その内容を踏まえて再度対抗措置の承認申請が行われ、DSBにおいてネガティブ・コンセンサス方式によって承認されることとなる(DSU第22条7)。

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