2.米国
(1)制度面から見た企業システムの変化
1)コーポレート・ガバナンスの改革の動向
(1990年代までの動き)
米国におけるコーポレート・ガバナンスの概念は、1932年にバーリとミーンズによって著された「近代株式会社と私有財産」
25の中で所有と経営の分離が議論されたことまでさかのぼることができ、以来、取締役会の独立性や企業支配をめぐる議論が続いた。
そうした中、1956年には、NYSE(ニューヨーク証券取引所)上場規則において社外取締役を2名以上選任する義務が課せられ、取締役会の機能を十分に確保しようとする動きも見られるようになっていった。しかし、依然として、1960年代は「CEOの時代」と言われるように、CEOが強大な権限を有していたとされていた
26。
しかし、1970年代に入り、「キャンペーンGM」運動
27、ペンセントラル社の破綻
28、ウォーターゲート事件に端を発する企業の不正献金問題
29が起こり、取締役会の形骸化や不正な財務報告等が指摘され、コーポレート・ガバナンス改革を求める気運が高まっていった。そうした流れを受けて、1978年に米国法曹会が「取締役ガイドブック」を発表し、取締役の行動規準が示されるとともに、取締役会の運営、すなわち独立社外取締役の定義と重要性、監査委員会、報酬委員会、指名委員会の設置について提案が行われた。また、同年NYSEは、独立社外取締役によって構成される監査委員会の設置を上場企業に求める上場規則を作成した。
1980年代に入ってからは、巨額の資金を背景として、M&A・TOB(株式公開買付)が頻繁に見られるようになった。当時はまだ機関投資家によるコーポレート・ガバナンスへの関与が少なく、企業買収を計画した者は、コーポレート・ガバナンス改善の立場から買収を行うのではなく、市場評価が低い企業
30をターゲットとして買収後、会社分割、リストラクチャリング等によって強引な手段で株価を高めて売り抜けるといった、短期的視野に立った行動を取った。こうした買収者に対して、経営陣は様々な買収防衛策を取り、さらに、地元企業の流出をおそれる地方自治体も、防衛側(被買収企業)に有利な法制度を定める等して対抗したとされる
31。
こうした買収者のコーポレート・ガバナンス改善に対する意識は高くないとされ、また、その強引な手法に対する世論の批判等もあり、現在ではこのような敵対的買収は減少している。
1990年代に入ってからは、1988年に機関投資家の議決権行使が義務づけられた関係から、カルパース(CalPERS)
32や私学共済年金基金(TIAA-CREF)といった機関投資家が積極的にコーポレート・ガバナンスに関与するようになったとされ、様々なコーポレート・ガバナンスに関するガイドラインが作成された
33。いずれも、取締役会の独立性の確保や社外独立取締役の重要性、会計監査との関係について議論されており、単層構造である取締役会制度における取締役会の監督機能と業務執行機能の明確化に焦点が当てられ、監査委員会を中心に経営監督強化が強く要請された。
(最近の動向)
1990年代の米国経済が好景気であったこともあり、米国型コーポレート・ガバナンスは十分に機能しており、ベストプラクティスとの認識も広まりつつあったが、2001年のエンロン事件、ワールドコムの粉飾決算という企業信用を揺るがす不祥事が発生し、その後も企業不祥事が相次ぎ、米国のコーポレート・ガバナンス体制の欠陥が露呈した。しかし、米国はこの失われた市場の信頼を回復、維持するため、異例の早さで2002年7月に企業会計改革法(サーべインズ=オックスレー法)を成立させ、また、NYSEとNASDAQも同法の趣旨に準じ、上場基準の大幅な見直しを行うことを発表した。同法の内容としては、1)不正会計を防止することができなかった外部監査法人の独立性の確保と外部監査法人自体の監督機関の設立、2)監査委員会を中心とした取締役会によるモニタリング機能の強化と社外取締役の独立性の確保、3)ディスクロージャーの更なる強化、4)経営者の不正に対する厳罰化等が挙げられる。その内容もさることながら、エンロン事件発生からわずか9か月余りで新法を成立させたことと、同時期に各証券取引所の上場規則の見直しが行われていることは、信頼回復のためのコーポレート・ガバナンス改革への強い姿勢が感じられる。
25 Berle and Means: The Modern Corporation and Private Property.
26 中央青山監査法人経営監査グループ(2002)p.60.
27 米国を代表するGM社に対して社会的責任を認めさせ、事業目的を公衆の利害と一致させるように定款を変更させることや、取締役会に公衆利益の代表者を参加させることを求めた運動。
28 当時米国最大の鉄道会社であったペンセントラル社が1970年に倒産したが、債務超過であったにもかかわらず、倒産前の2年間に1億ドルを超える多額な配当を行っており、取締役会がその財務内容について正確な報告を受けていなかったことが破綻後に判明した。
29 現役大統領の辞任にまで発展したウォーターゲート事件を受けて、SECが行った調査により、数百社に上る企業が不正な企業献金や不正支出等の違法行為を行っていたことが判明した。
30 例えば、キャッシュフローが潤沢であるが、取扱商品、サービスが成熟市場であり、株式市場からの評価が低いような企業。
31 一方で、こうした買収阻止策は株主価値を高める努力を削ぐとの批判もあるが、利害関係者(ステークホルダー)に資すると考えられ、現在も様々な防衛策は続けられている。
32 カリフォルニア州公務員退職年金基金。
33 機関投資家自身が作成したガイドラインのほかに、1992年の米国法律協会「コーポレート・ガバナンスの原理:分析と勧告」、1996年の全米取締役協会「取締役のプロフェッショナリティー」、1997年のビジネスラウンドテーブル「コーポレート・ガバナンス・ステートメント」等がある。