第1章 世界経済の成長メカニズムと不均衡問題 

2.米国経済の現状について

 上記で述べてきた双子の赤字の現状について、米国経済における部門別資金過不足の観点から見てみることとする。近年、政府部門と家計部門が資金不足に転じており(第1-1-3図)、海外からの資金流入の増加に依存する傾向が強まってきている。以下では、資金不足に陥っている政府部門及び家計部門の現状を概観し、今後の懸念要因について見ていくこととする。

 
第1-1-3図 米国の部門別資金過不足の推移(対GDP比)

第1-1-3図 米国の部門別資金過不足の推移(対GDP比)
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  (1)政府部門について

  [1]拡大する財政赤字

 1990年代後半に黒字に転じた財政収支は、2000年度に過去最大の黒字となったが、2000年度から2001年度にかけて財政黒字が半減し、2002年度には再び赤字に転じた。2004年度の財政赤字額は4,120億ドル(対GDP比3.6%)と2年連続で過去最大を更新し、2005年度も4,270億ドル(同3.5%)に達する見込みとされている4。財政収支が再び悪化した要因は、2001年のITバブルの崩壊による景気後退や、減税政策の影響、対テロ戦争に向けた軍事費の拡大等であった。財政収支の悪化要因を歳入・歳出の面から見ると、歳入面では所得税収の低迷によるもので(第1-1-4図)、歳出面では国防費の拡大であることが分かる(第1-1-5図)。歳入に関しては、2000年度の個人所得税は対GDP比10.3%、法人税は同2.1%だったが、いずれもその後減少し、2004年度にはそれぞれ同7.0%、同1.6%まで低下した。歳出に関しては、総額が2000年度の対GDP比18.4%から2004年度には同19.8%まで増加した。歳出の内訳を見ると、国防費を含む裁量的支出の増加が大きく、2000年度には対GDP比6.3%であったが、その後は毎年増加し、2004年度には同7.7%となった。今後も長期にわたる減税政策5の実施が予定されていること等から、財政赤字は続くことが見込まれる。

 
第1-1-4図 米国の連邦財政の歳入の内訳の推移と予測(対GDP比)

第1-1-4図 米国の連邦財政の歳入の内訳の推移と予測(対GDP比)
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第1-1-5図 米国の連邦財政の歳出の内訳の推移(前年差)

第1-1-5図 米国の連邦財政の歳出の内訳の推移(前年差)
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4 米国行政管理予算局(OMB)(2005)。
5 ブッシュ政権によって決定された減税政策は、2001年6月(11年間で1兆3,500億ドル程度)、2002年3月(11年間で420億ドル程度)、2003年5月(11年間で3,500億ドル程度)、2004年(10年間で1,500億ドル程度)がある。


  [2]今後の懸念要因

 米国の財政部門における今後の懸念要因としては、高齢化に伴う社会保障費の増大が指摘されている。米国では、1946年〜1964年生まれのベビーブーム世代が2010年には退職年齢に達し始め、高齢化が急速に進展することが見込まれている(第1-1-6図)。高齢化の進展は、公的年金や医療保険関連の歳出の増加を通じて、財政にとって大きな圧迫要因となる。米国議会予算局の見通しによれば、社会保障費等を含む義務的支出の増加が長期的に見込まれている(第1-1-7図)。また、連邦社会保障年金制度の信託理事会の発表した年次報告によると、連邦社会保障年金制度(老齢・遺族・障害給付)の信託資産の積立比率(毎年の支出に対する積立金の割合)の長期予測では、早ければ2030年代に制度破綻に至る可能性があることが指摘されている(第1-1-8図)。
 この問題に対応するためブッシュ政権も社会保障制度改革を提案しているが、提案している個人勘定の導入には多額の制度移行費用6が発生することが見込まれており、足下での財政赤字を拡大する要因と指摘されている。また、2006年度予算教書において示された財政見通しには、この社会保障制度改革に伴う多額の制度移行費用やイラク・アフガニスタンの追加戦費等が含まれておらず、ブッシュ政権の公約である2009年度までに財政赤字を半減させること(2009年度までに2004年度の財政赤字見通しを半減させること(2,330億ドル、対GDP比1.5%))は困難との見方が強く、米国議会予算局も実際の歳出は更に増加すると見込んでいる(第1-1-9表)。
 このように、財政赤字の早急な改善には困難な課題が多い。

 
第1-1-6図 米国における高齢者人口の推移と将来予測

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第1-1-7図 米国の連邦財政の歳出の内訳の推移と予測(対GDP比)

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第1-1-8図 米国の社会保障年金の積立金比率の長期予測

第1-1-8図 米国の社会保障年金の積立金比率の長期予測
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第1-1-9表 米国議会予算局(CBO)の財政見通しに含まれない経費

第1-1-9表 米国議会予算局(CBO)の財政見通しに含まれない経費
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6 ブッシュ政権が提案する社会保障制度改革は、加入者個人の裁量で社会保障税の一部を個人勘定に積み立て、運用することを認めるもの。「制度移行費用」は、この個人勘定の導入によって保険料が個人勘定に回り、給付金が不足するため必要となる追加的な財政負担を指し、その規模は、2009年から2015年の7年間で金利を含めると7,540億ドルと推計されているが、移行期間は10年以上かかるとも言われている。


 第1節 米国の経済成長と双子の赤字

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