(2)家計部門について
[1]家計部門と経常収支赤字
米国の経常収支赤字の拡大は、世界中の財・サービスが米国に集まり、米国がそれを消費することによって世界経済の成長をけん引していることを示している。しかしながら、この現象は見方を変えると、米国において所得を上回る消費や投資が続き、その米国の貯蓄不足を、アジアをはじめとする世界の資金が支えていると見ることもできる。ここでは、米国のGDPの約7割を占めるとともに、現在資金不足に陥っている家計部門に焦点を当てて、現状及び今後の懸念要因について見ていくこととする。
2004年の経常収支赤字は6,659億ドル(対GDP比約5.7%)と3年連続で過去最大を更新している。第1-1-3図にあるように、2001年のITバブル崩壊後、新規借入れに慎重となった企業部門は貯蓄超過となったが、反対に堅調な消費を続ける家計部門は、財政赤字を拡大させている政府部門とともに資金不足に陥っている。家計部門が資金不足に陥ったのは1990年代末のことで、2001年の景気後退期に消費の低下から不足幅が一時的に縮小したものの、2002年には景気回復とともに再び資金不足が拡大し、2003年、2004年は基本的には不足状態のまま推移している。その結果、米国全体としては資金不足が続き、米国の経常収支赤字が拡大している。その資金不足は主として海外部門によって補われている。そしてこの背景には、米国と欧州・日本等の主要経済圏との間にある経済成長率の格差等から、成長率の高い米国に資金が流入しているという側面もある。
また、現在の経常収支赤字の特徴は、過去最大という規模だけでなく、相手国・地域の地域的な広がりも挙げられる。第1-1-10表に見られるように、プラザ合意直後の1987年における米国の経常収支赤字は、日本と産油国(表中の「アジア(除く日・豪)・アフリカ」)の黒字が各3分の1を占めていたが、2004年は「アジア(除く日・豪)・アフリカ」が半数を占めており、中国をはじめとする東アジア諸国・地域の比重が高まっている。また、中南米の比率も増加しており、経常収支赤字の相手国・地域が全世界に広がっていることが特徴と言えよう。
なお、
本章第5節において、米国と東アジアの関係に焦点を置いた経常収支の不均衡について詳述する。
[2]家計部門の動向と今後の懸念要因について
ITバブルの崩壊後、米国経済を支えたのは、家計による住宅購入や個人消費であった(第1-1-11図)。家計部門は、住宅価格の上昇と低金利を背景とした住宅ローンの借換え(リファイナンス)によるキャッシュ・アウト
7や住宅担保ローン(ホーム・エクイティ・ローン)
8等を通じた借入れを増大させ、減税による可処分所得の増加とあいまって堅調な消費を続けてきている。その結果、家計部門の債務残高はこれまで一貫して増加するとともに、貯蓄率は低下を続けている(第1-1-12図)。しかしながら、借入れを増加させる形での旺盛な消費が持続可能であるかについては、懸念が指摘されている。
住宅ブームに関しては、移民の増加や出生率の高まり等の人口要因や、ベビーブーマー世代が住宅購入期に入ったこと等の実需に基づくとの見方がある一方で、ITバブルの崩壊に伴う株価の下落によって、投機対象としての住宅資産の優位性が増したことによる、いわばバブルであるとの懐疑的な見方もある。住宅価格が急騰しているのは東西両岸の一部地域に限られ、それ以外の地域では安定的に推移していることから、仮に住宅バブルが発生しているとしても、一部の地域であるとも考えられる。いずれにしても、今後、住宅価格が大幅に下落するようなことがあれば、消費の減退につながるだけでなく、資産価格の低下を通じて家計の財務体質を悪化させることになり、今後の懸念要因と考えられる。
以上見てきたように、財政赤字と経常収支赤字という双子の赤字が拡大してきている米国では、政府部門においては高齢化の進展に伴う社会保障費の増大、家計部門においては債務残高の増加と貯蓄率の低下、そして住宅価格の下落等の懸念要因が指摘されている。今後、この双子の赤字の拡大が国内の金利上昇をもたらすことになれば、金利支払い負担の増加や財務体質悪化に伴う信用収縮、ドルの急落等を通じて世界経済にも悪影響を及ぼす懸念があり、今後の動向を注視していく必要がある。