(4)国有企業改革
[1]国有企業改革の経緯
中国では改革・開放政策への転換当初から、国有企業改革が最重要課題として掲げられてきた。1980年代までの国有企業に対する経営自主権の拡大を中心とした改革は、経営者及び労働者の勤労意欲を高めた反面、賃金上昇や福利厚生費の流用等の助長や、ソフトな予算制約下での短期的利益への追求によって、過剰生産・過剰投資体質を生む等の弊害をもたらした。さらに、1990年代に入ると、急速に成長してきた外資系企業や非国有企業との競争激化の中で、工業生産総額に占める国有企業のシェアは低下を続け(第2-1-111図)、国有企業(特に中小国有企業)の経営は悪化の一途をたどった(第2-1-112図)。例えば、国有工業企業の赤字企業数は、1985年の7,000社未満から1998年の2万7,000社へと増加し、国有企業全体に占める赤字企業の比率は、1985年の1割未満から1998年には41%へと上昇した(第2-1-113表)。こうした中、政府は1992年に、事実上計画経済への訣別となる「社会主義市場経済」路線を打ち出し、1993年に国有企業改革の一環として中小国有企業の株式会社化や、法人・個人への売却等民営化的な手法を含む様々な方法による改革の方向性を確認した。さらに、1995年の「抓大放小」政策
107及び1997年の第15回共産党大会の江沢民報告によって、中小国有企業の民営化が事実上是認された
108。また、1998年には朱鎔基首相(当時)は国有企業改革推進の目標として「3年以内に大中型国有企業の赤字問題を基本的に解決する」と公約し、経営不振の国有企業の破綻処理・レイオフを通じた大胆な人員削減や債務の株式化による国有銀行からの資金支援等が実施された。この結果、政府は「1997年に赤字の大中型国有企業は6,599社にのぼったが、2000年末には約7割の4,391社が黒字に転換した。」と改革の成果を強調した。こうした中小国有企業を中心とする民営化の進展等
109を反映して、国有工業企業数は1995年の11.8万社をピークに急速に減少し、2003年にはピーク時の約3割にあたる3.4万社となった。また、国有企業の工業部門雇用者数も1997年には約4,000万人であったが、1998年だけでその3分の1にあたる1,300万人が削減され、その後も毎年300万人前後のペースで減少を続け、2003年には約1,300万人となっている
110(第2-1-114図)。また、民営化の波は大型国有企業にも及び、政府は1990年後半以降大型国有企業の株式会社化・上場を推進してきている。
[2]国有企業改革をめぐる課題
このように国有企業改革は一定の成果を収めているものと思われるが、依然赤字企業の比率は非国有企業に比べ高く、また、労働生産性や総資産利益率においても外資系企業に比べると低い上に
111(第2-1-115図、116図)、その改革の過程において多くの課題をもたらした。
まず、上述のように大型国有企業においては株式会社への改組・上場と、国有株の出資比率引下げの二段階による民営化が主流となっている
112。しかしながら、上場企業の多くの場合、政府又は母体の国有企業が筆頭株主であり、またその多くが非流通株であるため(株式発行総数の約3分の1程度しか流通していない)、株式市場による企業統治効果は限られている
113。また、株式市場の規模が拡大するとともに、母体企業やその背後にある行政当局が筆頭株主としての立場を利用して上場企業からの不当な利益移転を行い、上場企業の経営が不安定化したケースも頻発したと言われている
114。そのため、国有株の出資比率を引き下げ、多数の投資主体による資本所有を実現する株式市場を通じたコーポレートガバナンスの改善が期待されるが、2001〜2002年の国有株売却政策の失敗に加え、機関投資家の育成が遅れ、投機的色彩の強い個人投資家が中心といわれる未成熟な株式市場に国有企業経営のモニタリング機能を期待するにはいまだ課題が多いとの指摘は多い
115。
次に、国有資産の流出の問題もある。国有企業の民営化の過程において、国有企業の売却価格が市場価格よりも著しく安価に設定されるケースが少なからずあり、その結果、買手は過大な利潤を得る一方で、国有資産の流出となり、また、既存の非国有企業にとっても不公正競争となったという指摘がある
116。加えて、民営化の過程で賄賂や横領等不正行為があり、不当な手段で多くの資産を得た経営者と、経営改善によってリストラされた労働者との間に大きな所得格差を生じさせたとの指摘もある
117。こうした国有資産をめぐる弊害の背景には、国有資産の管理体制に根本的な原因があった。例えば、中央政府の国有資産に対する権限は、多くの関係省庁に過度に分散された「多頭管理」であったため、事実上「無頭管理」に等しかった。こうした弊害をなくすために、政府は2003年3月に「国有資産監督管理委員会」(以下、国資委)を設置し、これまで各省庁が個別に管理機能を行使してきた国有企業17万社(うち中央管理196社)を所有者として一元管理することとなった。国資委は2006年までに直接管理する196社を近代的企業に変革するという目標の下、コーポレートガバナンスの確立、株式会社化、株主の多様化等を進めていくとしているが
118、他方で、国資委に権限を集中させた結果、国有企業の自主経営権が奪われ、政府・党による企業経営への直接介入と管理強化につながっているとの指摘も出ている
119。
さらに、1990年代後半の国有企業改革の加速化に伴い、上述したように失業者の増大及びそれに伴う社会保障費の増大という問題も生じている。一時帰休者を含む失業者の急増により失業保険受給者も1998年158万人だったのが、2001年には469万人に増加し
120、また、失業保険基金の支出も1998年の52億元から2001年の157億元と約3倍に増加している(第2-1-117表)。国有企業の人員削減はピークを過ぎた感があるものの、今後の大型国有企業改革の過程において余剰人員の削減による失業圧力は依然大きいものと予想され
121、失業保険財源不足の懸念、失業者への再就職支援等セーフティネット整備、失業者の新たな雇用の受け皿としての民営企業の円滑な発展等、解決すべき課題は多い。