第2章 東アジアの持続的・自律的成長の胎動〜東アジアのビジネスチャンスとリスク〜 

(6)中国のエネルギー問題

 第1章第2節でも電力不足の問題に言及したように、近年、中国におけるエネルギー問題に対する注目が高まっている。また、第1章第4節で述べたように、世界的な原油価格の高騰の要因の一つとして、中国におけるエネルギー消費拡大の影響が挙げられている。ここでは、中国の構造的課題の一つとして、急速な経済成長に伴うエネルギー需要の高まりと、それに対応したエネルギー安定供給に係る課題について見ていくこととする。

  [1]エネルギーの需給の推移と背景

 中国のエネルギー消費は、急速な経済成長を背景に拡大しており、2003年には前年比10%以上の高い伸びを示している。エネルギー消費の種類別構成について1980年代と現在とを比較すると、石炭への依存が低下し、石油の割合が増加していることが分かる124(第2-1-122表)。次に、目的別に消費の内訳を見ると、工業化の進展125に伴い工業部門でのエネルギー使用の拡大が見られる(第2-1-123図)。また、2002年においては、家計(前年比伸び率10.4%)や運輸通信(同8.1%)等の部門も高い伸びを示しており、ライフスタイル(消費)の高度化やモータリゼーションの進展が寄与していると考えられる。世界経済における中国は、米国に次ぐ世界第2位のエネルギー消費国であり、石炭生産世界第1位、原油生産同第7位のエネルギー生産大国であるにもかかわらず126、1990年代後半からはエネルギー純輸入国となっている(第2-1-124図)。特に原油については、かつては重要な外貨獲得手段として純輸出であったものの、油田の老朽化による生産の頭打ちと国内需要の拡大により純輸入となり、2002年時点における輸入依存度は27%(純輸入/消費量)に達している127(第2-1-125図)。
 IEA(2004)の予測によれば、中国の一次エネルギー需要は、2002年の12.42億TOE128から2030年には25.39億TOEへと倍増すると予想されている。このため、エネルギー純輸入の更なる拡大に伴うエネルギー安全保障問題や、エネルギー消費の拡大に伴う大気汚染等の環境問題は一層深刻になることが想定される。以下では、これらの問題について検討する。

 
第2-1-122表 中国のエネルギー消費の推移

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第2-1-123図 エネルギー消費の目的別推移

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第2-1-124図 エネルギー全体の需給と貿易の推移

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第2-1-125図 原油の需給と貿易の推移

第2-1-125図 原油の需給と貿易の推移
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124 郭(2003)によれば、石炭消費の減少や石油消費の増加の要因として、[1]重化学工業から電気・機械及びサービス産業等への産業構造の高度化、[2]高品質・高カロリー石炭の利用拡大による省エネルギー・効率化の促進、[3]都市部の環境保護の促進、[4]炭鉱合理化政策に基づく小型炭鉱の閉鎖による石炭供給の減少、[5]モータリゼーションの進展、[6]消費と可処分所得の増加を背景としたエネルギー消費機器の普及と利用頻度の拡大等が挙げられると指摘している。
125 2003年におけるGDPにおける第2次産業の割合は5割を上回っており、工業部門の割合は45%を占めている。
126 IEA統計2004年版の2002年数値による。
127 IEA(2004)によれば、中国の原油輸入依存度は2003年に37%に達しているとされている。
128 石油換算トン。以下同じ。

  [2]エネルギー安全保障への課題

(国内エネルギー需給構造の調整)

 中国のエネルギー資源は、純輸入となっている石油を除くと、石炭・天然ガス等の資源は比較的豊富である。しかしながら、その供給量は地域的な偏りが大きく、安定供給を阻害する要因となっている(第2-1-126図)129。これに対し中国政府は、「西気東輸」(天然ガスの西部から東部への輸送)、「北油南運」(石油の北部から南部への輸送)、「西油東進」(石油の西部から東部への輸送)、「海気登陸」(海洋天然ガスの陸地への輸送)、「西電東送」(西部の電力資源を東部へ輸送)といったエネルギー輸送における国家プロジェクトを進めており、地域的なエネルギー需給の不均衡を是正することでエネルギー供給の安定化を図っている。しかしながら先述のように、足下の状況では全国的に供給力の高い石炭でさえ、輸送能力が不十分なため電力不足の要因となる等、この課題の解決にはまだまだ時間を要すると考えられる。

(石油資源対策)

 先述したように拡大する石油需要に対して、国内生産は1990年代後半以降頭打ちの状態となっており、それに伴って輸入依存度が上昇している。国内資源への対応として、中国政府は現行の探鉱・開発技術では既存原油の維持・増産への対応が困難と考え、新技術導入のため石油上流部門における対外開放を拡大し、先進国企業からの直接投資受入れを進める等の対策をとっている130。また、中国では、高まる海外依存度に対して、石油備蓄制度の整備が遅れている点が問題として指摘されている。IEA(国際エネルギー機構)が加盟国に対して純輸入量の90日分の備蓄を求めているのに対して、中国では、第10次5か年計画に基づき、戦略的な国家石油備蓄の整備として、2005年末までに800万kl(2001年消費量の約14日分)、2010年までに1,600万kl(同約28日分)を達成する案を検討中である131。しかしながら、近年の国際情勢の変化や国際原油市況の変動と、それらに対する中国のプレゼンスの大きさを考慮すると、十分な水準とは言えず、中国における戦略的備蓄制度の一層の拡充が課題となるであろう132
 また、国外資源に対する対応としては、まず、輸入ルートや輸入先の多様化といった輸入リスクの分散を進めている133。さらに、国外資源の確保のために、中国では1990年代から「中国石油(CNPC)」、「中国石化(SINOPEC)、」「中国海洋石油(CNOOC)」といった国有石油会社による海外投資を奨励し、海外自主開発を進めている134。これらにより確保された海外権益原油は2003年で2,009万トンと輸入全体の22.0%を占めており135、第10次5か年計画の目標である1,500〜2,500万トンに達し、海外調達戦略は一定の成果を挙げていると言える136。IEA(2004)の予測によれば、中国の原油需要は2030年には日量1,330万バレルに達し、世界の需要の11.3%を占めるとされている。中国における供給量の予測が日量220万バレルであることから、今後とも、原油供給にかかる安全保障は極めて重要な課題となろう。

(省エネルギー・環境問題への対応)

 中国のエネルギー使用量の伸びは2003年で前年比13.2%とGDP成長率の同9.3%を上回る伸びを見せた。GDP当りの消費エネルギー量を見ると、中国においても長期的には減少傾向にあるものの、近年は逆に効率の悪化も見られ、先進国の3〜9倍といった高い水準で推移している137(第2-1-127図)。この要因としては、第2次産業の比率が高くエネルギー多消費産業が多いといった産業構造による影響や、技術水準の低さによる影響が指摘されている138。高度経済成長を維持するためには、エネルギー消費の拡大は不可避である一方、エネルギー効率の悪化は無視し得ない問題である。
 また、中国のエネルギー消費の約7割を占める石炭は、IEA(2004)の予測によれば2030年においても需要の5割以上を占めるとされ、今後も主要エネルギーとしての位置づけは不変である。しかしながら、石炭需要の伸びに伴い汚染物質の排出増加による環境の悪化といった問題も急速に顕在化している139。これに対し、石炭クリーン利用技術、また、エネルギー高効率利用による二酸化炭素削減技術等の導入・普及が課題となっている140。効率の悪いエネルギーの大量消費は、大気汚染や資源の枯渇等の環境破壊をもたらすだけでなく、コストの上昇を通じて産業の国際競争力、ひいては経済成長にもマイナスの影響を与え得ると考えられ、重要な課題となっている141

 
第2-1-126図 中国の地域別エネルギー産出のシェア(2002年)

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第2-1-127図 中国と先進国のエネルギー効率の推移

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  [3]まとめ

 電力不足の問題は、中国に進出している企業を通じて少なからず我が国経済にも影響を及ぼしており、また、中国のエネルギー需要の高まりは、国際市場への影響を通して世界経済に影響を与えている。世界経済における、中国のプレゼンスが高まっていることを踏まえると、中国におけるエネルギー問題は東アジアの成長リスクの一つとして認識するべきであり、アジアにおけるエネルギー安全保障に向けての域内協力の重要性が高まっている142。中国のエネルギー安全保障問題は、長期的な中国の経済成長のボトルネックとして、その重要性を増しており、今後の動向が注目される。


129 鈴木(2004)によれば、中国のエネルギー資源は地域的に偏在しているため、エネルギー不足問題が局所的に発生しやすいことを指摘している。
130 郭(2003)。
131 総合資源エネルギー調査会石油分科会石油部会石油備蓄専門小委員会(2005)。
132 国家発展改革委員会の張国宝副主任は、「中国は産油国であり、3分の2は自給できており、エネルギー資源採掘の潜在力も大きいことから、必ずしも90日分の備蓄は必要ではない。」との認識を示している(萩原(2005))。
133 中国の石油輸入先は中東地域が約半分を占めており、ロシア、中央アジア及びアフリカからの輸入を拡大させる計画を進めている(范(2004))。
134 萩原(2005)によれば、2003年の中国の対外直接投資における採鉱業は13.8億ドルで、全体の48.4%を占めている。同様に、商務部発表の2004年速報ベースでも、同19.1億ドル、同52.8%と拡大の傾向が見られる。
135 郭(2004)、萩原(2005)。
136 萩原(2005)によれば、これらの海外投資に対して、[1]権益獲得にあたって他国よりも相当に高い価格を提示し、価格を吊り上げてしまう傾向があること、[2]欧米石油資本が進出しにくい地域である人権面での問題が指摘される国に進出していることが、問題視されつつあることを指摘している。
137 吉川(2005)によれば、中国のエネルギー弾性値が高い水準で推移していることを示し、エネルギーの非効率的な利用を指摘している。
138 日中経済協会上海事務所(2004)。
139 堀井(2003)によれば、この他の石炭産業における課題として、不採算・小規模炭鉱の整理、国有重点炭鉱の改革といった石炭産業の構造問題等を指摘している。
140 三室戸(2005)。
141 関(2004b)。
142 エネルギーに関する地域協力については第3章で紹介する。


 第1節 東アジア経済の生産と消費の動向と東アジア経済の抱えるリスク

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