第2章 東アジアの持続的・自律的成長の胎動〜東アジアのビジネスチャンスとリスク〜 

(7)中国の環境問題

 中国では、1970年代から大規模な環境汚染が顕在化し始めた。このため、比較的早い段階から、環境保護制度の整備が進められてきており、現在では、環境保護関連の法体系の基本的枠組みや行政組織等は整備されている143。しかしながら、人員及び予算不足により、法規制の実施が適切に行われていない144等の問題も生じている。さらに、急速な経済成長が続いたことも加わって、環境汚染や自然破壊は急速に悪化してきている。以下では、大気状況と水問題を取り上げて、中国の環境問題を概観する。

 
143 自治体国際化協会(2001)p.17.
144 中国研究所編(2004)は、環境政策実施上の問題点について、[1]行政によるモニタリングにおける人的財政的制約、[2]罰金の効果の限界、[3]地元行政府による汚染企業の保護、[4]汚染企業主らによる環境監理員や報道員に対する暴力、を挙げており、また、自治体国際化協会(2001)は、[1]予算・人員不足のため、政府による環境の把握が行き届かず、さらに、頻繁な政策変更等の行政手法上の問題があること、[2]政府と企業間の連絡が悪く、企業側の理解・協力を得られにくい状況が形成されていること、[3]住民に対する正確な情報提供が不足しており、公害反対運動が活発化しないこと、を指摘している。

[1]大気状況

 中国の都市の大気汚染状況について、中国の国家環境保護総局が、約340都市を対象に行っている調査の結果について、1999〜2003年度の推移をまとめたものが第2-1-128図である。これによると、大気の質が「優秀」又は「良好」に分類される都市の割合は増加する一方、「中度汚染」又は「重度汚染」の都市の割合は減少しており、都市の大気状況は次第に改善してきている。しかしながら、汚染されているとされる都市(軽度汚染、中度汚染、重度汚染のいずれかに該当する都市)は、いまだに過半数に上り、依然として、汚染の状況は深刻であると言える。
 次に、排気ガス中の汚染物質量を第2-1-129表に示した。これを見ると、工業部門からの二酸化硫黄の増加が目立つ。国家環境保護総局によると、排出量最多業種は電力業で、2003年には全業種の61.7%を占め、第1章第2節で見たとおり、中国の電力需要は経済発展に伴って上昇してきていることから、二酸化硫黄排出量の急増が懸念される。
 また、大気汚染の他の原因として、自動車の排気ガスがあり145、これは自動車の保有台数が増加したことと、排気ガス中の汚染物質量が多いことによる。中国研究所編(2004)によれば、中国における自動車の保有台数は、168万台(1980年)から2,421万台(2003年)へと急激に増大しており、また、1990年代末の中国の自動車1台当たりの排気ガス量は先進国の10〜15台分に相当し、汚染の濃度も先進国の同種類の車より3〜10倍も高い。
 深刻化する大気汚染に対して、中国政府や各都市自治体は、環境基準の厳格化や罰則の強化等を実施しているが、工業化の進展や自動車数の増加が見込まれる中、環境対策に対する今後の動向が注目される。

 
第2-1-128図 中国都市の大気質状況の比較

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第2-1-129表 排気ガス中の主な汚染物質量

第2-1-129表 排気ガス中の主な汚染物質量
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145 近年のアジアの都市における大気汚染の主要因の一つは、自動車の保有台数の増加であるという指摘がある(北原、西澤編著(2004)p.153.)。

[2]水問題

 水質汚染の状況と原因について、国家環境保護総局が実施した主要な河川146の水質状況が第2-1-130表に示されている。これを見ると、大気汚染と同様、近年においては、水質改善の傾向が見られるものの、人が直接接触することに適さないほど汚染された水域が、主要河川の6割以上の水域を占めており、全体的に、水質汚染はいまだに深刻な状況にある147
 汚水の原因となる廃水について、量の推移(1998〜2003年度)を見ると、生活廃水が増加している(第2-1-131図)。この主たる要因は、都市化の進展であろう。中国の都市では、人口が増加し、また、大量に水を消費する生活様式が増えてきたため、汚水処理施設の整備や水資源の再利用等が重要であるが、2003年度の都市の生活廃水の処理率は36.1%と低く、上下水道インフラの整備も進んでいない。このまま大量の汚水が河川に垂れ流される状況が続けば、市民の安全な生活が脅かされ148、また水不足によって経済成長へ悪影響を与え得る。こうした観点から、汚水処理施設の増設等は、各都市にとって喫緊の課題である149
 他方、工業廃水は、生活廃水に比べて増加率が小さく、ほぼ横ばいである(第2-1-131図)。また、汚水処理についても、工業汚染源規制の強化に伴って、処理施設の導入が進み、国家環境保護総局によると、2003年度、工業廃水排出量に占める排出基準達成量の割合は約89%に達した。しかしながら、2004年初め頃、工業廃水を未処理のまま垂れ流し、付近の河川水の汚染物質の濃度が、基準値の20〜50倍に達して、26日間にわたって近辺の3市(人口計80〜100万人)への水道供給が停止されるという事故も起きており、対策強化が求められている150
 このような水質汚濁とともに、水資源の不足が深刻化している。本項(2)三農問題で述べたように、中国では、水資源が南部に偏っており、北部では慢性的に水が不足している。黄河が1997年に年間226日もの断流日数を記録したことは有名だが、北部の主要河川(黄河、遼河、海河)全体を見ても、1年間のうち5〜8か月間は枯渇しており、国内全体の流水量の7.5%(1993年値)しか有していない。にもかかわらず、北部は、国内の小麦の67%、とうもろこしの44%の生産を担っており151、加えて、北京や天津等の政治及び経済面で重要都市が位置し、工業用水や都市用水の需要も加速度的に高まっている。これらの状況から、北部の水不足は、中国全体の経済停滞や食糧供給逼迫等の深刻な問題を引き起こす可能性が高いと言われている152
 また、水資源の不足には、水の浪費という状況が拍車をかけている。農業部門では、老朽化した設備を使用していること等により、灌漑効率はわずか30〜40%と、先進国の70〜90%の半分以下で、さらに、都市用水では、北京や天津等の一部都市を除き、水再利用率は30〜50%にとどまっている。
これも先進国の75%以上と比べてかなり低い153
 以上のように、中国では、水質汚濁や水の浪費が悪化しており、これらを背景として、水不足も深刻化する等、水問題に起因する経済や国民生活への悪影響が懸念されている。

 中国では、経済成長に伴って、環境汚染や自然災害等が大きな問題となってきた。環境保護政策等は整備されているものの、効果的な取り締まりの実施等、解決しなければならない問題が数多く存在する。また、環境問題と経済成長をどのように調和させていくかという点が、中国にとって非常に大きな課題であり、国家環境保護総局の祝光耀副局長の「環境を整備しながら、破壊も行われている。整備が破壊のスピードに追いつかないことが、現在の深刻な状況の主要な原因だ。」との発言154は、この問題に関し、非常に難しい舵取りを迫られていることを物語っている。環境問題の改善に向けてより一層の努力が求められる。

 
第2-1-130表 主要河川の水質比率

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第2-1-131図 廃水排出量の推移

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146 主要河川とは、長江、黄河、淮河、海河、遼河、松花江、珠江。地表水の汚染調査は、河川のほかに、湖沼と海洋についても行われている。なお、地下水については、2005年から6年かけて、初の調査を実施する(チャイナネット2005年2月3日)。
147 中国の環境基準は、汚染の軽い順に1から5までの類型を定めており、飲用水の水源として適用されるのは1〜3類で、6類は工業用水及び人が直接接触しない娯楽区域、5類は農業用水に適用されることと定められている。5類超過とは、5類の基準を満たさないほど汚染が深刻である水域であることを指す。また、「人が直接接触することに適さないほど汚染された水域」とは、4〜5類超過に属する水域である。
148 国家環境保護総局が、47都市を対象に飲料水の水質調査を行ったところ、北京や青島等の13都市で一部の水源が不合格となり、重慶、ハルピン、長沙の3都市では全水源が不合格であった(人民網日本語版2004年3月16日)。
149 北京市は、2005年中に第二の汚水処理場を完成させ、2006年から稼働開始の予定である(チャイナネット2005年2月1日)等、各都市は対応を急いでいる。
150 直接的な経済的損失は約3億元(中国研究所編(2004)p.53.)。
151 Wolf, C., K. C. Yeh, B. Zycher, N. Eberstadt and S.-H. Lee(2003)p.76.
152 このため、中国南部の水資源を南部から北部へ供給することを目的とした「南水北調」という大規模な事業も進められている。
153 中国研究所編(2004)p.73.
154 人民網日本語版(2004年3月26日)。


 第1節 東アジア経済の生産と消費の動向と東アジア経済の抱えるリスク

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