第3章 我が国の少子高齢化・人口減少と東アジアの新たな経済的繁栄を目指した経済統合 

3.生産資源の円滑な移動によるマクロの生産性向上〜経済構造改革の推進〜

 これまで述べてきたように、国内供給に限った場合、少子高齢化・人口減少社会において生産の3要素のうち労働と資本が稀少となり得ることが分かった。この状況下で、我が国が中国をはじめとした東アジアの台頭によるグローバル競争の加速化に対応し、今後とも競争力を維持・強化していくためには、生産性を向上させるとともに、これまで労働市場の外にあって活用されていなかった労働力の参入を促進させていく必要がある。後者については次節において詳しく分析することとして、本節の残りの部分では生産性をいかに向上させるかについて論じることとする。
 一国全体の生産性を向上させるためには、第一に、低生産性部門における生産資源を、高生産性部門に移動させ、相対的に国内における高生産性部門の比重を高め、一国全体の生産性の向上を実現するという方法がある。第二に、各部門において各々の生産性を向上させることを通じて、一国全体の生産性向上を達成する方法がある。両者は補完的であり、今後の少子高齢化・人口減少社会においては両者を追求していくことが重要であろう。そこで、ここでははじめに前者について論じた後に、次項(4.)において後者について人材の質の強化という観点から論じたい。
 労働と資本が円滑に高生産性部門に移動できず、資源配分の歪みが生じていることについては、「失われた10年」と称される1990年代の低迷の1つの要因として挙げられている23。現在でも、同じ状況が続いているとすれば、今後の少子高齢化・人口減少下において生産資源が減少していく中、より一層経済成長を抑制する要因となり得る。そこで、生産資源の移動と経済成長との関係について見るために、宮川他(2003b)を参考に、生産資源の産業間移動の活発度を表す指標であるLilien Measure24を用いて両者の関係について分析していく。LilienMeasureは大きな値を示すほど、産業間における生産資源の移動が活発なことを表す。逆に低い値は産業間の生産資源の移動が活発でなく、資源配分の非効率性が生じている可能性があることを示している。第3-1-20図25は労働者数と資本ストック量に関するLilien Measureと経済成長率の関係を表したものである。これを見ると、両者ともに1970年代から徐々にLilien Measureは低下基調にあり、それに伴って経済成長率も鈍化してきている。このことは、近年、労働、資本ともに産業間資源配分の非効率性が生じている可能性を示している。
 では、このような生産資源配分の非効率性がどの程度経済成長を押し下げているのだろうか。Miyagawa, et al.(2004)は、産業別データを用いて1980年代から1990年代における我が国の労働生産性の低下の要因を、部門間の生産要素移動による寄与を含めた形で分析している。具体的には、労働生産性上昇率を資本蓄積の深化による寄与、資本及び労働がより高生産性部門に移動することによる寄与(再配分効果)、各産業におけるTFP上昇による寄与に分解して、それぞれの寄与度について計測した(第3-1-21表)。これを見ると、1980年代から1990年代にかけて、労働生産性上昇率が2.7%低下しており、その最大の要因はTFP上昇率が1.8%から0.6%と1.2%低下したことにある。しかしながら注目すべき点として、労働の再配分効果による寄与が0.2%から−0.4%へマイナスに転じ、減少幅が0.6%と、労働生産性上昇率の低下に1/4程度寄与するほど大きな影響を与えていることが挙げられる。すなわち、1990年代の我が国において高生産性部門への労働移動を通じた労働生産性の上昇が進まなかったことが、生産性を大きく押し下げている要因の一つなのである。
 現在、我が国において進められている経済構造改革は、規制緩和や金融システム改革等を通じて、このような資源配分の歪みを是正しようとするものである。これは旧来型の経済システムによって抑制されていた、日本経済が本来持っている潜在力を発揮するための土壌を形成しようとする取組であるが、今後の少子高齢化・人口減少により、減少していく可能性がある労働・資本といった生産資源をより一層効率的に活用するための仕組みを作るという見地からも、その重要性が指摘できるであろう。

 
第3-1-20図 労働力及び資本に関するLilien Measure

第3-1-20図 労働力及び資本に関するLilien Measure
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-1-21表 労働生産性上昇率の要因分解

第3-1-21表 労働生産性上昇率の要因分解
Excel形式のファイルはこちら



23 岩田・宮川編(2003)、浜田・堀内編(2004)。
24 Lilien measureは各産業の就業者数(資本ストック量)変化率と全体の就業者数(資本ストック量)変化率の乖離を、各産業の就業者数(資本ストック量)の全体に占めるシェアでウエイト付けしたものであり、以下の式で表される。

Lilien Measure=[ΣSLi(△Li /Li−△LA /LA21/2

Liをi産業の就業者数(資本ストック量)、LAを就業者数(資本ストック量)全体、SLiをi産業の就業者(資本ストック量)シェアとする。マクロ全体で見た要素移動に比べ個別産業における要素の移動が激しいとき、Lilien Measureは大きな値をとる。詳しくはLilien(1982)。
25 本分析をするに当たり、慶應義塾大学産業研究所野村浩二助教授の協力により、我が国の産業別データである「KEO(慶應義塾大学産業研究所)データベース」を利用させて頂いた。


 第1節 少子高齢化・人口減少社会と知的資産・人材の重要性

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む