第3章 我が国の少子高齢化・人口減少と東アジアの新たな経済的繁栄を目指した経済統合 

(3)少子高齢化・人口減少時代における外国人の受入政策における基本的視点

 これらの状況を踏まえ、今後の我が国にとって望ましい外国人の受入れの在り方はどのようなものか以下で検討していくこととする。

  〔1〕外国人の受入政策における経済的視点

 ここでは、外国人の受入れの経済的意義を、[1]労働力人口の維持、[2]ミクロレベルの労働力需給ギャップの解消、[3]1人当たりGDP(1人当たりの豊かさ)の維持、[4]我が国経済の競争力向上、という4つの視点から検証する。

(労働力人口の維持という視点について)

 人口減少が経済活動に与えるマイナスの影響を最小限に止めるため、労働力の不足を補うという観点から外国人労働者の受入れを行うべきとの考え方がある70。この背景には、今後急速に進む高齢化社会において社会的コストを負担する層を維持することにより、世代間の不公平感を緩和するという意図もあると考えられる。
 仮にこうした考えの下に現在の生産年齢人口を2030年時点においても維持しようとすれば、単純計算で2030年までに約1,800万人もの外国人労働者を追加的に受け入れる必要が生じる(第3-2-26図)。これは、平均すると年間数十万人規模で外国人労働者の受入れを行うことを意味し、2030年時点での外国人労働者の比率は、現在の1%強から25%強にまで上昇し、現在英米独仏日5か国で最も外国人労働者比率の高い米国の14.8%を大きく上回ることになる(第3-2-27図)。
 さらに、いったん入国した外国人労働者の中には、たとえ出稼ぎ目的での入国であっても、一定期間滞在すれば、子供の教育等の必要から事実上生活基盤を日本に移す者もいるという現実を踏まえれば、こうした大量の外国人労働者の受入れは、将来の社会的費用負担を更に厳しい形で次の世代に先送りすることになりかねない。
 我が国において、これほど大量の外国人労働者を受け入れる体制が法的にも社会制度的にもできていないこと、また、外国人労働者に対する国民意識の熟度(第3-2-28図、第3-2-29図)を勘案すれば、外国人労働者政策において、「労働力人口の維持」という目標をメインターゲットとすることは現実的ではない。

(ミクロレベルの労働力需給ギャップの解消という視点について)

 現在、一部の業種の中小企業において、労働力の高齢化が生じており、特に、専ら体力と根気を必要とする製造現場の仕事を若者が忌避するようになっていることから、このような職場で、外国人労働者を活用すべきとの意見がある71。これは、既に関東や中部の一部の地域に見られるように、日系人等が重要な労働力としての機能を果たしているという実態に基づいていると考えられる。
 しかしながら、これら既に外国人労働者を受け入れている地域において、経済活動以外の部分に目を向けると、地域コミュニティとの摩擦や、労働環境・生活環境といった面で大きな歪みが生じており72、こうした問題への十分な対応なしに更なる受入れの拡大を図ることは適当ではない。
 ただし、我が国の中小製造企業の集積が、我が国経済社会を支える上で不可欠な機能を有していると指摘されている73にもかかわらず、現在のところこうした中小製造企業において若年労働者の確保が困難であるという現実がある。第3-2-30図を見ても分かるように、中小製造企業において従業員の高齢化が進展しており、また、中小企業における年齢別人材の過不足感を見ると、若年者に対して特に不足感が強いことが分かる(第3-2-31図)。こうした国内状況が存在する一方で、我が国と外国人労働者送り出し国との厳然たる経済格差や(第3-2-32図)、我が国への労働輸出圧力が高いという国際状況が存在する中で、国内の若年労働者の確保に努めるとともに、産業の発展・構造転換や国内治安、国内労働市場に与える影響等、その受入れが我が国の産業及び国民生活に与える正負両面の影響を十分勘案しつつ、外国人労働者の受入れの在り方を検討することが必要である。

(1人当たりの経済的豊かさの維持・向上という視点について)

 労働力人口の減少が避けがたい社会を前提として、そこで働く労働者の生産性を向上することにより「1人当たりGDP」を維持・向上していくという考え方がある。「1人当たりGDP」は、その他の条件を一定と仮定すれば、労働力の観点からは、以下のように計算される。

 1人当たりGDP=労働力率×労働生産性(労働力率=労働力人口/人口、労働生産性=GDP/労働力人口)

 したがって、1人当たりGDPを維持・向上させるためには、少子高齢化に伴う労働力の減少率を上回る労働生産性の上昇率を達成することが必要となる。この観点からは、設備投資による生産性向上や更なる技術革新、国内人材の育成・活用が必要である。また、これに加え、高い労働生産性を持つと考えられる外国人労働者、すなわち、我が国にもたらす付加価値の高い外国人労働者を受け入れることは、直接的に1人当たりGDPの向上に寄与することとなるとの議論もある。
 しかしながら現実には、労働生産性は当該外国人労働者が携わる産業・職種自体の性質によるところが大きく、また、当該外国人労働者を受け入れることによって生じ得る社会的コスト、国内労働市場への影響を考慮しなければならず、「1人当たりGDPの維持・向上」というには、それらの要素を十分に加味することが必要である。

(我が国経済の競争力向上という視点について)

 世界経済の知識経済化が進むとともに、経営資源としての人材を有効に活用していくことは、各国・地域の産業や企業が競争力を維持向上させていくための重要な条件となりつつある。こうした中で、経営者、企業内転勤者、専門職労働者、高度専門資格労働者、研究者等の高度な外国人材及びこれらの高度人材の予備軍としての優秀な留学生等の持つ優秀な頭脳、技術の結集は、各国の産業の将来を左右しかねない問題であると世界的にも認識され始めている。実際、1990年代後半以降、科学技術分野、特にIT分野の高度人材に対する需要が高まってきたことを受けて、米国、英国、ドイツ、我が国等の先進諸国では、IT労働者を中心に、高度人材の受入れについて、ほぼ同時期に規制が緩和されている74。今後、他の先進諸国よりも早いペースで少子高齢化・人口減少が進んでいくと予想される我が国にとって、このような高度な人材の育成及び獲得は、特に喫緊の課題であると言える。また、激化する世界的競争に乗り遅れないようにするという観点も必要である。

  〔2〕外国人受入政策における社会的視点

 我が国においては、高度な外国人材が定着していくことは、[1]永住許可の取得等に係る法制度面、[2]受入研究機関・企業における処遇面、[3]生活環境面、等から難しいと言われている。我が国にとって望ましい高度人材を獲得し、定着させていくためには、単に出入国管理制度の整備にとどまらず、就労環境、生活環境を含め総合的な観点から受入体制を整えていくことが重要である。
 このように、高度な外国人材が、就労・生活環境上の理由で我が国に定着しにくい状況がある一方で、既に我が国に多数存在する日系人や研修・技能実習生の就労・生活環境に目を向けてみると、外国人に対する人権侵害、低い労働条件や地域コミュニティとの摩擦等、深刻な問題も現実に顕在化しつつある。
 こうした状況を踏まえ、今後我が国に求められる外国人の新たな受入政策を考えるに当たっては、[1]外国人の生活環境の向上、[2]能力に見合った適切な就労条件(「外国人労働者=安い労働力」という固定観念の払拭等)、[3]受入制度の透明性の向上と不法就労/不法滞在に対する取締りの強化、の3つの視点を念頭に置いて議論を進める必要があると考えられる。

(外国人の生活環境)

 外国人労働者にかかわる社会的問題については、外国人を単なる「労働力」として見るのではなく、我々と同じように日本社会で生計を立てる「生活者」として見るべきである。第3-2-33図を見ても分かるように、我が国に就労する日系人のうち6割近い人々が我が国への定住を望んでいる。また、日系人を始めとする外国人労働者の家族が地域のコミュニティに溶け込めないという問題や、彼らの子弟が適切な教育を受けられないという問題に対しては、政府・自治体が、社会保障制度・関係法令の整備、在留外国人の入国後におけるチェック体制の強化、外国語標識や外国人医師の受入れによる母国語での医療提供の機会の提供等の生活環境の整備や教育環境の整備を行うことが必要である。もちろんこうした対応を行うことは、現実に生じている外国人に対する人権侵害、外国人と地域コミュニティの摩擦という問題の解決に資するだけではなく、高度な外国人材にとって我が国がより魅力的な生活環境になることにもつながると考えられる。
 また、外国人と地域コミュニティの摩擦等の社会的問題を生じさせないためには、我が国における外国人の生活環境の整備に加えて、各受入制度に応じて一定程度の日本語能力を備えていることが望ましい。

(外国人労働者の就労条件 〜「外国人労働者=安い労働力」という固定観念の払拭等)

 我が国に受け入れるべき高い能力を持つ外国人材が日本の労働市場に魅力を感じ、その業務に熱意を持ってとどまるためには、外国人も日本人と同等にその能力・識見を評価されるべきであり、能力に見合った報酬・処遇が与えられるべきである。我が国の労働市場の現状を見ると、処遇・賃金の面で、長期雇用を前提としたキャリア形成や賃金構造が未だ多く存在している。こうした状況の中で、外国人労働者に対してはあくまで一時的な採用との認識が一般的で、人事面において彼らを適切な評価の下、企業内で昇進させていくといったキャリアパスが整備されていない。
 また、現実には、外国人労働者の就労条件を見ると、賃金、社会保険加入等の面で日本人の平均と比較して低い水準にとどまっている。例えば、日系人就労者については、賃金は日本人の平均的な水準と比較して低位にとどまっており、社会保険ないしは国民健康保険に加入している者の割合も62%程度にとどまっている(前掲第3-2-22図、前掲第3-2-23表)。
 既に述べたとおり、外国人労働者が日本社会の中で衣食住を賄っていかなければならない生活者であるという現実を考えれば、長期にわたって外国人労働者を低賃金で雇うことを前提とした議論はそれ自体として問題があると言わざるを得ない。単に安い労働力としてのみ外国人労働者をとらえ、長期的な受入れを促進することは、いたずらに社会の二層構造化を加速し、医療、教育、治安等といった社会的コストを増大させることになる。また、低賃金を前提とした企業活動は、優秀な労働者の定着を妨げるだけでなく、日本人若年労働者の確保を更に困難にするおそれもある。
 また、こうした状況は、外国人労働者一般に対する我が国社会の認識を後退させ、高度な外国人労働者が我が国を忌避する要因にもなりかねない。

(受入制度の透明性の向上と不法就労・不法滞在に対する確実な取締りを行い得る方策の構築)

 法務省入国管理局の発表によると2005年1月1日時点で我が国には約21万人の不法残留者が存在するが、これに資格外就労者、不法入国者を加えると相当数の不法就労者が存在する。不法残留者を不法残留となった時点での在留資格別に見ると、「短期滞在」、「興行」に次いで「就学」、「留学」が多いことが分かる(第3-2-34表)。我が国政府は2003年12月18日の犯罪対策閣僚会議で決定された「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」に基づき、不法滞在者を5年間で半減することを目標に総合的な対策を進めているが、こうした取組は合法的な就労外国人の環境整備に資することにもつながることから、今後も、不法就労/不法滞在及びこれを助長する行為に対して、確実な取締りを行い得るための方策を構築していくことが不可欠である。

 
第3-2-26図 生産年齢人口ピーク(1995年時)を維持するために必要な外国人労働者数

第3-2-26図 生産年齢人口ピーク(1995年時)を維持するために必要な外国人労働者数
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-27図 各国の外国人労働者比率

第3-2-27図 各国の外国人労働者比率
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-28図 外国人労働者の「いわゆる単純労働」の受入れについての国民意識

第3-2-28図 外国人労働者の「いわゆる単純労働」の受入れについての国民意識
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-29図 今後の外国人労働者の受入れについて

第3-2-29図 今後の外国人労働者の受入れについて
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-30図 企業規模別従業者年齢構成比(2002年)

第3-2-30図 企業規模別従業者年齢構成比(2002年)
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-31図 中小企業における年齢別人材の過不足感(2003年)

第3-2-31図 中小企業における年齢別人材の過不足感(2003年)
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-32図 我が国の1人当たりGDPを100としたときの各国・地域の1人当たりGDP(1995年米ドル換算)

第3-2-32図 我が国の1人当たりGDPを100としたときの各国・地域の1人当たりGDP(1995年米ドル換算)
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-33図 日系人就労者の定住に対する意識

第3-2-33図 日系人就労者の定住に対する意識
Excel形式のファイルはこちら


 
第3-2-34表 在留資格別不法残留者数の推移

第3-2-34表 在留資格別不法残留者数の推移
Excel形式のファイルはこちら



70 日経連労働問題研究委員会(2002)。
71 日本経済団体連合会(2004)、日本商工会議所(2003)等。
72 労働政策研究・研修機構(2004)を参照のこと。
73 例えば、伊丹、松島、橘川編(1998)等。
74 米国は2000年、21世紀米国競争力法に基づき、H1Bビザの発行数の拡大と滞在期間の延長を行った。英国は2000年に就労許可証の発給規制の緩和を行うとともに、2002年に「高度技能移民プログラム」を導入し、ドイツでは、2000年にIT技術者に対するグリーン・カード(期間限定の雇用許可)付与を規定する省令が施行された。また、我が国も、2001年以降順次、アジア各国とのIT技術者試験における相互認証を行い、当該試験に合格した外国人IT技術者に対する上陸許可基準等の緩和を実施している。


 第2節 国内外の優れた人材の活用

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む