第2章 「アジア・ダイナミズム」と国際事業ネットワークの形成 

(2)中国、ASEAN4ともに日系企業のニーズが低い現地における資金調達

 我が国企業が海外において事業を展開する場合には、為替リスクを回避する観点等から、現地での運転資金・設備投資資金の調達も有益である。しかしながら、現時点では、中国及びASEAN4において、日系企業の現地での資金調達はあまり行われていない。

(マクロ的に見た資金調達環境)
 中国の資金調達は、既に見てきたとおり直接金融市場の発達が不十分であることから、間接金融が中心となっている。他方、ASEAN4については、〔1〕アジア通貨・経済危機からの影響から脱却しつつあり、社債の発行も見られるようになったマレーシア、〔2〕アジア通貨・経済危機の影響からの回復は相当程度進んでいるタイ、〔3〕アジア通貨・経済危機の影響を色濃く残し、社債の発行がほとんど見られず、資金調達面で厳しい環境にあると考えられるインドネシア、〔4〕既述のような銀行改革の遅れや、株式市場の低迷から資金調達で厳しい環境にあるフィリピン、と国ごとに状況が異なっている(第2-3-58図)。
 
第2-3-58図 中国とASEAN4における資金調達動向(2004年末)
第2-3-58図 中国とASEAN4における資金調達動向(2004年末)
Excel形式のファイルはこちら

(ミクロから見た日系企業の資金調達)
 一方、日系企業の資金調達動向について見る
87、〔1〕直接金融市場からの調達はほとんど見られず、〔2〕地場金融からの調達経験は3割程度、となっており、日系企業の大部分は現地での資金調達を行っていない(第2-3-59図)。したがって、日系企業の資金調達は、〔1〕投資の決定権限を有する本社からの融資、〔2〕内部留保による再投資、〔3〕現地進出日系金融機関からの借入れ、が主流となっていると考えられる。

87 日系企業の進出先における資金調達について定量的な把握は困難であることから、財団法人産業研究所(2006)「東アジアの投資・資金調達環境と我が国企業の海外展開に関する調査研究」を使用している。

 
第2-3-59図 中国とASEAN4における日系企業の地場金融機関からの融資経験
第2-3-59図 中国とASEAN4における日系企業の地場金融機関からの融資経験
Excel形式のファイルはこちら

 他方、中国とASEAN4における外資企業の資金調達に係る制度的障害は少ない88。したがって、制度的障害の存在により、日系企業の現地での資金調達が阻害されている可能性は低く、そもそも日系企業の現地での資金調達のニーズが低いことが考えられる。実際、国際協力銀行(JBIC)が行っているアンケート調査89でも、有望事業展開先の課題として「資金調達が困難」を挙げる企業は、最大でも中国の6.8%、インドネシア、タイでは、それぞれ2.6%、1.9%にとどまっている。

88 中国、ASEAN4ともに銀行からの借入は可能。中国では社債発行に係る管理規制が存在するが、理論的には外資企業の起債は可能であり、外資企業の株式上場も可能となっている。ASEAN4では社債発行、株式上場ともに、内外資の規制の差は少ない。
89 国際協力銀行開発金融研究所(2005)「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告〜2005年度海外直接投資アンケート調査結果〜」では中期的有望事業展開先として82%の企業が中国を回答し全体の国・地域中第1位となっているが、2位以下の国・地域との差は縮小傾向にある。


 しかしながら、前節で見たとおり、我が国企業の事業規模の拡大や国際事業ネットワークの形成、オープン化が進んでいる中、現地法人間、現地法人と地場企業間等、本社が介在しない形の取引は増加していると考えられる。こうした状況を踏まえれば、資金調達について、本社や現地法人の収益に依存した構造は必ずしも適切であるとは言えない。そのため、現時点で日系企業の資金調達ニーズが低くなっているのは、既述のような中国やASEAN4における金融システムの抱える課題を踏まえて、現地での資金調達をちゅうちょしている結果が現れている可能性がある。したがって、今後、中国やASEAN4の金融改革の深化に伴い、日系企業の現地での資金調達ニーズが高まっていくことも予想される。

 第3節 国際事業ネットワーク形成における進出先としての中国とASEAN4の経済環境と投資・事業環境

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む