第2章 「アジア・ダイナミズム」と国際事業ネットワークの形成 |
(2)中国とマレーシアの為替制度改革
(為替制度の改革)
実質的なドルペッグ制の下で、中国は、外資企業の輸出拠点としての進出や低廉・豊富な労働力等を背景として輸出を拡大させていった。他方、米国からは、人民元の対ドルレートが過小評価された水準で実質的に固定されていることが、中国の輸出企業を不当に支援し、米国製造業に対して大きな影響を与えているとして、人民元切り上げの圧力を強めていった。
こうした米国を中心とする海外からの切り上げ圧力が高まっている中で、中国では、2005年7月21日に、通貨バスケットを参照した管理変動相場制度に移行することを発表し、同時に1ドル8.28元から1ドル8.11元まで、2.1%の切り上げを行った。他方、変動幅については、これまでと変わりはなく、中心レートから1日に±0.3%以内(対ドルレート、他の通貨は±1.5%以内、後に±3%)とされた。
また、マレーシアでも中国と同日、それまでのドルペッグ制から貿易額でウエイト付けされた通貨バスケットに連動した管理変動相場制度に移行することを発表した。マレーシアでは中国の為替制度と異なり、変動幅の制限は設定されていないが、対ドルレートは比較的安定して推移している。
(為替制度改革後の中国通貨当局の管理変動相場制度の運用)
2005年7月の為替制度改革は、同日付で発出されたG7(先進7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)共同声明にも見られるとおり、おおむね各国において好意的にとらえられた。しかしながら、改革後も対ドルレートの日中変動幅97は、2006年5月26日までで最大で0.15%にしかすぎず、総じて、中国通貨当局が改革後の人民元制度を慎重に運用していることが推察される。
中国の為替制度において、参照される通貨バスケットの構成は明確にされてはいないものの、これまでの中国通貨当局の発表98によれば、ドル、ユーロ、円、ウォンが主要な構成通貨であり、バスケットに占めるドルのウエイトは50%をはるかに下回るとされている。他方、バスケット制度移行後の人民元の対ドルレートを見ると、対円、対ユーロレートと比べて安定して推移しており、主要4通貨の為替バスケットのウエイトの推計では、2005年7月22日から12月30日まではドルのウエイトは100%を超え99、2006年1月2日から3月末までのウエイトは約90%となっている(第2-3-67図)。すなわち中国通貨当局の発表とその後の人民元の対ドルレートの動向及び主要4通貨により推測される為替バスケットの構成を比較すれば、中国為替制度における通貨バスケットへの参照の度合いは小さいことが考えられる。
第2-3-67図 為替制度改革後の人民元レートの動向及び為替バスケットの推計
また、人民元の対ドル中心レートの設定について見ると、透明性が高いものとはなっていない。対ドル中心レートの設定については、2005年7月22日から導入されたインターバンクレートの終値を翌営業日の中心レートとする方式から、2006年1月にマーケットメーカーからのヒアリングに基づく値付けの加重平均による設定に変更されているが、加重平均の方法を見ると、マーケットメーカーの外国為替市場における取引高及び相場状況等その他の指標により行われるとされ、算出方法は必ずしも明確になっていない(第2-3-68図)。
第2-3-68図 中国の外国為替市場(2006年4月現在)
以上のように、人民元の為替相場については、中国通貨当局により管理されている面が大きく、透明性も十分に確保されていない。こうした状況の下で、2005年12月のG7共同声明、2006年1月の米大統領の経済報告等にも見られるように、中国の為替制度に対して、海外からの柔軟化圧力が存在している。2006年4月のG7の共同声明では、為替に関連した部分において、「多額の経常収支黒字を有する新興市場エコノミー、特に中国の為替レートの一層の柔軟性が、必要な調整が進むためには望ましい」との言及がなされた。これは、G7と併せて開催された一連の国際会議で、世界的不均衡は各国すべてが真剣に取り組まねばならない重要な課題であるとの認識を共有し、世界各国それぞれの責任を果たしていく観点から、新興市場国の課題である「為替の柔軟性」にも言及がなされることとなったものである。
(人民元がドルとの連動性を高く維持する背景)
このように、人民元が為替制度改革後もドルとの連動性を高く維持している背景として、〔1〕中国企業のドルの選好度が高く(第2-3-69図)、先物、スワップ市場が十分に発達していないため、対ドルレートでの急激な変動は拡大する貿易に対して大きな影響を与える懸念があること、〔2〕直接投資、外貨準備等対外資産におけるドルのウエイトが高いこと(第2-3-70図)、等が考えられる100。
第2-3-69図 中国外貨取引センターにおける
取引通貨構成
第2-3-70図 中国の対外資産の構成
第3節 国際事業ネットワーク形成における進出先としての中国とASEAN4の経済環境と投資・事業環境 |