第3章 「持続する成長力」のために取り組むべき課題 

5.労働市場の資源配分機能の向上

 国内人材の育成、知識・経験の豊富な女性や高齢者の就業促進、海外人材の受入れに加え、こうした人的資本が労働市場において適切に移動・配分され、活用されるような環境整備が重要である。ここでは、労働市場の資源配分機能と今後の課題について論じる。

(若い年齢層での転職者割合が増加)
 まず、我が国の労働市場が実際にどの程度流動化しているかを見てみよう。
 年齢階級別の転職者割合の推移を見ると、各年齢階級ともに、おおむね転職者割合は上昇傾向にある(第3-3-42図)。これは、我が国の労働市場が流動化していることの現れであると言えるが、先に見たように、正規雇用から非正規雇用へのシフトにより転職者割合が増加している可能性もある(前掲第3-3-17図)。
 
第3-3-42図 年齢階級別転職者割合の推移(男女計)
第3-3-42図 年齢階級別転職者割合の推移(男女計)
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(労働市場の柔軟性と労働生産性の関係)
 次に、各国の労働市場の柔軟性(賃金の伸縮性の高さで表したもの)と、労働生産性上昇率との関係を見ると(第3-3-43図)、傾向としては、労働市場が柔軟な国ほど、労働生産性も上昇していることが分かる。
 
第3-3-43図 労働市場の柔軟性と労働生産性の関係
第3-3-43図 労働市場の柔軟性と労働生産性の関係
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(我が国の労働市場の資源配分機能)
 他方で、我が国の労働市場は一部で流動化が見られるものの、その資源配分機能はいまだ非効率であるとの指摘がある。これまで、部門間の生産資源配分の非効率性が、我が国の1990年代の生産性低下に大きく寄与しているとの指摘がされている39。1980年代から2002年までの労働生産性の要因分解を行った分析(第3-1-44表)40によると、我が国の労働生産性上昇率は、1980年代の3.2%から1990年代の1.1%へと低下しているが、この低下に大きく寄与しているのは、生産性、次いで資本蓄積と労働力の再配分効果の低下である。しかしながら、2000〜2002年は、生産性、資本蓄積効果が回復する一方、労働力の再配分効果だけがマイナスとなり、労働生産性の回復を妨げていることが分かる。

39 宮川(2003)他、大谷・白塚・中久木(2004)では、JIPデータベースを利用してGDP成長率の要因分解を行った結果、バブル以前(1986〜1991年)とバブル以降(1992〜1998年)とを比較すると、要素市場の歪み(労働の再分配効果)が0.47%分、成長率の低下に寄与していることが示されている。
40 ここでは、労働生産性上昇率を、各産業での資本深化を集計した効果(資本蓄積効果)、資本及び労働がより高生産部門に移動することによる効果(再配分効果)、各産業における技術進歩率(生産性変化率)に分解し、それぞれの効果の寄与度を計測している。

 
第3-3-44表 労働生産性上昇率の要因分解
第3-3-44表 労働生産性上昇率の要因分解
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 今後、投資や労働の再配分を通じて、より生産性の高い経済・産業構造を実現していく観点からは、このような労働市場の非効率性を解消していくことが重要である。例えば、今後の少子・高齢化の進展を踏まえれば、医療・福祉分野などに、より多くの労働投入が行われることが望まれる。

(労働市場の資源配分機能向上のための制度面における課題)
 人的資本が労働市場において適切に配分され、活用されるためには、働き方の選択に中立的な諸制度の設計、既存制度の運用改善が求められる。具体的には、ライフスタイル中立的な社会保険制度(企業年金制度、退職金制度など)・税制の他、労働時間41、就業場所にとらわれない働き方42に対応した弾力的な労働時間制度43などと、これら多様な雇用管理区分間における賃金等処遇の合理性の確保44などが挙げられる。これらの諸制度は、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の観点から、特に英国等において取組が進んでいる(第3-3-45表)。

41 現行の我が国の制度では、労働時間の「量」的な規制を行うという考えを前提として制度設計されており、フレックスタイム制や裁量労働制などの現行制度の運用の改善とともに、新たな仕組みの導入が課題となっている。
42 我が国では、情報通信機器を活用して時間と場所を選択して働くことができるテレワーク、在宅就業の推進などを進めている。
43 米国のホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間等規制の適用除外)など。
44 英国においては、EUの「パートタイム労働に関する指令」を受け、2000年にパートタイム労働に関する規制を整備。パートタイム労働者が労働契約条件において、比較可能なフルタイム労働者よりも不利な扱いを受けないことを保障している。

 
第3-3-45表 英国における柔軟な働き方(勤務形態)の具体例
第3-3-45表 英国における柔軟な働き方(勤務形態)の具体例
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 これらは、低生産性部門から高生産性部門への人的資本の円滑な移動を促すとともに、労働者が持てる意欲と能力を発揮し、企業にとっては有為な人材の確保・活用や生産性の向上に資するとの観点からも重要である。
 我が国においては、仕事と生活の調和の実現に向けた総合的な対策をさらに進めることが望まれる。

 第3節 人的資本の育成と活用

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