第3章 「持続する成長力」のために取り組むべき課題 

(3)少子高齢化と所得収支の拡大

 「Factor Content of Trade9」の考え方によれば、財の輸入は財の生産に投入された労働力の輸入と同じである。したがって、所得収支の拡大と貿易・サービス収支の赤字化に特徴付けられる「成熟した債権国」への移行は、少子高齢化により減少する我が国の労働力を補う意味もある。

9 財の取引とは、すなわちその財の生産に投入された労働、資本等の生産要素を取引することであるという考え方。


 また、後述のとおり、所得収支の拡大には対外資産の拡大という側面がある。これは第2章第2節で触れた国際事業ネットワーク形成に伴う面もあり、我が国の生産性上昇にもつながる。
 このように所得収支の拡大は、少子高齢化への対応としても有意義であるが、他方で、少子高齢化はライフサイクル仮説10に従えば、家計貯蓄率の低下を通じてISバランスを変化させ、経常収支黒字の減少や経常収支の赤字化をもたらす可能性がある。経常収支黒字の減少は対外純資産の伸びの鈍化を意味しており、今後少子高齢化の中で所得収支を拡大していくためには、この点をどう考えるかが重要となってくる。これについては、2.で詳しく見ていく。

10 「人々は一生涯での消費額を一生涯で使えるお金と等しくなるように毎年の消費量を決める」という消費理論。具体的には、「現在保有する資産+将来得られる所得=一生涯での消費量」となるように毎年の消費量が決まると考える。ライフサイクル仮説に従えば、若年層は将来の消費に備えて貯蓄率を増加させ、老年層は貯蓄を取り崩して生活するため貯蓄率は低下するとされている。
  ただし、現役世代が将来の介護サービス需要に備えることを考慮した世代間理論モデルに従えば、我が国の貯蓄率は高齢化に際しても低下しない可能性が示唆されている。修正されたライフサイクル・アプローチによれば、高齢者の貯蓄は、伝統的でより単純なライフサイクル仮説の場合よりも減少しない可能性も示唆されている。


 なお、平成17年4月19日の経済財政諮問会議で報告された「日本21世紀ビジョン11」においても、第3-4-6表のとおり、少子高齢化に伴う我が国の貯蓄率の低下を通じて、ISバランスが悪化することにより、経常収支の黒字がGDP比で低下していく姿が展望されている。

11 「日本21世紀ビジョン」では、今後、経常収支の黒字はGDP比で低下するものの、黒字が維持されるとし、日本は優れた経営資源や技術を活用し、グローバルに投資活動を行う「投資立国」へと発展していくと述べられている。

 
第3-4-6表 貯蓄投資バランスの展望
第3-4-6表 貯蓄投資バランスの展望
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(高齢化に伴う影響緩和の可能性)
 拡大する所得収支の最終的な受取者はどうなっているだろうか。
 資金循環統計から見ると、我が国の対外債権の最大の保有者は金融機関であり、家計が直接保有している対外資産は少ない。ただし、金融機関預金の約3分の2は家計が保有しており、海外投資を行っている企業への家計からの株式投資なども考慮すれば、対外資産の最終的な最大保有者は家計であると言える(第3-4-7表)。
 
第3-4-7表 2005年末対外資産の保有者
第3-4-7表 2005年末対外資産の保有者
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 また、家計調査から家計の世帯主の年齢別に貯蓄、外貨資産の保有額を見ると、高齢者世帯がこうした外貨資産の保有世帯の中心であることが分かる(第3-4-8図)。
 
第3-4-8図 世帯主の年齢別貯蓄高の推移
第3-4-8図 世帯主の年齢別貯蓄高の推移
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 家計全体の資産内訳を見ると、海外投資残高は拡大ペースにあるが、依然として金融機関預入残高の割合は高い。そこで、この金融機関、社会保障基金の資産内訳を見ると、双方ともに海外投資の割合は急増しており、間接的に家計、特に高齢者世帯が保有する海外投資残高は拡大していると言える(第3-4-9図、第3-4-10図、第3-4-11図、第3-4-12図)。
 
第3-4-9図 家計の資産(ストック)内訳の推移
第3-4-9図 家計の資産(ストック)内訳の推移
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第3-4-10図 家計の資産(フロー)内訳の推移
第3-4-10図 家計の資産(フロー)内訳の推移
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第3-4-11図 金融機関の資産(ストック)内訳の推移
第3-4-11図 金融機関の資産(ストック)内訳の推移
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第3-4-12図 社会保障基金の資産(ストック)内訳の推移
第3-4-12図 社会保障基金の資産(ストック)内訳の推移
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 このように、所得収支の最終的な受取者は、高齢者世帯が大きな割合となっており、所得収支拡大は高齢化の過渡的影響12を緩和する可能性もある。

12 高齢者の所得を増加させ、高齢者間での所得再配分を行うことで、世代間での所得や負担の格差を縮小することができる可能性がある。


 第4節 「投資立国」の実現に向けて 〜「単線的」構造から「複線的」構造へ〜

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