第1章
世界経済の現状と今後の課題(持続的成長に向けて)
第2節
世界的な経常収支不均衡の拡大

2.悪化を続ける米国の経済収支

(1)過去最大の赤字となった貿易収支

 2006年の米国経済は、住宅投資が前年比で大きくマイナスとなる中、情報関連機器投資や構築物投資を中心に民間設備投資が好調を維持したこと、個人消費が堅調に推移したことなどから、2005年に引き続き高い成長を達成し、実質GDP成長率は3.3%を実現した。輸入も大幅に増加し、2006年は過去最大の2兆2,042億ドルに達した。輸出も引き続き増加し、1兆4,457億ドルに達したものの、それを上回る輸入の伸びによって2006年の財・サービス収支の赤字は7,585億ドルと過去最大を記録した(第1-2-3表)。
 
第1-2-3表 米国の経常収支の推移
第1-2-3表 米国の経常収支の推移
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(2)所得収支黒字幅の減少

 米国の所得収支は2005年以降2年連続で黒字幅が減少している(第1-2-4図)。これは主に、政府投資収益収支の赤字が拡大したことによる。
 
第1-2-4図 米国の所得収支の推移
第第1-2-4図 米国の所得収支の推移
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 米国が海外に保有する資産は2005年末で11兆792億ドルに上るが、その資産構成を見ると(第1-2-5表)、相対的にリスクが高い反面、収益率は高いと見られる直接投資(3.5兆ドル)及び株式投資(3.1兆ドル)が全体の60%を占めている。相対的に収益率の低い債券投資は約1兆ドルでシェアは9%にすぎない。一方、米国の対外債務、すなわち外国が米国に保有する資産の総額は2005年末で13.6兆ドルであるが、このうち、直接投資(2.8兆ドル)及び株式投資(2.1兆ドル)が全体に占めるシェアは36%にとどまっている。外国による債券(米国国債を含む)投資は4.6兆ドルで、全体の34%を占めている。
 
第1-2-5表 米国の対外投資ポジション(2005年末現在)
第1-2-5表 米国の対外投資ポジション(2005年末現在)
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 このように米国は、海外からの資金調達は比較的調達コストの低い債券を中心に行い、海外での資産運用は収益率の高い直接投資や株式投資を中心に行うことによって、ストックで見た海外からの資金調達額が海外での資産運用額よりも多い純債務国であるにもかかわらず、これまで所得収支の黒字を実現してきた。
 しかしながら、2003年以降直接投資収益収支の黒字幅が緩やかに増加する中、政府投資収益収支の赤字が大幅な拡大を続けた結果、2005年以降の所得収支の黒字幅は2年連続で減少となった。政府投資収益収支の赤字幅拡大は、海外からの米国国債や米国政府機関債への投資が年々拡大していること、2004年以降短期金利が、2005年以降は短期金利に加えて長期金利も上昇基調となったことによる利払い額の増加などが影響していると考えられる(第1-2-6図、第1-2-7図)。
 
第1-2-6図 米国財務省証券の部門別保有高の推移
第1-2-6図 米国財務省証券の部門別保有高の推移
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第1-2-7図 米国長期・短期金利の推移
第1-2-7図 米国長期・短期金利の推移
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 なお、米国は今後、所得収支が赤字化し、資本流入に依存した先進債務国という新たな局面を迎える可能性もないとは言えない(第1-2-8表)。米国は、英国と同様にいち早く工業化を遂げた国として、従来、国際収支発展段階説3上、最も先進的な段階に達してきた。第二次世界大戦後世界最大の資本供給国となり、1970年代から1980年代にかけて、「成熟した債権国」として経済発展を遂げてきた米国は、1983年以降経常収支が赤字となったが、米国への資本流入と活発な対外投資を通じて、投資収益収支のプラスを維持してきた。しかし、1989年には対外純債務を抱えることとなり、さらに、2005年以降は、主に金利上昇と財政赤字の悪化に伴う米国国債の利払い・償還費用の増大によって、所得収支の黒字幅は減少を続けている。

3 Crowther, G(1957)による。国際収支の発展段階説とは、一国の貯蓄・投資バランスが経済発展に対応して変化することに着目し、資産の蓄積過程を組み合わせて長期的視点により国際収支構造の変化を説明する理論である。Crowtherは各国の国際収支構造を分類する方法として債権国(所得収支がプラス)か債務国(所得収支がマイナス)か、という基準と、資本輸入国(資本収支がプラス)か資本輸出国(資本収支がマイナス)か、という2つの基準を主に用い、国際収支の発展段階を6段階に分けた。
 
第1-2-8表 国際収支発展段階説と米国の国際収支
第1-2-8表 国際収支発展段階説と米国の国際収支
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(3)拡大する対外純債務残高

 経常収支赤字の悪化を受けて、米国の対外純債務残高は拡大を続け、2005年末には過去最大の2兆5,462億ドルを記録した。一方、対外純債務残高の対名目GDP比を見ると、2003年末以降2005年末までは減少傾向にある(第1-2-9図)。対外純債務残高の対名目GDP比が減少傾向にある要因としては、〔1〕米国の対外債務の大半がドル建てである一方、対外資産の過半が外国通貨建てであるため4、2002年以降続くドルの減価傾向の中で、ドル建てで見た米国の対外資産の評価額が増加していること、〔2〕株式等米国が保有する対外資産の評価額が上昇していること、〔3〕所得収支が黒字を計上していることなどが挙げられる(第1-2-10図)。

4 Roubini and Setser (2004), "The US as a Net Debtor: The Sustainability of the US External Imbalances".
 
第1-2-9図 米国の対外純債務残高の推移
第1-2-9図 米国の対外純債務残高の推移
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第1-2-10図 対外純債務残高の対名目GDP比(対前年増減)の変動要因分解
第1-2-10図 対外純債務残高の対名目GDP比(対前年増減)の変動要因分解
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 しかしながら、〔1〕2005年以降ドルの名目実効為替レートは横ばいに転じていること、〔2〕貿易収支は引き続き悪化を続けていること、〔3〕株価等米国の対外資産価格が長期的に上昇し続けるとは考えにくいこと、〔4〕2005年以降2年連続で所得収支黒字幅が減少していることにかんがみれば、今後、対外純債務残高の名目GDP比が増加することが懸念されることから、米国は、貿易赤字を一定程度縮小させることで、その抑制を図ることが必要である(第1-2-11図)。
 
第1-2-11図 ドル実効為替レート、英国・ドイツ株価指数の推移
第1-2-11図 ドル実効為替レート、英国・ドイツ株価指数の推移
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