第1章
世界経済の現状と今後の課題(持続的成長に向けて)
第3節
国内経済の調和の取り組みの加速により持続的発展が求められる中国経済

1.投資・輸出に過度に依存した経済〜求められるバランスの取れた成長

(1)拡大を続ける中国経済

(世界経済における中国のウェイトの高まり)
 中国経済は高成長を持続しており、世界経済におけるウェイトを近年ますます高めている。2006年の実質GDP成長率は10.7%と4年連続で10%を超え、2006年の名目GDPは2兆6,301億ドルにまで達した1。近年の中国のGDP成長を需要項目別に見ると、投資(固定資本形成)の寄与が最も大きく、投資主導の経済成長が継続しているが、2005年及び2006年には純輸出の寄与度も高まっている(第1-3-1図)。2006年の中国の輸出額は9,691億ドル(前年比27.2%)、輸入額は7,916億ドル(同20.0%)と共に大幅に拡大し、貿易収支黒字は1,775億ドルと2005年の1,020億ドルから大幅に増加し、過去最高を更新した(第1-3-2図)。中国の貿易収支の国別の内訳を見ると、対日本では240億ドルの貿易収支赤字を計上している一方、対米国、対EUでそれぞれ1,443億ドル、916億ドルの貿易収支黒字を計上している(第1-3-3図)。

1 IMF「World Economic Outlook Database, April 2007」。

 
第1-3-1図 中国の実質GDP成長率の需要項目別寄与度の推移
第1-3-1図 中国の実質GDP成長率の需要項目別寄与度の推移
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第1-3-2図 中国の輸出入の推移
第1-3-2図 中国の輸出入の推移
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第1-3-3図 中国の相手国・地域別の貿易収支の推移
第1-3-3図 中国の相手国・地域別の貿易収支の推移
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 この結果、中国の世界全体に占める名目GDPのシェア、貿易額(輸出入合計)のシェアは1990年時点ではそれぞれ1.6%、1.2%にすぎなかったが2、2005年時点で名目GDPの世界シェアは5.0%と、米国、日本、ドイツに次いで世界第4位であり、輸出額及び輸入額の世界シェアはそれぞれ7.3%、6.1%と共に世界第3位を占めるに至っている(第1-3-4表、第1-3-5表)。対内直接投資の受入額も拡大しており、2005年の対内直接投資額(フロー)は724.1億ドルと、英国、米国に次いで世界第3位の投資受入国となっている(第1-3-6表)。また、2005年時点の対内直接投資残高(ストック)は3,178.7億ドルと、世界第10位の規模に達している3

2 世界銀行「WDI」。
3 UNCTAD 「World Investment Report 2006」。なお、2007年5月に国家外貨管理局が公表した「2006年中国国際収支報告」によると、2006年の中国の貿易総額は世界第3位(輸出額は世界全体の8.0%、輸入額は世界全体の6.4%)、2006年の中国への直接投資額は、米国、英国、フランスに次いで第4位となっている。
 
第1-3-4表 世界各国のGDPランキング(2005年)
第1-3-4表 世界各国のGDPランキング(2005年)
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第1-3-5表 世界各国の貿易額ランキング(2005年)
第1-3-5表 世界各国の貿易額ランキング(2005年)
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第1-3-6表 世界各国の直接投資額ランキング(2005年)
第1-3-6表  世界各国の直接投資額ランキング(2005年)
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(高成長をけん引する投資と輸出)
 このように拡大を続ける中国経済の中での投資、輸出の状況を見ると、中国の固定資産投資額の対名目GDP比は2000年の33.2%から2006年には52.5%まで上昇している。また、輸出の対名目GDP比は、1990年代に20%前後で推移していたが、2000年以降堅調に上昇し、2006年には37.1%と、過去の日本、米国と比較しても極めて高い比率となっている。その一方で、消費の対名目GDP比は、年々低下傾向にある(2006年は36.5%)(第1-3-7図)。このように、特に2000年以降、旺盛な投資と輸出の拡大が中国経済の高成長をけん引していると言える。
 
第1-3-7図 中国・日本・米国における投資・輸出・消費の対名目GDP比の推移
第1-3-7図 中国・日本・米国における投資・輸出・消費の対名目GDP比の推移
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(求められる変化バランスの取れた成長の実現)
 先に述べたように中国経済は高成長を遂げているが、その持続可能性については、需要構成面から大きく分けて二つの懸念が指摘されている。第一に、実需を伴わない過剰な投資が生産過剰や不良債権問題等を引き起こすリスクであり、第二に、過度の外需への依存が海外経済の変動の影響を受けやすくすることに加えて、対外不均衡問題、貿易摩擦問題を引き起こすリスクである。
 これらのリスクに適切に対処し、中国経済が持続的に発展を遂げていくためには、市場機能に立脚したバランスの取れた成長の実現が求められる。以下では、投資、輸出動向の現状について概観した上で、投資・輸出に過度に依存した構造を是正するための具体的方策について述べる。

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(2)投資に過度に依存した経済成長

(投資効率の低下)
 先に述べたように、中国の全社会固定資産投資の対名目GDP比は2006年には52.5%に達している。このような高水準な投資は、その非効率性についての懸念を惹起している。中国の投資効率を見るために、投資の対名目GDP比を実質GDP成長率で除して得られる限界資本係数4を日本、韓国、ASEAN4の高度成長期のそれと比較すると、中国の投資効率は徐々に低下しており、2000年2006年の中国の投資効率はこれらアジア諸国よりも低いことが分かる(第1-3-8表)。投資効率が低下しているにもかかわらず投資は拡大を続けていることから、中国において期待収益率の低い事業に対する投資が行われている可能性が示唆される。

4 限界資本係数は1%当たりの実質GDP成長率を達成するのに必要な投資(対名目GDP比)を表し、値が小さいほど投資効率が高いと言える。
 
第1-3-8表 アジア各国の高度成長期における限界資本係数の比較
第1-3-8表 アジア各国の高度成長期における限界資本係数の比較
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(過剰投資がもたらす過剰生産構造)
 過剰投資が過剰生産構造を生み出しているのではないかとの懸念も指摘されている。中国の固定資産投資を部門別に見ると、製造部門と不動産部門を中心に高い伸び率を示しており、特に、投資額全体に占める製造部門のシェアは2006年には約28%まで拡大しているなど、投資の伸びをけん引していることが分かる(不動産バブルへの懸念については後述する)(第1-3-9図)。製造業の中でも、特に電気機械、衣類等の業種の固定資産投資は前年比約50%の伸びが継続している(第1-3-10図)。
 
第1-3-9図 中国の業種別固定資産投資額(都市部)の推移
第1-3-9図 中国の業種別固定資産投資額(都市部)の推移
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第1-3-10図 中国の業種別固定資産投資額(都市部)の伸び率の推移
第1-3-10図 中国の業種別固定資産投資額(都市部)の伸び率の推移
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 旺盛な固定資産投資は、過剰な生産能力を顕在化させつつある(第1-3-11表)。中国政府も、鉄鋼、自動車、電解アルミ等の一部業種を生産能力過剰分野として掲げ、非市場的手法ではあるものの個別に構造調整策を講じているが5、これらの分野の投資額金額は大きい(第1-3-12図)。例えば、鉄鋼に関しては、構造調整策を受け、2006年の投資の伸び率は低く抑えられてはいるが(前掲第1-3-10図)、投資額は約2,247億元(2006年・都市部)と製造業全体の8.5%を占めている。こうした急激な生産能力の増強は、この数年で粗鋼生産量を急激に拡大させ世界の3分の1の規模を占めるに至らしめており、世界の鉄鋼市場にデフレ圧力をもたらすことが懸念されている6(第1-3-13図)。

5 2006年3月に発表された「生産能力過剰業種の構造調整促進に関する通知」(国発[2006]11号)では、設備過剰が顕著な業種として鉄鋼、アルミ、カーバイド、鉄合金、コークス、自動車、潜在的に設備過剰業種として、セメント、石炭、電力、紡績業が挙げられており、新規投資の規制や旧式生産能力の淘汰、M&A等により構造調整を行うこととされている。8月には、「新規着工プロジェクトの整理に関する指導意見」(発改投資[2006]1538号)が発せられ、これらの過剰業種に関しては重点的に査察が行われることとされた。その他、6月の「鉄鋼業の総量規制・淘汰による構造調整の加速に関する通知」(発改工[2006]1084号)、12月の「自動車工業構造調整に関する意見の通知」(発改工[2006]2882号)など、業種別にも構造調整策が打ち出されている 。
6 各種報道によると、ドイツ鉄鋼連盟会長、欧州委員会副委員長(企業・産業担当)等が中国の過剰生産能力に対して懸念を表明している。
 
第1-3-11表 中国の主要業種における過剰生産能力の実態(2005年)
第1-3-11表 中国の主要業種における過剰生産能力の実態(2005年)
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第1-3-12図 中国の製造業における固定資産投資の内訳(2006年・都市部)
第1-3-12図 中国の製造業における固定資産投資の内訳(2006年・都市部)
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第1-3-13図 主要国の粗鋼生産量の推移
第1-3-13図 主要国の粗鋼生産量の推移
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(不動産バブルへの懸念)
 このような投資過熱の影響は物価の面から見ると、大幅な供給能力増や継続的な労働供給増を背景に、世界的な原材料価格の上昇等があるものの、全体としては、生産者物価(PPI)、企業商品物価(CGPI)、消費者物価(CPI)ともに上昇傾向は限定的である(第1-3-14図)。しかし、資産価格については、大幅に上昇しており、不動産バブルに対する懸念も指摘されている(第1-3-15図)。例えば、2003年末から2004年にかけて急激に上昇した不動産価格は、相次ぐ投資抑制策の結果、全国レベルで見れば上昇ペースが低下しつつあるものの、既に極端に上昇した上海を除いては依然として上昇傾向が継続している(第1-3-16図、第1-3-17図)。このような不動産価格上昇の背景として、都市部の経済が不動産開発に過度に依存していることが指摘されている。
 
第1-3-14図 中国の物価の推移
第1-3-14図 中国の物価の推移
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第1-3-15図 中国の不動産価格の推移
第1-3-15図 中国の不動産価格の推移
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第1-3-16図 中国の主要都市の建物販売価格指数の推移
第1-3-16図 中国の主要都市の建物販売価格指数の推移
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第1-3-17図 中国の主要都市の土地価格指数の推移
第1-3-17図  中国の主要都市の土地価格指数の推移
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(3)輸出に過度に依存した経済成長

(貿易収支黒字は過去最高を更新)
 2006年の中国の輸出額は9,691億ドル(前年比+27.2%)、輸入額は7,916億ドル(同+20.0%)と共に大幅に拡大し、貿易収支黒字は1,775億ドルと過去最高を更新した(前掲第1-3-2図)。これは、過去に我が国が計上した貿易収支黒字の最高額(1994年に記録した1,209億ドル)を更に大きく上回るものである。2004年までは、輸出額と輸入額の差は大きな変化はなくおおむね安定して推移していたが、2005年以降輸出が大きく増加し、貿易収支黒字が拡大した。固定資産投資と輸出の伸びを比較すると、高い相関関係があり、輸出の伸びが固定資産投資の伸びをけん引している可能性があることがうかがえる(第1-3-18図)。これらのことから、中国経済は輸出に大きく依存する体質となっており、またその依存の度合は近年ますます高まっていることが分かる。
 
第1-3-18図 中国の輸出の伸び率と全社会固定資産投資の伸び率の推移
第1-3-18図 中国の輸出の伸び率と全社会固定資産投資の伸び率の推移
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(資本・技術集約型製品の輸出の拡大)
 次に、中国の輸出の仕向先国別比率の推移を見ると、輸出全体の約50%が我が国、米国及びEUといった先進国へ輸出されている。EU向け輸出が19%弱までシェアを拡大する一方、我が国向け輸出のシェアは低下傾向にあり、2006年には10%を下回っている(第1-3-19図)。製品別では、これまで1990年代後半には輸出全体の40%弱を占めていた雑製品のシェアが低下する一方、機械類のシェアが急速に拡大し、2006年には47.1%を機械類が占めるに至っている(第1-3-20図)。
 
第1-3-19図 中国の輸出の仕向先国別比率の推移
第1-3-19図 中国の輸出の仕向先国別比率の推移
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第1-3-20図 中国の製品別輸出の推移
第1-3-20図 中国の製品別輸出の推移
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 このような機械類の輸出拡大の背景には、中国が対内直接投資を積極的に受け入れ、資本蓄積や技術進歩などを通じて、より資本集約的な産業に移行しつつあることが挙げられる。1978年の改革開放の開始当初、中国は一次産品を輸出し、機械類を輸入する貿易構造であった。その後、香港と台湾から労働集約型産業の移転が進むにつれて、衣料品を中心とした雑製品の競争力が拡大した。さらに、1992年に小平が行った「南巡講話」をきっかけとして、中国への直接投資が大きく増大し、機械類を始めとする資本・技術集約型の製品の輸出が拡大した。実際、外資企業による輸出の輸出額合計に占める割合は年々上昇しており、2005年時点では58.3%に達している。ただし、2006年の外資企業の輸出のシェアはわずかではあるが減少している(第1-3-21図)。この要因としては、〔1〕海外からの直接投資が一巡したこと(第1-3-22図)、〔2〕輸出から国内販売へ重点を移す動きが見られることなどが考えられる。
 
第1-3-21図 中国における外資企業輸出額及び輸出額合計に占めるシェアの推移
第1-3-21図 中国における外資企業輸出額及び輸出額合計に占めるシェアの推移
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第1-3-22図 中国への対内直接投資の推移
第1-3-22図 中国への対内直接投資の推移
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(原材料の輸入代替の進展)
 輸入については、我が国、米国及びEU合計のシェアが徐々に低下する中、ASEANや韓国、その他の国からの輸入のシェアが60%を超えるまで上昇している(第1-3-23図)。製品別では、原料別製品(非鉄金属、金属製品、鉄鋼、繊維等)の輸入に占めるシェアが低下する中、一次産品(原油や鉄鉱石等)のシェアが拡大している(第1-3-24図)。原料別製品の輸入代替が進展していることがうかがえる。
 
第1-3-23図 中国の輸入の仕向先国別比率の推移
第1-3-23図 中国の輸入の仕向先国別比率の推移
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第1-3-24図 中国の製品別輸入の推移
第1-3-24図 中国の製品別輸入の推移
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(4)投資・輸出に過度に依存した経済成長パターンからの脱却

(投資過熱の背景)
 先に述べたような投資過熱の背景として、〔1〕地方政府主導のプロジェクトの割合が高いこと、〔2〕国有企業の投資が相対的に大きな割合を占めていることから、市場による規律が働きにくく、中央政府のコントロールも十分に機能していないとの指摘がなされている。
 地方政府主導の投資の割合は1997年以降増加の一途をたどっており、2006年の全社会固定資産投資額のうち90.2%が地方政府主導によるものである(第1-3-25図)。地方政府が企業の投資決定や金融機関の融資決定に過度に関与し、土地使用権に関する認可権限を利用して計画性の乏しい農地転用認可や経済開発区の開発を進めたことによる低効率の投資や重複建設がなされたとの指摘もある。また、投資主体別の固定資産投資額の割合を見ても国有企業を中心とする地場企業が依然として大きな割合を占めていることが分かる(第1-3-26図)。
 
第1-3-25図 中国の中央・地方事業別固定資産投資額の推移
第1-3-25図 中国の中央・地方事業別固定資産投資額の推移
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第1-3-26図 中国の投資主体別固定資産投資の推移
第1-3-26図 中国の投資主体別固定資産投資の推移
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 このように、地方政府や国有企業の投資活動への関わりが大きいことは、市場機能を損ない、中央政府のコントロールの効果を浸透させにくくする要因となることから、投資活動に対する地方政府の介入を極力減らし、市場機能を一層活用していくことが投資過熱抑制のために重要である。

(投資過熱抑制に向けた取組)
 以上のような状況を踏まえ、中国政府は数々の投資抑制策を講じている。2006年第2四半期においては、実質GDP成長率が11.4%と政府目標である8%を大きく上回るとともに、固定資産投資も2006年1〜6月期累計で29.8%(うち、都市部投資は31.3%)と伸びを加速させたことなどを受けて、預金準備率や貸出金利の引上げ、新規着工プロジェクトの整理指導に加え、地方政府に対する監督の強化や銀行に対する窓口指導等の投資抑制策の一層の強化を行った。その結果、固定資産投資額の伸び率は徐々に低下しており、これらの抑制策は一定の効果を発揮しているとされている(第1-3-27図)。しかしながら、〔1〕企業収益の拡大が見込まれること、〔2〕地方政府による投資意欲は引き続き堅調であること、〔3〕金融機関の貸出意欲が旺盛なことなどから、投資の伸びの鈍化は緩やかなものにとどまる可能性がある。
 
第1-3-27図 中国の中央・地方事業別固定資産投資額(都市部)の伸び率の推移
第1-3-27図 中国の中央・地方事業別固定資産投資額(都市部)の伸び率の推移
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(輸出抑制・対外不均衡是正に向けた取組)
 中国の貿易黒字の拡大は、海外経済の変動の影響を受けやすくするとともに、米国を始めとする諸外国との間で貿易摩擦を引き起こしている。このため、中国政府は、低付加価値製品の輸出の急増を抑制するための措置として、輸出税還付、委託加工貿易の免税といった輸出優遇策の見直しを行っている。
 輸出税還付は、生産段階で徴収された税率17%の増値税(付加価値税)を輸出段階で一部若しくは全部を還付する制度で、1994年から実施されている。2006年9月には、輸出税還付比率の調整が行われ、12月から完全に新しい還付率に移行した7。鉱産物などについては増値税還付の適用が中止されたほか、鋼材の還付率が11%から8%へと引き下げられ、繊維製品、家具などの還付率は13%から11%へと引き下げられた。その一方で、プラントなどの重大技術設備や一部のIT製品及びバイオ製品、ハイテク製品等の還付率は、13%から17%に引き上げられた。
 また、輸入した原材料・部品を用いて加工した製品の輸出(委託加工貿易)を行った場合には、輸入関税と増値税を免除される保税制度が適用されていたが、2006年9月より増値税の輸出還付が取り消された品目を中心として輸入関税と輸入時の増値税が徴収されることとなり、保税の恩恵が受けられなくなった8。さらに、中国商務部、税関総署及び国家環境保護総局は、2007年4月から新たに137品目を追加した1,140品目を委託加工貿易の保税適用除外品目にすることとした9
 これらの措置によって、低付加価値品の輸出の抑制や国内で生産に充てられる原材料の調達の促進を通じ、輸出の抑制、輸入の拡大が期待される。しかしながら、対象品目が一部にとどまっており、対外不均衡問題等に与える影響は限定的との指摘もあり、今後の貿易動向の推移には注視が必要である。

(投資過熱・外需依存経済とマクロ経済運営の関係)
 一方、中国の貿易黒字の拡大や投資資金の流入の増加は、人民元の切り上げ圧力をもたらす。好調な輸出や対内直接投資などの受入れは中国の経済成長を支える重要な柱であるが、その一方で、こうした資金流入による元高圧力が、投資過熱への対応をはじめ、中国のマクロ経済運営を一層困難なものにしている。
 国際金融においては、「為替の安定」、「自由な国際資本移動」、「独立した金融政策」の3つは同時に達成しえないという「国際金融のトリレンマ」が知られているが、中国では、この3つのうち、「自由な国際資本移動」を制限することで、為替の安定と金融政策の有効性を確保してきた。しかしながら、貿易黒字の拡大に加えて対内直接投資や証券投資等が徐々に開放される中で、中国への資本流入が継続し、人民元の切り上げ圧力となっている。
 そこで、中国政府は、このような切り上げ圧力に対し為替の安定化を図るために、ドル買い・元売りの為替介入を繰り返し行っており、2005年7月の人民元制度改革10以降、人民元の対ドルレートは上昇傾向にあるものの、その変化は緩やかなものにとどまっている(第1-3-28図)。一方で、中国の外貨準備高は、2002年以降、毎年平均約2,000億ドルのペースで増加し、2006年末には1兆663億ドルと世界一の水準となっている(第1-3-29図)。

7 財政部、国家発展改革委員会、商務部、税関総署、国家税務総局「一部商品の輸出増値税還付の調整及び加工貿易禁止商品の追加に関する通達」(財税[2006]139号、2006年9月14日公布、翌日施行)。
8 2006年9月の通達(財税〔2006〕139号)を踏まえ、2006年11月には、加工貿易禁止商品目録が公布・施行されている(2006年第82号公告、2006年11月1日公布、11月22日施行)。
9 商務部、税関総署、国家環境保護総局「2007年加工貿易禁止商品目録の公布について」(2007年第17号公告、2006年4月5日公布、4月26日施行)。なお、この公告は、2005年、2006年に公布・施行された加工貿易禁止商品目録を整理統合したものである。
10 実質ドルペッグ制から、通貨バスケットを参照した管理変動相場制へ移行すると同時に、人民元の対米ドルレートを切り上げた(1ドル=8.11元。+2.1%切り上げ)。
 
第1-3-28図 中国人民元の対ドルレート(終値)の推移(再掲:第1-1-36図)
第1-3-28図 中国人民元の対ドルレート(終値)の推移(再掲:第1-1-36図)
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第1-3-29図 中国の外貨準備高の推移
第1-3-29図 中国の外貨準備高の推移
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 また、こうした為替介入によって売却された人民元が市中に出回ると、過剰流動性を通じ物価の上昇や国内経済の過熱を引き起こすこととなるため、中国政府は、借入手形の発行等による不胎化政策11を採らざるを得ない。しかしながら、不胎化が十分でない場合にはマネーサプライが増大し、中国への投機的資金の流入が促され、更なる為替介入と不胎化の規模の拡大という悪循環を招きかねない。一方、海外からの投機的資金の流入を抑えるためには、金利を低く据え置かざるを得ない。こうした状況の中、マネーサプライ及び銀行貸出残高は2007年に入って伸びが加速しており、非効率な投資を助長している可能性がある(第1-3-30図〜第1-3-32図)。

11 為替市場への介入において、売却された自国通貨を国債等の発行により吸収し、為替市場介入によるマネーサプライへの影響を中立化させようとする政策。
 
第1-3-30図 中国における銀行貸出残高とマネーサプライ(M2)の伸び率の推移
第1-3-30図 中国における銀行貸出残高とマネーサプライ(M2)の伸び率の推移
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第1-3-31図 中国における預金金利と貸出金利の推移
第1-3-31図 中国における預金金利と貸出金利の推移
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第1-3-32図 中国における実質金利の推移
第1-3-32図 中国における実質金利の推移
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 このように、中国では、為替の安定を維持しようとするがために、有効な金融政策を講じることが難しい状況になっていると考えられる。

(人民元の柔軟化を通じた投資・輸出依存の経済成長パターンの是正)
 しかしながら、人民元の過小評価は、中国国内産業の輸出競争力をかさ上げする効果を有し、中国の輸出増加につながるとともに、投機的資金の流入を通じた投資過熱・不動産バブルを引き起こし、非効率な企業を存続させる原因ともなる。
 また、いわゆる「カネ余り」状態(過剰流動性)や低金利政策が、最近の中国の株式市場の急騰を引き起こしているとの指摘がな12、中国本土市場の代表的な株価指数である上海総合株価指数は、この1年で約2.5倍(2007年5月末時点)にまで上昇し、株式バブルが懸念されている(第1-3-33図)。

12 なお、中国の株式市場では、外国人投資家による取引が制限されている。例えば、中国本土の株式市場は、人民元建てのA株市場と外貨建てのB株市場に分けられるが、通常、外国人投資家が参加できるのは、B株市場に限られる。2002年からは、適格外国機関投資家(QFII)として認められた海外機関投資家であれば、A株市場の取引に参加できるようになったが、その投資限度額は100億元となっている。上海証券取引所における株式市場の時価総額が約12兆元(2007年4月末時点)であることを踏まえると、上海B株市場の時価総額、QFIIによる投資限度額は、共に上海株式市場の1%にも満たない規模である。
 
第1-3-33図 中国の株価指数(上海総合株価指数)の推移
第1-3-33図 中国の株価指数(上海総合株価指数)の推移
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 こうした状況を是正し、現在中国政府が講じている投資抑制策等の施策効果を高めるためにも、資本移動の自由化と為替制度の柔軟化を着実に進め、投資や輸出に過度に依存した経済構造から脱却を図ることが求められる13。そのためには、金融市場における競争原理の導入や金融機関への監督機能強化などのガバナンスを高め、金融システム強化を図ることが極めて重要である。

(国有商業銀行の不良債権処理に向けた取組)
 金融システム強化のためには、国有商業銀行の不良債権処理も重要である。国有商業銀行の不良債権比率は2006年末には9.2%にまで低下しているものの、このところ低下のペースが緩やかになっている(第1-3-34図)。

13 人民元制度の柔軟化については、世界経済の持続的かつ均衡の取れた成長という観点からも重要であり、G7財務大臣・中央銀行総裁会議、米中経済戦略対話等においても、多額の貿易黒字を有する中国の為替制度の柔軟化が求められている。こうした中、中国人民銀行は、人民元の米ドルに対する1日当たりの変動幅を基準値の上下0.3%から0.5%に拡大している(2007年5月21日から実施)。
 
第1-3-34図 中国の国有商業銀行における不良債権比率の推移
第1-3-34図 中国の国有商業銀行における不良債権比率の推移
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 不良債権比率の低下は、主にAMC(資産管理会社)への不良債権の移管によるものであるが、AMCによる不良債権の処理については、〔1〕十分な経営責任の追及がなされない場合、国有商業銀行及び国有企業のモラルハザードを助長するおそれがあること、〔2〕不良債権処理において現金回収率の低いAMCが見られること等の問題点が指摘されている(第1-3-35表)。
 
第1-3-35表 中国における資産管理会社の不良債権処理状況
第1-3-35表 中国における資産管理会社の不良債権処理状況
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 中国の国有商業銀行の貸出しの約8割は企業向けであり、企業の固定資産投資を支えている。このような貸出構造は、中国の経済成長が投資・外需主導となる背景にもなっているが、今後の過剰流動性への対処として金融引き締めが相当程度行われた場合には、温存されてきた不効率な企業・設備の運営が困難となり、新たな不良債権の発生にもつながるおそれがある。こうしたことから、国内商業銀行は、残存する不良債権の速やかな処理、リスク管理体制の強化、新商品開発などの金融改革を進めていくことが求められ、行政サイドも、コーポレート・ガバナンス、健全性規制の徹底など、金融機関への管理監督機能の強化を早急に行うことが必要である。

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