第1章
世界経済の現状と今後の課題(持続的成長に向けて)
第3節
国内経済の調和の取り組みの加速により持続的発展が求められる中国経済

2.拡大する格差問題〜消費拡大を通じた成長基盤の体質強化に向けて

 中国経済は投資過熱リスクや対外不均衡問題などの不安定要因を抱えているが、その処方箋の一つとして、経済成長のパターンを投資・外需主導型から消費主導型へと移行させることも大きな課題となっている。その上で重要な鍵となるのが格差問題への対応である。以下では、中国における消費と格差の現状を概観した上で、格差是正に向けた取組について触れる。

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(1)中国における消費動向と格差の現状

(中国における消費の実態)
 高成長を続けている中国経済であるが、投資や輸出に比べ、消費の伸びには勢いがない。2006年の社会消費財小売総額の伸び率(名目)は対前年比13.7%と徐々に上昇しつつあるが、投資の伸びを下回る状態が続いている(第1-3-36図)。経済成長に伴い所得は伸びつつあるものの、消費性向は横ばい又は低下傾向にあり、消費拡大につながっていない(第1-3-37図、第1-3-38図)。
 
第1-3-36図 中国の消費と投資の推移
第1-3-36図 中国の消費と投資の推移
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第1-3-37図 中国の都市部及び農村部における可処分所得の実質伸び率の推移
第1-3-37図 中国の都市部及び農村部における可処分所得の実質伸び率の推移
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第1-3-38図 中国の都市部における所得階層別消費性向
第1-3-38図 中国の都市部における所得階層別消費性向
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 先に述べたように、投資と輸出が主導する中国の経済成長は、投資過熱リスクや対外不均衡問題などの不安定要因を抱えている。自律的かつ安定した成長基盤を確保するためにも、国内需要を喚起していくことは重要な課題であり、この点は、政府の第11次5か年計画(2006〜2010年)においても指摘されているところである14

(消費不振の背景にある3つの格差地域間の格差、都市・農村間の格差、都市部内の格差)
 中国の国内消費が経済成長の割には振るわない背景の一つとしては、拡大しつつある格差の存在がある。中国における格差は、主に、〔1〕地域間の格差(沿海部と内陸部間の格差)、〔2〕都市・農村間の格差、〔3〕都市部内の格差の3つに分けることができるが、社会の一部の層に成長の果実が集中しているため、全体としての消費拡大にはつながっていない。低所得者層の底上げを通じた消費拡大が期待されるところである。
 中国における格差の現状を詳しく見ると次のとおりである。

(地域間の格差)
 沿海部と内陸部間、省市間などに見られる地域間の格差は、沿海部中心の経済開発と関係するものである。中国は、1978年以降の改革開放政策のもと、いわゆる「先富論15」に基づき、沿海部を中心に経済特別区を設けて対外開放と工業化を進め、成長を遂げてきた。さらに、1992年のいわゆる「南巡講話」以後は、市場経済化に向けた改革も進み、経済発展は一層加速することとなった。その結果、内陸の諸地域の経済発展は遅れたままとなる中で、沿海部と内陸部の格差を拡大させるに至っている。
 この格差に関しては、2000年以降の西部大開発に始まる地域開発によって是正が図られつつあるが、省市別1人当たりGDPの直近データを見ると、上海市(沿海部)は貴州省(内陸部)の10.0倍(2006年)となっている。日本の都道府県別格差(1人当たり県民所得の格差)が戦後最大でも2.9倍(1961年、東京対鹿児島)であったことと比べるとかなり大きいことが分かる16(第1-3-39図、第1-3-40図)。

14 第1章第2節においても指摘しているように、中国の対外不均衡問題は、中国の貯蓄・投資バランスの黒字(貯蓄超過)の表れであり、このバランスの均衡化という観点からも、内需拡大に向けた努力が求められる。
15 小平が唱えた改革開放政策の基本原則の一つであり、一部の人、一部の地域が先に発展し、先に発展した地域が後から発展する地域を助けることで、最終的には共に豊かになるという考えのこと。当時は、計画経済時代の平等主義に伴う弊害を打破し、平等よりも効率を優先させることが求められた。
16 中国の1人当たりGDP及び日本の1人当たり県民所得には、個人所得に加え、法人所得等が含まれる。
 
第1-3-39図 中国における地域別1人当たりGDP(2006年)
第1-3-39図 中国における地域別1人当たりGDP(2006年)
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第1-3-40図 日本の1人当たり県民所得の最大格差の推移
第1-3-40図 日本の1人当たり県民所得の最大格差の推移
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 また、所得格差について、62地域(31省市の各都市部、農村部)における1人当たり可処分所得の上位20%(累積人口)相当の地域と下位20%相当の地域を抽出して地域間格差の推移を試算16すると、1997年以降、格差は拡大傾向にあり、直近では5.7倍(2006年)となっている(第1-3-41図)。所得格差は消費支出の差としても反映されており、内陸部(中部及び西部)の消費支出は沿海部(東部)の6割弱にとどまっている(第1-3-42図)。

16 全国31省市を都市部及び農村部に分割して得られる全62地域について、各年の1人当たり所得(都市部は可処分所得、農村部は純収入)を用いて階層化し、各年の1人当たり所得の上位20%(累計人口)地域と下位20%地域の1人当たり所得の加重平均を使用して、所得格差(倍率)を算出している。
 
第1-3-41図 中国における地域間の所得格差
第1-3-41図 中国における地域間の所得格差
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第1-3-42図 中国における1人当たり可処分所得と消費支出の地域比較(2006年)
第1-3-42図 中国における1人当たり可処分所得と消費支出の地域比較(2006年)
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(都市・農村間の格差)
 都市部と農村部の所得格差は徐々に拡大傾向にあり、1人当たりの可処分所得を比較すると、2006年は3.3倍となっている(第1-3-43図)。こうした格差は消費面にも影響を及ぼしており、耐久消費財の普及率の差として表れている(第1-3-44図)。
 
第1-3-43図 中国における都市部と農村部の所得格差
第1-3-43図 中国における都市部と農村部の所得格差
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第1-3-44図 中国の都市部と農村部の耐久消費財保有台数の格差(2006年)
第1-3-44図 中国の都市部と農村部の耐久消費財保有台数の格差(2006年)
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 中国の消費は、人口の約6割を占める農村部の消費割合は小さく、同4割を占めるにとどまる都市が国内消費全体の4分の3を支えるという構造となっている(第1-3-45図)。通常、工業化が進む都市と農村間の格差は、農村から都市への労働移動を通じて平準化される傾向にあるが、中国は、戸籍制度の下で都市住民と農村住民という二元構造社会となっている。また、脆弱な農業が実質的に抱えることのできる雇用には限界がある一方、急速に発展してきた都市部のインフラ整備も、農村部からの人口を受け入れることができるほどのペースでは進んでいない。後述するように、中国政府は、都市と農村間の格差是正に向けて様々な対策を講じており、戸籍制度を始めとした制度整備にも取り組んでいく方針を示しているが、人口の大半を占める農村部住民の所得の底上げは、内需主導による力強い経済成長の実現を図る上でも極めて重要であると考えられる。
 
第1-3-45図 中国における人口及び家計消費の都市部・農村部別割合
第1-3-45図 中国における人口及び家計消費の都市部・農村部別割合
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(都市部内の格差)
 さらに、都市部内における所得格差も拡大しつつある。所得上位20%層と下位20%層の可処分所得を10年前と比較すると、所得上位20%層の可処分所得が4.1倍に拡大している一方で、所得下位20%層の所得は1.6倍の伸びにとどまっている。その結果、1996年には2.2倍であった所得格差は、2006年には5.6倍へと大きく拡大している(第1-3-46図)。この背景には、1990年代後半に本格化した国有企業改革の影響や農民工と呼ばれる都市への出稼ぎ農民の増加等が考えられるが、こうした急激な所得格差の拡大は、社会不安の一因ともなっている。中国が抱える格差問題を考える上では、その格差の大きさはさることながら、格差が急速に拡大している点も着目される。
 
第1-3-46図 中国における都市部内の所得格差
第1-3-46図 中国における都市部内の所得格差
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(中国が抱える社会不安高額な医療費、就業・失業問題)
 なお、中国政府の研究機関が行った調査によると、中国人が深刻だと考えている社会問題として、拡大する所得格差に加え、高額な医療費、就業・失業問題なども挙げられている(第1-3-47表)。こうした所得に関する社会不安が、家計による貯蓄行動につながっていると言われている18。実際に、家計支出に占める医療・保健関連経費のウェイトを見ると、日本においては高度成長期以降、ほぼ横ばいの状態が続いているのに対し、近年、中国では徐々に高まりつつある(第1-3-48図)。諸外国と比べても、家計消費に占める医療関連経費の割合は高い(第1-3-49表)。このため、中国の消費をけん引している都市部においても、家計貯蓄率は年々上昇傾向にある(第1-3-50図)。中国が内需主導型の経済成長を目指すにあたっては、こうした社会不安を取り除いていくことも重要であると考えられる。

18 国家外貨管理局国際収支分析小組(2006)「2005年中国国際収支報告」、同(2007)「2006年中国国際収支報告」。
 
第1-3-47表 中国の都市・農村住民が深刻だと考えている社会問題ランキング(2006年)
第1-3-47表 中国の都市・農村住民が深刻だと考えている社会問題ランキング(2006年)
 
第1-3-48図 中国・日本の家計消費に占める医療・保健支出割合
第1-3-48図 中国・日本の家計消費に占める医療・保健支出割合
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第1-3-49表 家計消費支出構成比の国際比較
第1-3-49表 家計消費支出構成比の国際比較
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第1-3-50図 中国の都市部における家計貯蓄率の推移
第1-3-50図 中国の都市部における家計貯蓄率の推移
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(2)格差問題の是正による内需拡大〜「和諧社会」の実現に向けて

(経済成長優先から調和の取れた発展へ)
 以上のように、中国における格差問題や所得にまつわる社会不安は、国内消費に大きな影響を与えていると考えられる。また、格差の水準に加え、格差拡大のスピードに鑑みれば、社会的な安定を確保するという観点からも、格差問題の解消は重要な課題であるといえる。
 このため、中国政府においては、地方政府への財政支援も含めた広い意味での所得再分配政策の充実・強化を進めつつある。第一に、中央政府から地方政府への財政移転や西部大開発等の地域振興策が挙げられる。これは主に地域間の格差是正策として位置づけられる。第二に、「三農」問題(農業の低生産性、農村の荒廃、農民の貧困化)への取組が挙げられる。これは主に都市・農村間の格差是正策として位置づけられる。第三に、個人所得税法の改正や社会保障制度の整備が挙げられ、これは主に都市部内格差の是正策として位置づけられる。
 こうした政策路線は、2006年の中国共産党第16期中央委員会第6回全体会議(六中全会)において、その理念と具体像が明確化され、調和の取れた発展を目指す「和諧社会」の実現により格差を是正していくことが強調されている19。すなわち、効率優先から公平と効率の均衡へ、沿海部優先発展から地域協調発展へ、都市部優先発展から都市・農村協調発展へとの政策転換の方針が明確化されたのである20
 同時に、六中全会の決定においては、サービス業・中小企業の発展に力を入れて多様な就業ルートを確保するとともに、戸籍・労働制度改革に取り組むなど、積極的な就業政策を展開するという方針も示されている。これは、低所得層の所得向上による格差是正、内需拡大にも寄与するとともに、中国経済が今後更なる発展を遂げる上でも重要な取組であると考えられる。所得再分配政策が、市場経済に任せていては確保されない社会的公正を是正するものであるのに対し、就業政策は、主に市場経済の力を活用した格差是正・内需拡大策ともいえよう。

19 中国共産党「社会主義調和社会構築の若干の重要問題に関する決定」(2006年10月)。なお、「調和の取れた社会」(和諧社会)への政策路線は、本決定以前においても政府の第11次5か年計画等にも盛り込まれていたが、その理念や具体像が明確に定められているとは言えなかった。
20 この他、資源有効活用や環境保護を通じ、人と自然との調和を図ることも挙げられている(詳細は本節の3.参照)。

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(3)所得再分配につながる政策の充実・強化

〔1〕地域間格差の是正

(中央政府から地方政府への財政移転の充実)
 中国で、中央政府から地方政府への財政移転制度が導入されたのは、1994年の分税制改革以降のことである21。中央政府からの財政移転支出は、主に、〔1〕財力性移転支出、〔2〕専項移転支出、〔3〕租税還付金、〔4〕体制補助金に分けられるが、制度導入当初は、富裕地域により多くの配分がなされる構造となっている租税還付金22の割合が高かったため、格差是正効果は大きくなかった23(第1-3-51表)。しかし、近年、財政移転額は徐々に増加傾向にあり、このうち租税還付金以外の移転額が占めるウェイトも高まりつつある(2005年の財政移転支出に占める割合は約6割強)(第1-3-52図)。実際、中西部地域においては、中央政府からの財政移転に財源を依存する割合は高い(第1-3-53図)。

21 地方税項目であった増値税を中央75%、地方25%の共有税とすることにより、中央政府の財政収入を強化し、地方政府への財政移転を開始。それ以前は、地方財政請負制度が採られており、地方政府は、一定額を中央政府に納めれば、残りは独自に使用可能であった。
22 財政移転制度導入に際しては、分税制改革により自主財源を失うことになる富裕地域への妥協策として、「租税還付制度」が併せて導入されている。この制度は、改革前までの地方税収額を保証するとともに、毎年当該地域の税収の伸び率の一定割合で増額するものであったため、税収の伸びが大きい富裕地域に多くの金額が配分される仕組みとなっている。なお、その後の2002年の法人税・所得税共有化改革の際にも、2001年の地方税収額を下回らないよう還付額の上乗せが行われている。このように、租税還付金は、元の地域へ財源を返還するものであり、実態的には財政移転とはなっていないとも指摘されている。
23 1994年の財政移転額の4分の3が租税還付金であった(財政移転額:2,389億元、租税還付金:1,799億元)。
 
第1-3-51表 中国の中央政府から地方政府に対する財政移転支出制度の概要
第1-3-51表 中国の中央政府から地方政府に対する財政移転支出制度の概要
 
第1-3-52図 中国の地方財政収入の構造
第1-3-52図 中国の地方財政収入の構造
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第1-3-53図 中国の地域別財政移転依存度(2004年)
第1-3-53図 中国の地域別財政移転依存度(2004年)
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 なお、財政移転支出項目のうち、「一般性移転支出」は、地域間の財政格差を是正し、教育や保健医療等の公共サービスの公平性を確保するための仕組みとして期待される制度である。日本の地方交付税に相当するこの制度は、政府の予算案等においても、地方政府の基本的公共サービス能力を高めるものとして位置づけられており、2000年以降、毎年大幅に増額を重ねている(第1-3-54図)。しかしながら、一般性移転支出額が地方歳入(地方独自財源に中央政府からの財政移転支出額を加えた金額)に占める割合は約5%(2005年)であり、日本の地方交付税が地方歳入に占める割合が、高度成長期から現在に至るまで20%前後の水準で推移しているのと比較しても極めて小さいことが分かる(第1-3-55図)。格差是正に十分な財政移転が求められるところではあるが、政府間の役割分担の不明確さから、公共サービスを担う行政単位にまで十分な財源移転がなされていないとの指摘もある24。このため、地方政府における財政管理体制の整備等にも併せて取り組む方針が打ち出されている25

24 OECD(2006a)“Challenges for China's Public Spending: Toward Greater Effectiveness and Equity”.
25 例えば、2007年3月の全国人民代表大会で採択された「2006年度中央・地方予算執行状況及び2007年度中央・地方予算案についての報告」においては、省クラス以下の県・郷における財政管理体制の完備に努めることが唱われている。
 
第1-3-54図 中国の一般性移転支出額の推移
第1-3-54図 中国の一般性移転支出額の推移
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第1-3-55図 中国・日本の地方歳入総額に占める中央政府からの財政移転額の割合
第1-3-55図 中国・日本の地方歳入総額に占める中央政府からの財政移転額の割合
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 また、日本における国庫支出金に相当する制度としては、「専項移転支出」が挙げられる。使途が定められた上で配分されるこの項目が地方歳入に占める割合は13.2%(2005年)と、日本の高度成長期(1970年、20.6%)よりは低い水準となっている(前掲第1-3-55図)。なお、当該項目に関しては、担当省庁間の棲み分けが明確になっていないため、同様プロジェクトが複数行われるなどの非効率さも指摘されている。

(地域振興プロジェクト:西部大開発、東北振興、中部勃興)
 内陸部の経済開発のためのプロジェクトも進展しつつある。2000年以降の西部大開発は、西部地域に対する投資をもたらし、2000年には8.5%であった経済成長率は5年連続で上昇し、2005年には12.7%に達している。この西部大開発に引き続き、2003年には東北振興、2005年には中部勃興と計画が打ち出されており、投資も活発化している(第1-3-56図)。
 
第1-3-56図 中国の地域別固定資産投資額の対名目GDP比の推移
第1-3-56図 中国の地域別固定資産投資額の対名目GDP比の推移
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 日本には、全国総合開発計画をベースに、公共投資による地域間格差の是正、国土の均衡発展を目指し、高度成長を遂げたという経験がある。公共投資は成長の源泉となる社会資本の蓄積を促すという観点から重要であり、投資効率を追求する上でも地方への投資が合理性を有する側面もあったと考えられるが、一方で、地域振興のためとすることでなければ実現しなかったと考えられる公共投資を生み出してきたのも事実である。そのような日本の経験に照らして考えると、地域開発に際しては、中央政府が主導する地域振興プロジェクトのみならず、地方政府独自の地域振興プロジェクトを含めた全体の取組が、真に経済発展に資する産業インフラへの公共投資に向けられることが求められるとともに、既得権益を生み出さないような枠組みづくりが重要であるといえよう(第1-3-57図、第1-3-58図)。
 
第1-3-57図 日本の公共投資と1人当たり県民所得の関係
第1-3-57図 日本の公共投資と1人当たり県民所得の関係
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第1-3-58図 中国の基本建設支出(地方政府)と一人当たりGDPの関係(2005年)
第1-3-58図 中国の基本建設支出(地方政府)と一人当たりGDPの関係(2005年)
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〔2〕都市・農村間格差の是正

(三農問題への対応)
 都市と農村間の格差の背景には、「三農問題」(農業の低生産性26、農村荒廃27、農民の貧困化28)がある。この問題への対応は、2004年以降、政府の重点的政策課題となっており29、経済成長を上回る勢いで増加している税収をベースとして、農民のみに課せられていた農業税や各種費用負担等の撤廃30、農業補助金や農村教育・医療等に対する予算措置の充実などの施策が講じられている31(第1-3-59表〜第1-3-62図)。こうした取組を通じて、中国政府は、「社会主義新農村」の建設をスローガンに、都市部と農村部とのバランスの取れた発展を目指している。

26 中国農業の課題としては、農業従事者1人当たりの耕地面積は0.17haと日本の1.01haよりも大幅に小さく、アジア諸国と比べても農業の労働生産性は低いことや(第1-4-27表参照)、過剰生産と生産能力の低下というサイクルから脱却しきれておらず、食糧生産体制が不安定であること等が挙げられる。
27 道路や飲料水などの生活インフラ不足や医療・教育等の公共サービスの供給不足が挙げられる。
28 都市住民に対する相対的貧困化を示す。なお、2006年末時点における農村貧困人口(年間の純収入が693元以下の層)は2,148万人(対前年差217万人減、農村人口の約2〜3%)と年々減少傾向にあるが、国連の貧困基準(1人1日当たりの収入が1ドル以下)を踏まえると、農村人口の約7割が貧困ライン以下で生活していると指摘されている(巌(2006)「戸籍制限撤廃で農民の都市への移動促進を」)。
29 三農問題への対応は、2004年以降4年連続で「中央1号文件」として位置づけられており、2004年は農民の増収、2005年は農業総合生産能力の増強、2006年は社会主義新農村建設の推進、2007年は現代農業の推進と新農村建設がテーマとなっている。なお、中央1号文件とは、当該年における最重要課題として注目される政策文書のこと。
30 8億人の農民負担を1,250億元軽減させたとされている。
31 この他、農村部においては、地方政府によって無秩序に行われる農民の土地の収用、農地の建設用地への無断転用の問題があり、土地を失った農民が4,000〜5,000万人にも上ると言われている。2005年には8万7,000件に上る抗議活動が報告されており、この対策も政府の重要課題となっている。
 
第1-3-59表 中国の三農問題に関する主な取組
第1-3-59表 中国の三農問題に関する主な取組
 
第1-3-60表 農村税費改革で廃止された各種農民負担
第1-3-60表 農村税費改革で廃止された各種農民負担
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第1-3-61図 中国における三農問題関連の財政支出額の推移
第1-3-61図 中国における三農問題関連の財政支出額の推移
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第1-3-62図 中国における教育及び医療衛生分野の財政支出額の推移
第1-3-62図 中国における教育及び医療衛生分野の財政支出額の推移
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〔3〕都市部内の格差の是正

(個人所得税・資産課税)
 所得再分配のための手段の一つとしては税制が挙げられる。中国の個人所得税について見ると、諸外国同様、累進課税制度が採用されており、給与所得に関しては、5〜45%の9段階の累進税率で課税されることとなっている(第1-3-63表)。しかし、20%以上の税率を適用されている人はほとんどいないと指摘されている32。そこで、参考までに、2005年時点における所得上位10%層の年間収入(税込)から基本的な控除額を差し引いた金額をベンチマークとして我が国及び中国における税率の水準を比較すると33、我が国における所得上位10%層の年間収入は税率43%34の水準に該当するのに対し、中国では10%の水準にすぎず、累進課税による格差是正効果は十分には機能していないとも考えられる35(第1-3-64表)。また、中国の個人所得課税の税収の対GDP比、対政府歳入比も、諸外国と比べて低水準にとどまっている(第1-3-65図)。

32 OECD(2005)“OECD Economic Surveys China Vol.2005”.
33 本比較については、以下の点で現実に適用される税率とは必ずしも一致しないことに留意する必要がある。
  〔1〕年間収入には、給与所得以外の所得が含まれる。
  〔2〕中国に関しては所得控除(800元)、日本に関しては、4人世帯(夫、専業主婦、子2人)をモデルとして給与所得控除、基礎控除(38万円)、配偶者控除(38万円)及び扶養控除(38万円×2人)を考慮しているが、実際にはこれ以外の控除額も存在する。
34 所得税率と個人住民税率を合算した税率。なお、平成18(2006)年度税制改正において所得税及び個人住民税の税率構造が変更されており、平成19(2007)年(度)分以降の最高税率は50%(所得税率40%、個人住民税率10%)となっている。
35 OECD(2005)においても、給与所得に対する税率区分の累進度の低さが指摘されており、限界税率が20%の所得水準が都市部平均賃金の5倍に相当することが一例として挙げられている。
 
第1-3-63表 諸外国・地域における個人所得税率
第1-3-63表 諸外国・地域における個人所得税率
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第1-3-64表 中国・日本における個人所得税率(試算)
第1-3-64表 中国・日本における個人所得税率(試算)
 
第1-3-65図 個人所得課税の税収の国際比較(2004年)
第1-3-65図 個人所得課税の税収の国際比較(2004年)
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 なお、中国の個人所得税に関しては、2006年1月より給与所得に対する所得控除額が引き上げられ(800元→1600元、280億元規模の減税)、主に給与所得者により構成される都市部の低所得者層にとっては大幅な負担減となったが36、累進度の見直しは先送りとなっている37。また、中国においては相続税もない。このため、所得再分配機能の強化という観点からは、税制の見直しが必要との指摘も見られる38

〔4〕社会保障制度の整備を通じた格差の是正

 社会保障に関しては、国有企業のリストラが本格化した1990年代後半以降、徐々に制度整備は進んできている(第1-3-66表)。しかし、すべての国民が社会保険に加入するには至っていない(第1-3-67図)。また、給付対象者の増大に伴う資金不足等により、1998年から開始された社会保障基金に対する財政支援は、年々増大している(第1-3-68図)。統計上、基金の収支はプラスとなっているが、巨額の積立不足の存在も指摘されている(第1-3-69図)。都市部の年金に関しては、個人口座の積立金を社会プール部分の赤字補填に流用したために生じた「空口座」問題への対応も急務となっている39

36 2006年3月の全国人民代表大会で採択された「政府活動報告」においても、改正個人所得税法を着実に実施し、中低所得層の税負担を軽減すると唱われている。また、中国国家税務総局も、本改正により納税者が2000万人減少し、中低所得者の負担が軽減されたとコメントしている。
37 個人所得税法の改正に伴い、年間課税所得12万元以上の高額所得者に対して自己申告が義務づけられ、徴収管理の強化が図られたが、税率やブラケットの見直しは行われていない。
38 樊(2002)「中国崩壊論に異議あり」、日本経済研究センター/精華大学国情研究センター編(2006)『中国の経済構造改革−持続可能な成長を目指して』等。
39 都市部の年金制度が抱える課題については、2006年、東北3省(遼寧、吉林、黒龍江)で先行実施されていた個人口座の改革テストが、新たに天津、上海等8地域でも実施されたほか、国務院決定により積立方式や給付水準が変更されるなどの取組が進められている。
 
第1-3-66表 中国の社会保障制度の概要
第1-3-66表 中国の社会保障制度の概要
 
第1-3-67図 中国の都市部労働者に占める社会保険加入者割合の推移
第1-3-67図 中国の都市部労働者に占める社会保険加入者割合の推移
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第1-3-68図 中国の年金保険基金に対する中央財政補填額の推移
第1-3-68図 中国の年金保険基金に対する中央財政補填額の推移
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第1-3-69図 中国の社会保険基金収支の推移
第1-3-69図 中国の社会保険基金収支の推移
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 年金に関しては、都市と農村とで制度が異なり、1.5億人の出稼ぎ農民が制度の対象外となっている。さらに、地方独自の制度設計を容認したことから、地方によって加入率にも差が生じ、沿海地域の加入率は高く、内陸地域の加入率は低いという状況になっている40。また、地域間や制度間のポータビリティに欠けるといった課題も抱えている41
 医療に関しては、2003年のSARS問題以降、都市・農村の住民をカバーする基本医療衛生保険制度の確立に向けた取組が進みつつあるが、諸外国に比べても民間が負担している割合が高く、財政支援額を充実すべきとも指摘されている42(第1-3-70図)。

40 2003年時点における都市部の年金保険加入率は、広東省が98.7%、浙江省が88.5%、上海市が88.4%であるのに対し、チベット自治区は16.4%、新彊ウイグル自治区は35.6%、貴州省は49.3%と50%を下回っている(沈(2006)「全国統一の社会保障制度の整備を早急に」)。
41 2007年3月に得択された「政府活動報告」によると、社会保険に関する地域間のポータビリティ手続きについては、検討・制定を急ぐこととなっている。
42 OECD(2006a)“Challenges for China's Public Spending: Toward Greater Effectiveness and Equity”.
 
第1-3-70図 民間部門と公的部門における保健・医療関連支出の対GDP比(2003年)
第1-3-70図 民間部門と公的部門における保健・医療関連支出の対GDP比(2003年)
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(4)就業促進による所得向上を通じた格差の是正・内需拡大

(雇用のミスマッチ対策、中小企業・サービス業の振興)
 格差是正・消費拡大を図る上では、以上のような所得再分配機能の充実・強化に加え、就業・失業問題に取り組むことにより、低所得層の所得拡大を図ることも重要となる。
 中国においては、都市部・農村部ともに潜在失業者の存在や大卒者の就職難が指摘される一方で、一部の地域では労働力不足も深刻化している(第1-3-71図、第1-3-72図)。こうした雇用のミスマッチの状況の改善を図るためにも、中国政府においては、職業訓練の充実に取り組むとともに、雇用吸収力の高いサービス業や中小企業の発展に力を入れていくこととしている(第1-3-73図)。中小企業施策の充実は、自主創業可能な基盤づくりという観点からも重要である。また、サービス業の振興は、製造業の高度化に資するとともに、消費喚起にも貢献することが期待される。中国経済に占めるサービス業・第3次産業のウェイトは、日本の高度成長期と比較しても小さい(第1-3-74図)。また、近年では、中国の対外開放が進んだこともあり、直接投資も輸出加工型から内需志向型へシフトしつつあり、物流を始めとしたサービス需要も増加することが見込まれる43。したがって、今後、サービス業を拡大させ、就業促進を図る余地は大いにあると考えられる。

43 中国における企業の生産・販売動向や物流を始めとしたサービス需要については、第2章第2節を参照。
 
第1-3-71図 中国の都市部失業者数及び失業率の推移
第1-3-71図 中国の都市部失業者数及び失業率の推移
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第1-3-72図 中国の地域別求人倍率(2005年)
第1-3-72図 中国の地域別求人倍率(2005年)
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第1-3-73図 中国における業種別求人状況
第1-3-73図 中国における業種別求人状況
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第1-3-74図 中国・日本(高度成長期)におけるサービス産業のウェイト比較
第1-3-74図 中国・日本(高度成長期)におけるサービス産業のウェイト比較
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 雇用問題に関しては、失業給付等のセーフティネットの整備・充実に努めることも必要ではある。しかしながら、財政的支援策のみならず、雇用創出、雇用のマッチング強化といった取組を通じて就職しやすい環境を整備していくことは、それによる低所得層の所得拡大効果に加え、人的資本の充実を通じた持続的な発展にもつながるという意味でも重要であると言えよう。

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