第4章
オープンかつシームレスな経済システムの構築に向けて
第2節
WTOと、EPA/FTA等 の推進による国際事業環境の整備

1.WTOの意義

(1)GATT/WTO体制における貿易自由化の進展

 1948年に発足した関税と貿易に関する一般協定(GATT)の体制及びその後を受けて1995年に発足した世界貿易機関(WTO)は、多角的交渉(ラウンド)を通じた関税など貿易障壁の削減・撤廃だけでなく、国際取引の安定と予見可能性の確保のための通商ルールの強化、充実を図り、多角的貿易体制の強化と保護主義の抑制に大きく貢献してきた。GATT/WTO加盟国数の推移を見ると、GATT発足時からおおむね増加を続けており、特に発展途上国の加盟が続いていることが分かる(第4-2-1図)。2001年に中国が、2004年にカンボジアが、2007年にベトナムが加盟国となり、2007年4月現在の加盟国数は150か国である。さらに、ロシアなど30か国が加盟国となるための申請を行っており、今後も加盟国数は更に増える見込みである。
 
第4-2-1図 GATT/WTO参加国数と発展途上国の割合の推移
第4-2-1図 GATT/WTO参加国数と発展途上国の割合の推移
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 また、WTOでは、それまでのGATTと同様、物品の貿易に係る関税及び非関税障壁の削減を目指すとともに、規律範囲を拡大し、新たにサービス貿易、知的所有権の貿易側面等を扱うこととなっている。

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(2)WTOドーハ・ラウンドの取組

(開発イニシアティブ)
 2001年カタール・ドーハでの第4回閣僚会議において、新ラウンド(ドーハ開発アジェンダ)の立ち上げが宣言され、2002年初頭より交渉が開始された。ドーハ開発アジェンダ(以下「ドーハ・ラウンド」)では、NAMA(非農産品市場アクセス)、農業、サービス、開発、ルール(アンチ・ダンピング、補助金含む)、貿易円滑化、知的財産権など幅広い分野を取り扱う内容となっている。ラウンドの目的は更なる貿易自由化に加え、ルールの強化、サービスや知的財産といった新しい分野への対応などであるが、最大の特徴は「開発」の視点を全面に打ち出し、自由貿易の推進において発展途上国の利益への考慮が重要であることを明確にした点である。こうしたドーハ・ラウンドの特徴を踏まえ、我が国は、2005年12月の香港での第6回閣僚会議に先立ち、発展途上国が自由貿易の利益を十分に得る体制を整えることが開発にとって重要であるとの観点から、貿易を通じた発展途上国の開発に資するための包括的な方策「開発イニシアティブ」を小泉首相(当時)が提唱し、多くの加盟国から賛同を得た。具体的な取組としては、後発開発途上国(LDC)に対して無税無枠措置の拡充や国際版一村一品キャンペーンの実施である。
 香港閣僚会議で採択された香港閣僚宣言に基づき、2006年中の交渉妥結を目指してG6(日本、米国、EU、ブラジル、インド、オーストラリア)を中心に精力的に協議を進めたものの、各国の立場の違いが埋まらず、2006年7月末に交渉は中断した。交渉の停滞は、多国間の自由貿易体制を揺るがし、発展途上国の開発にも大きなマイナスであることから、関係各国は早期交渉の再開に向けて最大限の努力を行った。我が国も、二国間協議や各種の国際会議の機会において交渉再開を呼びかけた。また、経済界とも連携してG6諸国に働きかけ、官民一体となって交渉再開に向けた気運を高めることに貢献した。2006年11月のAPEC首脳による声明もあり、ラミーWTO事務局長は事務レベルでの作業の再開を宣言した。
 その後、2007年1月末のスイス・ダボスでのWTO非公式閣僚会合において、我が国から交渉の本格再開が必要であることを主張し、25か国・地域の閣僚の理解も得て、本格的な交渉再開に合意し、それを踏まえ、非公式貿易交渉委員会において交渉が本格的に再開されることとなった(第4-2-2図)。公式な交渉期限は存在しないが、早期妥結については各国認識を共有し、ジュネーブでの交渉会合や各国間の交渉が集中的に行われている。4月には我が国を初めとするG6閣僚がインドのニューデリーで会合を開催し、年内妥結に向けた強い決意を表明したコミュニケが発表された。さらに、5月のOECD閣僚理事会の際にドーハ・ラウンドについて閣僚級の会合や二国間協議が行われ、我が国も、G6閣僚会合や主要発展途上国との会合を主催し、交渉の早期妥結に向けて貢献する我が国の真摯な姿勢を示しており、積極的に参画している。
 
第4-2-2図ドーハ・ラウンドの交渉スケジュール
第4-2-2図ドーハ・ラウンドの交渉スケジュール

(非農産品市場アクセス(NAMA))
 NAMA交渉は、農産品以外の品目(鉱工業品及び林水産物)に関する関税及び非関税障壁の撤廃・削減に関する交渉である。主要な論点は、関税削減方式(フォーミュラ)、発展途上国の柔軟性、非譲許品目の取扱いの3つであり、自国の関税が全体的に低く、発展途上国の関税引下げに関心がある先進国と、自国の関税が高く、自国産業保護、政策余地の維持の観点から関税引下げに柔軟性を求める発展途上国との間で、立場の違いがある。
 前回のウルグアイ・ラウンドでは、全体を平均して3分の1の関税削減を目標としていたのに対し、今次ラウンドでは、中核的な関税削減方式として、先進国と発展途上国で異なる複数の係数を持つ「スイス・フォーミュラ(現行譲許税率が高い品目ほど引下げ幅が大きく、全ての品目が一定の係数以下の譲許税率に引き下げられる方式)」について合意した点が大きな特徴となっている1(第4-2-3図)。現在、先進国向けと発展途上国向けの具体的な係数の水準が議論の焦点となっている。また、発展途上国に対して認められる柔軟性については、フォーミュラによる削減の緩和や適用除外の幅について、先進国と発展途上国で議論が継続している。非譲許品目については、原則としてすべての品目を譲許することとされ、譲許に際しての税率の設定に当たって、基準日の実行税率に一定数のかさ上げをした数値を基準税率としてフォーミュラを適用する方式に合意し、そのかさ上げの幅について議論が継続している2

1 仮に、先進国の係数を10、発展途上国の係数を15とした場合、先進国及びフォーミュラの適用対象となる主要発展途上国の非農産品の平均譲許税率の削減率は、平均してそれぞれ概ね50%程度の削減 (WTO事務局作成データを基に、経済産業省試算)となる。
2 例えば、基準日の実行税率が25%の非譲許品目に、かさ上げが5%ポイントとすると、基準税率は30%となり、これに係数を15としてフォーミュラを適用した場合、(30×15)/(30+15)=10%という譲許税率が設定される。

 
第4-2-3図 スイス・フォーミュラ係数別の関税削減変化
第4-2-3図 スイス・フォーミュラ係数別の関税削減変化
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 また、フォーミュラによる関税削減を補完し、更なる市場アクセスの改善を目指す、分野別の関税撤廃交渉や非関税障壁の削減・撤廃交渉についても、関心国が主導して議論を行っている。

(アンチ・ダンピング(AD)措置の濫用防止)
 ドーハ・ラウンドの主要交渉分野の1つには、ルール、とりわけアンチ・ダンピング(AD)措置がある。AD措置とは、国内価格より廉価で販売する行為(ダンピング行為)による輸入国国内産業の損害の除去という目的のためにWTOルール上認められた措置である。AD措置の件数推移を見ると、近年若干減ってはいるものの、依然として年間100件を超えていることが分かる(第4-2-4図、第4-2-5表)。AD措置の濫用は、関税引下げ等市場アクセス改善の効果を損なうものであることから、ドーハ・ラウンドにおいてもそのルールについて明確化、規律強化について交渉を行っている。
 
第4-2-4図 WTO加盟国アンチ・ダンピング件数推移
第4-2-4図 WTO加盟国アンチ・ダンピング件数推移
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第4-2-5表 AD措置発動国・被発動国上位10か国・地域と措置数(1995年〜2005年)
第4-2-5表 AD措置発動国・被発動国上位10か国・地域と措置数(1995年〜2005年)
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 例えば、AD措置が恒久化することへの防止として、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果、5年ごとのサンセットレビューが義務化されたが、国内産業が措置の継続を支持する限りサンセットレビューによって終了することがほとんど無いのが現実である。このため、我が国はサンセットレビューの規律強化を目標として交渉に臨んでいるが、ウルグアイ・ラウン ドでルールが形骸化したことを踏まえ、今回のラウンドでは実効性を確保した形での妥結が必要である。
 我が国は、こうした恒久化の防止などAD措置の規律強化を目指し、条文改正提案を順次提出するなど交渉をリードしている。一方、米国は議会・産業界にAD発動を求める強い意見があることを踏まえ、規律強化に消極的である。

(多角的貿易自由化の効果)
 先に述べたように、WTOでは、物品の貿易の関税及び非関税障壁の削減を目指すとともに、規律範囲をサービスにも拡大しており、多角的貿易自由化が進展した場合には世界各国に大きな効果がもたらされるものと期待される。我が国のみならず全世界で物品及びサービスの貿易自由化が達成された場合には、我が国に約4千億ドル(約48兆円)の経済効果があるとの試算がある。多角的貿易体制のメリットを享受する我が国は、引き続きWTOにおいて世界全体での貿易自由化やルールの策定に向けて積極的な役割を果たすことが求められる3

3 清田(2006)「日本の二国間・地域的自由貿易協定と多角的貿易自由化の効果:ミシガンモデルによる分析」(「我が国の財・サービス貿易及び投資の自由化の経済効果等に関する調査研究報告書」(独立行政法人経済産業研究所))。

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コラム 13
国際版一村一品キャンペーン

 一村一品キャンペーンは、地域住民が自ら誇ることのできる特産品を見つけ出し、国内のみならず、世界の市場にも通用する競争力のある商品に仕上げる活動を支援するものである。具体的には、JETRO等と協力して、国内主要空港において開発途上国産品の展示・販売コーナーを設置したほか、メコン展、太平洋諸島展、アフリカン・フェア等のイベントも開催した。加えて、2006年8月から9月にかけて財団法人海外技術者研修協会が一村一品研修を実施し、開発途上国45か国から80名の研修生が参加した。なお、2006年9月にはベトナム・ハノイで「APEC一村一品セミナー」を主催し、APECでもこの活動を広めている(コラム第13-1図)。
 
コラム第13-1図 開発途上国「一村一品」キャンペーンの例
コラム第13-1図 開発途上国「一村一品」キャンペーンの例

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コラム 14
WTO協定(ルール)の活用

 WTO紛争解決手続は、国際約束たるWTO協定の解釈を通じて加盟国間の通商摩擦の解決を図るものであり、問題措置の是正勧告のみならず、勧告履行がなされない場合に対抗措置を発動するための手続も備えていることから、他の国際紛争処理手続と比較しても、その実効性は格段に高い。WTO協定に違反する諸外国の法令や措置の是正を求めることは、我が国の不利益を解消することはもちろん、協定の実効性を担保するためにも重要なことである。 また、通商摩擦をいたずらに政治問題化させないためにも、WTO協定が規定する権利・義務に基づいた主張・処理を行うことが必要である。かかる方針のもと、我が国は二国間交渉のほか、WTO紛争解決手続の活用によりWTO協定に違反する各国の政策・措置についてその改善を要求している。WTOでは、紛争解決手続が大幅に強化された結果、GATT時代と比べ、紛争解決手続に基づく協議要請件数は著しく増加しており、紛争解決のための通商ルールを加盟国が積極的に活用していることがうかがえる(コラム第14-1図)。 1995年のWTO発足以来、WTO紛争解決手続が用いられた案件は361件(2007年3月末現在)に上っている。こうした中、我が国が当事国として協議を要請した案件は11件あり、第三国としても多くの案件に参加している。  今後の通商政策を進めていく上で、当面の優先度が高いと考えられる個別の案件(優先取組事項)は、以下の11件である(コラム第14-2表)4

4 経済産業省「不公正貿易報告書を受けた経済産業省の取組方針」(2007年4月16日公表)
 
コラム第14-1図 GATT/WTOの紛争解決手続に基づく協議要請件数
コラム第14-1図 GATT/WTOの紛争解決手続に基づく協議要請件数
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コラム第14-2表 WTO紛争解決手続等における優先取組事項
コラム第14-2表 WTO紛争解決手続等における優先取組事項
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