第3章
「地球的課題」に対応する「持続的発展のための市場」の創造
第1節
 気候変動問題と我が国の取組


1 アジアの経済成長と気候変動問題
 気候変動問題の原因と言われる温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素等複数のガスが含まれる。特に温室効果ガス排出量の約7割を占める二酸化炭素は、人間のあらゆる活動から排出されるものであり、すべての国・地域が一体となって削減に取り組むことが必要である。

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(1)加速的な伸びを示す世界の二酸化炭素排出量
(拡大し続ける世界の二酸化炭素排出量)
 近年、世界全体のエネルギー起源二酸化炭素排出量(以下、二酸化炭素排出量)は拡大を続けている4。1990年以降の世界の年平均二酸化炭素排出増加率は、1990年から1995年の年平均増加率0.7%に対し、1995年〜2000年同1.5%、2000年〜2005年同2.9%と世界全体の二酸化炭素排出量が加速的に拡大してきたことが分かる(第3-1-1図)。

4 世界の主要な研究期間による試算では、20世紀における先進国の温室効果ガス累積排出量は、世界全体の4割程度であり、国別の詳細な分析では、中国の20世紀における温室効果ガス累積排出量はおおむね日本の2〜3倍程度と分析されている。また、分析の一例では、中国8.0%、日本2.7%と試算されている。
 さらに、インドは、20世紀における二酸化炭素の累積排出量では、我が国とほぼ同水準であるものの、20世紀におけるメタンや亜酸化窒素の累積排出量では、それぞれ我が国の10倍以上となっている。
 
第3-1-1図 世界の二酸化炭素排出量の推移(1990年〜2005年)
第3-1-1図 世界の二酸化炭素排出量の推移(1990年〜2005年)
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(アジアの新興国における二酸化炭素排出量の拡大)
 足下の2000年から2005年では、日本、米国、EU27の二酸化炭素排出量はほぼ横ばいで推移しているのに対し、アジアの新興国の二酸化炭素排出増加率は、中国(香港を含む)が年率10.6%、ASEANが年率5.3%、インドが年率3.5%と世界全体の二酸化炭素排出量拡大に大きく影響している。特に、中国は5年間で20.2億CO2トン(2005年の我が国の排出量の約1.7倍に相当)排出量を増加させており、世界全体の二酸化炭素排出増加量の約55%を占めている。

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(2)経済成長と二酸化炭素排出量
 近年の新興国の二酸化炭素排出量の増加は、新興国の人口増加率が1990年代よりも2000年代の方が低いことから5、主に急速な経済成長によるものと考えられる。以下、経済成長の進展と二酸化炭素排出量増加の関係を考える。

5 世界全体の人口増加率は、1990年〜1995年:1.5%、1995年〜2000年:1.3%、2000年〜2005年:1.2%。
 OECD非加盟国の人口増加率は、1990年〜1995年:1.7%、1995年〜2000年:1.5%、2000年〜2005年:1.3%。
 IEA(2007)“CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION”.


(経済成長と1人当たり二酸化炭素排出量、二酸化炭素排出原単位)
 世界の主要国6について、1人当たりGDPと1人当たり二酸化炭素排出量の関係を見ると、緩やかな相関が見られる(第3-1-2図)。これは、経済成長を実現してきた国ほど、消費水準が向上すること等が影響しているためと考えられる。そのため、現在1人当たりGDPが低い国・地域も、今後経済成長を実現していくにつれて、1人当たり二酸化炭素排出量は拡大していくものと予想される。

6 アジア(ASEAN+6(統計の制約上ラオスを除く))、EU27(統計の制約上、キプロス、マルタを除く)、米国、カナダ、ブラジル、ロシアの44か国。
 
第3-1-2図 経済成長と一人当たり二酸化炭素排出量(2005年)
第3-1-2図 経済成長と一人当たり二酸化炭素排出量(2005年)
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 一方、1人当たりGDPと二酸化炭素排出原単位の関係を見ると、一定の逆相関が見られる(第3-1-3図)。これは、経済成長を実現してきた国ほど、二酸化炭素排出原単位が比較的高いと考えられる製造業から、二酸化炭素排出原単位が比較的少ないと考えられるサービス産業へと産業構造がシフトする傾向にあることや、省エネルギー・新エネルギー技術の導入等が進展していること等が影響していると推測される。
 
第3-1-3図 経済成長と二酸化炭素排出原単位(2005年)
第3-1-3図 経済成長と二酸化炭素排出原単位(2005年)
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 我が国や、海外製造業の直接投資を通じて成長を遂げた中国は、製造業の付加価値がGDPに占める割合が欧米に比べ高く、国全体の二酸化炭素排出原単位で比較した場合、欧米諸国よりも二酸化炭素排出原単位が高くなる可能性がある。そこで、産業構造の影響を除外して、二酸化炭素排出効率に対する経済成長の積極的な効果を検証するため、まず、二酸化炭素排出原単位を被説明変数、1人当たりGDPと各国の製造業付加価値がGDPに占める比率を説明変数として、クロスカントリーデータを用いて回帰分析7を行った結果、1人当たりGDPの係数は負で、統計的にも有意であった。したがって、産業構造の変化の影響を除いても、1人当たりGDPの成長とともに二酸化炭素排出原単位が減少すると考えられる。これは、経済成長とともに省エネルギー・新エネルギー技術の導入が進展すること等が影響していると考えられる。

7 分析の詳細については、付注3-1を参照。


(推計値を大きく上回る二酸化炭素排出原単位を持つ新興国)
 この推計に基づき、主要先進7か国と2005年の二酸化炭素排出量が世界の上位に位置する新興国である中国、ロシア、インド8の排出原単位について、回帰分析の結果得られた回帰式の理論値と実績値を比較すると、ロシア、中国、米国、インドの4か国は、実績値が理論値を上回る結果となる(第3-1-4図)。これは、これら各国が経済成長の規模や産業構造の違いを考慮しても、二酸化炭素排出効率が比較的低いことを示している。一方、それ以外の6か国は、実績値が理論値を下回っている。特に我が国は、これらの国の中で最も実績値からの残差が大きい値を示しており、経済成長の規模や産業構造の違いを考慮しても高い二酸化炭素排出効率を有していると考えられる9

8 2005年の二酸化炭素排出量は、中国が世界第2位、ロシアが第3位、インドが第5位である。
9 二酸化炭素排出効率は、気候や地理的要因等も影響しているため、この結果が直ちに各国の二酸化炭素排出効率を示すものではない。
 
第3-1-4図 二酸化炭素排出原単位の実績値と理論値(2005年)
第3-1-4図 二酸化炭素排出原単位の実績値と理論値(2005年)
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(3)将来の温室効果ガス排出量削減に向けて
(将来の二酸化炭素排出量予測〜「IEA World Energy Outlook 2007」レファレンス・シナリオ〜)
 米国、中国、ロシア、インドに我が国とEU27を加えると、2005年時点で世界の二酸化炭素排出量の約7割を占めており、これら二酸化炭素排出量が多い国が積極的な対応を行うことによって、世界全体の排出量を大幅に削減できる可能性がある。
 IEAの過去の排出量等を単純に延長したケースであるレファレンス・シナリオでは、世界全体の二酸化炭素排出量は、2030年に2005年の排出量の約1.5倍に拡大すると見込まれている(第3-1-5図)。さらに、2005年から2030年までの二酸化炭素排出量増加に対する寄与率を見ると、中国が46%、インドが16%を占め、合計で世界全体の二酸化炭素増加量の半分以上が、中国とインドによるものとなると考えられている。
 
第3-1-5図 世界の二酸化炭素排出量の将来予測 (「IEA World Energy Outlook 2007」レファレンス・シナリオ)
第3-1-5図 世界の二酸化炭素排出量の将来予測 (「IEA World Energy Outlook 2007」レファレンス・シナリオ)
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 2030年時点で世界最大の二酸化炭素排出国となると見込まれている中国は、経済成長等の影響から、2030年では1人当たり二酸化炭素排出量がEU27とほぼ同水準に達する見込みとなっている(第3-1-6図)。一方、産業構造の違い、気候や地理的要因等の違いがあるものの、二酸化炭素排出原単位は依然先進国よりも高い水準になる見込みとなっている。また、2005年時点で見ても、我が国やEU27よりも1人当たり二酸化炭素排出量が高いロシアは、2030年時点で2005年の約1.5倍の水準に上昇すると見込まれている。さらに、インドも二酸化炭素排出量が大幅に拡大すると見込まれている。
 
第3-1-6図 主要二酸化炭素排出国・地域の二酸化炭素排出量の推移
第3-1-6図 主要二酸化炭素排出国・地域の二酸化炭素排出量の推移
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 特に、1人当たり二酸化炭素排出量や二酸化炭素排出原単位等の指標が高いロシア、中国、米国、インド等においては、我が国が現在利用している技術等を普及させることによって二酸化炭素排出効率を高めることができる可能性があり、積極的な対応が求められる。

(世界全体の温室効果ガス削減に向けた積極的対応の必要性)
 世界的な気候変動問題の解決にあたっては、先進国、新興国を問わず、すべての国が参画して積極的な削減に向けた取組を行うことが必要となる。この際、経済成長と環境保全の両立という視点を忘れてはならない。
 IEAの「World Energy Outlook 2007」では、上述のレファレンス・シナリオに加え、GDP成長率や人口増加率など政策以外の前提を変えずに、2007年中頃までに各国が提案した追加的な政府の行動が、エネルギー需要をどの程度抑制するか等を評価した政策代替シナリオも公表している。このシナリオでは、レファレンス・シナリオで2030年に2005年から51.4%増加するとされていた二酸化炭素排出量が、バイオマスエネルギー等の新エネルギーの導入や省エネルギー技術を導入することによって、約半分の24.9%増加へと増加量が減少すると推計している(第3-1-7図)。特に、中国、インド等新興国地域の増加量削減が見込まれている。
 
第3-1-7図 IEA「World Energy Outlook 2007」におけるレファレンス・シナリオと 政策代替シナリオの2030年の二酸化炭素排出量の比較
第3-1-7図 IEA「World Energy Outlook 2007」におけるレファレンス・シナリオと 政策代替シナリオの2030年の二酸化炭素排出量の比較
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 例えば、世界全体が、優れた技術を有する我が国並みのGDP当たりエネルギー消費量となったと仮定すると、2005年の世界のエネルギー消費量は11,434Mtoeから3,854Mtoeと約3分の1になる10。二酸化炭素排出効率と同様に、GDP当たりエネルギー消費量も、各国の気候等の地理的条件や産業構造の影響を大きく受けることから、単純に比較することができないため、本数値はあくまでひとつの試算として参照すべきものではあるものの、技術の導入によって、エネルギー消費効率は大幅に改善できる可能性を示唆している。

10 IEA(2007)“CO2 EMISSIONS FROM FUEL COMBUSTION”.

 また、このように技術の力をもって対応すれば、環境保全と経済成長を両立することが可能である。エネルギー効率の向上は、経済成長に制約を課さない形で二酸化炭素排出削減を可能とするものであり、同時にエネルギー調達コストを下げ、その費用を研究開発など他の分野に資金を充当することを可能とする。
 しかし、優れた新エネルギー・省エネルギー技術の導入にあたって、新興国・途上国に対しては資金力や技術の面において、先進国の協力が必要になると考えられる。そのため、先に経済成長を実現した先進国は、自らの温室効果ガス排出量の削減に努めるとともに、気候変動問題への対策が途上国の経済成長を阻害しないよう、積極的に温室効果ガス削減に取り組む新興国・途上国に対して、経済成長と環境の両立を実現できるような資金的及び技術的支援を行っていくことが重要である。

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