第1章
 試練を迎えるグローバル経済の現状と課題
第2節
 世界経済危機が顕在化させる各国・地域の諸課題と対応


3 内需拡大に向けかじを切る中国経済
(1)存在感を高める中国経済
 中国経済は、1978年の改革開放46からの30年間で目覚ましい経済発展を遂げた。実質GDP成長率は、1979年から2008年までの30年間で年平均9.8%という高成長率となっており、これは1953年から1978年の改革解放前の平均成長率6.1%を上回るだけでなく、我が国の高度経済成長期(1955年から1973年の年平均成長率9.2%)を期間、成長率ともに上回っている。

46 1978年12月の中国共産党第十一期中央委員会第三回全体会議以降開始された中国国内体制の改革および対外開放政策で、広東省の深せん、珠海、汕頭、福建省のアモイ及び海南省に経済特区の設置等が実施された。
 
第1−2−3−1図 中国の実質GDP成長率の需要項目別寄与度の推移
第1−2−3−1図 中国の実質GDP成長率の需要項目別寄与度の推移
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 このような高成長を実現したのは、改革開放後から1990年前後までに、国内における農業セクターの生産が拡大されるとともに、農業生産以外の分野でも郷鎮企業47が成長したという国内の要因が挙げられる48。その後、対外経済開放による貿易の拡大により、さらなる成長が実現されることとなった。改革開放前の1978年にはわずか約200億ドルと世界第29位だった貿易総額は、2008年には約124倍の約2.6兆ドルに拡大している。特に2001年にWTOに加盟した後の輸出額の増加は著しく、2008年には、ドイツを上回り世界第1位の輸出大国となった。貿易収支は1978年から1993年までは、ほとんどの年で赤字だったが1994年以降は毎年黒字となり、黒字額も拡大し続けている。その結果、外貨準備高は2006年に我が国を上回り、2008年末時点で1兆9,460億ドルと世界最大の外貨準備保有国となっている。

47 郷鎮企業は、郷営、鎮営の企業(郷、鎮は日本の村、町に相当)と、改革開放以降に生まれた農村部の個人・共同経営の企業の総称。
48 Yasheng Huang(2008)“Capitalism with Chinese Characteristics”。

 中国の名目GDPは、1979年から2008年までの30年間で約82倍となった。世界に占める名目GDPの割合は6.2%(2007年)と米国、日本に次ぐ世界第3位の経済大国となっているが、IMFは、2010年に中国の名目GDPが日本を上回り世界第2位の経済大国となると予測するなど、今後中国経済の世界における位置づけはますます大きくなってくると考えられる(第1-2-3-2図)。
 
第1−2−3−2図 主要国の名目GDPの推移
第1−2−3−2図 主要国の名目GDPの推移
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第1−2−3−3表 世界各国のGDPランキング(2007年)
第1−2−3−3表 世界各国のGDPランキング(2007年)
 
第1−2−3−4表 世界各国の輸出額ランキング(2008年)
第1−2−3−4表 世界各国の輸出額ランキング(2008年)
 
第1−2−3−5表 世界各国の輸入額ランキング(2008年)
第1−2−3−5表 世界各国の輸入額ランキング(2008年)

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(2)世界経済危機の中国経済への影響
 金融危機により世界経済が大きく減速しているなかで、これまで高成長を持続していた中国にもその影響が及んでいる。2003年から5年連続で10%を超える成長を続けていた中国経済であるが、2008年の実質GDP成長率は9.0%となり、6年ぶりに10%を下回った(第1-2-3-6図)。
 
第1−2−3−6図 中国の実質GDP成長率の推移
第1−2−3−6図 中国の実質GDP成長率の推移

 四半期ベースで見ると、2007年の第2四半期の14.0%をピークに成長率は減速し、2008年第4四半期には中国政府が目標とする8%の成長率を下回った。足下の2009年第1四半期の成長率6.1%の寄与度は、消費が4.3%ポイント、投資が2.0%ポイント、純輸出がマイナス0.2%ポイントとなるなど49、特に外需の減少による輸出額の低下が影響を与えている。輸出の減速は、生産、雇用にも波及しており、さらに雇用の悪化から国内消費の低下にも波及することが懸念されている。

49 中国国家統計局記者会見2009年4月16日。

 中国では、2007年から景気過熱を防止するために、金利の引上げや貸出し規制等の金融引締め政策を実施してきたが、世界経済危機により政策変更を余儀なくされた。中国経済の減速は世界経済危機による外的な要因だけでなく、引締めの金融政策等の内的な要因もあることを考慮する必要がある。
 地域別の成長率の変化について見ると、天津濱海新区における投資プロジェクトを多数抱える天津市を除き、上海市や広東省といった輸出依存度の高い沿海部の地域で成長率の低下が大きい。輸出依存度が沿海部より低い北京市でも、輸出企業の本社機能が集中するため成長率の低下は大きくなっている。一方、内陸部や中部では、沿海部と比較して輸出依存度が低く成長率の低下は限定的である。ただし、中国最大の石炭生産地の山西省では、発電量の減少に伴う石炭需要の減少の影響が、また四川省では、地震の影響等により成長率の低下が見られる(第1-2-3-7図)。
 
第1−2−3−7図 中国の省市別輸出依存度と成長率変化の関係
第1−2−3−7図 中国の省市別輸出依存度と成長率変化の関係
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〔1〕減速する輸出
(a)中国経済の輸出依存構造
 中国の経済構造を投資、消費、輸出の名目GDP比で見ると、我が国や米国と比較して輸出により依存する傾向が近年高まっている。中国の輸出は、約5割が加工貿易によるもので(第1-2-3-8図)、我が国と比較すると輸出単価や付加価値は低いものの50、輸出の鈍化が中国経済に与える影響は比較的大きいと考えられる。

50 第2章1節2. 参照。
 
第1−2−3−8図 中国の輸出総額に占める加工貿易の割合の推移
第1−2−3−8図 中国の輸出総額に占める加工貿易の割合の推移
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 一方、中国経済は、投資への依存度も高いため、政府の活動方針等が示される全国人民代表大会(全人代)等では、中国経済の持続的な成長のために投資、消費、純輸出のバランスの取れた需要構造の実現が必要であり、特に消費需要の拡大による内需の強化が必要であると指摘されている(第1-2-3-9図)。
 
第1−2−3−9図 中国、日本、米国における固定資本形成、家計消費、輸出の対名目GDP比の推移
第1−2−3−9図 中国、日本、米国における固定資本形成、家計消費、輸出の対名目GDP比の推移
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(b)欧米諸国の需要低下による輸出減少
 これまで投資と並んで経済成長のけん引役であった純輸出は、2009年第1四半期には、GDP成長率に対しマイナス0.2%ポイントの寄与となるなど、成長率の押下げ要因となっている。中国の輸出額は、WTOへの加盟後の2002年から2007年まで毎年20%を上回る伸びを示していたが、2009年2月には前年同月比−25.7%まで低下した。輸出の減少は世界経済危機による先進国の需要縮小やそれに伴うアジア地域への部品の供給の減少によるところが大きい。
 中国の輸出の動向を各国・地域別に見ると、これまで米国、EUが中国の輸出をけん引してきていたことがわかる。しかし、米国サブプライム住宅ローン問題が発生した2007年頃から米国向け及びEU向け輸出の寄与度が低下している。さらに2008年にはアジア向け輸出の寄与度も低下し、2008年11月には前年同月比でマイナスに転じるなど、欧米地域からアジア地域に輸出の減少が波及している(第1-2-3-10図)。これは、欧米地域での需要の低下によって、アジア地域における欧米向け輸出製品の在庫調整が生じるなど、アジア地域への部品輸出が減少したことがあると考えられる。
 
第1−2−3−10図 中国の各国・地域別の輸出寄与度
第1−2−3−10図 中国の各国・地域別の輸出寄与度
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第1−2−3−11図 中国の各国・地域別の輸入寄与度
第1−2−3−11図 中国の各国・地域別の輸入寄与度
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 財別に中国の輸出先について見てみると、消費財の輸出先は、欧米向けが約6割を占めており、欧米地域の需要の影響を受けやすい構造となっている(第1-2-3-12図)。部品の輸出先は日本を含めたアジア地域が約5割を占めているが、さらに部品の輸出先であるアジア地域の消費財の輸出先を見てみると、欧米向けが約6割を占めており、中国の部品輸出の最終需要は欧米地域に大きく依存していることがわかる(第1-2-3-13図)。
 
第1−2−3−12図 中国からの部品・消費財輸出先の内訳
第1−2−3−12図 中国からの部品・消費財輸出先の内訳
 
第1−2−3−13図 アジア(中国除く)からの消費財輸出先の内訳
第1−2−3−13図 アジア(中国除く)からの消費財輸出先の内訳

 中国の輸入について見ると、2008年の加工貿易額は3,784億ドルと総輸入額の約3割を占めているが、欧米諸国への加工貿易輸出の減少に伴う部品の輸入減少や昨年高騰した原材料価格の下落等により2008年11月から前年同月比でマイナスに転じている。この結果、2008年の中国の貿易収支は2,955億ドルとなり、過去最大の貿易黒字となった。貿易黒字は年々増加しているが、2008年の貿易黒字額の伸びは、輸出の減速により、前年比12.5%と2007年の同48.0%を大幅に下回っている。

(c)中国の貿易を担う外資系企業
 中国の貿易額は、主に加工貿易を担う外資系企業によって拡大してきたが、貿易額の約6割を占める外資系企業の割合が近年低下している(第1-2-3-14図、第1-2-3-15図)。特に2008年は、世界経済危機の影響により外資系企業による欧米等を最終仕向け先とした自国向け製品輸出や加工貿易における部品輸入が減少し、外資系企業の割合は更に低下している。主に外資系企業が輸出する高付加価値製品よりも、中国企業が輸出している廉価な製品に世界の需要がシフトしていることや、中国企業の輸出競争力が向上していることも、外資系企業の割合の低下要因として挙げられる。
 
第1−2−3−14図 中国の輸出額に占める外資系企業の割合の推移
第1−2−3−14図 中国の輸出額に占める外資系企業の割合の推移
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第1−2−3−15図 中国の輸入額に占める外資系企業の割合の推移
第1−2−3−15図 中国の輸入額に占める外資系企業の割合の推移
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〔2〕輸出の減速による生産調整
 輸出の低下は、中国国内の生産活動にも影響を及ぼしている。特に電気製品等は輸出比率が高く、輸出減少の影響を大きく受ける構造となっている(第1-2-3-16図)。
 
第1−2−3−16図 中国の製品別の輸出比率
第1−2−3−16図 中国の製品別の輸出比率

 中国の工業生産の伸びは、前年同月比で見ると2008年7月頃から鈍化している。工業生産の低下に伴い電力消費も低下しており、2009年2月には前年同月比でマイナスに転じている(第1-2-3-17図)。
 
第1−2−3−17図 中国の工業生産と電力消費の推移
第1−2−3−17図 中国の工業生産と電力消費の推移
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 生産状況を製品別に見ると、2008年後半から2009年1月にかけて、生産の調整により各製品で生産の伸びがマイナスに転じているが、2月にはプラスに転じている製品が多い(第1-2-3-18図)。家電関連製品や自動車については、2月1日から実施されている家電関連製品に対する購入補助や1月20日から実施されている小型自動車の減税等による消費刺激策によって生産活動が回復しているものと考えられる(中国の消費刺激策の詳細については後述)。
 
第1−2−3−18図 中国の製品別生産数の推移
第1−2−3−18図 中国の製品別生産数の推移
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〔3〕生産調整による雇用・賃金への影響
 工業生産調整は、雇用悪化や賃上げ抑制にも影響を及ぼしており、2008年第4四半期の都市部の登録失業者数は、製造業を中心とした求人数の減少等から886万人に拡大している(第1-2-3-19図)。これまで上昇し続けていた賃金についても、2008年に入り伸びが鈍化している(第1-2-3-20図)。
 
第1−2−3−19図 中国の失業者数と求人倍率の推移
第1−2−3−19図 中国の失業者数と求人倍率の推移
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第1−2−3−20図 中国の1人当たり平均賃金上昇率の推移
第1−2−3−20図 中国の1人当たり平均賃金上昇率の推移
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 中国の労働力市場の特徴の一つとして、農民工の存在が挙げられる。農民工は、都市部労働力を確保するため、政府が豊富な労働力を有する農村部からの労働力移動を積極的に誘導してきたこともあり、2008年末時点で全就業者数の約3割に当たる約2.25億人に上っている。政府による農村対策により農村部における生活が徐々に改善されてきたことや、一人っ子政策の影響による若年人口の減少によって、沿海部地域では、2004年頃から農民工の不足が生じている状況であった。
 しかし、世界経済危機の影響を受け、雇用環境は一変した。中国政府の発表51によると、春節(旧正月)の時期に都市部で失業した農民工の数は2,000万人に上り、春節後に都市部に戻ったものの、仕事が見つからず失業状態にある農民工の数は3月時点で1,100万人に上っている。これを受け、中国政府は、緊急雇用対策を発表し、国有企業を中心としたリストラの抑制、雇用補助金の支給や失業した農民工に一時的な生活補助手当を支給するなど迅速に対策を講じた。全人代の政府活動報告においても雇用対策が重点と位置づけられており、2009年の雇用対策関連経費は前年比で67%の増加となるなど、政府の取組姿勢が明確になっている。

51 中国国家統計局分析報告「2008年全国農民工総量22542万人」2009年3月25日。

 中国政府は雇用を確保し、社会の安定を保つためにも8%の経済成長率の維持が必要としている52。しかし、2006年から2008年の約10%の成長率でも都市部の新規雇用は約1,200万人程度で推移したことから、仮に8%の成長率が維持できたとしても、都市部の886万人の失業者や2009年7月に卒業が見込まれる610万人に及ぶ新規大卒者等を含めた求職者をすべて吸収できるかどうかは不透明な状況である。

52 2009年3月全人代「2009年政府活動報告」。


〔4〕金融危機の金融機関等への影響
 中国の国有銀行等が保有していたリーマン・ブラザーズの債権総額は約7億ドル53であるが、総資産に占めるリーマン・ブラザーズの債権額は、最も高い交通銀行でも0.01%と低い水準である。2008年の国有銀行等の銀行業の利益は、中央銀行の金利引下げにより利息収入の伸びが鈍化するなかで、中国工商銀行が前年比35%増、中国建設銀行が同34%増の増益となっており、金融危機による中国金融機関への大きな影響は見られていない。

53 建設銀行1億9,140万ドル、工商銀行1億5,180万ドル、中信銀行7,600万ドル、中国銀行7,562万ドル、交通銀行7,002万ドル、招商銀行7,000万ドル、興業銀行3,360万ドル等。

 なお、中国4大国有銀行の不良債権は、AMC(資産管理公司)54への移管等により、2000年末に33.4%であった不良債権比率が、2008年末には2.8%にまで低下しているが、2009年からの新規貸出増加による潜在的な不良債権が増加している可能性もある。

54 1999年に国有商業銀行それぞれの不良債権を主に処理する機関として、華融資産管理公司(中国工業銀行)、長城資産管理公司(中国農業銀行)、東方資産管理公司(中国銀行)、信達資産管理公司(中国建設銀行)が設置された。

 一方で、中国が直接保有している米国債の残高は2008年9月末に5,850億ドルとなり、日本の5,732億ドルを抜いて世界最大の米国債保有国となっている。人民元に対するドルの減価等によって外貨準備が実質的に目減りする可能性もある。

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(3)中国の経済対策
 中国政府は、世界経済危機に対し迅速に対策を打ち出している。2008年9月15日のリーマン・ブラザーズの破たんの翌日16日から中国人民銀行(中央銀行)は、貸出基準金利の引下げを6年7か月ぶりに実施した。その後、預金準備率の引下げや輸出租税還付率の引上げ、預貯金利子にかかる個人所得税の減免、証券取引印紙税率の低減、住宅取引税・費用の引下げ、中小企業に対する融資の支援といった財政・租税・金融関連の一連の措置を講じた。
 また、2008年11月9日には、中国国務院常務会議決定として「内需促進・経済成長のための10大措置」が打ち出され、2010年末までに総投資額4兆元の景気刺激策を実施することとしている。さらに、自動車や鉄鋼等の10大産業調整振興政策や家電や自動車の購入補助といった消費刺激策も打ち出されている。

〔1〕4兆元の内需拡大対策
(a)インフラ整備を中心とした4兆元の内訳
 中国の2007年の名目GDPの約15.5%に相当する総投資額4兆元(約58兆円)55規模の経済対策については、2010年末までに4兆元投資を実施することとしており、事業分野は、〔1〕低中所得者層向け社会保障的な住宅建設、〔2〕農村インフラ整備、〔3〕鉄道・道路・空港・電力等の重大インフラ整備、〔4〕医療衛生・文化教育事業の発展、〔5〕生態環境整備、〔6〕自主的なイノベーションと構造調整、〔7〕地震被災地域の災害復興となっている(第1-2-3-21表)。これは2008年11月9日に決定された「内需促進・経済成長のための10大措置」のうちの7分野である。各分野への予算配分については、11月当初は鉄道・道路・空港・電力等のインフラ整備が1兆8,000億元と投資総額の約半分を占めていたが、地方政府との重複投資等の非効率な投資を助長させる懸念等もあり、2009年3月の全人代で、重大インフラ建設への予算配分が減額された。代わりに低中所得者層向け住宅建設や自主的なイノベーションの加速に関する分野の予算配分が拡充され、より消費需要中心の内需拡大策が強調される内容となっている。

55 2009年4月末の為替レート換算。
 
第1−2−3−21表 中国の内需拡大対策10項目
第1−2−3−21表 中国の内需拡大対策10項目

 この4兆元の経済対策における中央政府の投資負担は、1.18兆元となっており、地方政府や国有銀行、民間企業等が残りを負担することとなっている。既に中央政府支出分だけで2008年第4四半期から3,000億元が低価格住宅の整備や、農村の上水道の整備等のインフラ整備等に支出されており、1,200億元が災害復興に対して支出されている56

56 中国国家発展改革委員会発表資料「国家発展改革委負責人解読拡大投資経済成長政策措置実施効果」2009年5月6日。

 なお、中国国家発展改革委員会は、この4兆元の経済対策により、中国のGDPが毎年1%程度押し上げられる効果があるとの見方を示している57

57 中国国家発展改革委員会主任の記者会見2008年11月27日。


(b)地方政府の内需拡大策
 中央政府の4兆元の経済対策の発表を契機に、地方政府による投資計画が相次いで打ち出されている。地方政府が発表した投資計画の総額は、20兆元を超えており、地方政府間の投資競争の様相を呈している。地域別に見ると四川省や雲南省、重慶市等の南西の内陸部と、江蘇省や広東省、上海市、山東省等の南東の沿海部といった地域で提案の金額が大きくなっているのが特徴である(第1-2-3-22表)。輸出減速の影響が大きい沿海部の地域に加え、沿海部へ働きに出ている農民工を多く抱える内陸部の地域で投資計画の提案が積極化したものと考えられる。
 
第1−2−3−22表 中国地方政府の内需拡大策
第1−2−3−22表 中国地方政府の内需拡大策

 しかし、これらの提案された投資計画については、中央政府が提示した4兆元を大きく上回る額となっており、非効率な投資の助長や地方政府における財政状況の悪化が懸念されている。このため、中国政府は共産党中央組織と国務院(内閣に相当)による共同監視組織を発足させるなど、公共事業の適切な執行に向けた取組を強化している。

(c)財政支出
 4兆元規模の経済対策の実施は、多額の財政支出を伴うが、ここでは、中国政府の中長期的な財政の健全性について確認する。中国財務部の予算案によると2009年の財政赤字は中央政府の7,500億元と地方政府の2,000億元を合わせて9,500億元に上る見通しとなっている(第1-2-3-23図)。財政赤字の名目GDP比は、一般的に健全といわれ、EUの加盟条件でもある3%以内となっている。経済対策による財政赤字を補填するため多額の国債等の発行が予定されているが、2008年末時点の中国の国債発行残高は名目GDP比の約20%と国際的に健全といわれる30%の範囲内にある58。不動産価格の下落により不動産関連の収入が急減している地方政府については、2,000億元の財政赤字を補填するため、初めての地方債の発行に踏み切る。地方の債券発行の統制等を図るため、中央の財政当局が地方政府の代理として発行することとしている。

58 中国財政部「2008年中央・地方予算執行状況及び2009年中央・地方予算素案報告」2009年3月16日。
 
第1−2−3−23図 中国の財政収支の推移
第1−2−3−23図 中国の財政収支の推移
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〔2〕経済対策によるインフラ関連投資の拡大と減速する不動産関連投資
(a)インフラ関連投資
 このようなインフラ投資を中心とした4兆元の経済対策により、インフラ関連の業種等で投資額が拡大するなどその効果が見られる。中国全体の固定資産投資額の8割以上を占める都市部の固定資産投資の推移を見ると、これまで投資をけん引していた不動産開発投資の伸びが2008年後半から鈍化しているにもかかわらず、4兆元の経済対策を実施した2008年末から固定資産投資の伸びが拡大しており、2009年3月は前年同月比30.3%まで上昇している(第1-2-3-24図)。
 
第1−2−3−24図 中国の固定資産投資(都市部)の推移
第1−2−3−24図 中国の固定資産投資(都市部)の推移
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 固定資産投資の上昇は、4兆元の景気対策によるインフラ関連の投資の増加によるところが大きい。業種別に固定資産投資の推移を見ると、製造業や不動産業では、投資の伸びが鈍化しているが、インフラ関連の投資は2009年に入ってから急激に伸びており、4兆元の景気対策によるインフラ関連への投資が進んでいることがうかがえる(第1-2-3-25図)。なお、インフラ関連の投資額は全体の投資額の約2割を占めている(第1-2-3-26図)。
 
第1−2−3−25図 中国の都市部の分野別固定資産投資額の推移
第1−2−3−25図 中国の都市部の分野別固定資産投資額の推移
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第1−2−3−26図 中国の都市部固定資産投資額の内訳(2008年)
第1−2−3−26図 中国の都市部固定資産投資額の内訳(2008年)

 インフラ関連の投資のなかでも鉄道建設を含む交通インフラへの投資への期待が特に高い。鉄道建設プロジェクトでは、高速鉄道を含め2020年までに約5兆元を投じる計画が提案されており、全国の鉄道営業距離を12万km以上に伸ばす新たな目標等が掲げられている59。鉄道関連への6,000億元のインフラ投資により、2009年の鋼材需要2,000万トン、セメント需要1.2億トン、600万人分の雇用が発生すると見込まれている。また、鉄道関連へのインフラ投資は、そのほかにも、開通後は輸送コストの低減、旅客の時間節約、交通事故の低減、地方の投資環境の改善等、様々な効果が期待されている。道路建設への投資については、2009年に中国全国で1兆元規模の投資を目指す提案もされている60。高速道路の建設のほか、農村部の道路整備に2,000億元程度の投資を見込んでおり、集落を結ぶ道路の建設や既存道路の舗装を進めることとしている。

59 中国鉄道部計画局局長記者発表2008年11月12日。
60 中国交通運輸部計画局局長記者発表2008年11月24日。


(b)不動産関連投資
 4兆元の景気対策によりインフラ関連の投資が拡大する一方で、これまで投資をけん引してきた不動産投資については、2008年の後半から伸びが大きく鈍化している。2008年前半までおう盛であった不動産投資に伴う不動産価格の高騰によって、不動産バブルの発生等を懸念した金融引締め政策の効果と、世界経済危機の影響とがあいまって、これまで上昇し続けてきた不動産価格の伸び率は、2008年12月には、前年同月比でマイナスに転じた。都市別で見ると、特に2007年に大きく上昇した深せんの住宅販売価格の反動が大きく、12.7%の減少となっている(第1-2-3-27図)。一部の地域で住宅販売価格の下げ止まりの動きも見られるが、不動産価格の下落は地方の税収の減少による地方財政の悪化や、不良債権問題にもつながるおそれがあることから、不動産価格の調整速度をいかに抑えられるかが今後の重要な課題となってくる。
 
第1−2−3−27図 中国主要都市の住宅販売価格
第1−2−3−27図 中国主要都市の住宅販売価格
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〔2〕10大産業調整新興計画
 中国政府は、インフラ整備を中心とした需要面からの4兆元の景気対策とは別に、供給面からの対策として10大産業調整振興計画を策定した(第1-2-3-28表)。10大産業調整新興計画は、自動車産業、鉄鋼産業、繊維産業、設備製造産業、船舶産業、電子情報産業、軽工業、石油化学産業、非鉄金属、物流業に関する今後3年間にわたる計画で、1年目は業界の業績の悪化、雇用の悪化、在庫の悪化に直面している業界を救済しつつ、その後の2年間で、企業再編や技術革新により構造調整を図ることを基本方針としている。
 
第1−2−3−28表 中国の10大産業調整振興計画の概要
第1−2−3−28表 中国の10大産業調整振興計画の概要

 例えば自動車産業については、2009年1月14日に計画が決定され、自動車消費需要の安定化・拡大を目的としており、企業の統合・再編や電気自動車等の次世代自動車の技術革新を推進することとしている。具体的には、〔1〕排気量1,600cc以下の小型自動車の車両購入税を、2009年1月20日から12月末まで、現行の10%から5%へと引き下げを実施。〔2〕2009年3月1日から12月末までオート三輪、低速トラックを軽トラックに買い換える場合と排気量1,300cc以下の乗用車を購入した農民に、一時払いの財政補助(50億元を計上)。〔3〕大企業等の合弁や再編、部品メーカーの合併による規模の拡大を支援。〔4〕企業の自主的なイノベーションと技術開発の支援のため100億元の特別資金を計上。〔5〕電気自動車とその関連部品の国産化のため補助金を準備し、次世代自動車の大中都市での普及を促進。〔6〕自動車企業の自社ブランドを発展させ、自動車と自動車部品の輸出拠点を整備、自動車関連のサービス業を発展させ、自動車ローンの仕組みを確立することとしている。
 また、鉄鋼産業については、2009年1月14日に計画が決定され、世界に通用する鉄鋼メーカーの育成を目的としており、企業の統合・再編や鋼材販売価格の安定化、国際鉄鉱石価格の安定化を図ることとしている。具体的には、〔1〕国内の鋼材消費を拡大する一方で、輸出税率の調整を行い国際市場でのシェアを安定させる。〔2〕鉄鋼生産の総量をコントロールし、生産効率の低い設備を淘汰する。〔3〕企業の合併や再編を促進し、大型の鉄鋼グループを育成する。〔4〕政府予算を活用して技術、研究開発能力を高度化し鋼材等の品質を高める。〔5〕鉄鉱石輸入市場の秩序を整え、鋼材販売制度を規範化し、生産・販売のリスクをともに分担するメカニズムを確立することとしている。

〔3〕国の消費刺激策
 中国政府は、消費の拡大を図るために、これまで低かった所得が近年都市部並に上昇しつつある農村部(第1-2-3-29図)に対して、家電や自動車の購入者に対し財政補助を行う「家電下郷」や「汽車下郷」といった政策を実施している。「家電下郷」は、カラーテレビ等の家電、「汽車下郷」は自動車について、普及率が低い農村部(第1-2-3-30図)での消費意欲や購買力を底上げするとともに、輸出が鈍化している家電製品等の消費の拡大を期待した政策である。
 
第1−2−3−29図 都市部と農村部の可処分所得の推移
第1−2−3−29図 都市部と農村部の可処分所得の推移
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第1−2−3−30図 中国の都市部、農村部における耐久消費財の保有状況
第1−2−3−30図 中国の都市部、農村部における耐久消費財の保有状況
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(a)家電下郷
 家電下郷は、2007年12月から農村部の消費を底上げするために山東、河南、四川の各省で実施されていた。その後2009年2月1日には対象地区を全国に拡大し、対象期間を4年間として、実施されるようになっている。対象製品はカラーテレビ、洗濯機、冷蔵庫、携帯電話のほか、オートバイ、パソコン、温水器、エアコン等が追加されている。これら製品を農村部の消費者が購入した場合、13%の補助金が支払われ、そのうち中央政府が80%、地方政府が20%負担することとしている。補助金の支給は当初1世帯当たり1品目ごとに1回であったが2回に増加している。
 中国商務部は、この政策により4年間で1.6兆元の消費創出効果があると予測している61。2009年1月から3月までで対象品目の販売台数は270万台に上り、40億元の売上となっている。3月単月では148.5万台の販売、22.4億元の売上と、前月比約7割の増加となっている。

61 中国商務部中国投資指南「中国消費市場遇春回暖」2009年4月13日。

 対象となる製品の価格については、カラーテレビ、洗濯機は2,000元(約2万9千円)62、冷蔵庫、エアコンは2,500元(約3万6千円)等、上限が決められており、メーカーと対象製品は入札によって選定される。上限価格が低く設定されていることから対象となっているのは中国国内メーカーの製品が多く、日本など海外メーカーの商品は少ない。選定された海外メーカーは、洗濯機では、日系メーカーのパナソニック、三洋電機、携帯電話では、ノキア(フィンランド)、サムスン(韓国)、パソコンでは、デル(米国)、フィリップス(オランダ)、エイサー(台湾)となっている。なお、4月からはカラーテレビの上限価格は3,500元(約5万1千円)に、エアコンは4,000元(約5万8千円)にそれぞれ引き上げられ対象が拡大している。

62 2009年4月末の為替レート換算。


(b)汽車下郷
 農村部での自動車購入に補助金を支給する汽車下郷は、2009年3月14日に中国国家発展改革委員会が発表した。三輪自動車等を廃車とし、5万元以上の軽トラックや軽自動車に買い換える場合は、5,000元を上限に、購入金額の10%の補助金が支払われる。政府からの補助金総額は50億元であり、約100万台の新規需要を見込んでいる。

〔5〕中国消費市場の動向
 2008年の社会消費財小売総額63は、10.8兆元と、前年比21.6%となり、伸び率で見ても2007年の同16.8%から上昇したが、月次ベースで見ると8月、9月をピークに世界経済危機の影響等から伸びが鈍化している。消費の下落幅は、西部や中部と比較して沿海部地域の方が大きい(第1-2-3-31図)。

63 社会消費品小売総額とは、飲食業、新聞出版業、郵政業、卸売・小売業、その他サービス業など、市民生活の中で消費される商品の売上総額のこと。
 
第1−2−3−31図 中国の地域別社会消費財小売額の推移
第1−2−3−31図 中国の地域別社会消費財小売額の推移
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 都市部と農村部の消費の動向を見ると、拡大してきた消費の伸びは、これまで都市部が農村部を上回って推移していたが、2008年11月からは農村部の消費の伸びが都市部を上回っている。足下の3月では、都市部の消費は前年同月比13.7%と2月と比較すると回復しているが、回復の水準は、2005年12月の伸び率の水準(同10.9%)にまでさかのぼる64。一方で、農村部の消費は同16.9%となり、2007年9月(同16.1%)の水準の伸びにまで回復しており、都市部と比較して農村部における消費の伸びが高い(第1-2-3-32図)。

64 春節の影響を受ける1月と2月を除く。
 
第1−2−3−32図 中国の都市部・農村部の社会消費財小売額の推移
第1−2−3−32図 中国の都市部・農村部の社会消費財小売額の推移
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(a)家電製品販売、自動車販売の増加
 製品別に社会消費財小売額の推移を見ると、電気製品については、2008年12月には、前年同月比で−8.6%まで減少したが、1月から増加に転じており、3月には同26.9%まで回復している。自動車についても、3月は同27.0%と回復している。一方で、食料品や衣類については、3月はそれぞれ同11.9%、同13.3%となっており、2月と比較すると伸びは増加しているものの、電気製品や自動車と比較すると伸び率は低い(第1-2-3-33図)。
 
第1−2−3−33図 中国の製品別社会消費財小売額の推移
第1−2−3−33図 中国の製品別社会消費財小売額の推移
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 また中国、日本、米国の自動車販売台数を見ると、中国では、2008年8月に前年同月比でマイナスとなり減少傾向で推移していたが、2月以降はプラスに転じている。一方、我が国や米国では販売台数の前年同期比はマイナスが続くなど、各国市場で自動車の需要が大幅に減少するなか、中国では自動車販売台数が増加している(第1-2-3-34図)。さらに、中国における自動車販売台数は、2009年1月には74万台と低迷する米国の66万台を初めて上回り、その後も世界一の販売台数を記録している65。中国都市部の自動車保有台数は100世帯当たり約6台とまだ低く、今後の普及により更なる消費の拡大が期待されている。このように、中国においては、消費拡大策が講じられているなかで、消費が回復し始めている製品も見られる。

65 2009年4月は中国115万台、米国82万台、日本28万台となっている(中国自動車工業協会、米国オートデータ、日本自動車販売協会連合会)。
 
第1−2−3−34図 中国、日本、米国の自動車販売台数の推移
第1−2−3−34図 中国、日本、米国の自動車販売台数の推移
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(b)消費の拡大を通じた成長に向けて
 製品によっては一部に増加の見られる消費であるが、失業者の増加や、賃金の鈍化等が今後の消費にどのような影響を及ぼすかが懸念されるところである。中国経済が本格的に回復するには、政策対応による一時的な効果にとどまらず、持続的な消費需要の拡大を通じた成長を実現することが必要である。また、中国の消費は拡大しているものの、第1-2-3-9図で示したように投資や輸出と比較するとウエイトは小さく、中国経済が今後持続的に成長していくには、消費の拡大による経済構造の変化が求められる。
 2008年に中国の1人当たりGDPは3,000ドルに達し、今後、自動車や家電等の耐久消費財の消費が活発化する可能性が高いと考えられる。我が国も高度成長期の1970年代に1人当たりGDPが3,000ドルを超え、自動車や家電等の消費が活発化した。ある国や地域の1人当たりGDPが3,000ドルを超えると、都市化や工業化の速度が高まり、住民の消費行動の特徴や行為にも大きな変化があらわれ、これは中国の成長維持、内需拡大、構造調整にとって有利だとの見方66もある(第1-2-3-35図)。

66 中国国家統計局元局長の3月6日全国政治協商会議での記者会見。
 
第1−2−3−35図 中国の省市別1人当たり名目GDP(2008年)
第1−2−3−35図 中国の省市別1人当たり名目GDP(2008年)
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 しかし、中国経済が更に消費を拡大するためには、農村部の7億2千万人の所得の底上げが重要な課題となる。都市部と農村部の可処分所得を比較すると、1991年に2.4倍だった格差が、2008年には3.3倍になるなど、拡大傾向で推移している(第1-2-3-36図)。
 
第1−2−3−36図 中国の都市部、農村部の可処分所得の推移
第1−2−3−36図 中国の都市部、農村部の可処分所得の推移
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 農村部における耐久消費財の普及等、今後消費の拡大の余地は大きいにもかかわらず、可処分所得のうち消費に向けられる割合を示す消費性向は減少傾向で推移しており、所得が消費よりも貯蓄に回されている傾向が見られる(第1-2-3-37図)。
 
第1−2−3−37図 中国の消費性向の推移
第1−2−3−37図 中国の消費性向の推移
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 このような貯蓄の増加は、社会保険などの社会保障制度の整備の遅れがその要因として挙げられる。中国の社会保障は都市部では最低生活保障、養老保険、失業保険、医療保険があるものの農村部では養老保険、失業保険は無く、医療保険も一部しか存在していないなど、都市戸籍、農村戸籍によって保障体制が区別されている。また、農村部から都市部に出稼ぎをしている2億2,542万人の農民工のうち養老保険に加入しているのは1,846万人、医療保険は3,131万人、失業保険は1,150万人となっており、加入者の割合は約1割程度と低い。これに対し、例えば春節の時期には都市部で失業保険の加入者を上回る2,000万人もの農民工が失業しており、セーフティネットの未整備は大きな課題である。医療費も非常に高く、中国社会科学院の社会青書では、また、農民や一般市民にとっては、医療費が高く診療が受けられないといった医療問題は、中国における最も深刻な社会問題の一つとされている。政府も医療改革を最優先課題として取り組んできており、2009年4月6日に「医薬衛生体制改革の意見」と「医薬衛生体制改革の中期重点実施案(2009年から2011年)」を公布して新医療制度改革をスタートさせた。新医療制度改革は、2009年から2010年に国民の9割をカバーする医療保険制度の基本枠組みを構築する中期目標と2020年にすべての国民をカバーする完全な医療保険制度を確立する長期目標を掲げている。
 また、都市部、農村部における義務教育の無料化を実施し、義務教育を受けているすべての農村児童・生徒への教科書の無料提供等も実施している。中央予算では2008年の三農67への資金投下額は前年比37.9%増加の5,955億元に上り、食料生産への補助等が実施され、農村部の生活水準の底上げが行われている。

67 三農は、農業、農村、農民の3つの農であり、中国政府は三農が抱える農業の低生産性、農村の荒廃、農民の貧困といった問題を三農問題として、政府の重点的政策課題としている。


〔7〕金融緩和政策
 これまで中国では、不動産価格の高騰やインフレ懸念等から貸出基準金利や預金準備率の引き上げ、貸出総量の規制といった引締めの金融政策が実施されており、2007年12月の中央経済工作会議でも、「引締め」の金融政策のスタンスが示されたところであった。しかし、中国人民銀行(中央銀行)はリーマン・ブラザーズが破たんした翌日の9月16日から貸出基準金利を6年7か月ぶりに引き下げるなど、金融政策を緩和する迅速な対応を行っている。

(a)金利の引下げ
 貸出基準金利は、リーマン・ブラザーズが破たんした翌日の9月16日に引下げを実施して以来、10月8日に米国、欧州、英国、カナダ、スウェーデン、スイスの6中銀と協調利下げを実施するなど、段階的に5回の引下げを実施している。貸出基準金利は、7.47%から5.31%に低下したが、消費者物価を考慮した実質金利は、食料価格や資源価格高騰の反動による消費者物価の伸びの低下によって上昇している(第1-2-3-38図)。
 
第1−2−3−38図 中国の貸出金利、実質金利、預金準備率の推移
第1−2−3−38図 中国の貸出金利、実質金利、預金準備率の推移
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(b)貸出しの増加
 中国人民銀行は、金利の引下げと併せて、貸出総量規制を2008年10月に廃止し、11月から金融緩和へ政策転換している。政府目標では、2009年のマネーサプライ(M2)の伸びを、2008年の16%から17%に引上げるとともに、2009年に5兆元以上の新規貸出しを行うこととしている。実際の数値を見ると、M2は3月時点で25.5%の伸びを見せ、また、新規貸出しは2008年末から急激に増加し、1月から3月までの累計で4.58兆元となっており、目標を大幅に上回るペースとなっている(第1-2-3-39図)。また、企業の利益は減少に転じているが、債務残高は大きく膨らんでいる(第1-2-3-40図)。政府は貸出し構造の最適化を行うこととしており、三農、中小企業等への金融支援を強化する一方で、エネルギー多消費、高汚染、生産能力過剰業種・企業への貸出しを厳格に抑制することとしている。
 
第1−2−3−39図 中国の金融機関貸出、マネーサプライの推移
第1−2−3−39図 中国の金融機関貸出、マネーサプライの推移
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第1−2−3−40図 中国の工業企業の債務残高と利益の推移
第1−2−3−40図 中国の工業企業の債務残高と利益の推移
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(c)後退する過剰流動性、インフレリスク
 中国政府は、足下では、金融緩和政策により、マネーサプライを増加させているが、2008年の前半までは、マネーサプライの増加は、民間金融機関に大量に蓄積された流動性が、貸出しによって市中に放出され、不動産価格の高騰や株式市場の加熱を招くなどインフレ圧力を増加させると考えられる懸念材料であった。インフレ圧力については、政府及び人民銀行が、金融引締め等を通じて抑制に努めてきたが、2008年は、食料、資源価格の上昇が鈍化し、海外への資金流出等から過剰流動性によるインフレ圧力は低下している。なお、海外への資金流出については、外貨準備高の増加分から貿易収支と対内直接投資実行額を除いた額(第1-2-3-41図中その他)が2008年後半からマイナスとなっており、海外へ資金流出していると考えられる。
 
第1−2−3−41図 中国の外貨準備高の増減と主な要因
第1−2−3−41図 中国の外貨準備高の増減と主な要因
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 このように足下ではインフレの懸念は低下しているが(第1-2-3-42図)、過剰なまでの貸出しの増加は、長期的にはインフレ圧力をもたらすだけでなく、生産効率の低い投資を助長することとなり、中国経済の発展の妨げになることが懸念される。
 
第1−2−3−42図 中国の物価の推移
第1−2−3−42図 中国の物価の推移
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〔8〕貿易の人民元決済の拡大
 世界経済危機の影響で欧米地域向けの貿易が鈍化するなか、対外貿易の安定化を図るための措置として、2009年4月8日の中国国務院常務会議で貿易代金の決済を人民元でも行える制度を試験的に導入する方針が決定された。対象となるのは長江デルタの上海市と珠江デルタの広州市、深せん市、珠海市、東莞市の5市による香港との貿易となっている。
 また、昨年来、中国は、韓国、インドネシア、ベラルーシ、アルゼンチン、香港、マレーシアの6か国・地域と総額6,500億ドルとなる2国間通貨スワップ協定を締結し、2国間における貿易決済が行えることとなっている。これまで貿易の決済はドル等の国際通貨に限られていたが、人民元建て決済により為替変動リスクの回避、外貨両替コストの節約等の改善が見込まれる。中国国務院は上海を2020年までに国際金融センターとする計画を示しており、上海は今後、アジアにおける人民元の流通の中心となり、国際金融センターとしての地位が高まることが期待されている。
 さらに、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁はドル基軸通貨体制の限界を指摘する論文を発表し、基軸通貨を発行する国だけで世界に対して流動性を提供するとともに、通貨価値の安定を行うことは不可能であり、国際通貨基金SDR(特別引出権)制度の拡充を訴えるなど、ドル基軸通貨体制に疑義を唱えた。人民元建て貿易決済は、人民元の国際化に向けた一歩であり、通貨の国際的な地位を高めるが、一方で、経済・金融政策に対して外部からの影響を受ける可能性が高まることになる。

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(4)我が国との戦略的互恵関係の構築に向けて
〔1〕環境・エネルギー分野で我が国企業に期待される活躍の場
(a)科学的発展観の実践に向けて
 このように拡大する中国経済において、我が国企業等の活躍が期待される分野として、環境・エネルギー分野が挙げられる68。中国では、経済の拡大に伴って、消費するエネルギーの量や環境への負荷等が大きくなってきている。中国のエネルギー消費量は、2008年に28.5億トンSCE69となり世界第2位のエネルギー消費国となっている。輸入しているエネルギー資源は、石炭が5,102万トンで世界3位、石油が1億6,316万トンで世界3位(第1-2-3-43表)、天然ガスが698万トンで世界14位の輸入規模となっている(いずれも2007年)70。また、中国のエネルギー消費の主な原料となる石炭については(第1-2-3-44図)、2008年に27.93億トン生産71するなど、主に自国で生産しているが、石炭による火力発電は、気候変動問題の原因といわれる二酸化炭素排出量が多く、積極的な削減に向けた取組が必要とされる。

68 中国に進出した日系企業への有望分野に関するアンケートでは「環境・省エネルギー技術」が一位(日本経済新聞2009年4月14日中国進出日本企業アンケート)。
69 SCE(Standard Coal Equivalent)は、標準石炭換算量。
70 United Nations Statistics Division Commodity Trade Statistics Database.
71 CEIC Database.
 
第1−2−3−43表 石油輸入量ランキング(2007年)
第1−2−3−43表 石油輸入量ランキング(2007年)
 
第1−2−3−44図 中国のエネルギー消費に占める各資源の割合(2007年)
第1−2−3−44図 中国のエネルギー消費に占める各資源の割合(2007年)

 そこで、中国政府は、エネルギー消費効率が高く、環境との調和の取れた経済成長を目指し、第11次5か年計画において、GDP当たりのエネルギー消費量を、2010年までに2005年比で20%削減する目標を掲げており(第1-2-3-45図)、削減に向けた様々な取組が行われている。例えば、北京や上海等ではバスやタクシーにハイブリッド車の導入を推進し、次世代自動車の利用を推進するほか、冷蔵庫や洗濯機等の家電製品についても省エネルギーに関する技術開発を推進しており、エネルギー効率を示すラベルの普及等を推進している。2006年からは省エネ人材育成として、中国から我が国に約300名の研修生が派遣され、2007年の中国省エネ法改正に貢献した。さらにエネルギー管理士の育成も行っていくこととなっている。
 
第1−2−3−45図 中国のエネルギー消費量とGDP当たりエネルギー消費量
第1−2−3−45図 中国のエネルギー消費量とGDP当たりエネルギー消費量

 また、外資系企業の中国への投資についても新エネルギー事業や環境保護分野への投資が奨励され、ハイテク産業や環境保護に関する企業への優遇税制の適用等72の取組が行われている。こうしたなかで、我が国が現在利用している省エネルギー・環境技術を普及させることによって、エネルギー消費効率を高めることができる可能性があり、積極的な対応が求められる。

72 省エネルギー、環境保護に関する企業に対して、法人税率25%を15%に優遇するなどの措置が取られている。

 さらに、第11次5か年計画では、水の汚れの度合いを示す指標である化学的酸素要求量(COD)を2010年までに2005年比で10%削減することや、酸性雨をもたらす原因となっている二酸化硫黄の排出量について、2010年までに2005年比で10%削減することを目標に掲げている(第1-2-3-46図)。これまで産業の発展に伴い高度化されてきた我が国の環境技術の普及により、これらの環境保全に向けた効果を高めることができる可能性がある。
 
第1−2−3−46図 中国の化学的酸素要求量(COD)の推移
第1−2−3−46図 中国の化学的酸素要求量(COD)の推移
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(b)日中省エネ・環境総合フォーラム
 環境・エネルギー分野に関する我が国と中国との取組の一つとして、日中省エネ・環境総合フォーラムが2006年から毎年開催されている。本フォーラムでは、我が国及び中国の官民のリーダーが参加し、省エネルギー・環境分野に関する政策、経験、技術などについて意見交換等を行っている。2008年は11月に東京で第3回のフォーラムが開催され、民生(ビル)省エネモデル事業や日本最先端オゾン技術による中国の湖沼等の水質改善等の19件の協力について日中間で合意されるなど、これまでの産業分野の省エネに加え、民生分野、水処理分野及び地方への展開といった分野への取組が協議され、協力の分野、テーマ、参加プレーヤーに広がりが出てきている。

〔2〕市場としての中国
 環境・エネルギー分野を中心に、中国における我が国企業の活躍が期待される一方で、我が国では、中国に対して、今までの製造拠点としてだけではなく、販売拠点としての期待も高まっている73

73 日本経済新聞(2009年4月14日)中国進出日本企業アンケートでは、中国に進出した日系企業への中国拠点の役割について「中国国内市場向けのマーケティング・営業」が最も多く回答企業の79.6%で、「中国国内市場向けの製造」が67.3%、「輸出のための製造」は51.0%(複数回答有)。

 中国への対内直接投資の契約件数を見ると、2006年頃までは製造業の投資が小売業や卸売業等といった第三次産業を大幅に上回っていたが、2007年以降は、第三次産業が製造業を上回っている(第1-2-3-47図)。2008年以降、良品計画、ファーストリテイリング、イオン等が出店の加速を表明したほか、これまで直営店により展開していたセブン-イレブンがフランチャイズ店を始めるなど市場としての中国の成長力に注目が集まっている。また、我が国企業の中国現地法人の販売先について見ると、売上総額に占める中国現地向け販売の割合が年々増加しており、2007年度はその割合が6割にまで達している(第1-2-3-48図)。
 
第1−2−3−47図 中国の対内直接投資(契約件数)の推移
第1−2−3−47図 中国の対内直接投資(契約件数)の推移
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第1−2−3−48図 日系製造業の中国現地法人の販売先
第1−2−3−48図 日系製造業の中国現地法人の販売先


〔3〕現地人材の活用
 中国の市場としての魅力が高まるとともに、中国を中国国内市場向けの研究開発拠点としてとらえる企業も少なくない。日本経済新聞の中国進出日本企業アンケートによると、54社中14社の企業が、「中国国内市場向けの研究開発」を中国拠点の役割として挙げている。中国市場向けの商品開発・設計や基礎研究等に中国の優秀な人材を活用し、国際競争力の強化につなげる動きが広まっている。すでに欧米諸国では、中国での研究開発拠点の確立に伴い中国の豊富な人材を活用するため、研究開発分野での共同プロジェクトや中国国内の人材育成等で連携を強めており、我が国でも中国の人材の活用が求められる。
 中国では教育発展計画に基づき、大学のレベル向上等を進めており、中国における大学卒業者数は2000年の95万人から、2008年の512万人と5倍以上に増加している。
 しかし、中国に進出した日本企業にとって、人事労務管理は大きな課題の一つでもある。日本経済新聞社の中国進出日本企業アンケート74では、現地での事業展開で最も困っていることとして、5割以上の企業が「幹部育成」を挙げており、「優秀な人材のつなぎとめ」や「人材の採用」も上位に入っている。こうした人材関連の問題については、中国の大学生への就職人気アンケート75でも見て取れる。就職先人気上位50社のなかには日系企業は1社もなく、他国の外資系企業が27社を占めている。また、中国企業は23社を占めており、中国企業も外資系企業に匹敵するほどの魅力を持つようになったと見ることもできる。日系企業の人気が低い要因として、年功序列や終身雇用を特徴とした日本型の雇用慣行と中国の雇用慣行に大きな差があることが挙げられる。リクルートワークス研究所のアンケート76によると、勤務先選択にあたり中国人は日本人と比較して、賃金や福利厚生を重視するという特徴があり(第1-2-3-49図)、退職理由では、賃金への不満や昇進への余地といった内容が上位に挙げられている(第1-2-3-50表)。一方で、中国に拠点を置く日系企業では、管理職の中国人比率が70%を超え、現地化を進めている企業が16.7%存在するものの、その比率が10%に満たない企業が35.2%存在するなど、全体としては中国人が管理職に登用されることが多いとはいまだいえない状況となっている(第1-2-3-51図)。こうしたギャップを埋めるには、雇用慣行等に対する相互理解が必要であり、中国からの留学生や日本での在住経験者等の積極的な活用や管理職への登用も重要と考えられる。

74 日本経済新聞2009年4月14日中国進出日本企業アンケート。
75 スウェーデン資本のコンサルティング会社によるアンケートで、中国国家重点大学に指定されている大学のうち70大学を対象としている。1万6,815人のアンケート結果を集計し、人気就職先100社等を発表している(アンケート実施期間は、2008年1月から4月)。
76 2008年8月から10月にかけて、中国の上海の20〜30代の社会人と日本の首都圏の20〜30代の正社員に対するオンライン調査。
 
第1−2−3−49図 日本人と中国人の勤務先選択理由
第1−2−3−49図 日本人と中国人の勤務先選択理由
 
第1−2−3−50表 日本人と中国人の退職理由上位5項目(複数回答:%)
第1−2−3−50表 日本人と中国人の退職理由上位5項目(複数回答:%)
 
第1−2−3−51図 日系企業の中国現地法人の管理職以上の中国人比率
第1−2−3−51図 日系企業の中国現地法人の管理職以上の中国人比率


〔4〕高まる中国企業の技術競争力
 日本企業や欧米企業が中国に研究開発拠点を設置することで中国国内への技術移転が進むなど、全般的に中国企業の技術競争力は高まっている。中国における企業の研究開発費の総額は、2000年以降、毎年30%前後の高い伸びを示している。その総額は2007年には2,112億元(約3兆円)に達しており、そのうち外資系企業によるものが約3割を占めている(第1-2-3-52図)。
 
第1−2−3−52図 中国の研究開発費の内訳(2007年)
第1−2−3−52図 中国の研究開発費の内訳(2007年)

 また、加工貿易における部品等の輸入額に対する製品等の輸出額の比率は年々上昇しており(第1-2-3-53図)、中国からの輸出製品の付加価値が高まってきていることを示している。例えば、我が国と中国の米国向けの輸出について、カラーテレビの単価を見るとその差は縮まってきており(第1-2-3-54図)、特に技術・資本集約型産業の競争力は高まっていると考えられる。
 
第1−2−3−53図 中国の加工貿易の貿易額推移
第1−2−3−53図 中国の加工貿易の貿易額推移
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第1−2−3−54図 日本と中国の米国向け輸出における単価比較
第1−2−3−54図 日本と中国の米国向け輸出における単価比較

 さらに、競争力を高めた中国企業による海外進出等も増加している。中国政府は対外直接投資の拡大を目指す「走出去」戦略77によって中国企業の海外進出等を積極的に推進しており、対外直接投資額は2003年から2008年の5年間で約14倍に拡大している(第1-2-3-55図)(中国による対アフリカ直接投資の増大については、本節6.コラム11で紹介)。2008年に中国企業が海外プロジェクトで得た売上高は、前年同月比39.4%の566億ドルとなり、海外で獲得した新規受注額は、同34.8%の1,046億ドルにも上っている78

77 「走出去」戦略は、輸出拡大による諸外国との貿易摩擦や一部の産業における過剰生産応力、資源不足の深刻化等の問題を、中国企業の海外進出によって改善、解決しようというねらいから、2000年の全人代で正式に提起され、対内直接投資に比べて少ない対外直接投資の拡大を目指している。
78 中国商務部「2008年我国対外承包工程、労務合作和設計諮問業務統計」。
 
第1−2−3−55図 中国の対外直接投資(金融除く)の推移(フロー)
第1−2−3−55図 中国の対外直接投資(金融除く)の推移(フロー)
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〔5〕求められる投資環境の整備
 技術力の向上により中国の競争力が高まっている一方、これまで中国の競争力向上の一つの大きな要因とされていた労働コストの優位性については、中国の各地域で最低賃金が大幅に上昇していること(第1-2-3-56図)や中国の労働力人口が2015年から減少に転じることが見込まれている(第1-2-3-57図)など、今後労働集約型産業の国際競争力は次第に弱まっていくとみられる79

79 中国社会科学院工業経済研究所「中国製造業の国際競争力:変化と趨勢」(2009年)
 
第1−2−3−56図 中国の各地域の最低賃金
第1−2−3−56図 中国の各地域の最低賃金
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第1−2−3−57図 中国の労働人口の推移
第1−2−3−57図 中国の労働人口の推移
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 労働コストの上昇以外にも、中国への投資環境への課題として法制の運用の不透明さなどが挙げられており(第1-2-3-58図)、中国における労働争議の数も増加している(第1-2-3-59図)。また、中国における外資系企業でも赤字を計上している企業は決して少なくはない。赤字企業に占める外資企業の割合は年々増加しており、2008年には赤字企業のうち約4分の1が外資系企業となっている(第1-2-3-60図)。これまで優遇されていた外資系企業の法人税率についても、2008年1月から5年以内に15%80から25%に引き上げられることとなっているなど、外資系企業にとって中国の投資環境は厳しさを増している。

80 一部地区等では法人税率24%。
 
第1−2−3−58図 日本企業が挙げる中国への事業展開における主な課題の推移
第1−2−3−58図 日本企業が挙げる中国への事業展開における主な課題の推移
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第1−2−3−59図 中国における労働争議受理件数
第1−2−3−59図 中国における労働争議受理件数
 
第1−2−3−60図 中国の赤字企業に占める外資系企業の割合
第1−2−3−60図 中国の赤字企業に占める外資系企業の割合
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 中国への対内直接投資は全体では増加しているが、我が国や米国、ドイツ等の先進国からの投資は減少傾向で推移している(第1-2-3-61図)。産業構造の高度化が必要な中国にとって、外国資本は今後とも必要な存在であり、引き続き外国投資を引きつけるためにも、法制度の運用や模倣品対策等を含め事業環境の一層の整備が必要である。
 
第1−2−3−61図 中国の対内直接投資動向
第1−2−3−61図 中国の対内直接投資動向
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 このため、我が国としては、日中韓投資協定交渉や日中韓ビジネス環境改善アクション・アジェンダのフォローアップを実施しており、日中ハイレベル経済対話や各種定期協議等の様々な場を通して、中国に対して投資環境改善の働きかけを行っている。

コラム 4

ITセキュリティ製品への強制認証制度(CCC)について

 2008年1月、中国政府は、ITセキュリティ製品への強制認証制度(CCC:China Compulsory Certification)を導入し、2009年5月1日から実施する旨、公表した。その後、日米欧などの懸念表明を受け、2009年4月、中国は、当該強制認証制度を、対象を政府調達に限定した上で、2010年5月から実施する旨改めて公表した。政府調達に限定したとしても、認証取得の際に、中国の独自基準に適合することを義務づけ、その適合性を審査する中国の機関に対し、ソフトウエアの設計図等の技術情報の提出や、工場の実地検査などを義務づけるものであり、中国との貿易やハイテクビジネスへの影響、知的財産保護の観点など問題点が多い。このため、我が国は、米欧等とも連携しつつ、日中首脳会談、日中ハイレベル経済対話等の場で制度を導入しないよう再考を強く申し入れている。

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