第1章
 転換期にあるグローバル経済の現状と今後
第1節
 世界経済の現状と構造変化に向けた動き


1 世界経済の現状と今後の見通し
(1)世界経済の現状
〔1〕台頭し、期待の集まる新興国
 2008年秋の危機の発生後、世界経済は近年で最も深刻な景気後退に見舞われ、2009年のGDP成長率は−0.6%と、過去60年間で初のマイナス成長となった2。しかし、各国による大規模な財政・金融政策を受けて、世界経済は2009年に底打ちをした。IMFによれば、2010年の世界GDP成長率は4.2%となる見込みである(第1-1-1-1表)3。なお、景気回復の速度は、国・地域によって大きく異なっている。2009年、世界経済危機によって急激な落ち込みをみせた先進国経済については、2010年には回復し、プラスに転じることが見込まれるものの、相対的に緩やかな成長となっている。一方、中国をはじめとしたアジア新興国については、2009年も6.6%とプラス成長を維持しており、2010年には8.7%と高い成長を実現することが見込まれている。

2 IMFサーベイオンライン(2009)『世界経済、過去60年で初のマイナス成長を標す』「IMFは先進ならびに新興市場国からなる20ヶ国グループ(G20)に提出した分析の中で、2009年の世界経済が、年平均ベースで0.5%から1%のマイナス成長になる見込みだとしたが、この様な落ち込みは過去60年間で初のことである」
3 IMF(2010a), World Economic Outlook, April 2010.
 
第1-1-1-1表 世界経済の見通し(2010年4月)
第1-1-1-1表 世界経済の見通し(2010年4月)

 実質GDP成長率の推移を四半期ベースでみると、2009年の第1四半期以降、世界経済は回復に向かっていることが確認できる(第1-1-1-2図)。ただし、新興国の伸びは世界平均を大きく上回る一方、先進国は世界平均を下回ったまま推移している。
 
第1-1-1-2図 先進国・新興国の実質GDP成長率の推移(四半期、ドルベース)
第1-1-1-2図 先進国・新興国の実質GDP成長率の推移(四半期、ドルベース)
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 IMFのデータに基づき、世界経済危機の前後それぞれ6年間4の経済成長率をみると、世界のGDP成長率に対する新興国の寄与率は、2003年の22%から2015年の60%へと2.7倍上昇することが予測されている。また、同寄与率を危機の前後で比較すると、新興国は危機前の約4割から危機後には約6割へと、先進国と逆転する見込みである(第1-1-1-3図)。このように、新興国の急成長と経済の拡大が予測されている。

4 世界各国のGDP成長率及び寄与度については、IMFによって、2009年以降、2010年から2015年までの6年間についての予測値が示されているところ、過去についても同様に、2009年以前の2003年から2008年までの6年間を遡ることとした。
 
第1-1-1-3図 世界各国のGDP成長率と寄与度分解
第1-1-1-3図 世界各国のGDP成長率と寄与度分解
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 更に、中長期的な実質GDP成長率の推移を年代ごとにみると、1980年代、先進国は3.2%、新興国は3.4%とほぼ同程度の伸びを示している。その後、先進国が1990年代には2.8%、2000年代には1.8%と成長率が低下していったのに対し、新興国は1990年代には3.6%、2000年代には一気に6.0%と高い成長を遂げた。また、アジア新興国は「世界の工場」としての地位を確立する中で、アジア通貨危機をも克服し、1980年代の6.7%から1990年代には7.4%、2000年代には8.2%へと成長を見せている。更に、2000年代前半以降、中国・インド等の人口大国における需要拡大、2000年代後半以降の資源価格高騰等を背景として、ロシア・ブラジル・中東等資源国が成長を示した。このように、2000年代に入ると、新興国が先進国を上回って伸びており、今後もこの状況が続くことが予測されている(第1-1-1-4図)。
 
第1-1-1-4図 先進国・新興国の実質GDP成長率の推移(年、ドルベース)
第1-1-1-4図 先進国・新興国の実質GDP成長率の推移(年、ドルベース)
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 今後、先進国については、信用創造の回復の遅れなどにより、全般的に力強い成長が見込みにくいと考えられる。一方、中国はじめ新興国の世界GDP規模に占める割合は、2009年30.9%、2010年32.7%と拡大している(第1-1-1-5図、第1-1-1-6図)5。また、2015年には世界の38.8%を占めることが予想され、成長率、規模ともに、プレゼンスの拡大が見込まれる。このように、新興国は、全体として世界経済のけん引役たり得ると考えられ、この成長に期待が集まっている。

5 世界各国のGDP成長率及び構成比については、IMFによって、2009年以降、2010年から2015年までの6年間についての予測値が示されている。従って、ここでは過去についても同様に、2009年以前の2003年から2008年までの6年間を遡り、2009年、2003年〜2008年、2010年〜2015年の3点についてみることとした。
 
第1-1-1-5図 世界各国・地域別のGDP構成比及び成長率
第1-1-1-5図 世界各国・地域別のGDP構成比及び成長率
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第1-1-1-6図 世界の実質GDPの推移(ドルベース)
第1-1-1-6図 世界の実質GDPの推移(ドルベース)
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〔2〕危機発生による世界の貿易及び資本移動の変化

(a)主要国・地域間の貿易の変化
 2008年9月のリーマン・ショックを境に、各国の輸出は急激に減少したが、2009年に入って最悪期を脱した。第1-1-1-7図は、アジアの主要輸出国である日本、中国、韓国、並びに欧米の主要輸出国であるドイツ、米国、フランス、英国の輸出動向について、危機前後の水準を比較したものである。いずれの国においても、景気回復の遅れている欧米向けの輸出は、未だに回復していない。一方、アジア向けの輸出は概ね危機前の水準まで回復している。特に、米国、英国において、中国向けの輸出の伸びが目立っている。
 
第1-1-1-7図 各国の輸出額の推移(月次ベース、指数 2007年1月=100)
第1-1-1-7図 各国の輸出額の推移(月次ベース、指数 2007年1月=100)
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 中長期的にみても、過去10年間、アジアは、中国とインドを中心に、消費地・輸出先としての地位が著しく高まっていることがうかがえる(第1-1-1-8図)。
 
第1-1-1-8図 各国の輸出額の推移(月次ベース、指数 2000年1月=100)
第1-1-1-8図 各国の輸出額の推移(月次ベース、指数 2000年1月=100)
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(b)主要地域間における資本移動の変化
 主要地域間における資金の流れについては、2000年以降、経常収支黒字の新興国や資源国が、経常収支赤字の米国、英国など先進国に資本輸出を拡大させていたものと考えられる6

6 日本銀行(2010a)「新興国の国際資金フローと資産価格の変動」(『日銀レビュー』)。

 新興国や資源国の基本的な資金の流れをみると、公的部門(通貨当局)は、巨額の外貨準備運用により、資本を輸出している。また、民間部門は、証券投資(株式、債権)や直接投資などを通じて資本を輸入している。
 この流れについて、世界経済危機の震源地である米国を中心に説明すると、危機の前後で以下のように変化していることが分かる(第1-1-1-9図)。
 
第1-1-1-9図 主要地域間の資金の流れの変化
第1-1-1-9図 主要地域間の資金の流れの変化(1)

第1-1-1-9図 主要地域間の資金の流れの変化(2)

・危機発生前(2007年第2四半期):
 危機発生前の2007年第2四半期においては、米国に向けて、全ての地域から資金が流入している。かつ、「その他西半球諸国」との間を除き米国に流入する資金の方が、米国から流出する資金よりも多い。
 また、米国・欧州間については、いずれの地域との間よりも大きな資金の流れがある。
 新興国については、グローバル投資家のリスク選好が高まったことを背景に、証券投資(株式、債権)や直接投資などが拡大した結果、2007年夏頃まで資金流入が拡大した。
 中南米、中東アフリカ等からも米国に向かって資金が流れていることが確認できる。
・危機発生時(2008年第3四半期):
 2007年夏以降、サブプライムローン問題の発生、更に2008年秋のリーマン・ブラザーズの破綻を契機に、グローバル投資家のリスク選好は急速に低下した。この結果、米国を中心に流れていた資金に滞りが生じた。すなわち、欧州、中南米、中東アフリカから米国へ流入する資金も、中東アフリカ、オフショアへ流出する資金も、いずれもマイナスとなった。ただし、アジア・太平洋地域から米国に向かう資金の流れは、同時期においても2割弱の減少幅にとどまっている。

・危機発生から1年後
1)2009年第3四半期
 危機発生から1年後の2009年第3四半期においては、米国への資金の流れが戻り始めている。また、米国から各地域への資金も戻り始めた。特に、アジア・太平洋については、米国から世界経済危機以前を上回る資金が流入している。中南米についても、米国からの資金流入が危機以前のレベルまで回復した。
 アジア・太平洋、中南米など新興国への資金流入が順調に回復したのは、
−各国による前例のない景気刺激策によって世界経済の底入れ観測が拡がり、景気の先行きの不確実性が低下したこと、
−中央銀行による大胆な流動性供給の結果、市場から「流動性危機」への不安が払拭されたこと、
−2009年春頃から、先進国と新興国の成長率格差が拡大したこと、
−先進国において低金利の長期化への予測が強まったこと、
 等の理由により、2009年春以降、投資家のリスク選好が回復し、新興国への投資が促されたため、と考えられている7

7 同上

 なお、バランスシート問題を抱えた欧州新興国への資金流入は回復が遅れている。

2)2009年第4四半期
 2009年第4四半期は、前期(第3四半期)から3か月という短期間にもかかわらず、大きな変化が見られる。すなわち、前期、双方向でプラスだった米国と欧州の間、米国とオフショアの間が、今期は双方向でマイナスに転じている。また。中東アフリカから欧州への流れが戻っていることが確認できる。
 以上をまとめると、次のとおりである。
○アジア・太平洋地域から米国への流れは、世界経済危機を経てもプラスを維持している。これら地域の諸国では、対米投資の多くは、主にドル建て外貨準備の運用を目的とした中央銀行等政府機関による米国債・機関債への投資によって占められている。危機にも耐える、従来からの双方の強い結びつきがうかがえる。
○欧州からオフショア・金融センター、アジア太平洋へ、また、米国からアジア・太平洋、中東・アフリカへの資金の流れは、金融危機後にいったん滞ったが、再び流れが戻っている。力強い回復を示し、今後の経済成長が見込まれる新興国は、グローバルな規模で資金を引き付けている。
○逆に、欧州への資金の流れは、危機後1年以上が経過しても、依然として回復が弱い。欧州経済の回復の遅れを反映していることが考えられる。
 このように、資金フローの面からも、アジア・太平洋地域、中南米、中東・アフリカ等新興国の存在感が高まっている。

〔3〕個別指標動向
(a)経済パフォーマンスを反映する株価動向
 経済状況に影響を受けて変動する株価の動きをみると、日本や欧米主要国の株価は、世界経済危機の発生後、2009年3月あたりを底にようやく上昇傾向が見え始めた。ただし、これら先進国の株価は、危機以前の水準を回復したか、回復の途上にあり、一方、中国は世界経済危機から急速な回復を見せ、その後も高い伸びを示している(第1-1-1-10図)。
 
第1-1-1-10図 主要株価指数の推移
第1-1-1-10図 主要株価指数の推移
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(b)為替相場
 為替相場は、経済に関わる様々な要因によって変動しやすい。今後、影響を与える要素として、ギリシャに代表される国家財政の破綻危機や米国金融政策の動向等が挙げられる。
 円・ドル関係については、世界経済の改善と米国の金融緩和継続期待を背景にドル安基調となる中で、2009年11月には日米短期金利差の逆転やドバイ・ショック等を背景に、一時84円台まで円高が進んだが、その後日本銀行による追加金融緩和策や米経済指標の改善を受けた利上げ期待等からドル高・円安方向に戻し、2010年に入ると、概ね90円〜95円で推移している(第1-1-1-11図)。
 
第1-1-1-11図 主要通貨の対円為替レート
第1-1-1-11図 主要通貨の対円為替レート
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 円・ユーロ関係については、ギリシャをはじめとした欧州懸念を受け、2010年初からユーロ安が優勢となっている。
 なお、人民元については、2008年9月の世界経済危機の発生以降は1ドル=6.8元台で推移している(第1-1-1-12図)。米国では、2010年3月16日に上院において、人民元相場の不均衡を是正しなければ米国が反ダンピング税を課すことを可能にする法案が提出された8。このように、人民元の切り上げを求める声が高まっており、中国側の対応も含めて今後の動きが注目される(第1章第1節コラム9「為替レートを巡る議論」参照)。

8 民主党のシューマー上院議員(ニューヨーク州)と共和党のグラハム上院議員(サウスカロライナ州)がとりまとめたもの。
 
第1-1-1-12図 人民元の対ドル相場の推移
第1-1-1-12図 人民元の対ドル相場の推移
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(c)徐々に回復しつつある鉱工業生産
 総合的な鉱業・製造業の活動状況を示す鉱工業生産指数は、全体として徐々に回復基調にある。特に、新興国が高い伸びを示しており、中国では世界経済危機発生後も前年比プラスを維持し、伸びが顕著である(第1-1-1-13図 前月比)。また、インドは世界経済危機の際でも鉱工業生産指数に特段の変化が見られず、危機の影響が少なかったことがうかがえる。韓国は危機後に短期間で急速な回復を示し、ブラジルもほぼ危機前のレベルまで回復している。
 
第1-1-1-13図 鉱工業生産指数の推移(前月比、中国は前年同月比)
第1-1-1-13図 鉱工業生産指数の推移(前月比、中国は前年同月比)
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 先進国では回復の遅れが目立つ。ユーロ圏、米国、英国はいずれも鉱工業生産指数が低迷している。(第1-1-1-13図 指数)9

9 中国の鉱工業生産指数として公表されている前年同月比のデータからは、指数が再現できないため、掲載していない。

 我が国についてみると、今回の危機に対する製造業の対応は極めて特徴的であった。
 すなわち、2008年秋の危機発生後に生じた急激な輸出減少を受けた直後から、我が国製造業はかつてない急激な生産削減を行なった。その結果、在庫調整は急速に進展し、鉱工業生産は翌2009年第1四半期には早くも在庫調整局面のピークに達した。そして同年第4四半期には在庫調整局面を抜け出している(第1-1-1-13図 生産と在庫の関係)。なお、危機後の生産の落ちみが大きかったことから、2009年の鉱工業生産指数は前年比−21.9%と大幅なマイナスとなった。この反動で回復後の伸び率も大きくなっているが、生産水準を見ると未だ危機前の水準にはほど遠い。こうした回復ペースは徐々に低下していくものと見られる。従って、今後は、特に鉱工業生産が危機前の水準まで回復するかどうか注視することが必要である。

(d)回復しつつある財貿易
 2008年秋以降に急激に減少した世界の財貿易は、2009年に入って回復に転じた。各国別に見ても同様の傾向にあり、主要国の直近の輸出総額は、ここ2年のピーク時と比較して、約8割程度まで回復している(第1-1-1-14図 輸出額、月次ベース)。
 
第1-1-1-14図 世界及び主要国の輸出入総額の推移
第1-1-1-14図 世界及び主要国の輸出入総額の推移
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 特に、中国は2002年以降、輸出入ともに著しい伸びを示している。輸出は、2009年に落ち込んだものの、減少幅は比較的小さかったため、年間輸出額(1兆2,017億ドル)は世界一となった(第1-1-1-14図 輸出額、年次ベース)。年間輸入額についても、2009年は、中国(1兆56億ドル)がドイツ(9,314億4,700万ドル)を抜いて世界第2位となった(第1-1-1-14図 輸入額、年次ベース)。中国のプレゼンスがさらに高まっている。

(e)新興国を中心に好調な自動車販売
 実体経済への波及効果が大きい自動車の販売台数の推移をみると、中国の伸びが著しい(第1-1-1-15図)。2009年には、年間の国別新車販売台数が1,364万台と、米国(1,043万台)を抜いて世界一となった。月間でも、2010年3月の中国の新車販売台数は約173万5,200台、生産台数は173万4,300台と、ともに過去最高を記録している。米国、ユーロ圏(ドイツ等)は緩やかながら持ち直しつつある。一方、我が国は回復が遅れている。
 
第1-1-1-15図 国内自動車販売台数(月次ベース)
第1-1-1-15図 国内自動車販売台数(月次ベース)
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 なお、自動車は比較的高価で、かつ経済危機によって需要が落ち込みやすく、実体経済に及ぼす影響が大きい。このため、各国は自動車購入に伴う各種支援策を講じている(第1-1-1-16表「各国の景気刺激策」参照)。ユーロ圏では効果が鮮明に現れており、更に、中国では2009年3月より、農村部の住民の自動車買換えに補助を出す「汽車下郷」を実施しており、高い伸びとなっている。
 
第1-1-1-16表 主要国の主な景気刺激策(財政・金融政策)
第1-1-1-16表 主要国の主な景気刺激策(財政・金融政策)(1)

第1-1-1-16表 主要国の主な景気刺激策(財政・金融政策)(2)

 一方、支援策の終了に伴う反動減が懸念される。米国では2009年8月に、ドイツでは、2009年9月に、それぞれ支援予定額に達したため、自動車購入支援策を終了した。米国では、終了直後の急激な反動減は、2010年に入って収まったように見受けられる。一方、ドイツでは、2010年2月の新車販売台数が19万台(前年同月比30%減)と、反動減が本格化している。今後、米国・ドイツ以外の各国においても、自動車買い換え支援策が順次打ち切られる予定であり、実体経済への影響が懸念される。

コラム1

主要国経済の世界経済危機からの回復パターン

通商白書2009年版では、危機の波及経路について3つに分類した。具体的には
1)信用膨張型:米国、英国、スペイン、アイルランド等
 住宅バブルの崩壊と金融システムの混乱により、国内消費が大幅に減退したパターン。
2)輸出主導型:日本、ドイツ、韓国、シンガポール等
 米国等の先進諸国における需要が急減したことにより輸出が大きく後退したパターン。
3)新興諸国ブーム型:中東欧諸国等
 西欧等資金供給国の景気後退により、海外資金の流入が急減したパターン。

 こうした危機の波及類型は、危機からの回復パターンにも大きな影響を与えている。
 IMF10によれば、世界経済は、〔1〕先進国、〔2〕潜在成長率の高い新興国、〔3〕ソブリンリスクを抱える南欧諸国及び中東欧等の新興国、の3つに大きく分類できる、としている。

10 前掲、IMF(2010a).
   IMFチーフエコノミストOlivier Blanchard氏の記者会見におけるコメント(IMFwebサイトから取得)。

 また、先進国の回復は巨額の景気刺激策、在庫調整に大きく依存しており、一方、主要な新興国については力強い内需と商品価格の上昇が経済成長の推進力となっている。
 こうした点を踏まえて、世界経済を回復の進捗状況から見た場合、概ね次の3つのパターンに分類される(コラム第1-1図)。
 
コラム第1-1図 世界経済危機からの回復に関する3つのパターン
コラム第1-1図 世界経済危機からの回復に関する3つのパターン


〔1〕回復の遅い先進国:米国、英国、ドイツ、フランス、日本等
 2010-2011年のプラス成長が見込まれ、景気は回復しつつあるが、緩やかであると見込まれる。特に、信用膨張型により危機が波及した国は、金融システムの回復の遅れ、家計のバランスシートの弱さなどが想定され、失業率の高止まり、巨額の財政赤字なども課題となる。また、輸出主導型で危機が波及した国は、信用膨張型の国・地域の消費が減退している中、設備の過剰が見受けられ、未だ危機前の水準まで設備稼働率が回復していないものと考えられる(コラム第1-2図)。
 
コラム第1-2図 日本、米国、ドイツにおける設備稼働率の推移
コラム第1-2図 日本、米国、ドイツにおける設備稼働率の推移
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〔2〕内需が伸び、資本が流入している新興国:中国、インド等
 いずれも高い潜在成長率を有しており、力強い内需によって支えられている。比較的健全な財政を背景に、早急な政策対応及び海外からの資本流入の回復から、2010-11年における高い経済成長が見込まれる。中国の経済成長は大規模な財政・金融政策により支えられているが、国内消費も堅調であり、回復の持続性が期待される。

〔3〕ソブリンリスクを抱える南欧等諸国及び中東欧の新興国:スペイン、ポルトガル、アイルランド、ギリシャ、ラトビア、ハンガリー等
 住宅バブルの崩壊に伴う金融システムの混乱が生じ、これにより巨額の財政赤字がソブリンリスクとして認識され、2010年もマイナス成長が続く国が多いと予測される。
 なお、ギリシャはじめ南欧等諸国では、深刻な財政赤字を抱えている。しかし、ユーロ圏内は共通通貨政策ゆえ、各国の経済状況に合わせて、例えば為替相場を切り下げ、輸出促進による景気回復を通じて財政再建を図る、といった選択肢を持たない。
 一方、同様の問題を抱えている中東欧諸国については、危機後、西欧等資金供給国による資金の引き上げがあったものの、為替による調整もあり、2009年末頃から、持ち直しつつある。

 以上のように、回復のスピードは地域・国により異なっている。総じて、新興国は先進国に比べて、早期の回復と高い経済成長が期待されているが、新興国の中でも、リスクを抱え回復が遅れる国々が存在する。

〔4〕回復の背景にある景気刺激策とその評価ならびに今後の対応
 各国が講じた大規模な景気刺激策が奏功し、世界経済は予想以上に早い回復を示した11

11 前掲、IMF(2010a)によれば、各国が講じた景気刺激策は、全体で約20兆ドル、世界GDPのおよそ30%にのぼる。

 景気刺激策は大きく財政政策と金融政策から成り、内容は多岐にわたる(第1-1-1-16表、第1-1-1-17図)。財政政策については、主に減税(自動車購入、住宅取得等)、公共事業(交通インフラ、エネルギー・環境関連等)、給付金(失業・休職手当等)などがある。金融政策については、量的緩和と低金利政策が主である。
 
第1-1-1-17図 主要国・地域の景気対策(2010年4月現在)
第1-1-1-17図 主要国・地域の景気対策(2010年4月現在)


(a)財政政策
 世界経済危機を受け、主要国は大型の景気対策の実施を決定した。2008年11月に開催されたG20ワシントン・サミットでは、危機の克服と再発防止に向けた「必要なあらゆる追加的措置」を盛り込んだ首脳宣言を採択した。また、状況に応じた内需刺激のための財政政策の活用や、金融政策による支援の重要性に言及した。更に、2009年4月に開催されたG20ロンドン・サミットの首脳声明では、各国による財政拡大が、2010年末までの累計で5兆ドル(約500兆円)に上るとされ、引き続き各国が、最大限の財政・金融上の措置をとることの重要性が確認された。
 なお、主要国によって実施された財政政策の主な項目としては、新車購入支援、住宅購入支援、失業・雇用対策等がある(第1-1-1-16表、第1-1-1-17図)。
 これまで見てきたように、世界経済全体は、足下ではプラスの経済成長に転じており、回復局面における中国のパフォーマンスが際立っている。しかしながら、各国では未だ民間需要の自律的な回復には至っていない。今後、各国の景気対策が順次打ち切られる予定となっているが、それによって景気が再び後退する懸念が残る。

(b)金融政策
 危機対応策のための金融政策として、各国は低金利政策や潤沢な資金供給策(量的緩和)を実施し、信用収縮に対応してきた。これにより、消費や投資の減退に一定の歯止めが掛かり、財政政策と併せて、景気の浮揚を実現してきた(第1-1-1-16表)。
 金融緩和政策による影響をみると、先進国では景気の低迷から資金需要に乏しく、マネーサプライは伸びにくい状況にある。一方、先進国の超低金利政策を背景に、各国の景気刺激策による潤沢な資金供給から生じた余剰資金が、投資先を求めて新興国に大量に流入し、マネーサプライが増加している(第1-1-1-18図)。このため、資産価格や、資源・食料価格等における物価上昇をもたらす懸念がある。
 
第1-1-1-18図 マネーサプライの推移
第1-1-1-18図 マネーサプライの推移
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 先進国の景気回復の遅れに鑑みると、超低金利政策の解除を早急に行うことは困難であり、まずは新興国サイドにおいて、資本流入規制等を講じつつ適切なタイミングで拡張的な景気刺激策を修正していく必要がある、との見方も示されている12

12 前掲、日本銀行(2010a)。日本リサーチ総合研究所(2010)「新興国への資金流入と出口戦略の行方」。日本経済研究センター(2010)「新興国に先行利上げ国、先進国の「出口戦略」と異なる事情」。


(c)景気刺激策に対する評価
 各国が講じた景気刺激策に関して、IMFは「危機発生以降、各国は異例の支援策を講じた。これが回復の基礎となり、第二の大恐慌が発生するリスクを取り除いた。また、金融システムを含む経済全体に困難をもたらすデフレスパイラルに陥るのを妨げた」と評価している13。また、国連は、「支援策は世界的な信用を再構築し、金融市場を安定化させ、需要を下支えし、金融危機による経済的、社会的な影響を緩和した」とし、「各国首脳がG20のロンドン・サミットやピッツバーグ・サミットにおいて、景気刺激策や異例の支援策を必要な限り講じることや、バランスの取れた持続的な枠組みの立ち上げに合意した。これは、1930年代の大恐慌時のような近隣窮乏化政策に各国が走ることはない、という明らかなしるしである」と積極的な見方をしつつも、「これまでのところ、政策協調は表面的なレベルに止まっている。明確な目標を示す具体的なフレームワーク、出口戦略に関する明確なコンセンサス、各国の行動をとりまとめるためのメカニズムに欠く」と指摘している14

13 前掲、IMF(2010a).
14 UN(2010), World Economic Situation and Prospects 2010.


(d)各国の出口戦略に向けた対応および今後の見通し
 (a)、(b)で示したような、景気刺激策の終了による景気後退、金融緩和政策によるインフレ等を未然に防止するためには、緩和的な金融環境と景気刺激的な財政スタンスを適当なタイミングで修正する、いわゆる「出口戦略」が重要である(第1-1-1-19表)。
 
第1-1-1-19表 各国の出口戦略と経済動向
第1-1-1-19表 各国の出口戦略と経済動向

 金利政策に関する「出口戦略」としての政策金利の引き上げについては、2009年8月25日、イスラエル中央銀行が、世界各国の中央銀行の中で、世界経済危機の発生後初の利上げを実施した。また、2009年10月6日には、豪州がG20で初の政策金利引き上げを実施している。この後、ノルウェー、ベトナム、マレーシア、インド、ブラジルといった新興国・資源国も、順調な経済回復及びインフレへの懸念を背景に政策金利を引き上げている。
 一方、ロシア、トルコ、デンマーク、ハンガリー、ルーマニア、南アフリカは景気後退が深刻であることから政策金利を引き下げており、出口戦略とは逆行する動きを示している(第1-1-1-20図)。
 
第1-1-1-20図 各国の政策金利(2010年5月31日現在)
第1-1-1-20図 各国の政策金利(2010年5月31日現在)
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 政策金利引き上げの実施には至らないまでも、中国は預金準備率の引き上げ、インドは法定流動性比率15および預金準備率の引き上げ、シンガポールは自国通貨の切り上げを実施するなど、金融引締めに向けた動きが見られる。

15 国内商業銀行が保有しなければ成らない国債やその他政府指定債権の預金総額に対する比率

 米国は2010年2月18日、公定歩合の引き上げを公表した。しかし、雇用情勢は未だ厳しく、景気回復は力強さを欠いており、政策金利は据え置いたままである。
 我が国については、長引くデフレから景気回復の足取りが重い。また、欧州各国の中央銀行は段階的かつ適切なタイミングで異例の措置を解除していく必要性を唱えつつも、実体経済は依然として厳しい状況が続いており、いずれも出口戦略の実施はまだ先になると考えられる。
 財政政策に関する「出口戦略」については、国によっては一部の景気刺激策が既に終了している。他方、経済の先行きが不透明である中、支援終了のタイミングは、各国の景気回復の度合いや財政状況等によって異なってくる。今後、自律的な景気回復の可能性を見極めつつ出口戦略を実施していくことが見込まれる16

16 例えば、European Commission(2010)“Communication from the Commission:Europe 2020 A strategy for smart, sustainable and inclusive growth”によれば、経済回復が自立可能とみなされ、金融安定性が回復してから支援措置の廃止は、実行すべきとしている。

 これまで見てきたように、世界経済全体は、足下ではプラスの経済成長に転じている。しかしながら、各国では未だ民間需要の自律的な回復には至っていない。そうした中、先進国にとって早すぎる政策金利の引き締めや財政支出の終了は、世界的な景気が再び後退する懸念を生じ、逆に遅すぎれば各国の持続的な財政運営に悪影響を及ぼす恐れがある。一方、新興国においては、好調な景気回復を背景とするインフレ過熱を防止するため、早期の金利引き上げが望まれる。その一方で、金利を引き揚げた場合、高金利をめがけた資金流入によって為替レートが上昇し、価格も上昇して輸出が抑制され、景気が下押しされる懸念がある。
 このように、出口戦略を適切なタイミングとスピードで実施できなかった場合、以降に述べるリスクを顕在化させかねない。今後、各国は慎重な舵取りを求められることになる。

コラム2

G20における「出口戦略」を巡る議論

 世界経済危機による金融市場の混乱は実体経済まで波及し、世界経済の先行きに対する懸念が高まった。経済のグローバル化による各国の相互依存関係が深まる中、先進国・新興国双方の首脳によって対応を議論する必要性が強く認識され、G20メンバー国による首脳会合を開催することとなった。2009年11月、英国セント・アンドリューズにおいて20か国財務大臣・中央銀行総裁会議が開催された。その共同声明では世界経済の現状に関して、「危機への我々の調和した対応の後、経済及び金融の情勢は改善した。しかし、回復は一様でなく、政策支援に引き続き依存して」いるとし、自律的な回復に至っていない脆弱性を指摘した。特に、雇用情勢について「高い失業率は主要な懸案事項」と強調した。また、景気刺激策について「回復が確実となるまで、回復のための支援を維持する」ことで合意し、「出口戦略」の実施には時期尚早との認識を改めて示した。
 同会議において、IMFは出口戦略の策定や実行に関する以下の7つの原則を提出した。
〈IMF 出口戦略に関する原則〉
 原則1:出口戦略のタイミングは各国の経済状況や金融システムの状況に基づくべきであり、需要喚起策や金融システム修復の必要性に最大限留意することが必要。
 原則2:財政再建が最優先課題。金融政策は正常化が必要になった時に柔軟に調整可能。
 原則3:財政の出口戦略は、明確かつ具体的な時間軸の範囲内で、公的債務を良識的な水準に削減するという目標を持って、透明、包括的で明快な情報伝達がされるべき。
 原則4:プライマリーバランス(基礎的収支)の強化を財政再建の重要なけん引役とすべき。まずは危機対応の財政出動を一時的な措置にとどめること。
 原則5:非伝統的な金融政策は、必ずしも伝統的な金融政策を引き締める前に解除する必要はない。
 原則6:財政的政策支援の解除の時期と方法は、経済状況、金融市場の安定性、市場原理に基づくメカニズムによって決定すべき。
 原則7:出口戦略に一貫性をもたせることが、全ての国の結果を良くする。協調は必ずしも同期性と言う意味を包含しているわけではないが、政策協調の欠如は悪影響の波及を生む可能性がある。
 また、2010年4月、20か国財務大臣・中央銀行総裁会議(於ワシントン)における議長声明では、世界経済の回復は予想以上に進んでいるものの、地域内・地域間でスピードが異なることから、異なる政策対応が必要、としている。更に、未だに政策支援に大きく依存しており、持続可能な財政と整合的な国においては、「回復が確実に民間セクター主導となり、より確固たるものになるまでは政策支援が維持されるべき」とし、「あらゆる波及を考慮しつつ、各国個別の状況に応じた例外的なマクロ経済支援策及び金融支援策からの信頼性ある出口戦略を練るべき」としている。
 このように、先進国のみならず新興国も含めたG20による「出口戦略」の議論が進展している。

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(2)リスク要因
 (1)で見てきたとおり世界経済は回復しつつあるが、雇用回復の遅れ、金融システム回復の遅れ、財政赤字の拡大、新興国への資金流入による価格高騰、商品・資源・食料価格の乱高下といったリスク要因が存在している。これらのリスクが世界経済の自律的な回復に与える影響を注視する必要がある。

リスク要因〔1〕:雇用回復の遅れ
 主要先進国における失業率の推移をみると、世界経済の回復にもかかわらず、危機後に悪化したまま高止まりしている(第1-1-1-21図)。特に米国では、危機後の失業率が四半世紀ぶりの厳しい水準にある(第1-1-1-22図)。企業はこれまで、コスト高な正規社員やフルタイム労働者の雇用削減による労働生産性の向上で乗り切ってきた。それだけに、景気回復の見通しが不確かな中、雇用を以前の水準まで増やして生産を拡大させることに慎重である。このため、いわゆる「ジョブレスリカバリー(雇用無き回復)」の発生も懸念される(第1章第2節「米国経済の現状と今後」参照)。
 
第1-1-1-21図 主要先進国の失業率の推移
第1-1-1-21図 主要先進国の失業率の推移
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第1-1-1-22図 主要先進国の失業率の推移(長期)
第1-1-1-22図 主要先進国の失業率の推移(長期)
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 ILOの報告17によれば、主要国が景気刺激策を早期に打ち切った場合、対策を続けた場合に比べて、長期失業者が4,300万人増える、と予測している。また、若年層の失業率の推移をみると、米国では2007年以降、主要先進国では2008年以降、急上昇している(第1-1-1-23図 若年層)。いずれの国においても、全年齢層(第1-1-1-23図 全年齢層)に比べて若年層の失業率が高い。ILOによれば、若年失業者の増加により、国の将来を支える貴重な人的資源としての若者が就業機会を失うと指摘されている。これは、就業を通じて若者が技能・知識を蓄積する機会を喪失させることになる。人的資源が有効に活用されない状況が続けば、国の経済の成長基盤は崩壊しかねない18。更に、経済力に不安を抱える若年者が増加することにより、未婚者の割合が増えて少子化を加速させる懸念もある19

17 ILO(2009), World of Work Report 2009.
18 経済産業省(2004) 『通商白書』。
19 中小企業庁(2006) 『中小企業白書』。
 
第1-1-1-23図 主要先進国の失業率の推移(全年齢層、若年層)
第1-1-1-23図 主要先進国の失業率の推移(全年齢層、若年層)
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 IMFは、最新の世界経済見通しにおいて、2010年には多くの先進国で雇用の伸びはプラスに転じるものの、失業率は2011年を通して高止まりの状況が続くと予測、また中期的に短期失業者の割合が高い状況が続く可能性があると指摘している20。こうした雇用情勢の回復の遅れが長期化すれば、消費回復を遅らせるリスクとなる。

20 前掲、IMF(2010a).


リスク要因〔2〕:金融システムの機能回復の遅れ
 IMFによれば、世界経済の見通しの改善により、2010年4月時点における、2010年中の不良資産の増加見込み額は、2009年10月時点の推計と比較し減少した(第1-1-1-24図)。ただし、処理額は増加しているが、いまだ道半ばである。ちなみに、米国等は、保有資産総額に占める不良資産額(増加見込み額を含む)の割合が大きく、今後の景気動向によっては状況悪化も懸念され、先行きは不透明である(第1-1-1-25表)。企業倒産件数をみると、危機により深刻な打撃を受けた米国での増加が著しい。欧州においても、2007年のサブプライムローン問題の発生以降、英国、フランス、ドイツでは企業倒産件数がゆるやかながら増加した。米国、欧州の倒産件数は2009年に入り減少傾向が見受けられるが、今後、景気が悪化すれば、再び倒産件数は増加する懸念がある(第1-1-1-26図)。ちなみに、日本は危機による影響を大きく受け、欧州以上に倒産件数が増加したが、2009年に入り、景気の底打ちや中小企業に対する支援策の効果等もあり持ち直している。
 
第1-1-1-24図 米国・欧州の不良資産処理の推移
第1-1-1-24図 米国・欧州の不良資産処理の推移
 
第1-1-1-25表 銀行の保有資産総額に占める不良資産額
第1-1-1-25表 銀行の保有資産総額に占める不良資産額
 
第1-1-1-26図 主な先進国における企業倒産件数の推移
第1-1-1-26図 主な先進国における企業倒産件数の推移
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 金融機関の不良資産の大量蓄積(バランスシート悪化)に伴う信用収縮は、実体経済に悪影響を及ぼすとともに、今後新たなショックが生じた場合、さらなる危機を招きかねない。
 米国では、住宅ローン及び商業用不動産ローンの延滞率が上昇している (第1-1-1-27図)。商業用不動産ローンの規模は、貸出規模が3.4兆ドルとサブプライムローンの1.3兆ドルと比較して大きな額となっている。商業用不動産ローンは、地方銀行が直接実施する割合が高い21。このため、不良債権化した場合、地方銀行の財務体質に大きなマイナスの影響を及ぼすと想定される22。実際、リーマンショック直前の2008年7月頃から、米国内の地方銀行の破綻件数が急増しており、2009年だけで、140行が破綻している(第1-1-1-28図)。2010年に入っても地方銀行の破綻ペースは加速しており、1-4月の倒産件数は50件と、前年1-4月の倒産件数(29件)を上回っている。地方銀行の破綻件数急増により、融資を受ける中小企業や、地方経済への深刻な影響が懸念される23

21 金融機関の全ローンに占める商業用不動産ローンの割合について、貸出規模10億ドル未満の金融機関の全ローンでは約3割と、貸出規模10億ドル以上の金融機関の割合(約1割)と比較しても高い。
22 米国の規模別銀行数は、資産規模10億ドル以上が424行、1億ドル以上が3,434行、1億ドル未満が3,912行であり、数からいえば中小銀行が圧倒的多数である。なお、地銀の多くは中小銀行である。
23 不良資産救済プログラム(TARP)委員会(2010)「FEBRUARY OVERSIGHT REPORT」では、商業用不動産市場が2007年初めからこれまでに大幅に悪化しており、今後数年間で予想される商業用不動産ローンのデフォルトの著しい増加が、多くの銀行、特に中小銀行の安定性を脅かすとしている。また、個々の銀行にとどまらず銀行全体の脆弱な状態が長引くことを憂慮している、との見解を示している。
 
第1-1-1-27図 米国における住宅ローン及び商業用不動産ローンの延滞率の推移
第1-1-1-27図 米国における住宅ローン及び商業用不動産ローンの延滞率の推移
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第1-1-1-28図 米国における地方銀行の倒産件数の推移
第1-1-1-28図 米国における地方銀行の倒産件数の推移
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リスク要因〔3〕:景気対策と拡大する財政赤字のジレンマ
 世界経済危機に対応するため、多くの国々で巨額の経済対策が講じられ、財政赤字が拡大した(第1-1-1-29図)。主要先進国や中東欧、PIIGSといわれる南欧諸国等(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)では財政赤字が積み上がっている24(第1-1-1-30表)。

24 ユーロ圏では、全加盟国の金融政策はECB(欧州中央銀行)に一元化されている。このため、各国が独自の判断で利下げや通貨切り下げなどの景気刺激策をとることはできない。この結果、相対的に経済力が弱い加盟国は、景気回復を財政政策(財政拡大)に頼るしかなく、財政の健全性が損なわれやすい、という背景がある。
 
第1-1-1-29図 主要先進国の財政赤字の推移
第1-1-1-29図 主要先進国の財政赤字の推移
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第1-1-1-30表 財政赤字の対GDP比の国際比較
第1-1-1-30表 財政赤字の対GDP比の国際比較

 中東欧や南欧諸国等では、ギリシャの財政危機を発端に、ソブリンデフォルト(国家の財政破綻)に対する懸念が深刻化している。国債のCDSスプレッドは先進国に比べて大きく上昇しており(第1-1-1-31図)、懸念がギリシャのみにとどまらない状況が伺える。今後、これらの国々から投資家が資金を引揚げるようなことになれば、長期金利が急騰し、当該国の経済は深刻な打撃を被るおそれがある。その場合、これまで当該国の政府や民間部門に資金を提供してきた海外の企業や金融機関も大きな影響を受けることとなる。
 
第1-1-1-31図 各国の国債のCDSスプレッドの推移
第1-1-1-31図 各国の国債のCDSスプレッドの推移
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 一方、主要先進国をみると、国債のCDSスプレッドは安定した動きを示している。ただし、今後の高い経済成長は見込みにくい状況下、景気が一段と悪化すれば、財政赤字の一層の拡大につながるおそれがある。こうした財政状況に対する投資家の懸念が現実のものとなった場合、当該先進国の国債に対する信認が低下し、国債価格急落(金利高騰)、ひいては通貨急落が生じかねない。これらは、先進国のみならず、回復軌道に戻りつつある世界経済にとって、景気を再び悪化させるリスク要因となる。
 このように、財政赤字の更なる拡大は、回復し始めた世界経済の成長を妨げるリスク要因となり得る(コラム3、4参照)。その一方で、ソブリンデフォルトを回避しようとして歳出を抑制すれば、景気が下押しされるリスクもある25

25 前掲、IMF(2010a).


コラム3

債務残高の水準とGDP成長率及びインフレ率との関係について

 カーマン・ラインハート・メリーランド大学教授、ケネス・ロゴフ・ハーバード大学教授26による「Growth in a Time of Debt」27では、44か国の約200年間のデータを用いて、政府債務残高(中央政府のみ)の水準と実質GDP成長率及びインフレ率との関係について実証分析を行っている。

26 国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミスト。
27 Carmen M. Reinhart & Kenneth S. Rogoff (2010), “Growth in a Time of Debt”.

 彼らの分析結果によれば、〔1〕政府債務残高対GDP比が90%未満の場合には、政府債務と実質GDP成長率の関係は弱いが、政府債務残高対GDP比が90%以上の場合には、実質GDP成長率の中央値は90%未満の場合と比較して約1%低くなり、平均値では更に低くなる。この関係は、先進国と新興国に共通している。〔2〕先進国では政府債務の水準とインフレ率との間に明確な関係はないが、新興国では債務が増加するほどインフレ率が高くなる(コラム第3-1図)。
 
コラム第3-1図 政府債務残高(中央政府のみ)の水準と実質GDP成長率及びインフレ率との関係
コラム第3-1図 政府債務残高(中央政府のみ)の水準と実質GDP成長率及びインフレ率との関係
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コラム4

ギリシャ債務問題について

〈新政権による統計修正で表面化した財政問題への懸念〉
 2009年10月、ギリシャ新政権は、前政権下の財政統計に誤りがあったことを公表した。EUの安定成長協定は、単年度の財政赤字を対GDP比3%以下、政府債務残高(一般政府)を対GDP比60%以下と定めているが、対GDP比2.75%とされていたギリシャの2008年の財政赤字は7.75%に訂正され、ギリシャがデフォルト(債務不履行)に陥る懸念が表面化し、株価・ユーロの下落等が発生した。

〈ギリシャ政府の財政健全化に向けた対応〉
 2010年1月14日、ギリシャ政府は、年金給付1割カット、増税等を内容とする「安定成長計画」を発表し、財政赤字対GDP比を2010年に8.7%、2012年に2.8%に抑えると表明した28。また同3月3日、ギリシャ政府は総額48億ユーロ(GDPの2%相当)の追加的な財政再建策を発表した。

28 2010年2月10日、財政緊縮策に抗議し公務員労働組合がストライキを実施。学校、官公庁、鉄道などが休止を余儀なくされた。


〈ユーロ加盟国とIMFのギリシャ向け協調融資決定〉
 同3月25日、ユーロ圏首脳会合において、IMFとユーロ加盟国による協調した2国間融資を行う準備があるとの声明が発表された。2国間融資はユーロ加盟国の全会一致で決定され、融資する際の金利の面で優遇等はしないとされている。

〈支援策決定でも収まらない市場の不安〉
 ギリシャ支援の基本方針が決定されても、支援策の実効性等に対する懸念から市場不安は収まらず、同4月9日、格付け会社フィッチレーティングがギリシャ国債の格付けを2段階引き下げた(BBB+からBBB-へ)。また、ギリシャの4大銀行が国内短期金融市場からの融資を受けられず政府に救済を求めたことが市場に影響し、加えてギリシャの深刻な財政赤字が更に悪化することへの懸念から、ギリシャ株価はさらに下落した。

〈ユーロ圏首脳による緊急電話会議で具体的支援策決定〉
 こうした状況を受けて、2010年4月11日、ユーロ圏財務相がギリシャ支援に関する緊急電話会議を行い、融資期間を3年とした上で、IMFと共同融資を行うための共同計画の必要資金をカバーするため、初年に最大300億ユーロの融資を行うことで合意した。貸出金利は欧州銀行間取引金利(EURIBOR)を基準とする約5%としている。なお、翌年度以降の支援については、共同計画の合意によって決定するものとされた。

〈さらなる統計修正と国債格下げ〉
 同4月22日、EUが、ギリシャの統計を精査した結果、2009年の財政赤字額を12.7%から13.6%に修正した。こうしたことも受けてギリシャ国債とユーロが下落し、対ドルで約1年ぶりの安値水準である1ユーロ=1.33ドル前後を記録した。また同日(2010年4月22日)、格付け会社のムーディーズが、ギリシャの資金調達コストが高水準にとどまる可能性があること等を理由にギリシャ国債の格付けをA2からA3に1段階引き下げたことで、市場の懸念が拡大した。

〈ユーロ加盟国とIMFがギリシャ支援を決定〉
 こうした中、ギリシャは同4月23日、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)及びIMFに対し、正式に支援要請を行った。ギリシャ政府は同5月2日に欧州委員会、ECB、IMFとの支援協議を終え、付加価値税等の増税、公務員給与削減、年季制度改革等を通じた来年度以降の財政構造改革プログラムを発表し、3年間で(2013年末まで)総額300億ユーロ(対GDP比11%)の財政赤字を削減し、2014年末までに財政赤字を対GDP比3%以下に抑えるとした。それを受けてユーログループは、ギリシャに対して2010〜12年の3年間で総額1,100億ユーロの支援を行うことを決定し、800億ユーロはユーロ加盟国が2国間融資で(うち初年に300億ユーロ)、300億ユーロはIMFが出資(うち初年に100億ユーロ)するものとした。この支援策は同5月7日にユーロ圏緊急首脳会合で、5月9日にIMF理事会でそれぞれ承認された。これにより、ギリシャはユーロ加盟国より145億ユーロ、IMFより55億ユーロの融資を受け、5月19日が返済期限のギリシャ国債(85億ユーロ)を償還した。
 なお、ECBは同5月3日、資金供給オペの適格担保基準からギリシャ国債を適用除外するとし、ギリシャの銀行の資金繰りを支援することを発表した29

29 4月27日に格付け会社S & Pがギリシャ国債を、ECBの適用担保基準BBB−を下回るBB+にBBB+から3段階引き下げていた。


〈ユーロ信認に関するEUの対応〉
 2010年5月7日に開催されたユーロ圏首脳会合において、ユーロ圏内の全機関(閣僚理事会、欧州委員会、ECB)及び加盟国は、ユーロ圏内の安定を確保するために実行可能なあらゆる対策を講じることで合意した。また、同5月9日にはEUの緊急財務相理事会が開催され、欧州の金融安定保全のための包括的な対策パッケージが合意された。この対策には、ユーロ加盟国に対する最大で5,000億ユーロの資金支援枠である「欧州安定化メカニズム」が含まれる。また、IMFもこの支援策に参画し、「欧州安定化メカニズム」の半額相当(2,500億ユーロ)を供給するとされている。欧州安定化メカニズムは、欧州委員会がEU予算を担保に市場から調達する600億ユーロ及びユーロ加盟国からの最大4,400億ユーロによる支援(保証)から成る。
 また、同5月10日、ECBは流動性確保による金利上昇を防ぎ、金融市場の安定化を図るため、ユーロ圏の政府債や民間債券の購入、ユーロ資金供給、FRBとの時限的なドルスワップ協定の再開を実施すると発表した。
 同5月12日には、欧州委員会でEU加盟国予算案の事前評価を含む財政危機再発防止策が提案され、安定成長協定に基づくユーロの信認維持を目指す姿勢を強調した。

〈ユーロ圏の今後の課題〉
 ギリシャについては、国内においても給与削減や年金減額等により社会不安が広がっている状況であり、引き続き注視が必要であるが、ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン等、いわゆる“PIIGS”と呼ばれる巨額の財政赤字を抱える国々において同様の問題が発生するリスクにも留意する必要がある。例えば、ポルトガルはギリシャと似て、対外純債務も公的債務残高も対GDP比で高くなっており、厳しい状況であると言えるだろう。
 
コラム第4-1図 欧州諸国の対外純債務残高と政府債務残高(一般政府)の対GDP比
コラム第4-1図 欧州諸国の対外純債務残高と政府債務残高(一般政府)の対GDP比


 また、ユーロ圏においては、ECBが一元的に金融政策を行う一方、財政政策は基本的にユーロ加盟国の主権に委ねられている状況の中、ユーロ加盟国においてデフォルト懸念が発生した場合等の対応策の確保がユーロ圏の課題として再認識された。

リスク要因〔4〕:新興国バブルの崩壊の懸念
 世界経済危機によって、新興国市場への資金流入は一時的に大きく落ち込んだが、2009年に入ると、再び増加している。特に、順調な景気回復を背景に、アジアへの資金流入の増加が際立っており、ほぼ金融危機前のピークの水準まで回復している(第1-1-1-32図)。
 
第1-1-1-32図 新興国への資金流入の地域別内訳
第1-1-1-32図 新興国への資金流入の地域別内訳
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 2008年と2009年の資金流出入をみると、インドでは150億ドル(2008年)の流出超から211億ドル(2009年)の流入超へ、ブラジルは11億ドル(2008年)の流入超から491億ドル(2009年)流入超へと一変した(第1-1-1-33図)。
 
第1-1-1-33図 新興国への証券投資の資金流入
第1-1-1-33図 新興国への証券投資の資金流入
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 新興国への資金流入の背景として、先進国では、景気回復の遅れにより低金利政策の長期化が予測されたこと、一方、新興国では景気の急速な回復による金利引き上げ、為替上昇が期待されたことがある。また、2008年9月の米国大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻以降、投資家のリスク選好が急速に回復したこと、各国の金融緩和による潤沢な資金供給から生じた余剰資金=リーケージ(漏れ)が投資先を求めて新興国に大量に流入していることといった要素が考えられる。
 またIMFによれば、当初(2009年第2四半期)は、投資家のリスク選好の回復に基づき、利回りを求めて新興国への資金シフトが発生したと考えられるが、この後の新興国への流入持続は、アジアと中南米の成長見通しの好転、為替上昇への期待等によるとみられている30

30 IMF(2010b), Global Financial Stability Report 2010 April.

 新興国への大量の資金流入がもたらす流動性の増大は、当該国において、資産価格(株価、不動産価格)の大幅な上昇、いわゆるバブルをもたらす懸念がある。IMFによれば、資産価格の上昇は、広範で過剰なものとは言えないが、一部の国で上昇圧力が高まっている。特に、不動産価格は、一部地域において限定的に上昇が見られる、と指摘されている31。例えば、豪州や香港、ソウルはいずれも世界経済危機前を上回る水準で上昇している。特に、香港では、各国における景気刺激策によって生じた余剰資金の流入等を背景に、高級住宅物件を中心とした上昇が著しい(第1-1-1-34図)。

31 同上.
 
第1-1-1-34図 新興国・資源国における住宅価格
第1-1-1-34図 新興国・資源国における住宅価格
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 なお、中国の不動産価格をみると、2007年後半以降、下落が続き32、2008年後半には前年比マイナスとなった。その後、世界経済危機による景気低迷を受けて、2008年11月に中国政府が「適度に緩和した金融政策」に転換する方針を表明すると、不動産価格は急速に回復した。2010年3月には、全国70都市をはじめ、北京、上海、広州、深せんなど東部において、前年同月比で10%を越える上昇となった。特に、深せんは20%を越える上昇率を示し、中部や西部などの内陸部も含めて不動産市場の全国規模での過熱を指摘する声が多い。こうした過熱感の高まりの要因として、海外からの資金流入が存在すると考えられている33。一方、中国の不動産価格上昇は一服した、との見方もあり34、足元では、深せん、広州の伸び率は減少している。(第1-1-1-35図)。

32 背景として、中国政府が、不動産価格の上昇抑制のため、銀行の貸し出し規制等、金融引締め策を講じたことが挙げられる。
33 日本銀行(2010b)「最近における中国の不動産価格の上昇について」(『日銀レビュー』)によれば、「当局の監視の外にある海外からの投機資金が、様々な形で、資本規制の抜け道を通って、中国国内に「ホット・マネー(熱銭)」と呼ばれる短期資金として流入していると言われる」としている。また、不動産価格の高騰の第一の要因として、地方政府の不動産開発に対するインセンティブの強さを挙げている。すなわち、地方政府は、財源不足を解消するために、農民等の土地を従来の使用価値に近い価格で収用して不動産ディベロッパーや自ら出資した「融資平台」と呼ばれる投融資企業に高値で譲渡する、という方法で収入を得ている。このため、地方政府は不動産ディベロッパーによる積極的な不動産開発や、地方商業銀行による不動産融資を奨励するインセンティブを持つ、と指摘している。
34 中国国家発展改革委員会は2010年5月19日、中国の不動産価格は4月半ばごろから上昇が止まり、取引件数も減少しているとの見方を示した。
 
第1-1-1-35図 中国の不動産価格上昇
第1-1-1-35図 中国の不動産価格上昇
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 新興国への資金流入は株価にも影響し、その上昇をけん引してきたと考えられている35。その結果、例えば中国や固定相場制を採用している香港、管理フロート制を採用しているシンガポールでは、世界経済危機による株価の大幅な落ち込みが急速に回復し、2009年春頃から上昇が続いた。一方、2010年に入ると、中国の預金準備率引き上げが金融引き締め策への警戒感をもたらした。加えて、中国における不動産への投機抑制政策の発表36は、不動産関連の株価に影響を与えた。こうした背景から37、アジア新興国の株価は一進一退での推移となり、2010年5月末の時点では下落基調を示している(第1-1-1-36図)。

35 前掲、日本銀行(2010a)。
36 内閣府(2010)「月例経済報告等に関する関係閣僚会議資料」(平成22年5月24日)によれば、2009年12月以降、中国政府は相次いで不動産関連引締め策を打ち出した。また、2010年4月17日には、以下の住宅向け貸出抑制策を発表した。
   ・1軒目の住宅を購入する際の貸出頭金比率を30%以上とする。
   ・2軒目を購入する際の頭金比率は50%以上、貸出金利は基準金利の1.1倍以上とする。
   ・3軒目以上の住宅を購入する際の頭金比率と貸出金利は大幅に引き上げる。
   ・住宅価格が高騰し、供給が逼迫している地域では、3軒目以上の住宅購入資金の貸付けを一時中止できる。
   ・当該地域に1年以上居住した証明がない者への住宅購入資金の貸付けを一時中止できる。
37 この他に、米国の金融規制案、欧州の財政問題等の影響が挙げられる。
 
第1-1-1-36図 新興国株価の推移
第1-1-1-36図 新興国株価の推移
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 海外からの投機的な資金流入による新興国の資産価格の高騰は、当該国の景気を大幅に変動させかねない38。世界経済回復のエンジンである新興国においてバブルが崩壊した場合、回復に向かい始めた世界経済を再び悪化させるリスク要因となる。

38 前掲、日本銀行(2010b)によれば、新興国への資金流入の強まりは、資本市場における企業の資金調達環境の改善や資産価格の上昇による資産効果を経由して、内需を後押しし成長を促進させるという側面を持つ一方、国際資金流入の増加が継続すると、こうした国々の拡張的な金融財政政策と相俟って、景気の過熱や資産価格の高騰をもたらす結果、その後の景気の落ち込みを招くリスクがある、としている。


コラム5

キャリートレードの発生と新興国の投資ブーム

 投資家のリスク選好の回復により、先進国の低金利通貨で資金調達し、新興国や資源国の高金利通貨に投資するキャリートレードが増加していると指摘されている39

39 前掲、日本銀行(2010a)。藤原裕之(2010)「新興国への資金流入と出口戦略の行方」(『金融経済レポート』日本リサーチ総合研究所)。

 キャリートレード全体の市場規模を把握することは難しく、新興国への資金流入のうち、どれだけがキャリートレードを伴ったものであるかは慎重に判断する必要がある、と言われている40。市場では資金移動を伴わない通貨先物を利用して、「低金利通貨をショート(下落すると予想した場合に売建て)し、高金利通貨をロング(上昇すると予想した場合に先物を買建て)する」取引もキャリートレードと称するのが一般的である41。このため、シカゴ商業取引所における非商業投資家(投機筋の投資家)のIMM通貨先物42ポジションをみることで、キャリートレードのおよその動きがわかると考えられている。

40 同上
41 塩沢裕之・古賀麻衣子・木村武(2009)「キャリートレードと為替レート変動」(『日銀レビュー』)。
42 IMM通貨先物とは、シカゴマーカンタイル取引所の国際金融先物市場(IMM)で積み上げられているポジションの動向。アメリカの商品先物取引委員会が一週間おきに発表。各通貨について、ロングポジションとショートポジションのどちらが多いかを一目で確認できる。

 コラム第1-5図は、世界経済危機の前後でのIMM通貨先物ポジションの変化と新興国の通貨の米ドル為替レートの変化を比較している。2008年秋のリーマンブラザーズの破綻によって、ほぼ全ての高金利通貨から資金が引揚げられた。その後、2009年春頃から再び、ドルを資金調達通貨とした豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドル、メキシコペソのドルキャリートレードが活発化し、同年秋には、リーマンブラザーズ破綻前の水準まで回復した。
 2010年に入って、ギリシャ財政問題への懸念から投資家のリスク選好の後退が見られたものの、キャリートレードは、2010年4月時点でリーマンブラザーズ破綻前の2倍程度に達する勢いで伸びている。こうしたドルキャリートレードの活発化は新興国や資源国の通貨高を招く。このため、新興国の通貨当局は、通貨市場にて自国通貨を売り、増加した通貨供給量を回収せず、そのままにしておくという「非不胎化介入」を実施し、自国通貨の増価を抑制しようとする。その結果、マネーサプライが急増し、資産バブルの可能性を高める一因となっている、との懸念がある43

43 前掲、藤原裕之(2010)。

 
コラム第5-1図 IMM非商業投資家の通貨ネットポジション
コラム第5-1図 IMM非商業投資家の通貨ネットポジション
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リスク要因〔5〕:資源・食料価格の乱高下
 石油、石炭、鉱物資源などの資源価格や穀物を中心とする農産物価格は、ここ10年間、上昇基調にあり、かつ乱高下が生じやすくなっている(第1-1-1-37図 資源、食料)。この背景の一つとして44、新興国における資源・食料の需給逼迫という点が挙げられる45

44 板垣啓四郎(2008年7月)『なぜ高騰する食料価格:食料価格はどうやって決まるのか』(東京農業大学)によれば、その他の要因としては、原油生産・供給余力の低下、産油国の政情不安、原油価格高騰による農業コストの上昇、異常気象による農産物の減収、世界人口の増加、新興国での食料需要の急増などが挙げられる。
45 市場における過度な価格変動がどのように生じているのかは、必ずしも明らかになっていない。このため、各国の関係当局が市場の透明性と公正な価格形成機能等を向上させ、価格の過剰な変動に対応する国際的な取組が行われているところである。具体的には、JODI(石油データ共同イニシアティブ)の整備について国際的な働きかけを行うなど産油国と消費国との間の対話を促進する他、商品取引所及び商品取引所外の店頭取引(OTC取引)における相場操縦行為等の不公正取引の監視強化や透明性向上のために、各国規制当局や証券監督者国際機構(IOSCO)との連携を図っている。また、中長期的には我が国の先物市場の強化により、市場参加者の多様化及び取引規模拡大を図っている。
 
第1-1-1-37図 資源および食料価格の動向
第1-1-1-37図 資源および食料価格の動向
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 すなわち、新興国では今後の経済成長に伴い、エネルギー需要の拡大が見込まれる。また、エネルギー効率は一般的に先進国よりも低く(第1-1-1-38図)、世界の原油消費量に占める新興国の割合は非常に大きい(第1-1-1-39図)。このため、新興国における原油消費量の拡大は、需給逼迫への懸念、原油価格の上昇の要因となっている46。こうした資源、食料価格の先高観により、金融市場から商品市場に資金が流入し、価格の変動幅が拡大して、乱高下が生じやすくなる。

46 日本銀行(2009)「近年の原油価格の変動要因について」(『日銀レビュー』)。
 
第1-1-1-38図 各国のGDPあたりの一次エネルギー消費量
第1-1-1-38図 各国のGDPあたりの一次エネルギー消費量
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第1-1-1-39図 先進国と新興国の原油消費量
第1-1-1-39図 先進国と新興国の原油消費量
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 食料についても、新興国の高い経済成長を前提に、世界の食料需給の逼迫47と、価格高騰48が見込まれている。背景には、人口の増加、所得上昇に伴う需要増加、バイオ燃料原材料用の農産物の需要増大等がある。食料価格の高騰は、異常気象による洪水や干ばつ等自然災害や紛争などとともに、飢餓の問題を深刻化させる大きな要因となる。特に貧困層の生活を直撃し、深刻な問題を引き起こすことが懸念されている49

47 農林水産政策研究所(2010)「平成21年度2019年における世界の食料需給見通し」。
48 樋口修(2008)「穀物価格の高騰と国際食料需給」(国立国会図書館ISSUE BRIEF NUMBER 617(2008.6.10.)、国立国会図書館農林環境調査室)によれば、価格高騰の背景として、〔1〕異常気象による減収、〔2〕世界の人口増加、〔3〕新興国での食料需要の増加、〔4〕バイオエタノール原料向け需要の急増、〔5〕巨額の投機資金の商品市場への流入を挙げている。
49 同上によれば、食料価格の高騰は、特にサハラ砂漠以南のアフリカにとって、異常気象による洪水や干ばつなどの自然災害、紛争、慢性的な貧困、経済の低迷に加えて、飢餓を悪化させる切迫した問題である。更に、今回の食料価格の高騰は、生活費の6〜8割を食費に使うとされる、途上国の貧困層を直撃し、これまで食料支援が不要であった貧困層や都市部の住民を、新たに支援対象に組み入れることとなった。

 加えて、金融市場からの資金流入も、商品市場における価格の乱高下や上昇の要因の一つとの見方がある50

50 経済産業省(2009)『エネルギー白書』。前掲、樋口(2008)は、食料価格の高騰の要因の一つとして、巨額の投機資金の商品市場への流入を挙げ、2007年のサブプライムローン問題を契機に、住宅ローン関連に投資してきた世界中の投機資金がドル資産を離れて商品市場に流入したとし、ヘッジファンドや年金基金による商品市場への積極的な参入が、構造的な食料ひっ迫要因に加えて、エネルギー・穀物価格を一層高騰させる、と述べている。

 すなわち、世界経済危機によって引き起こされた信用不安により、金融機関は現金調達が困難となったため、商品市場での運用を引き揚げた。この結果、世界経済危機直後は資源・食料などの価格が急落したものの、その後、流動性資金が世界的に潤沢である状況が、資源、食料など商品市場への投資ブームを招いた51。この結果、金融市場から流れ込む資金により、価格は再び急上昇するとともに、乱高下が激しくなっている。例えば、国際原油価格については、危機直後に急落した後、再び上昇している。中長期的にみても、1970年代のオイルショック以降、国際原油価格の乱高下が認められる(第1-1-1-40図)。また、2007年1月には、ブッシュ大統領によるバイオエタノール政策を契機に、中国の急速な肉類の消費拡大と飼料需要の増加、異常気象による作況不安等を背景として、トウモロコシ価格の需給逼迫を見込んだ投機筋による先物買いが大量に行われた、との指摘もある52

51 World Bank (2010), Global Economic Prospects 2010によれば、商品市場への投資が増加すれば、更なる価格乱高下を招く、との懸念が示されている。
52 前掲、板垣(2008)。前掲、農林水産政策研究所(2010年)。前掲、樋口(2008年)。United Nation(2010),World Economic Situation and Prospects 2010, World Bank (2010), Global Economic Prospects 2010.

 
第1-1-1-40図 国際原油価格の推移(名目・実質の比較)
第1-1-1-40図 国際原油価格の推移(名目・実質の比較)
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 価格動向については様々な見方があり、必ずしも、新興国における需要逼迫への懸念や金融市場からの資金の流入のみが、原因であるとは言えない状況であるが、資源・食料価格は乱高下し、かつ上昇傾向にある。
 なお、商品価格に大きな影響を与える動きとして、米国における“シェールガス”53の大増産が挙げられる。これによって、米国の天然ガスへの輸入依存度が大幅に低下した結果、ガス需給見通しは大きく変化し54、米国やカナダのLNG輸入価格を押し下げることになった55。また、従来の米国向けLNG(液化天然ガス)は大半が必要なくなり、LNGのスポット価格56は押し下げられ、それが欧州市場に流れ込んだ。この結果、これまで欧州に天然ガスを輸出してきたロシアのガスプロムでは、西欧向け輸出が大きく減少した。このように、世界の天然ガス(LNG)の流れは、「シェールガス革命」と呼ばれるほど大きく変わりつつある(第3章コラム44「米国シェールガスのインパクト」参照)57

53 非在来型天然ガス。泥土が堆積して固まった岩の層に閉じ込められている。採掘が難しく長らく放置されてきたが、掘削技術の確立により、ここ数年で開発投資が増えた。
54 米国エネルギー省の長期エネルギー見通しにおける輸入依存度の試算は、2004年版では2025年について28%だったが、09年版では2030年について3%と激減している。
55 伊原賢(2010)「シェールガスの広がり」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)によれば、シェールガスを含む非在来型ガスによる国内ガスの生産堅調増や可採埋蔵量増が見られれば、ガス価は長期に下がる傾向をとる。しかし在来型ガス田(South Texas, ワイオミング州のPinedale/JonahやPowder River, East Texas, North Louisiana)の生産減退もあり、合計すると2035年までは年21Tcf(60Bcf/d)前後で推移すると見られる。米国内のガス価格について、従って、下げの圧力はかかりにくい、との見方である。
56 長期契約によるのではなく、一回ごとの契約で取引される場合に成立する市場価格。
57 前掲、伊原(2010)。

 資源・食料は、世界の経済成長を支える重要な要素である。これらの価格の乱高下は、回復途上にある経済を下押しするリスクとなりかねない。

コラム6

世界規模での食料需給バランスの不均衡

 国連食糧農業機関(FAO)によれば、穀物需給バランスについては、途上国では恒常的に供給が不足しており、食料不足は拡大する見込みである。これに対して、先進国では生産が消費を上回り、余剰が拡大することが見込まれる(コラム第6-1図)58。また、人口が増加するアジアやアフリカにおいて、穀物の消費量の増加に国内生産量の増加が追いつかず、この不足分を、米国をはじめとする先進国の輸出によって賄うと見ている。

58 FAO (2006), World Ariculture toward 2030/2050.
 
コラム第6-1図 先進国、途上国の穀物需給バランスの将来推計
コラム第6-1図 先進国、途上国の穀物需給バランスの将来推計
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 また農林水産省によれば、今後、途上国の経済成長は引き続き高い水準で推移することが予測されている。人口の増加、所得の向上、バイオ燃料の拡大などによって農産物の需要が増大し、穀物等の需給がひっ迫した状態が継続する見込みである。また、穀物貿易の偏在化の傾向は引き続き以下のとおり拡大するとの見方である(コラム第6-2図)59

59 前掲、農林水産政策研究所(2010)、FAO(2009)[特集:食料価格の上昇と食料安全保障 その脅威と機会](FAOニュース「世界の農林水産 No.814」(spring 2009))。United Nation(2010),World Economic Situation and Prospects 2010.前掲、板垣(2008)。
 
コラム第6-2図 世界における食料自給の見通し
コラム第6-2図 世界における食料自給の見通し


 〔1〕アジア、アフリカ、中東では消費の伸びに生産が追いつかず、純輸入量が拡大する。
 〔2〕欧州、オセアニアが純輸出量を拡大させ、〔1〕の純輸入量の拡大に対応する。
 〔3〕北米の純輸出量は引き続き減少する一方、純輸入地域の中南米は純輸出地域へ転換する。
 今後、先進国の余剰分を、途上国に融通することで、世界全体の食料需給バランスの改善が図られる。また、供給面が多様化することにより、天候不順等の供給面のリスクも分散される。従って、今後、先進国・途上国間における穀物等の輸出入が促進されることが期待される。

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