第1章
 転換期にあるグローバル経済の現状と今後
第2節
 主要国・地域の現状と今後


3 中国経済
(1)中国経済概況
 中国経済は、世界経済危機以降強化した政策対応(景気刺激策・金融緩和)、堅調な内需等により、2009年のGDP成長率は8.7%、2010年第1四半期は11.9%となるなど、高成長を維持している。2010年の中国のGDP規模は通年で10%台の成長率となり日本を上回ると予想されている。

(資本形成の拡大と、危機後も堅調な個人消費)
 2009年のGDPの推移を需要項目別に見ると、固定資本形成の拡大に加え、個人消費も堅調に伸びている(第1-2-3-1図)。また、輸入は2009年11月に、輸出は同12月に、プラスに転じ、2010年3月には、輸入が輸出を上回ったが、単月の貿易収支が赤字となるのは2004年4月以来、約6年ぶりである(第1-2-3-2図)。しかしながら、貿易収支は4月に再び黒字に転じ、5月は黒字幅が大幅に拡大した。
 
第1-2-3-1図 中国の実質GDP成長率と需要項目別寄与度
第1-2-3-1図 中国の実質GDP成長率と需要項目別寄与度
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-2図 中国貿易収支の推移
第1-2-3-2図 中国貿易収支の推移
Excel形式のファイルはこちら


テキスト形式のファイルはこちら


(2)経済対策
 こうした景気回復は、世界経済危機後に講じられた経済対策による影響が大きい。政府は、経済成長維持のための政策対応を2008年8月以降強化し、鉄道・道路・空港・電力等のインフラ整備を中心とする「4兆元」内需拡大策を講じた(第1-2-3-3表)。「4兆元」内需拡大策とは別に個人消費拡大に向けた対策としては、農村部の消費者が家電を購入した際に13%の補助金を支払う「家電下郷」、家電を買い換えると補助金を支給する「以旧換新」、農村部の住民がオート三輪や旧式トラックを廃車にして自動車に買い換える際に補助を出す「汽車下郷」、省エネ型製品への買い換え補助等を実施した(第1-2-3-4表)。その結果、家電や自動車において消費が増えていることが伺える(第1-2-3-5図、第1-2-3-6図)。なお、「汽車下郷」の減税対象ではない1600cc超の乗用車についても販売台数が増えていることから、消費市場の裾野の拡大がみられる。
 
第1-2-3-3表 中国の経済対策一覧
第1-2-3-3表 中国の経済対策一覧
 
第1-2-3-4表 中国:消費拡大のための政策対応
第1-2-3-4表 中国:消費拡大のための政策対応
 
第1-2-3-5図 中国:「家電下郷」による月別売上
第1-2-3-5図 中国:「家電下郷」による月別売上
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-6図 中国:乗用車の販売台数推移
第1-2-3-6図 中国:乗用車の販売台数推移
Excel形式のファイルはこちら


(インフラ建設の急増と不動産投資の回復)
 成長の牽引役である固定資産投資の内訳をみると、景気対策として行ったインフラ建設(鉄道、道路、港湾等)の急増と不動産投資の回復がみて取れる(第1-2-3-7図)。また、工業付加価値生産額をみると、インフラ建設に用いられる原材料や、自動車(輸送機器)等での回復が顕著となった(第1-2-3-8図)。
 
第1-2-3-7図 中国の固定資産投資の伸び率と産業別固定資産投資額の寄与度
第1-2-3-7図 中国の固定資産投資の伸び率と産業別固定資産投資額の寄与度
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-8図 中国の工業付加価値生産額
第1-2-3-8図 中国の工業付加価値生産額
Excel形式のファイルはこちら


(輸入増により貿易黒字が減少)
 貿易面では、輸出入量は回復している。2009年の貿易黒字は、輸入増もあり1960億ドルと、前年比−34.1%と大幅に減少した(第1-2-3-2図)。輸出先としては、最終製品を欧米先進国向けのシェアが高く(第1-2-3-9図)、最終財の割合が多くなっている(詳細2章にて後述)。
 
第1-2-3-9図 中国の輸出先の推移(実額)
第1-2-3-9図 中国の輸出先の推移(実額)
Excel形式のファイルはこちら


(管理強化を進める株式・不動産市場)
 不動産市場については、経済対策の実施により回復したが、一部では価格が急騰し、過熱気味とも指摘されている65。住宅価格、住宅販売面積ともに、2008年は上昇率が下がったものの、2009年は高い伸び率となった(第1-2-3-10図、第1-2-3-11図)。この背景には、底値買いのほか、大幅な金融緩和や株価回復(第1-2-3-12図)を背景とした資金流動性の高まりがあると考えられる。この状況について、当局は、株式・不動産市場過熱のリスクを警戒し、予防的措置に着手している(第1-2-3-13表)。人民銀行は2009年7月から中銀手形発行による流動性吸収を強化するなど金融政策の微調整を実施している。また、銀行業監督管理委員会は貸出リスクの管理強化を強調する文書を同年7月末に発表したほか、地方政府によるインフラ建設向け貸出しのリスクについても銀行に対し警告、与信管理強化を促した66

65 国際通貨基金(IMF)は、韓国、中国、インドなどアジア新興諸国の不動産市場でバブルの危険性が徐々に高まっている、と警告した。IMFは「特に中国のように通貨が低く評価されている国の場合、外国資本が通貨の上昇を見込んで巨額の投資を行い、その影響で市場の流動性が大きく膨らんで不動産バブルを引き起こす可能性がある」と警告した。
66 経済観察報2009年7月25日「警示地方融資風険」。
 
第1-2-3-10図 中国の主要70都市新築住宅価格の推移(前年同月比)
第1-2-3-10図 中国の主要70都市新築住宅価格の推移(前年同月比)
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-11図 中国の住宅販売面積の推移と伸び率
第1-2-3-11図 中国の住宅販売面積の推移と伸び率
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-12図 主要株価指数の推移(再掲)
第1-2-3-12図 主要株価指数の推移(再掲)
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-13表 中国の資産バブル・経済過熱防止のための政策対応
第1-2-3-13表 中国の資産バブル・経済過熱防止のための政策対応


テキスト形式のファイルはこちら


(3)模索される成長路線の転換
 これら財政政策と金融緩和策の政策対応の効果等から、中国経済は2009年第1四半期を底に回復を遂げているが、他方でその持続可能性については懸念が指摘されている。
 中国における固定資本形成、家計消費、輸出の対GDP比を米国、日本と比べてみると、固定資本形成と輸出は日本、米国と比べても高く、消費については低いことがみて取れる(第1-2-3-14図)。
 
第1-2-3-14図 中国、日本、米国における固定資本形成、家計消費、輸出の対名目GDP比
第1-2-3-14図 中国、日本、米国における固定資本形成、家計消費、輸出の対名目GDP比
Excel形式のファイルはこちら

 長期にわたる輸出・投資依存型の経済成長による消費の伸び鈍化や、都市と農村間の格差が大きな問題となっており、中国政府もこの成長路線からの転換をはかろうとしている。政府の活動方針等が示される全国人民代表大会(全人代)等では、中国経済の持続的な成長のために投資、消費、純輸出のバランスの取れた需要構造の実現が必要であると指摘されている。
 中国では、5年単位で経済計画が策定されており、2010年は、第11次5カ年計画(2006〜2010年)の最終年にあたるとともに、第12次5ヵ年計画の方向性が議論される年でもある。以下、第11次5カ年計画の概要と、2010年の政策の方針について概観する。

(第11次5カ年計画の概要)
 2006年3月に開催された第10期全人代第4回会議において、「国民経済と社会発展第11次5カ年計画要綱」が採択された。
 同要綱では、経済社会発展の指導原則として、〔1〕経済の安定した速い発展を保つ、〔2〕経済成長方式の転換を速める、〔3〕自主的な創造・革新能力を向上させる、〔4〕都市・農村間や地域間の調和のとれた発展を促進する、〔5〕調和のとれた社会の建設を強化する、〔6〕改革開放を絶えず進化させるといった点が掲げられている。また、経済社会発展の度合いを確認する各種指標が設定され、それぞれに具体的な数値目標が定められている67(第1-2-3-15表)。

67 田中修「中国第11次5カ年計画の研究−第10次5ヵ年計画との対比において」(内閣府経済社会総合研究所、Discussion Paper Series No.170, 2006年10月)。
 
第1-2-3-15表 中国:第11次5カ年計画期間の経済社会発展の主要指標
第1-2-3-15表 中国:第11次5カ年計画期間の経済社会発展の主要指標


(第11次5カ年計画の達成と継続的な課題)
 経済指標、環境分野の一部については達成されているものの、達成が困難視される項目もある。例えば、エネルギー単位消費量は、計画期間中で20%低下との目標になっているが、2009年までの4年間の累積で14.38%低下に止まっている68

68 田中修「2010年政府活動報告のポイント」(日中産学官交流機構、2010年3月11日)。


(2010年の方向性と主要課題)
 こうしたなかで、2010年3月5日、第11期全国人民代表大会第3回会議が開催され、温家宝総理が政府活動報告を行った。その際、2009年を「新世紀に入ってわが国経済発展の最も困難な1年であった」が、「国際金融危機の衝撃に落ち着いて対応し、世界に率先して経済の回復好転を実現した」と回顧した上で、2010年の政策の基本方針を明らかにした。

〔1〕2010年の政策の基本方針〜4つの重点と主要任務
 政府活動報告では、2010年の政府活動の基本的な考え方として、〔1〕マクロ経済運営の強化、〔2〕経済発展方式の転換と構造調整の加速、〔3〕改革開放と自主的なイノベーションの推進、〔4〕民生の改善と社会の調和のとれた安定の促進、が重点として示された。その上で、2010年の主要任務として、以下の項目が提示された(第1-2-3-16表)。
 
第1-2-3-16表 中国の2010年の主要任務
第1-2-3-16表 中国の2010年の主要任務

 以下では、今後の中国の経済発展の方向性をみる上で重要となると思われる「経済発展の方式の転換と経済構造の調整・最適化」について述べる。

〔2〕経済発展方式の転換と経済構造調整の加速
(a)政府活動報告における方針
 政府活動報告では、経済発展方式の転換を早急に進め、イノベーションを経済成長の原動力とする自立的な成長を確保すべきと強調している。ここでいう「経済発展方式の転換」は、従来の経済成長が投資拡大等に過度に依存してきたと捉えた上で、そのような経済成長方式は資源・環境との矛盾を先鋭化させ、持続可能ではないとの問題意識に基づくものである。換言すれば、高エネルギー消費、高汚染、資源大量消費の「二高一資」型産業から、より高付加価値の産業へと産業構造の転換を図る必要性を説くものである。
 その上で、政府活動報告は、経済発展方式の転換と経済構造調整の加速に向けて、重点産業の調整・振興の推進や戦略的新興産業の育成、サービス産業の発展などを課題として掲げている(第1-2-3-17表)。
 
第1-2-3-17表 中国の経済発展方式の転換と経済構造調整の加速に向けた課題
第1-2-3-17表 中国の経済発展方式の転換と経済構造調整の加速に向けた課題

 重点産業の調整・振興については、企業の新製品開発や省エネの推進、企業の合併・再編の促進による業種独占の打破、製品の質の向上などが目指されており、また、戦略的新興産業の育成としては、新エネルギー、新素材、省エネ・環境保護・バイオ・医療、情報ネットワーク、先端製造業の発展を強化する方針が示されている。サービス業については、その発展水準を高め、GDPに占める比重をより高めていく方針である。GDPの産業別構成比を見ると、近年割合は減ってきているものの、2008年時点で約5割が2次産業で構成されており、サービス業のGDPに占める割合を増やすことが求められている。金融や物流、ビジネスサービス、省エネ・環境保護サービスなどの面で製造業向けのサービス業を発展させ、サービス業と製造業の融合による産業の高度化の促進も目指されている。

(b)中国経済の生産性
 こうした産業の高度化目標は先進国にもみられる部分があるが、中国では、その背景に経済社会の構造的な要因があると考えられる。
 先述の通り、中国は近年、固定資本形成が経済成長の主な牽引役になってきた。GDP成長率を資本ストック、労働投入量、全要素生産性(TFP)に分解すると、資本の寄与度が高い水準で推移してきた(第1-2-3-18表)。他方、全要素生産性は、産業間労働移動の影響を除くと低い伸びとなっており、技術進歩等による生産性の向上は低い水準になっていると推察される。実際、中国の就業人口を産業別にみると、農業部門の就業人口の割合は低下している一方、製造業及びサービス業部門の就業人口の割合が高まっている(第1-2-3-19図)。
 
第1-2-3-18表 中国のGDP成長率と資本・労働・生産性の寄与度
第1-2-3-18表 中国のGDP成長率と資本・労働・生産性の寄与度
 
第1-2-3-19図 中国:就業人口の産業別構成比
第1-2-3-19図 中国:就業人口の産業別構成比
Excel形式のファイルはこちら

 各産業部門の労働生産性の動向を雇用者一人当たりの付加価値額(GDP)でみると、1991〜2008年の年平均伸び率は、製造業が9.9%、サービス業が5.9%、農業では5.4%となっている(第1-2-3-20表)。製造業では、同期間の雇用者数の年平均伸び率が2.4%と低水準であるなか、固定資産投資の拡大を背景として付加価値額が急激に拡大してきたことが、労働生産性の高い伸びにつながっていると考えられる。他方、サービス業については、全般的に製造業ほど固定資産投資の拡大がみられず、また、雇用者数の伸びが高いことから、労働生産性上昇率の水準は農業部門と大きな開きがない水準に止まっていると考えられる。
 
第1-2-3-20表 中国の各産業のGDP・雇用者数・労働生産性(2008年)
第1-2-3-20表 中国の各産業のGDP・雇用者数・労働生産性(2008年)

 今後の中国においては、生産年齢人口比率が2010年以降下がっていくと予想されている69こと(第2章参照)等から、生産性の向上が持続的な成長にとってより重要性を増すと考えられる。

69 国連(2008)「World Population Prospects, The 2008 Revision」。


〔3〕持続的な内需拡大に向けて
 世界金融危機後の政策対応により2009年上期に大幅に拡大された投資は、今後、輸出と個人消費の回復度合いをにらみつつ、徐々に拡大ペースが抑制される見通しである。4兆元景気対策のうち、中央政府支出分の1兆1,800億元は、2010年末には終了する予定である。中国の持続的な成長の観点からは、個人消費を中心とする内需の拡大が重要である。これまでのところ、消費意欲が弱い環境下で個人消費が伸びているのは、政策対応によるところが大きく、家電下郷の効果もこれまでのところ限定的と見られている70

70 消費財小売額の都市−農村別内訳は7:3(09年1〜6月)と農村の消費割合が少ないため。

 内需主導に転換するには、農村部の所得拡大と社会保障の充実が不可欠である。従来の「改革・開放」政策は、経済成長に重点を置いてきたところ、所得格差の拡大(都市と農村住民)といった歪みも生じさせている(第1-2-3-21図、第1-2-3-22図)。
 
第1-2-3-21図 中国:都市と農村住民の所得水準の推移
第1-2-3-21図 中国:都市と農村住民の所得水準の推移
Excel形式のファイルはこちら
 
第1-2-3-22図 中国省(直轄市・自治区)別一人当たりGDP
第1-2-3-22図 中国省(直轄市・自治区)別一人当たりGDP

 現在の中国は、社会の仕組みや制度が経済発展のスピードに追いつかず、都市と農村の経済格差、社会保障や医療、住環境などの福利厚生制度の未整備、治安問題や環境問題など、人々の身近に多くの社会的な矛盾が噴出している状況にある。
 こうしたなかで、胡錦濤・温家宝体制になってから、経済構造の歪みを是正するためにバランスのとれた経済成長を目指す方針が打ち出された。具体的目標として、「和諧社会(調和のとれた社会)」「以人為本(人民大衆の根本利益を出発点として発展を図り、その成果を全人民に享受させる)」という考え方が掲げられている(第1-2-3-23表)。
 
第1-2-3-23表 「和諧社会」建設の概要
第1-2-3-23表 「和諧社会」建設の概要

 格差の縮小、内需拡大に向けては、農村部の可処分所得を継続的に高めていくことが重要であり、近年では、税制、教育、医療保険、生産者補助などの各種農村対策が実施されてきた(第1-2-3-24表)。また、2009年8月に開催された「全国新型農村社会年金保険実験活動会議」では、2009年下期から全国の10%の県、市、区などで新しい農村社会年金保険の実験を開始することを決定した。社会保障の充実を通じた所得環境の改善により、農村部における個人消費の拡大が期待される。
 
第1-2-3-24表 中国で過去10年に採られた農村負担軽減策
第1-2-3-24表 中国で過去10年に採られた農村負担軽減策


テキスト形式のファイルはこちら


前の項目に戻る     次の項目に進む