第1章 世界経済の現状と課題

第1節 回復しつつも構造的な不安定さを抱える世界経済

世界経済は緩やかに回復しつつも、先進国と新興国の回復速度は不均衡な状況にある。先進国のディスインフレ(物価上昇率が低下する現象)・デフレ(物価が持続的に下落する現象)傾向や財政赤字の拡大、一部新興国における景気の過熱感、資源価格の高騰、グローバル・インバランスの再拡大等の構造的な要因を抱えており、その回復振りはいまだ不安定なものとなっている。

1.台頭する新興国と回復の遅れる先進国

(1)存在感が増す新興国経済

IMF が2011 年4 月に発表した世界経済見通しによると、世界経済の成長率は、2009 年に前年比マイナス0.5% を記録した後、2010 年は同5.0% まで回復し、「懸念された景気の二番底は生じなかった」としている。もっとも、世界経済全体の成長が再び加速した中で、先進国と新興国の回復速度には依然として大きな開きがある。多くの先進国ではいまだに回復が遅れている一方、新興国は景気過熱が懸念されるほど力強い経済成長を示していることが指摘されている。 

IMF によれば、米国やユーロ圏、英国等を含む先進国経済は、2009 年の前年比マイナス3.4% から2010年には同3.0% に回復した一方、新興国経済は2009 年の同2.7% から2010 年は同7.3% と、先進国の回復状況に比べて高い成長を示している(第1-1-1-1 表)。世界の名目GDP に占める新興国の割合も高まっており、特に中国は2010 年に名目GDP で我が国を抜いた。2011 年以降も、主要先進国を大きく上回るものと見込まれている(第1-1-1-2 図)。

第1-1-1-1表 世界経済の見通し(実質)
第1-1-1-1表 世界経済の見通し(実質)

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第1-1-1-2図 主要国の名目GDPの推移
第1-1-1-2図 主要国の名目GDPの推移

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一方、今後の見通しについては、IMF は、引き続き景気の下振れリスクが上振れリスクを上回るとし1、世界経済の成長率は2010 年の5.0% から2011 年には4.4%、2012 年には4.5% へと緩やかに推移すると予測している。先進国と新興国の各々についてみると、先進国は2010 年の3.0% から2011 年には2.4%、2012年には2.6% へ、新興国は2010 年の7.3% から2011、2012 年ともに6.5% へと、いずれも2011-12 年は2010年に比べて回復速度が緩やかになるものと見込まれている。とはいえ、引き続き、新興国が先進国の2 倍強の高い成長を示す見通しであり、かつ、2010 年は新興国の成長率が先進国の2.4 倍、2011 年には2.7 倍と更に勢いが増す見込みである(第1-1-1-3 図)。同図の世界のGDP に占める構成比も、新興国は2010 年には31.2%、2011 年には34.0% と拡大する見通しである。更に、2014 年には世界経済の39.9% を占めることが予想されている(第1-1-1-4 図)2

このように、中国をはじめとする新興国は、成長率、規模ともに、その存在感が一層高まる見込みである。

一方、これら新興国では、先進国の金融緩和により大量の資金が流入し、インフレや自国通貨の増価進行への懸念が拡大している。対応措置として、新興国では、政策金利や預金準備率の引上げ、資本流入規制等を強化している。こうした「金融緩和」から「金融引締め」への政策転換によって、新興国経済が、今後、予想以上に大きく減速すれば、新興国に依存する世界経済の回復プロセスの遅れをも招きかねない。

1 IMF は、下振れリスクとして、先進国についてはEU の財政問題をはじめ脆弱なバランスシートの状況、不動産市場の低迷を指摘している。新興国については、地政学上の不安定さ、不動産市場の過熱と並んで、商品価格、特に原油の価格高騰を新たな下振れリスクと見ている。

2 <参考> IMF は2011年6 月17日、改訂見通しを公表。
・ 世界経済について、「引き続き成長基調にあるものの緩やかに減速、下振れリスクは拡大」との認識。2011 年は4 月の見通しから下方修正(4.4→ 4.3)、2012年は据え置き。
・ 先進国について、2011年は4 月の見通しから下方修正(2.4→ 2.2)、2012年は据え置き。
 - 米国は、2011 年は成長鈍化の見込み(2.8→ 2.5)。
 - 日本は、大震災の影響によりマイナス2.1% の下方修正(1.4→ -0.7)。2012年には回復見込み。
 - ユーロ圏は、2011 年は上方修正(1.6→ 2.0)。一方、2012年は減速が見込まれる。
・ 新興国について、大半は引き続き力強く成長している、との認識。2011年は4 月の見通しから上方修正(6.5→ 6.6)、2012年は下方修正。
 - 中国、インド、ASEAN 5は、2011 年、2012年ともに据え置き。一方、中南米は2011 年、2012年ともにマイナス0.1%の下方修正。
 - 中東欧は、2011年は1.6% の上方修正(3.7→ 5.3)。2012年はマイナス0.8% の下方修正。
・ 世界経済の下振れのリスク要因として、米国の経済活動の想定以上の弱さ、ユーロ圏債務危機による金融市場の不安定化、新興国における景気過熱の兆候の鮮明化、先進国における財政・金融部門の不均衡の長期化等を指摘。


第1-1-1-3図 世界各国・地域別のGDP 構成比及び成長率
第1-1-1-3図 世界各国・地域別のGDP 構成比及び成長率

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第1-1-1-4図 世界の実質GDP の推移
第1-1-1-4図 世界の実質GDP の推移

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(2)先進国と新興国の景気動向

以下、先進国と新興国の景気動向を中心に、世界経済の1 年間の動きを概観する。

2010 年、先進国では、ようやく金融危機前の水準近くまで経済が持ち直した。米国、EU、韓国では、株高などを背景とした個人消費の伸びや、設備投資の回復を背景に、実質GDP は、金融危機前の2008 年第1 四半期の水準を超えて回復した。我が国と英国についてもピーク時の98.7% 程度まで、回復した(第1-1-1-5 図)。OECD の景気先行指数も、2010 年末にかけて米国を中心に改善傾向となった(第1-1-1-6 図)。このように、2010 年末に向けて回復ペースを維持ないし強めつつあった先進国も、なお多くの課題を抱えている。

他方、中国、インド、ブラジルといった新興国の多くは力強い経済成長を続け、金融危機前の2008 年第1四半期の水準を超える回復をみせた(第1-1-1-5 図)。もっとも、景気の過熱感の高まりやインフレ上昇などを背景に2010 年後半には金融引締めが進められたこともあり、中国やインドなど一部の新興国では景気先行指数の低下がみられる(第1-1-1-7 図)。

第1-1-1-5図 主要な先進国と新興国における金融危機前水準への回復状況の比較
第1-1-1-5図 主要な先進国と新興国における金融危機前水準への回復状況の比較

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第1-1-1-6 図 先進国のOECD景気先行指数
第1-1-1-6 図 先進国のOECD景気先行指数

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第1-1-1-7図 新興国のOECD景気先行指数
第1-1-1-7図 新興国のOECD景気先行指数

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自動車販売台数の推移をみると、先進国では、景気が回復しつつある米国において、自動車販売台数が2009 年の1,060 万台から2010 年には1,177 万台に拡大したのに対し、ユーロ圏では景気回復の弱さを反映して販売台数が2009 年の1,112 万台から2010 年には1,022 万台に縮小した。日本でも、2010 年の販売台数の伸びは前年比7.5% 増の496 万台にとどまり、2 年連続の500 万台割れとなった(第1-1-1-8 図)。他方、高成長を続けている新興国では、自動車販売台数が拡大した。特に中国は、2009 年の1,362 万台から2010 年には前年比32.5% 増の1,804 万台と大幅に増加した。また、ブラジルは、2010 年通年で前年比11.9% 増の351万台と、過去最高を記録した。更に、インドやロシアでは中間所得層の旺盛な消費意欲を背景に自動車販売台数が急増し、2010 年の販売台数が、インドでは前年比28.7% 増の320 万台と過去最高となり、また、ロシアでは同29.6% 増の190 万台を記録した。

第1-1-1-8図 先進国と新興国の自動車販売台数の推移
第1-1-1-8図 先進国と新興国の自動車販売台数の推移

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家計部門をみると、雇用市場の回復状況は地域あるいは国によって大きく異なる。失業率は、主な先進国において2010 年を通じて高止まりが続いた(第1-1-1-9 図)。米国では、企業の業況の改善を背景に2010年末に失業率は低下したが、景気回復の先行き不透明感等を背景に、雇用の拡大ペースは緩慢であり、失業率は9% 台の高止まりで推移した。ユーロ圏の失業率は、国によって一様ではない。景気回復が続くドイツでは、2010 年の失業率は6.9% と、歴史的な低水準に改善した。一方、フランス(9.7%)やイタリア(8.5%)は回復が遅れている。また、ユーロ圏内で財政危機が懸念されるギリシャ(14.8%)や、スペイン(19.4%)、ポルトガル(11.9%)等の失業率の高さが目立つ。新興国については、中国(4.1%)、韓国(3.7%)などは、好調な景気回復を背景に失業率が低位で安定的に推移している。また、ブラジル(6.7%)、インドネシア(7.1%)をはじめ、他の新興国においても、2010 年には失業率が改善傾向に向かった(第1-1-1-10 図)。なお、IMF では、先進国についても2011 年の失業率が2010年から改善することを見込んでいる。ただし、ポルトガル、ギリシャについては財政問題を背景に2011 年も引き続き悪化が懸念されている。

第1-1-1-9図 先進国のOECD景気先行指数
第1-1-1-9図 先進国の失業率の推移

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第1-1-1-10図 新興国の失業率の推移
第1-1-1-10 図 新興国の失業率の推移

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なお、消費者信頼感指数をみると、先進国における厳しい雇用環境を反映して、G7 全体では足元で改善しつつあるものの、長期平均100 を下回る水準となっている(第1-1-1-11 図)。

住宅価格については、国・地域により状況が異なる。米国や英国、スペイン等、不動産市場のバブル崩壊をきっかけに金融危機に陥った国々では、雇用・所得環境の厳しさ等を背景に、住宅価格はいまだに世界経済危機前のピーク時を下回る水準で低迷している。住宅価格の下落に伴う資産価値の目減りは、家計部門のバランスシート調整を更に長期化させる要因である(第1-1-1-12 図)。一方、オーストラリアのような資源国、中国や香港、台湾、シンガポールといった新興国・地域では、人口増加と住宅不足、好景気、海外からの資金流入の活発化等を背景に不動産価格が高騰し、住宅市場の過熱感を政策当局が警戒する状況となっている(第1-1-1-13 図、第1-1-1-14 図)。

第1-1-1-11図 先進国の消費者信頼感指数の推移
第1-1-1-11図 先進国の消費者信頼感指数の推移

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第1-1-1-12図 主要先進国の住宅価格の推移(四半期)
第1-1-1-12図 主要先進国の住宅価格の推移(四半期)

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第1-1-1-13 図 新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(四半期)
第1-1-1-13 図 新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(四半期)

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第1-1-1-14図 中国の住宅価格の推移
第1-1-1-14図 中国の住宅価格の推移

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なお、中国では、不動産の価格高騰に対応するため、2010 年に入って価格抑制策を強化した。その結果、不動産市場はやや落ち着きを取り戻し、第1-1-1-14 図にみられるように、主要70 都市では2010 年末以降、不動産価格の伸びがやや鈍化した。ただし、依然として前月同月比を上回って推移しており、中国政府は、今後も引き続き価格抑制策を継続するとの姿勢である。

企業部門について、鉱工業生産指数の推移をみると、全体としては改善傾向にあるものの、先進国では回復が遅れている。2010 年末に米国がようやく世界経済危機前の水準に回復したが、我が国やユーロ圏は2011 年に入っても同水準に戻っていない(第1-1-1-15 図)。一方、新興国地域では、中国を含むアジアが、2009 年春から年央には同水準に回復し、2010 年には同水準を大幅に超えるまでに生産活動が拡大した。その他、中南米は2010 年春頃、また、中東欧は2010 年の秋頃、同水準に回復した(第1-1-1-16 図)。

第1-1-1-15 図 先進国の鉱工業生産指数の推移
第1-1-1-15 図 先進国の鉱工業生産指数の推移

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第1-1-1-16 図 新興国(地域)の鉱工業生産指数の推移
第1-1-1-16 図 新興国(地域)の鉱工業生産指数の推移

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物価動向については、2010 年、多くの先進国では、不動産価格の低迷等を背景に家計のバランスシート調整が続いた。また、雇用・所得環境の改善も顕著でないといった国内経済の弱さもあり、消費者物価指数の上昇率が低く(第1-1-1-17 図)、デフレないしディスインフレ傾向がみられた。一方、新興国では、中国やブラジル等の一部の国を中心に、海外からの資金流入が拡大したこと等を背景に景気が過熱気味となり、消費者物価指数が上昇し、インフレ懸念が高まった(第1-1-1-18図)。2010年夏場以降は、資源・食料価格が高騰し、多くの新興国において消費者物価の上昇率が加速した他、先進国の一部でもインフレ圧力が高まった。金融政策については、2008 年9 月のリーマン・ショック以降、各国中銀は政策金利を引下げ(第1-1-1-19 図、第1-1-1-20 図)、また、資産買入れなどの金融緩和を通じて景気を下支えしてきた。しかしながら、最近の資源・食料価格の高騰の影響もあり、景気回復が顕著であった新興国を中心に、金融引締めへと政策スタンスへの転換が加速している(第1-1-1-21 図、第1-1-1-22 表)。

第1-1-1-17図 先進国の消費者物価指数
第1-1-1-17図 先進国の消費者物価指数

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第1-1-1-18 図 新興国の消費者物価指数
第1-1-1-18 図 新興国の消費者物価指数

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第1-1-1-19図 先進国の政策金利
第1-1-1-19図 先進国の政策金利

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第1-1-1-20 図 新興国の政策金利
第1-1-1-20 図 新興国の政策金利

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第1-1-1-21 図 各国・地域の政策金利並びに非伝統的金融政策の動向
第1-1-1-21 図 各国・地域の政策金利並びに非伝統的金融政策の動向

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第1-1-1-22 表 主要先進国の非伝統的金融政策の概要
第1-1-1-22 表 主要先進国の非伝統的金融政策の概要

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第1-1-1-21 図、第1-1-1-22 表にみられるように、日本、米国、欧州、英国といった主要先進国は、景気回復の遅れから、各国中央銀行は、量的緩和、資産買入れといった非伝統的金融政策や、低金利政策を維持してきた。そうした中で、2011年に入り、欧州では資源高の影響によるインフレ圧力の高まりを警戒する姿勢が強まった。4月7日には、欧州中央銀行(ECB)は、金融危機発生以降で初めての利上げに踏み切った。もっとも、ユーロ圏域内では各国間で経済成長の速度にばらつきが目立っており、財政危機に揺れる南欧諸国はマイナス成長に陥っている。今後、ECB は、原油高のもたらすインフレ懸念への対応をにらみつつ、難しいかじ取りを続けることになる。

米国では、いまだに高い失業率や不動産市場の低迷を抱えている。こうした中、米連邦準備理事会(FRB)は6 月末で追加金融緩和策3 を当初予定どおり終了する一方、金融引締め策への早期転換は見込まれていない4。英国では、インフレ率が英国中央銀行(BOE)の目標値を上回る状況が続いているものの、利上げによって足取りの弱い景気回復を更に下押しする懸念があるため、金融引締めへの転換に慎重である。なお、我が国については、東日本大震災による国内経済への甚大な影響にかんがみて、引き続き、強力な金融緩和の推進等、中央銀行としての貢献を粘り強く続けていくこととしている。

これに対し、豪州やカナダ・ノルウェーなど、景気が堅調な資源国では、インフレ懸念への対応から2009年秋口には利上げが行われた。

また、多くの新興国は、2009年後半以降、力強い回復を通じて一部の国では景気が過熱傾向を示し、インフレ懸念が台頭した。そうした中で、資源・食料価格の世界的な高騰を背景に物価上昇圧力が高まった。このため、2010年中盤以降、アジアを中心とする新興国において政策金利の引上げが加速化した。

3 一般にQE2(Quantitative Easing 2)とも呼ばれる。

4 2011 年4 月28 日、米連邦準備委員会(FRB)のバーナンキ議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見において、2010 年11 月から続けてきた6,000 億ドルの中長期米国債購入による資金供給プログラムを予定どおり6 月末で完了すること、ただし、異例に低水準の政策金利が更に長期間継続される公算が高いこと、7 月以降もMBS 等の満期償還金を中長期米国債に再投資することで、FRB のバランスシートはほぼ現状で一定に保たれるであろうことを示し、緩和的な金融政策を維持するスタンスを明示した。


貿易動向について、数量ベースでみると、世界貿易は2011 年2 月までに、金融危機前のピークであった2008 年4 月の水準をやや上回るまでに回復した(第1-1-1-23 図)。通年でも、2010 年は前年比15.1% と高い伸びとなった。国・地域別にみると、アジアと中南米の伸びが高く、輸入がそれぞれ前年比20.7%、25.9%、輸出では同23.1%、14.1% となった。先進国では米国が輸出入ともに世界の輸出入の伸びとほぼ同水準に、また、ユーロ圏は輸出入ともに低い伸びとなった(第1-1-1-24 図、第 1-1-1-25 図)。

第1-1-1-23図 世界の貿易数量の推移(2000年 = 100)
第1-1-1-23図 世界の貿易数量の推移(2000年 = 100)

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第1-1-1-24図 国・地域別の輸入数量の推移
第1-1-1-24図 国・地域別の輸入数量の推移

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第1-1-1-25 図 国・地域別の輸出数量の推移
第1-1-1-25 図 国・地域別の輸出数量の推移

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次に、貿易動向を金額ベースでみると、先進国は2009 年第2 四半期に輸出、輸入とも前年同期比マイナス30% 台まで落ち込んだ。しかし、その後は回復に転じ、2010 年前半は輸出入ともに20% 台の伸びを記録した。2010 年後半にかけては、世界経済の減速等を背景に前年同期比で10% 台半ばまで伸び率が低下した。新興国については、2010 年後半は輸出入ともに20% 台の高い伸びとなった(第1-1-1-26 図)。2000年代を通して、新興国の貿易額は輸出入ともに先進国の伸びをおおむね上回っており、世界の貿易総額(輸出額+ 輸入額)に占める新興国の割合は、2000 年第1四半期の22.9% から2010 年第4 四半期には37.5% にまで上昇した(第1-1-1-27 図)。

第1-1-1-26 図 先進国・新興国の輸出入金額の推移(前年同期比)
第1-1-1-26 図 先進国・新興国の輸出入金額の推移(前年同期比)

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第1-1-1-27図 世界の貿易に占める先進国・新興国のシェア
第1-1-1-27図 世界の貿易に占める先進国・新興国のシェア

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為替相場の動向は、景気動向について公表される統計や金融政策等を受けて変動しやすいことに留意する必要があるが、2010 年を通してみると、主要通貨に対する円相場は全て円高方向で推移した(第1-1-1-28 図)。

第1-1-1-28 図 円相場の推移(対ドル、対ユーロ、対元)
第1-1-1-28 図 円相場の推移(対ドル、対ユーロ、対元)

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まず、円・ドル相場については、米国景気の先行きの不透明感やFRB の追加的金融緩和期待、日米金利差の縮小等を背景に円高ドル安が進み、2010 年9 月15日には82 円92 銭と、円・ドル相場は1995 年5 月以来約15 年3 か月ぶりに円高水準を更新した。これを受けて、日銀・政府は2004 年以来6 年ぶりの円売り介入を実施した。介入実施後は一時的に円安ドル高が進行したものの、介入の効果は継続せず、その後は1 ドル80円台前半で推移した。

円・ユーロ相場については、2009 年末より、ギリシャを始めとする欧州のソブリンリスク懸念からユーロ安傾向にあったが、ギリシャの債務懸念の高まりを背景に2010 年4 月下旬から5 月にかけて1 ユーロ=112円台と急激に円高ユーロ安が進んだ。

円・人民元相場については、2010 年6 月に人民銀行が、事実上米ドル・ペッグとなっていた為替レートの弾力化を強化すると発表して以降、人民元の対ドルレートは徐々に切り上がったものの、円・人民元レートでは1 元= 13 円台から12 円台と円高元安で推移した。

2011 年に入ってからは、3 月11日に我が国で東日本大震災が発生して以降、円が急騰し、3 月17 日には対ドルで76.25 円と、1995 年4 月の79.75 円以来の最高値を記録した。円は対ユーロでも上昇し、独歩高の展開となった。円急騰の背景には、地震発生を受けた株価の急落や中東情勢不安からリスク回避的な動きにより円が買われたこと、機関投資家である我が国の保険会社が大震災被害に関連した保険金支払の備えとして海外資産を日本に引き戻すとの思惑があったこと5 等の点が指摘されている。こうした円の急騰を受けて、3月18 日にはG7 が過度の円高を阻止するための協調介入に合意し、10 年半ぶり6 に協調介入が実施された。その後は、市場では協調介入が意識され、また、4 月に利上げに踏み切った欧州や景気が底堅く推移する米国と我が国との間における金融政策のスタンスの差から、円相場は円安方向に進んだ。

5 但し、実際には、我が国の保険会社が大震災被害に関連した保険金支払の備えとして海外資産を売却しているとの事実はなかった。

6 前回のG7 による協調介入は、2000 年9 月22 日に実施。1999 年のユーロ誕生時、金融要因(ユーロ圏投資家による域外他通貨への投資割合の分散化)からユーロが急落したことが背景。


株価の動向をみると、先進国では景気の回復を受け、2010 年末時点で米国、英国、ドイツが世界経済危機前の水準を上回った他、フランスや日本でも2011 年初に株価が同水準に回復し、米国の景気対策などを受けた回復期待から堅調な展開をみせた(第1-1-1-29図)。

第1-1-1-29 図 先進国の株価の推移
第1-1-1-29 図 先進国の株価の推移

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先進国と比較して、新興国での株価の回復ぶりは著しい。国別にみると、サウジアラビアとUAE を除いた国で2009 年央には世界経済危機前の水準にまで回復し、一部の国では2010 年末までに同水準の1.5 倍超の株価を記録した。新興国の国内経済が好調であることに加え、先進国の景気回復スピードが緩慢な中、より高いリターンを求めて先進国から新興国に投資資金が流入していることが、そうした株高進行の背景になっていると考えられる(第1-1-1-30 図)。

第1-1-1-30 図 新興国の株価の推移
第1-1-1-30 図 新興国の株価の推移

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2009 年から2010 年へと世界経済の回復が進んだことを背景に、不良債権問題についても改善が見られる。IMF によれば、世界の金融機関が計上する2007〜2010 年の損失予測額は、2009 年秋時点では約2.8 兆ドルであったのが、2010 年春時点で2.3 兆ドル、同年秋時点では2.2兆ドルに縮小してきたとしている7

2010 年春と秋時点での推計を国・地域別にみると、米国、ユーロ圏、英国では引当・償却額が拡大しており、不良債権処理の進展が見られる(第1-1-1-31 図)。ただし、米国やユーロ圏では不良資産の増加見込額は依然として規模が大きく、家計のバランスシート調整や不動産市場の低迷等が銀行セクターの回復に向けたリスクとなっている8

第1-1-1-31図 主要国の不良債権処理の推移
第1-1-1-31図 主要国の不良債権処理の推移

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財政状況については、世界経済危機後、各国は、減税(自動車購入、住宅取得等)、公共事業(交通インフラ、エネルギー・環境関連等)、給付金(失業・休職手当等)といった各種景気対策を講じることにより、景気を下支えしてきた。2010 年春以降、世界的に景気が回復に向かう一方、欧州では債務問題が深刻化し、それまで危機対応のために財政拡大路線をとってきた国々では、財政健全化への転換の必要性が認識されるようになった。

まず、先進国をみると、日本、米国、英国を中心に財政赤字の増加が目立つ9。IMF によれば、2010 年、米国では追加景気対策の実施によって、財政赤字は対GDP 比10.6% に達した。また、欧州では、南欧諸国を中心に、債務問題を抱え財政緊縮の傾向が強まっている多くの国で同7% を超える水準となった他、我が国は長引く景気の低迷による税収の落ち込み、経済対策による財政支出の拡大等により、財政赤字は同9.5%となった。G20 先進国全体では、財政赤字は2010 年で8.2% に上っている10(第1-1-1-32 図)。主要先進国政府・中央銀行は、個人消費や設備投資等の民需が回復するにつれて、危機後に講じてきた景気刺激策を順次終了あるいは縮小している。しかし、景気刺激策によって積み上がった膨大な債務残高の返済、巨額の財政赤字の正常化には時間がかかると考えられている。財政赤字の拡大が金利の上昇につながれば、政府の資金調達コストは増大する。例えば我が国やギリシャ、アイルランドなど巨額の政府債務残高を抱えた国は、将来の債務返済に向けて、中長期的な財政健全化へのコミットメントが不可欠となっている。

第1-1-1-32 図 先進国の財政赤字の推移
第1-1-1-32 図 先進国の財政赤字の推移

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これに対し、新興国では、2010 年には多くの国で財政赤字の対GDP 比は3 〜5% 程度の範囲に収まり、G20 新興国全体でも同3.6% にとどまった。過去の高成長時に財政収支の改善を進めていたことや、資源国にとっては近年の資源価格の高騰で収入が拡大したことが新興国の財政余力を高め、景気対策実施後も収支の悪化を一定範囲内に収めることが可能となった(第1-1-1-33 図)。

第1-1-1-33 図 新興国の財政赤字の推移
第1-1-1-33 図 新興国の財政赤字の推移

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7 IMF, Global Financial Stability Report, Octber 2010。

8 ただし、IMF は、こうした処理額や見込額に関する推計値は、データ制約や対象国による会計基準の相違など多くの不確実性に基づいている点に留意すべきとしている。

9 IMF, Fiscal Monitor April 2011 のデータより。財政赤字の対象は「General government」であり、地方政府も含む。

10 IMF, Fiscal Monitor, April 2011。


(3)先進国による金融緩和と国際的な資金の流れ

景気減速の懸念の高まりを背景に、2010 年は、先進国の多くで、金融政策のスタンスは緩和基調が続いた。例えば米国では、米連邦準備理事会(FRB)が2008 年12 月にフェデラルファンド(FF)レートの誘導目標を0 〜0.25% まで引き下げ、その後も同水準に据え置いた他、信用緩和と量的緩和が進められた11。また、欧州でも、欧州中央銀行(ECB)は、リファイナンスレートを、2009 年のユーロ導入以来最低の水準である1.00% に維持した12。我が国もまた、ゼロ金利政策を維持するとともに、量的緩和が進められた13(第1-1-1-34 図)。

第1-1-1-34図 先進国の政策金利(短期)
第1-1-1-34図 先進国の政策金利(短期)

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これに対し、多くの新興国では、インフレ率が上昇基調にあること等を背景に、断続的に金融引締めを行った(第1-1-1-35 図)

第1-1-1-35 図 新興国の政策金利(短期)
第1-1-1-35 図 新興国の政策金利(短期)

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先進国によるこうした金融緩和は、世界的な資金の流れに影響を与えている。具体的には、先進国では、金融緩和によりマネーサプライが増加している(第1-1-1-36 図)。これらの資金は、貸出・借入が増加し企業活動が活発化して景気が浮揚するという効果が十分に現れないまま、拡大したマネーが金融市場から流れ込む資金として、高利回りを目指すリスク資産に向かうという形で顕在化しつつある(第1-1-1-37 図)。国際商品市況は、2010 年央以降、急速に上昇した。農産物市況の上昇には、干ばつ等の世界的な天候不順の影響があるが、新興国を中心とした需要の拡大による需給ひっ迫を観測する動きから、金融市場から資金が流入していると指摘されている。

第1-1-1-36 図 主要先進国のマネーサプライ(M1)の推移
第1-1-1-36 図 主要先進国のマネーサプライ(M1)の推移

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第1-1-1-37 図 国際商品市況の推移
第1-1-1-37 図 国際商品市況の推移

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資源・エネルギー価格の上昇は輸入物価の上昇要因となり、先進国では企業活動のコストを高めることから景気回復に水を差す可能性がある。また、新興国では、食料・エネルギー価格の上昇が物価高につながり、国内経済の好調さも相まってインフレ圧力を強めていると考えられる。

また、新興国への資本流入も拡大している。民間資本の新興国への流入額(ネットベース)の推移をみると、2007 年に約1 兆ドルを記録した後、世界経済危機の影響を受けて激減し、2009 年には3,444 億ドルと2007 年の3 分の1 の水準となった。しかしながら、2010 年は資本流入額が再び拡大し、6,000 億ドルを超える水準に達したと目されている(第1-1-1-38図)14

第1-1-1-38 図 新興国への民間資本流入(全体)
第1-1-1-38 図 新興国への民間資本流入(全体)

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新興国に流入している民間資本の内訳をみると、民間投資が継続的に流入している一方、商業銀行やノンバンク等の融資は変動が激しくなっている。さらに、民間投資の内訳をみると、2010 年は対内直接投資の額が約3,500 億ドルと大きいが、対内証券投資も約2,000 億ドルに上っている。特に、対内証券投資は2008 年にはマイナス860 億ドルであったことを踏まえると、2009 年以降は対内証券投資額が急速に拡大している(第1-1-1-39図)。

第1-1-1-39図 新興国への民間資本流入(民間投資内訳)
第1-1-1-39図 新興国への民間資本流入(民間投資内訳)

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新興国への資本流入を地域別にみると、2010 年には、アジア向けが中心となっている他、中南米諸国向 けの割合も高い(第1-1-1-40 図)。中国やインド、ブ ラジル等、高成長を続けている新興国への資本流入 が活発化していると考えられる(第1-1-1-41 図、 第 1-1-1-42 図)。

第1-1-1-40 図 新興国への資本流入(地域別)
第1-1-1-40 図 新興国への資本流入(地域別)

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第1-1-1-41図 新興国への資本流入(ブラジル、インド)
第1-1-1-41図 新興国への資本流入(ブラジル、インド)

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第1-1-1-42 図 新興国への資本流入(中国)
第1-1-1-42 図 新興国への資本流入(中国)

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11 信用緩和としては、住宅ローン担保証券(MBS)等の比較的リスクの高い資産の買い取り等が、又、量的緩和としては、6,000 億ドル規 模の中長期米国債の購入等が挙げられる。なお、2011 年4 月28 日には、米国連邦準備委員会(FRB)のバーナンキ議長は、連邦公開市場 委員会(FOMC)後の記者会見において、現状の緩和的な金融政策を維持するとのスタンスを明示した。

12 なお、欧州中央銀行は、2011年4月7 日、他の先進国の先陣を切って、金融危機発生後で初めての利上げに踏み切った。

13 日銀は、2010年10月5 日、以下の「包括的金融緩和措置」を打ち出した。
1)政策金利の引き下げ(実質ゼロ金利政策の容認)。
 - 無担保コール翌日物金利の誘導目標を「0.1% 程度」から「0-0.1% 程度」へ。
2)超低金利政策の「時間軸」の明確化。
 - 物価安定が展望できる情勢になったと判断するまで実質ゼロ金利政策を継続。
3)国債等の金融資産買い入れのための35兆円規模の基金創設。
 - 国債、社債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託( J リート)など多様な金融資産買入れによる資金供給枠(5 兆円程度)と、固定金利0.1%
の共通担保資金供給オペによる資金供給枠(30兆円程度)から成る基金を新たに創設。

14 IIF による見込み。“Capital Flows to Emerging Market Economies”。


こうした民間資本の流入の拡大は、新興国経済の成長を後押し、株価については外国人投資家による新興国市場での買い越しにより2010 年央以降の株価上昇に寄与している面がある一方15、前述のように、不動産価格の高騰等、新興国における景気の過熱、資産バブルの一因になることが懸念されている(第1-1-1-13 図再掲、第 1-1-1-14 図再掲)。

第1-1-1-13図 新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(再掲)
第1-1-1-13図 新興国(地域)・資源国の住宅価格の推移(再掲)

第1-1-1-14 図 中国の住宅価格の推移(再掲)
第1-1-1-14 図 中国の住宅価格の推移(再掲)

国際商品市場や新興国への資本流入の拡大により、新興国は金融・為替政策の面でも難しい局面に立たされた。具体的には、新興国では、国内への大量の資本流入により、高成長を背景とした金利の上昇期待と相まって自国通貨の上昇圧力に直面した。こうした背景から、新興国は、金融危機で縮小した外貨準備高を、2010 年には急速に再拡大させており(第1-1-1-43 図)、為替市場に積極的に介入することで、自国通貨の上昇圧力に対応したことがうかがえる。

他方、新興国では、海外からの資金流入も含めた国内経済の高成長、商品市況の高騰もあり、インフレ圧力が高まった。このため、自国通貨の上昇圧力の緩和を目指す一方で、金融政策としては引締めの方向をとらざるを得ない状況に直面した。こうした新興国通貨の上昇圧力の高まりは、先進国の金融緩和と通貨安の進展がもたらすものとして、2010 年中頃には「通貨安競争」を巡る懸念が世界的に強まった。

第1-1-1-43図 新興国の外貨準備高
第1-1-1-43図 新興国の外貨準備高

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15 小林俊、吉野功一「新興国への資本流入と米国への資金還流について」(『日銀レビュー』2010年12月)。


(4)再び拡大するグローバル・インバランス

1. グローバル・インバランスの重層的な広がり。

先進国と新興国に景気回復の速度の差がみられる中で、グローバル・インバランスが再び拡大しつつある。世界経済危機の発生により貿易額が世界的に縮小したこと等を背景に、グローバル・インバランスは2009年には一時的に縮小し、それまでの「米国への消費の一極集中」から「消費の多極化」への変化が期待されたものの、2010 年には拡大に転じた(第1-1-1-44 図)。IMF の見通しによれば、今後、2010 年から2016 年の間で、米国の経常収支赤字は1.4 倍に拡大、一方、中国の経常収支黒字は2.9 倍に拡大し、中期的な縮小は見込めない。

ここで、グローバル・インバランスの赤字側と黒字側を代表する米国と中国を中心に、経済活動の対外的側面を確認する。

<米国>

米国の経常収支の推移をみると、近年では経常収支赤字のGDP 比は低下してきた。その一方、四半期ベースでは、財貿易収支の悪化を背景に、2009 年第3 四半期から再び赤字が拡大し、年間ベースでも2010 年はマイナス3.2% と、前年(2009 年)のマイナス2.7% から拡大した(第1-1-1-45 図)。

貿易収支の動向をみると、特に対中貿易赤字は、その規模及び足下での拡大幅共に大きい(第1-1-1-46図)。

第1-1-1-44図 主要国・地域の経常収支不均衡の推移
第1-1-1-44図 主要国・地域の経常収支不均衡の推移

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第1-1-1-45 図 米国の経常収支赤字の推移
第1-1-1-45 図 米国の経常収支赤字の推移

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第1-1-1-46 米国の財貿易収支の推移(対中国、四半期ベース)
第1-1-1-46 米国の財貿易収支の推移(対中国、四半期ベース)

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オバマ大統領は、2010 年1 月の一般教書演説で、今後5 年間で輸出を倍増させるとの方向性を示したが、現時点では上述のように、貿易収支の顕著な改善には至っていない(詳細は「第1 章1 節2. 米国経済の現状と課題」参照)。

<中国>

世界最大規模の経常収支黒字を計上している中国の経常収支の動向をみると、2000 年代に入ってから経常収支黒字が急速に拡大し、2007 年には対名目GDP比10.1% にまで拡大した。その後は縮小傾向にあるが、2010 年は5.2% と、前年(2009 年)から横ばいとなった。経常収支の内訳をみると、1990 年代中盤以降、サービス収支は一貫して赤字である一方、貿易収支が大幅な黒字となっている(第1-1-1-47 図)。

第1-1-1-47図 中国の経常収支黒字の推移
第1-1-1-47図 中国の経常収支黒字の推移

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中国の経常収支をIS バランスの面から見てみると、2003 〜2007 年にかけて、中国の貯蓄・投資率、中でも企業部門と政府部門の貯蓄・投資率が急上昇しており、家計部門の消費を圧迫していることが推察される16(第1-1-1-48 表)。中国の貯蓄水準は、全ての部門において、OECD を上回る貯蓄性向となっており、特に、家計部門の貯蓄対名目GDP 比は、OECD を大きく上回っている(第1-1-1-49 図)。

第1-1-1-48表 中国の部門別IS バランス(対名目GDP 比)の推移
第1-1-1-48表 中国の部門別IS バランス(対名目GDP 比)の推移

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第1-1-1-49図 中国とOECD 諸国の貯蓄対名目GDP 比
第1-1-1-47図 中国の経常収支黒字の推移

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IS バランスの観点からは、中国が消費を中心とした内需拡大による成長へと経済発展モデルの転換を図り、家計部門の貯蓄超過の水準が低下していくことが、経常収支の黒字の縮小につながっていくと考えられる。

ここまで米国と中国の間の不均衡を中心に見てきたが、世界に目を転じると、経常収支不均衡は米中2 国間のみでなく、世界中に存在していることがわかる。

主な先進国と新興国・地域の経常収支の対GDP 比率をみると、1990 年から2006 年もしくは2010 年に向けて、いずれの場合も、NIEs、中東諸国をはじめ経常収支黒字幅を拡大させた国・地域、あるいはユーロ圏の南欧諸国をはじめ赤字幅を拡大させた国が多い(第1-1-1-50 図、第1-1-1-51 図)。

第1-1-1-50 図 主な先進国・地域の経常収支の対GDP 比が示す不均衡の拡大
第1-1-1-50 図 主な先進国・地域の経常収支の対GDP 比が示す不均衡の拡大

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第1-1-1-51 図 主な新興国の経常収支の対GDP 比が示す不均衡の拡大
第1-1-1-51 図 主な新興国の経常収支の対GDP 比が示す不均衡の拡大

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このように、米中2 国間のみならずその他の国々においても、経常収支の黒字幅あるいは赤字幅が拡大しつつ積み重なってきた結果、グローバル・インバランスの拡大につながったことが改めてわかる。

16 大橋英夫(2011)「経済教室 過剰貯蓄の解消カギに」(日本経済新聞2011年2 月24日付)。


2. グローバル・インバランスの持続性について

<中期的な見通し>

既に見たように、米国では経常収支赤字の対GDP比は、2008 年のマイナス4.7% から2009 年のマイナス2.7% へと、危機後にいったん縮小したものの、2010年は同マイナス3.2% へと再拡大した。他方、中国では経常収支黒字の対名目GDP 比は2010年はマイナス5.2% と、2009 年から横ばいで推移しており、2011 年以降の動向が注視されている。

一般に、経常収支の黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるもので、歴史的にも常に存在している。経常収支の赤字はその存在自体が悪い訳ではなく、それが持続困難なものとなった場合に初めて問題を引き起こすと考えられている17, 18

果たして、現在のグローバル・インバランスは持続可能な状況にあるのだろうか。

ここで、新興国の国際収支の動向をみると、経常収支と資本収支が黒字となる一方で、外貨準備高が大きく積み上がっている(第1-1-1-52 図)。こうした外貨準備は、米国債を始めとする流動性の高い安全資産で運用されていると考えられる。米国を中心に先進国で金融緩和が進められ、潤沢となったマネーが高成長を維持する新興国に流入する一方、新興国では外貨準備が拡大し、その運用先として米国を始めとする先進国の国債への投資が進むと、先進国に資金が還流し、長期金利の押し下げ圧力が働く。それとともに19、先進国(米国)の経常収支の赤字がファイナンスされることになる(第1-1-1-53 図)。こうした国際資本フローの循環が続けば、グローバル・インバランスの再拡大が「維持」されていく可能性がある。

第1-1-1-52図 新興国の国際収支
第1-1-1-52図 新興国の国際収支

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第1-1-1-53 図 国際資本フローの循環
第1-1-1-53 図 国際資本フローの循環

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また、IMF の見通しにおいても、グローバル・インバランスの中期的な縮小は見込めないとされ20、それによる持続不可能な財政赤字によるデフォルト、金融機関の不安定化、新興国への資金流入の増加による一層のインフレ等が世界経済を下押しする懸念材料になっていると考えられる。

17 平成22年版通商白書。

18 白川方明日銀総裁は「グローバル・インバランスと経常収支不均衡」(フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにおける講演の邦訳、日本銀行、2011 年2 月18 日)において「経常収支のトレンドは、貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したものであり、経済の発展段階や人口動態に強く左右されます。こうしたトレンドの中で、経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるものであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではありません。経常収支不均衡は、それが持続困難なものとなった場合にはじめて問題を引き起こすものです。」と指摘している。

19 小林俊、吉野功一「新興国への資本流入と米国への資金還流について」(『日銀レビュー』2010年12月)。

20 IMF,World Economic Outlook,April 2011。


<長期的な見通し>
(a) リバランスの可能性

このように、グローバル・インバランスは中期的には維持され、縮小は見込めない、との見方がある一方、長期的には以下の要因によりグローバル・インバランスは縮小に向かう、との見方も示されている。

まず、世界全体の投資需要に占める新興国の割合が上昇し、貯蓄・投資バランスでみて特に新興国での「投資不足」の状況が改善していく、との見方である。世界経済危機の発生後、先進国に比して新興国は高成長を遂げており、今後も新興国経済が先進国経済を上回るペースで成長していけば、新興国の投資もますます拡大していくと予測されている。また、長期的には新興国における予備的な貯蓄が減少するとの見方もある。新興国では、今後の経済の発展を背景に、社会福祉や医療保険等のセーフティネット機能の向上、外国為替市場の整備など金融市場の発展、人口動態の変化(人口増加)による消費拡大の下支え等が予想される。こうした背景により、家計における従来の予備的な貯蓄が減少し、消費へ回す分が増えることで、「貯蓄超過」が改善されると考えられている21

グローバル・インバランスが縮小に向かう可能性を、これまで概観してきた世界経済の動向の中に見い出すとすれば、1.「米国への消費の一極集中」から「消費の多極化」への変化が進むこと、また、「消費の多極化」については特に、2. 中国において輸出主導から個人消費を中心とする内需主導の成長へと経済発展モデルの転換が図られること、3. 中国の消費の高まりにより東アジア域内の自律的な消費の活発化が進み、欧米向け輸出の比率が相対的に低下すること、といった点が挙げられよう。こうした構造的変化が生じることによりグローバル・インバランスのリバランスが進む可能性がある。

なお、経常収支とグローバル・インバランスの関係について、「経常収支は、経済の状況について有益な情報を提供する。しかし、同時に、今次金融危機や過去の危機の経験は、持続困難なグローバル・インバランスの存在を判断する指標として経常収支をそのまま単純に利用することの潜在的なリスクを示している」との指摘もある22

21 Alan Taylor、 Manoj Pradhan「世界経済の大いなるリバランス」(Morgan Stanley Research“The Global Monetary Analyst”2011 年2 月18 日)。同ペーパーでは、この他、新興国では外貨準備の拡大が進んできており、今後は外貨準備の積み増しのペースが低下すると考えられること等も、グローバル・インバランスが長期的に縮小に向かう要因の一つとして指摘されている。

22 白川方明日銀総裁は「グローバル・インバランスと経常収支不均衡」(フランス銀行「Financial Stability Review」公表イベントにおける講演の邦訳、日本銀行、2011 年2 月18 日)において、「グローバル・インバランスの評価」として、「経常収支は、経済の状況について有益な情報を提供する。しかし、同時に、今次金融危機や過去の危機の経験は、持続困難なグローバル・インバランスの存在を判断する指標として経常収支をそのまま単純に利用することの潜在的なリスクを示している」と指摘。


(b) 米国の経常収支赤字の持続性に対する懸念

米国が抱える巨額の経常収支赤字を新興国が長期的にファイナンスし続けることは可能なのかどうか、議論が分かれるところであるが、今後も長期にわたって経常収支の赤字が拡大し続けることには、幾つかの点で懸念があると指摘されている。

まず、米国の対外資産と負債の構成に起因する懸念である。米国は対外純負債国であるにもかかわらず、所得収支は黒字(インカムゲイン)であり、さらに、先行研究によれば、資産価値の上昇による巨額の利益(キャピタルゲイン)を得ている。対外総資産と総負債が1990 年代以降急速に拡大してきた中で、米国の対外総資産の多くが直接投資や株式などの形態で保有されている一方、対外総負債は財務省証券や債券、銀行融資の割合が高く、負債と資産のリスク・収益率の差によりキャピタルゲインを得ている構図となっている。しかも、対外負債の大半がドル建てで為替変動の影響を受けない一方、対外資産の多くは外貨建てであることから、ドル安が進展する局面では、対外資産はドル表示で増価することになる。こうして得られたキャピタルゲインが、米国の対外ポジションの悪化を緩和ないし改善してきたとされている23

こうした対外資産運用の「成功」は必ずしも継続可能とは言えない。例えば、2008 年の世界経済危機には大きなキャピタルロスを計上したように、ボラティリティーが高く脆弱な面がある。また、為替がドル高に進む局面では、対外債務の拡大にもつながる。こうした相対的にリスクの高い資産運用にかんがみれば、将来的には米国が巨額の経常収支赤字を出し続けることへの修正を迫られる可能性がある24

更に、海外による米国債保有比率の推移をみると、2000 年以降は上昇傾向で推移していたが、2008 年第4四半期(51.3%)をピークに低下傾向に転じ、2010 年第2 四半期には46.6% まで減少した(第1-1-1-54 図)。翌第3 四半期にはいったん持ち直したが、第4 四半期には、再び低下して46.9% となった。これは、米国内の貯蓄率の上昇を背景に米国内での国債保有比率が高まるとともに、金融危機を経てドルの基軸通貨としての地位の揺らぎが深まったとの認識等を背景に、諸外国において、従来のドル建て中心の外貨準備の運用を多様化させる動きがあることを示唆しているとも考えられる25。そうした動きを国内の貯蓄率の高まりによりカバーできている場合は良いが、今後、諸外国において外貨準備の運用の多様化がより一層進むと、従来のように、日本、ドイツ、ユーロ圏、中東産油国や中国をはじめとするアジア新興国が米国債を購入し、それによって米国の財政赤字(経常収支赤字)がファイナンスされる、という在り方が持続可能かどうか、懸念が生じる26

第1-1-1-54 図 米国債の海外保有比率の推移
第1-1-1-54 図 米国債の海外保有比率の推移

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金融の国際化が進展した現在、グローバル・インバランスは、単に米国の経常収支赤字とそれをファイナンスしている一部の先進国及び新興国との関係が持続するかどうか、という局所的な問題にとどまらない。他の先進国はもとより、新興国を含む他の開発途上国に対する影響を含めた世界経済の問題であり、それゆえに、グローバル・インバランスの再拡大は、今後の世界経済の持続的な成長にとっての懸念材料となっている。先の「国際資金フローの循環」がひとたび崩れれば、世界経済は大きく不安定化しかねない27

23 岩本武和『金融危機とグローバルインバランス−米国の高レバレッジ型対外ポジションの脆弱性を中心にして−』(国際調査室報、2009年11 月第3 号)。

24 岩本武和『金融危機とグローバルインバランス−米国の高レバレッジ型対外ポジションの脆弱性を中心にして−』(国際調査室報、2009年11 月第3 号)は、「キャピタルゲインに依存してきた米国の対外不均衡の持続可能性は、金融危機後に巨額のキャピタルロスを計上したことからも明らかなように、米国が一国全体のバランスシートで抱えている脆弱性でもある」「もしも「金融立国」という国家目標があり、それが個別の金融機関のみならず、一国全体の対外ポジションに高いレバレッジをかけ、所得収支(インカムゲイン)のみならず、キャピタルゲインに依存した対外ポジションを目指すこと通じるのであれば、対外バランスシートの健全性という観点から疑問なしとしない」と指摘している。

25 平成22年度版通商白書。

26 新興国の中央銀行が「適切な水準にまで外貨準備を積みますことができた」と判断すれば、新興国の外貨準備の伸びが鈍化するとの見方もある(Alan Taylor、 Manoj Pradhan「世界経済の大いなるリバランス」Morgan Stanley Research“The Global Monetary Analyst”2011年2月18日)。

27 なお、経常収支の不均衡が調整されるとした場合、その過程における米ドル為替レートの調整については、先行研究では主に、1. 経常収支不均衡はいずれゼロ均衡に向かい、ドルレートの大幅な調整が伴う、2. 経常収支不均衡はある程度の期間持続し、ドルレートの調整は緩やかにとどまる、との2つの分析に分類されると指摘されている(萩原景子『経常収支不均衡の調整過程: 近年の理論的分析の展望』(日本銀行金融研究所「金融研究」、2008年12月))。


3. リバランスに向けたアジア新興国への期待

これまで見てきたように、グローバル・インバランスの拡大に伴うリスクを踏まえると、今後は従来のように、米国の消費に過度に依存する形での各国・地域の経済成長は期待できない。

したがって、今後の世界経済の成長を牽引するエンジン(消費市場)として、中国やインドをはじめとするアジアの新興国への期待がますます高まっている。

ただし、世界のGDP に占める経済規模において、先進国は66%、新興国は34% と、その差は大きい。国の経済規模で見ても、世界のGDP に占める米国の割合は23.3% であるのに対して、中国は9.3%、インドは2.4% にとどまっている(前出第1-1-1-3 図)。従って、米国をはじめとする先進国の景気回復は世界経済全体の復調の前提であり、今後、世界経済が均衡のとれた力強い持続的成長を遂げるためには、先進国、新興国ともに経済成長してゆく姿が期待される。

中国をはじめとする新興国においては、消費中心の高い経済発展によって、中間層、富裕層が急速に拡大している28。それに伴い、今後は内需中心のより自律的かつ持続的な経済成長の実現が期待されるとともに、新興国による輸入が促進され、ひいては再拡大しつつあるグローバル・インバランスの是正に寄与することが望まれる。

28 平成22 年度版通商白書。





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