第4章 東日本大震災から垣間見える我が国と世界の通商・経済関係

第1節 震災が我が国の生産及び貿易に及ぼし得る影響

2.被災地域からの直接的な輸出入の影響

(1)被災地域の貿易額の実相

まず、被災地域に所在する税関等の貿易拠点で直接行われている輸出入が、我が国全体の輸出入に占める割合をみるため、本震災により業務処理の全部又は一部が一時的に行えなくなった税関官署3 の所在する県(青森県、岩手県、宮城県、福島県及び茨城県の5 県、以下被災5 県という。)の2010 年の貿易動向を貿易統計から確認した(第4-1-2-1 表)。

第4-1-2-1表 被災5 県の2010 年の貿易動向
第4-1-2-1表 被災5 県の2010 年の貿易動向

我が国全体では、2009 年の貿易額の減少から一転して、2010 年は輸出入とも2 割程度の増加と大きく持ち直したが、被災5 県の貿易額は全国平均を上回る勢いで鋭角的に回復(輸出は前年比39.0%増、輸入は同19.4%増)しており、さらに2011 年に入っても拡大傾向が継続していたところであった。しかしながら、貿易の絶対額をみると、被災5 県からの2010 年の貿易額は輸出が約1 兆3,800 億円、輸入が約2 兆4,300 億円であり、我が国全体に占める割合は輸出で約2%、輸入で約4%にとどまる。

さらに、税関官署の所在する港ごとの2010 年の貿易額及び本震災直後の税関業務の稼働状況をみた(第4-1-2-2 表)。これらの港のうち、2011 年3 月17 日時点で稼働が全部又は一部停止していた拠点の2010 年の貿易額を積み上げると、輸出額が約5,700 億円(全体の0.85%)、輸入額が約1 兆1,200 億円(同1.84%)となり、被災5 県全体の貿易額の半分以下となり、我が国全体の貿易額に占める割合はさらに少なくなる。また、同時点で稼働が全部停止していた拠点にさらに限定すれば、輸出額は約1,200 億円(同0.18%)、輸入額は約5,200 億円(同0.86%)とさらに少なくなる。

以上より、被災地域における直接的な貿易額だけから判断すると、我が国「全体」の貿易に占める割合は少ないことから、我が国の貿易全体への影響は限られたものになる可能性が大きい。

第4-1-2-2表 被災5 県に所在する港の2010 年の貿易動向
第4-1-2-2表 被災5 県に所在する港の2010 年の貿易動向

3 被災5県に所在する税関官署は、函館税関及び横浜税関の2 管内に管轄が分かれており、以下のとおりである。
函館税関管内
(青森県) 八戸税関支署、青森税関支署、同青森空港出張所
(岩手県) 宮古税関支署、大船渡税関支署、同釜石出張所
横浜税関管内
(宮城県) 仙台塩釜税関支署、同塩釜事務所、同石巻出張所、同気仙沼出張所、仙台空港税関支署
(福島県) 小名浜税関支署、同相馬出張所、同福島空港出張所
(茨城県) 鹿島税関支署、同日立出張所、同つくば出張所、同茨城空港事務所
東日本大震災直後の2011年3 月17日時点において、上記税関官署のうち、函館税関管内では、岩手県内全官署の業務処理がすべて停止しており、青森県内でも八戸税関支署の業務処理の一部が停止していた。横浜税関管内では、宮城県内の官署が仙台塩釜税関支署塩釜事務所の窓口での対応を除いてすべての業務処理が停止し、福島県内でも小名浜税関支署福島空港出張所以外の官署の業務処理がすべて停止していた。茨城県内では、それまで鹿島税関支署日立出張所で一部の業務処理が行えなかったが、同日から通常どおりの業務処理が可能となり、すべての官署で通常の業務処理が可能となった(以上、財務省函館税関「函館税関業務稼働情報」(更新日時2011年3 月17日17時)、横浜税関「横浜税関業務稼働情報」(更新日時2011 年3 月17 日17 時)及び「東北地方太平洋沖地震 被災税関官署での保税・通関関係手続きについて(一部復旧のお知らせ)」(2011年3 月17日一部変更)より)。
ただし、その後急速に復旧がなされ、各官署において次々に業務の再開が図られている(上記各税関の「業務稼働情報」の最新版より)


(2)被災地域の品目別の貿易状況にみる世界貿易への影響

一方で、特定の品目の貿易においては、被災5 県からの輸出が一時的に停止することによって、世界貿易に部分的に大きな影響を及ぼすことも考えられる。そこで、2010 年の被災5 県の港ごとの輸出動向について、品目別及び輸出先国別の動向をみた。

まず、2011 年3 月17 日時点で税関の業務処理の全部が停止していた港からの輸出品目のうち、2010 年合計で我が国全体の輸出に占める割合の高いものを整理した4(第4-1-2-3 表)。これらの港から、全国比で10%を超える輸出を行っていた品目は6 品目存在した。各品目は、1.小名浜港からの「塩化ビニル類(塩化ビニリデンの重合体)」(全国比53.9%、輸出額3,840 万ドル、主な輸出先:中国(全世界からの輸入の33.4%)・ベトナム)、2.石巻港からの「紙製品(パルプ含有量10%以上)」(全国比42.6%、輸出額約9,910万ドル、主な輸出先:オーストラリア(全世界からの輸入の80.3%)・ニュージーランド・韓国)、3.大船渡港からの「紙製品(プラスチックを塗布したもの)」(全国比18.9%、輸出額4,660 万ドル、主な輸出先:オランダ、米国、中国)、4.釜石港からの「鉄鋼製品(鉄又は非合金鋼の棒(横断面が円形のもの))」(全国比16.7%、輸出額1 億150 万ドル、主な輸出先:中国、米国、マレーシア)、5.仙台空港からの「携帯用時計のムーブメント」(全国比16.7%、輸出額1,640 万ドル)、6.同空港からの「水産物(えび、かに等以外)の調製品」(全国比11.0%、輸出額5,430 万ドル)である。また、相馬港からの「ターボジェット又はターボプロペラの部分品」も全国比8.5%であり、うち6 割超が米国向けであるが、米国における当該品目の相馬港からの輸入割合(全世界からの輸入に対して)は1.0%程度にとどまる。

第4-1-2-3表 被災の大きかった港からの輸出上位品目(2010 年合計、HSコード6 桁ベース)
第4-1-2-3表 被災の大きかった港からの輸出上位品目(2010 年合計、HSコード6 桁ベース)

次に、2011 年3 月17 日時点で税関の業務処理の一部が停止していた港(八戸港、仙台釜石港)及び正常稼働していた港のうち被災5 県の太平洋側の主要港(鹿島港、日立港)からの輸出品目のうち、2010年合計で我が国全体の輸出に占める割合の高いものを整理した(第4-1-2-4 表)。これらの港からの輸出額が1 億ドル以上の品目であり、かつ全国比で10%を超える輸出を行っていた品目は9 品目存在した。各品目は、1.八戸港からの「フェロニッケル」(全国比91.0%、輸出額5 億7,510 万ドル、主な輸出先:台湾、韓国、中国、インド)、2.仙台塩釜港からの「タイヤ(乗用自動車用のゴム製空気タイヤ)」(全国比19.4%、輸出額6 億7,150 万ドル、主な輸出先:米国、カナダ、ドイツ、英国等)、3.鹿島港からの「鉄管(油又はガスの輸送用ラインパイプ)」(全国比32.1%、輸出額3億530 万ドル、主な輸出先:マレーシア、サウジアラビア、フランス、UAE 等)、4.同港からの「塩化ビニル(混合なし)」(全国比24.1%、輸出額1 億5,960 万ドル、主な輸出先:中国(全体の約6 割))、5.同港からの「パラキシレン」(全国比20.1%、輸出額4 億7,660万ドル、主な輸出先:台湾、韓国、中国)、6.同港からの「鉄鋼製品(鉄又は非合金鋼のフラットロール製品(厚さが10 ミリメートルを超えるもの))」(全国比17.8%、輸出額4 億6,000 万ドル、主な輸出先:韓国(全体の約7 割))、7.日立港からの「ダンプカー」(全国比81.4%、輸出額7 億2,250 万ドル、主な輸出先:インドネシア(全体の約6 割))、8.同港からの「メカニカルショベル等(上部構造が360 度回転するもの)」(全国比14.4%、輸出額10 億2,280 万ドル、主な輸出先:中国、オーストラリア、オランダ、インドネシア等)、9.同港からの「フロントエンド型ショベルローダー」(全国比13.3%、輸出額1 億3,080 万ドル)である。

第4-1-2-4表 被災のあった主な港からの輸出上位品目(2010 年合計、HSコード6 桁ベース)
第4-1-2-4表 被災のあった主な港からの輸出上位品目(2010 年合計、HSコード6 桁ベース)

個別の品目としては、我が国全体の輸出に占める割合の高い品目や、輸出先における依存度の高い品目が10 数品目ほど存在することが確認され、これらについては影響の度合いが大きくなることも想定される5。しかしながら、被災地域での自動車部品や電子部品等の生産や物流が停滞することによる、グローバルサプライチェーンへの大きな影響については、当該地域からの直接の輸出のみで判断する限りでは、我が国全体の輸出に占める割合としては相対的に少ないことがわかる。

なお、被災地域で生産された製品が、当該地域以外の港湾や空港から輸出されることもある。実際に、東北地域の自動車部品や電子部品産業は、地域の幹線道路である国道4 号線や東北自動車道沿いに造成された工業団地内に関連企業が多く立地しており、製品が京浜港や成田空港といった関東地域の貿易拠点経由で輸出されることも考えられる。そこで、輸出貨物の物流動向をみる(第4-1-2-5 表)と、関東地域の輸出拠点である東京港、横浜港、成田空港から輸出される貨物の生産地は基本的に関東地域であり、北海道・東北地域が生産地である割合は東京港で10.0%、横浜港で4.0%、成田空港で10.3%と全体に占める割合としては少ない。また、名古屋港からの東北地域の生産品の輸出はさらに少なくなっている。一方、コンテナ貨物の流動状況をみる6 と、北海道・東北地域で生産された貨物のうち、28.1%は関東地域でコンテナ詰めされている(自地域内は68.4%)。また、北海道・東北地域内でコンテナ詰めされた貨物についても、約半分は横浜港(全体の26.9%)、東京港(全体の26.1%)といった関東地域の港湾から船積みされている。特に、東北地域で生産された自動車部品の輸出については、他地域の港湾から輸出される比率が約4 分の3 と高く、主に関東地域の港湾から輸出されており、特に福島県や宮城県といった関東地域への交通アクセスの利便性が高い県は比率が高い(第4-1-2-6 表)。しかし、我が国全体の自動車部品の輸出に占める割合をみる(第4-1-2-7 表)と、やはり東北地域からの輸出は全体の1%程度であり、北関東3 県(茨城県、栃木県、群馬県)を合わせても6.6%程度である。つまり、国内物流網の整備により、被災地域から関東地域等、他地域を経由した輸出分を考慮しても、全体の輸出量に占める割合は少ない。

第4-1-2-5表 北海道・東北地域を生産地とする貨物の主要積出港・空港からの輸出
第4-1-2-5表 北海道・東北地域を生産地とする貨物の主要積出港・空港からの輸出

第4-1-2-6表 東北地域を生産地とする自動車部品の輸出地域
第4-1-2-6表 東北地域を生産地とする自動車部品の輸出地域

そこで、被災地域での生産製品が、他の地域の生産を「中間投入」として支えており、この「中間投入」に支障が生じることによって、グローバルサプライチェーンに影響を及ぼす、いわば「間接輸出」の減少による影響について、次節で分析する。

第4-1-2-7表 我が国から輸出される自動車部品の生産地別の割合
第4-1-2-7表 我が国から輸出される自動車部品の生産地別の割合

4 各個別品目の輸出先国における貿易データと突き合わせるため、Global Trade Information Services, Inc. の「World Trade Atlas」を用いて抽出し、輸出額の単位はドルとしている。「全国比」は、当該品目における「当該港の輸出額/全国の輸出総額」の値である。なお、HS コード「000000」は除いている。

5 これら品目の生産主体と思われる各企業は、被災により生産を停止していたところが多いが、その後の不断の復旧活動により、急速に生産活動を開始しつつあり、既に完全復旧を遂げた企業も数多く存在する。

6 国土交通省(2009)「平成20年度全国輸出入コンテナ貨物流動調査報告書」から引用。





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