第1章 世界経済の動向

第3節 底堅く推移するも先行き不透明な米国経済

2.貿易・投資動向

2011年、世界経済が減速する中で米国の年間輸出・輸入額は共に増加した。実質ベースで輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったことにより、純輸出(外需)のマイナス額は縮小し、2年ぶりに成長を押し上げる要因となった(前掲第1-3-1-1図)。ただ、今後海外の需要減退が米国輸出の成長への重石となるリスクは残っている。

雇用創出を最重要課題に掲げるオバマ政権は、経済回復に向けた財政出動の余地が限定的な中で通商政策を重視しており、雇用増につながる輸出や対内直接投資促進のための対策を打ち出している。以下では、米国の貿易・投資に関する動向を概観すると共に、関連する政策を整理する。

(1)経常収支

1. 経常赤字の主因となる財貿易赤字

2011年の経常赤字は4,734億ドル(前年比0.5%増)と、2年連続で拡大した。所得収支及びサービス貿易収支の黒字が過去最大となった一方で、財貿易収支の赤字が拡大した。名目GDP比では3.1%と、前年から0.1%ポイント縮小した(第1-3-2-1図)。

第1-3-2-1図 米国の経常収支の推移(対名目GDP比)
第1-3-2-1図 米国の経常収支の推移(対名目GDP比)

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財貿易収支の動向を主要相手国別にみると、対中貿易赤字が大規模な水準で推移している。2011年の対中赤字は過去最大となった(第1-3-2-2図)。

第1-3-2-2図 米国の財貿易収支の推移(主要相手国・地域別)
第1-3-2-2図 米国の財貿易収支の推移(主要相手国・地域別)

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2. 対外純資産の増減に影響を与えるキャピタルゲイン

米国は長年経常赤字を出し続けている(ネットで米国への資本流入が続く)にもかかわらず、2009年の対外純債務残高は前年比で減少している(第1-3-2-3図)。これには、資産価格の変化や為替レートの変動によって生じるキャピタルゲインが影響している147。すなわち、@米国の対外資産の価格変動が外国の対米資産の価格変動を上回ったこと、A為替相場がドル安に振れたことで、米国の対外資産のドル評価額が増加したこと、Bその他の評価調整、によって、合計で対外純債務の減少がもたらされた(第1-3-2-4図)。

147 「経済産業省(2010)『通商白書2010』第1章第1節2(.1)A(a)」及び「経済産業省(2011)『通商白書2011』第1章第1節1(.4)A(b)」を参照。


第1-3-2-3図 米国の対外純資産残高の推移
第1-3-2-3図 米国の対外純資産残高の推移

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第1-3-2-4図 米国の対外純資産残高増減の要因分解
第1-3-2-4図 米国の対外純資産残高増減の要因分解

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一方、2010年は価格変動による押し上げ効果が前年から縮小し、為替相場変動も押し下げ要因に転じたことから、対外純債務残高は前年比で増加した。

3. 一貫して黒字を計上する所得収支

米国の対外資産は相対的に収益率の高い直接投資や株式の構成比が高い148一方、負債は相対的に利回りが低い米国債などの構成比が高い(第1-3-2-5表)。これにより米国は巨額のキャピタルゲインを稼ぎ出し、一貫して所得収支黒字を計上している(第1-3-2-6図)。

148 2011年の米国の所得受取の65%は直接投資による。


第1-3-2-5表 米国の対外資産・負債の構成(2010年末)
第1-3-2-5表 米国の対外資産・負債の構成(2010年末)

第1-3-2-6図 米国の所得収支の推移
第1-3-2-6図 米国の所得収支の推移

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なお、直接投資による所得受取の多くは、再投資収益として海外に留保されている(第1-3-2-7図)。2005年には本国投資法149により資金が米国内に流入したが、2006年以降は再び留保される額が増加しており、2011年は直接投資による所得受取の73%が海外に留保された。

149 本国投資法(Homeland Investment Act)は、米国内への資金還流促進を目的として2004年10月に成立した。2005年に限り、米多国籍企業の利益や配当金などを米国内に送金する場合、米国内における再投資目的であるなど一定の要件を満たすときは、その額の85%を所得控除する措置を実施することにより、米国内での投資を促した(例えば、法人税率が35%であることから、対象となる配当金などに対する実効税率は5.25%((1−0.85)×0.35)と計算される)。


第1-3-2-7図 米国の直接投資収益の推移
第1-3-2-7図 米国の直接投資収益の推移

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(2)貿易

1. 輸出入

2011年の輸出(財+サービス、国際収支ベース、輸入も同じ)はドル安の影響も受けて拡大し、輸入と共に過去最高額を記録した。一方、2011年の貿易赤字は5,600億ドル(前年比12.0%増)と、2年連続で赤字幅が拡大した(第1-3-2-8図)。

第1-3-2-8図 米国の貿易収支の推移
第1-3-2-8図 米国の貿易収支の推移

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財の輸出入の動向を品目別150(通関ベース)でみると、2011年は輸出入共に全品目で前年を上回った(第1-3-2-9図、第1-3-2-10図)。輸出の伸び(前年比15.8%増)には工業用原材料が大きく寄与しており(寄与度8.4%ポイント)、主な内訳は燃料油などの石油製品や非貨幣用金であった。

150 米国商務省の分類。HS分類を基に6つのEnd-Use Categoryを設定している。


第1-3-2-9図 米国の財輸出額の推移(品目別)
第1-3-2-9図 米国の財輸出額の推移(品目別)

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第1-3-2-10図 米国の財輸入額の推移(品目別)
第1-3-2-10図 米国の財輸入額の推移(品目別)

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輸入(前年比15.4%増)も同様に工業用原材料が大きく寄与しており(寄与度8.0%ポイント)、主な内訳は原油や燃料油などの石油製品であった。中でも工業用原材料の4割以上を占める原油輸入額の伸びが大きく(第1-3-2-11図)、これには価格の上昇が影響している。原油輸入量は2005年以降減少傾向にあるものの大きな変化はない。一方、原油単位価格は2008年にかけて上昇した後2009年に一旦低下したが、2010年からは再び上昇している。これにより2011年の原油単位価格は2001年の4.7倍に達し、その結果、原油輸入額も2001年の4.5倍に達した(第1-3-2-12図)。

第1-3-2-11図 米国の工業用原材料の輸入額の推移(主要品目別)
第1-3-2-11図 米国の工業用原材料の輸入額の推移(主要品目別)

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第1-3-2-12図 米国の原油輸入量、輸入額及び単位価格の推移(2001年=100)
第1-3-2-12図 米国の原油輸入量、輸入額及び単位価格の推移(2001年=100)

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2. 輸出倍増計画の進捗

オバマ大統領が2010年1月の一般教書演説で発表した輸出倍増計画(2009-2014年の5年間で輸出を倍増し、雇用増に貢献する。)151の達成には、年15%増のペースが必要である。2011年の輸出額(財+サービス、国際収支ベース)は前年比14.6%増であり(第1-3-2-13図)、オバマ大統領が2012年2月に議会に提出した大統領経済報告(CEA(2012))では「グローバル経済の減速にも関わらず、米国の財・サービス輸出は経済危機前のピークを上回っており、2014年までの輸出倍増計画達成に必要なペースを上回る早さで拡大している。」との認識が示された152

151 オバマ大統領は2010年3月、輸出倍増計画の達成に向けた国家輸出戦略(NationalExportInitiative)を立ち上げた。「経済産業省(2011)『通商白書2011』第1章第1節2.米国経済(1)A(a)」を参照。

152 同報告書はこの早い拡大ペースの要因として、製造業の生産性の向上が続いており他の先進国よりも単位労働コストが大きく低下していることや、エネルギー分野における技術革新により石油製品の貿易収支が改善していることを挙げている。


第1-3-2-13図 米国の輸出額(財・サービス)の推移
第1-3-2-13図 米国の輸出額(財・サービス)の推移

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また、更なる輸出倍増計画の実現に向けて、オバマ政権は2012年2月に、輸出促進のための新たな政策(輸出信用の拡充、省庁再編、米国ビジネスへのアクセスを容易にするウエブサイトの創設など)を公表した(第1-3-2-14表)153他、不公正貿易慣行を調査するための新しい貿易執行ユニットである省庁間貿易執行センター(ITEC Interagency Trade Enforcement Center)を通商代表部(USTR)内に創設した154

153 クリントン国務長官は2012年2月に米国で開催された世界ビジネス会議の基調講演で、「雇用外交(Jobs Diplomacy)を国務省の優先ミッションとする。」と表明し、1.米国ビジネスのプロモーション活動、2.米国への投資誘致、3.海外マーケットを公正な競争の場とするための支援、の3方針を挙げた。

154 2012年1月の一般教書演説にてITECの創設が初めて発表されていた。


第1-3-2-14表 米国の輸出促進のための新たな政策(2012年2月発表)
第1-3-2-14表 米国の輸出促進のための新たな政策(2012年2月発表)

オバマ政権は貿易協定締結への取組も強化している。2012年には韓国(3月15日)及びコロンビア(5月15日)との自由貿易協定(FTA)が発効した(パナマとも2011年10月にオバマ大統領署名済み)。特に米韓FTAは米国にとって1994年1月の北米自由貿易協定(NAFTA)以来の大型貿易協定となり、輸出増及び雇用創出効果が期待されている155。また、多国間FTAである環太平洋経済連携協定(TPP)についても交渉が進められている。

このような中、オバマ政権は製造業の国内回帰への支援を本格化している。2012年1月の一般教書演説では、製造業支援を経済対策の柱の一つとして挙げた他、2月に提出した2013会計年度予算教書でも、国内製造業の長期的な競争力確保の支援を表明した。

米国商務省が2012年1月に発表した報告書「The Competitiveness and Innovative Capacity of the United States」156は米国における製造業の重要性について以下を挙げている。すなわち、製造業の雇用増は農業、建設業、サービス業など他の分野の雇用増に間接的な効果をもたらしていること、製造業は平均よりも賃金が高いこと、米国の輸出品の多くを製造業が占めていること157、製造業が米国の研究開発に大きく貢献していること、などである。また、オバマ政権は2月に発表した法人税改革案158の中で現在35%の連邦政府の税率を28%に下げる他、製造業については実効税率を25%以下に下げる方針を盛り込んだ。

以下では、財、サービス別に輸出動向を概観する。

155 米国通商代表部(USTR)によると、米韓FTAにより米国の財輸出が年間に約110億ドル増加し、約7万人の雇用を支援する効果があるとされる。(http://www.ustr.gov/uskoreaFTA/discover_new_opportunities

156 U.S. Department of Commerce(2012)

157 標準国際貿易分類(SITC)によると、製造品は2011年の米国の商品輸出額の75%を占めているが、その割合は2004年の86%から低下傾向にある。

158 The White House and the Department of the Treasury(2012)


(a)財輸出

2011年の財輸出は後半にかけて前年同月比の増加ペースが鈍化した。

品目別159でみると、工業用原材料の伸びの鈍化が顕著であり、食料・飼料・飲料の輸出は2011年12月以降減少に転じている(第1-3-2-15図)。また、地域別でみると、アジア・太平洋及び欧州向け輸出の伸びの鈍化が顕著であり、欧州経済減速の影響がうかがえる。(第1-3-2-16図)。

159 脚注150と同じ(米国商務省の分類)。


第1-3-2-15図 米国の財輸出額(前年同月比)の寄与度分解(品目別)
第1-3-2-15図 米国の財輸出額(前年同月比)の寄与度分解(品目別)

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第1-3-2-16図 米国の財輸出額(前年同月比)の寄与度分解(地域別)
第1-3-2-16図 米国の財輸出額(前年同月比)の寄与度分解(地域別)

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長期的な動向としては、米国の輸出相手国としての新興国の重要性が増している。2001年から2011年の米国からの財輸出額の変化を主要国別に見ると、北米自由貿易協定(NAFTA)締結国であり輸出先第1、2位のカナダ及びメキシコはそれぞれ1.7倍、2.0倍に伸びた。これに対して、中国は5.4倍、ブラジルは2.7倍、インドは5.8倍と、他の主要国に比較して大きく伸びた(第1-3-2-17図)。また、米国からの財輸出額の推移を先進国と新興国向けに分けると(地域を含む)、新興国・地域向け財輸出のシェアは年々拡大しており2011年は44.6%を占めるに至っている。(第1-3-2-18図)。

第1-3-2-17図 米国の財輸出額の変化(主要国別、2001年→2011年)
第1-3-2-17図 米国の財輸出額の変化(主要国別、2001年→2011年)

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第1-3-2-18図 米国の財輸出額の推移(対先進国・地域及び新興国・地域)
第1-3-2-18図 米国の財輸出額の推移(対先進国・地域及び新興国・地域)

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(b)サービス輸出

サービス輸出は輸出額全体の約3割を占めている。2011年のサービス輸出は6,077億ドルと過去最高額を記録した。そのうち民間サービス輸出は5,888億ドル160で、項目別にみると、「ビジネス、専門、技術サービス」、「ロイヤリティー、ライセンス料」、「旅行」が主力となっている(第1-3-2-19図)。

160 民間サービス輸出としても過去最高額を記録した。


第1-3-2-19図 米国の民間サービス輸出額の推移(項目別)
第1-3-2-19図 米国の民間サービス輸出額の推移(項目別)

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オバマ政権は製造業だけではなく、サービス業も有力な輸出産業として重視している。国際収支統計においてサービス貿易収支は所得収支と共に黒字を計上しており、黒字額は増加傾向にある。これを踏まえて2012年大統領経済報告(CEA(2012))は「連邦政府の政策当局者は、経常収支をより健全にするためには財輸出を奨励するだけではなく、サービス貿易の重要な役割を拡大する必要性を認識している。」としており、その一例として、ブラジルや中国に対してビザ手続を拡大することなどにより、米国への観光や旅行を促進する方針を示している。また同報告は、他の民間サービス(ビジネス、専門、技術サービスなど)やロイヤリティー、ライセンス料のような技能集約サービスの黒字が突出していることについて、「高等教育を受けた労働者の豊富な供給の結果としての、技術先進国である米国の比較優位に適合している。」と指摘している。

輸出相手国別では、依然としてカナダや欧州などの先進国が上位を占めている(第1-3-2-20図)。これについて同報告は、「大規模な新興国マーケットの所得レベル向上による急速な経済成長に伴い、今後米国から新興国へのサービス輸出も成長するだろう」との見通しを示している。

第1-3-2-20図 米国の民間サービス輸出額の推移(主要国別)
第1-3-2-20図 米国の民間サービス輸出額の推移(主要国別)

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(3)直接投資

オバマ政権は外国企業からの対内直接投資の促進にも力を入れている。2011年6月、オバマ大統領は米国への投資促進のための政府全体プログラムであるSelectUSA161イニシアティブを設立する大統領令を出した。

同月、大統領経済諮問委員会(CEA)は「2010年の米国に対する直接投資が2,280億ドルとなり、前年の1,530億ドルから49%急増した。」と発表した。欧州、日本、カナダを本拠地とする企業からの投資が約90%を占めており、CEAによると、これらの外国企業は米民間部門の5%に当たる570万人を雇用するなど、米経済活動への重要な役割を担っている162

また、2011年10月には、大統領諮問機関である雇用競争力会議163が、今後5年間で1兆ドルの投資を呼び込むための国家投資イニシアティブ(National Investment Initiative)を創設するよう政府に提言している164

米国に対する直接投資の過半が欧州からのものであり、その他はほとんどがカナダ又はアジア大洋州からのものである。2011年の対内直接投資は2,200億ドルと、前年比3.6%減となった。欧州からの投資が18.0%減少したことが影響した(第1-3-2-21図)。

161 初の連邦政府主導による投資促進システム。具体的には、情報提供、外国投資家からの問い合わせの受付、投資家と米国各州の投資機関の橋渡しなどを行う。(http://selectusa.commerce.gov/

162 オバマ大統領は声明で「外国からの直接投資を促進することは、景気回復を加速させるための重要な機会だ」と指摘した。

163 雇用創出と米企業の国際競争力強化を目的に2011年1月に新設された。議長はGEのイメルトCEO。

164 President's Council On Jobs and Competitiveness「Jobs Council Recommendations A National Investment Initiative」(http://files.jobs-council.com/files/2011/10/JobsCouncil_NII.pdf


第1-3-2-21図 米国の対内直接投資額の推移(地域別)
第1-3-2-21図 米国の対内直接投資額の推移(地域別)

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一方、米国からの対外直接投資も、半分程度は欧州向けであり、その他カナダ、アジア大洋州に加え、中南米向けも多い。2011年の対外直接投資は3,838億ドルと前年比16.7%増であった。アジア大洋州向け投資が35.5%減少したが、欧州向け投資が15.4%増加するなど、2年連続での増加となった(第1-3-2-22図)。

第1-3-2-22図 米国の対外直接投資額の推移(地域別)
第1-3-2-22図 米国の対外直接投資額の推移(地域別)

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