第1章 世界経済の動向

第5節 その他のアジア経済

2.韓国経済

(1)経済の概況

2011年の韓国経済は、前半は緩やかな回復が続いていたが、2011年中頃から欧州債務危機の再燃から、欧州向けを中心に輸出が減速を始めた。秋頃には欧州金融機関等海外投資家のリスク回避傾向が強まり、韓国をはじめとするアジア諸国からの資本引揚げ、それに伴う韓国ウォンの急落、外貨準備の減少等が生じ、景気減速の動きが顕著となった。最近は一部に持ち直しの動きも見られるが、足踏み状態が続いている。ここではGDPをはじめとする主要な経済指標の動向を見ていく。

(GDP)

実質GDP伸び率(季調済み前期比)の推移を見ると、2010年は3四半期連続で鈍化した(第1-5-2-1図)。需要項目別には、輸出の減速が経済を押し下げている。ただ、生産低下に伴う中間財輸入の減少や国内需要の減速によって輸入も鈍化したため、純輸出としてはプラスの寄与が続いた。また、企業は、輸出の先行き懸念から設備投資を縮小させたため、固定資本形成も次第に低下した。このような中で民間消費も減速し、景気の下支えをしていた政府消費も息切れして、2011年の第4四半期は、固定資本形成、民間消費、政府消費がそろって前期比マイナスに転じている。2012年に入ると、第1四半期(速報)は、内需の各項目がプラス成長に回復し、全体のGDP伸び率はやや上昇したものの、第4四半期の反動とも考えられること、低い伸び率に止まることから、依然として楽観できない状況が続いている。

第1-5-2-1図 韓国の実質GDP伸び率(前期比)の推移
第1-5-2-1図 韓国の実質GDP伸び率(前期比)の推移

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(消費)

小売売上高指数の動きを見ると、2011年前半は上昇傾向にあったが、韓国からの外国資本引揚げ、韓国ウォンの急落等が生じた9月に大きく低下し、その後は一進一退を繰り返している169(第1-5-2-2図)。

169 2012年2月に、一時的に指数が上昇しているが、3月には元の水準に戻っており、季節要因の影響が考えられる。韓国では、旧暦によって正月休暇が決められるため、年によって休暇日が変動する。2011年は2月、2012年は1月に正月休暇があったため、2012年の1月は営業日が前年に比べて減少し、反対に2月は増加した。


第1-5-2-2図 韓国の小売売上高指数の推移
第1-5-2-2図 韓国の小売売上高指数の推移

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(投資)

設備投資指数も、2011年9月に外国資本の引揚げ、韓国ウォンの急落等が生じた直後に大きく低下した(第1-5-2-3図)。その後、やや水準を戻したが低調に推移した。2012年に入ってからも1、2月は上昇したものの、3月に再び低い水準に戻っている。また、製造業の平均稼働率も、2011年後半は緩やかに低下しており、2012年初頭は一時的に上昇するが3月に低下するなど、積極的に設備投資を行うには、厳しい環境が続いている。

第1-5-2-3図 韓国の設備投資指数の推移
第1-5-2-3図 韓国の設備投資指数の推移

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(外需)

輸出入とも、リーマン・ショック後の落ち込みから金額ベースで回復してきたが、2011年の半ば以降はほぼ横ばいが続いている(第1-5-2-4図)。前年同期比で見ると、特にEU向け輸出の鈍化が目立ち、2011年半ばからは前年割れを繰り返している(第1-5-2-5図)。

第1-5-2-4図 韓国の貿易額の推移
第1-5-2-4図 韓国の貿易額の推移

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第1-5-2-5図 韓国の輸出伸び率(前年同月比)の推移
第1-5-2-5図 韓国の輸出伸び率(前年同月比)の推移

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(国際収支)

2011年の経常収支は貿易黒字を反映して黒字基調で推移した(第1-5-2-6図)。資本収支は、2011年9月に、欧州債務危機の影響で、欧州金融機関等の海外投資家のリスク回避傾向が強まり、「その他投資」(銀行融資等)を中心に大幅な流出超を記録した。この際に、韓国ウォンも急落し、韓国銀行はウォン相場安定のため、為替介入を実施したと見られる。韓国の9月の外貨準備は、外国資本流出と為替介入によって大幅に減少し、韓国は、日本、中国との間の通貨スワップ協定の金額枠拡大を行った。その後の資本収支は、流出超・流入超の変動はあるが、大きな資本流出は避けられており、経常収支黒字も手伝って、外貨準備は回復傾向にある。

第1-5-2-6図 韓国の国際収支の推移
第1-5-2-6図 韓国の国際収支の推移

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(雇用状況)

2011年の失業率は2010年に比べて低下しているものの、若者の失業率は高水準が続いている(第1-5-2-7図)。また、就業者数は前年同月に比べて増加しているが、業種別には「事業・個人・公共サービス」等の第3次産業が増加を支えており、鉱工業では、2011年8月以降、就業者数の減少が続いている(第1-5-2-8図)。

第1-5-2-7図 韓国の失業率の推移
第1-5-2-7図 韓国の失業率の推移

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第1-5-2-8図 韓国の業種別の就業者増減(対前年同月)の推移
第1-5-2-8図 韓国の業種別の就業者増減(対前年同月)の推移

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(消費者物価と金融政策)

消費者物価の上昇率は2011年の年初から加速しており、8月には韓国銀行のインフレ目標の上限4%を超える4.7%まで上昇した(第1-5-2-9図)。これに対して韓国銀行は2010年7月から2011年6月の間に、5回にわたって政策金利の引上げを実行している(第1-5-2-10図)。2011年後半になると、消費者物価上昇率は低下に向かい、また、輸出の減速による景気への懸念から、金利引下げを求める声も高まってきている。ただし、金利引下げは、景気刺激に寄与する一方で、外国資本の流出、韓国ウォンの減価、輸入物価の上昇をもたらす可能性もあり、難しい判断を求められている。

第1-5-2-9図 韓国の消費者物価指数の伸び率(前年同月比)の推移
第1-5-2-9図 韓国の消費者物価指数の伸び率(前年同月比)の推移

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第1-5-2-10図 韓国の政策金利の推移
第1-5-2-10図 韓国の政策金利の推移

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(為替レート)

既に見てきたように、2011年中頃の欧州債務危機の再燃、欧州金融機関等海外投資家のリスク回避傾向の高まりの中で、2011年9月に外資が大幅に流出し、韓国ウォンは急激な減価に見舞われた(第1-5-2-11図)。翌月以降にやや戻したが、その後は小刻みな変動を繰り返して推移している。

第1-5-2-11図 韓国ウォンの為替レートの推移
第1-5-2-11図 韓国ウォンの為替レートの推移

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(2)韓国経済のリスク

韓国については、韓国企業の躍進ぶりに関心が高まる一方で、国としての韓国経済の先行きを懸念する声も聞かれる。韓国経済の当面の下押し要因としては、欧州向けを中心とした輸出の動向が挙げられるが、それとは別に中長期的に韓国経済が抱えるリスクも多い。ここでは、韓国経済に潜むリスクを考えてみる。

1. 韓国の貿易構造

まず、リスクを考える前に韓国の貿易構造を概観してみる。第1-5-2-12図は2010年の韓国を取り巻く貿易構造を示したもので、貿易の矢印は太さが貿易規模、色が中間財のシェアを表している。矢印が太いほど貿易額が大きく、矢印の色が強いほど中間財シェアが高い。これを見ると、韓国の貿易構造には際だった2つの特徴が見られる。ひとつは、中国、ASEAN向け輸出、日本との輸出入では中間財の比率が高く、反対に米国、EU向け輸出では最終財の比率が高いことである。

第1-5-2-12図 韓国の貿易構造(2010年)
第1-5-2-12図 韓国の貿易構造(2010年)

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このような貿易構造は、次章第2節で考察するが、韓国が、日本と同様に、東アジアにおける国際的生産分業の中で、組立工程を担当する中国、ASEANに対して中間財の供給を行う立場にあることを示している。

(中間財は輸入に依存)

もうひとつの特徴は、欧米、東アジアに対しては貿易黒字を計上する反面で、日本に対しては貿易赤字を計上していることである。日本からの輸入は中間財が多く、基幹部品や素材の輸入が大きく影響していると考えられる。

対日貿易赤字は、財別には、加工品、部品、資本財であり、基幹部品、高度素材、工作機械等の生産設備の分野では日本から輸入している姿が伺える(第1-5-2-13図)。その背景として、韓国では大企業への支援は手厚いものの、中小企業への支援は不十分で、日本と異なって、優秀な中小の部品サプライヤーが育ちにくいという指摘がある。

第1-5-2-13図 韓国の対日貿易収支
第1-5-2-13図 韓国の対日貿易収支

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2. 韓国経済のリスク

韓国は、東アジアで中間財の供給者として国際的生産分業を展開し、多くの国との間で貿易黒字を計上するなど強い国際競争力を発揮しているが、以下では韓国の隠れた課題について考えてみる。

(高い輸出依存度)

韓国の人口規模は、約4,900万人と日本の半分以下であり、相対的に国内市場が限られている。このため、輸出への依存が高くなっている。韓国の輸出のGDPに占めるシェアは、東アジアの新興国と比べると際だって高いわけではないが、先進国と比べると明らかに高い(第1-5-2-14図)。輸出依存度が高いことは、世界経済の動向の影響を受けやすく、リーマン・ショックのような海外の需要ショックに対しては弱いことを示唆している。

第1-5-2-14図 主要国の輸出依存度
第1-5-2-14図 主要国の輸出依存度

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(外資への依存)

韓国の対外資産・負債残高(2010年末時点)を他の東アジア主要国と比較してみると、韓国のグロスの債務額は、タイ、マレーシア等と比べて規模が大きい(第1-5-2-15図)。また、債務の構成については簡単には撤退が難しい「直接投資」よりも、引揚げが容易な「証券投資」、「その他投資」(融資等)が大きな割合を占めている。なお、融資では短期融資の占める割合が高いと言われ、その意味でも不安定な構造となっている。

第1-5-2-15図 アジア主要新興国の対外資産・負債残高(2010年末)
第1-5-2-15図 アジア主要新興国の対外資産・負債残高(2010年末)

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外資への依存が高いことは、外資の引揚げの際に、韓国内の資金供給を縮小させ、円滑な経済活動を委縮させる恐れがある。対外純債務残高の推移を見ると、リーマン・ショック前後に外国資本の流出と債務残高の減少が顕著にみられる(第1-5-2-16図)。2011年の第3四半期にも、これとは程度に差はあったものの、同様に外国資本が流出し、ウォンが急落するとともに、韓国経済の先行きに不安が広がった。

第1-5-2-16図 韓国の対外資産・負債残高の推移
第1-5-2-16図 韓国の対外資産・負債残高の推移

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なお、対外純債務残高を見ると、韓国は純債務国であり、所得収支で大きな黒字となることは考えにくい。そのため、例えば外的ショックによって輸出が減少し、貿易収支が赤字化すると経常収支の赤字化に直結しやすい。

韓国経済の特徴とその主なリスク要因を見てきた。韓国は国内市場が限られていることから、輸出への依存が高く、また外国資本や中間財の輸入への依存も高い。それらは成長の源になるとともに、不安定性の要因ともなっている。言い換えると、韓国は輸出、輸入と外資により「レバレッジ」が効いている状態にあり、欧米を中心とした経済が好調な時は好循環を生む反面、世界経済が不調になれば、輸出不振、外資流出、ウォンレートの急落等により、悪循環に陥るリスクが浮上しやすい構造にある。なお、これらの他にも、変動の大きなウォン、交易条件の悪化、雇用や格差、少子高齢化、財閥改革等の問題を指摘する声もある。

2012年12月の大統領選挙を控え、格差、雇用、社会福祉等の問題については争点の1つになりつつある。韓国の今後の政策的方向性が注目される。



コラム4 中国とインド

アジアのBRICsとして脚光を浴びているのが中国とインドである。両国とも先進国に比べて高い経済成長率を誇り、世界有数の経済、人口規模を有している。ここでは両国の比較を試みる。


国際協力銀行が2011年に企業に行ったアンケート調査によれば、中期的に有望と考える事業展開先として、1位が中国(回答の72.8%)、2位がインド(同58.6%)で、3位のタイ(同32.5%)以下を大きく引き離している。ところが、実際の日系現地法人数は、経済産業省「海外事業活動基本調査」によれば、2010年度末時点で、中国5,565社、インド267社である。

中国への進出が多い背景としては、まず、中国が経済的に先行しており、GDP、一人当たりGDP、総貿易額等でインドを引き離していることが挙げられる(コラム第4-1表)。

コラム第4-1表 中国とインドの主要経済指標
コラム第4-1表 中国とインドの主要経済指標

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また、中国は積極的な外資優遇政策によって、外資企業の立地を誘致し、豊富な労働力をいかして輸出主導の経済成長を実現してきたことも一因であろう。ただし、最近は外資企業に対する優遇政策を廃止し、政府が奨励する特定の産業や地域に焦点を当てた優遇策に転換する方向にある170。また、第1章第4節でも述べたように中国の賃金は上昇しており安い単純労働に頼った戦略は難しくなってきている。前述の国際協力銀行の調査では有望と考える理由や課題も調査しており、中国は「労働コストの上昇」(回答の74.0%)が1番の課題として挙げられている(コラム第4-2表)。

コラム第4-2表 中国・インドの進出有望理由・課題
コラム第4-2表 中国・インドの進出有望理由・課題

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むしろ、最近、中国は有望な市場として関心が集まっている。上記調査でも有望と考える理由として、「現地マーケットの今後の成長性」(回答の82.3%)が「安価な労働力」(同32.8%)を大きく引き離してトップである。インドについても、有望と考える理由を見ると「現地マーケットの今後の成長性」(回答の90.5%)」が圧倒的である。

そこで、中国、インドの将来の購買層の拡大の様子を見てみたい。民間の推計171をもとに、家計を世帯の年間可処分所得で、富裕層(35千ドル超)、上位中間層(15〜35千ドル)、下位中間層(5〜15千ドル)、低所得層(5千ドル以下)に分けて推移を見ると、両国とも低所得層のシェアが低下し、富裕層、中間層へシフトしていく様子が伺える(コラム第4-3図)。例えば、中国の場合、2010年に富裕層は人口の2.7%に当たる約0.4億人だったが2020年には12.6%、約1.7億人になると試算される。もし、推計通りに推移すれば新たに日本の総人口に匹敵する富裕層が誕生することになる。インドでも富裕層は2010年の人口の1.5%、約0.2億人から2020年には人口の6.8%、約0.9億人に増える見込みである。同様に富裕層に次ぐ上位中間層について試算すると、2020年には、中国、インド、それぞれ4億人、3.7億人になると見込まれる。これはあくまで試算にすぎないが、大きな購買層の拡大が見込まれるのは確かであろう。

コラム第4-3図 中国とインドの所得階層
コラム第4-3図 中国とインドの所得階層

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このように市場として有望な両国ではあるが、進出に当たっては事前の調査が重要であろう。例えば、インドは地域によって、言語、文化等が異なるとともに、第3章で触れるように、流通構造が複雑、高コストで、全体の市場規模は大きいものの、分断された市場という指摘もある。このため、現地パートナーと組むなど、きめ細かな対応が望まれる。

また、ここまで市場としての将来性を考えてみたが、生産拠点として考えれば、中国は外資優遇策の廃止や賃金の上昇など、優位性を失いつつあるように見える。これに対してインドの場合は「インフラが未整備」との声が大きい。インドの工業団地はインフラも何も整備されていない状態で、そこから地方政府と交渉してインフラ設置等の条件を決めていく必要がある。また、投資コストのひとつとしてよく言及される賃金水準を見ると、中国の方が高いが、一人当たりGDPの差を考えればインドも意外に高い(コラム第4-4図)。中国では農村からの出稼ぎ労働者が多いが、インドの場合、言語、宗教、文化等の違い等から地域的な労働力移動は限られる上、政府部門、民間部門でもサービス業に人材をとられ、製造業では人材が不足気味との声も聞かれる。なお、日系企業の進出数が少ないため、東アジアで見られるような日系企業同士の部品供給ビジネスは限られているとの指摘もある。進出に当たっては、現地の市場の中で地場企業と互していくくらいの構えが必要かもしれない。

コラム第4-4図 中国とインドの日系企業の賃金水準
コラム第4-4図 中国とインドの日系企業の賃金水準

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いずれにしても、中国、インドは海外進出先として注目度が高いが、意志決定に当たって、各国の特徴や企業特性を考え合わせての検討が重要である。


170 例えば、「企業所得税法」(2008)では、税率は一律に25%とされ、外資企業に対する優遇税率は移行期間の後に廃止されることになった。

171 Euromonitor International社が、将来の家計の所得階層別のシェアを推計しているので利用した。





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