第3章 我が国企業の海外事業活動の展開

第1節 我が国企業の海外事業活動の現状と課題

2.いわゆる「空洞化」の現状と評価

ここからは、歴史的な円高、震災による電力供給の不安などにより急速に懸念が拡がっている国内産業の空洞化について分析を行う。まず、生産、投資、雇用の減少を空洞化の要素と捉え、国内の製造業と海外進出企業の動向を分析する。

また、我が国の抱える課題をより詳細に捉えるために、ドイツ、韓国、米国と国際比較を行う。ドイツと韓国は、製造業従事者の割合が先進国の中では比較的高い水準にあり、現在でも製造業の強い国である。米国は産業構造の転換が先進国の中でいち早く進み、製造業の割合は低い水準にある。これら国々との比較を通じて、我が国産業の空洞化懸念の現状と今後の課題を明らかにする。

(1)我が国の現状と評価

本章では「空洞化」について、昭和61年版通商白書における「海外直接投資の増加によって、国内における生産、投資、雇用等が減少するような事態を指す。」という定義を用いることとし、我が国の国内投資、国内雇用、国内生産等の現状をドイツや韓国、米国と比較しながら、対外直接投資の増加に伴って国内投資等の減少が生じているかどうかについて、概観することとする。

1. 海外現地生産比率の推移

海外生産比率はすう勢的に高まってきており、2011年の急激な円高等も受けてこれが急速に上昇していくのではないかとの懸念も高まっている。内閣府「企業行動に関するアンケート」によれば、我が国製造業の海外現地生産比率は上昇傾向で推移しており、2011年には過去最高の18.4%まで上昇した。また、5年前の当年度見通しと比較してみると、おおむね同見通しよりも速いスピードで海外現地生産が進展することが分かる(第3-1-2-1図)。

第3-1-2-1図 我が国製造業の海外現地生産比率の実績と見通し
第3-1-2-1図 我が国製造業の海外現地生産比率の実績と見通し

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なお、海外生産比率は、特に円高時に上昇する傾向が認められているものの、一方で海外現地市場開拓を目的として海外生産比率を高めるという傾向も存在している。したがって、海外生産比率の動きは、近年であればとりわけ新興国を中心とする海外市場動向等にも大きく影響を受けるという点について留意が必要である。

2. 我が国の国内投資・国内雇用・国内生産の現状

(a)国内・対外投資の推移

対外直接投資の拡大に伴って国内投資の減少が生じているかどうかを検証するため、まずは、各国の国内・対外投資の動向を比較してみたい17

我が国の国内投資と対外直接投資の関係をみてみる。国内投資が1990年代前半には140〜150兆円で推移していたのに対し、現状は100兆円を切る水準まで低下して推移している。一方、対外直接投資は1990年代半ばから2005年までは1〜4兆円で推移してきたが、その後は増加基調に転じ、リーマン・ショック後の一時的な減少を経て、2011年には10兆円弱まで拡大している。すなわち、国内は投資が伸び悩む一方、海外投資が増加基調で推移している(第3-1-2-2図)。

17 ここではすべて名目値を用いており、物価上昇率を調整した実質値は用いていないことに留意を要する。


第3-1-2-2図 国内投資と対外直接投資の推移
第3-1-2-2図 国内投資と対外直接投資の推移

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また、我が国製造業の国内投資及び海外設備投資の動きと新興国、先進国や我が国の名目GDPを重ね合わせてみると、国外設備投資は新興国のGDPの動きに近いペースで増加傾向を辿っており、一方国内投資は07年までは我が国のGDPの動きを大きく上回って推移していたものの、それ以降は減少し、足下も回復が遅れている状況である(第3-1-2-3図)。

第3-1-2-3図 我が国製造業の国内・国外設備投資とGDPの推移
第3-1-2-3図 我が国製造業の国内・国外設備投資とGDPの推移

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一方、ドイツでは、90年代前半や2000年代前半に国内投資が低迷した時期もみられるものの、2005年以降はリーマン・ショック後の一時期を除き、国内投資も対外投資も両方が拡大する傾向にあると言える(第3-1-2-2図)。

また、韓国では、1998年のアジア通貨危機時に国内投資が急減した時期もあったが、それ以降は国内投資も対外投資も拡大する傾向にあり、とりわけ近年対外直接投資が急速に拡大していることが特徴である(第3-1-2-2図)。

更に、米国では世界経済危機の影響で09年は大きく国内投資が落ち込んだものの、90年代末からのすう勢的な動きをみれば、国内投資も対外投資も拡大する傾向にあると言える(第3-1-2-2図)

このように、ドイツ等では、国内投資も対外直接投資も両方増えており、必ずしも両者はトレードオフの関係にない。我が国でも双方の拡大を図ることが可能なはずである。

上記のとおり、主要国では対外直接投資と国内投資の両方が増加傾向にある中、我が国のみが対外直接投資が増加する一方で国内投資が減少していることになる。この国内投資の減少が対外直接投資の増加によって生じている、すなわち「空洞化」が生じているかどうかであるが、国内投資は期待成長率や国内の生産・輸出動向等によっても左右される。内閣府の「企業行動に関するアンケート調査」(2012)によれば、3年後の設備投資の伸び率は、3年後の実質経済成長率の予測値に一定程度連動して動くことが明らかになっている(第3-1-2-4図)。したがって、「対外直接投資の増加→国内投資の低迷」という因果関係が即座に成立するわけではない(更に、対外直接投資の増加が輸出誘発効果を伴う場合には、国内投資を増加させる可能性も考えられる。)。むしろ、他の主要国の例は、国内・対外投資双方の拡大が可能であることを示している。

第3-1-2-4図 我が国企業の予測する3年後の設備投資伸び率と実質経済成長率の関係
第3-1-2-4図 我が国企業の予測する3年後の設備投資伸び率と実質経済成長率の関係

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(b)国内就業者数の推移

続いて、対外直接投資の拡大に伴って国内就業者数の減少が生じているかどうかを検証するため、各国の国内就業者数の動向を比較してみたい。

まず、我が国の就業者数の動きをみてみる。我が国では製造業の就業者数が2005〜07年まで増加しているのを除き、すう勢的には減少傾向で推移しており、とりわけ09年にはリーマン・ショックの影響により顕著に減少した。一方、非製造業の就業者数は増加傾向で推移しているものの、足下は製造業での減少を補いきれておらず、その結果全産業での就業者数は09年以降においては減少傾向で推移している(第3-1-2-5図)。更に大震災の影響等もあり、就業者数は2012年まで減少傾向で推移している(ただし、2012年以降は復興需要等の影響もあり、若干の増加傾向に転じている。)。

第3-1-2-5図 業種別の就業者数の推移
第3-1-2-5図 業種別の就業者数の推移

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一方、ドイツでは製造業の就業者数は減少傾向で推移しているが、非製造業の就業者数が増加傾向で推移しているため、全産業では拡大傾向で推移している(第3-1-2-5図)。また、韓国でも、ドイツと同様に製造業の就業者数減を非製造業が補うことで、全産業でも拡大傾向で推移している(ただし、2012年に入ってからは減少傾向がみられる。)(第3-1-2-5図)。更に米国でも、製造業の就業者数はすう勢的に減少基調となっており、非製造業における就業者数増がこれを補うことで全産業でも拡大傾向で推移している(ただし、リーマン・ショック時には減少し、足下は横ばいで推移している。)(第3-1-2-5図)。

以上から、我が国においては製造業の就業者数減少を非製造業の就業者数増加で補いきれておらず、就業者数全体で減少傾向にある。これも「空洞化懸念」を想起させる現象の1つとみることができる。

では、こうした我が国の就業者数の減少は、対外直接投資の増加によって生じているのだろうか。

対外直接投資により、海外で生産が行われるようになれば、国内雇用がその分減少するのではないかというのが空洞化を懸念する立場の論調である。そこで、製造業の海外現地法人の従業員数の伸び率(対前年比)と国内製造業の就業者数の伸び率(対前年比)を比較してみる。製造業の海外現地法人従業員数の伸び率がおおむねプラスで推移する一方、国内就業者数の伸び率はマイナスで推移する傾向にはある。しかし、両者が必ずしも毎年トレードオフの関係として推移している訳ではない。なぜなら、国内就業者数は、海外現地法人の影響のみならず、国内における様々な要因によって影響を受けるからである(第3-1-2-6図)。

第3-1-2-6図 我が国製造業の国内就業者数と海外現地法人従業者数の推移
第3-1-2-6図 我が国製造業の国内就業者数と海外現地法人従業者数の推移

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一国の国内就業者数は、@労働力人口の増減、A国内外の需要変動に応じた国内生産の増減、B生産性向上努力、C産業構造のシフト(ここでは製造業に代わるサービス業等非製造業の雇用吸収力)などの国内要因に大きく左右されると考えられる。そこで、それぞれの関係をみていきたい。

まず、長期的にみると、国内就業者数の変動は労働力人口の動きと連動しており、足下ではいずれもマイナスとなっていることが分かる(第3-1-2-7図)。ただし、1993〜95年、1998〜99年、2001〜02年、08〜09年など景気後退期には、失業が発生し、国内就業者数と労働力人口の動きに乖離が生じる(国内就業者数の落ち幅の方がより大きくなる)。

第3-1-2-7図 我が国の国内就業者数と労働力人口の伸び率の関係
第3-1-2-7図 我が国の国内就業者数と労働力人口の伸び率の関係

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また、国内の景気循環要因による需要変動に加え、とりわけ製造業を中心として、外需の動向も国内生産額や雇用に一定の影響を与えることがみてとれる(第3-1-2-8図)。

第3-1-2-8図 我が国製造業の国内就業者数と輸出及び生産額(名目)の伸び率の関係
第3-1-2-8図 我が国製造業の国内就業者数と輸出及び生産額(名目)の伸び率の関係

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更に、生産性が向上すれば、労働需要が減少し、国内生産と雇用の動きに乖離が生じる。

最後に、サービス業の雇用の伸びは1981年以降、製造業の雇用の伸びを上回っており、雇用面における産業構造のシフトは長期的に進んできている。ただし、近年の我が国のサービス業の雇用吸収力は90年代や2000年代に比べても減退している可能性が示唆される(第3-1-2-9@図)。今後製造業の雇用が大きく落ちこんだ場合に、サービス業等の雇用増でカバーできなければ、雇用不安が拡大するおそれがある。

第3-1-2-9@図 我が国の国内就業者数の対前年増減の推移
第3-1-2-9@図 我が国の国内就業者数の対前年増減の推移

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以上をまとめると、我が国の国内就業者数は足下伸び悩んでいるが、これは、基本的には国内要因(労働力人口、内外需要変動に応じた国内生産状況、生産性向上、サービス業等の雇用吸収力等)によって大きく左右されるものと言える。

ただし、足下の就業者数は、リーマン・ショックの影響で09年に戦後最大の落ち幅を記録しており、更に2011年3月の大震災に伴いその後も国内雇用は減少傾向が続いている。その上、2012年に入っても急激な円高や世界経済の減速懸念から輸出の回復が遅れており、製造業を中心に雇用回復へのインセンティブが削がれている可能性が高い(第3-1-2-9A図)。このように国内において先行き不安が生じている状況において、仮に今後製造業の海外進出が加速すれば、製造業の国内雇用が更に減少し、サービス業等の雇用増をもってしてもこれをカバーできず、雇用不安が一層拡大しかねないとの懸念に繋がっているものと思われる。

第3-1-2-9A図 近年の我が国の国内就業者数の対前年増減の推移
第3-1-2-9A図 近年の我が国の国内就業者数の対前年増減の推移

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(c)国内生産の推移

次に対外直接投資の増加に伴って、製造業の国内生産額の減少が生じていないかどうかについてみてみる。このため、以下各国の生産額の推移をみてみたい。

まず、我が国では、一般・電気機械がすう勢的には減少傾向で推移しているのが特徴である。輸送機械は08年までは拡大傾向で推移してきたが、世界経済危機の影響を受け09年に大幅に減少している。また、化学品は近年堅調に推移している(第3-1-2-10図)。

第3-1-2-10図 製造業の業種別生産額(名目)の推移
第3-1-2-10図 製造業の業種別生産額(名目)の推移

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一方、ドイツでは空洞化懸念が広がったとされる2000年代前半に国内生産の停滞局面が見て取れるものの、その後は基本的に、一般・電気機械、輸送機械、化学品のいずれも増加傾向で推移している点が特徴である(第3-1-2-10図)。また、韓国では繊維を除いて、いずれの上記主要業種においても拡大傾向で推移している(第3-1-2-11図)。更に、米国では、2000〜2002年に製造業全体が低迷したが、近年は輸送機械や一般・電気機械はほぼ横ばいで推移する一方、化学や食品などが堅調に増加したため、03〜08年まで製造業全体でも堅調に推移している(ただし、09年は減少している)(第3-1-2-10図)。

第3-1-2-11図 一般・電気機械の現地法人売上高と日本からの輸入調達額及び国内生産額(名目)の関係
第3-1-2-11図 一般・電気機械の現地法人売上高と日本からの輸入調達額及び国内生産額(名目)の関係

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ここで我が国において、製造業の対外直接投資の増加が製造業の国内生産額にマイナスの影響を与えたかどうかについて考察する。

一般・電気機械を例にとると、まず同業種の国内生産額は、1991年から2009年までの長期でみると、すう勢的に横ばい又は減少傾向で推移しているようにみえる。しかしながら、一般・電気機械の現地法人売上高が顕著に拡大した2002〜2007年においては、同業種の国内生産額も右肩上がりで拡大している(第3-1-2-11図)。現地での売上高拡大が我が国からの輸入(現地国への輸出)を誘発すること等を通じて国内生産を拡大させた可能性が示唆される(第3-1-2-11図)

一般に国内生産が、海外生産と代替関係にある場合には、海外生産の拡大に伴って国内生産が減少する可能性があると考えられる。他方、基幹部品の国内生産のように海外生産と補完的な関係を有するものもありうるため、国内生産が海外生産と必ずトレードオフの関係になるとは限らない。

足下の製造業の国内生産の減少は、世界経済危機や大震災等の外的ショックによって生じている側面が強く、短期的な現象にとどまる可能性もある。また、仮に海外生産の拡大により、既存産業の縮小が起こった場合でも、国内で新産業が拡大すれば、経済全体としてはむしろプラスとなる可能性もある。

但し、中長期的に国内事業環境の悪化が続く場合には、海外での生産の拡大が加速し、国内生産が減少していく可能性は否定できないと言え、十分な注意が必要である。

3. 企業の認識と海外事業展開の影響

ここではまず企業が「空洞化」に対してどのような認識を有しているのか、また、それに伴い国内でどのようなマイナスの影響があると予測しているかについてみていく。更に、一方で、海外事業活動の進展に伴い、企業が国内にどのようなプラスの影響があると予測しているか、併せて、どのような国内機能を強化していくべきと考えているかについて、みていきたい。更に、こうした状況の中、製造業の国内従業者の構造変化がどのように生じているかについてもみていく。

まず、企業の「空洞化」に対する認識について見ていきたい。「我が国企業の海外事業戦略に関するアンケート調査」(2012年)によれば、@自社、A取引先、B国内一般、のそれぞれについて、国内の空洞化が起きているかどうかについて聞いたところ、「国内一般」は7割弱の企業、「取引先」は5割弱の企業がそれぞれ空洞化が「起きている」と回答した(第3-1-2-12図)。一方、「自社」については、「起きている」とした企業の割合(2割強)よりも、「起きていない」とした企業(5割強)が2倍以上となっている。

第3-1-2-12図 空洞化が起きているかどうか
第3-1-2-12図 空洞化が起きているかどうか

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また、国内の空洞化懸念に関連し、海外展開18の影響として、将来の縮小が見込まれる要素を聞いたところ、製造業では「従業者数(製造系)」(56%)、「製造機能(汎用品)」(40%)、「従業者数(事務系)」(35%)、「取引先数(調達先)」(34%)、「取引先数(顧客)」(28%)の順に割合が高かった。一方、「研究機能(基礎及び応用)」、「本社機能」「人材育成機能」「基盤的な技術」は相対的に割合が低かった。なお、「製造機能(マザー工場)」(16%)や「開発機能」(10%)が相対的に低いとはいえ、一定の比率を占めていることは、我が国の国内産業基盤の弱体化に繋がりかねず、注意を要すると言える(第3-1-2-13図)。

18 このアンケートにおいて、「海外展開」とは、輸出、海外直接投資及び業務提携をしめす。


第3-1-2-13図 海外展開により将来国内で縮小する要素
第3-1-2-13図 海外展開により将来国内で縮小する要素

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更に、空洞化によって技術・ノウハウ等が海外に流出しているおそれがないかどうかについてみてみる。海外展開に伴い、国内では失われしまった技術・ノウハウがあるかどうか聞いたところ、「特にない」(7割強)が大半を占める一方で、「単純な技術・ノウハウ等に限り一部ある」(約6%)、「単純な技術・ノウハウ等に限りかなりある」(約4%)、「高度な技術・ノウハウ等を含め一部ある」(約3%)といった回答も一部に見受けられた(第3-1-2-14図)。

第3-1-2-14図 海外展開することにより、国内では失われてしまったノウハウ
第3-1-2-14図 海外展開することにより、国内では失われてしまったノウハウ

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続いて、海外事業活動に伴う国内経済へのプラスの影響として、業績雇用面以外のメリット・効果を聞いたところ、製造業では「取引先の拡大」、「海外市場の動向把握」(5割強)、「企業価値向上」(4割強)、「リスク分散」(4割)の順で多かった。一方、非製造業では、「取引先の拡大」(5割強)、「海外市場動向把握」(4割)が同様に高いが、「企業価値向上」(5割弱)や「輸出の拡大」(3割弱)が製造業と比べ相対的に高いという傾向がみられる。(第3-1-2-15図)。

第3-1-2-15図 海外事業活動に伴う国内への影響で業績・雇用面以外のメリット・効果(全業種)
第3-1-2-15図 海外事業活動に伴う国内への影響で業績・雇用面以外のメリット・効果(全業種)

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また、「今後国内で拡充する機能」を聞いたところ、製造業では「開発」(5割弱)、「日本人社員の人材育成・トレーニング」(4割強)、「研究(応用)」(4割弱)、「企画マーケティング」(4割弱)、「研究(基礎)」(3割弱)が特に高かった。一方、非製造業では、「日本人社員の人材育成・トレーニング」(5割強)、「企画マーケティング」(4割)、「販売」(4割弱)が特に高かった(第3-1-2-16図)。

第3-1-2-16図 今後国内で拡充する機能(全業種)
第3-1-2-16図 今後国内で拡充する機能(全業種)

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最後に、過去10年において既に、国内製造業における雇用等の状況も、大きくその構造を変化させていることを示す。製造業の雇用を事業組織別にみると、2000年代を通じて、「製造」が減少する一方、「研究開発」や「サービス」、「国際事業」等において拡大する傾向があり、海外での事業活動展開が活発化する中、製造業においても、国内の雇用を「製造」から「研究開発」や「サービス」等にシフトさせていくことが重要となっていることが伺われる。これまでみてきた海外展開に伴う国内の機能や要素に関する変化が雇用内容にも影響を与えていることが見て取れる(第3-1-2-17図)。

第3-1-2-17図 製造業における事業組織別従業者数(一企業当たり)の増減数(2001-09年)
第3-1-2-17図 製造業における事業組織別従業者数(一企業当たり)の増減数(2001-09年)

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次に、上記を業種別に増減の内容をみてみる。「製造」では、輸送機械と食品を除く全ての業種において減少となっている。そうした中においても、情報通信機械、電子・デバイス、電気機械については、「製造」の減少を「研究開発」や「サービス」の増加で補うことで、全体の従業者数を増加させているのが特徴的である。今後、海外事業展開を通じて「製造」部門の従業者が減少する場合、「研究開発」、「サービス」等の機能を国内で強化させることで、国内製造業の雇用構造を変化させていくことが重要であることを示唆している(第3-1-2-18図)。

第3-1-2-18図 製造業における業種別常時従業者数(一企業当たり)の増減数(2001-09年)
第3-1-2-18図 製造業における業種別常時従業者数(一企業当たり)の増減数(2001-09年)

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(2)主要国における議論

以下では、ドイツ、韓国、米国における空洞化についての議論の変遷と、各国の空洞化についての先行研究を概観する。




コラム10 対外直接投資の国内雇用に対する影響

本節で参照している定義では、「空洞化」とは対外直接投資の拡大により国内生産・雇用等が減少する現象である。この関係が成り立つ場合、対外直接投資と国内生産が代替的な関係に立っていると考えられる。

しかし、両者が代替的が補完的かは、個別の対外直接投資の性質にもよると考えられる。例えば、直接投資の目的が国際的な生産分業である場合、日本からの中間財の輸出を誘発する可能性があり(第2章参照)、両者は補完的でありうる。他方、本来国内で生産し輸出していた製品が現地生産されるようになると、両者は代替的な関係になりうる。また、海外の新たな市場開拓を目的とする場合、国内雇用には影響しないか、又は世界的な販売の拡大により国内雇用の規模も拡大する可能性がある。したがって、対外直接投資が国内の雇用にどのような影響を与えるかは、実証的な問題である。

これまでに、日本の製造業を対象とした実証分析の成果が幾つか出されている。まず、Yamashita and Fukao(2010)は、1991年から2002年の個票データに基づき、海外子会社の雇用が10%増えると国内雇用が0.2%増加するという関係を見いだしている。そして、空洞化を過度に懸念した政策は、むしろ国内雇用に悪影響を与える可能性を指摘している。Hijen et al.(2007)は、1995年から2002年の個票データにより、新規の対外投資は国内の生産及び雇用にプラスの影響があり、かつ年を追うごとに雇用の増大効果は拡大し、3年目には6.9%に達するとしている。Ando and Kimura(2011)も、1998年から2006年のデータにより、東アジアに投資した企業は国内の雇用を増加させ、また輸出・輸入を強化する傾向が強く、その傾向は分析対象期間の後半でより強まっているという結果を示している。

直接投資は国内雇用の構成にも影響を与えうる。Obashi et al.(2010)は、1992年から2005年までの個票データに基づき、先進国に対する直接投資は企業内の非製造部門の雇用を増加させる一方で製造部門の雇用にはほとんど影響がないこと、また、途上国に対する直接投資(工程間分業とみなされる)は国内雇用量にはほとんど影響しないものの、より高度な労働者へのシフトが生じると指摘している。

このように、対外直接投資による国内雇用への影響については、プラスの効果を指摘する実証研究が多い。ただし、海外への生産移転が急速に進展する場合や、新規産業等への円滑な雇用のシフトが実現しない場合、マイナスの効果が上回る可能性は排除できない。海外事業展開による新たな成長機会を国内経済へのメリットとして活かすことができるよう、国内の事業環境整備と労働市場の機能強化が重要であると考えられる。



1. ドイツ

ドイツの立地競争力についての議論は、1990年代以降に活発になる。1990年には欧州、そしてドイツ自身を分断していた冷戦が終わり、1992年には欧州共同体が欧州連合に発展し、欧州域内市場が一体化し大きく成長する機会が生まれた。こうした状況において、欧州域内の貿易の成長によりドイツ国内への投資が増えるという期待と、むしろコストの高いドイツを避けて他の欧州諸国に向けた投資が進むという懸念が広がり、「立地地点としてのドイツ(Standort Deutschland)」という語が生まれ、ドイツの立地競争力が議論の対象になった19

東西ドイツの統一と欧州統合の深化により成長の期待されたドイツだったが、実際には東ドイツの統合が負担となり1990年代に入ってからドイツ経済は停滞する。ドイツを冷やかし、「欧州の病人」という表現さえ生まれた。

ドイツでの製造業は、1970年代末以降、マルク高と賃金の上昇によって競争力を徐々に低下させていていたが、1990年代に輸出は期待されたほどには拡大せず、横ばいで推移した(3-1-2-19図)。失業率が高止まり、2005年にはドイツ全体の失業率は12%まで上昇した。特に旧東ドイツ地域の失業率は、統一後に一度は低下したものの、1995年以降上昇を続け2000年に入ってからは18%近傍で推移した。

19 スマイサー(1992)「入門 現代ドイツ経済」p.279


第3-1-2-19図 ドイツの経常収支の推移
第3-1-2-19図 ドイツの経常収支の推移

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こうした状況の下、輸出の伸びの鈍化によりドイツ経済は、統一以降低成長を続け、2000年代に入ってからはドイツの経済成長は、G7諸国の中でも最低レベルになってしまった。2000年代前半(2001-2005年の平均)のドイツの実質GDP成長率は平均0.6%と、他の欧州の大国、英国(同2.5%)、フランス(同1.6%)に大きく劣後し、G7諸国の最下位となった。

2002年12月、ドイツ経済がこのように停滞を続ける中、欧州連合の東方拡大が決定された。中東欧10か国が2004年5月よりEUに加盟することにより、安価な労働力を求めてドイツから企業が中東欧に流出してしまうのではないかという懸念が広がり、ドイツの立地競争力に関する議論が活発になった。

2000年代を通じてドイツは(1)貿易環境の改善、(2)国内事業コストの削減、(3)高付加価値化の支援等、立地競争力強化に向けた政府等による取組がなされた(第1章第3節参照)。ドイツ経済の成長を需要項目別にみた場合、2000年代を通じて輸出が突出しており、特に2000年代半ばから輸出主導でドイツ経済は復活した(第3-1-2-20図)。

第3-1-2-20図 ドイツの実質GDP成長率の推移(需要項目別)
第3-1-2-20図 ドイツの実質GDP成長率の推移(需要項目別)

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結果的に、2000年代の前半には、G7諸国の中で最低だった経済成長率が、2000年代後半には逆にG7諸国の中で一位になった(第3-1-2-21図)。

第3-1-2-21図 G7諸国の実質GDP成長率(2001-05年平均と06-10年平均)
第3-1-2-21図 G7諸国の実質GDP成長率(2001-05年平均と06-10年平均)

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2000年代後半の経済成長の過程で、(1)雇用環境の悪化と(2)輸出産業の競争力の低下という二つの問題は改善し、空洞化の懸念は払拭されている。

2. 韓国

韓国は、潜在成長率が依然として高く、また、海外事業展開が進展したのはここ10数年のことであるため、現状では空洞化問題は表面化していないようにみえる(第3-1-2-22図)。ただし、かつて韓国の国内賃金上昇と安価な中国製品の流入を背景に、韓国企業が中国への進出を加速させ、地域経済が疲弊した経験があるように、韓国では隣国・中国への企業流出懸念が常にある。ここでは、中国への企業流出の影響を真っ先に受けた韓国の繊維産業の例をみてみる。

第3-1-2-22図 韓国の潜在成長率
第3-1-2-22図 韓国の潜在成長率

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韓国の繊維産業は、1970年代後半から80年代前半において、製造業全体の15%程度の生産額を占める基幹産業であり、総輸出額の40%を占める輸出産業でもあった(第3-1-2-23表)。しかし、1980年代半ばからの韓国経済の好況と労働運動の高揚を背景に賃金が上昇した結果、中国など途上国との賃金格差が拡大し20、低賃金労働で特徴付けられる繊維産業は苦境に立たされた。そうした中で、韓国の衣類、アパレル企業や中小織物企業は、中国やインドネシアでの生産活動に活路を求めて海外に進出したため、国内では産業空洞化が進行することとなったのである。

20 繊維産業の専門家、金ジュンヒョ産業院研究員の分析によると、韓国の繊維労働者の時間当たり平均人件費は、1987年には1ドル77セントで、欧米の繊維産業の賃金の約7分の1、中国など途上国の3〜9倍程度だったが、1991年には3ドル60セントに上昇し、欧米との格差が5分の1に縮小する一方、途上国との格差は4〜13倍に拡大した。


第3-1-2-23表 1980年代から90年代の韓国繊維産業の動向
第3-1-2-23表 1980年代から90年代の韓国繊維産業の動向

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特に、繊維産業に依存する割合の高い大邱地域では企業倒産が日常化し、地域経済の崩壊が問題視されたという21。その結果、1998年の繊維産業の生産額は製造業全体の8.8%、輸出額は全体の12.5%と、1980年代の半分の水準にまで低下した。また、1988年には65万人いた繊維労働者数は、4年後の1991年には50万人に減少し、23%にあたる15万人の雇用者が繊維産業から去ることとなった。

このような空洞化の波が、繊維産業のような労働集約的な産業から、化学、金属・機械、そして自動車、電気・電子機械産業といった資本・技術集約的な産業にまで押し寄せることが懸念されている(厳、2010)。

こうした中国等への企業流出の他にも、中国等新興国の台頭、賃金の更なる上昇、為替変動等、韓国には将来的に空洞化が本格化するリスクがある。これに対して韓国政府は、立地環境整備や産業高度化努力を通して対策を進めているところである。個別の施策については、第4節で詳しくみていく。

21 通商産業省生活製造局『世界繊維産業事情』1994年。


3. 米国

米国において「空洞化」は、1980年代半ばに大きな議論になった。アジア、メキシコから輸入が急増し、米国企業の対外直接投資が増加する中で、生産拠点の海外シフトによる雇用機会減少が懸念された22。1980年代、ドルが高水準で推移していたが、1985年のプラザ合意以降も米国の製造業の衰退は続いたが、米国経済のサービス業へのシフトが進む中で雇用が吸収され全産業の就業者は増加し、製造業において航空産業、バイオ産業など高度な産業が成長を遂げたため空洞化懸念は下火になった。

もっとも、その後、サービス業においても、人件費の安価な海外にIT分野などの業務が委託されるようになり、2004年の大統領選挙の際に取り上げられて以来、サービス業の海外へのアウトソースが大きな政治的問題になっている。更に、2008年のリーマン・ショック以降は、失業率が歴史的高水準に悪化したため、製造業の衰退が再び大きな問題として改めて注目されている。加えて、足元では、研究開発部門等の高度な機能についても国外流出の懸念が生じている。2012年1月、ハーバード大学ビジネススクールがレポート「危機にある繁栄〜アメリカの競争力に関する調査結果」を公表し米国の競争力の低下に警鐘を鳴らした。企業の経営に携わっている同校の卒業生の42%が、将来的に研究開発を含めた高度な機能についても海外への移転の可能性があるとアンケートに答えている。また、将来的な米国の競争力については、「先進国に劣後する」との回答は21%にとどまっているものの、66%が「新興国に劣後」する回答している23。背景としては、米国の各種規制が非効率であることに加え、新興国の台頭が非常に急速であることが考えられる。

他方で、昨年以来、米国の製造業が復活するという議論も盛んになっている。中国の人件費が高騰している点、先進国としては極めて稀だが長期的に人口増加が見込める国内市場を抱える点、シェールガスの開発により電力コストの削減が期待できる点などがこの背景と考えられ、足元では、国内外の製造業による投資が増加している(第3-1-2-24表)。2011年5月、米国のコンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、レポート「Made in America, Again」を発表し、製造業の国内回帰の可能性を予想した。中国での人件費の高騰により24、2015年には、輸送機械、金属加工品など7つの産業が米国市場向けの製品を中国で製造するコスト面でのメリットを失う「転換点」をむかえると分析している25。結果として、これら7つの産業において、中国で生産されている米国向け製品のうち10〜30%の製造が米国に回帰し、200〜300万人の雇用を国内で創出し、失業率を1.5〜2%低下させると予想している26

22 経済産業省(2002)「通商白書2002」。

23 Michael E. Porter and Jan W. Rivkin(2012)「Prosperity at Risk: Findings of Harvard Business School's Survey on U.S. Competitiveness」。

24 中国の人件費については本書1章4節中国経済を参照。

25 Boston Consulting Group(2011)「Made in America, Again」、(2012)「U.S, Manufacturing Nears the Tipping Point」。

26 もっとも、米国商務省(http://www.bea.gov/iTable/index_MNC.cfm)によると、中国で事業を展開する米国企業の販売先に占める米国の割合は低水準で推移しており、2009年時点では7%にまで低下している。他方で、中国現地向けの販売は、77%と高い水準にある。そのため、仮に中国から米国に逆輸入するコスト面でのメリットがなくなったとしても、米国企業の多くは、必ずしも米国に回帰せず、現地への販売を目的として引き続き中国で事業展開をする可能性がある。


第3-1-2-24表 米国内での工場新設の事例
第3-1-2-24表 米国内での工場新設の事例

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このような国内回帰の期待が高まる中、オバマ大統領は、雇用状況の改善のために製造業の支援を重要課題に位置づけている。現在、米国において、空洞化懸念の払しょくに向けた取組が本格的に進められつつある。




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