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第3節 労働生産性及びTFPの国際比較

 これまでのマクロ経済全体における分析で見てきたように、1990年代以降の我が国の長期経済停滞の背景には労働生産性及びTFPの上昇率における大きな低下があった。

 本節では、労働生産性及びTFPを産業別に国際比較することにより、より詳細に我が国の生産性上昇の停滞の実態を明らかにする。産業別労働生産性及びTFPの国際比較に当たってはEU KLEMS databaseを利用する7。比較対象国としては米国、ドイツ、英国及びフランスとするが、全産業、製造業、非製造業、金属産業、一般機械産業、電気機器産業及び輸送用機器産業では8、世界市場における近年の韓国企業の台頭を考慮して、韓国を含めている9

 以下ではまず、全産業及び製造業全体の労働生産性とTFP並びに非製造業全体の労働生産性の動向を振り返り、続いて個別産業について順次見ていくこととする。

7 EU KLEMS databaseに関しては、付注3で詳述する。

8 金属、一般機械産業、電気機器及び輸送用機器については巻末補論に掲載。

9 米国については、2008-09年における総労働時間のデータがEU KLEMS2012年版では公表されていないため、2009年版の2007年の総労働時間のデータに、2008-09年における総労働時間指数(2005年=100)の変化率を掛けることで延伸した。また、以下の各国の労働生産性の算出には2012年版を使用しているが、韓国についてはデータが更新されていないため、韓国のみ2009年版を使用している。なお、韓国はデータの制約からTFP水準の対米比は掲載していない。

1.全産業の生産性比較

 第Ⅰ-1-3-1図は、日本、米国、ドイツ、英国、フランスに韓国を加えた6か国について、①労働生産性水準の対米比、②労働生産性水準、③TFP上昇率、④TFP水準の対米比を、それぞれ全産業ベースで示したものである。

第Ⅰ-1-3-1図 全産業の労働生産性とTFP

 まず、労働生産性水準の対米比(米国=100)を見ると、我が国は2009年で米国の57.2%の水準と、欧州各国よりも低い水準となっている。我が国は1970年代後半から1990年代半ばにかけて徐々に米国を追い上げていたが、それ以降、米国に対する格差縮小が停滞した。ただし、これは我が国に限った現象ではなく、ドイツやフランスでも格差縮小が停滞している。韓国については、全期間中、最も水準は低いが、徐々に我が国との生産性格差は縮まってきている。

 TFP水準の対米比(米国=100)を見ても、1992年の対米比61.9%をピークに格差縮小が停滞している。欧州各国が対米比80~90%程度で推移している中、我が国のTFP水準の対米比は2009年で59.8%にとどまっている。

 最後に、各国の年代別のTFP上昇率を見ると、前節でも見たように、我が国のTFP上昇率は1990年以降、2000年代前半を除き、他国に劣後しており、米国との関係では2000年代前半を含め1990年以降一貫して劣後している。韓国のTFP上昇率は、1980年以降、一貫して他の比較国を上回る高い水準を維持している。

2.製造業の生産性比較

(1)全体の生産性

 次に、製造業全体について前項同様に各国の生産性を比較する(第Ⅰ-1-3-2図)。

第Ⅰ-1-3-2図 製造業の労働生産性とTFP

 我が国製造業の労働生産性水準の対米比は、2009年で米国の69.9%の水準と、全産業の場合と比べて格差は小さいが、それでもなお3割程度の開きがある。推移を見ると、1970年代後半から1980年代前半にかけて英国の水準を追い越すなど米国製造業との生産性格差が縮まったものの、1990年代後半から、再び格差は拡大している。これは、特に2000年代に入ってから米国製造業の労働生産性水準が急上昇したことが要因である。

 ドイツ製造業の労働生産性は、1990年代後半までは米国とほぼ同水準であったが、その後、趨勢的に格差が拡大する方向で推移しており、2009年の対米比は77.0%となっている。英国、フランスの労働生産性も水準はドイツより低いものの、1990年代後半から対米格差が拡大するなど同様の推移となっている。韓国については、全産業の場合と同様に、全期間中、最も水準は低いが、徐々に我が国や英国との生産性格差は縮まってきている。

 TFP水準の対米比を見ると、我が国は2009年で84.4%と、やはり全産業の場合よりも対米格差は小さいものの、比較国の中で最も低い水準(2005年時点)となっている(韓国についてはデータの制約上、TFP水準の対米比は算出できない)。1990年代初頭以降は欧州各国との差も拡大している10

 製造業に限って見ると全産業に比べて対米格差が縮小するということは、我が国においては非製造業の生産性が低く、全産業の労働生産性及びTFPを下押ししているということを示している。

 TFP上昇率については、全産業の場合と同様に、1990年代以降、一貫して我が国製造業のTFP上昇率は米国製造業のそれを下回っている。

10 EU KLEMSデータベースでは、製造業全体というカテゴリーでの付加価値ベースのTFP水準の対米比のベンチマークの数値は提供されていない。ここでは製造業に含まれる個別産業のグロスアウトプットベースのTFP水準の対米比を加重平均することにより、製造業全体のTFP水準の対米比を計算している。ドイツ、英国、フランスについては、2005年以降、グロスアウトプットベースのTFP上昇率のデータが更新されていない。日本と米国については、それぞれJIPデータベース2012、Bureau of Economic Analysisのデータを用いて延伸した。

(2)主要産業の生産性

 ここでは、製造業の主要産業について分析する。第Ⅰ-1-3-3図と第Ⅰ-1-3-4図は、製造業の主要産業の労働生産性水準及びTFP水準について、データが得られる直近の2009年時点の対米比と、ピーク時の対米比との差を一覧にしてまとめたものである。

第Ⅰ-1-3-3図 製造業の主要産業の労働生産性水準の対米比

第Ⅰ-1-3-4図 製造業の主要産業のTFP水準の対米比

 一般機械、輸送用機器、化学、金属は、米国を上回るか同程度の生産性を示している。ただし、詳しくは巻末の補論で示すが、我が国が単独で他国を引き離している産業はなく、多くは欧州を含む他国と抜きつ抜かれつの関係にあり、輸送用機器及び金属においては、依然水準としては日本の半分以下ではあるものの、韓国が継続的に追い上げてきている。

 他方、電気機器については、労働生産性で見てもTFPで見てもピーク時には米国を大きく上回る生産性水準を示していたが、その後の対米比の低下は著しく、ピーク時から大幅に下落している。ただし、これも巻末の補論で示しているが、我が国の生産性水準が他国に比して突出して低くなったわけではなく、我が国の生産性水準の対米比の低下は、米国の電気機器における急速な成長による影響が大きい。

3.非製造業全体の生産性比較

(1)全体の生産性

 非製造業全体11について前項同様に各国の労働生産性を対米比で比較してみると、1990年代後半以降、対米格差が拡大傾向にあった製造業とは異なり、非製造業については同期間中も格差を縮小させている。ただし、非製造業はそもそもの欧米との生産性格差が大きく、2009年における対米比水準は53.9%であり、欧州各国にも劣後している(第Ⅰ-1-3-5図)12

第Ⅰ-1-3-5図 非製造業の労働生産性

 米国との生産性格差は徐々に縮まる一方、欧州各国との生産性格差はほぼ一定で推移している。

11 非製造業全体の労働生産性は、購買力平価換算した全産業の付加価値から同じく購買力平価換算した製造業全体の付加価値を差し引き、その差を非製造業全体における総労働時間で割って算出した。また、非製造業全体については、データの制約のため、TFP水準の対米比及びTFP上昇率の比較は行っていない。

12 EU KLEMSデータベースでは、非製造業全体のTFP水準の対米比及びTFP上昇率が算出されていないため労働生産性のみ掲載している。

(2)主要産業の生産性

 続いて、非製造業の主要産業について分析する。第Ⅰ-1-3-6図と第Ⅰ-1-3-7図は、前述の分析と同様、非製造業の主要産業の労働生産性水準及びTFP水準について、データが得られる直近の2009年時点の対米比と、ピーク時の対米比との差を一覧にしてまとめたものである。

第Ⅰ-1-3-6図 非製造業の主要産業の労働生産性水準の対米比

第Ⅰ-1-3-7図 非製造業の主要産業のTFP水準の対米比

 労働生産性水準で見ると建設が対米比8割半ば、TFP水準で見ると金融・保険13が米国と同程度、建設が対米比9割と、米国に拮抗する生産性水準を示す産業も存在するが、卸売・小売、飲食・宿泊等、多くの非製造業はTFPで見て対米比5割程度の水準にある。

 ただし、非製造業においては、サービスの質の差異が十分には反映されていないおそれもあるため、ここでの結果はやや幅を持って見る必要がある。

13 2007年時点では対米比8割を保っており、次節で見るように、2003年から2007年の平均では対米比9割近い水準にある。2009年の水準はリーマン・ショック後の低下の影響を強く受けていると考えられる。

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