経済産業省
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第1節 優れた中堅・中小企業の海外展開

 本節においては、雇用吸収や経済成長の源泉として世界的にも注目を浴びる中堅・中小企業について、その特徴を整理し、中堅・中小企業が国際市場に活躍の場を拡大していくための取組の方向性を示していきたい。ここではまず、中堅・中小企業の海外展開の先行事例として、国内経済の成長に大きく寄与しているドイツの中堅・中小企業について見ていく。また、我が国にも、ドイツの中堅・中小企業のように海外展開し成功を収めている中堅・中小企業があることを、事例を通して紹介する。

1.国際的に注目を浴びる中堅企業

 米国のサブプライムローン問題、リーマンショックなど金融面での混乱を背景とした景気の下降局面において、中堅・中小企業が、なかんずく中堅企業が、経済的ショックへの強靱な耐性を示したという事実に注目が集まっている。

 EU4か国(ドイツ、フランス、イタリア、英国)において、経済が低迷した2007年から2010年までの間に、大企業が約150万人の雇用を減らす中、中堅企業は、小企業の約9万人を大きく上回る約19万人の雇用創出に貢献したとの調査結果が存在する89(第Ⅱ-3-1-1図)。なお、こうした中堅企業は、EU4か国の全企業数に占める割合が2%に満たない水準であるにも関わらず、中堅企業が生み出す売上高、雇用、GDPの割合は、それぞれ全体の約30%を占めるに至っており、中堅企業がEU4か国の経済活動を支える源泉となっている(第Ⅱ-3-1-2図)。こうした中堅企業の代表格が、ドイツ中堅企業(Mittelstand)であり、優れたビジネスモデル(①特定の財・サービスに特化、②海外需要の積極的獲得、③アフターサービス等を通じた顧客ニーズの吸収)により、世界市場での成功を収めている(詳細は後述)。

第Ⅱ-3-1-1図 2010年における2007年からの雇用増減(EU 4か国、企業規模別)

第Ⅱ-3-1-2図 EU 4か国経済におけるMid-market companies (中堅企業)の位置付け

 欧州のみならず、米国においても、中堅企業が経済の底堅さを支えている様子が窺える。米国において中堅企業90はGDPの約1/3を占めているが、売上高の伸びや雇用の伸びから見て、S&P 500企業と比肩する(場合によっては凌駕する)パフォーマンスを示している(第Ⅱ-3-1-3図)。

第Ⅱ-3-1-3図 米国のMid-market companiesの売上高成長率(左)、雇用成長率(右)

 日本においても、同様の規模の企業のパフォーマンスが良好であることが確認できる。企業活動基本調査により、売上高成長率が上位20%タイル(標本を順番に並べて上位20%)に入る企業を資本金規模別に区分し、それぞれの資本金規模毎に成長率の平均値を算出すると、中堅企業の成長率が高い傾向が見てとれる(第Ⅱ-3-1-4図)。また、雇用の純増数(2008年における2001年からの雇用純増数)で見ても、大企業は雇用を純減させているが、中堅・中小企業は雇用の純増に貢献している(第Ⅱ-3-1-5図)。

第Ⅱ-3-1-4図 売上高成長率上位20%タイル企業の成長率平均値(資本金規模別)

第Ⅱ-3-1-5図 雇用純増数(企業規模別)

 以下では、経済の中核を担い成長の源泉となっている中堅企業について、ドイツMittelstandの成功要因や企業の事例、ドイツMittelstandに比肩する日本の中堅企業の事例等を見て行きたい。

89 National center for the middle market が設定するmid-market companies (「中堅企業」と翻訳する。)の範囲は、ドイツ:年間売上高2,000万~10億ユーロ、英国:年間売上高2,000万~10億ユーロ、フランス:年間売上高1,000万~5億ユーロ、イタリア:年間売上高500万~2.5億ユーロ。

90 National center for the middle market による米国のmid-market companiesは、年間売上高1,000万~10億ドルの企業。

2.ドイツの中堅・中小企業

(1)ドイツ中堅・中小企業総論

 欧州債務危機を背景とした、欧州域内の需要低迷の影響を受け、ドイツの輸出は2012年に前年比で減少したものの、輸出額は日本の2倍近くに達し、中国、米国に次いで世界第3位を確保している(第Ⅱ-3-1-6図)。また一人あたり輸出額(2011年)及びGDPあたり輸出額で第1位(第Ⅱ-3-1-7図、第Ⅱ-3-1-8図)と、国の大きさに対して抜群の輸出力を誇っている。

第Ⅱ-3-1-6図 主要国の輸出推移

第Ⅱ-3-1-7図 主要国の一人当たり輸出額(2012)

第Ⅱ-3-1-8図 主要国のGDP当たり輸出額(2012)

 ドイツの輸出を支えるドイツ企業は、ここ数年で付加価値を大きく伸ばしているが、企業規模でみると、付加価値を大きく伸ばしドイツ経済をけん引しているのは、大企業ではなく中小企業(EU定義:従業員数249人以下)であることが分かる(第Ⅱ-3-1-9図)。

第Ⅱ-3-1-9図 付加価値の伸び(2005-2011)

 ドイツの経済において中小企業が占める割合についてみてみると、企業数の99%以上を占め、被雇用者の6割超を抱え、付加価値の5割超を生み出している。日本及び米国と比較すると、中小企業数の割合はほぼ同じであるが、被雇用者数と付加価値については、ドイツと日本においては、米国よりも中小企業の割合が高い(第Ⅱ-3-1-10表)。

第Ⅱ-3-1-10表 中小企業が国の経済に占める割合

 また欧州債務危機の中にあっても、他の欧州主要国と異なり、ドイツでは中企業91を中心として中小企業が雇用を伸ばしており(第Ⅱ-3-1-11図、第Ⅱ-3-1-12図)、同国の歴史的に低い失業率92に貢献している(第Ⅱ-3-1-13図)。

91 EU定義:従業員数50~249人。

92 2013年2月の失業率5.4%(Eurostat)。

第Ⅱ-3-1-11図 被雇用者数推移(ドイツ)

第Ⅱ-3-1-12図 被雇用者数推移(主要国の中企業)

第Ⅱ-3-1-13図 欧州主要国失業率

(2)ドイツMittelstand(ミッテルシュタンド)の概念と特徴

①総論

 上記で見てきたように、ドイツでは中小企業が経済の中心的地位を占めるが、特に、特定の製品セグメントへの特化、グローバリゼーション、家族所有、長期的視野に立った経営等の特徴(第Ⅱ-3-1-14表)を有する“Mittelstand(ミッテルシュタンド)”という概念で代表される中堅企業が、ドイツ経済を支えていると言われている。ここでは、Mittelstandのどのような点に強みがあるのかを概観する。

 なお、ドイツにおけるMittelstandの概念は、“Mittelstand的な特徴”を備えた企業を全て含み、公的な中小企業の定義93より大規模な企業も包含するものである。

第Ⅱ-3-1-14表 Mittelstandの特徴94

93 IfM Bonn (ボン中小企業研究所:Institut für. Mittelstandsforschung Bonn)の定義:従業員500人未満・年間売上5,000万ユーロ未満、EUの定義:従業員250人未満かつ年間売上5,000万ユーロ以下。

94 Simon (2009)、Federal Ministry of Economics and Technology (Germany)(2012)、及び企業に対するヒアリング調査を参考に作成。

②差別化された製品への特化・グローバリゼーション

 ドイツのMittelstandは、“Don’t dance where the elephants play.”95、“We only focus on one thing, but we do it better than anyone else.”96といった言葉に表されるように、他社との競合が激しい分野では戦わず、特定の差別化された分野でリーダー的地位に立つことを目指し、そして、輸出や海外進出を積極的に行うことにより、特化した市場であってもビジネス規模を確保する、と言われる(第Ⅱ-3-1-15図)。

第Ⅱ-3-1-15図 Mittelstandの基本戦略

 また、ドイツ企業は企業数に占める輸出企業の割合が高い(第Ⅱ-3-1-16図)。欧州の中央に位置するという地理的な特徴や、19世紀後半まで君主国が割拠する体制であったという歴史的な背景から、“国を超えた”商売を行うことに対する抵抗感が少ないことが要因のひとつであるとも言われているが、ドイツのMittelstandは、グローバル人材を積極的に活用して、欧州内だけでなく日本や中国、アフリカ等、国外に幅広く展開し、需要を獲得している。

第Ⅱ-3-1-16図 輸出企業の割合

95 Mittelstandで好まれるスローガン。

96 ドイツ企業Flexi (犬用リードメーカー。犬用伸縮リードにおいて、世界市場70%のシェアを誇る。)の理念(Simon(2009))。

③直販とアフターサービス

 Mittelstandの販売は、直販が主流であり、また、アフターサービスと一体で販売することで、顧客のニーズを拾う機会を確保し、製品の改善につなげる。代理店を利用する場合でも、充実した研修制度の活用によって、代理店自らアフターサービスを実施できる体制を構築する例が多い。

~ドイツMittelstand事例~デロ(Delo)97

 工業用接着剤の中小メーカーとして設立(1961年)され、現在は、太陽光パネル用からスマートカード用、自動車用にいたるまで、顧客ニーズに合わせカスタマイズした特種接着剤を中核に、グローバル展開する。従業員は約300人、2011年の売上高は4,420万ユーロ、国外売上高58.6%となっている。スマートカード用接着剤の世界シェアは80%を占めている。

〈国外販売・顧客対応〉

 国外事業については、ディストリビューター経由の輸出から始めて、顧客の拡大に伴って徐々に現地法人化を図る。有望市場には現地語のできる現地人材を「オンサイト・セールス・エンジニア」として配置している。技術的に特殊な生産工程で使われる商品分野のため、文書や口頭での説明ではなく、顧客企業の現場に入って目でわかるようにアドバイスできなければならないと考えている。そして、顧客のリクエストを聞き、解決策を提案する形で、顧客との二人三脚での商品開発を進める。

 また、顧客サポートについては、コンサルティングを含む万全な態勢を有しており、成長著しい中国市場においても、同社の優位性は高い。

〈R&D〉

 研究開発には年間収入の約15%を投資してイノベーションを進めるほか、生産はドイツ本社工場のみで、技術は特許化せず自社内で秘匿化している。

97 ジェトロ(2012c)より作成。

④ブランド・品質重視

 Mittelstandは、価格競争を行わず、製品の品質で勝負することを特徴とする。低コストを求めて生産の一部を国外に移す企業もあるものの、国内生産等により品質の高さを確保することを重視する。また、国内生産による「ドイツメイド」ブランドだけでなく、自社ブランドによる販売と、高いブランド価値の確立及びその維持にこだわる。

 ドイツのMittelstandの中でも特に成功している企業である「隠れたチャンピオン企業」98に対するアンケート調査によれば、競争優位としての「価格」の位置づけは非常に低い(第Ⅱ-3-1-17図)。

第Ⅱ-3-1-17図 隠れたチャンピオンの競争優位

 他方、日本企業の製品は、一般に製品の品質に対する評価が高い一方で、価格競争を重視する傾向がある。アンケート調査によれば、「世界で通用する製品・サービスを確立するために求められるもの」として、「価格」を挙げる回答が、全体で54%、製造業で66%となっており、「品質」・「技術力」を上回っている(第Ⅱ-3-1-18図)。

第Ⅱ-3-1-18図 日本企業が重視する国際展開のための改良点

98 定義:①特定の分野で世界トップ3又は大陸欧州で1位、②売上高が50億ユーロ未満、③一般的にあまり知られていない、以上の三点を満たす企業。(Simon (2009))

⑤イノベーション・R&D投資

 Mittelstandの多くは、家族所有や家族経営であることから、長期的視点で研究開発を実施することが可能であり、絶え間ないイノベーションを行うことで、競合相手より優位に立つと言われる。

 イノベーションを実施した企業の比率についてみてみると、ドイツの中小企業の54%が、2008年から2010年の間に、市場にとって新規となるイノベーションを実施しており、EU全体の中小企業(34%)より高い(第Ⅱ-3-1-19図)。また、ドイツの中企業は、EUの大企業平均と同程度にイノベーション99を実施している(第Ⅱ-3-1-20図)。

第Ⅱ-3-1-19図 市場にとって新規となるイノベーションを実施した中小企業の比率

第Ⅱ-3-1-20図 イノベーションを実施した比率

99 市場にとって新規となるイノベーションだけでなく、自社にとって新規となるイノベーションも含む。

⑥従業員との長期的関係

 Mittelstandは、次世代以降をも含む長期的視野に立ち、従業員の技術や能力に投資する。企業が従業員を大事にするとともに、従業員も企業に対する帰属意識が高いと言われ、実際に隠れたチャンピオン企業では従業員の転換率が他国に比べ低い(第Ⅱ-3-1-21図)。従業員の技術と経験が企業の重要な基盤であり、そのタレントは一度失ったら二度と手に入らないと考える企業が多く、欧州経済危機の間も、従業員の雇用が維持された(前掲第Ⅱ-3-1-11図、第Ⅱ-3-1-11図)。

第Ⅱ-3-1-21図 従業員の転換率

 また、自社従業員の継続的な技術力向上に注力するだけでなく、より長期的な観点から、デュアルシステム(後掲)により職業学校に帰属する訓練生の育成にも貢献する企業が多い。

⑦地方への分散

 ドイツでは、産業が各地に分散している。優れた機械製造技術を背景とする製造業が各地に分散しているが、1990年代以降に実施されている政府によるクラスター育成政策も背景にして、各地で広く産業が発展している(第Ⅱ-3-1-22図)。各地域では、研究機関や大学との連携や企業間相互の協力が、ドイツ企業全体の底上げに貢献していると言われる。

第Ⅱ-3-1-22図 ドイツの産業集積の地域分散

 また、分散したクラスターを背景に、Mittelstandも各地に分散し、多くは地元地域に根を張り、地域社会に貢献している(第Ⅱ-3-1-23図)。

第Ⅱ-3-1-23図 ドイツのHidden Championの地域分散

 欧州委員会の「EU Cluster Observatory」には、産業クラスターを有する地域がEU各国から登録されているが、その中でもドイツは、規模や産業への集中度を基準として「知識の波及性が高い」として星を付与されるクラスターを有する地域の割合が高い(ドイツの登録地域32に対し29地域が、主要製造業の星付きクラスターを一つ以上有する)。またそれらの地域ごとの星付きクラスターの数が多い(ドイツで星付きクラスターを有する地域は、主要製造業の星付きクラスターを平均3.5業種有しており、イタリアの同2.5業種、スペインの2業種、フランスの2.4業種、英国の1.3業種より多い。)(第Ⅱ-3-1-24図)。

第Ⅱ-3-1-24図 欧州主要国における産業の集積

⑧家族所有・家族経営

 Mittelstandは家族所有を特徴とし、外部が関与しないために経営に関する決定のスピードが速く、また長期的視野に立った投資が可能であるという強みを有する。

 ドイツでは、全企業の95%が家族所有である(第Ⅱ-3-1-25図)が、家族所有企業に対するアンケート調査によれば、90%以上が、「長期的な目標と戦略に従った事業マネジメント」と、「企業の株式保有者個人の利益よりも事業を優先すること」について重要性が高いと回答しており(第Ⅱ-3-1-26図)、外部株主の影響がない家族所有のもとで、長期的経営が行われていることが分かる。

第Ⅱ-3-1-25図 ドイツ企業の所有形態

第Ⅱ-3-1-26図 ドイツ家族所有企業が重要とする事項

 また、家族所有企業のうち、オーナー一族が経営委員会に関与する割合はアンケート調査では8割を超えており、所有と経営が一体となっている企業が多いと言える(第Ⅱ-3-1-27図)。また、外部経営の場合でも、オーナー一族はAdvisory Boardのメンバーとなることで、経営に関与する機会を確保しているケースが多い100

100 Institute für Mittelstandsforschung Bonn (2012)

第Ⅱ-3-1-27図 ドイツ家族所有企業の経営陣の構成

(3)Mittelstand(ミッテルシュタンド)を支える制度・環境

①デュアルシステム

 デュアルシステムとは、義務教育(9~10年間)を修了した若者を対象とした教育制度であり、伝統的に労働者と熟練工を育成している。企業内における専門分野の実践訓練と、職業学校における理論的基礎の修得は、企業に就職した後、高度な技術を伴った高品質の製品に対応し、かつイノベーションに貢献できるような質の高い多くの技術労働者を生みだしており、ドイツ中小企業の競争力を支える重要な要素となるとともに、若年層の雇用も支えている101

 訓練修了後に獲得する職業訓練資格は労働市場に入るための重要な要件となっており、若者の過半数102が参加し、また職業訓練生の50~60%103が訓練先の企業にそのまま就職する。

 職業学校の費用は市町村と州を中心とする公的資金から支出されるが、企業内訓練費用は原則訓練実施企業が負担する104。なお、連邦政府は、小規模な企業が合同で職業訓練生を受入れる体制を構築する場合に対する助成等、限定的ながら受入れ企業に対する支援も実施している105

 職業訓練生の企業内訓練は、約7割が中小企業の受入れによるものである(第Ⅱ-3-1-28図)。少子高齢化を背景に、企業にとって技術者の確保は重要な課題となっており、訓練生が訓練修了後に自社人材となる可能性が高いことは、受入れ側にとっても大きな利点である。他方で、地域の技術者育成に貢献するという社会意識から訓練生を受入れる企業も存在する。

第Ⅱ-3-1-28図 ドイツ企業の職業訓練生受入れ割合(企業サイズ別)

 訓練生の受入れの多くが中小企業であることの背景には、中小企業に対するイメージの良さがあると考えられる。柔軟性があり、組織の大きさがコンパクトであるために個々の従業員が早い段階で重要な職務を担える、といった理由から、多くの優秀な若者が、技術力のある中小企業の門をたたく106と言われている。また若者が出身地域の企業に就職する傾向が高いことも、地元中小企業による訓練生受入れの背景の一つにあると考えられる。

100 Institute für Mittelstandsforschung Bonn (2012)

101 Federal Ministry of Economics and Technology (Germany)(2012).

102 2010年51.49% (CEDEFOP)(2012).

103 Federal Institute for Vocational Education and Training (BIBB)(2012).

104 独立行政法人国際協力機構国際協力総合研修所(2005)。

105 European Commission (2012).

106 ドイツ商工会議所へのヒアリング調査による。

②資金調達

 ドイツでは、中小企業と地元の単一の銀行との間に密接で長期にわたる関係が築かれており、企業の信用に関する情報を銀行が把握している割合が高く、中小企業であっても低利・長期融資を得やすいと言われている。ドイツでは、大企業よりも高い94%もの中企業が、要請した銀行融資をほぼ受けることができたと回答しており、資金調達環境が良いことが推測される(第Ⅱ-3-1-29図)。

第Ⅱ-3-1-29図 要請した銀行融資をほぼ受けることができた企業比率

 また、ユーロ圏全体では、資金アクセスを最も重要な問題であると回答した割合は、企業サイズが小さくなるほど高くなるが、ドイツでは、中企業と小企業が資金アクセスを最重要課題とした割合は、大企業よりも低く、中小企業の資金調達環境が比較的よいと言える(第Ⅱ-3-1-30図)。

第Ⅱ-3-1-30図 資金アクセスを重要な課題とする企業比率(サイズ別)

 ドイツで預金業務や貸出し業務を行う銀行は、主に民間商業銀行グループ、貯蓄銀行グループ、信用協同組合グループに分かれるが、中でも民間企業向け融資と中小企業向け融資において最大のシェア(前者の37%、後者の43%)を誇る貯蓄銀行グループは、中小企業の資金調達を支えていると言われている(第Ⅱ-3-1-31図、第Ⅱ-3-1-32図)。

第Ⅱ-3-1-31図 企業向け融資

第Ⅱ-3-1-32図 中小企業向け融資

 また、貯蓄銀行グループは、ドイツの個人預金の4割、企業による預金の3割を受入れており、この安定的な資金を、地元企業の経済活動のために活用している107

 貯蓄銀行の多くは市町村が設立・所有する金融機関であり、地元自治体や企業のハウスバンク業務等、リテールの預金・貸出し業務を中心に行っている108。貸出し業務だけでなく、州銀行等、同グループ内の上位にある銀行が保有する投資銀行業務や輸出金融の機能を活用することが可能であり、これにより地元企業の資金ニーズを一元的に支えることができる109

 安定的な資金源と地元企業との密接な関係に基づいて、企業向け融資の多くが長期融資となっており、5年超の長期融資割合は、大銀行で4割であるのに対し、貯蓄銀行では7割を超える(第Ⅱ-3-1-33図、第Ⅱ-3-1-34図)。2009年の経済危機においては、大銀行が貸出しを減少させる中、貯蓄銀行は企業に対し十分な資金提供により、むしろ貸出しを拡大(第Ⅱ-3-1-35図)しており、その堅実な運営に対する評価が高まっている。

第Ⅱ-3-1-33図 貯蓄銀行の企業向け融資(期間別)

第Ⅱ-3-1-34図 大銀行の企業向け融資(期間別)

第Ⅱ-3-1-35図 ドイツ国内銀行の企業向け貸出しの推移

 貯蓄銀行をはじめとして地元に根ざした金融機関は、連邦政府にも活用されている。KfW(ドイツ復興金融公庫)110による中小企業向け融資は、全て地元の金融機関を通じて実施することとなっており、容易なリスク審査で中小企業が新たな金融支援を受けることを可能にしている111

107 IMF (2011)、Savings Banks Finance Group (2011)。

108 羽森(2011)。

109 州政府が保有する州銀行(州レベルで7行)と、貯蓄銀行協会が保有するデカバンク(連邦レベルで1行)を含む。前者は貯蓄銀行間の資金決済業務と州政府のプログラム融資や資産運用、後者は同グループ内の資産管理業務を実施するが、ともに、ユニバーサルバンクとして、企業向けの与信供与や投資銀行業務等幅広い業務を実施する(齋田(2008)、Deka Bank (2012))。

110 ドイツの政策金融機関。中小企業向けのほか、消費者や住宅建設、公共インフラ向けファイナンス、輸出・プロジェクトファイナンスを行う。

111 中小企業金融公庫総合研究所(2005)、KfWウェブサイト (https://www.kfw.de/KfW-Group/About-KfW/Arbeitsweise/Kreditvergabe-%C3%BCber-Hausbanken/外部リンク(新しいウィンドウが開きます))。

③研究機関・大学

 ドイツでは、各地の研究機関や大学が、企業への技術移転に大きく貢献していると言われているが、多様な公的研究機関の中でも、特に産業界への貢献が大きいと言われている主な研究機関と、大学の取組について、以下で紹介する。


 フラウンホーファー研究機構は、80施設112を有し、欧州最大の応用研究機関と言われている。ドイツ及び欧州の産業競争力を技術面から増強することを主目的としており、基礎研究を行う研究機関とは立場を明確に区別し、「社会に役立つ実用化のための研究」をテーマに、企業からの委託研究や独自の研究プロジェクトのスピンオフ、特許やライセンス許諾、起業支援を通じて、企業への技術移転を実施している。

 数ある個別のプロジェクトアイディアについては、段階的かつ体系的に審査を行い、市場に出すという観点で実現可能なものを絞り込んだ上で、最終的にプロジェクトのスピンオフや運営チームの立ち上げ等を行うという手法を導入し、技術移転を促進している(2011年は、ライセンス収入1億2500万ユーロ、スピンオフ30件)。

 2011年には、約18億ユーロの年間研究費のうち8割が委託研究に充てられた。委託研究の財源の3割は企業により、残りはドイツ連邦・州政府やEU等公的機関により賄われている113


 マックスプランク協会は、基礎研究を専門に行う80施設で構成される。毎年13,000件以上の学術記事を発表し、論文の被引用数は研究機関として世界でトップクラスの実績を有する。

 公的機関であることから、研究成果を社会にアクセス可能な形で提供することが義務とされており、特許取得やライセンス許可、スピンオフの支援等を行う専門の機関を内部に設置し、知識や技術の移転を実施している(2012年のライセンス収入は1,900万ユーロ、スピンオフは1990年以降約100件。)114

 年間予算約14.6億ユーロのうち8割がドイツ連邦・州政府から支出されている115


 ヘルムホルツ国立研究協会は、ドイツ最大の研究機関(年間予算37.6億ユーロ)であり、大規模な17施設で構成される。基礎研究を主とする機関と、技術開発志向の機関があり、後者は、研究成果を活用するパートナーを探す「スピンオフモデル」の活用や民間企業との共同プロジェクトにより、企業への技術移転に貢献している(2011年のライセンス収入は1,600万ユーロ、スピンオフは2007~2011年の間に55件)。予算の3分の2は、ドイツ連邦・州政府から支出されている116


 大学に関しては、世界の大学トップ400117にランクインした大学数が米国、英国に次ぐ3位の実績を誇る(第Ⅱ-3-1-36図)。

 産業への技術移転に関しては、工科大学が基礎研究分野で質の高い研究を実施する一方、高い実務志向と職業関連性を持つ専門大学が、応用研究と技術移転によって、地域の中小企業の競争力向上に貢献している118。連邦政府による、専門大学の応用研究や技術移転に対する助成は近年増加しており、予算は、2005年の約1千万ユーロから2012年には約4千万ユーロとなった。

第Ⅱ-3-1-36図 世界のトップ400大学にランクインした大学数

 研究成果の技術移転は、大学内外の知的財産管理機関119によって効率的に実施されており、各地のクラスターにおいて、研究機関と並んで企業の経済活動に貢献している120

 ドイツの中企業のうち、19%が大学等高等教育機関と(第Ⅱ-3-1-37図)、また8%が政府等公的研究機関と協力を実施している。充実した大学や研究機関に支えられるドイツ企業はまた、欧州中小企業にとって、国外の技術協力パートナーの第一位となっている(第Ⅱ-3-1-38図)。 

第Ⅱ-3-1-37図 大学等高等教育機関と協力を実施している企業比率

第Ⅱ-3-1-38図 欧州中小企業の国外の技術協力パートナー(top10)

112 うちドイツ国内は60施設。

113 Fraunhofer-Gesellschaft (2011)、および同機構ウェブサイト。(http://www.fraunhofer.jp/ja/aboutus/FhG.html外部リンク(新しいウィンドウが開きます))

114 Max Planck Innovationウェブサイト。(http://www.max-planck-innovation.de/en/外部リンク(新しいウィンドウが開きます))

115 Max Planck Societyウェブサイト。(http://www.mpg.de/186435/Facts_Figures外部リンク(新しいウィンドウが開きます))

116 日本政策投資銀行(2005)、ヘルムホルツ協会ウェブサイト。

117 The Times Higher Educationが実施する、「World University Rankings 2012-2013」(http://www.timeshighereducation.co.uk/world-university-rankings/2012-13/world-ranking外部リンク(新しいウィンドウが開きます))に基づく。論文引用数、研究に対する評価、研究者あたり研究収入、教育の充実度、国際化度合い、産業界からの収入等を評価したランキング。

118 Federal Ministry of Education and Research (Germany)ウェブサイト(http://www.bmbf.de/en/1952.php外部リンク(新しいウィンドウが開きます), http://www.bmbf.de/en/19918.php外部リンク(新しいウィンドウが開きます)

119 シュタインバイス財団、PROvendis社(ノルトライン=ヴェストファーレン州州)、ipal (ベルリン)、バイエルン・パテント・アリアンツ(バイエルン州)、TLB (バーデン=ヴュルテンベルク州)等。

120 独立行政法人工業所有権情報・研修館(2008)。

④在外商工会議所(AHK)

 ドイツ在外商工会議所は、ドイツ企業と現地企業が自主的に協力して結成した組織で、世界80か国に120カ所の拠点を展開し、現地に展開しているドイツ企業と、そのパートナーとして関係する現地企業の具体的なニーズに応えることを目的として活動している。

 具体的には、業界・市場情報や法律・税制度に関する情報の提供や見本市関連支援の実施、また現地の特定企業に関する情報の調査に加え、現地組織とドイツ企業の橋渡し役となるべく、現地におけるパートナー企業や研究協力機関の紹介なども精力的に行っている。また、若者に対し、職業訓練を受入れる海外企業の紹介なども行っている。

 また当組織は、会員費用収入だけでなく政府による支出も受けており、公的な機能も有している。特に連邦政府による対外経済振興政策においては、在外公館及びドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)とともに三本柱の一つを担っており、連邦経済技術省が主導するドイツ企業の輸出支援イニシアティブ等のサポートにおいて重要な役割を果たしている121

121 ドイツ在外商工会議所 に対するヒアリングおよび同組織ウェブサイトによる。

⑤政府等による支援

 大企業は独自で国際展開が可能であるとの考えに基づき、行政と民間による支援は、主にMittelstandに向けられている。


 連邦政府による中小企業に向けた国際展開支援は、主に、(1)国外における見本市への出展支援やミッション派遣、ドイツ製品やサービスを紹介する情報発信、インターネット上で顧客を直接探すための企業や製品の具体的な情報データベースの整備、といったビジネスマッチング支援策と、(2)貿易保険や投資保証、二国間投資協定といった施策により実施されている。

 なお、こうした連邦政府主導の政策は、GTAI(後掲)やAHK(前掲)等、世界に網の目のネットワークを張る関係機関の協力を得て実施されている。

 経済技術省は2010年に「対外貿易投資キャンペーン122」政策を発表し、企業の国際的な経済活動に対する公的支援は、中小企業に重点を置くことを明らかにした。それによると、2003年以降、再生可能エネルギーやエネルギー効率等の分野別輸出イニシアティブがドイツ全企業を対象に実施されていたが、これをより中小企業を考慮した支援とし、かつ対象を健康医療やセキュリティ技術等の分野にも拡大すること、また貿易保険と投資保証についても、より中小企業のニーズに応えるように改善していくこと、とされている。

 貿易・投資振興機関(GTAI)は、連邦政府がほぼ全額を出資する対外政策支援機関(2012年予算1,700万ユーロ)であり、世界に50近い支部を展開し、国外への貿易と投資、外国企業の国内立地促進をミッションとし、海外現地情報の提供や、目的に応じた調査を実施している123

122 Federal Ministry of Economics and Technology (2010), “Foreign Trade and Investment Campaign”.

123 伊藤白(2012)「ドイツの対外経済政策」、『総合調査「技術と文化による日本の再生」』、国立国会図書館 。

(4)Mittelstand事例

 以上、Mittelstandの特徴及び、これらをとりまく環境等を概観してきたが、以下、具体的な事例として、ここまでに説明してきたような特徴を体現している企業を紹介する。なお、世界的にグローバル化に適応した中堅・中小企業が成長していることを踏まえ、ドイツ以外の事例もここに掲載する。

①ラショナル(Rational)

 業務用オーブン型調理器具で世界シェア54%を占める。従業員1,300人の上場企業である。創業一族が株の70%を保有しているが、経営に直接関わらない。2012年の売上高は4.4億ユーロ、輸出割合は85%、資本金1,137万ユーロとなっている。(国際展開開始時(1991年頃)の売上高は5,300万ユーロ、従業員は347人。)

〈グローバル展開・直販〉

 欧州各国のほか、米国、カナダ、日本、ロシア、ブラジル、中国、ウクライナ、インド、中東に現地法人を保有し、100か国以上で販売する。生産拠点はドイツのみとなっている。国外での販売は、子会社がある国では全て直販により、子会社がない国では国ごとに存在する販売パートナー企業を直接通じて行っている。

〈差別化した製品への特化・イノベーション・顧客サービス〉

 総合厨房メーカーではなく、オーブンに特化した調理機械単体を扱う。

 “Because details make the difference”をキャッチフレーズに、デザインと機能について徹底的に細部にこだわり、料理人にとって厨房で使いやすくすることを追求した設計により、取っ手一つであっても他社の製品とは異なるものとなっている。製品開発は、世界各地の料理人を呼び、調理方法を徹底的に再現し、また各地から吸い上げた要望や問題点に対する改善を反映させる形で実施する。製品の多くは、56言語に対応し、言語を選択することで各国の料理の仕様に自動的に変更される。

 生産と開発はドイツ国内で実施する。開発スタッフは、物理学者、デザイナー、料理人、栄養士などであるが、研究開発の場所はセキュリティーが高く、ブラックボックス化しており、社内の幹部であっても立入りは容易ではない。また、多数の特許の取得により、他社による模倣を防いでいる。

 顧客の求めるものをしっかりと理解するため、250人の元料理人を抱え、営業、応用研究、コンサルティングに従事させている。常日頃から顧客に接することで顧客目線での提案とサービスを行い、ウェブに入力された世界の顧客ニーズについて、本社で毎日報告と議論がなされる。また、サービスネットワークにより、問題が生じた際の素早い対応を確保している。

〈人材〉

 人材育成を重視しており、従業員に対し技術訓練のほか営業・マーケティングに関するトレーニングを実施している。また国外のマネージャーや幹部については、全員本国に招いて研修を実施している。

第Ⅱ-3-1-39図 ラショナル社の製品

②ケルヒャー(Kärcher)

 清掃機器の世界最大手メーカーで、高圧洗浄機をはじめとして、スチームクリーナー、床洗浄機、スイーパー、バキュームクリーナー、ドライアイスブラスターなど3,000種類の清掃機器を有する。従業員9,600人のドイツ家族所有・経営企業である。2011年の売上高は約19億ユーロ(初の欧州外拠点であるブラジルに進出する直前の1974年売上高は約2,000万ユーロ)、輸出割合は80%以上となっている。

〈製品の特化とグローバル展開〉

 1935年の創業後、航空機のエンジンを暖める暖気用ヒーターの開発から始まり、丸形鉄製ストーブや台所用レンジ、手押し車など、幅広く事業を拡大した。1950年には欧州初の業務用高温高圧洗浄機を開発し、1974年頃の戦後最大の不況期に事業を選択し経営資源を集中する必要性に迫られ、高圧洗浄を選択した。1975年に欧州外で初の支店となるブラジル工場を設立して以降、10年間で北米、アフリカ、豪州等において16の販売代理店を展開し、更に1984年には業務用製品の技術を応用して家庭用市場にも進出した。現在では清掃機器に特化して、世界60か国に現地法人、190か国に販売代理店を有している。生産拠点は、ドイツ以外に、欧州数か国と南米に保有する。

〈製品の差別化・イノベーション・R&D〉

 品質重視でブランドに誇りと自信を持っている。「makes a difference」「日々改善」をコンセプトにイノベーションを推進しており、人間工学について徹底的に研究している。例えば高圧洗浄機では、握りやすく出力時の反動をできるだけ抑える設計で疲れにくい。また独自開発の高圧洗浄機のノズルは端から端まで同じ出力の水を確保することにより、ムラなく一度に洗浄することができるといった工夫で、製品の差別化を図っている。大学等との共同研究も実施するなど、研究開発には、業績の悪い年も含めて、毎年売上げの約5%を投資している。ブランドのデザインにも徹底してこだわる。製品カラーは家庭用製品を黄色、業務用製品をアンスラサイト(グレー)で統一している124

124 2012年までは業務用製品も含め黄色で統一していたが、2013年より変更。

〈アフターケア〉

 アフターケアを非常に重視している。業務用製品については、継続的なサポートを行うため顧客管理システムを保有しているほか、迅速なメンテナンスサービスを確保するため、営業拠点の自社エンジニアに加え、パートナー店も、同社の正規の技術研修を受けることにより対応可能としている。また、ユーザーからあがってきたニーズ・要望については、本国に報告している。

〈人材育成〉

 ドイツ国内に専門の教育訓練施設を保有しており、毎週のように、従業員に対して外国語クラスと技術や製品知識の習得に関するトレーニングコースが設けられており、製品を知り尽くしたエンジニアをはじめ、質の高い労働力の維持に貢献している。

 また、アジア・パシフィックエリアの従業員については、シンガポールに集めてトレーニングを実施する。新分野の製品の発売前には、各国からエンジニアの責任者が本国に行き、トレーニングを受ける。

 若い職業訓練生に対する企業内訓練も積極的に実施し、技術設計、機械工学、経営その他、若者が様々な職業訓練資格を取得するための機会を提供している。また、カールスルーエ工科大学の独仏機械技術コースの学生に対して同社拠出の奨学金制度を設け、将来の技術者が専門知識だけでなく異文化知識を獲得することを手助けしている。

〈家族経営と長期的経営〉

 家族所有企業であり、創業一族であるKärcher家の存在が大きい。事業成果は企業としての継続、及び社会と環境保護に貢献するために投資するが、加えてオーナーも自らの利益を引き取らず再投資しており、同社の成長に貢献している。

 またKärcherの企業文化は従業員にも浸透しており、自らの仕事と同社を同一視して何十年も勤続する従業員が多い。

第Ⅱ-3-1-40図 ケルヒャー社の製品

③スチール(Stihl)

 チェーンソーを主力製品とする、従業員12,000人の家族所有・経営のドイツ企業である。2011年の売上高は26億ユーロ、輸出割合は89.4%、チェーンソーの世界シェアは35%となっている。海外展開を積極的に開始した時期(1973年)の売上高は約1,500万ユーロであった。

〈グローバル展開〉

 1926年に創業し、1931年に米国・ロシアに向けて輸出開始した。1966年に元々関係の深かった販売店を継承する形でオーストリア支社を設立し、1973年以降、グローバル展開を加速した(ブラジル、スイス、米国、と国外支社を相次いで設立)。現在では国外32か国の支社と、120以上の輸入代理店によって、160か国に販売している。

 コストを下げるため、ドイツ国内のほか、スイス、オーストリア、米国、中国、ブラジルに生産拠点を有するが、全ての生産拠点で同じ品質基準を採用することでクオリティを維持している。また技術流出を防ぐために、中国では組み立て中心とし、ハイエンド製品の生産はドイツに限定する等、製品や工程によって生産地を分けている。

〈ブランド・アフターサービス重視による差別化〉

 チェーンソーを中心として、刈り払い機やブロワーなど、主に林業で使用されるエンジンツールに関する幅広い商品ラインナップを有するが、ホームセンターは使わず、専門店のみをディーラーとして販売することで、サービスと一体となった販売を行っている。全てのディーラーがStihlのトレーニングを受けており、販売する際には、ユーザーの情報不足による不適切な使用方法や不十分な装備での使用により重大な事故が発生する可能性があることを十分に認識した上で、対面の納品指導を行っている。また、顧客の製品が故障した場合にはディーラーが出向いてその場で修理することで、顧客が使用できない期間を短縮している。

 また、ロゴやカタログ等、デザインの統一性に徹底してこだわっている。

〈R&D〉

 製品開発には力を入れており、ドイツには250億円規模の自社開発センターを有する。開発者にとって働きやすい環境であり、ドイツ国内で働きたい会社ランキング41位とされている。また、長期投資を積極的に実施しており、例えば日本市場向けの刈り払い機の開発にあたっては、細かいギアチェンジ機能を付加し小型化する等、徹底的に日本の顧客のニーズを拾い、5年がかりで完成させた。また、製品の全ての構成ユニットを自社で製造しており、顧客のニーズに応じた製品を開発できることが強みとなっている。

〈従業員への投資〉

 顧客サービスの質を維持するため、それぞれの商品は、商品ごとに異なる特定の研修を修了している者でなければ対応できないという制度をとり、従業員に対しては、随時、インターネットを通じたe-learningやセミナーを実施し、新製品へのキャッチアップを確保している。

 また、ドイツにおいてはデュアルシステムに基づく職業訓練生の受入れも積極的に行っている。

〈家族経営〉

 現在は創業者の孫であるDr. Stihlを社長とし、一族が持ち株会社の株式全てを保有し経営に関与する家族経営企業であり、決定のスピードが速い。株式公開しておらず、四半期ごとの業績公開も必要ないため、中長期のスパンで経営計画を実行できている。また、子会社の責任者は、年間予算の範囲内で決定権限が与えられ、ほとんどの事項は子会社の判断で進められる。本国社長への連絡は年に数回だが、必ず24時間以内に回答がある。

④ワグナー(Wagner)

 塗装機械を生産する、従業員1300人の基金所有のドイツ企業である。年間売上高は約3億ユーロ、輸出割合は65-70%、粉体塗料の塗装機械では世界シェア20%程度となっている。(輸出を開始する直前の1959年の従業員は57人、売上高140万ユーロ、初の海外現地法人をスイスに設立した1971年の従業員は400人であった。)

〈グローバル展開〉

 1960年代に輸出を開始し、1970年にはスプレーガンの世界トップメーカーとなった。現在、国外20か国の支店と300の代理店によって、50か国以上に販売する。

 装置のコアであるノズルやガンは、ドイツとスイスのみで生産する。中国でも生産を実施しているが、高品質の製品は中国国内の自社工場で生産する一方、ローエンドの製品については中国国内の他社に外注している。今後、中国自社工場で生産した製品の中国・東南アジアにおける販売を拡大していくことを予定している。

〈製品の差別化・イノベーション〉

 1946年の創業後、創業者が前職で携わっていたヘリコプター製造に関する技術をエアブローのノズル技術に応用し、1953年にスプレーマシンタイプの塗装機器を開発した。現在では塗装用技術に特化し、工業用、建築用、消費者(DIY)用、の3分野で事業を展開している。

 同社は特徴ある製品を製造しており、例えば、(1)塗料霧の周りにエアカーテン流を作り出すことで塗料の飛散を防ぐ製品や、(2)液体塗料に帯電性を持たせることで、丸い形態の被塗物であっても、塗料が被塗物の裏まで回り込むことで生産性を向上させる製品、(3)2~3液の混同ユニットによって塗料と添加剤を同時に塗布する機能を有する製品などがある。

 また、製品を販売するだけでなく、良いコーティングを実施するためのソリューションとして、機械でどのように塗布するのが望ましいかという知識や機能の提案を行っている。

〈アフターサービス〉

 メンテナンスサービスは重視しており、工業用塗装機については基本的に、質の高い自社スタッフが、製品説明、操作及びサービスといった対応にあたる。建築用塗装機は、卸売か販売店経由で販売しているが、こうした販路の大半はメンテナンスを行えないため、ワグナーは、工業の経験や機械修理の技能を持つが本業を退職した者等が経営するサービスショップのネットワークを地道に構築している。

〈長期的視野に立った経営〉

 後継者がいなかったことから創業者がドイツとスイスにワグナー基金を設立し、その基金が同グループの持ち株会社を所有する。基金所有であることにより、同社は利益を内部留保し、投資に回すことが可能となっており、毎年売上げの3~5%を開発投資に回している。

⑤ハゼット(HAZET)

 自動車整備用工具を中心に幅広い産業向けの製品を扱う工具メーカーで、従業員500人の、ドイツの家族所有・経営企業である。年間売上高は8千万ユーロ超、トルクレンチの世界シェアは4分の一となっている。

〈品質〉

 1868年に創業し、1950年以降、ドイツの自動車大手メーカー(フォルクスワーゲン、メルセデスベンツ、オペル、BMW)に対するメーカー専用の自動車整備用工具(スペシャルツール)の供給を開始した。現在ではその品質の高さにより、スペシャルツールだけでなく標準工具についても、欧州各メーカーの自動車製造ラインで採用されている。

 製品の75%がドイツ国内工場での生産であり、メイドインジャーマニーとして高い品質を保持している。様々な製品を取りそろえて供給するため、アジアやスイスから納入している部品も一部あるが、これらも当然ドイツ国内と同じ高い品質基準を満たしたものとなっている。

〈差別化とイノベーション〉

 製品の差別化を追求するためイノベーションに注力しており、研究開発には年間売上高比で2桁台に相当する金額が投資されているほか、日本の自動車部品メーカーを含め、他社との共同開発や、大学との共同研究等も必要に応じて実施している。

 特に手動でトルク値を変えられるトルクレンチ125は非常に高い技術力に基づく高品質な製品となっており、同社は世界3大企業の一つとなっている。

 また機能性だけでなくよいデザインも心掛けており、製品は企業カラーの青で統一している。

 なお2011年と2012年にはドイツ中小企業を対象としたイノベーションTOP100126を受賞した。同社の考え方は、「創造的なアイディアとフレッシュな思考は、収入をふやすための手段以上のものである。我々は違いを作りたいのである。」との言葉127に表れている。

125 特定のトルク(回転力の大きさ)でボルトやナット等を締め付けるための工具(ウィキペディアより)。 (http://en.wikipedia.org/wiki/Torque_wrench外部リンク(新しいウィンドウが開きます)

126 compamedia社が、ウィーン経済大学N.フランケ教授調整の下、ドイツ中小企業協会(BVMW)、フラウンホーファー研究機構等をパートナーとして1992年より実施。

127 ハゼット社マネージングパートナーM. J. Hoffman氏(同社ウェブサイトより)。

〈顧客ニーズ〉

 顧客ニーズは最も重要と考えられており、技術サポーターが、直接、顧客である事業者の意見を集めるほか、見本市への出展や、インターネットアンケートも通じて顧客ニーズを拾う。

 また販売チームは、新製品を全て掲載したカタログを少なくとも年2回は出版するとともに、顧客向け研修も担当しており、自社内のトレーニングセンターにおいて研修を実施するだけでなく、最新の工具や必要備品を搭載した特別仕様のワゴン車を活用し、専門の技術者が顧客の事業所を回って製品の説明を実施している。

〈海外での販売〉

 海外での販売は、多くの場合、輸入事業を行うパートナー事業者が代理店として実施しているが、外国で代理店が新しい顧客を獲得すると、必ずドイツから社員が当地に赴き、顧客に直接説明するようにしている。また、社長自身も直接顧客に接して営業活動を実施している。

⑥テンテ(Tente)128

 一般産業用、医療用、工業用、重量物用キャスターを主力製品とする、従業員1,100人のドイツの家族所有・経営企業である。2011年の売上高は1億5,000万ユーロ、輸出割合は70%(2010年)、医療用ベッドのキャスターの世界シェアは80%となっている。(グローバル展開を加速した頃(1988年)の従業員は400人129であった。)

〈グローバル展開〉

 1923年に創業し、70年代の南アフリカ共和国の拠点設立に始まり、80年代に欧州における販売網を拡大した。近年はロシア、ポーランドに支店を開設し、東欧市場の開拓に注力している。日本支店は2005年に開設した。欧州金融危機の影響で2009年の売上高は20%下落したが、多様化した国際販売網がダメージの軽減に役立ったという。

〈生産拠点〉

 世界中に販売拠点を置いているものの、9割をドイツ国内で生産することにより、知的財産流出のリスクの軽減をはかっている。

〈顧客ニーズと製品開発〉

 キャスターの走行性や耐久性等、技術力に関して定評があるほか、技術者とデザイナー、更に販売先も協力して製品を開発することで、世界各国の細かいニーズを他社に先駆けて把握する。例えば、ベッドの移動を容易にしたいという介護現場の声に対応し、通常の4つのキャスターに加え、5つ目の駆動キャスターをベッド下中央に設置した130

 また、キャスターは通常目に見えるところについており、外観に対する顧客のニーズも高いため、同社はデザインにも注力しており、「ドイツデザイナークラブ」やユニバーサルデザイン協会などから多数の賞を受賞している。

〈従業員への投資〉

 国外市場における顧客ニーズを把握するための現場感覚を養うため、従業員の異文化対応能力の育成に注力している。ドイツ国内では、義務教育修了後に、デュアルシステムの下、企業内で職業訓練を行う職業学校の学生に対しても、卒業後にそのまま就職する可能性を見越して、外国人顧客の案内役にさせ、商談に同行させる等、異文化対応能力を養う機会をもうけている。こうした従業員への投資が、技術力やデザイン力と並んで、高い世界シェアを実現するための原動力となっている。

128 ジェトロ(2011)より作成。

129 従業員数:テンテより提供。

130 通常は4つのキャスターが使用されるが、5つめのキャスターを必要に応じて床面に下ろし、モーターの力も使用して、選択する方向に対してベッドを容易に移動させることができる。

⑦エロバウ(Elobau)131

 非接触型センサーをコア技術として、農業機械分野の世界的企業等を顧客とする、従業員520人のドイツ家族所有・経営企業である。2012年の売上高は6,700万ユーロ、輸出比率は62%132であった。

〈製品特化〉

 センサーを農業分野に応用することを目的に、1972年創業した。磁気センサー技術を応用して、接触することなく対象を検出する磁気式近接スイッチを開発し、牛が近づいてくるとセンサーが反応して飼料を供給できるシステムを、飼料コストで苦労していた酪農家に提案した。その後非接触型センサーを中核技術として事業を展開し、現在では農業機械分野を主軸に、建設機械や資材搬送分野などでも取引拡大を進めている。

〈顧客のリクエストへの柔軟な対応と、国内生産へのこだわり〉

 顧客のリクエストへの柔軟な対応力こそが中小・中堅企業の優位性ととらえており、社是として「柔軟な開発体制と信頼できる商品供給」を掲げる。ドイツの開発者が把握した顧客ニーズを直接生産ラインに反映させるため、開発と生産部門の連携を確保するとともに、目標とする「発注から2週間以内」という納期遵守のため、生産拠点はドイツ国内に限定している。

〈国外販売拠点〉

 国外進出は、顧客の所在する立地に代理店をおき、徐々に現地法人化するという方法をとる。

 現在の国外現地法人は、米国、フランス、日本、英国、スウェーデンといずれも先進国である。顧客企業の多くは中国などの新興市場に生産拠点をシフトしているものの、センサーなどの高機能を落としたモデルの生産が多く、サプライヤーである同社の商機に直結するわけではない。また、地理的領域を広げすぎると顧客ニーズ(多品種少量の受注に対応する柔軟かつ迅速な対応力)にきめ細かく対応できなくなる可能性があることを考慮し、今のところ対象国を絞っている。

〈人材〉

 人材育成を重視し、インターネット上での研修システムを開発し、ドイツ国外の従業員への情報・知識の共有を図っているほか、毎年15人までの研修生に職業訓練実習を行っている。2012年にはドイツで最も働きがいのある100企業133に選ばれた。

131 ジェトロ(2012a)より作成。

132 エロバウより情報提供。

133 The Great Place to Work® Instituteが世界各国を対象に1991年から主催。

⑧フェルコ(Felco)134

 農業用の剪定(せんてい)ばさみを製造・販売する、従業員140人のスイス企業である。家族所有の株式会社(非公開)で、現在も創業者一族が企業経営に関与する。

134 ジェトロ(2012b)より作成。

〈グローバル展開〉

 1945年に創業し、3年後には、国外輸出を開始した(フランス、オランダ、ドイツ、南アフリカ共和国)。現在、最も大きい市場は北米であるが、最近は南米で市場が拡大している。1980年、長年つきあいのあったベルギーのディーラーの引退を機に、最初の子会社をベルギーに設立し、国外での直接販売を開始した。現在、国外子会社は、他にフランス、豪州、ドイツ、アフリカ、カナダ、米国に展開し、120か国で販売している。

〈直接販売〉

 当初は、販売を希望する業者と、早い者勝ちの受け身の形で契約していたが、2000年代以降に直接販売を増やし、現在では製品の70%が直接販売となっている。各国のディーラーを通す方がコスト的には有利だが、商品開発の最大の情報源であるユーザーの声の正確な伝達を確保するため、販売網を直接販売に変化させているところである。

〈品質の高さ、地域性、技術の囲い込み〉

 創業当初に開発したはさみが、既に、農夫にとっての使いやすさを追求し、柄の部分をアルミにして軽くし、刃の部分には研ぐことで切れ味を維持しやすい鉄を組合せ、人間工学にもとづいて使いやすい形状を取り入れたものであった。現在最も売れ筋のはさみも、50年前に同社で2番目の製品として開発されたもので、たくさん出現しているコピー製品と比較すると、見た目が似ていても、使ってみると頑丈さや切れ味が全く異なるという。

 また、品質には妥協せず、ハサミの開き具合を調整するねじなどは、スイスの時計部品メーカーによる特注品であり、時計製造の中心地とも言える地域に立地していることが、技術的にも優位性をもたらしている。また、主にアルミニウムで形成されているにも関わらず、通常のハサミと違い、大人が全力で2つの柄の部分を引き離そうとしても壊れないほどの頑丈さを有する。

 同社の技術は古くから継続的に使われているものであるため、特許で守ることはできないが、品質まで模倣することは非常に困難なレベルだという。

 また、元々外注していたアルミニウム加工部分については、外注先の業務の半分以上が同社向けとなったため、この会社を買収した。更に当初輸入していた電動ハサミの電動部分については、電動部品会社を買い取りそこで生産する体制を整えることで、技術の囲い込みを実施した。これらによって、現在では品質の証しであるスイスメイドを名乗ることが可能となっている。

〈高付加価値〉

 同社の剪定(せんてい)ばさみにはコンプレッサー式や電動式があるが、大半は通常のはさみである。しかし、価格は80スイスフラン(1スイスフラン=約90円)と他社のはさみに比べ高い。但し、ライフタイム保証がついているほか、部品(12スイスフラン)を交換することで何十年も使うことが可能であり、長年使えばコスト的にも負けない価値の高いものと言える。

⑨エンバイロテイナー(Envirotainer)135

 医薬品向け特殊コンテナのリース事業を実施する、従業員約150人のスウェーデン企業である。医薬品向け特殊コンテナのリース事業における世界トップで、2011年売上高は5,000万ユーロ、輸出比率100%となっている。

135 ジェトロ(2012b)より作成。

〈製品特化・グローバル展開〉

 1985年に創業し、1995年に温度調整機能のついた特殊コンテナを開発し、翌年、主要な航空貨物サービス事業者に対するリースを開始した。海運や陸送分野は、物量をこなすことの優先度が高い上に競争が激しく品質よりも価格が優先されるため、高付加価値化を追求する中小企業である同社にとっては取り組みにくく、2002年にはリース事業を医薬品と高級品(高級生鮮食品やレンズなど)の航空貨物に特化し、更に2008年頃には特殊コンテナのリース事業に完全にシフトし、製造業からサービス業に転換した。

 売上高のほぼ100%が輸出によるもので、米国の航空産業の集積地ダラス、欧州の航空サービスの中心地フランクフルト、アジア大洋州ではシドニーとシンガポールに事業展開しており、顧客には、ルフトハンザ・カーゴ、スカンジナビア航空、アメリカン航空カーゴ、キャセイ・パシフィック航空カードをはじめ、ほとんどの主要航空貨物キャリアが含まれる。

〈メンテナンスサービス〉

 ビジネスモデルが特殊コンテナのリース事業に完全にシフトしたため、リース事業の基本として、保守・修理サービス提供を重視しており、顧客に対する特殊コンテナ取り扱いについての実務研修の実施にも取り組んでいる。医薬品などの高品質が前提となっている商品分野では、ロジスティクス面でも厳格な運用・管理が求められるため、リースしているコンテナの損傷などの状況を定期的に把握して、保守・修理する体制を整備している。

〈高付加価値化・技術開発〉

 コンテナの品質は極めて重要であるため、製造・保守・修理は国内にある同社の拠点で実施し、業務委託は行わない。また、米国の輸送用冷蔵設備大手企業と提携し、ドライアイス(固体炭酸)を使わず充電式の空調システムで0~20度の間を温度調整できる新モデルの開発を実施するなど、高付加価値化戦略に基づき、顧客ニーズを踏まえた次世代商品の開発や技術革新を行っている。

〈マーケティング展開〉

 直接の顧客である航空貨物キャリアに対しては、コンテナの保守・修理・コンテナ取り扱い実務者向けトレーニングなどのサービス提供を武器にマーケティングするとともに、間接的な顧客である医薬品メーカーに対しても、同社の新技術や新サービスの提案を行い、同社製品採用の有効性を説く積極的なマーケティングを実施している。

3.日本のグローバルニッチトップ型中堅・中小企業の事例

 我が国にもドイツのMittelstandのように特定の分野で世界シェアの上位を誇る優れた中堅・中小企業(グローバルニッチトップ型中堅・中小企業)が多く存在する。ここではその事例を幾つか紹介したい。

(1)株式会社前川製作所

 株式会社前川製作所は産業用冷凍機の製造及び販売等の冷却エンジニアリングを主力事業とする、従業員2,200人、資本金10億円の企業である。

①海外展開と販売方法

 1924年に創業された前川製作所は、1961年にソ連に冷却プラントの輸出をしたのが最初の海外展開であり、1964年にメキシコに設立した工場が初の海外拠点であった。現在海外拠点は34か国86か所(うちメキシコ、ブラジル、米国(2か所)、ベルギー、韓国、の6か所は生産拠点、残りは販売及びサービス拠点)にのぼる(第Ⅱ-3-1-41図)。M&Aや合弁で海外展開したことはなく、100%自社で行ってきた。

第Ⅱ-3-1-41図 前川製作所の海外拠点

 欧米先進国の販売方法は今までほとんど代理店販売がメインであったが、アジア・ラテンアメリカ諸国にて展開している直販を欧米先進国でも徐々に増やしていく方向で進めている。

②丈夫な製品、高付加価値サービスの重視

 前川製作所のコア技術は冷凍・冷蔵・保存であり、水産加工、低温物流、農産・畜産、飲料、乳業等幅広い顧客に対し、顧客のニーズに合わせたソリューションを提示することで、高品質な産業用冷凍機を提供しており、この分野での世界シェアはトップ(約35%)で、特に冷凍船用冷却設備では世界シェア80%以上をほこっている。高シェアをほこっている理由の一つは同社の製品はとにかく丈夫で長持ちのうえ高品質な製品である点にある。見た目が同じような製品は新興国のメーカーでも安く作れるが、前川製作所の製品の方が圧倒的に壊れにくく長持ちであり、耐久性に秀でている。

 また高シェアを得ているもう一つの理由は顧客への高付加価値なサービスを重視している点にある。各地にサービスマンを配置し、パーツが迅速に届くようなシステムを構築すること等により、定期点検やトラブル発生時の迅速な対応といったアフターサービスのみならず、トラブルの原因を解明して、トラブルが再発しないよう改善策を提案するというビフォーサービスにも力を入れている。

③社員の長期雇用

 前川製作所では、長年現場に携わることにより腕をみがいた職人が暗黙的かつ感覚的に製品全体・他のパーツのことを考えながら各パーツ製作に携わることにより、高品質な物作りが可能になっていると考えている。このため、一般的な意味での定年制度を設けていない。60歳でいったん退職金は支払うものの、①健康②意欲・やる気③若手が一緒にやりたいと考えているという要素がそろえば、だれでもいつまでも働くことができる。

(2)ホソカワミクロン株式会社

 ホソカワミクロン株式会社は粉体機器設備136の製造及び販売等を主力事業とする国内従業員355人(グループ連結1,465人)の企業である。

136 製造工程において粉状原材料等を粉砕、分級、混合、乾燥、計測等する際に使用する機器。

①M&Aを中心とした海外展開

 1916年創業のホソカワミクロンは、1960年に英国に現地法人(ホソカワインターナショナル社)を設立し、海外展開を本格化した。1962年には、オランダの混合機メーカーであるナウタミックス社とクロスライセンス契約を締結し、1982年にはナウタミックス社を買収した。その後1980年代には当時海外企業を買収する日本企業が珍しい中、米国のUSフィルターシステムズ社、ドイツのアルピネ社(両社とも粉体事業を行う企業)を買収するなど、粉体技術をきわめるべく、M&Aによって海外展開をすすめてきた。特にドイツのアルピネ社は、1898年創業のホソカワミクロンよりも18年歴史が古い会社であり、粉体事業の老舗として知名度も高く、粉体機器の確固たる世界ブランドとして君臨してきた会社である。ホソカワミクロングループは、2013年6月現在、世界13か国に17社、営業所も含めると26拠点を展開している(第Ⅱ-3-1-42図)。ホソカワミクロンは海外企業買収後も、現地の社長や従業員に現地法人の経営を任せ、各企業が現地で築いてきたブランドを尊重した運営を続けているのも特徴的である。また、定期的に主要会社の社長や研究開発責任者をグループ本社の日本に集め、国際経営会議や国際R&D会議を開催し、経営の意思統一を図るとともに世界規模での効率的な研究開発を推進している。

第Ⅱ-3-1-42図 ホソカワミクロンの海外現地法人

 販売方法は、現地法人による直販を主軸に、地域代理店や商社も活用した展開となっている。なお、代理店の教育にも力を入れており、代理店を日本やドイツ、米国に招いてセミナーや研修会を定期的に行っている。

②差別化された製品への特化、高品質化

 ホソカワミクロンは粉体技術に特化し、粉砕・分級・混合・乾燥・測定・分析など粉体に関するあらゆる機器を展開している。このような粉体操作のあらゆる工程をカバーしている粉体機器設備メーカーは世界的にも珍しい。粉体機器設備の対象市場は医薬、食品、自動車、化学、IT関連、プラスチック、鉱業(ミネラル)、リサイクルなど、幅広い産業にわたるが、ニッチな市場であり、マーケットサイズは、日本が1,500億円、世界でも5,000億円程度と推察される。その中でホソカワミクロン社の世界シェアは10%近くに上り、長年トップを維持している。この市場の中でもメインターゲットとなる顧客は、それぞれの産業分野で高度な粉体加工技術による高付加価値製品化を追求するハイエンドユーザーであり、業界全体でのシェアよりも高品質な製品での強さが際立つ。汎用品向け粉体機器設備を作るメーカーは多いが、高度な粉体加工を行うために必要とされる機能を備えた機器を作ることができるメーカーは少ないため、ホソカワミクロンは高品質な機器の分野で圧倒的なシェアを誇っている。また、常に最先端の市場の要求を満たす粉体機器の開発を使命とし、新製品の年間売上げ目標を売上高の30%と定め、毎年8~10億円のR&D投資を行い、新製品開発を積極的に進めている。

 生産拠点は日本、ドイツ、オランダ、英国、米国と伝統的に“ものづくり”にたけた国のみに存在しており、新興国にはない。その理由は、客先ごとの仕様に応じた受注生産で、一品一様のカスタマイズを施した高品質な粉体機器設備の製造には、長年の経験とノウハウによって培われた設計能力と生産技術が欠かせないからである。

③高付加価値化

 ホソカワミクロングループのテストセンターには、他社では解決が困難な粉体の高付加価値化加工に関する最先端のニーズが世界から持ち込まれる。その数は年間3,500件にもおよぶ。これらの課題に粉体技術の世界のリーディングカンパニーとして、粉体技術に特化し、集積してきた技術とノウハウを駆使して応えることで、ブランド力を維持している。

(3)ニッポン高度紙工業株式会社

 ニッポン高度紙工業株式会社(以下「NKK」という)は、アルミ電解コンデンサ用セパレータ137の製造及び販売等を主力事業としている従業員433人の企業である。近年は車載用や、省エネルギー、新エネルギー分野のコンデンサに対応するセパレータ製造も行っている(例:自動車のパワーステアリングは従来油圧式だったのが、近年のエコカーにおいては省エネのために電動パワステが採用されるなど「電装化」が進み、たくさんのコンデンサが搭載されている)。

137 アルミ電解コンデンサ用セパレータとはアルミ電解コンデンサ(直流は通さず、交流は通す性質があり、受動部品として抵抗やコイルとともに電気回路に使われる)の陽極アルミはくと陰極アルミはくを隔離する役割の紙製の部品(厚さは髪の毛より薄い)である。

①特化した市場での極めて高い世界シェア

 1941年に創業したNKKは、創業直後の1943年からアルミ電解コンデンサ用セパレータを製造し、1963年より中国、台湾、ブラジル等に輸出を開始した。同社のアルミ電解コンデンサ用セパレータの納入先は、ミッドテクからハイテク製品を製造するメーカーが多く、すべての日系のメーカーを始め中国、韓国、台湾、欧州メーカーにも納入しており、世界シェアが60%である。その他にも世界シェアが97%の電気二重層キャパシタ用セパレータ、世界シェア98%の導電性高分子固体アルミ電解コンデンサ用セパレータなど世界シェアの高い製品を持つ138

138 NKK試算。

第Ⅱ-3-1-43図 アルミ電解コンデンサ用セパレータ

 アルミ電解コンデンサ用セパレータの地域別販売状況(NKK推計)について、2000年度(会計年度4月1日から3月31日)と2011年度(2012年3月末)を比較すると中国、ASEAN向けが増加傾向にある(第Ⅱ-3-1-44図)。

第Ⅱ-3-1-44図 NKK製品(アルミ電解コンデンサ用セパレータ)の販売地域

 海外現地法人はマレーシアにのみ展開しているが、その理由は主要顧客(特に日系)がマレーシアに多く進出しているためであり、知財流出の懸念があるので基本的に生産拠点は日本が中心で、一部マレーシアで生産するという形をとっている。

 また、トップセールスで顧客と強固で密接な関係を築き、マーケットの動向を直接把握していることがNKKの強みである。

②差別化された製品への特化と高品質・高付加価値化

 NKKが国内、海外においてアルミ電解コンデンサ用セパレータで圧倒的なシェアを持つに至った理由は主に2つある。1つは他の製紙メーカーが紙、段ボール等の大量生産型の製品の製造に向かった中で、NKKはマーケットの小さいニッチ分野のセパレータを追求したことにある。日本の高度成長時代に急成長する家電メーカーの求めるアルミ電解コンデンサに使われるセパレータの製造に真摯に対応したのがNKKであった。もう1つは自社開発による高品質製品の製造である。NKKを成長に導いた先代の会長の教えである「競合と競争するな。顧客と競争せよ。」という言葉通り、顧客の事前期待値を上回る高品質な製品を作るためのR&Dを行うことにより、性能・品質が他社に比べ圧倒的に優れた製品を創っていくというのが同社のR&Dの基本方針である。そのために、顧客に付き添い、顧客が何を求めているのか社員一人一人が考えるような人材育成をしている。また、このような人材育成の結果アフターサービスも迅速対応が可能であり、この辺りは競合他社が追随できない強みになっており、製品の付加価値を高めている。

③国内外見本市の活用

 NKKは「環境とエネルギー用途」が今後の支えとなると見込んでおり、省エネルギー、新エネルギーなど新たな分野への進出加速化のため国内外の見本市などを積極的に利用している。

(4)ミライアル株式会社

 ミライアル株式会社はシリコンウエハ容器の製造及び販売等を主力事業とする、従業員457人の企業である。

①高い世界シェアと直販に近い顧客対応

 1968年に創業したミライアルは、翌年にフッ素樹脂によるシリコンウエハ工程内容器の開発・製品化に成功し、1973年より量産体制に入り、海外へも輸出を始めた。1999年には、シリコンウエハの大口径化の動きに合わせ、「世界標準」であるSEMI規格に適合した300mmFOSB開発に成功し、同製品は、現在に至るまで世界シェアの過半数を占める主力製品となっている(第Ⅱ-3-1-45図)。成功要因としては、製品の標準化活動へいち早く参画し、伝統的な日本のモノづくりの特長を生かしながらも世界標準品を開発し、競合他社に先行したことが挙げられる。

第Ⅱ-3-1-45図 300mmFOSB

 さらに、現在は次世代の450mmシリコンウエハ容器においても高シェアを獲得すべく、性能向上と拡販を進めている。海外への売上げも多いが、あくまで日本でモノ作りを行うというスタンスを取っており、また、販路も既に確立されているため、海外拠点は有していない。

 ウエハメーカー、デバイスメーカーへの直販と、商社経由での販売との、二通りの販売形態を取っている。技術改良やアフターケアに関しては、営業担当が直接顧客対応を行っているため、極めて直販に近い形となっている。

②品質の高さと高付加価値化

 シリコンウエハは繊細なモノであるため、輸送時の温度・気圧変化や振動に耐え、なおかつ、シリコンウエハを汚染する金属化合物やイオン物質等の不純物を出さない、高度な品質の容器が求められる。ミライアルはそういったニーズに応えるべく、原料メーカーとの共同開発により高純度なオリジナル原料を作り、クリーンルームを完備し、金型設計・製造から成形~検査~出荷といったモノづくりの流れを一貫して自社で行っている。また、半導体技術の日進月歩に伴うウエハメーカーやデバイスメーカーからの様々な要求に応えるべく、金型をはじめとした生産機器の改良・修正や品質のテストを行い、シリコンウエハへダメージを与えることのないような容器作りのためのR&D投資を進めている。このような日々の努力の結果、世界のウエハメーカー、デバイスメーカーに認められ高シェアを維持している。

③技術の囲い込み

上記で述べたように、シリコンウエハ容器は非常に高度な品質を求められる製品であるため、規格を満たすことは大前提として、更なる付加価値を追求すべくノウハウを蓄積させることが重要であるといえる。また、獲得した技術・ノウハウの流出を防止するために、原料を共同開発している原料メーカーとの間で技術流出を防止するような契約を結んだり、金型製作を自社で行ったりする等の対策を講じ、技術の囲い込みを行っている。


 以上の分析と第Ⅰ部第2章第2節の分析を併せると、以下のように総括できる。

 我が国には、生産性が高いにもかかわらず海外市場に進出していない企業が相応に存在している。特に、中堅・中小企業は海外市場への進出が遅れている一方で、進出への自信と積極的な意欲を有している企業が多いことから海外市場進出の高い潜在力を有しているといえる。

 他方、本節の分析で示したように、世界では中堅中小企業が雇用吸収や経済成長の源泉としての役割を担っており、なかでもグローバル化に適応した中堅・中小企業の成長が注目されている。この点で注目を集めるドイツの中堅企業は、差別化された製品への特化、海外市場への積極的販売、アフターケアを通じた顧客との密接な関係の構築等の点において優れた企業戦略を有しており、特定の分野で世界的に高い市場シェアを獲得することに成功している。他方、我が国にも特定の分野で世界シェアの上位を誇る優れた中堅・中小企業が実際に存在しているところであり、まだ海外市場進出に十分に取り組めていない我が国の企業の中にも成功する潜在力を秘めた企業が多く存在するものと考えられる。

 このように世界市場で勝負できる潜在力を有するものの、まだ十分に海外市場に進出できていない中堅・中小企業等を後押しすることが重要であり、その観点から前章第4節で述べた各支援機関間の連携強化、ワンストップ窓口の整備による現地支援体制の強化等に取り組むことが重要であるといえる。

コラム8 その他のタイプの優れた中堅企業の事例
(1)「系列」からのスピンアウト企業の事例
株式会社ユニバンス
①脱系列のきっかけと海外展開現状

 株式会社ユニバンスは1937年に創業された、マニュアルトランスミッション、FR-4WDトランスファー139、HEV用ギアボックス140、農業車両用トランスミッション等のユニット製造と歯車等を主力事業としている、従業員1,269人の企業である。同社は従前、我が国の自動車メーカーのいわゆる「系列」会社であったが、自動車会社が同社のものも含め、系列部品メーカーの保有株式を売却する方針を打ち出したことにより、系列を離れ、独立企業として生きていくこととなった。ただし、インドネシアではそれ以前に自動車会社の投資方針の変更により(もともと同社はインドネシアに日本メーカーが進出するためインドネシアへの投資の準備を始めたところ、結局当該日本メーカーがインドネシアへの進出を見送ったため)、自ら現地で顧客を開拓することになり、他の日系自動車メーカー、日系自動車部品メーカー、外国自動車メーカーも顧客となっている。海外生産拠点は米国、タイ、インドネシアにある。米国では農業機械や四輪駆動車部品及び米国仕様自動車用部品を生産し、タイでは米系の自動車メーカー向けに部品を納入し、インドネシアでは日系自動車シェアも大きいこともあり(コラム第8-1図)同社の最重要海外拠点と位置づけ、日本の生産ラインをそのまま導入している。また、同社のメインバンクの地銀やJETROから頻繁に変更される法整備や事業にかかわる規制の変更に関する情報等同社独自では入手が困難な情報を得るなどしている。

コラム第8-1図 インドネシアにおける日本車シェア

 日本の生産拠点は生産工場として製品を製造する一方、マザー工場として製品開発や海外に展開するための生産ライン開発を行っている。このマザー工場に海外工場の優秀な従業員を連れてきて研修を受講させたりして資質の向上を図っている。同社いわくインドネシア及びタイの従業員の離職率は高いがそれを食い止めるべく従業員教育を行っているとのことである。

②脱系列に当たっての戦略

 脱系列化に当たり同社は、自社で勝てそうな分野を見極め、小ロット生産の部品に絞っている。系列時代には、技術開発、生産数量なども系列親会社の指示に従っていればよかったが、系列を離れると系列外にも販路を拡大するためにマーケティングとベンチマークという追加の取組が必要となった。ここでのマーケティングとは、顧客がどのような性能の製品・どのような数量・どのような価格を求めているかを調べること、ベンチマークは、ライバル企業の製品がどのような性能をもっているのかを分析することを意味する。その結果、大企業で生産していたのでは採算がとれない多品種少量生産を低コストで行う「ユニバンス流ものづくり」の強化と新技術の開発を推進し、経営資源の効率的配分を行っている。具体的には①軽量・低燃費化に対応した競争力のある部品ユニット(四輪駆動装置)の拡大,②同社のコア技術を活用した競争力強化とビジネスの拡大、③海外拠点の強化・拡大を掲げている。

(2)内需からの脱皮型企業の事例
株式会社ハチバン

 株式会社ハチバン(以下「8番らーめん」)は1967年に石川県の国道8号線沿いに開店した野菜ラーメンを主力商品にしているラーメンチェーン店である。

 8番らーめんの海外展開は大都市を飛ばして地方から一気に海外展開するというユニークな形態である。国内においては、主に本社のある北陸地方を中心に出店しており、大都市である東京都や大阪府には出店せず(2013年2月現在、京都府、埼玉県には出店)、一方で1992年にタイに海外1号店をオープンして以来、タイを中心に海外に積極的に出店をしており、店舗数でいえば海外と国内の店舗数は大きくは変わらない(コラム第8-2表、コラム第8-3図)。

コラム第8-2表 8番らーめんの国内外店舗数

コラム第8-3図 タイの年度別店舗数推移

 同社の海外展開先はタイ、香港、中国の大連であり、中でもタイでは順調に拡大を続け、2013年2月現在で100店舗を展開している。同社のタイにおける展開をみてみると主にバンコクなど中部に73店舗、パタヤなど東部に9店舗、北はチェンマイ、南はプーケットなどタイの地方都市に出店し、タイの各地域で知名度をあげるようにしている。また、メニュー構成は、日本のブランド及び日本の味が王道であることを訴求する理由に基づき日本の味をベースとしたもの(8ちゃんめん、味噌らーめん、ざるらーめん、炒飯等)もあるが、他方でタイならではの「トムヤムクンらーめん」「鴨煮らーめん」等、現地の嗜好にあわせたメニューも存在する。原材料は、現地調達であり、2006年に200店舗の食材供給が可能なセントラルキッチンを設立し、食材の調理加工までセントラルキッチンで行い、1人前ずつに調理・包装した食材を冷蔵配送するシステムを採用している。このシステムにより、より迅速な食材の提供、品質の安定(標準化)が可能となり、専門的な品質管理機能も整備され、より安心安全な食材を供給することが可能となっている。

 香港では2003年にフードコートタイプの「らーめん元八」を出店し、現在通常の店舗タイプの「8番らーめん」を含め5店舗出店している。

 スープ・タレの製造は、タイにある関連会社のDFC(ダブル・フラワリング・カメリア)社が行い、タイ国内の店舗はもちろんのこと、日本ほか海外の事業拠点に納品している。これにより同社の生産性は向上し、また、8番らーめんの店舗全体の原価率低減に貢献した。なお、販売については2005年に設立したハチバントレーディングタイランド社が担当している。

 店舗の作り方については、調理機器、テーブル・椅子などの家具の仕様は日本と同じであるが、日本ではカウンター席があるのに対してタイの店舗ではほとんど採用されていない。これは現地の生活スタイルによるものである(コラム第8-4図)。

コラム第8-4図 8番らーめんのタイの店舗の様子

 以上のように、同社の競争戦略は我が国の大都市圏での市場以上に成長性のある東南アジア、中国への進出を積極的に行い、ラーメンという一見日本色が強く内需性の高い事業を、巧みに現地要素を取り入れること等により、展開に成功しているところが特徴的であると言える。

139 後輪駆動から四輪駆動へと相互に切り替えることができる部品。

140 ハイブリッドカー用のギアボックス

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