経済産業省
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第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題
第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望
第2節 我が国の産業構造を支える製造業

製造業は我が国GDPの2割弱を占める基幹産業であるが、近年、生産拠点の海外展開や一部業種における競争構造の大きな変革等に伴ってGDP比率は低下している。今後も海外市場の拡大が見込まれる一方、新たなイノベーションや技術を産み出し、他産業への高い波及効果を持つ製造業は、日本経済にとって2割という数字以上に大きな意味合いを持っていると考えられる。実際、米独等も次世代型製造業への転換政策を打ち出しており、製造業の重要性を見直しつつある。

いわゆる6重苦の一部解消や企業業績の改善に伴って、国内への新規投資や国内回帰の動きも見え始めているが、一方で引き続きグローバルな地産地消の傾向が進んでいることも事実である。むしろ、企業は海外拠点と国内拠点の役割の明確化を進めている。一般に国内拠点はマザー機能の役割が高まっているが、その傾向は業界ごとに様々で、「国内に残す」分野と「海外で稼ぐ」分野は二極化している。

製造業が今後も我が国の成長を下支えするためには、国内に残す分野の輸出競争力を維持強化しつつ、海外で稼ぐ分野についても投資収益を国内拠点の強化等のために還元し、絶え間ない技術革新等を通じて新たなイノベーションのタネを産み出し続けることが重要と考えられる。

加えて、国内製造業の基盤として、技能人材の育成やOB世代や女性の活躍促進、地域の中核となって地方創生を支える中堅・中小企業の支援、新たな輸出の担い手としてのものづくりベンチャーの育成も重要である。

1.我が国の産業構造における製造業の重要性

(1)製造業を取り巻く環境

製造業は第1節で分析をした経常収支黒字への貢献などのみに留まらず、サービス業など他産業への波及効果、サプライチェーンの集積メリット、地方の雇用確保の意義を有するとともに、技術革新をリードしイノベーションを生み続ける場として我が国において重要な役割を担っている。

①我が国製造業の役割

国内総生産(名目GDP)における産業別構成比の2003年と2013年を比較すると、「製造業」は19.5%から18.5%へと減少してはいるものの、19.9%の「サービス業」に続く比率となっている(図121-1)。製造業の減少は金額にすると8.3兆円となっており、産業別に見ると微減している産業が多い中、「電気機械」が4.5兆円と大きく減少していることが分かる。一方、「鉄鋼」は増加しており、「輸送用機械」や「一般機械」、「非鉄金属」はほぼ横ばいとなっている(図121-2)。

図121-1 名目GDPにおける産業別構成比の推移

図121-2 製造業GDPの産業別内訳の推移

また、製造業は他産業へ波及効果が大きいのも特徴であり、生産波及の大きさは「全産業」が1.93、「サービス業」が1.62なのに対し、「製造業」は2.13と、1単位国産品の最終需要が発生した際には、2.13倍の生産波及があるということが分かる(図121-3)。また、国内生産額(売上に相当)の産業別構成比をみると、「製造業」が30.8%と一番比率が高くなっており、「サービス業」の22.9%、「商業」の10.0%と続いており、我が国において製造業の役割が重要であることが見て取れる(図121-4)。

図121-3 生産波及の大きさ

図121-4 国内生産額の産業別構成比

さらに、我が国における製造業は地方において集積がなされている点に特徴があり、地方における雇用・所得の源泉となっている。産業が集積することによって、地域の企業間における物理的な距離が近くなる。集積されている域内では他地域間との取引と比べて、輸送コストが安く済むだけでなく、企業間におけるすり合わせ型の開発・生産を容易にし、熟練工などの人材育成の基盤になり得る。これらの集積メリットは競争力のある製品を産み出す一因となり、企業収益の向上に資することで労働者の所得向上にも結び付いていると考えられる。

都道府県別に人口1人当たりの所得と製造品出荷額(従業員4人以上の事務所)の関係を見ると、ゆるやかな正の相関関係が確認できる。すなわち、県民人口に対して製造品出荷額が大きい、製造業が盛んである地域ほど県民所得水準が高いということであり、製造業は地方における雇用確保のみならず所得向上においても重要な役割を果たしていると分析できる。

製造品出荷額および所得が高い県として、中部地方を中心とした製造業が盛んな県である愛知県、三重県、滋賀県、静岡県などが挙げられる。愛知県や静岡県は古くから輸送用機械を端緒として産業集積が形成された県であり、三重県や滋賀県は電気電子機器などについての工場誘致をはじめとして集積を進めてきた県である。集積の経緯は各地域で様々であるが、集積された地域を有する県ほど高水準の県民所得を実現していると解釈できる(図121-5)。

図121-5 都道府県別人口1人当たりの所得と製造品出荷額

②経済成長を牽引する製造業

実質経済成長率は、成長会計の手法を用いて①労働投入の伸び、②資本投入の伸び、③技術進歩(TFP(全要素生産性:Total Factor Productivity)の伸び)の3つに分けることができる。そのうち、①労働投入については、昨今の急激な少子高齢化の進行に伴い、生産年齢人口が減少傾向にあり、今後もさらなる減少が見込まれている(図121-6)。また、②資本投入についても、資本ストックの伸びは鈍化している(図121-7)。

図121-6 生産年齢人口の推移

図121-7 資本ストックの推移

③技術進歩を示す指標の1つであるTFPは、①労働投入や②資本投入など生産要素の増大では説明できない部分(残差)を示すものであり、TFPの伸びを維持・拡大することは、今後の経済成長を支える重要な要素であると考えられる。

1970年代以降の製造業・非製造業における経済成長を要因分解すると、TFPの牽引者は製造業であることが分かる。製造業においては、2000年から2011年の実質経済成長率は1.50%となっており、非製造業の0.42%と比較すると高い成長率となっている。そのうち、製造業のTFPは1.99%と我が国の経済成長を牽引していることが分かる(図121-8)。

また、技術進歩により製造業がドライバーとなり、サービス業などの三次産業や一次産業へも波及するものと考えられる。たとえば、製造業で開発された自動化技術がサービス業にも適用されることで、サービス業の効率性の向上にも貢献することなどが挙げられる。製造業には技術進歩を通じて、新しいビジネスモデルの提案や、異分野との連携など、培ってきた能力を活用して引き続き経済成長を引っ張っていくことが期待されている。

図121-8 実質経済成長率の要因分解(左:製造業、右:非製造業)

このように、製造業は長く我が国の稼ぎ頭であることから、製造業のポテンシャル低下は日本経済全体の成長を妨げる可能性があり、我が国が持続的な発展を遂げるためにも、今後も成長を牽引していくであろう我が国製造業の重要性について改めて見直す必要がある。

コラム:製造業で培われた制御技術を農業に適用

植物工場は高度な施設型農業の一形態で、光・温度・湿度・CO2濃度・水分・養分などの生育環境を人工的に管理し、年間を通じて計画的な収穫を目指している栽培施設である。植物工場には、閉鎖環境で太陽光を使わずに環境を制御して生産を行う「完全人工光型」と、温室等の半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として、雨天・曇天時の補光や夏季の高温抑制技術等により生産する「太陽光利用型」の2つがある。いずれのタイプにおいても、コンピュータを用いて積極的に生育環境をコントロールする。具体的には、栽培者が制御盤を用いて制御用コンピュータにて環境設定を行うと、各種センサで生育環境を把握し、温湿度であれば空調機、養分であれば追肥装置などを用いてコントロールする。これにより、計画的で効率的な農業の実現を目指している。

植物工場の要素技術に関して日本は世界のトップレベルであり、植物工場でのセンサ・モニタリング技術や制御技術などの中には、製造業(生産システム)における技術が適用されているものも少なくない。

植物工場は、日本国内で50か所(2009年)から198か所(2014年3月時点)に急速に拡大している。現状では実証用の小型施設も多いが、約3割の施設において黒字化を実現していると言われており、産業規模の拡大が期待されている。植物工場などの"スマートアグリ"によって、「勘と経験」の農業から「科学と実績」に裏打ちされた計算できる産業へと向かっており、製造業における技術が農業の生産性向上に役立っている。

完全人工光型

太陽光利用型

資料:農林水産省・経済産業省「植物工場の事例集」

(2)世界における製造業の重要性の見直しの流れ

海外移転の流れが日米欧共に進む中、アメリカやドイツにおけるデジタル化による製造業の競争力強化の動きなど、世界的にも製造業の重要性が見直されている。

①各国における製造業に占める地位・重要性

日本・米国・ドイツ・中国・韓国に加えて、英国・フランスを加えた計7か国の各国GDPに占める製造業比率を見ると、中韓は製造業の割合が30%程度、次いでドイツや日本が20%程度と総じて高く、米国、英国、フランスは約10%となっている(図121-9)。

また、就業者に占める製造業の比率は中国が30%程度、日本、ドイツと韓国は20%弱、米国、英国、フランスは約10%となっている。2000年代を通じて、中国がほぼ横ばいなのを除いて、いずれの国も減少しているが、特に英国、フランスの減少幅が大きくなっている。ただし、米国においては、2010年を頭打ちに2012年に微増している(図121-10)。こうした背景には、効率的に生産する体系が取られるようになったことが考えられるが、近年では米国・ドイツを始めとする各国において製造業の重要性が見直されつつある。

図121–9 GDPに占める製造業比率の主要国比較

農業鉱業・公益製造業建設業卸・小売・飲食運輸・倉庫・通信その他
日本20031.4%2.7%19.5%6.4%14.0%10.3%45.8%
20131.2%2.0%18.8%5.6%14.2%10.4%47.8%
米国20031.0%2.8%13.3%4.6%12.4%7.7%58.2%
20131.4%4.3%12.1%3.7%11.7%7.5%59.3%
英国20030.8%4.4%12.8%6.8%17.9%9.0%48.3%
20130.7%4.4%9.7%6.1%16.4%8.1%54.6%
ドイツ20030.9%2.8%22.1%4.3%12.2%8.9%48.9%
20130.9%3.9%22.2%4.6%11.1%9.2%48.2%
フランス20032.1%2.7%14.2%5.2%16.4%7.8%51.7%
20131.7%2.5%11.3%6.0%14.8%7.7%56.0%
中国200413.5%8.5%32.5%5.0%10.1%5.8%24.6%
201310.0%7.2%29.9%6.9%11.8%4.8%29.5%
韓国20033.5%3.1%26.7%6.8%12.7%8.0%39.1%
20132.3%2.5%31.1%5.0%11.9%7.1%40.1%

備考:内閣府「国民経済計算」と国際連合で推計方法が異なるため、前出の数値と必ずしも一致しない。

資料:国際連合「National Accounts Main Aggregates Database」

図121–10 就業者数に占める製造業比率の主要国比較

2000200520102012
日本 20.5%18.0%17.2%16.9%
米国 14.4%11.5%10.1%10.3%
英国 16.9%13.2%9.9%9.8%
ドイツ 23.8%22.0%20.0%19.8%
フランス 18.8%16.1%13.1%12.8%
中国 28.2%27.9%28.0%
韓国 20.3%18.1%16.9%16.6%

備考:中国の統計は都市部のみが対象。

資料:(独)労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較 2014」

主要各国における2013年の輸出金額の内訳を見てみると、どの国においても、製造業の輸出が9割程度となっており、輸出を牽引していることが分かる。特に、韓国においては99.4%、中国は98.6%とほぼ全ての輸出が製造業となっている。業種別の輸出を見てみると、我が国においては、「自動車等」と「電気・電子機器」が各々約2割と輸出の稼ぎ頭となっており、「化学・医薬品」が約1割となっている。ドイツも「自動車等」が一番高く18.1%となっており、「化学・医薬品」と「電気・電子機器」がほぼ同額で続いている。米国、中国、韓国では「電気・電子機器」が、イギリス・フランスにおいては「化学・医薬品」が一番の稼ぎ頭となっている。また、米国とフランスは「航空・宇宙」の割合が他国と比較して高くなっている(図121-11)。

製造業の製品輸出金額の推移を見ると、リーマンショックの際に各国とも大きく落ち込んだものの、全体的に増加傾向にある。特に、著しく成長を続ける中国の輸出金額が突出して高くなっており、2013年には約2.2兆ドルとなっている。また、米国はリーマンショック後、2010年から堅調に輸出を伸ばしている(図121-12)。

図121-11 主要国における輸出金額の内訳(2013年)

図121-12 主要国における製造業の輸出金額の推移

各国における研究開発投資額の対GDP比は、主要先進国においてはほぼ横ばいの状況が継続している。我が国においては2000年以降3%を超えている。2009年以降は韓国が最も高くなっており、2011年には4.0%となっている。近年では、ドイツにおける研究開発投資が増加傾向にある(図121-13)。

また、日本・米国・ドイツ・中国の4カ国の研究開発投資の産業別内訳を見ると、我が国においては、「電気・電子機器」が28.4%と一番多く、「自動車・輸送用機器」の22.7%が続いており、製造業が全体の87.9%を占めている。ドイツは「自動車・輸送用機器」が37.0%と大きくなっているが、製造業の合計は85.6%と我が国と近い。一方、米国においては、IT産業を含む「運輸・倉庫、情報・通信業」が他国と比較して大きくなっていることが特徴である(図121-14)。

図121-13 主要国における研究開発投資額のGDP比

図121-14 主要国における産業別研究開発投資の比率(2011年)

 

②主要国における次世代型製造業への転換への取組

製造業では、旧来の労働集約型から自動化などによる省人化が進んできたという経緯があり、単なる雇用の受け皿としては存在しにくくなってきた。しかし、これまでに述べたように、製造業が経済成長のために果たす役割は大きい。そのため、これまでの延長線上で製品を提供するだけではなく、先進分野の先行的な開発や新たなビジネスモデルの創出など、世界各国においても次世代型製造業への転換が進み始めている。以下では米国、ドイツ、中国、韓国の状況を見ていく。

(ア)米国

(a)米国の製造業の特徴

先程述べたように、2013年の米国のGDPにおける製造業比率は12.1%と、我が国などと比較しても高くはなく、設備投資額の推移を見ても製造業は全体の15%程度で推移しており、2011年は16.8%となっている(図121-15)。一方、製造業の利益率においては、2010年は10.1%と我が国や他国の製造業と比較しても高い水準となっている(図121-16)。

図121-15 米国における設備投資額の推移

図121-16 日米製造業の利益率の推移

米国における内外直接投資額は、非製造業分野の対外直接投資が近年活発である状況が継続しているが、製造業分野の対内直接投資に関しては、リーマンショックで落ち込みはしたものの近年増加傾向にあり、2012年の対内直接投資は、非製造業分野における金額と同程度となっている。また、2005年以降、製造業においては、対外直接投資よりも対内直接投資の方が多い状況が継続しており、米国における製造業への期待が高まっている様子がうかがえる(図121-17)。

図121-17 米国における内外直接投資額の推移

製造業の対内直接投資を業種別に見てみると、シェール資源開発の活発化などにより、「化学」や「機械」における投資が増加しており、2012年に「化学」は約400億ドルの対内直接投資があった(図121-18)。また、対外直接投資においても、「化学」、「機械」の投資が多い状況が見て取れる(図121-19)。

図121-18 米国製造業における対内直接投資の推移

図121-19 米国製造業にける対外直接投資の推移

このように、米国の製造業のGDP比率や投資状況などは他産業と比較して高い状況ではないが、ITとの融合などを通じて今後の成長を担っていく大事な役割を果たすとともに、雇用創出にも貢献すると考えられており、製造業の国内回帰の動きが見られ始めている。

(b)米国が製造業を重視する背景

米国で大きな問題となっている経済格差を解消するため、オバマ政権は中間層支援を重視している。中間層の所得増加を促すためには、中間層が主要な役割を担っている製造業における雇用復活が求められる。そのため、オバマ政権は、米国内における製造業の雇用復活を掲げており、2013年から2016年(第二期)までに製造業における100万人の新規雇用創出目標を設定した。2013年1月から2014年12月の2年間において、製造業の就業者は34万人増加している。また、2014年末には失業率は5.4%となり、リーマンショック前とほぼ同水準まで回復した(図121-20)。

図121-20 米国の雇用者数と失業率の推移

2015年の一般教書演説では、「中間層重視の経済(Middle Class Economics)」が強調されている。そのなかで、連邦法人税の実効税率を現行の35%から原則28%に引き下げることが示されており、特に国内製造業に対しては、優遇措置として税率25%とする方針が掲げられている。

(c)米国製造業が重視する分野

2011年6月に大統領科学技術諮問委員会(PCAST)は、アドバンスト・マニュファクチャリングに関する報告書を発表した。これを受け、オバマ政権は産官学メンバーから成るアドバンスト・マニュファクチャリング・パートナーシップ(AMP)を設立し、2012年(2014年度予算)以降、アドバンスト・マニュファクチャリングは、科学技術分野の優先項目の1つとして挙げられ、予算を重点化している。

アドバンスト・マニュファクチャリングとは、情報・オートメーション・コンピュータ計算・ソフトウェア・センシング・ネットワーキングなどの利用と調整に基づき、物理学・ナノテクノロジー・化学・生物学による成果と最先端材料を活用する一連の活動のことであり、既存製品の新しい製造方法と新技術による新製品の製造の両方が含まれる。ナノテクノロジー+バイオロジー、ロボティクス、先端材料開発、サイバー・フィジカル・システムが2016年度予算においてアドバンスト・マニュファクチャリングの重点項目として挙げられている(図121-21)。2014年10月には、アドバンスト・マニュファクチャリングの一層の強化、イノベーションの促進、雇用の創出及び投資の誘致を目的とし、新たな計画を発表した。

図121–21 科学技術分野の優先項目の変遷

出所:JST「米国:2016年度予算の科学技術優先事項」

2012年に打ち出されたNational Network for Manufacturing Innovation(NNMI)の構築に向けて、全米各地に産学官連携の研究開発拠点「製造イノベーション研究所」の設置を進めている。今後10年間で、全米45か所の設置を目指しており、2015年2月時点で、5か所が設置され、3か所の設置が公表されている(図121-22)。

将来の製造業を牽引すると見込まれている先端技術・素材や新たな製造方法の研究開発を強化しており、アドバンスト・マニュファクチャリングを重視した取組を通じ、新たな市場の創出と先行を目指していると考えられる。

図121–22 「製造イノベーション研究所」の一覧

名称 重点領域 設置場所 設置時期 (公表時期)
National Additive Manufacturing Innovation Institute(NAMII) 3D製造技術 オハイオ州ヤングスタウン 2012年8月
Next Generation Power Electronics National Manufacturing Innovation Institute 次世代パワーエレクトロニクス ノースカロライナ州ローリー 2014年1月
Digital Manufacturing & Design Innovation Institute (DMDII) デザイン・製造の統合的なデジタル製造技術イリノイ州シカゴ 2014年2月
Lightweight Innovations for Tomorrow (LIFT) 軽量金属技術 ミシガン州デトロイト 2014年2月
Institute for Advanced Composites Manufacturing Innovation (IACMI) 先端繊維強化プラスチック複合材料テネシー州ノックスビル 2015年1月
(以下は、設置予定の拠点)
Integrated Photonics Institute for Manufacturing Innovation (IP-IMI) シリコンフォトニクス製造技術(2014年10月)
Flexible Hybrid Electronics Manufacturing Innovation Institute フレキシブル・ハイブリッド・エレクトロニクス(2014年12月)
Clean Energy Manufacturing Innovation Institute on Smart Manufacturing スマート製造技術 (2014年12月)

資料:各種資料より(株)三菱総合研究所作成

(d)米国製造業に関する今後の政策

2010年、国家輸出イニシアチブ(National Export Initiative:NEI)を立ち上げ、「今後5年間で米国からの輸出を現状の2倍に拡大し、200万人の雇用増加の実現を目指す」ことが表明された。NEI立ち上げ以降、米国企業による輸出は4年連続で増加し、2013年の輸出額は過去最高の2兆3,000億ドルに到達した。米商務省では、輸出により、2009年半ば以降の経済成長の約3分の1が後押しされたと評価している。

輸出を通した米国企業の成長、雇用の創出、競争力の拡大の可能性を最大化することを目標とし、NEIの次期フェーズとして①海外市場での顧客開拓に対するビジネス支援、②企業による輸出業務の効率化、③輸出受注時の資金調達支援、④輸出や輸出関連投資を地域社会の成長戦略に取り入れるための支援、⑤公平な競争を確保しつつ、米国企業のために世界各地において市場の開拓を促進することが推進されている。

このように製造業企業の米国内回帰を促すとともに、米国企業の成長、雇用創出などを目的として、輸出促進に取り組んでいる。近年、米国からの輸出は電気電子分野などで力強く伸びており、米国の安定した経済成長に大きな役割を果たしていると評価されている。

コラム:米国の立地競争力の向上

米国の立地競争力は、シェール革命によってもたらされたエネルギー・原材料コストの低減により向上した。2013年時点で、米国における天然ガス価格は、日本の4分の1以下であり、欧州諸国と比較しても約3分の1となっており、産業用電力価格においても日本や欧州と比較して2分の1以下となっている。2035年の予測を見ても、各国価格が下がるものの、2013年の米国価格までは下がらず、引き続き米国のエネルギーコストに関する優位性は保たれると予測されている。政府による国内回帰を推奨するための税優遇措置、アドバンスト・マニュファクチュアリングを推進する取組とも重なり、企業の国内回帰を後押しする要因の1つとなっていると考えられる。

図 エネルギー価格の比較

コラム:米国自動車産業における国内回帰

フォード・モーターは、2011年、全米自動車労働組合(UAW)との2015年までの新たな労働協約に基づき、メキシコでの中型トラックの製造をオハイオ州の工場に移管することを発表した。その後も、米国内工場に投資を行い、2011年以降、15,000人以上の雇用を創出した(2015年2月時点)。

また、ゼネラル・モーターズ(GM)も、2011年、電気自動車の製造を、欧州からメリーランド州、ミシガン州の工場に移管する計画を公表した。その他にも、電気自動車、高級車を中心に米国内での生産体制を強化し、新たな雇用を創出している。

GMは、製造拠点の他に、ITイノベーションセンターをテキサス州、ミシガン州、ジョージア州、アリゾナ州の4か所に新たに建設することを公表している(2012年9月以降)。これまで外部委託していたIT業務を内製化する方針を示しており、合計4,000人規模のIT技術者の新規雇用を進めている。各拠点は、IT人材が豊富、生活費がより安い、ハイテク産業が存在しているなどの観点を考慮して選択された。

同センターでは、ウェブテクノロジー、エンドユーザーアプリケーション・システム、ディーラー・工場システム、自動車テクノロジーを含むGMの事業及びITニーズに関するあらゆる側面をサポートしている。今後、自動車産業を含めた製造業の製造・開発現場では、IT技術がイノベーション創出に重要な役割を果たすとみられている。

(イ)ドイツ

(a)ドイツの製造業の特徴

ドイツの製造業の対GDP比率は2000年代を通じて安定的に推移している。2003年の22.1%に対して、2013年も22.2%となっており、製造業が継続して重要な役割を担っている。

ドイツ企業の利益率は、「製造業」においては2007年から2009年にかけて低下傾向にあったが、2010年以降回復傾向を示し、2012年の利益率は4.1%となっており、「農林水産業」の7.6%よりは低くなっているが、「サービス業他」の3.1%より高い状況が継続している(図121-23)。

図121-23 ドイツ製造業の利益率の推移

また、ドイツにおける製造業に関連した対内直接投資額は、2008年にマイナスとなって以降、2010年にかけて回復傾向にあったが、2012年には再びマイナスに落ち込んでいる。また、対外直接投資額についても、2009年にマイナスに落ち込んで以降、2010年に一旦回復したものの、2011年、2012年共にマイナスとなっており、内外投資ともに活発であるとは言えない状況にある(図121-24)。

図121-24 ドイツにおける内外直接投資額の推移

(b)ドイツの製造業振興策と重点分野

ドイツの製造業振興は、同国初の包括戦略として2006年に発表されたハイテク戦略、及びハイテク戦略の後継戦略として2010年に発表されたハイテク戦略2020に基づき、研究開発及びイノベーション政策を中心に推進されている。ハイテク戦略は、ドイツが科学技術分野において世界のリーダーに返り咲くことを目的に策定されたものであり、製造業を含むイノベーション推進政策の基本方針が示されている。

ドイツがハイテク戦略を策定するに至った背景には、多くのドイツ企業が低コストのインフラ、低賃金の労働力を求めて拠点を海外に移転する傾向がある中、もはやコストでは競争できないという危機感があった。ハイテク戦略においては、今後はコストではなく、先端技術によるアイデアや製品で競争力を維持し、雇用促進や生活水準の維持を図ることが重要であり、イノベーションを通じて新製品・新サービスを提供し、成長の機会を捉え、世界において競争優位に立つことを目指すとしている。

ハイテク戦略2020においては、社会的でグローバルな挑戦課題として、①気候・エネルギー、②健康・栄養、③交通・輸送、④安全、⑤通信・コミュニケーションの5つが掲げられており、各課題解決のためのプロジェクトを実施することにより解決を図ることを目指している。これら5つの挑戦課題の解決のために、10年から15年の期間で取組むべき10の「未来プロジェクト」(図121-26「ドイツにおける製造業振興策の歴史」参照)が設定されている。その中に、「次世代自動車システム」や「インターネットベースのサービスの提供」、「Industrie4.0」などが含まれている(図121-25)。Industrie4.0を始めとしたデータ社会への対応については第3節で詳しく分析する。

図121–25 ドイツのハイテク戦略

資料:(株)三菱総合研究所作成

(c)ドイツの製造業振興策の成果

2006年のハイテク戦略及び2010年のハイテク戦略2020を通じて、ドイツはイノベーション拠点としての国際的な地位を強固なものとしてきている。すなわち、2007年から2010年にかけてハイテク戦略に基づき、重点技術分野と関連した横断的活動に対して、連邦政府により総額146億ユーロが投資された。ドイツ連邦教育研究省(BMBF)はハイテク戦略の成果として、①ハイテク戦略の旗艦プログラムである「先端クラスター競争プログラム(SCW)」の成果は、発明900件、特許300件、学術論文450件、学士及び修士の研究業績1,000件、起業社数40社に達し、②SCWで採択された15のクラスタープロジェクトにおける助成総額は約12億ユーロ、そのうち、民間が半分を負担しており、特に本プロジェクトで助成を受けた中小企業の研究開発投資は大企業より大幅に増加し、国の助成総額の1.36倍の投資が行われ、③産業全体での研究開発費が大きく増加し、ドイツ企業の2008年時点の研究開発費は7.4億ユーロと、2005年と比較して2008年は19%増となった、と公表している。

また、連邦教育研究省はハイテク戦略2020の成果として、①2005年から2011年の間に研究分野の新規雇用は19%増加し、92,000人分の雇用が新たに創出され、②ドイツの研究立地としての関心も高まり、大学における外国人留学生が初めて25万人を上回り、③国内での研究開発投資の総額の約25%は外国企業が占めた、と公表している。

(d)ドイツの今後の製造業振興策

2014年8月には、ハイテク戦略2020の後継戦略として新ハイテク戦略が発表され、2015年以降のドイツの科学技術・イノベーション推進の基本政策が示された。同戦略では、イノベーションは経済的繁栄のドライバーであるとともに生活の質を向上させるものであり、引き続きドイツが世界のイノベーションリーダーとしての地位を確保し続け、創造的なアイデアを具体的なイノベーションとして迅速に実現することを目標に掲げている。また、同時に、イノベーションは産業国家・輸出国家であるドイツのポジションを一層強化するとともに、持続可能な都市の発展、環境にやさしいエネルギー、個人個人に適した医療、デジタル社会などの新たな課題への解決にも貢献するものとしている。

新ハイテク戦略では、先端クラスターやネットワークの国際化、産学連携の促進に対して連邦政府による支援を実施することが盛り込まれるとともに、中小企業に対して積極的に支援を行い、ドイツでは遅れているといわれる起業の促進に注力することが示されている。また、ハイテク戦略2020において設置された未来プロジェクトは新ハイテク戦略でも継続されている。

新ハイテク戦略の5つの柱として、①価値創造と生活の質に関する6つの主な挑戦(Priority Challenges)、②産学官のネットワーク構築と流動、③産業界のイノベーション推進、④イノベーションにやさしい環境、⑤透明性を挙げている。

これまでのハイテク戦略を通じて、産業界での研究開発投資の拡大は、ほとんどが大企業によるものであったため、新ハイテク戦略においては、政府の支援により中小企業の研究開発支援に継続して取り組むとしている。中小企業への具体的な支援としては、①中小企業支援イノベーションプログラム(ZIM)の申請課程の簡略・最適化、②産業共同研究(IGF)を発展させたプロジェクト助成の実施、③革新的中小企業支援イニシアチブによる中小企業のハイリスク研究の支援、④イニシアチブ「Mittelstand-Digital(ミッテルシュタンド-デジタル)」による中小企業へのICT導入支援、⑤EUのHorizon2020でのEurostars、EUREKAへの助言サービスの5つを掲げている(図121-26)。

図121–26 ドイツにおける製造業振興策の歴史

資料:(株)三菱総合研究所作成

(e)ドイツの産学連携促進

新ハイテク戦略においても、産学官連携が柱の1つに掲げられているように、ドイツでは産学官連携が活発に行われている点が特徴の1つとして挙げられる。ドイツの研究開発機関のうち、産学連携と深くかかわる代表的な研究開発機関として、フラウンホーファー研究機構及びシュタインバイス財団が挙げられる。

1949年に創設されたフラウンホーファー研究機構は、応用技術の研究開発に特化した研究機関である。フラウンホーファー研究機構の研究収入のおよそ3分の2は、産業界との契約及び公的資金による研究プロジェクトであり、残りの3分の1が連邦及び州政府からの資金である。政府からの資金は産業界との契約金額に連動しており、企業からの受託研究収入が増えるほど、政府からの資金が増える仕組みとなっている。

また、フラウンホーファー研究機構の特徴の一つに、大学との緊密な関係が挙げられる。同協会の傘下にある66か所の研究所の所長は、全て大学教授が兼任しており、多くの学生もフラウンホーファー協会の活動に参画している。フラウンホーファー研究機構の活動は民間企業との契約に基づくものが多いことから、若手人材が大学卒業後に当該企業へ就職する流れが確立している。

一方、シュタインバイス財団は、1971年にバーデン・ヴュルテンベルク州が中小企業への技術コンサルティングを目的として設立した。同財団は、技術コンサルティングサービス(TCS)という学際的なコンサルティングを行い、適任教授を紹介・仲介する役割を担ってきたが、1982年に、シュタインバイス財団の組織改革に伴い、技術コンサルティングサービスがシュタインバイス技術移転センター(STC)へ改組され、具体的な問題解決(プロジェクト)を財団自ら行うこととなった。

シュタインバイス財団は、企業の問題解決や応用研究のためのプロジェクトを受託しており、「顧客メリットの追求」が組織のアイデンティティーとなっている。STCは、受託プロジェクトの活動のために大学や公的研究機関等に拠点が設置され、設置先機関の教授や研究者が、兼業規則の範囲内でSTCの所長を務めている。STCはプロフィットセンターとして運営されており、原則2年連続して赤字を出すSTCは閉鎖される仕組みとなっている。すなわち、企業側のニーズを的確に捉えて、それにあわせてサービスを提供するための仕組みが運用されている点に特徴がある。

また、シュタインバイス財団は、1998年にベルリンにシュタインバイス大学を開学した。同大学は、「理論と実践の両立」を重視しており、学生が企業の具体的なプロジェクトに直接参画しながら理論も併せて学ぶという仕組みが取られている。企業にとってはプロジェクトによる課題解決とともに、有能な学生を獲得する機会として機能している。

コラム:ドイツの産学連携による共同研究プロジェクト

Innovationsallianz Green Carbody Technologies (InnoCat®)は、フラウンホーファー研究機構やフォルクスワーゲン社が中心となって、60以上の自動車産業に関連する事業者や研究機関が参画した共同研究プロジェクトである。

車体生産工程における省エネ・省資源化の改善をテーマに、車体生産に関する新技術や新工程を迅速に産業として活用することを目的として、BMBFの支援により進められた。

フラウンホーファー研究機構とフォルクスワーゲン社の主導の下、2010年から2013年までの4年間で省エネ・資源効率化をテーマとした5つの連合プロジェクト(省エネ生産の考案、プレス技術、製造機械開発、車体生産、塗装技術)及び30の専門プロジェクトにおいて、車体生産工程におけるエネルギー消費の半減を目標に共同研究が推進された。

本プロジェクトを通じて、将来の自動車製造工場モデル(InnoCat®-Referenzfabrik)が構築された。また、5つの連合プロジェクトの個別成果は、フォルクスワーゲン社の生産現場への活用が進められている。

図 InnoCat®- Referenzfabrikのイメージ

資料: Fraunhofer IWUニュースリリース

コラム:ドイツの研究開発エコシステム① 産学の研究開発体制

ドイツの研究開発体制は、我が国と比較して産学の連携体制がしっかりと構築されている点が大きな特徴である。例えば、ドイツの工科大学では実学主義に則り、大学周辺に教授が経営するエンジニアリング会社やスピンオフカンパニーが存在する。

学生は、学位・修士・博士取得前にエンジニアリング会社の業務に従事するとともに、修業後もこうした企業で実学経験を積んでから、大手製造事業者に就職する(その場合、採用直後からチーフエンジニアとして数十人の部下を抱える)。

大学も企業ニーズオリエンテッドに、基礎研究は大学と共同研究(成果を公表)、最新技術等秘匿情報を含む場合は、エンジニアリング会社で受託研究(成果は非公表)等し、産業界と学界で資金と人材が流動するエコシステムができている。

例えばアーヘン工科大学は自動車の内燃研究機関ではドイツ一の実績があり、同工科大学の教授が市内に立地する内燃機関のエンジニアリング会社「FEV」のCEOを務める。同教授の卒業生は、卒業後、属する企業は違えど1つのコミュニティを形成し、国際標準化に向けた検討等、産業界を引っ張る議論をリードする構図となっている(図)。

図 ドイツの研究開発エコシステム

資料:経済産業省作成

コラム:ドイツの研究開発エコシステム② 産学官連携のシステム(内燃機関の例)

ドイツには、内燃機関に関するアカデミックな基礎研究の領域と産業化開発の途中段階の「競争前領域の研究活動」を繋ぐ組織として、FVVという産学連携組織が存在する。これは、フォルクスワーゲンやボッシュなどの大企業から従業員10人以下の中小企業まで、エンジン開発に関わる約165社が加盟する組織である。

こうした産学官連携組織は、内燃機関のみならず、プラスチックやビール醸造等、約100の技術分野ごとに存在しており、それらの組織群が「AiF」という代表組織を組成している。AiFは民主導でドイツ連邦経済エネルギー省のカウンターパートを担っており、産業界の声を取りまとめ、政府の研究開発予算を要求する役割を有する。我が国では、NEDOや産総研といった独立行政法人を通じたトップダウンにより国家プロジェクトによって大規模な研究開発事業を実施するが、ドイツでは民間側からのボトムアップによってプロジェクトを組成しており、トップダウン構造に比べ産業界のニーズオリエンテッドな研究開発が実現しやすい構造となっている(図)。

図 ドイツの産学官連携の仕組み

資料:AiFホームページ等から経済産業省作成

(ウ)中国

(a)中国の製造業の特徴

中国では、製造業のGDP比率は微減傾向ではあるが約3割と他国と比較すると高く、また、製造業の就業者数は2012年は28.0%と、ここ10年間はほぼ横ばいの状況が継続しており、製造業の占める割合が高くなっている。設備投資額の推移を見ると、2003年以降一貫して増加している状況において、製造業の占める割合は、2003年に26.4%だったが、2013年には33.1%と比率も上昇していることからも分かるように、製造業における設備投資は大幅に増加している(図121-27)。

図121-27 中国における設備投資額の推移

一方、内外直接投資においては、非製造業の内外直接投資額は増加傾向が継続しているのに対し、製造業の対内直接投資は2011年の521億ドルをピークに減少傾向にあり2013年は456億ドルとなっており、中国への他国からの投資が頭打ちになっている状況がうかがえる(図121-28)。

図121-28 中国における内外直接投資額の推移

(b)中国が製造業を重視する背景

近年の経済成長の鈍化に伴い、中国では経済発展の「新常態(ニューノーマル)」への適応が求められている。高度成長から安定成長への移行、量から質への構造改革などを進めていくためには、これまで中国の経済成長の原動力となってきた製造業を高度化し、「製造大国」から「製造強国」への転換が重要となる。

第12次5か年計画(2011年~2015年)では、「経済発展モデルの転換の加速」を主要目標とし、その実現のため、①主な方向は経済構造調整、②核は技術イノベーション、③出発点は民生の改善と保障、④重要な注力点は資源節約型・環境保護型社会の構築、⑤大きな原動力は改革開放、とするとしている。

(c)中国製造業が重視する分野

第12次5か年計画において「戦略性新興産業」として、環境技術などの次世代技術分野を重視している。①省エネ・環境産業、②次世代情報通信産業、③バイオ産業、④ハイエンド設備製造産業、⑤新エネルギー産業、⑥新素材産業、⑦新エネルギー車産業から構成されており、これらのGDPに占める割合を2015年には8%、2020年には15%とする目標が掲げられている。

当産業の発展に当たっての最重要課題は、先進国に比べて後れを取っているイノベーション力の引き上げにある。そのため政府は、①資金調達インフラ整備、②大学における関連学科の新設、③関連産業クラスターの構築および地域開発との連動の3点を中心とした政策に着手している。

具体的には、2011年以降、国家発展改革委員会が中心となって「新興産業創設計画」を推進しており、小微企業(小微企業の分類基準は業種によって異なるが、例えば、製造業では従業員数が300人未満、年間売上高が2,000万元(約3.8億円)未満の企業を、情報伝送業やソフトウェア・ITサービスでは、同100人未満、1,000万元未満の企業を指す)が戦略性新興企業へと発展することが期待されている。

「新興産業創設計画」は、中央財政の専門基金が、地方政府に割り当てた資金や一般から調達した資金を元に合同で投資企業を設立、あるいは株式を購入することで、新型企業を支援・育成する政策である。2013年までに設立を支援した創業投資企業数は141社、投資した創業企業数・金額は422社・390億元に達している。

また、科学技術発展を促すため、中国政府は研究開発投資を積極的に行っている。景気変動にもかかわらず、研究開発投資額は一貫して増加傾向にある。また、その内訳を見ると、企業の投資が約75%を占めており、企業の技術開発支援が中心になっていると考えられる(図121-29)。

図121-29 中国における組織別科学技術研究費の推移

(d)中国製造業に関する今後の政策

2015年3月に、新たな産業振興の基本方針「中国製造2025」を公表した。これまでの労働集約型の単純なものづくりを行う「製造大国」から、産業の高度化により、2025年までに「製造強国」への転換を図ることを目指している。

具体的には、先端分野への優遇策の拡充、研究開発の奨励、企業の技術改良や新興産業の促進などを行うことが掲げられており、特に、情報ネットワーク、半導体、新エネルギー、新素材、バイオ、航空エンジン、ガスタービンなどの分野に注力することが示されている。

今後、産業育成のために、総額400億元(約7,650億円)の新興産業向け基金や中小企業向け私募市場などを整備する方針である。

(エ)韓国

(a)韓国の製造業の特徴

韓国ではGDPのうち製造業が約3割を占めており、さらに2006年頃から若干上昇傾向にある(図121-30)。また、製造業の利益率は、2000年頃には約15%あり、その後は減少しつつあるものの2010年以降も約10%前後で推移しており、2013年は9.2%となっている(図121-31)。日本やドイツなどと比較すると、GDPに占める製造業の割合が高い上に高水準の利益率を維持しており、韓国の製造業は韓国経済を支える中心的な産業となっている(前掲図121-9)。

図121-30 韓国におけるGDP産業別構造の推移

図121-31 韓国製造業の利益率の推移

(b)韓国における製造業発展の変遷

2014年6月、韓国政府は官民共同で「製造業革新3.0戦略」を推進することで、韓国における製造業の改革を進めていくことを発表した。

これまでの韓国における製造業発展の変遷を振り返ると、1960年から70年代前半の韓国では、軽工業を中心に国内市場向け生産を伸ばし、輸入の代替によって製造業の発展を遂げてきた。しかし、1970年代後半に入ると、国内市場の発展が限界を迎え始め、組立や装置産業を中心として日米独を始めとする製造業先進国に対する追撃型戦略へと転換し、輸出を増やすことで著しく発展を遂げてきた。

今回新たに発表された「製造業革新3.0戦略」では、スマート生産方式の導入や融合新産業の創出によって、製造業先進国を先導することが目標とされている(図121-32)。具体的なマイルストーンとして、2017年までに官民共同で計約24兆ウォン(約2兆6,000万円)を投資し、2020年までに韓国国内1万か所にスマート工場を設置することを掲げている。また、こうした「製造業革新3.0戦略」を通して、2024年には輸出1兆ドルを達成することが目標とされている。

図121–32 韓国における製造業発展の歴史

資料:(株)三菱総合研究所作成

(c)韓国政府による製造業への研究開発投資と注力分野

2000年以降、韓国における研究開発投資は拡大傾向が続いており、先程も述べたとおり、2009年からは主要国の中で名目GDPに占める研究開発投資額の割合が最も高くなっている(前掲図121-13)。2013年度の政府による研究開発投資額は約16兆9,000億ウォン(約1兆8,000億円)になっており、2015年度においてもさらに拡大していく計画を掲げている(図121-33)。

韓国政府による研究開発投資のうち、約15%が「情報」への投資となっており、最も割合が高い。以降は「医療」が12.7%、「エネルギー・資源」が10.5%、「機械」は9.7%となっており、これら4分野で全体の約半分を占めている(図121-34)。

また、人材育成の継続的な強化や北東アジアと連携することでより高度な研究開発を進めることも検討されており、官民共同で韓国製造業の発展を進めている。

図121-33 韓国政府による研究開発投資の推移

図121-34 韓国政府による研究開発投資の内訳(2013年度)

今回、「製造業革新3.0戦略」において韓国政府が推進している融合新産業では、将来的なIoT(Internet of Things)市場の世界的な拡大を見据えて、IT分野などを始めとする先端産業にこれまでの製造業で培った生産工程を導入することが検討されている。また、UAV(無人航空機)やAGV(無人搬送機)など、現行の規制では市場化に障壁が残る分野の発展を促進するために、製品の実証実験が取り組みやすいような環境を整えることが掲げられている。具体的には、新製品の導入に向けた実証実験を行うために、一時的に規制を緩和する特区などを定めることが想定されている。

一方、製造業先進国と比較して発展が遅れている核心素材・部品の開発やエンジニアリングデザイン(製品設計)といった分野においては、海外企業の国内誘致やM&Aの活性化、人材育成が進められる方針となっている。

このように、各国において製造業の役割は重要とされており、次世代型の製造業への転換に向けて動きを加速させていることが見て取れる。我が国においても、今後も製造業が経済を牽引し続けるために、今までのやり方にとらわれず、製造業の発展に向けて官民一体となって取組を強化していくことが求められている。

コラム:製造業の成長率向上に向けてのインドの政策

インド経済はITサービスなどのサービス業が牽引役となっており、貿易や直接投資に占める製造業の割合が、輸出向けの組立型産業を抱える中国、タイやマレーシアなどの他の東アジア諸国と比較して相対的に低い点が特徴である。このような状況の下、2011年11月に、インド商工省産業政策推進局が「国家製造業政策」を公表し、製造業の成長率を12%から14%に引き上げ、2022年までに製造業のGDP比率を16%から少なくとも25%に引き上げる方針を打ち出した。また、2014年9月にはモディ首相が「メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)」という製造業促進の産業政策を掲げた。8億人を数える35歳以下の若者のエネルギーと進取の気性を活かすことで、インドを世界の製造業の中心にすることを目指し、外資系企業にインドへ向けた投資の促進や生産拠点の誘致を促している。

(3)国内の立地競争力の強化

これまで、国内の製造業の役割や各国における製造業の見直しなどを通じ、製造業の重要性や次世代型製造業への転換の必要性を述べてきたが、製造業を今後も維持・拡大していくには、国内設備や研究開発への投資を促すことのできる立地環境が重要となる。しかし長い間、いわゆる六重苦と言われる「為替の安定」、「法人実効税率の高さ」、「経済連携協定への対応」、「労働規制・人手不足」、「環境規制」、「エネルギーコスト」の問題、さらに長期間のデフレ経済が日本企業を苦しめてきた。

事業環境の改善などの観点で必要とする事項を2014年6月時点で聞いてみると、「為替レートの安定」、「法人税減税などの税制面の改善」との回答が約6割ある(図121-35)。円高是正に代表されるように、そのうちいくつかはその後解消の方向に向かっているが、エネルギー問題や人材不足のような、依然として大きな課題もある。いずれにせよ六重苦の解消は国内の立地競争力の強化において重要である。

図121-35 事業環境の改善などの観点で必要とする事項(製造業)

①法人実効税率の引下げ

実際に、六重苦は解消に向けて進んでおり「為替の安定」においては極端な円安が是正され、法人実効税率は2.38%引き下がり、37.00%(標準税率ベース)から34.62%に引き下がった。(*東京都ベースでは、38.01%から35.64%となった。)

また、法人実効税率の更なる引下げに向けて、2014年6月24日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2014~デフレから好循環拡大へ~」で、次の指針が示された。

「日本の立地競争力を強化するとともに、我が国企業の競争力を高めることとし、その一環として、法人実効税率を国際的に遜色ない水準(図121-36)に引き下げることを目指し、成長志向に重点を置いた法人税改革に着手する。

そのため、数年で法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指す。この引下げは、来年度から開始する。財源については、アベノミクスの効果により日本経済がデフレを脱却し構造的に改善しつつあることを含めて、2020年度の基礎的財政収支黒字化目標との整合性を確保するよう、課税ベースの拡大等による恒久財源の確保をすることとし、年末に向けて議論を進め、具体案を得る。

実施に当たっては、2020年度の国・地方を通じた基礎的財政収支の黒字化目標達成の必要性に鑑み、目標達成に向けた進捗状況を確認しつつ行う。」

それを受けて2015年度の税制改正においては、国・地方を通じた法人実効税率(現行34.62%)は、2015年度に32.11%(▲2.51%)、2016年度に31.33%(▲3.29%)となる。(*東京都ベースでは2015年度に33.06%となる。)

図121–36 法人実効税率の国際水準

法人税率2000年2014年
OECD約34%24.98%
アジア約28%22.17%
日本(標準税率ベース)
日本(東京都ベース)
約41%
約42%
34.62%→32.11%
35.64%→33.06%
(2015年4月〜)

備考:アジアとは、中国、香港、インドネシア、韓国、マレ-シア、フィリピン、シンガポール、 台湾、タイ、ベトナムの 10 か国・地域。

資料: KPMG Corporate tax rates tableなどより 経済産業省作成

②経済連携協定への対応

我が国はこれまで、14の国・地域との間でEPAを発効させてきた。2015年1月15日にはこれまでの二国間EPAパートナーで最大の貿易相手国となる豪州との間でEPAが発効し、2015年2月10日には日モンゴルEPAが署名に至った。また、現在3か国・5地域(TPP、日EU・EPA、RCEP、日中韓FTA、AJCEP(サービス貿易章・投資章)、日カナダEPA、日コロンビアEPA、日トルコEPA)との交渉が進行中である(図121-37)。「日本再興戦略(2013年6月14日閣議決定)」では、FTA比率(貿易額に占めるFTA相手国の割合)を現在の19%から、2018年までに70%に高める」ことを決定しており、引き続き交渉を進めていく。

図121–37 経済連携協定への対応

資料:経済産業省作成

③エネルギーコスト

このように六重苦は着実に解消に向かっている一方で、特に「エネルギーコスト」と「人手不足」については、課題が残っているのも現状である。人材関連については、本節の「3.(1)ものづくり基盤の強化に向けた人材育成・活用」で詳しく分析する。

「エネルギーコスト」については、東日本大震災以降、高騰する燃料価格などを背景に、製造業などの産業用に係る電気料金の平均単価は約3割上昇している(図121-38)。

図121-38 産業部門における電気料金の推移

電力消費の多い製造業にとって、エネルギー価格の上昇は経営に直接影響を及ぼしており、エネルギー価格の上昇による収益への影響を業種別に見てみると、「鉄鋼業」は87.8%、「非鉄金属」は86.9%と9割近くが収益が減少すると回答しており、逆に、影響が少ないのは「一般機械」や「電気機械」であるが、それでも約7割は収益が減少すると回答している(図121-39)。

また、エネルギー価格の上昇により収益が減少すると回答した企業に、エネルギー価格が10%上昇した場合の営業利益の減少率を聞いてみると、収益が減少する割合の高かった「鉄鋼業」は、「20%超」の企業が11.9%、「10%超~20%以下」が7.3%あり、「非鉄金属」も「20%超」の企業が9.6%、「10%超~20%以下」が10.6%と、影響度も高いことが分かる(図121-40)。

図121-39 エネルギー価格の上昇による影響

図121-40 エネルギー価格が10%上昇した場合の収益への影響

エネルギー価格の上昇により、営業利益に大きな影響が出ることが分かった一方で、価格上昇分を取引価格に転嫁できていない企業が多いのが現状である。「まったく転嫁できなかった」と「ほとんど転嫁できなかった」を合わせると「電気機械」と「輸送用機器」は9割を超え、「一般機械」、「非鉄金属」も8割を超えている(図121-41)。

図121-41 エネルギー価格上昇分の取引価格への転嫁

このようにエネルギーコストの負担が減らない状況の中で、省エネルギーに向けた設備投資が活発化している。省エネルギーに向けた設備投資を「既に行っている」と回答した企業は51.7%に上っており、「今後行う予定」としている企業も15.1%となっている(図121-42)。また、実際に行っている設備投資の内容としては、「LEDや空調などの入替」が最も多く79.2%となっており、46.0%は「生産設備の入替」を行っていると回答している(図121-43)。

図121-42 省エネルギー向けた設備投資

図121-43 省エネルギー設備投資の詳細

これまで述べてきたように、製造業を取り巻く環境は著しく変化してきているが、国内の立地競争力が高まりつつあり、また、第1節でも述べたように雇用環境が改善し、賃金にも波及してきている中で、国内拠点の在り方を改めて見直し、我が国の製造業が有する技術力や現場力を維持・強化しつつ、情報化社会に対応していく柔軟性、時代に即した人材育成などを通じ、デジタル化も見据えた次世代型の製造業の転換が求められている。

コラム:地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金

平成26年度補正予算において、エネルギーコスト高を乗り越えるための企業の体力強化と、省エネルギー投資の促進による経済活動の活性化を目的とし「地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金」が緊急的に措置された。

本事業では、最新モデルの省エネルギー機器などの導入支援(A類型)として、①最新モデルかつ②旧モデルと比較して年平均1%以上の省エネルギー性能の向上が確認できる機器などの導入を支援するとともに、地域の工場・オフィス・店舗などの省エネルギー促進(B類型)として、工場・オフィス店舗などの省エネルギーや電力ピーク対策、エネルギーマネジメントに役立つ既存設備などの改修・更新に対しても支援を行っている。

2.事業環境の変化に対応した国内拠点の在り方

(1)国内のものづくり拠点の動向

①国内におけるものづくりの見直し

第1節において設備投資動向の分析にもあったとおり、景気の回復に伴い2014年度の設備投資は前年比で増加した。2014年度の資金計画において、2013年度よりも資金配分を高める使途は、「国内設備投資」が52.6%と最大となっており、「海外設備投資」が26.3%、「研究開発」が25.4%と続いている(図122-1)。設備投資の中でも国内への配分を増やしていく傾向が見て取れる。

図122-1 2014年度資金計画において2013年度との比較で資金配分を増やす使途(製造業)

国内への投資が増加傾向にあるが、設備投資の目的は変化しつつあり、「能力増強」は2007年をピークに減少している。2014年には20.9%となっており、逆に「維持・補修」が増加し、2013年以降最大の投資目的となっている(図122-2)。また、「新製品・製品高度化」や「合理化・省力化」も増加傾向にあり、海外展開が進む中で国内拠点の競争力を維持・強化していくため、国内生産の製品の高付加価値化や新しい技術の導入、また、効率化に向けての投資を行っている様子がうかがえる。

実際、国内での新規投資は様々な業界で進んでいる(図122-3)。例えば(株)堀場製作所においては、新しい開発・生産拠点を建設予定であり、新生産方式の導入により、生産能力2倍、納期3分の1を実現する見込みである。また、グローリー(株)は貨幣処理機の組立・製造のほか、生産技術開発拠点の集約なども目的とした新規投資を行う予定である。

図122-2 設備動機ウェイトの推移(製造業)

図122–3 国内新規投資の事例案件

企業名 投資概要・検討状況
(株)堀場製作所(京都市南区)
製品:エンジン排ガス測定装置
○滋賀県大津市に所有する工場用地に、湖西最大の開発・生産拠点「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」を建設。投資総額は約100億円。
○新生産方式を導入することにより、生産能力2倍・納期1/3を実現見込み。
グローリー(株)
(兵庫県姫路市)
製品:貨幣処理機
○姫路本社内に、新工場を建設(約30億円)。
○製品の組立・製造のほか、生産技術開発の拠点集約等を目的とする。
ファナック(株)
(山梨県忍野村)
製品:工作機械
○栃木県壬生町に、工作機械や産業用ロボットの頭脳となる数値制御(NC)装置の生産拠点を新設。
シチズン時計(株)
(東京都西東京市)
製品:時計の部品
○長野県佐久市に、新工場を建設(約30億円)。
○生産状況に応じて生産能力の増強、雇用の増員(100名程度)を計画。
(株)安川電機
(北九州市八幡西区)
製品:産業用ロボット
○自動車関連を中心とした需要増に対応するため、福岡県中間市の事業所内に、新たなロボット工場を新設し、大型ロボットを生産。
○拠点は日本と中国となるが、円安でコスト構造が変化し、一部で中国に勝てる水準になっているとの見方もあり、国内需要増にも対応するため、中国以上に、国内の生産能力を引き上げる可能性。
(株)東芝
(東京都港区)
製品:NANDフラッシュメモリ
○NANDフラッシュメモリ用の四日市工場の第5棟第2期ラインを構築。
○第2棟の立て替え(2015年中400億円)、生産設備導入(2015年中立ち上げ、2016年量産開始、数千億円)。
(株)ソニー
(東京都港区)
製品;CMOSイメージセンサー
○CMOSイメージセンサーの需要増加に対応するため、海外のファウンドリ(半導体製造受託会社)への委託ではなく、国内における生産能力の強化を選択実施。

資料:経済産業省作成

コラム:技術の総本山である黒部に本社機能を一部移転することで、組織を超えた連携強化によるシナジー効果を発揮・・・YKK(株)

ファスナー、スナップ・ボタンなどのファスニング事業や窓、サッシ、ドアなどの建材商品を扱うAP事業を手がけるYKKグループは、東京の本社機能の一部を富山県黒部市に移転させることを決定、先発隊としてすでに110名近くが黒部で仕事をスタートさせている。

同社の本社移転の計画は5年前の2011年に遡る。同社は「お客様の側でつくって売る」ことをモットーに、1959年から海外生産に踏み切り、現在は世界71カ国・地域に拠点を構え事業を展開している。生産の9割以上が海外という現状を踏まえ、「本社はどこに置くべきか」という議論を展開している最中に東日本大震災が発生した。BCPの観点からも地震の比較的少ない黒部に移転し、ものづくりの側にも本社機能を置くことで、組織を超えた連携強化によるものづくりのシナジー効果が発揮できるのではと考えるようになった。また、2015年3月の北陸新幹線開業が黒部移転を後押しした。

現在、技術開発、商品開発の拠点も世界20拠点に展開しているが、これら世界中に分散している技術の「本山」を束ねているのが黒部にある拠点で、黒部はYKKグループの「技術の総本山」という位置づけにある。さらに、黒部には同社の競争力の源泉ともいえる工機技術本部があり、材料開発、設備開発、機械部品製造により、ファスニング事業・AP事業向けの専用機械を国内外のYKKグループ各工場に供給している。ノウハウが凝縮された製造設備を内製することで、材料から製品に至るまでの一貫生産体制を可能とし、しかも製造設備は黒部のみで生産することで技術流出を防いでいる。このように、黒部の工場は同社のマザー工場であり、技術の重要な拠点となっている。

そのため、黒部へ本社機能を一部移転するにあたり、同社は、製造・技術とシナジー効果を生み出す本社機能を選択的に移転させている。たとえば、法務部門であれば、訴訟に関する部門は東京に残すが、知的財産グループは黒部に移転し、ものづくりと知財のシナジー効果を高めるといった具合である。

黒部への本社移転を契機に、同社は若者も住みたくなる魅力ある黒部の街づくりに取り組もうと、街に溶け込み、街と一緒に変化してゆく単身寮の建設や「パッシブタウン黒部モデル」という自然環境を活かしたローエネルギーの集合住宅の建設を計画している。同社の創業者の理念でもあり、企業精神にもなっているのが「善の巡環」という利益を現地に還元し、利点を分かち合う、地域との共存共栄の考え方である。同社の本社機能一部移転は、東京から地方へ単に機能を移し替えるのではなく、社員のワークライフバランスの確保や地域創生も視野に入れた壮大なプロジェクトなのである。

雄大な自然に囲まれた黒部事業所

黒部事業所の近くに建設予定のパッシブタウン(近未来型の住空間)

資料: YKK(株)

また、国内への投資意欲の高まりとともに、海外生産拠点の国内回帰に向けた動きも見られる。過去2年くらいの間に、海外から国内に生産拠点を戻した企業は全体の13.3%となっている(図122-4)。海外から国内に生産拠点を戻した理由としては、「品質や納期など、海外のものづくり面での課題があった」が34.4%と最も高く、「円高是正で、日本国内で生産しても採算が確保できるようになった」と「人件費高騰などにより、海外の生産コストが上昇した」が共に24.4%と次に多くなっている(図122-5)。

ただし、後述するようにグローバル最適生産の動きに変わりはなく、その前提の下で、為替や課題などを含む様々な要素を加味し生産地を調整する中で、国内生産に一部が振り分けられているという状況であり、国内回帰のパターンとしては、国内向け製品の海外生産を国内に戻しているものと、海外向け製品であっても国内生産に戻すものがあると考えられる。

図122-4 国内回帰の実績(過去2年くらい)

図122-5 国内へ生産を戻した理由

 
コラム:中国等における人件費高騰と事業環境上の課題

中国を始めとする海外拠点において、人件費高騰による生産コスト増が顕著となっている。1995年からの上昇率をみると、北京では7.3倍、上海においては7.5倍と、ジャカルタの2.4倍やハノイの3.9倍と比較しても、特に中国の都市部での人件費の高騰が著しい(図1)。

また、中国における事業の課題や懸念事項において最も高い項目が、「労働コストの上昇」となっており、約8割が主要課題として挙げている。他にも「他社との厳しい競争」や「法制の運用が不透明」や「知的財産権の保護が不十分」との声も半数近くに上っており、中国での事業展開の課題は少なくない(図2)。

図1 アジア主要都市における人件費の推移

図2 中国事業展開における主要課題の推移

(ア)国内向け製品の国内への生産回帰

2000年代後半からの極端な円高などによりグローバルな地産地消の流れに反し、白物家電などを中心に国内向け製品を海外で生産し輸入をしている例は少なくない。業種別の逆輸入比率を見てみると、2014年度は「電気機器」が29.6%と他の主要業種と比較して高くなっている。2011年度以前は3割を超えていたが、近年の円高是正の中、逆輸入が少し落ち着いてきた様子がうかがえる(図122-6)。

図122-6 業種別の逆輸入比率

実際に海外で生産をしていた国内向け製品を切り替えた事例としては、パナソニック(株)が卓上IH調理器を中国から戻した事例やダイキン工業(株)が中国メーカーに委託していた家庭用エアコンの一部の生産を国内に戻した事例などがある(図122-7)。

為替やコストなどの要因により、国内の立地競争力が増したことに加えて、国内の既存生産設備での生産が可能であることなどが重なり、国内に生産を戻すことができたと考えられる。

図122–7 国内向け製品の海外生産を国内生産に戻した事例

企業名投資概要・検討状況
パナソニック(株)
(大阪府門真市)
製品:卓上IH調理器等
○卓上IH調理器について、中国から神戸工場へ生産移管。
○今後、エアコン、洗濯機、食洗機(卓上型)、電子レンジの国内市場向けの海外生産を一部国内に移管することを検討中。
ダイキン工業(株)
(大阪市北区)
製品:エアコン
○中国メーカー(格力電気)に生産委託していた家庭用エアコン(80万台)の一部(25万台)の生産を、滋賀製作所(草津市)に移管。
キヤノン(株)
(東京都大田区)
製品:複写機
○全社として、2013年実績43%の国内製造比率を、2年で50%超、3年で60%に戻す方針。
○従来アジアの工場で生産していた①高付加価値複写機の一部を茨城県取手工場へ、②ハイエンドのカラープリンタの一部を滋賀県長浜工場へ移管。
(株)沖データ
(東京都港区)
製品:プリンター
○中国深センで生産している日本国内向けA3モノクロプリンターの全数を、福島事業所(福島市)に順次移行。
○高付加価値品を中心に、順次国産機種を増やす予定。
本田技研工業(株)
(東京都港区)
製品:原動機付自転車
○原動機付自転車の一部の生産について、2015年度末までに東南アジアから熊本工場に移管予定。
(株)ナカノアパレル
(東京都中央区)
製品:衣料品
○従来は中国製生地を利用していたが、円安により、中国生地の価格メリットが薄れたことから、自社開発による国内生地を中国の縫製工場に持ち込み、縫製品を輸入するという加工貿易スタイルに変更。

資料:経済産業省作成

(イ)海外向け製品の国内への生産回帰

海外向け製品の生産を現地生産から国内に戻し、輸出に切り替える例も存在する(図122-8)。例えば、日産自動車(株)などの各自動車メーカーは北米市場が好調であることを受け、一部の車種を国内からの輸出に切り替える動きも見え始めている。グローバルに展開をしている企業においては、既存設備を有効活用しながら、効率やコストを考慮して生産地を検討し、利益の最大化を目指していることが指摘できる。

図122–8 海外向け製品を国内生産に戻した事例

企業名投資概要・検討状況
日産自動車(株)
(神奈川県横浜市)
製品:自動車
○北米向けSUVのローグについて、現在北米で生産しているが、国内生産・輸出で対応することを検討中。
TDK(株)
(東京都港区)
製品:車載部品
○中国で生産している自動化可能な車載部品などの一部(3割)について、国内生産に移管することを検討中。自動化が難しいものについては、東南アジアに移管を検討。具体的な品目や規模感は検討中。
○スマートフォンや自動車向け電子部品の国内切り替えを検討。
中小企業
製品:素形材
○主に、マンホール・溝蓋など、鋳物を製造する中小企業の鋳造会社では、排水部材の一部について、鋳造工程を中国に外注していたが、為替の影響で価格差がなくなったことから、自社生産に切り替えた。
○中小企業の鋳造会社では、冷凍機用コンプレッサーの部品について、海外に取られていた受注が自社に戻ってきた。
○船舶部品等の製造・加工組立などを行う中小企業の鋳造企業では、船舶鋳物部品について、海外に取られていた受注が自社に戻ってきた。
○自動車用鋳鉄部品を製造する中小企業の鋳造会社は、自動車の足回り部品の受注が自社に戻ってきた。
○産業機械向け鋳物製品を製造する中小企業の鋳造企業は、精密加工機の足回り部品について、海外に流れていた受注の一部が自社に戻り、受注全体が増大。

資料:経済産業省作成

コラム:円安による内需拡大をきっかけに、一個流しといったデリバリ対応力、自主企画製品によるブランド化に磨きをかけ、川口鋳物産業の復活を主導・・・伊藤鉄工(株)

伊藤鉄工(株)(埼玉県川口市)はキューポラの町として知られる川口市に立地する、1931年創業の鋳物メーカーである。排水金具やマンホール蓋といった量産品から、フェンスや照明灯、レリーフや モニュメントまで多彩な製品を取り扱っている。

同社は海外から調達しているものが多かったが、急速に進む円安局面を受けて、中国の協力企業から購入していた排水金具や排水トラップ、継ぎ手などを順次内製(国産化)に切り替えている。2014年春に1ドル100円の水準に達した頃から、国内でつくっても採算が取れるようになったという。もともと、厳しい納期に対応するためのデリバリを考慮すると、多少中国より高くても国内でつくる方がメリットは大きく、一段と円安局面が進んだ現行の為替水準であればコストは中国と同等以下となり、なおさら国内でつくるメリットが大きくなるという。依然として海外からの調達品が多い同社にとって、円安はむしろ経営面でのデメリットが大きいというが、日本に仕事が戻り内需が拡大することは、中長期的にみて同社にもメリットがあるという。

しかし、同社は為替レートではなく、3Dプリンタや1個流しといった新しいものづくりの有り様の変化に着目している。大ロット生産は在庫を持つ必要もあり海外生産が主流にならざるをえないが、1個流しなどのものづくりが主流となり、デリバリが厳しくなればなるほど、国内でものづくりを行うチャンスやメリットは大きくなるとみている。

また、同社が中心となって立ち上げた、川口鋳物職人の匠の技によるFerramica(フェラミカ)という鋳物調理器具によるBtoC市場向けの市場開拓にも力を入れ、円安局面を追い風に海外市場開拓も視野に入れている。

伊藤鉄工が中心に立ち上げたFerramica(フェラミカ)ブランドの鋳物調理器具

資料: 伊藤鉄工(株)

②グローバル展開における国内拠点の役割

このような動きは若干あるものの、大きな流れとしてはグローバル最適生産、地産地消の動きには変わりがなく、国際分業はますます進んでいくと考えられる。また、アジアを始めとした海外生産の技術レベルも向上してきている中で、国内の立地競争力を維持・強化していくためには、国内拠点の役割を明確にし、海外拠点と差別化していく必要がある。

アンケート調査により、大部分を国内に残す方針である部門を聞いてみると、「企画・経営管理」が79.4%と一番多く、「研究開発(基礎)」、「マザー工場(基幹部品生産など)」、「研究開発(応用・試作)」と続いている(図122-9)。

図122-9 大部分を国内に残す方針とする部門(機能)(製造業)

また、国内生産拠点の役割を尋ねてみると、「海外拠点との差異化を図るための拠点」と位置づけている企業が多くなっている(図122-10)。また、海外との差異化拠点としての具体的な役割としては、新しい技術や製品など新たな価値創造を生み出す「イノベーション拠点」、海外へ移管する生産技術や海外工場のバックアップを担う「マザー工場」という回答で7割を超えており、国内拠点は海外拠点をリードしていく役割を担っており、高付加価値化につながる高度な技術や新しい技術の開発力が求められていると考えられる。また、多品種少量生産や短納期生産などに柔軟に対応できる「フレキシブル工場」という回答も多くなっている(図122-11)。

図122-10 国内生産拠点の今後の役割

図122-11 海外との差異化拠点の役割

 
コラム:国内生産回帰で設計から生産、保守までの一貫生産体制を整え、収益創出となるイノベーション拠点を強化・・・沖電気工業(株)

プリンターや複写機などはもはや中国などの海外生産が主流とみなされている中、同社グループ企業の(株)沖データは中国深圳の工場で生産している日本国内向けA3モノクロプリンターの生産を福島事業所へ移管し、今後も高付加価値品を中心に国産化率を高める方針を打ち出した。これは昨今の円安という為替レートの変動を踏まえたものではなく、国内需要が多い製品の設計から生産、保守までの一貫生産体制を整えることで、製品開発力の強化を目指したものである。実際に、中国生産と比較すると、市場での不具合は3分の1に減少し、生産性も10%上昇している。今後も、高品質や短納期の実現はもちろんのこと、迅速で柔軟な対応力、改善力、物流効率化を実現し、新商品立ち上げ時の設計変更や納期変更といった事態にも対応できる体制の構築を目指す。また、今回の国内回帰により雇用を60名増加させ2015年度も雇用増を予定している。地元人材の雇用拡大により福島の復興に貢献できると考えている。

サービス思考のビジネスモデルが注目を集める中、同社はそれに加えて従来からのハードウェアの生産による付加価値提供が収益の源泉であると考えている。生産現場での日々の1つ1つの改善、改革、工夫によりお客様の付加価値を作りだし、それが収益に繋がるという“生産現場こそが収益創出の最前線”という認識の下、福島事業所は同社にとっての「イノベーション拠点」であり、かつ、福島での改善・改革を海外拠点に展開していく「マザー工場」としての役割を果たしている。

生産現場そのものが競争力の源泉であるとの考え方は、同社のEMS事業にも共通している。2012年10月に田中貴金属工業(株)からプリント配線板事業及び鶴岡工場を買収し、OKI田中サーキット(株)注3として再スタートを切ったが、約300人いた従業員全員の雇用を維持し、買収後わずか1年で高度な技術力と高い生産効率を併せ持つ多品種少量生産工場としての位置付けを確たるものにした。最先端技術への戦略投資に加えて、「収支の見える化」を図ることで現場で働く社員一人ひとりのコスト意識を高め、「カイゼンの見える化」も図ることでコストダウンの効果を“喜び”として実感できるようにした。こうした地道な取組こそが強い製造ラインをつくりお客様の“喜び”(価値創出)にもつながっている。ものづくりの原点を忘れないことが、国内においても世界に負けない強い工場が存続しうる理由と考えられる。

(株)沖データの社屋

OKIサーキットテクノロジー(株)の社屋

資料:沖電気工業(株)

注3 2014.4月よりOKI田中サーキット(株)はOKIサーキットテクノロジー(株)へ社名変更

コラム:“Made in Aso”というファクトリーブランドを掲げるマザー工場がグループのものづくりと地域経済を牽引・・・(株)堀場エステック

(株)堀場エステック(以下、STEC)は自動車、環境、医用、半導体、科学の5つの事業領域を手掛ける(株)堀場製作所を親会社に持ち、HORIBAグループにおける半導体事業を担う中核企業である。同社の阿蘇工場は熊本空港から約5キロという好アクセスの工業団地に立地しており、半導体分野の主力製品である半導体製造装置用のガス・液体流量制御機器(マスフローコントローラ、以下MFC)や医用分野の主力製品である血液検査装置などを生産する、HORIBAグループ最大の生産拠点かつマザー工場という位置づけにある。

STECは(株)堀場製作所が1974年に他社と共同出資し、(株)スタンダードテクノロジとして設立された。阿蘇工場は1988年に竣工し、当時シリコンアイランドとして半導体産業が盛んであった九州には、同社の顧客である半導体製造装置メーカやエンドユーザである半導体メーカの工場が数多く立地していた。半導体事業は景況の波が激しいことから、雇用の安定を図るために京都の(株)堀場製作所本社工場から医用分野の製品生産ラインを阿蘇へ移管することを決断し、2011年5月に約20億円を投じて新棟の増築に着手した。当時はまだ円高で、東日本大震災直後ということもあり国内の景況も芳しくなかったため、周囲からは「海外ではなく、国内に新工場をつくるのか」と驚きをもって受け止められたという。

同社の主力製品であるMFCは量産製品でありながら、顧客の要望に合わせて作り込むカスタム品である。取扱うガスの種類や流量、継ぎ手の形状などが顧客によって異なり、しかも超短納期での対応が求められる。このような多品種変量生産かつ短納期のものづくりこそ国内工場の真骨頂であり、海外では生産できないという。また、MFCは難度の高い金属加工を必要とし、かつ、クリーンルームで使われる半導体製造装置向けの製品であるため、研磨して鏡面加工に仕上げなければならないパーツもある。レベルの高い機械加工サプライヤーの集積も、日本のものづくりの強みとなっている。

多くの地方自治体が少子化による人口減少に直面している中、阿蘇工場が立地する西原村は人口7千人の小さな自治体であるものの人口は増えており、内閣府が公表した市区町村別の経済指標のランキング(2010年)で全国1位となったことで注目を集めている。過去の製造品出荷額等や従業者数の伸びが構成指標の一つとなっているが、1988年に設立されて以来、設備増強を繰り返し、着実に生産と雇用を増やしてきた。工場内には、阿蘇工場が世界一の品質を生み出しているという自負をもって「Made in Aso」という看板が随所に掲げられている。「Made in Japan」 ではなく「Made in Aso」というファクトリーブランドを掲げるところに、地域との共存共栄を目指す同社の姿勢が現れている。

阿蘇工場

クリーンルーム内でのMFC生産の様子

資料:(株)堀場エステック

コラム:グローバルマザー拠点としての役割の拡大・・・日産自動車(株)

電気自動車(EV)リーフなどを生産している追浜工場(神奈川県横須賀市)は、海外における生産能力の拡大が続く中、かつての主力生産工場としての役割から先進的・効率的な生産方法を実践したり、グローバル人財を育成したりするグローバルマザー拠点へと変化してきた。

地産地消、最適地生産を実現させていくには人財が大事という考えのもと、2006年に世界トップクラスの品質と生産性を実現するために、全世界の生産拠点を対象とした人材育成の核と位置付けられるグローバルトレーニングセンター(GTC)を立ち上げた。車両製造、物流、品質保証のGTCとして、グローバルに採用するマスタートレーナー制度という人財育成方式に基づき、国内外の生産拠点から選抜された人財に対し、座学及び技能訓練による研修を実施している。GTCでの研修を終え、マスタートレーナーの資格を取得した卒業生は、自拠点に展開するリージョナルトレーニングセンターにて、グローバルに標準化された教育内容、訓練器材を使用して、現地従業員の人財育成にあたる。GTCは追浜工場の敷地内にあり、学んだ内容を工場の中ですぐに体験できるメリットもある。

これまで新車の立ち上げなどで問題が起きた際には、日本から緊急で人を派遣して対応をしていたがGTCで事前研修を実施したり、また、マネジメントレベルのための研修なども行っている。

国内拠点はマザー工場として、確立した製造技術を海外工場へ移転する役割だけに留まらず、人材育成、新製品・新技術の開発や設計、グローバル調達などが集約されグローバルマザー拠点としてさらに役割を拡大させていくことが考えられる。

(2)「国内に残す」、「海外で稼ぐ」分野の棲み分け

製造業のGDPは1997年の約114兆円をピークに2000年代は100兆円前後で推移をしていたが、2009年に約83兆円に大きく落ち込んだ後は、90兆円前後となっている。業種別に見てみると過去20年の間に多くの業種は減少の一途をたどっており、特に「電気機械」は1994年は18.4兆円だったが2013年には11.1兆円まで減少しており、「繊維」も1.7兆円から0.6兆円と減少率が高い。一方で、「輸送用機械」や「一般機械」はリーマンショックで落ち込みはするものの、ほぼ同額で推移している(図122-12)。

図122-12 業種別GDPの推移

これは、1990年頃から地産地消や最適地生産の流れの中で、製造業における製造拠点の海外シフトが進行していることが1つの大きな要因と考えられる。2013年度において現地生産を行う企業の割合は内閣府の東京、名古屋の証券取引所第一部及び第二部に上場する企業を対象としたアンケート調査によると約7割となっている(図122-13)。また、製造業の対外直接投資額は、2013年は4.1兆円と我が国全体の31.3%を占めており、製造業の対外直接投資額の推移を見てみても、リーマンショックの影響により2009年から2010年は全体的に投資額が落ち込んでいるが、2011年以降は、活発に海外投資を行っている様子がうかがえる。業種別では、「輸送機械器具」、「化学・医薬」、「電気機械器具」の投資額が大きくなっている(図122-14)。

図122-13 海外で現地生産を行う企業の割合と現地生産比率

図122-14 製造業の業種別対外直接投資の推移

海外生産が増加しているのに加え、仕入れ先が海外現地法人と同国である割合を指す海外現地調達率も徐々に増加傾向にあり、2013年は約60%に達している(図122-15)。

製造拠点を海外に据える最終財メーカーには、開発コストや輸送コスト、リードタイムなどの観点から中間財メーカーを近くに引き寄せたいという思いがあり、中間財メーカーも取引の維持・拡大のためには最終財メーカーの近くにいたいと考えることで、最終財メーカーを追う形で国内中間財メーカーの海外進出が進んでいる状況にある。また、海外で技術力の高いメーカーと提携することも、海外現地調達率の高まる一因になっていると考えられる。特に後者の傾向が強く見られるのは、「木材・紙パルプ」といった分野であり、約70~80%を現地から調達している(図122-16)。逆に、日本からの調達率が高いのは「窯業・土石」や「情報通信機械」で4割以上が日本からの輸出となっている(図122-17)。

図122-15 海外現地法人における仕入れ額の内訳

図122-16 産業毎における海外現地調達率

図122-17 産業毎における日本からの調達率

また、国内の鉱工業品の総供給量は2009年に大きく落ち込んで以降、少し回復してはいるものの2008年以前の水準には達していない中、輸入が増加し、国産品の出荷が伸び悩んでいることで輸入浸透率が高まっている状況もうかがえる。一方、輸出依存度は2010年以降はほぼ横ばいで約20%となっており、出荷指数を見ても輸出向けと国内向けどちらも横ばいであることから、近年の円安状況下においても大きな輸出増加には至っていない状況が見受けられる(図122-18・19)。アンケート調査で円安シフト後の輸出数量の変化をたずねると、「変わらない」が67.8%と多く、「大きく伸びた」と回答した企業は3.1%、「やや伸びた」と回答した企業は25.9%であった(図122-20)。また、製品の輸出価格を変更したかを聞いてみると、93.0%が「変えていない」と回答しており、「下げた」は3.7%、「上げた」が3.3%となっている(図122-21)。

図122-18 輸入浸透率と輸出依存度

図122-19 輸入浸透度(前年比)の要因分解

図122-20 輸出数量の変化

図122-21 製品の輸出価格

国内外での稼ぎ方が変化している中、企業は海外拠点と国内拠点の明確化を進めてきているが、各産業ごとに取り巻く環境や産業のコスト構造、発展状況などが違うため、輸出拠点も含め「国内に残す」分野と「海外で稼ぐ」分野の棲み分け方は大きく異なっている。このような状況の中、今後も製造業は引き続き我が国経済を支える屋台骨としての役割を継続し、さらなる発展を遂げていくことができるのだろうか。業種ごとの分析を通じ、検証を行う。

①「自動車」

自動車産業はグローバル化が進んでおり、日系メーカー12社の2014年の生産は合計2,725万台で、うち海外生産は1,748万台と、6割以上が海外で生産されている。リーマンショック以降この傾向は強まっており、2004年に5割であった国内生産比率は、足下では4割まで低下している(図122-22)。現在、自動車産業は、需要のある消費地の近くで生産を行う「地産地消」を基本としており、国内での需要が500万台前後で伸び悩む中で、旺盛な海外需要には海外生産の拡大によって対応している状況が明確になってきている。

こうした状況の中で、輸出比率(国内生産のうち輸出向け台数比率)は、緩やかに減少傾向にあるが、その背景には、一部で為替による影響の抑制やコスト削減を図るために、日本から海外に生産を移転し、更なる「地産地消」を進める動きがみられるところである(図122-23)。なお、国内乗用車メーカー6社の輸出比率や生産台数の推移を見てみると、本田技研工業(株)のように「地産地消」の傾向がより強く、輸出比率を大きく引下げたメーカーもあれば、トヨタ自動車(株)のように国内生産を一定程度保っているメーカーもある。また、マツダ(株)や三菱自動車工業(株)のように輸出比率を保っているメーカーや、日産自動車(株)のように輸出比率は保っているが、国内生産台数が減少し海外生産比率が高まっているメーカーや、富士重工業(株)のように輸出比率が上昇しているメーカーもあり、各社の状況には相違がみられる(図122-24・25)。

図122-22 国内生産比率

図122-23 国内生産のうち輸出向け台数比率

図122-24 国内乗用車メーカー6社の輸出比率の推移

図122-25 国内乗用車メーカー6社の生産台数の推移

自動車メーカーが海外での生産を検討するに当たっては、現地での部品調達コスト等を考慮して、1工場で約20万台の生産に見合う需要があることが、生産ラインを設置する目安とされている。こうした中で、現地生産拠点のない地域や現地生産での供給能力の不足に対して、輸送コスト、生産コスト、関税などを総合的に考慮して最も効率的な場所で生産を行う「最適地生産」が行われ、例えば、タイからは東南アジア、中近東、オーストラリアに向けて輸出がなされ、メキシコからは北米・南米向けの輸出がなされるなど、海外の地域拠点から近隣の国々への輸出も活発に行われている(図122-26)。こうした「地産地消」と「最適地生産」の組合せを背景として、マクロな動態としては、日本からの輸出比率の減少、海外生産の増加が見られるが、自動車メーカーに共通して、日本を「マザー工場」として位置付け、日本での生産を戦略的に維持する取組が行われている。

図122–26 日系自動車「生産」拠点のグローバル展開(2013年)

資料:経済産業省作成

自動車メーカーは、こうした中で、生産する車種ごとに最適生産地を選択している。為替の動向や工場の稼働率、需要の動向など様々な要素を考慮しつつ、国内での生産を選択するに当たっては、以下の特徴が見られる。

(ア)国内での需要

「地産地消」の考え方の下で、国内で販売される車種は基本的に国内で生産がなされる。海外から逆輸入をしているのは年間約5万台程度と、ごく一部にとどまる。

(イ)量産効果

高級車種など、生産台数が比較的少なく、また需要地にばらつきがある車種については、量産効果を活かすため国内での生産を優先する傾向が見られる。

(ウ)先進技術の採用

ハイブリッド自動車など、先進的な技術が使われている車種については、生産現場と一体となった技術開発や、生産のノウハウの保持、部品の調達等の観点から、一貫して国内で生産される傾向がある。高い技術力があり、また製品開発を共同で行うサプライヤーが国内にいることも踏まえ、特に燃料電池自動車など先進技術を採用し量産化が始まったばかりの車種について、生産から開発へのフィードバック等を通じて、製品品質や量産技術の向上に取り組んでいる事例がある。

(エ)生産技術の進化

ロボット化などの新たな生産技術の導入や工場の環境負荷削減の新たな取組などは、日本の工場で試行した生産技術を海外の工場に展開している事例がある。

自動車部品に関しては自動車メーカーの海外進出に伴い、現地調達率の向上や現地での競争力強化に貢献するため、海外現地生産を決断することもあるが、技術や品質の熟度、国内外での輸送費を含めたコスト比較などを勘案して、国内生産に留めるものと海外生産を行うものとが区別されている。

一次サプライヤーにおいては、生産技術面や提案力、性能、価格などの総合的判断で海外においても日系メーカーと一緒に進出している傾向が強い一方で、二次以下のサプライヤーからの調達は、汎用部品を中心として地場メーカーから行っている部品も少なくない。自動車部品の中でも、国内で生産をし、海外生産拠点へ輸出しているものがあるが、これらには、①量産開始から間もない先端技術を使用している、②設備が高価であったり、多品種少量生産や量産効果が高いなど国内での集中生産にメリットがある、③輸送効率が良いなどの特徴がみられる。

自動車業界は信頼性の担保が特に重要な製品であり、また、製品の輸送コストが大きいこともあり、生産拠点の構図はすぐに変わるものではない。国内に信頼性が高く、技術力のあるものづくりができる人材を今後も育成していくことが、日本における自動車産業の競争力を維持・強化していく上で重要である。

コラム:自動車産業における取引のオープン化と生産性の関係

自動車産業では、完成車メーカーと部品メーカーとの間に、部品の仕様などをすり合わせる技術的な必要性から、密接な関係が構築され、各部品について、系列内の特定の取引先との安定的な取引が行われている傾向がみられる。特に我が国の自動車産業は、欧米と比べて系列メーカーによるクローズな取引構造に特徴があり、競争力の源泉の一つとされてきた。一方、近年、差別化要素の少ない部品を中心として、取引のオープン化が進んでいることが指摘されている。

例えば、郷古(2015)では、国内乗用車メーカー主要8社と一次サプライヤーの部品ごとの取引関係を分析し、同じ部品を2つ以上の完成車メーカーに納入するサプライヤーの比率が増加していることを明らかにしている(図1)。つまり、我が国自動車産業の完成車メーカーとTier1と呼ばれる一次サプライヤーとの取引関係がオープン化してきていることが実証されている。

クローズからオープンへの取引構造の変化は、我が国自動車産業の国際競争力に影響を与える可能性がある。その点、メーカーのパフォーマンスと取引構造との関わりがどのようになっているのか注目される。例えば、池内・深尾・郷古・金・権(2015)では、自動車部品メーカーを取引関係のある完成車メーカーの数で4つのグループに分けて、各グループに属する企業が所有する工場(事業所)のうち当該部品を製造している工場のTFPの平均値の推移を分析した。その結果、2000年以降、2社以上の完成車メーカーと取引のある一次サプライヤーの工場の生産性が上昇しているのに対し、一次サプライヤーでない自動車部品メーカーの工場や1社の完成車メーカーのみとしか取引していない一次サプライヤーの工場の生産性はほとんど変化しておらず、両者の間の生産性格差が拡大していることを明らかにしている(図2)。さらに当該論文では、多くの完成車メーカーと取引関係を持つ部品メーカーと、そうでない部品メーカーとを比較した結果として、企業規模や外資比率といった構造的な要因のみでなく、R&D活動への取組や輸出比率などの企業行動、そして生産性や利益率、生存確率などの経営パフォーマンスにも大きな違いが見られるという興味深い指摘をしている。

図1 同じ部品を2つ以上の完成車メーカーに納入するサプライヤーの比率

図2 取引先完成車メーカー数別自動車部品メーカーのTFP指数(対数)

コラム:自動車部品産業における取引のグローバル化における日欧の相違

近年、自動車産業においては、TIER1と呼ばれる一次サプライヤーの規模の拡大、取引先のグローバル展開が指摘されてきているが、ここでは、日米欧のセンサーを納入している一次サプライヤーの納入先である完成車メーカーの広がりを見てみたい。(図1)

図1 日米欧一次サプライヤーのセンサー納入先

出所:(株)東京商工リサーチ「2013-2014年版 車載カメラ市場のマーケティング分析」

上記の絵で見られるように、我が国のサプライヤーの取引先は、我が国の完成車メーカーが中心であるのに対し、欧米のサプライヤーの取引先は、グローバルに広がっている。この背景として、欧米サプライヤーが、複数の完成車メーカーに標準仕様の製品を大量に販売することなどにより、コスト競争力を高めているのに対し、我が国のサプライヤーは、取引先とのすり合わせにより、完成車メーカー毎に異なる仕様に対応し、性能を高めていることを重視していることも一因であると指摘する声もある。

「我が国の一次サプライヤーの取引先が、我が国の完成車メーカー中心であることにより、我が国の二次サプライヤーにも、個々の完成車メーカー毎の品質基準や仕様に対応する必要が生じており、二次サプライヤーの企業体力が低下しているといった指摘もある。近年、完成車メーカー毎の仕様の標準化の必要性が検討されつつあるところ、こうした動きが、今後、サプライヤーにどのような影響を及ぼすかといった点も含めて、動向を注視していく必要があろう。」

図2 国内外の一次サプライヤーと二次サプライヤーの関係

資料:経済産業省作成

②「一般機械」

一般機械の分野は自動車と並んで我が国製造業による輸出の稼ぎ頭であり、2014年の貿易収支は約7.5兆円の黒字となった。現在も引き続き輸出が堅調に推移する背景について、以下で分析する。

(ア)工作機械

工作機械は、製造業の基盤的設備であるため、工作機械の性能の優劣が、生み出される製品の競争力を大きく左右し、その国の工業力全体にも大きな影響力を及ぼす重要な基幹産業である。我が国における工作機械の生産台数は年間10万台程度であり、国内生産比率は約90%と他産業と比較して非常に高い水準を維持している(図122-27・28)。一部メーカーにおいては、地産地消のため現地生産を行っているが、高度な熟練技術者や高精度な工作機器等を提供するサプライヤー等、進出先において十分な産業活動の基盤を必要とすることも特徴の1つである。

図122-27 我が国の工作機械生産台数

図122-28 工作機械業界の国内生産比率

一方、世界の工作機械(切削型+成形型)市場規模は、中国の高度成長により2011年には過去最高の917億ドルを記録し2000年と比べ2倍以上に伸長した。しかし、その後の中国経済の後退等により2014年は755億ドルに留まっている。なお、中国における工作機械(切削+成形)の購入額は1990年代後半から増加し、2002年から世界最大の購入国となっている(図122-29)。その半数は日本やドイツから輸入をしていることもあり、我が国の工作機械受注額ベースでは外需が6~7割で近年は推移している(図122-30)。

図122-29 国別工作機械購入額の推移

図122-30 受注額の推移と外需比率

我が国工作機械業界の生産拠点が主に国内で展開されている大きな理由として、高い技術を持つメーカー、ユーザー、サプライヤーが国内に集積している点が挙げられる。工作機械は技術統合型の製品であり、複数の高度な技術力を要求する部品群のインテグレーションによって製造されている(図122-31)。例えば工作物や工具を取り付け回転させる「主軸」と呼ばれる部材は、加工の際に発生する変位や振動を抑制するために、十分な剛性の確保、熱対策、高い組立精度の確保等が必要となる。「NC(数値制御)装置」は、自動運転プログラムにより工作機械の運動を高精度に制御したり、必要な補正等を行う重要な機能を担う。「リニアガイド」「送りモーター」と呼ばれる部材は、加工時の工具や工作物にかかる加工負荷に耐えつつ正確な位置決めを行うための部材である。これらはいずれも高い技術力を要する高機能な部材であり、それぞれ国内に競争力の高いサプライヤーが存在する。また、機械構造のフレームを構成する鋳物部材については一部中国や韓国等からの輸入品が存在するが、「キサゲ」と呼ばれる、金属表面に微小なくぼみを付ける最終工程を国内の熟練工が行うことにより、金属表面の摩擦抵抗を小さくし、部材の滑らかな移動を可能にするといった高付加価値化が行われている。さらに、各々の部品の性能を最大限に活かし、工作機械としての機能・性能を確保するためには、最終組立において熟練した技術を持った技能者が改善・微調整を繰り返しつつ、造り込みを行っていくとともに、徹底した精度管理を行う必要がある。こうした技術力の高いサプライヤー、競争力のある工作機械メーカーが自動車、電機電子、一般機械、精密機械などの国内に集積するユーザーからの高度な要求に応えるという環境が実現していることから、国内で工作機械の生産を継続するインセンティブとなっている。

図122-31 工作機械の主要部品とキサゲ作業

こうした技術的な側面に加え、工作機械はアフターサービス等での差別化も行われている。海外へ輸出する際にもメンテナンスサービスの提供が1つの重要な要素となっており、きめ細やかなサービスを実施することによりユーザーの機械のダウンタイムの短縮化に対応している。また、新たなサービスとして製品提供とサポート体制を一括で請け負うことで、ユーザー側での操業中のデータを収集・分析することによる効率的なメンテナンスやアドバイスなどのサービスに繋げたり、ユーザーニーズの吸い上げを行うことで次の製品開発に活かすことができる循環ができあがりつつある。製品寿命が長いため、こうしたメンテナンスを含む手厚いサポート体制を通じて顧客と密接な関係を構築し、設備更新の際に継続受注を獲得する事例も少なくなく、大規模なシェア構造の変化が起こりにくいとも言える。

(イ)ロボット

我が国は産業用ロボットの年間出荷額、国内稼働台数ともに世界一のロボット大国である。2013年の国内ロボットメーカーの出荷額は約5,400億円であり、その大半が製造業向け産業用ロボットとなっている(図122-32)。特に産業用ロボットについては、輸出向け比率が急増しており、出荷額の67%が輸出に回っている。日本企業は産業用ロボットの世界シェアトップを長期にわたって維持しており、2013年のシェアは4割程度となっている(図122-33)。

図122-32 産業用ロボット出荷額の推移

図122-33 世界の産業用ロボット市場規模と日本企業シェア推移

産業用ロボットの世界市場は金額ベースで直近5年間に約60%成長している。特に中国市場は直近10年間で32倍と急速に拡大しており、今後中国市場における競争激化が見込まれる。

工作機械業界同様、ロボット業界においても競争力のあるユーザー、メーカー、サプライヤーが国内に集積していることから、国内でロボットを生産し海外に輸出する体制が構築されてきた。一方でロボットは工作機械と異なり、中国における自動化ニーズ拡大等によって海外への出荷台数が急激に増加しつつあり、汎用ロボットにおいては中国での生産にシフトする動きもあり、国内生産比率は低下していくことが懸念される。

しかし、我が国はロボットの生産において世界一であると同時に、ロボットの活用においても今後、さらなる成長が期待される。具体的には、中小企業における産業用ロボットの活用や、医療や介護、農業といった多様な分野におけるロボット活用の拡大が見込まれる。我が国は、少子高齢化やインフラ老朽化等の社会課題に世界に先駆けて直面する課題先進国であり、こうした課題を解決するためにロボット利活用を進めるべきフロンティアを多く抱えているのである。また、日本人は伝統的にロボットの受容性が高いとも言われている。例えば、鉄腕アトムのようなアイコンの存在は、欧米と比べて人型ロボットへの抵抗感を小さくしているとも考えられ、その結果として、日常生活においても、Pepperのようなヒト型ロボットや家庭用の掃除ロボットなどの活用が進んでいくと考えられる。このように、様々な分野でロボットを活用し続けることで、我が国は世界一のロボット利活用社会だけでなく、世界のロボットイノベーション拠点となることを目指していく。

③「電子電機」

電子電機産業の地産地消・最適地生産の構図は、白物家電の高級機種は国内で生産し、それ以外の品種は海外で生産を行っており輸出は少ないというのが従来の姿であった。これに対し、先程国内回帰の部分でも述べたように、最近の円高是正などに伴って、逆輸入をしていた製品を国内生産へ切り替え、地産地消とする国内回帰の傾向が見られるようになってきた。他方、テレビや携帯などのいわゆる黒物家電においては、部品は国内生産している部分もあるが、基本的には海外生産が中心となっている。一方で、電子部品・デバイス産業の輸出額は着実に伸張している。

世界の市場規模と日系企業のシェアを見ても、「電子部品・デバイス」は比較的高いシェアを維持していることが分かる(図122-34)。「電子機器」市場においては、市場規模が相対的に小さい「AV機器」市場では依然として高いシェアを保っているが、「通信機器」や「コンピュータ及び情報端末」市場では十分なシェアを得られていない。

また、エレクトロニクス産業の主要10社の売上高と営業利益率を見てみると、「黒物」と「電子部品・デバイス」の売上高は約10兆円とほぼ同レベルであるが、営業利益率には大きな差があり、「白物」は営業利益は「黒物」ほど低くはないが売上高は半分以下であることから、「電子部品・デバイス」がエレクトロニクス産業の稼ぎ頭であることが見て取れる(図122-35)。

図122-34 世界の市場規模と日系企業のシェア(2013年)

図122-35 エレクトロニクス産業主要10社の売上高と営業利益率

このように同じ電子電機産業の中においても、状況が大きく異なっていることが分かる。特に現状の差が大きい「情報通信機械」と「電子部品・デバイス」の輸入浸透度と輸出依存度の推移を見ると、「情報通信機械」は輸入浸透度が2007年から高まっており2014年には50%を超えた。輸入浸透度の前年比を要因分解してみると、輸入浸透度の上昇には、「国内減少要因」が「輸入増加要因」を上回り寄与していることが見て取れる(図122-36)。

また、国内メーカーはOS・ハードなどを全て独自設計する自前主義や垂直統合などにより、グローバルな水平分業体制への変化に対応が遅れ、急拡大したスマートフォン市場で国内メーカーは厳しい状況を強いられているのも大きな要因の1つと考えられる。

一方で、「電子部品・デバイス」は輸出依存度は微減傾向ではあるが、2014年も32.4%と輸入浸透度との差は大きい。出荷指数を見ても、2012年から大きく拡大しており、特に国内向けの需要が特に伸びていることが見て取れる(図122-37)。

図122-36 情報通信機械の輸入浸透度と要因分解

図122-37 電子部品・デバイスの輸出依存度と出荷

これまで分析してきたように「電子部品・デバイス」が電子電機産業を牽引しているが、その中でも特に電子部品は国際競争力が高く、今後も成長が見込まれる分野である。電子部品の世界シェアは高く、コンデンサなどは特に高いシェアを確保している。先程も述べたとおりスマートフォンは国内でもシェアが低い状況ではあるが、国内外を問わずスマートフォンの多くに日系メーカーの電子部品が使用されている。これは、一般論として、同種の製品について多くの顧客と取引してノウハウを蓄積すると共にニーズをつかみ、また、スマートフォン以外にも多種多様な製品向けに部品を供給してリスクを分散できていることなどが理由として挙げられる。

元々高い技術力を持っている日系メーカーには、その要素技術を活用して世界で市場が伸びている製品群に活用できる部品を展開することが求められる。海外の電子部品メーカーも技術力を上げつつあるが、現在優位にある日系メーカーは、ユーザー企業と開発段階から関わることで将来のニーズをいち早くキャッチし、常に技術革新をリードすることで競争力を保っていくことが重要である。

コラム:首都圏から熊本へ技術者が移動し、開発と生産が一体となって世界初の裏面照射型CMOS
イメージセンサーの開発に成功、地域経済の要となる存在へ・・・ソニーセミコンダクタ(株)

ソニーセミコンダクタ(株)(熊本県菊陽町)は2001年にソニー国分、ソニー大分、ソニー長崎の3社が合併してできたソニーセミコンダクタ九州にソニー白石セミコンダクタやルネサス山形セミコンダクタが統合され、ソニー商品の性能を左右する半導体や画像処理センサーなどの生産を手がけている。2001年に設立された熊本テクノロジーセンターでは、デジタルスチルカメラや一眼レフカメラのCCDやCMOSといったイメージセンサーなどが生産されている。当初、九州に限らず、東北なども視野に生産展開先を検討していたが、新工場立ち上げを支援する鹿児島テクノロジーセンター(旧ソニー国分)に近いこと、熊本県が半導体関連産業の誘致に非常に熱心であったこと、水資源が豊富で交通アクセスも良かったこと、熊本県などから優秀なエンジニアが確保できることも決め手となり、熊本県菊陽町のセミコンテクノパーク(工業団地)が選ばれた。現在、熊本テクノロジーセンターのエンジニアの過半数は熊本県内出身者である。

一方で、リーマンショックが発生した2008年にソニーはプレイステーション向けなど先端MOSロジックLSIの単独生産から撤退し、東芝と高性能半導体の生産合弁会社を設立した。同時に最先端のMOSロジックプロセス開発は中止し、ソニーの技術者に猛烈な危機感をもたらした。折しも、従来比2倍の高感度と低ノイズという裏面照射型CMOSイメージセンサーの開発、量産化技術を確立させるため、ソニー本体の研究開発機能を熊本テクノロジーセンターに移管し、約170名の開発メンバーを熊本に呼び寄せ(ソニーセミコンダクタに出向)、半導体スペシャリストの技術者集団が生産現場に入り込み生産現場と一緒になって量産化技術の確立にこぎ着けた。それらエンジニアには最先端MOSロジックの開発に関わった方が多かったと聞く。通常は生産現場にこれほど多くの開発エンジニアが配置されることはほとんどないという。当初技術者も困惑していたものの、「厚木で開発していたら世界で勝てない、現場(熊本)と一緒にやろう」という経営トップの判断の下、熊本に技術者を集結させた。結果的にこれが奏功し、生産現場と一体となった開発によって短期間で量産化にこぎつけた。

裏面照射型から進化した積層型CMOSイメージセンサーの需要拡大に対応するため、ソニーグループでは2015年度(発表ベース)には長崎テクノロジーセンター(約1,280億円)、熊本テクノロジーセンター(約170億円)、山形テクノロジーセンター(約425億円)の国内3拠点に総額1,875億円の大規模設備投資を行う。最も大規模な投資が行われる諫早市には、既に設備メーカーなどの関係者が集まり、宿泊施設はほぼ満室なところも多く飲食店も活気が出ているという。国内拠点維持が難しくなっていた半導体事業に危機感を強め、開発と生産が一体となって裏面照射型CMOSイメージセンサーの量産化に成功したことがトリガーとなり、熊本を起点に、長崎、山形と、地域経済の活性化を生み出す好循環につながっている。

熊本テクノロジーセンター

長崎テクノロジーセンター

資料:ソニーセミコンダクタ(株)

 

④「航空機」

(ア)高付加価値産業としての航空機産業とその産業構造

航空機産業は、高い性能要求、高い信頼性要求の観点から、厳しい技術的要求を満たすことが求められる。その結果、航空機における技術発展は、機械、電気、電子、素材等の分野の技術的な発展を促し、こうした他産業への技術波及を通じ、我が国製造業全体の更なる発展に貢献している。

一方、我が国航空機産業(民間)は、防需を通じて技術を獲得、向上させ、機体・エンジンの国際共同開発を通じ、1980年代から大きく発展(図122-38)、今後も、ボーイング737や787、エアバス320等の増産及び国産旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)の量産開始等により、大幅な売上増加が見込まれる。

図122-38 日本の航空機生産修理実績と民需比率の推移

しかしながら現状において、我が国航空機関連企業は、機体分野では、ボーイングやエアバスといった完成機メーカーの製造パートナー(部品サプライヤー)、エンジン分野ではGE、Pratt & Whitney(P&W)及びRolls-Royce(RR)の製造パートナー(部品サプライヤー)として位置するに留まっており、完成品メーカーとはなっていない。また、装備品(電子機器、油圧機器、内装品等の航空機の内部構成品)分野においても、欧米メーカー(United Technologies corporation(UTC)グループやSafranグループ等)の部品サプライヤーとして位置している(図122-39)。こうした我が国の航空機製造業の産業規模は、現在約1.5兆円強で、米国10分の1以下、国内で見た場合、自動車産業の30分の1以下となっている。

図122‒39 航空機関連産業の構造

こうした背景には、日本国内に長らく完成機メーカーが不在であり、必然的に、欧米メーカーの傘下に入る形にならざるを得なかったことがある。また、産業構造の特色として、初期投資コストが極端に高い一方、完成機の製造ロットが小さいために(B787やB777といった中大型機で月産10機前後、B737といった小型機で月産40機前後)、投資回収にかかる時間が長いハイリスク事業である点や、新機種開発やモデルチェンジのタイミングが自動車ほど頻繁にはないため、参入機会が限られているという点が挙げられる。さらに、安全規制への対応のため、装備品及び部品については、耐空性・安全性について十分保証されたものでなければ使用することができないこと、製造者に対して厳格な品質管理及び品質管理システムの認証取得が求められることに加えて、信頼を勝ち得たサプライヤーからの乗り換えが起こりにくいことが挙げられる。

こうした参入障壁の高さは、大きな先行者利得の長期間の継続を意味する。例えば、完成機メーカー向けに主翼、胴体等の機体構造部品を納入する我が国の重工メーカーは、30年以上継続して完成機メーカーとの取引を継続している上に、製造分担割合を継続的に上昇させてきている(B767の機体構造の約15%、B777の機体構造の約21%、B787の機体構造の約35%)(図122-40)。また、エンジンについても、小型機向けのV2500エンジンにおける国際共同開発への参加を皮切りに、各重工メーカーは継続的にエンジンの国際共同開発に参画、参画レベルを向上してきている。

今後、世界の民間航空機市場は年率約5%で増加する旅客需要を背景に継続して増加する見込みであり、今後20年間の市場規模は約3万機・4~5兆ドル程度と、現在と比較してほぼ倍増する見通しで(図122-41)、これに伴って、我が国からの航空機生産額や航空機部品輸出は増加しており、特に輸出は2014年には対前年比30%の大幅増となっている(図122-42・43)。

図122‒40 ボーイング787の製造分担割合

図122‒41 ジェット旅客機の運航機材構成予測

図122-42 我が国の航空機生産額の長期推移

図122-43 我が国の航空機部品輸出額の推移

今般、世界的な需要増加に対応した量産規模の増大に対応しつつ、さらには、新たな開発のスタートも重なり、各重工メーカーにおいては、国内を中心に積極的な設備投資を行っている。航空機産業は、高い技術力に基づく高い信頼性を要求されるため、重工各社は専ら技術や人材が集積している国内で生産を行い、完成機メーカーへの輸出を続けることが予想される。

現在、輸出額全体に占める航空機部品輸出額の割合は0.8%と小さいが、直近10年で約4.4倍に伸びている分野であり、今後も長期にわたって着実に輸出額を増加させることが見込まれる点において、航空機製造業は注目すべき分野と言える。他方で、航空機向けの素材メーカーに目を転じると、完成機メーカーによる素材サプライヤーの誘致活動も行われており、例えば炭素繊維等のメーカーには、主にコストと摺り合わせ技術の必要性の観点から、欧米の組み立て工場との近接性を重視する傾向も見られ始めているほか、ホンダジェットに降着システム(ランディングギア)を供給している住友精密工業(株)のように、認証というハードルを越えるため北米に進出している事例もある。

(イ)完成機事業と今後の展望

三菱重工(株)は2008年に三菱航空機(株)を設立し、三菱リージョナルジェット(MRJ)により、60~100席の短距離路線用のリージョナル・ジェット市場に参入することを決定した。すでに6航空会社から400機以上の受注を得ており、2015年に初飛行を予定しているが、エンジンや装備品といった、多くの重要かつ付加価値の高い部品を輸入に頼っている状況である。航空機産業にとっては、完成機事業が成長の原動力であり、今後、我が国航空産業の裾野拡大のためにも、完成機の開発・製造で得た経験も踏まえ、とりわけ我が国の装備品メーカーを育成していくことが重要である。

また、本田技研工業(株)の航空機事業子会社(米国)であるホンダ・エアクラフト(株)が、2015年に初号機納入を予定している小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」では、エンジンと機体両方の開発に取り組み、エンジン事業におけるGEとの合弁なども手法も活用しつつ、米国連邦航空局(FAA)による認証も乗り越えた。

MRJ、ホンダジェットともに、初めての開発として、生みの苦しみを十分に経験しており、今後、日本メーカーが主導する旅客機の開発をさらに進めていくに当たっては、この蓄積や、MRJの審査を通じ更なる拡充が図られる我が国の認証体制を最大限活用することで、展望が開けてくるものと考えられる。また、完成機の外国への輸出を円滑化するなど、完成機事業を支える事業環境をより一層向上させるため、米国・欧州等との航空安全に関する相互承認が充実することも期待される。

航空機全体としての完成機事業が成長するためには、ものづくりの面だけではなく、自動車とは比較にならないほど多く、かつ高品質が求められる部品サプライヤの管理を的確に行う事業の高度化に加え、ユーザーである航空会社に安定した運航を保証するためのアフターサービス網の構築や航空会社へのファイナンスメニューの提供といったサービス分野にも広がる総合産業となっていく必要がある。それには非常な困難が伴うが、今後、我が国航空機産業がさらなる飛躍を遂げるためには、完成機事業が成長の原動力となり、これまで素地を築いてきた機体部品、エンジンに加え、装備品における完成品メーカーを育成し、また、関連素材、関連サービスといった航空機関連産業全体のレベルアップと成長を牽引していくことが期待される。

コラム:航空機MRO事業の活性化

航空機は高い安全性を長期にわたって確保する必要があり、MRO(航空機の整備・修理・オーバーホール)は、航空会社にとっては乗客への責任として、不可欠なものである。また、航空機メーカーにとっても、顧客(航空会社)への責任であると同時に、部品寿命が相対的に短いエンジンや装備品分野の完成品メーカーにとっては、長期的に重要な収益源となっている。

近年、航空分野の自由化に伴う格安航空会社(LCC)の台頭や、年率5%で増加する旅客需要の増加を受けた世界的な航空機の運航機数の増加によって、航空機MRO市場は年々拡大するとともに、世界的に大規模なMRO事業者が誕生してきている。

他方で、これまで我が国では、海外のMROと比較して、大規模なMRO事業は成立していなかった。その理由は、人件費や施設費、土地代が高いといった理由のほか、製造業としての航空機やエンジン、装備品の完成品メーカーが長らく不在であったことにあると考えられる。

こうした中、国産旅客機であるMRJの開発によって、三菱航空機(株)が完成品メーカーとしての地位を得ることになる。MRJのローンチカスタマー(最初の顧客)であるANAは、三菱航空機と連携し、政府、沖縄県の支援を得て、那覇空港に新たに航空機のMRO拠点を整備することとなった。アジア地域におけるMRJやA320といった小型機の整備拠点として国内外の需要を取り込み、沖縄の経済活性化に加え、MRJと相まって日本の航空機産業の成長の底上げに繋がることが期待されている。

また、(株)IHIは、従来から航空機エンジンの国際共同開発に参画し、完成品メーカーの重要なパートナーとしての地位を占めてきた。そのことにより、V2500を始めとするエンジンの整備市場に参入することができ、競争力のあるMRO事業を展開してきた。V2500の後継となるPW1100G-JMなどの新たなエンジン事業への参画や、IoTを活用したエアラインとの整備データの共有など更なる事業の拡大が期待される。

国内に競争力のあるMRO事業が成立することは、航空会社に裨益するだけでなく、メーカーにとっても事業の裾野拡大や研究開発へのフィードバックの観点から事業の高い相乗効果を持つ。また、アップグレード需要にも視野を広げれば、より高い航空機産業の成長に繋がる。そのため、日本国内での競争力あるMROの発展に向け、メーカー、航空会社と政府のさらなる連携が求められる。

コラム:航空機の材料技術・加工技術における競争力強化(KUMADAIマグネシウム等)

マグネシウムは、比重がアルミニウム合金の約3分の2と軽いため、機体重量が燃費に対して大きく影響する航空機に適した材料と目され、現在の航空機の主要材料であるアルミニウム合金に部分的に取って代わることが期待されていた。しかし一般的に、マグネシウムはアルミニウム合金と比べて、①発火しやすい、②強度が低い等の課題があり、航空機材料にマグネシウムが適用されるためには、これらの課題の解決が必要とされている。

こうした中、熊本大学で開発されたKUMADAIマグネシウムは、軽量というマグネシウムの特長を残しつつ、発火しやすいという課題を克服し、さらに強度が従来のアルミニウム合金を超える素材として、有望な材料となっている。また、日本発の材料であるため、国内で川上(材料)から川下(加工)までのサプライチェーンを構築することで日本の航空機材料の競争力強化を実現できる可能性がある。その実現に向け、経済産業省の研究開発プロジェクト等で、材料開発(合金開発)・加工技術開発を行っている。

また、KUMADAIマグネシウムを採用する可能性のある企業として、米国ボーイング社と平成26年5月より共同研究を行っており、実用化の道筋をつけながら開発を進めている。

また、同様に、加工プロセスまで視野に入れた競争力強化を踏まえて、海外の完成機メーカーと連携を進めながら研究開発を行っている例として、東京大学で行われているCMI(Consortium for Manufacturing Innovation )の取組がある。

CMIは、日本の航空機メーカーが共通して抱える課題であるチタンや複合材料等の難削材(切削加工が困難な材料)を高効率で切削する等、加工生産性の向上に寄与できる技術開発に着目し、実際に加工を担う企業や工作機械、工具、切削油等のメーカーが参加し、さらにこれまで現場で実用化されることが少なかった大学での切削理論を企業の生産活動に応用することで、生産の現場と直結する形で課題解決に取り組んでいる。CMIの取組においても、実際に開発された技術をスムーズな実用化につなげるため、三菱重工、川崎重工、富士重工等の我が国の航空機関連メーカー、東京大学が、完成機メーカーである米国ボーイング社と連携して研究開発を行っている。

高温でも発火しないKUMADAIマグネシウム合金

資料:JSTサイエンスニュース

⑤「鉄鋼」

「鉄は国家なり」という言葉を引くまでもなく、鉄鋼は一国において他産業の基盤となる産業であり、たとえば金属製品の90%以上に鉄が使用されている。また、自動車に次いで我が国で第2位の輸出品目であり、2014年の輸出額は約4兆円、我が国輸出総額の5.4%を占める。国内出荷分の産業別鋼材使用量は、建設48%、自動車22%、造船9%、産業機械6%、電気機械4%となっている(図122-44)。

高炉一貫製鉄所の設備投資に要する費用は巨額であり、かつ、稼働後は生産量を柔軟に調整することができない。そのため、現在の国際的な過剰供給構造、それによる鋼材価格の低迷等を考慮すれば、海外に高炉一貫製鉄所を新規に単独で立ち上げることは当面現実的ではない。一方で、中長期的に内需の大幅な伸びが見込めないことから、国内で上工程の大きな能力増強を行うことも期待しにくい。

近年、国内の粗鋼生産量は1億1,000万トン前後で推移しているが、近隣国では中国と韓国が急速に生産量を拡大し、両国の内需の減少とも相俟って、両国から各国への輸出が大幅に増加し、通商摩擦が増加している(図122-45・46)。

こうした状況の下、国内の高炉各社は、規模の拡大を図る近隣国メーカーとは異なり、価格競争力等強化のため、生産量を維持しつつ生産拠点を集約するとともに、集約先設備などの国内生産基盤の強化を行う取組を進めている(図122-47)。また、特殊鋼電炉メーカーも、品質向上等のため国内で積極的な設備投資を実施している。

図122-44 産業別に見た鋼材使用量

図122-45 中国・韓国企業の生産能力と国内消費

図122-46 アンチ・ダンピング措置(2015年3月末時点)

AD調査国 被調査国(アジア)
タイ 中国 7件、 台湾 3件、韓国 2件、 越 1件
マレイシア 中国韓国4件、尼 2件、 台湾 1件
インドネシア 中国 4件、韓国台湾 3件、日本、越、タイ、馬 1件
ベトナム 中国台湾、尼、馬 1件
インド 中国韓国3件、馬 1件
中国 日本 1件
台湾 中国韓国 1件
米国 中国5件、 韓国 4件、台湾 3件、印、日本 2件、 タイ 1件
カナダ 韓国 5件、中国、印 4件、泰、尼 3件、台湾、比、越 2件、日本 1件
メキシコ 中国6件、 韓国 1件
コロンビア 中国 2件
ペルー 中国 1件
ブラジル 中国 7件、韓国台湾 3件、 越 1件
豪州 中国韓国台湾 6件、日本、タイ 4件、馬 3件、尼 2件、印、越 1件
EU 中国 6件、印 4件、台湾 2件、韓国、日本 1件
ロシア 中国 3件
トルコ 中国台湾、馬、越 1件

備考:2011年以降に調査開始されたアンチ・ダンピング措置。

資料:日本鉄鋼連盟資料より経済産業省作成

図122-47 高炉各社の設備集約の動き

資料:各社ホームページより作成

製造業の海外生産拠点拡張に伴い鋼材の輸出は増加傾向にあり、2014年は粗鋼生産量の約4割(4,200万トン)を輸出している。同時に、溶融亜鉛めっきなどの下工程については、顧客である日系自動車メーカーからの現地生産の要請に基づき、積極的に海外での投資を行っている。現地化要求等が年々強くなる中、母材を国内で生産し、一部の最終工程を海外で実施するというモデルが将来にわたって定着するのか、注目される。

地産地消型で日本国内で鉄スクラップのリサイクルを担う普通鋼電炉メーカーは、現在のところ国内での外国材との競合はまだ僅かであるものの、設備稼働率が低く、電力料金の大幅値上げ、中長期的な建設需要の減少等の課題に直面している。2014年前半に3社が事業撤退を行ったが、同業他社との提携、製鋼工程の集約、不採算事業からの撤退など、価格競争力や収益力の強化を図るための取組も一部で進められている(図122-48)。

図122–48 普通鋼電炉メーカーの近年の主な動き

備考:都道府県名は工場所在地。

資料:各企業ホームページ、プレスリリースより作成

⑥「化学」

化学産業の特徴として、エチレンセンターではナフサから複数の石油化学基礎製品が連産される構造であり、例えばエチレンが約3割に対してプロピレンが約2割生産されることから、その構造に応じて石油化学誘導品の生産体制も整える必要がある(図122-49)。また、石油化学基礎製品は配管で別工場に供給することが最も効率がいいことから、ユーザーの近くにエチレンセンターを設置することが求められ、地産地消が基本である。

図122–49 化学産業の構造

資料:経済産業省作成

このような産業構造において、業界で生き残っていくためには、メーカー各社それぞれが競争力を有する分野を持っていることが重要である。汎用化学品において技術やノウハウにより競争力を有している分野もあるが、機能性化学品において高いシェアを有する分野も多く存在している(図122-50)。

図122–50 我が国化学メーカーが競争力を有する分野の事例(リチウムイオン電池)

資料:経済産業省作成

各社の強みを活かすためには、エチレンセンターをある程度国内に維持していかなくてはならない。現在は、中国では需要に対してエチレン生産量が追いついていないこともあり、我が国国内で使用しきれないエチレンやその誘導品を中国へ輸出している。しかし、今後、米国や中東の安い原料から生産された化学品が中国に入り、エチレン等の輸出が厳しくなる恐れがある。一方で、エチレン等の生産量を減らすと強みのある機能性化学品の原材料を供給できなくなる可能性もある。

また、コンビナートはエチレンセンターを中心に形成されており(図122-51)、各地域にエチレンセンターがなくなると、周りの産業にも影響が出ることになる。

さらに、このような状況において国内需要が減少することを加味すると、2012年の生産量が610万トンなのに対し、2020年には470万トンほどまで減少する可能性はあるが、上記の理由から、国内産業としてある程度の規模は残す必要があると考えられる(図122-52)。

このように強みと規模をバランスよく持ち続けることが求められ、そのためには競争力を持った高機能素材の開発が重要となる。

図122–51 エチレンセンターの立地

資料:経済産業省作成

図122-52 国内のエチレン生産量

⑦「繊維」

繊維は、かつては我が国経済を支えた産業であり、その後、貿易摩擦やグローバル化の洗礼を最も早く受けた産業である。そのうち海外展開が徹底的に進み、今では基本的には、利益率が高ければ国内、低ければ海外という棲み分けが明確であり、生産において汎用品は海外、先端素材を含む高付加価値品は国内で行っている。また、技術流出防止などの観点から研究開発は国内に残っており、デザイン・企画についても安全・安心や品質面において厳しく評価する消費者の存在もあり国内で行っている。このような傾向が全体的にはあるが、同じ繊維業においてもアパレル製品と炭素繊維では大きく環境が異なるため、別々に分析をする。

(ア)アパレル製品

アパレル製品は、日本から生地を輸出して、縫製して輸入をする日本企業の持ち帰りビジネスが多いことで、輸入浸透率や逆輸入比率が極めて高くなっていると考えられる(図122-6参照)。特に縫製工程は大量生産・人件費削減による低コストの追求が大命題であり、東南アジアから南アジアへと、安く豊富な労働力を求めて我が国アパレルメーカーは次々と生産拠点を移している。実際、繊維製品の輸入元シェアトップが中国であるのに変わりはないが、2009年以降急激にシェアを落としており、逆にベトナム、インドネシアやタイ、さらにはバングラディッシュやミャンマーのシェアが増加している(図122-53)。一方で、衣料品のライフサイクルが短期化し、多品種少量生産の傾向が高まってきていることにより、素早く、臨機応変に対応ができる国内に生産を切り替える動きも見られ始めている。こうしたトレンドを踏まえれば、オーダーメイド生産等顧客ニーズに応じた柔軟な生産への対応を進めるとともに、縫製の自動化などの技術開発を進めることにより、今後アパレル産業の国内生産基盤を強化していくことも可能と考えられる。

また、メイドインジャパンの繊維製品をブランド化する動きも広まっており、多品種少量生産への対応に加えて、質の良いアパレル製品の提供や接客を重視しているなどサービスとの融合度が高い製品などは国内で事業継続していく可能性もあり、そのようなビジネスモデルの構築が急務となっている。

図122-53 繊維の輸入国の変化

重点領域 設置場所 設置時期(公表時期)
中国74.0%79.0%67.6%
ベトナム2.5%3.8%8.1%
インドネシア1.9%1.6%3.7%
イタリア4.9%2.8%2.7%
タイ1.6%1.5%2.2%
バングラディッシュ0.1%0.4%1.8%
ミャンマー0.2%0.5%1.5%
韓国2.2%1.7%1.4%

備考:金額ベース

資料:Global Trade Atlasより作成

コラム:アパレル業界における国産表示制度 ~J∞QUALITY~

我が国の消費者は、世界的に見ても商品に対し非常に厳しい目をもっており、安価でありながらも、安全・安心・高品質な商品を求めている。一方、我が国のアパレル企業や小売事業者は、自らの商品のこだわりや商品にまつわるストーリーを消費者に伝えることができておらず、また製造事業者も製品の魅力や特徴を十分に発信することができていない。

こうした状況の中、2013年夏頃より、(一社)日本ファッション産業協議会が、高品質な国産品をプロモートするため、新しい表示制度の在り方について検討を開始し、2015年1月に織り・編み、染色、縫製の3工程を日本国内で行っているアパレル製品を対象として、企業から申請のあった商品に対し、認証ラベルを付す 「J∞QUALITY認証事業」を運用することを決定した。なお、経済産業省も、制度設計や運用体制の整備の議論に参画した。国内外の消費者に対して国産品の魅力・価値を分かりやすく情報発信することで、「J∞QUALITY」が、消費者が高品質で感性豊かな商品を選ぶための一つの指標になることが期待される。

本事業は、2015年2月から申請受付を開始しており、7月から認証商品が市場に投入される。

コラム:一流の技術を持つ地方の工房をメイドインジャパンの顔となるブランドに~日本初のファクトリーブランド専門のファッションブランド「ファクトリエ」を立ち上げる・・・ライフスタイルアクセント(株)

日本には欧州の有名アパレルのOEMを手がける工房がいくつもありながら、日本国内におけるアパレル製品の国産比率は僅か3パーセントしかない。しかも、国内のアパレル工場は過剰な原価抑制を強いられ、倒産や人員削減が続き、このままではメイドインジャパンの技術が途絶えてしまうという危機感を背景に、ライフスタイルアクセント(株)(熊本市)は全国から厳選した20の提携工場(2015年5月現在)がつくる国産衣料品のみを扱うブランド「ファクトリエ」を2012年に立ち上げた。商品は主にネット通販で提供している。

ファクトリエの商品には生産した工場の名前がブランドとして入る。そして、工場に価格決定権を持たせている。しかも、「配達まで約1週間いただく」「送料もいただく」「返品は受け付けない」「セールもしない」「完売したら終わり」という一般的なファッションブランドやECとは真逆の条件で商売している。「ものづくりの価値は作り手にある」という考えの下、工場が適正利益を得られるしくみとする一方、提携工場には「原材料にも妥協せず、思いっきりいいものをつくろう」と呼びかけ、ものづくりを極めてもらう。ファクトリエなら工場と消費者がダイレクトにつながるので、思いっきりいいものをつくっても市場価格の半額くらいで売ることができる、だから必ず顧客はいる、と考えた。

ライフスタイルアクセント(株)の山田社長は、ものづくりの工場が生き残るには、各工場が自社ブランドをつくり、自分たちの「顔」をつくるべきで、日本にもファクトリーブランドが必要だと主張する。そして、顧客に迎合するのではなく、新たな価値の提供による顧客創造、市場創造こそが必要だと考えている。

2014年12月に、ファクトリエで販売している商品を実際に手にとって試着もできるフィッティングスペースを銀座に開設した。わかりにくい場所にあるにもかかわらず、5ヶ月足らずの間に1,500人もの来店者があり、しかも半数の客はその場で商品の購入を決めて申し込みをし、1着10万円のトレンチコートが1週間で100着売れて完売した。口コミとリピーターで、売上げは前年の4倍規模にまで拡大している。しかも、顧客の大半はこれまで通販で衣類は購入したことがなかった顧客層である。ファクトリエは、妥協しないメイドインジャパンの品質や、ファクトリーブランドといったストーリー性に共感する新たな客層を確実に掘り起こしている。

ファクトリエは地方のアパレル工場にも元気を生み出している。ファクトリーブランドとして名前が出ることで、地元での知名度も上がり、適正利益を得られるビジネスモデルなので新規採用にも踏み切ることができる。実際、ファクトリエが提携している工場の約半数で雇用が生まれており、10年ぶりに2名以上を採用した工場もある。提携工場の見学ツアーなども実施し、顧客には生産現場を実際に見てもらい、工場の働き手には顧客の反応を目にすることでモチベーションを上げてもらう。

今後は海外への販路拡大にも力を入れ、世界に通用するメイドインジャパンのファクトリーブランドへと育てていく。

ファクトリエのビジネスモデル

銀座にオープンしたフィッティングスペース

資料: ファクトリエ

 

(イ)炭素繊維

化学繊維の用途の2000年度から2013年度の変化を見てみると、「衣料用」は減少傾向にあり、一方で自動車や航空機など向けの「産業資材用」が26%から33%へと大きく増加し、カーペットやカーテンなどの「家庭・インテリア用」も増加している(図122-54)。

図122-54 化学繊維の用途の変化

化学繊維の中でも特に炭素繊維は、開発の継続的実施などによる技術力の高さや、高性能、品質安定性などの面から我が国が産業競争力を持つ代表例の1つであり、国内メーカーが世界の炭素繊維(糸)のシェアの約60%(2013年)を持っている(図122-55)。今後の市場規模予測を見ると、2014年は約1,800億円なのに対し毎年20%程度の拡大が継続するとされており、2020年には4,000億円を超える見込みとなっており(図122-56)、国内生産や輸出はさらに増えると考えられる。

また、鉄の4分の1と軽く、鉄の10倍の強度を持つ性質などから、自動車や航空機などの軽量化や、エネルギー消費やCO2の削減に向けて各産業での活用が活発化している。今後、さらに高い品質が求められる航空宇宙分野などにおける世界需要も拡大が予想されるため、高性能・高品質な炭素繊維を生産することができる我が国の生産・輸出は増大する傾向にある。

このような先端繊維素材の開発には高い技術力が必要であり、国内に研究開発拠点・製造拠点があることが、国際競争力を維持していくのには重要である。

図122-55 炭素繊維の世界各社の生産能力(2013年)

図122-56 炭素繊維の需要及び市場規模予測

以上見てきたように、地産地消型産業や国内に強みがあり輸出が多い産業、また、国内の既存設備や産業集積を最大限活用していく産業など、それぞれ「国内に残す」分野は異なっているが、グローバルな最適地生産の流れの中、内需の供給と共に、時代の流れに遅れることなく、顧客のニーズに応えることのできる製品を高い技術力をもって開発し、研究開発拠点だけではなく生産技術や新しい技術を活用できる生産拠点は国内に残し、我が国が強みを持つ分野において輸出でも稼いでいくことが期待される。また、企業方針によって、国内へのこだわりが強い企業があることによって、現在の産業構造や国内集積が残っており、他産業への波及にも繋がっているが、今後世界的な流れに乗り国内から出ていく可能性も考えられる。これに対し、国内立地環境の整備を進め、今後も我が国に立地する製造業が世界をリードし続けるための基盤強化が必要である。

コラム:中堅・中小企業の国際展開:競争力の源泉は国内生産しつつ、幅広い顧客獲得を求めて需要地に海外展開

国内拠点と海外拠点の役割の差別化は、中堅・中小企業でも積極的に行われている。ジーンズのデニム生地を製造するカイハラ(株)は、2014年に同社として初めてとなる海外生産拠点をタイに設けた。進出のきっかけは、国内工場の生産能力が海外製造小売(SPA)からの注文に対応できなくなっていたことに加え、24時間稼働する同社工場の労働力確保が、国内の人口減少により困難になってきているといった事情がある。海外進出にあたっては、高い品質と新しい製品を求める顧客には国内生産で対応、汎用製品の生産は海外工場で行うといった役割分担を図っている。

主に自動車のオートマチックトランスミッションに搭載される湿式摩擦材を生産する(株)ダイナックスは、開発段階から顧客とのすり合わせが必要であり、当該顧客の現地生産が進展していることから自ずと海外展開が進んでいった。一方、摩擦材の母材である紙製品は同社製品の競争力の源泉であり、全て国内生産し海外生産工場に供給する体制となっている。

(株)フルヤ金属は、携帯電話部品等の素材となる単結晶製造に用いるイリジウム製の“るつぼ”を供給する世界トップシェアのメーカーである。原料から高純度イリジウムを精製する工程は付加価値の高い同社のオンリーワン技術であることから、同社は現時点で海外生産拠点は有していない。また、イリジウムの主要産出国である南アフリカの鉱山から資本参加を得るなど、顧客への安定供給体制確保に努力している。

これらの3社は、特定の分野でグローバルに高いシェアを持つグローバルニッチトップ企業であるが、海外展開の形態に差異は存在するものの、いずれも製品の競争力の源泉となる技術は国内に残す一方、海外での活動と一体となって競争力を維持している点で共通している。換言すれば、基幹技術を国内に起き、技術のブラックボックス化を施した上で、原料調達や顧客満足向上のための海外展開を行っている。長期的には縮小が見込まれる我が国製造業のあるべき姿の1つではないだろうか。

カイハラ(株)のデニム

(株)ダイナックスのディスク

(株)フルヤ金属のイリジウムるつぼ

(3)海外展開と海外利益還元促進

地産地消や最適地生産の流れは変わらず、国内市場は縮小傾向にあり海外市場は拡大していく中で、海外拠点の今後の役割はさらに拡大していくと考えられる。これまで述べてきた国内に残すべきもので国内の製造業を維持・発展させていくと同時に、海外でも稼げるビジネスモデルを確立し、経済の好循環化に繋げていくことが求められる。

①海外展開の拡大

これまで述べてきたように、海外展開は拡大傾向にあり、海外生産比率も向上してきた。今後3年間の海外拠点の見通しを尋ねてみても、海外売上においてはどの業種も約6~7割が増加を見込んでいる。海外営業利益は海外売上より少し増加の割合は減るものの、約半数が増加、約3割が横ばいと見込んでいる。

また、海外設備投資の見通しは、「輸送用機械」と「鉄鋼業」は増加との回答が7割を超えており、今後も積極的な設備投資を継続していく方向性が見て取れる。一方で、海外での研究開発の見通しは、横ばいという回答がどの業種も一番多く、増加と回答しているのは一番多い「輸送用機械」でも36.0%に留まっている。

海外従業員数の見通しにおいては、「鉄鋼業」では73.3%が増加を見込んでおり、減少との回答はなかった一方で、「電気機械」は43.5%が増加、15.2%が減少、「一般機械」は46.9%が増加、6.8%が減少となっている。海外生産能力の見通しも「鉄鋼業」は87.5%が増加と回答しているのに対し、「電気機械」は58.0%、「一般機械」は52.9%の増加となっており海外従業員数の見通しと同様の傾向が見られる(図122-57)。

このように、海外製造拠点の役割は今後も拡大が見込まれており、特に「輸送用機械」や「鉄鋼業」においては、海外展開の規模を拡大していく傾向が他業種より強いことがうかがえる。

図122-57 海外拠点の今後3年間の見通し

海外拠点への移転を決定する要因について、市場要因をみると、大企業では「海外市場の拡大」を挙げる企業が最も多く、「取引先の海外展開」が続いている。中小企業も大企業と同じ傾向がみられ、「取引先の海外展開」、「海外市場の拡大」の割合が高く、拡大する海外市場に応じて、海外拠点を設けていくという地産地消の流れが継続していくものと考えられる。また、「人材の確保」に関して、中小企業は大企業の2倍程度高くなっており、国内における人材確保に対する課題が指摘できる。

続いて、環境要因をみると、企業規模にかかわらず「為替レート」を挙げる企業の割合が最も高く、「法人税の実効税率の高さ」が続いている。六重苦問題のうち、「為替レート」、「法人税の実効税率の高さ」は、先に述べたとおり、国内の立地競争力の強化の観点から重要な役割を果たしているが、企業の海外移転を決定する際にも大きな影響があると指摘できる(図122-58)。

図122-58 海外拠点への移転を決定する要因

上記のような要因で海外展開が決定されることになるが、海外生産拠点の移転や増設の際に考慮することと考慮しないことを尋ねてみると、考慮することとしては、「連結ベースの利益最大化」との回答が64.0%と最も多くなっている。その他にも、「国内生産の維持・拡大」が38.9%、「国内還流利益の拡大」が34.0%と続いている。一方で、考慮しないことととしては、41.2%が「輸出の維持・拡大」を挙げており、その後、「国内サプライチェーン(川下・川上)の維持拡大」、「国内雇用者の給与増加」が続いている(図122-59)。

これまでも述べてきたように輸出のみで稼ぐ構造は変化してきており、輸出の維持・拡大に重きを置くのではなく、地産地消・最適地生産の流れの中で海外展開を行い、連結ベースで利益最大化を目指していく企業の姿勢がうかがえる。

図122-59 海外生産拠点の移転・増設時に考慮すること

最も新しい海外生産拠点の新設・増強前後の国内拠点の変化を聞いてみると、ほとんど変化がないと回答している企業が最も多くなってはいるが、「国内取引先からの調達額の変化」と「国内生産量の変化」においては、減少が増加を10ポイント以上上回っており、「国内雇用数の変化」や「国内利益の変化」と比較して国内事業に与える影響が大きいということが分かる(図122-60)。

また、正規雇用者数が減少すると回答した企業が実際に行っている雇用調整としては、「新規採用を抑制した」が65.3%と最も多く、「希望退職を募った」が31.6%と続いているのに対し、「海外拠点への配置転換を行った」は10.5%に留まっている(図122-61)。

図122-60 海外生産拠点の新設・増強前後での変化

図122-61 正規雇用者減少時の雇用調整

海外拠点の新設や増強に伴う、①「海外から国内に還流させた利益(配当金やロイヤリティなど)」と、②「従来の国内生産で稼いでいた利益のうち、海外移転に伴う減少分」と「海外移転に伴い圧縮した人件費」の合計金額とを比較すると、「化学工業」は「②が多い」との回答が20.8%と最も少なく、「①が多い」が41.7%と海外展開した際に国内により多くの利益がもたらされると考えられる。「電気機械」や「金属製品」も「②が多い」より「①が多い」方が多くなっている。一方で、「鉄鋼業」においては、「②が多い」との回答が62.5%に上り、「①が多い」との差が大きい(図122-62)。

図122-62 海外拠点の新設や増強に伴う国内への影響

また、海外現地法人と国内法人の売上高経常利益率を比較すると、2008年を境に「海外現地法人」の方が高い利益率を得ていることが分かる(図122-63)。

さらに、海外現地法人の売上高計上利益率を業種別に見てみると、「化学」は6.6%、「輸送機械」は4.6%と平均より高くなっているが、「鉄鋼」は-1.0%と赤字になっており、「金属・非鉄金属」も0.4%と利益率が低くなっている(図122-64)。海外展開を開始してからの期間など、フェーズによる違いはあるにせよ、業種によって海外展開から利益を拡大できている業種とそうでない業種があることが見て取れる。

図122-63 海外現地法人と国内法人の売上高経常利益率

図122-64 業種別における海外現地法人の売上経常利益率

海外進出が継続して拡大していく一方で、為替環境や経済情勢の変化や経営悪化など海外からの撤退を余儀なくされる企業も存在する。「撤退は考えていない」企業が56.3%と半分以上を占めてはいるが、4割近くは「撤退または撤退の検討あり」と回答している(図122-65)。

また、海外からの撤退または撤退検討の際に直面した課題を聞くと、「資金回収が困難」が38.3%と最も多く、「現地従業員の処遇」が31.8%、「法制度・会計制度・行政手続き」が29.5%となった(図122-66)。海外進出をする際には、撤退する可能性があることも考慮し、進出先を決定する必要がある。

図122-65 海外からの撤退の検討

図122-66 海外からの撤退時、撤退検討時に直面した課題

コラム:海外展開先の事業再編のリスク

新興国の経済発展に伴う需要拡大などにより、大企業のみならず、中小企業の海外展開も加速傾向にある。一方で、海外展開を果たした企業のなかには、進出国・進出地域における人件費や物価の高騰と言ったビジネス環境の悪化や、新興国の台頭による新規市場の登場などにより、第三国・同一国内の別地域への移転や、進出国・地域からの事業撤退や縮小などの事業再編を行わざるを得なくなる企業も少なくない。中小企業庁は中小企業の海外展開における事業再編事例に関する事例集を取りまとめた。

海外に直接投資先を持つ中小企業が直面している事業運営上の課題としては、「現地人員の確保・育成・管理」や「人件費の高騰」、「採算性の維持・管理」などが挙げられる。また、「販売先のれる。

確保」を挙げた企業も多く、市場動向や顧客ニーズを把握しきれないまま、販路開拓、拡大が思うように進まず、販売不振に陥る企業も出てきているものと考えら

図1 海外における事業運営上の課題

事業運営上の課題を抱えている中、実際に事業再編を行った、または検討している主な理由は業績不振であり、その具体的な理由としては「人件費の上昇」が最も多く、次いで「パートナーとの不調和」、「主要顧客の販売不振」、「製品需要の低迷」などが挙げられた。また、海外現地法人の実質的な経営を任せた「パートナーの不正」が発覚し、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源を損失したり、現地経営者との信頼関係が著しく悪化したりしたために、事業再編を決断した企業もあった。

さらに、「品質の確保困難」、「新規事業の失敗」、「管理人材の確保困難」など、日本本社や海外現地法人自身に内在する問題を主な理由として挙げている企業もいくつかあった(図2)。

図2 事業再編を行った、または検討している主な理由

このように海外進出後に様々な課題に直面し、事業再編を余儀なくされる企業も少なくない。実際に事業再編を経験した経営者からその教訓を踏まえてどのような点に留意するべきか「進出前」、「事業運営上」、「事業再編時」に分けて取りまとめた内容を紹介する(図3)。

図3 事業再編の概要と留意点

資料: 中小企業庁「中小企業の海外事業再編事例集」より経済産業省作成

②国内への海外利益還流と障壁

海外子会社からの配当金やロイヤリティなどの収入は海外展開の拡大に伴い増加していることで、第1節で述べたとおり、直接投資収益を中心に第一次所得収支の黒字が拡大し、サービス収支の赤字は縮小している。これからも海外展開が継続して増加していく中で、海外で稼ぐ利益がさらに拡大していくことが見込まれる。

日本企業が海外で稼いでいる額はリーマンショックで大きく落ち込んではいるが、その後、2010年には2007年以前の水準まで回復しており、その後拡大を続けている。そのうち国内へ還流している比率を見てみると、約6~7割を国内へ還流し、残りの3割が海外への再投資に回ってる状況が近年続いている(図122-67)。

図122-67 海外で稼いだ利益の還元と再投資

国内に還流をしている日本側出資者向支払額の業種別推移を見てみると、2004年度においては「製造業」の比率が最も高く8割を超えており、その後減少傾向が続いていたが、2011年には底を打ち、2012年に再び62.5%に増えており、海外で稼ぎ国内へ還流する流れの多くは製造業で生み出されていることが継続していることが指摘できる(図122-68)。

図122-68 日本側出資者向支払額の業種別推移

今後の海外子会社からの収益の取扱方針を聞くと、これまでも半分以上が「国内への利益還元を優先」しており、今後はさらに国内還元させていく方向と回答している。逆に、「海外での利益保留を優先」との回答はこれまでの21.3%から今後は15.1%へ減少しており、利益を現地に貯めるのではなく国内外を問わず有効に活用していきたい様子がうかがえる(図122-69)。

図122-69 海外子会社における収益の取扱方針

また、国内へ還元した海外子会社からの配当金の使用用途の方針については、使用用途が未定で「分からない」との回答が一番多いが、方針が決まっている中では「研究開発、設備投資」が多く、短期的(今後1~2年)には19.2%、長期的(今後3~5年)には21.8%と高く、さらに研究開発や設備投資を増やして行く方針である(図122-70)。

海外展開により稼いだ利益を国内に還流し、研究開発や設備投資へ利用することにより、次の稼ぎ手となる製品を生み出すことに繋がることが期待されている。

図122-70 現地法人からの配当金の用途について

一方で、国内還元を妨げる障壁も存在する。国内還元が困難な理由を聞いてみると「送金規制がある」という回答が企業規模にかかわらず、約半数と最も多い。大企業は「国際的な二重課税の問題がある」が24.3%と次いでいるが、中小企業は「回収のための事務手続きが煩雑・分かりにくい」という回答が23.8%と2番目に多くなっている(図122-71)。海外における税制や税務当局側の執行の問題に加え、中小企業においては専門知識を有する人材の確保や海外の制度などに関する情報収集が厳しく、結果的に対応できていないことも、国内還流を妨げる要因の1つとなっている可能性がある。

図122-71 国内還元が困難な理由

コラム:グローバルな税務ガバナンス強化の必要性

日本企業が海外子会社と取引を実施する場合には、国際的な課税ルールに従うことが求められる。中でも、海外の関連企業との取引価格が通常の取引価格(独立企業間価格:ALP, Arm's Length Price)と異なる場合に課税する「移転価格税制」については、近年では多額の追徴課税事案も発生しており、今後はこのような国際的な課税問題も経営上の重要な課題の1つとして認識し、適切な対策を講じる必要がある。

移転価格課税を回避するためには、海外子会社の納税状況等の即時的な把握など、税務面でのガバナンスの強化が求められる。経済産業省が2014年9月に実施したアンケート調査によれば、日本親会社における税務部門が10名未満に止まる企業は過半数を占め、また実際に海外子会社の状況の把握についても不十分な面がある(図1)。

一方、国際的には多国籍企業の租税回避行為の防止のために国際課税ルールを見直す「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転)プロジェクト」と呼ばれる取組が2012年より進められている。本取組の一つとして掲げられている「移転価格課税の文書化」に係る報告書は、企業グループ全体に係る情報を記載した文書を親会社が作成し、それを各国税務当局に共有することを求めている。この点につき、経済産業省の研究会では、海外事業展開を行う日本企業にとっては、進出先国の税務当局による恣意的な情報の解釈や疎明のための事務負担の増大等が懸念されるとの意見があった。

今後、日本企業がこうしたルールの見直しに対応していく上では、グローバルな税務ガバナンス体制の強化が求められていくと考えられる。

図1 日本企業の税務部門の現状

コラム:新興国における課税事案

新興国に事業を展開する日本企業には様々なリスクが存在しているが、税務上では新興国に設立した海外子会社と日本親会社との取引に係る国際的な二重課税が問題となっている。

経済産業省が2015年2月に実施した、海外現地法人を有する日本企業に対するアンケート調査によれば、特に中国・インド・インドネシアにおいて数多くの課税事案が発生しており、またその主な課税の根拠は移転価格税制・PE課税・ロイヤリティであることが明らかになった(図1・2)。典型的な課税事案の例としては、以下のようなものがある。

・単純な受託生産を行っている中国子会社が、利益の源泉となる「無形資産」を有していると中国税務当局から指摘され、移転価格課税を受けた。

・自律的にビジネスを行っているインド子会社が、日本親会社のPEであるとインド税務当局から認定された。

加えて、新興国においては税務執行手続の面でも問題がある。例えば、頻繁な税制改正や遡及適用、事務手続きの煩雑さ、地域や税務担当官による見解の差異、救済措置の機能不全等が税務上のリスクとなっている。

企業の対応としては、進出先国に特有の税務リスクの把握、それを加味した上での事業計画や組織体制の検討、適切な文書管理等の事前の対策を講じることが効果的である。また、問題が生じた場合の適切かつ早急な対処法についても事前に定めておくことが望ましい。

図1 課税事案発生国(過去6年以内)

図2 課税事案の根拠(過去6年以内)

(※)Permanent Establishment、恒久的施設(支店、事務所、工場等の事業を行う一定の場)

(4)我が国製造業の「稼ぐ力」の強化に向けて

国内拠点の絶え間ない技術革新による高付加価値化・効率化を実現するためには、製造業のサービス化やIT・ビッグデータの活用などが必要である。これらの活用を通して従来にない付加価値を創ることで、稼ぐ力を強化していくことが必要である。そのためには、研究開発拠点の強化などを通じて技術力を高めることが求められる。海外生産拠点が拡大している一方で、研究開発拠点の多くは国内に残る傾向が見られ、2012年度の研究開発拠点数の割合は国内が96.5%となっており、2009年度から横ばいの状況が続いている(図122-72)。

また、事業規模別に海外に研究開発拠点を持っている割合を見てみると、「大企業」においては22.7%が海外に研究開発拠点がある一方で、「中小企業」は1.7%となっている(図122-73)。

図122‒72 国内/海外の研究開発拠点数の推移

図122-73 海外研究開発拠点の有無

このように海外に研究開発拠点を持っている企業は多くはないが、実際に研究開発拠点がある国としては、大企業は「米国」が57.1%と最も高く、中国の45.2%、ドイツやタイと続いていることから、先進国やアジアを中心に拠点を置いていることが見て取れる。一方で中小企業は「中国」が50.9%と研究開発拠点を置いている企業が一番多く、タイと米国が16.4%となっている(図122-74)。

図122-74 研究開発拠点を持っている国

米国と中国に研究開発拠点を設置する理由については、「海外市場の獲得」が一番多く、「海外の人材や情報の獲得」、「海外企業との共同研究の推進」と続いている(図122-75)。一方で、米国、中国において注目している技術領域を聞いてみると、「自動車」や「産業機械」は両国ともに高くなっているが、米国においては「医療機器」や「デバイス」が続いて高くなっており、中国は「素材・材料」が高いなど国ごとに注目している分野に特徴があることが見て取れる(図122-76)。

図122-75 米国、中国に研究開発拠点を設置する理由

図122-76 米国、中国で注目している技術領域

コラム:研究開発拠点として注目を集めるシンガポール

シンガポールは強固な研究開発能力を持つ知識集約型経済を目指しており、世界からも注目されている。特に①バイオメディカル・サイエンス、②環境・水技術、③双方向デジタルメディア、④クリーン・エネルギーといった分野を重要視しており、2010年2月に策定された新成長戦略では、高い技能を有する国民、革新的経済、特色あるグローバル都市が目標とされている。

現在シンガポールでは、アジア主要国の中でも香港に次ぐ低い法人税率(2012年時点において17%)を設定しているほか、日本をはじめ、米国、中国、豪州など13の国および地域とのFTAを締結しており、経済連携枠組構想を積極的に推進している。加えて、外資企業の誘致や産業振興を図る目的で様々な優遇措置を設けている(図)。

図 シンガポールにおける優遇措置の一覧

優遇措置概要
パイオニア・インセンティブ
(PC-M/PC-S:Pioneer Incentive)
パイオニア・ステータスの認定を受けた企業には、最長15年間にわたる法人所得税の免税措置が適用。経済開発庁(EDB)所管。パイオニア・ステータスは原則として政府の裁量により付与されるものであるため、EDBは、製品の種類、投資規模、技術レベルなどを主に考慮してパイオニア・ステータスの付与を判断。
地域統括本部制度(RHQ)地域統括サービスと認定される所得(経営、サービス、販売、貿易、ロイヤルテイ)の増加分に対して、最大5年に限り、15%の優遇税率が適用される。EDB所管。
国際統括本部制度(IHQ)IHQはRHQを超える事業を行う企業に適用。認定所得に対する優遇税率とその適用期間は、EDBとの協議によって、弾力的に決定・適用。
グローバル・トレーダー・プログラム(GTP)認定された石油製品、石油化学製品、農産物、金属、電子部品、建築資材、消費財などの国際貿易に携わる会社でシンガポールをオフショア貿易活動の拠点として位置付け、経営管理、投資・市場開拓、財務管理、物流管理の機能を有する会社に対し、特定商品のオフショア貿易による収益に対して5%または10%の軽減法人税率が適用。
租税条約シンガポールは69か国と租税条約を締結しており、シンガポールの地域統括会社は同租税条約の適用を受け得る。例えば、インドとの租税条約では、一部のキャピタルゲインへの非課税措置などが含まれており、シンガポール経由で投資することにメリットがある。
各種補助金クリーン・エネルギー、バイオメディカル分野などにおける各種補助金制度がある。

資料:(独)日本貿易振興機構

こうした取組を通じて、シンガポールはリーマンショック以降も堅調な成長率を維持し続けている。また、シンガポール経済を主導するのは政府系企業(GLC)と多国籍企業であり、周辺諸国に対して積極的な投資活動を展開している。

コラム:あらゆるものにロボット技術を活かし「移動の自動化、自由」という新たな価値の実現を目指す企業・・・(株)ZMP

(株)ZMP(東京都文京区)は、ロボットや自動車等の自動運転技術の開発を行う企業である。現在、自動車等の先進運転支援(ADAS)、自動運転技術開発用プラットフォーム「RoboCar」シリーズ及びセンサ・システムや物流支援ロボットの開発・販売等を手がけている。

同社は、2001年に家庭用の二足歩行の人型ロボットの開発をするため、谷口社長が1人で創業した企業である。2004年に、家庭用の人型ロボットを開発・販売した後、ロボットのコスト低減を図る過程で、好きな場所に音楽を運んできてくれる二輪の音楽ロボットを開発。この音楽ロボットがきっかけとなり、谷口社長は「移動の自動化」に大きな価値があることに気づく。

そこから、人を運ぶことへと発想を広げ、自動車等の自動運転技術の開発を強化していった。2008年に自動運転車「RoboCar」を開発し、現在、自動運転の技術開発用のプラットフォームとして進化させている。

同社は、標識やGPS 等の情報に頼らず環境マッピングと自己の位置推定を同時に行う技術を活かし、国内外大手企業とのアライアンスも加速させている。例えば、大手企業と提携し、高性能なセンサや自動運転用コントローラの開発を進め、先進運転支援や自動運転の開発環境やソリューションの提供をしている。

今後は、自動車だけでなく、建設機械、農業機械、物流等にまでアプリケーションを広げていく予定である。例えば、建設機械、農業機械では、すでに定番の機械(ブルトーザー、芝刈り機等)があるので、それらの自動化というイメージは湧きやすいが、物流分野は、自動化をイメージできる機械がないので、身近にある手押し台車に注目し、自動化した物流支援ロボット「CarriRo」を開発している。

谷口社長は、「『Robot of Everything』。あらゆるものにロボット技術を応用し、安全で、楽しく、便利なライフスタイルを創造し、総合ロボット会社として、日本発でいち早く事業化・産業化を目指したい。また、2015年5月に世界初となるロボットタクシー(ロボタク)事業を推進する新会社を設立し、自動運転技術により、高齢者など運転が難しい方々の社会課題の解決や地方創生につなげたい。ロボタクが普及すれば、空いている時間とスペースを有効活用するサービス業等も生まれ、新たな産業や観光の創出にもつながる。「移動の自由」や「マイスペース」は、人間が本来持つ願望であり、それらを安価で身近にできれば、皆がいきいきとして生活ができるようになる。」と強い想いを語った。

自動運転車「RoboCar」

物流支援ロボット「CarriRo」

資料:(株)ZMP

先程述べたように研究開発拠点は大半が国内に残ってはいるが、我が国製造業における研究開発費は2007年には約12.2兆円あったのに対し、2012年には10.7兆円と減少している。リーマンショック時の落込みを経て、その後、全体額は回復傾向にはあるが、以前の水準には戻っていないのが現状である。産業分類別に見てみると、2007年と比較して「情報通信機械」の研究開発費は28.4%減少しており、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」においても21.1%減少している。他の産業についても、横ばいで推移している「医薬品」を除いては、微減傾向にあることが分かる(図122-77)。

図122-77 産業分類別の研究開発費

今後3年間の国内研究開発投資の見通しを聞いてみると、最終製品の業種にかかわらず、横ばいとの回答が多くなっているが、「医療機器・医薬品業種向け」は44.4%が増加の見通しを立て、減少の7.3%を大幅に上回っており、今後も研究開発に力を入れていく様子がうかがえる。また、近年、研究開発投資の全体額が減少傾向にあった情報通信機器においても、「電気機器業種向け」は最終製品がB to B、B to Cにかかわらず約3割が増加と回答しており、研究開発投資額が以前の水準に近づくことが期待される(図122-78)。

図122-78 今後3年間の国内研究開発投資の見通し

研究開発投資は投資効果がすぐに現れるものではないが、今後、我が国の技術力を維持・強化していくには重要な役割を果たすと考えられる。「稼ぐ力」を持ち続けるためにも、研究開発を継続的に行うことが求められ、国内における研究開発拠点の立地環境の強化も含め積極的に取り組んでいく必要がある。

研究開発やマザー機能などとして国内拠点の役割が明確に位置づけられると、その役割を果たすべく国内新規投資が促進される。日本国内にある有形・無形の集積を強みとして活用しながら、新技術の開発などを通じて高付加価値化・効率化を目指し、我が国独自の製造業の基盤を築いていくことで、他国が真似できない競争力を手に入れることが可能になると考えられる。

コラム:再生医療の規制改革で研究開発拠点としての魅力が向上

医薬品医療機器等法(旧薬事法)および再生医療等安全性確保法が2014年11月に施行され、世界に先駆けて再生医療の迅速な審査制度が実現することとなった。また、再生医療等安全性確保法の下で行われる、自由診療又は臨床研究における細胞培養加工について、医療機関から企業への外部委託が可能となった。再生医療のための細胞は個体差が大きいことから、従来の医薬品や医療機器とは別に「再生医療等製品」という分類を設け、安全性確保のもとで一定の効能があると推定できた段階で条件及び期限付で承認されることとなった。これにより、再生医療等製品の審査の迅速化が図られた。具体的には、国の承認を得るまでにかかる期間が従来の7年程度から大幅に短縮され、実用化で先行する欧米でも同程度かかるが、日本では早ければ2~3年程度で市販できると期待されている。

米ナスダック上場のイスラエル企業、プルリステム・セラピューティクスは胎盤からつくった細胞を培養し、足の血流が悪くなる病気の治療薬を開発する。2015年内にも日本企業と提携し、安全性を確かめる臨床試験(治験)に入る計画だ。胎児由来の細胞を使って脳梗塞の治療薬を開発する英リニューロンも日本に進出する。「実用化を短期間で認める独自の制度ができ、日本は非常に魅力的になった」(ジョン・シンデン最高科学責任者)とし、2015年内にも治験に入る見込みだ。(出典:日本経済新聞、2015年1月6日)

国内外のアカデミア、産業界は、規制改革により日本は世界で最も再生医療に適した環境が整備されたと見ており、日本での再生医療製品の治験実施や市場参入を検討している内外企業が急拡大している。規制緩和などによって立地条件が整えば研究開発が加速する一例であると指摘できる。

3.国内生産基盤の維持強化

(1)ものづくり基盤の強化に向けた人材育成・活用

製造業は我が国において今後も重要な役割を担い続けるものと考えられるが、製造業の稼ぎ方が変化してきている中で、製造業に求められている人材にも変化が起きている。また、少子高齢化により労働人口の減少が続いており、特に中堅・中小企業では必要とする人材の確保が容易ではなくなることが考えられる。製造業の更なる発展のためには、ものづくりの基盤となる人材の育成・活用を積極的に進めていくことが重要となっている。

①製造業に求められる人材の変化

少子高齢化に伴い、生産年齢人口の減少が進んでいる。1990年代後半から生産年齢人口の減少が続いており、8,276万人いたリーマンショック前(2008年)と比較しても2014年には7,804万人と5.7%減となっている(図123-1)。

図123-1 我が国における生産年齢人口(15~64歳)の推移

また、製造業における就業者数は直近10年間で約1,150万人から約1,050万人へと11%ほど減少しており、生産年齢人口の減少割合以上に製造業における就労人口は減少している(図表123-2)。

また、業種別に就労人口の推移を見ると、おおむね減少傾向にあるのが見て取れるが、「繊維」においては、1995年では108.9万人の就業者がいたものの、2010年には34.2万人となっており、特に減少傾向が強いことが分かる。一方、「輸送機械」においては、2000年頃に就労者が減少したものの、その後増加傾向にあり、108.0万人となっている(図123-3)。

図123-2 製造業の就業者数の推移

図123-3 製造業における業種別就労人口の推移

製造業における職種部門別の内訳をみると、近年は「製造部門」に従事する割合が減少傾向にあるのに対し、「研究開発部門」に従事する割合が増加している(図123-4)。生産ラインの効率化が進み、製造部門に必要な人材は減少する一方で、国内でのものづくりの役割として高付加価値品へのシフトやグローバル展開におけるマザー機能等が重要になる中で、研究開発に携わる人材が増えていると考えられる。

図123-4 製造業における職種部門別内訳の変化

このように製造業に求められる人材が変化しており、この傾向が今後も継続すると、職業間のミスマッチが起こると想定される。2010年から2020年にかけての変化を予測計算してみると、男性・女性ともに、「生産工程・労務作業者」や「販売従事者」が減少し、「専門的・技術的職業従事者」や「事務従事者」が増加、また、女性においては「管理的職業従事者」も増加することで、男性で約30万人、女性で約10万人程度の職種転換が必要と考えられる(図123-5)。次世代型の製造業への転換を加速していくためにも、時代に合った人材育成が求められている。

図123-5 2010年から2020年にかけての職種別の製造業就業者数の変化

②製造業に求められる人材育成・活用

製造業における就業者数が減少傾向にある中で、実際に不足している人材をみると、「技能人材」を挙げる企業が最も多く、中小企業では78.4%、大企業においても59.5%が不足していると感じている。また、大企業・中小企業ともに「経営人材」や「IT人材」の不足を感じている企業の割合も高い一方で、「期間工」の不足を感じている企業の割合は10%以下となっている(図123-6)。

実際に不足している人材として最も多く挙げられた技能人材に関して、技能人材のタイプ別の過不足感をみると、「高度熟練技術者」(特定の技能分野で高度な熟練技能を発揮する技能系正社員)、「技術的技能者」(開発・設計・品質管理などに携わる技能系正社員)が「不足」又は「やや不足」と感じている企業は全体の約6割となっている。また、「管理・監督担当者」(製造現場のリーダーとしてラインの監督業務などを担当する技能系正社員)も約半数の企業が不足を感じているのに対し、「一般技能者」(上記3つのタイプに当てはまらない一般的な技能正社員)は6割以上の企業が「適切」と感じており、約15%の企業が「やや過剰」又は「過剰」と感じていることが分かる。(図123-7)。

図123-6 不足している人材

図123-7 技能系社員の過不足状況

人材不足を見据えての企業の取組状況をみると、企業規模にかかわらず、「定年延長や定年廃止によるシニア、ベテラン人材の活用」が約7割と最も多くなっている。また、大企業では「女性が長く働き続けることができる職場環境の整備」、「多様な働き方の導入による介護や育児などの時間制約への配慮」、「ITの活用や徹底した合理化による業務プロセスの効率化」に取り組む企業の割合も高く、大企業が中小企業に比べて人材不足に対応した取組を進めている状況がうかがえる。(図123-8)。

図123-8 人材不足を見据えての取組

続いて、新たな人材確保の観点から各企業における新卒採用や若手の教育における課題をみると、「自社の知名度が低く、応募者が集まりにくい」、「採用基準に達する応募者が少ない」が企業規模にかかわらず多くなっている。また、中小企業では「入社後の教育に時間やコストをかける余裕がない」が31.1%、「採用活動に時間やコストをかける余裕がない」が20.9%となっているなど、中小企業は大企業に比べると課題を感じている企業の割合が高くなっている(図123-9)。

図123-9 新卒採用・教育の課題

国内の従業員の年齢構成に対する認識をみると、「各世代の均等がとれた、バランス型」と感じている企業は21.5%であり、全体の6割強の企業が不均等な年齢構成となっていると認識していることがうかがえる。具体的には、「平均年齢が高く、シニア世代中心の逆ピラミッド型」という企業が31.1%と最も高く、「30~40歳代の中堅世代が不足している、世代断絶型」が22.8%と続いている(図123-10)。

図123-10 国内の従業員の年齢構成

製造業における就業者数が減少し、製造業に求められる人材が変化する中で、製造業において必要となる人材育成・活用のあり方も、多様化することが求められている。今後、企業の基礎的体力の維持・強化から成長する海外市場を見据えたグローバル人材の育成までの幅広い視点に関して、若者・学生や現役世代から企業のOB世代までを対象として、多様な人材育成・活用の取組を進めていくことが重要となっている(図123-11)。

図123–11 製造業における人材育成・活用

資料:経済産業省作成

コラム:国立高等専門学校におけるデジタル・マニュファクチュアリング技術を身に付けた人材育成の取組 (独)国立高等専門学校機構

(独)国立高等専門学校機構では、内閣府並びに経済産業省の後援により、同機構が設置する51高専を対象とした第1回目「3Dプリンタ・アイディアコンテスト」を2014年12月19日に実施した。これは51高専が保有している3Dプリンタを高専教育の場で積極的に活用することを目的としており、デジタル・マニュファクチュアリング技術を浸透させ、地域で貢献できるアイデア豊かなものづくり人材育成のために、地域企業と高専の連携によるものづくり教育のツールとしての普及を目的とする。

第1回目は「IT関連グッズ」をテーマとして、予選応募作品25チームから選抜された本戦作品21チームにより、学生によるプレゼンテーションと展示審査が行われ、北九州工業高等専門学校の学生が提案した、スマートフォンを杖にはめ込み利用することで、転倒時に警報と家族にメールを送る機能を備えた「スマートステッキ」が最優秀賞を獲得した。

2015年度は第1回目と同じ競技テーマで、8月に東北大学川内キャンパスを会場に開催する予定にしている。

作品の展示風景

スマートステッキ

資料:「(独)国立高等専門学校機構」提供

コラム:ものづくり日本大賞受賞企業の特徴と受賞効果

「ものづくり日本大賞」は我が国産業・文化を支えてきたものづくりを継承・発展させるため、製造・生産現場の中核を担っている中堅人材や、伝統的・文化的な「技」を支えきた熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりの第一線で活躍する人材を顕彰する制度である。2005年に創設され、経済産業省、厚生労働省、文部科学省、国土交通省の4省で連携して実施している。

経済産業省においては、①製造・生産プロセスの革新、②従来にない画期的な製品・部品や素材の開発・実用化、③伝統的な技術の応用、④海外展開、⑤ものづくり人材の育成支援、の5つの分野で我が国ものづくり産業に貢献した人材に対して、第5回までに約2,800件の応募の中から、31件の内閣総理大臣賞、81件の経済産業大臣賞を選定している。

今回、過去5回の受賞者を対象にアンケート調査を行い、ものづくり日本大賞受賞企業の特徴と受賞効果について分析を実施した。受賞者の所属企業は「中小企業」が6割強と「大企業」を上回っている(図1)。また、応募地域は企業数の多い「関東」、「近畿」、「中部」が多くなってはいるが、その他の地域からも少なくない(図2)。

図1 受賞者の企業区分

図2 受賞者の応募地域

応募の目的としては、「自社の製品・技術を広く社会にアピールするため」が半数を超えており、「自社ブランド力・認知度・信用力を高めるため」や「本事業への応募が従業員・ものづくり現場の意欲向上につながるから」という回答が続いている(図3)。

図3 応募目的

受賞後の効果としては、「従業員の意欲向上」において効果があったとの回答は企業規模を問わず9割を超えている。「マスコミからの取材が増加」や「企業信用力の向上」も中小企業では8割以上が効果を実感しており、また、「売上高の増加などの業績向上」や「求人・採用面でのメリット」も約半数が効果があったとしており、全体的に中小企業の方が高い効果を感じていることが分かる(図4)。

受賞者からは「講演依頼が国内外からあり、会社の認知度はかなり上がったと感じている」、「メーカーなど他社の視察も増え、技術の信頼の向上につながった」や「受賞をきっかけに、審査委員や他受賞者など業界外のネットワークができた」など具体的な受賞効果の回答も多数得られた。

このように、ものづくり日本大賞の受賞により、応募目的を達成できている企業が多く、一定の効果をもたらしていると考えられる。

図4 受賞したことによる効果

ものづくり日本大賞では受賞企業の決定後、表彰式やものづくり展の開催も行っており、2013年度に開催した第5回ものづくり日本大賞においては、内閣総理大臣賞の表彰式を首相官邸にて、また、ものづくり展を国立科学博物館にて開催している。さらに、2015年2月には初めて過去5回の受賞者が集まる交流会を開催し、31案件、57名の受賞者と審査委員、経済産業省関係者の間で交流を深めた。今後も、ものづくり日本大賞の認知度をさらに向上させていくとともに、受賞者同士の交流により新たな技術やビジネスへ繋がることが期待される。

内閣総理大臣賞の表彰式

ものづくり展(国立科学博物館)

 
コラム:伝統技術の応用による新しい市場開拓 ~ものづくり遺産~

2014年11月に「和紙、日本の手漉(てすき)和紙技術」が国連教育科学文化機関の無形文化遺産に正式に登録された。伝統的に受け継がれてきた技術力の高さや優れた品質が世界的に評価されている。和紙以外にも我が国には「ものづくり遺産」とも言えるものづくり大国を象徴する伝統技術が数多く残っている。

ものづくり日本大賞においても伝統技術の応用部門として地域に根ざした文化的な技術や、熟練人材により受け継がれてきた伝統的な技術の工夫や応用によって、革新的・独創的な製品を開発された方々を顕彰している。

2009年の第3回ものづくり日本大賞で内閣総理大臣賞を受賞した(株)小松ダイヤモンド工業所は、伝統的なダイヤモンド研磨技術を活かし、世界で初めて本真珠にカットを施した元の真珠とはまったく異なる輝き、質感をかもし出す「華真珠」を開発した。その美しさは「真珠は白くて丸いもの」という固定概念に縛られないため、海外ジュエリー業界から高く評価されている。ダイヤモンドは重さが重要なためできるだけ薄く削る技術が要求され、そこで培ったノウハウがミラーボールのように面を削り出し、一面ずつ磨いて仕上げていく「華真珠」に生きている。今後は、「華真珠」という材料を宝飾加工メーカーに製造販売するだけでなく、ネックレスといった最終製品の加工を手がけ、ブランド化を目指している。

また、2013年の第5回ものづくり日本大賞において経済産業大臣賞を受賞した(株)能作は高岡銅器の伝統を活かし、純度100%錫製の「曲がる金属の食器」という新しいコンセプトを創出した。純錫は低融点金属であり、鋳造が難しいが、高岡の伝統的な鋳造技術と鋳物職人の高い技術力により、試作品を完成させた。しかし、試作品はあまりにも柔らかく力を入れると曲がってしまう欠点があった。この欠点を逆に利点とした製品作りを目指し、ユーザー自身が好みや用途に合わせて自由に曲げて使う機能を持つ新しい製品が生み出された。高岡の伝統技術を生かしながら斬新な発想に基づいて開発された錫製食器は国内のみならず、パリ・ニューヨーク・上海などの海外市場においても注目を集めている。さらに、曲げて使えばよいという発想は医療現場との連携も生み出した。錫の抗菌性・柔らかさを活かして「錫製フレキシブル手術用具」を開発した。手術用具の進入角度を自在に変形調整できるため、深奥患部にも対応可能で、手術の難度軽減、円滑化にも貢献している。

このように今までの伝統技術に現在の消費者視点を加え新しい伝統工芸品を生み出し、今まで以上に付加価値の高い新たな市場を創出している企業も多い。伝統産業の良さや技術を継承しつつ、時代のニーズにも合った製品を世界へ更に発信していけることを期待したい。

華真珠

曲がる金属の食器

 
コラム:衰退懸念があった地場産業を最先端製品に応用することで生き残りをかける(和歌山県北部地域)

和歌山県伊都郡高野口町とその周辺の橋本市・かつらぎ町・九度山町は県の北東部に位置し、明治時代からパイル織編物の生産地として発展してきたが、日本全体の繊維産業と同様に1980年前後をピークに衰退し、90年代の円レートの変動やアジアからの低価格衣料品の輸入拡大、更には海外への製造拠点の移設により、急速に規模が縮小した。

その中で、パイル織物の技術を基礎とし、高度な製品管理技術や開発の体制を構築することで、パイル織物を従来にはない用途に応用する取組が行われている。

和歌山県の橋本市にある妙中パイル織物(株)では得意とするコットンベルベットの技術を応用して、液晶パネルの製造に不可欠なラビングクロスの製造を行っている。ラビングクロスに用いられる生地は高密度かつ均一な毛並み方向と高い清浄度が求められる。従来の衣料用生地では不必要であった、高度な清浄度要求に応えるため、製造ラインに改良を加える等、顧客の要求を満たすことで、大型の受注にこぎつけ、現在では同社の主力製品の一つとなっている。

また、同じく橋本市に位置する青野パイル(株)でもパイル生地の生産技術を応用し、OAプリンターの高速化・コンパクト化に寄与する新規プリンター・トナー・シール部材を開発し、大手のプリンターメーカーの高性能機種に採用されている。従来、プリンター・トナー・シール部材には不織布が用いられていたが、当社のパイル生地を用いることで、シール材とドラム面との接触摩擦を大幅に軽減し、現像ドラムの高速運転を可能にした。また、製品構造の軽密度により軽量化やコンパクト化にも寄与できるため、高評価を受けている。

一方で、産官の連携によるパイル織物の活用方法の研究も進められている。県工業技術センター、オーヤパイル(株)、エコ和歌山(株)は連携してアクリル製のパイル生地が微生物を付着しやすい性質に着目し、一つのパイル生地を複数の微生物群の住処とすることで、汚泥を処理する技術を開発した。従来の微生物による汚泥処理は微生物の増殖に伴い、増えすぎた汚泥を引き抜く必要があった。しかし、パイル生地を用いることで微生物を食べるイトミミズが生息できるようになり、汚泥の発生量を適切にコントロールすることができるようになった。実証実験の結果では設置からおよそ3年半で従来のシステムと比較して83%もの汚泥の発生を抑えることができた。今後、この技術の普及により、パイル生地の需要拡大が期待されている。

地場産業のチャレンジが今後の地方創生を支えることを期待したい。

パイル織物を活用した汚泥処理

コラム:地方の中小企業が長年培った技術と大企業OB人材の経験が融合することで実現した組織強化 小西化学工業(株)

小西化学工業(株)は和歌山市に本社のある従業員数95名の中小企業。中間体と呼ばれる化学反応の中間生成物製品の研究開発・製造・販売を行っている。

中間体をはじめとする化学業界ではインド・中国企業の台頭が目覚ましく、生き残りをかけて新たな技術領域への進出や高度な要求に対応できる社内体制の構築が必要であった。そのため、積極的な技術領域の拡大、転換を進め、2003年にはボーイング社の製造するボーイング787の機体に使用される炭素繊維複合材料の強化に用いられる多官能エポキシ樹脂の製造受託を受けた。現在でも主力製品の一つであるスーパーエンプラ(PES)の原料となるビスフェノールSの生産等で培ったスルホン化技術によって、水処理膜等に応用が期待される機能性スルホン化ポリマーの開発に成功した。

同社では現在も積極的に組織改革や技術領域の拡大に努めている。例えば、更なるマネジメントや経営判断、社内の各組織のレベル向上と人材育成を目的として、複数の大手化学メーカー(住友化学、花王、三井化学、三洋化成など)OBを雇用することにより、大企業で蓄積されてきた経験やネットワークの移植を目指している。

少子高齢化と生産年齢人口の減少が進む中でシニア世代の一層の活躍が期待される。また、同時に、中小企業では、経営戦略の見直しや新事業展開、海外進出、IT活用、生産効率化、品質管理などの様々な経営課題へのチャレンジが求められている。退職後も自らの知識・経験・ノウハウを活かしたいという意欲を持つ大企業OB人材が中小企業の現場と融合することで、組織強化と技術領域拡大が実現し、地方に元気な中小企業を創出することが地方創生への近道かもしれない。

炭素繊維複合材料の強化に用いられるエポキシ樹脂

小西社長と大企業OBの皆様

提供:小西化学工業(株)

コラム:大企業の休眠特許と町工場の熟練技術のコラボレーション。従来にない軽量で耐久性の高い、抗菌性の繊維製品の開発に取り組む 林撚糸(株)

和歌山県橋本市にある林撚糸(株)は、ニット・織物・パイル織物等の衣料用や精密機械部品等に用いられる資材用の糸の製造を行っている従業員数7名の小規模事業者である。同社は従来保有していた撚糸技術を基に繊維に多くの空気を含む糸の製法を確立し、この糸を用いて高機能手袋「ATSuBOuGu®」(アツボウグ)を開発した。「ATSuBOuGu®」は耐熱性、保温性に優れており、アーク溶接の火玉(約1200℃)が当たっても燃えることがない。また、綿手袋、革手袋と同様の作業性を担保しつつ耐切創性も優れていることから、工業用途をはじめ、アウトドア用、山岳用にも用いられている。山岳用ではヒマラヤの高地での使用実績もある。

最近では(公財)わかやま産業振興財団のコーディネーター(大企業OB)の仲介で、富士通(株)が特許を保有する「チタンアパタイト」の紹介を受け、この物質を用いた製品の開発を進めている。「チタンアパタイト」は東京大学と(株)富士通研究所で共同開発された光触媒で、花粉・細菌・ウィルスなど空気中の有害物質をとらえて分解する機能を有する。同社はこの機能に着目し、軽くて丈夫な和紙に担持させたうえで糸にすることで、抗菌機能を有する糸及びこれを用いた製品の開発に取り組んでいる。このように、同社は従来の技術に磨きをかけるだけではなく、地域の公的機関を利用しながら、未利用の外部技術を自社の技術と融合されることで付加価値の高い製品の開発に積極的に取り組んでいる。地方の町工場と大企業の有機的な連携が実現したモデルケースと言える。

燃えることがない手袋「ATSuBOuGu®」

提供:林撚糸(株)

コラム:ベテラン技術者を中心に技術・技能伝承や業務改善に取り組み、短納期化・新規顧客獲得に成功 (株)上島熱処理工業所

社員約50名のうち10名が65歳以上と高齢者が多く活躍する金属熱処理の会社である(株)上島熱処理工業所は、創業以来「お客様の熱処理工場として、お客様が自慢したくなるような性能と品質を提供する」をモットーとしている。

創業時から定年の考え方はない。技能・技術は年齢を重ねることで向上するものであり、意欲がある限り現役でいてもらう、という現社長の考えもあり、体力や集中力が低下して、自分の誇りを維持するだけの仕事が出来なくなったときに自分自身でリタイヤする時期を決めるというシステムである。現在、社員は82歳の工場長を筆頭に、70代3名、60代6名のベテランがいる一方で、20代、30代の若手社員も半数を占めるというように幅広い年齢構成となっている。

『「一つの技術」を「カミジマ最高レベル」で「二人以上」で出来るように』という考えのもと、品質維持のための階層別の多彩な人材育成が徹底されている。これは、高度な技術である熱処理を、技術伝承を通して枯れさせることなく、常に複数名が対応できるようにしようという社長の考えである。

実際の現場では、ベテラン社員と若手社員が「親方・子方」のペアとなり、「親方」が「子方」にOJT 教育を行い、学歴や経験にかかわらず熱処理の基本をじっくりと時間をかけて習得してもらう。それは、取り扱う製品の多くは一品ものであり、過去の取り扱い製品の熱処理条件などをデータベース化して管理しているが、実際に行う際には最終的にはその処理時間などを目で見て判断する必要があるからである。このようにデータのみで判断できない部分は、親方の指導のもと、現場できめ細かく、技術・技能の伝承を行っている。

現在、我が国製造業の多く企業では技術者の高齢化により、「技術・技能の伝承」が大きな課題となっている。(株)上島熱処理工業所の親方・子方制度のような取組はその一翼を担っているといえるのではないか。

親方・子方制度

資料:「(株)上島熱処理工業所」提供

③大企業のOB等人材の活用によるものづくり現場のカイゼン活動

人材不足を見据えた取組として、定年延長や定年廃止による自社のシニア、ベテラン人材の活用を考える企業が多くみられたが、社内人材にかぎらず、知識や経験が豊富な大企業のOB等人材を活用した取組が広がりつつある。今後、高いスキルを有する大企業のOB等人材の活用が進むことになれば、意図せざる海外への技術流出を防ぐという効果も期待できると考えられる。

そこで、ものづくり企業における大企業のOB等人材の必要性をみると、大企業では「必要としている」が22.4%であり、そのうち「すでに採用実績がある」が76.1%となっており、関心の高い大企業においてOB等人材の活用が既に進んでいることがうかがえる。中小企業では「必要としている」が25.4%であり、必要性を感じている企業の割合は大企業より少し高くなっている。このうち「すでに採用実績がある」は64.8%であり、大企業に比べると低くなっているが、中小企業では「今後採用を検討している」が21.8%と大企業を大幅に上回っている。(図123-12・13)。

図123-12 大企業のOB等人材の必要性

図123-13 大企業のOB等人材の採用予定

続いて、大企業のOB等人材に対して期待する項目をみると、大企業では「マネジメント力の向上」が29.7%と最も高く、「技術開発力の向上」と「営業力・販路開拓力の向上」の18.9%が続いている。中小企業では「技術開発力の向上」が26.4%と最も高く、「マネジメント力の向上」が23.8%で続いており、企業規模に関わらず人手が不足する技能人材、経営人材に関して、大企業のOB等人材の活用を考えている企業が多くみられる(図123-14)。

また、中小企業の大きな特徴として、「生産管理能力の向上」が23.1%と大企業と比較して大幅に高くなっている。大企業が生産管理は社内人材で対応できていると考えている一方、中小企業では生産管理能力の向上に取り組むにあたり、社内人材ではなく、大企業のOB等人材を活用する必要があると考えている企業が多いことがうかがえる。

図123-14 大企業のOB等人材に対する期待

我が国製造業の国内生産基盤の維持強化の観点から、中小企業の生産性向上が求められている。中小企業ではリードタイムの短縮、在庫削減等の取組余地が大きく残っていると考えられ、中小企業の生産管理能力の向上として、ものづくり現場におけるカイゼン活動を通じた生産性向上に取り組む中小企業を増やしていくことが重要である。しかしながら、中小企業においては、カイゼン活動のノウハウなど、生産管理能力の向上に資する社内人材が不足しており、大企業のOB等人材が活躍できる仕組みが必要になっていると考えられる。

具体的に、大企業のOB等人材を採用する際の課題をみると、中小企業では「適当な人材を見つけにくい」が55.2%と最も高く、「報酬・処遇の決め方が難しい」が54.4%と続いている。大企業では「(中小企業と)企業文化があわない」が53.5%と最も高く、「報酬・処遇の決め方が難しい」が46.5%と高くなっている。大企業のOB等人材の活用にあたり、適当な人材を見つけにくいという中小企業側と、中小企業と企業文化があわないとする大企業側のマッチングに関する環境整備が求められていると指摘できる(図123-15)。

図123-15 大企業のOB等人材を採用する際の課題

これまで述べてきたとおり、大企業のOB等人材が中小企業において活躍できる仕組みづくりが必要となっているが、ものづくり現場における経験が豊富な大企業OBであるベテラン、シニア等人材を活用して、地域の中小企業に対するカイゼン活動に取り組む事例は全国的に広がっており、すでに群馬県、長岡市、山形大学等において先進的な取組が進められている。

他方、カイゼン活動の取組を全国の中小企業に拡大していくにあたり、大企業のOB等人材は自らが培ってきた特定分野におけるスキルに偏ることが多く、幅広い業種の中小企業に対する汎用的なカイゼン活動の指導に合わないことも少なくないため、大企業のOB等人材が自らの出身業種以外の企業にも教えられるようにカイゼン活動のスキルについて再教育を行い、地域の中小企業に対して分かりやすく効果的なカイゼン活動を導入していくことが望まれる。加えて、大企業のOB等人材と中小企業のマッチング機会の拡大も1つの課題であることから、支援体制の構築にあたって地方自治体や地域の産業支援機関、大学、金融機関が中核となり、地域一体となって取組が進められていくことが重要である。

コラム:企業OBの中小企業向け改善インストラクターとしての再活用 群馬県

群馬県では、いわゆる熟練の技能とは異なる、総合的な管理技術を持ったものづくり人材を育成するため、東京大学ものづくり経営研究センターと連携して、2010年に全国初となる、カイゼン活動を行う企業OB等人材を養成する「群馬ものづくり改善インストラクタースクール」を開校している。

スクールのカリキュラムは金曜、土曜を中心に計19日間で構成され、カイゼン手法を学ぶだけではなく、現場実習を通じた指導技術の習得にも力を入れているところが特徴となっている。本スクールを通じて、企業OBの受講生は、これまで身に付けてきた現場改善の手法を中小企業の現場改善に必要な技術として学び直し、俯瞰的な視点からものづくりの良い流れをつくる技術を習得したインストラクターとして養成されている。

2014年度までに7期を開講し、企業OBと県内企業から派遣される現役人材を合わせて80名を超える修了者を輩出している。修了した企業OB人材は、群馬県が実施する「ぐんま改善チャレンジ」事業を通じて、2名1組のチームで県内の中小企業に派遣され、群馬ものづくり改善インストラクターとして、中小企業のカイゼン活動の支援を行っている。現場に問題があるとはわかっていても、派遣先の中小企業の多くは、どうやって解決してよいかわからないという課題を抱えている。最大5回(1日を1回とする)までのインストラクターの指導によって、生産効率向上や在庫削減等のカイゼン活動を実践し、中小企業が自らカイゼン活動に取り組むきっかけ作りとして成果を上げている。加えて、これまでに派遣を行った66社(計330回)の中小企業ほぼすべてにおいて具体的なカイゼン実績が出ており、地域の中小企業が企業OB人材を活用し、企業OBも生き甲斐を感じ、ものづくり現場のカイゼン活動を通じて、生産性向上を実現するという全国のモデル事例として考えられる。

スクールの実習風景

現場改善支援の様子

図 ぐんま改善チャレンジ 改善事例

資料:(公財)群馬県産業支援機構

コラム:中小企業・小規模事業者人材対策事業(カイゼン指導者育成事業)

経済産業省では、中小企業のものづくり現場で活躍できる企業OB等のカイゼン指導者を育成する「中小企業・小規模事業者人材対策事業(カイゼン指導者育成事業)」を2015年度から開始している。

本事業は、全国からモデル地域・業界を選定し、「企業OBや現役人材をカイゼン指導者として育成するスクールの運営」に要する経費、「育成したカイゼン指導者を中小企業に派遣」に要する経費について国が補助を実施するものである。全国を代表する地域・業界におけるカイゼン活動の重点的な支援を通じて、成功事例を多く創出することにより、中小企業のものづくり現場におけるカイゼン活動が、全国に普及していくことが期待される。

図 OB人材等による生産性向上活動

資料:経済産業省 作成

④女性活躍とダイバーシティ推進の取組

(ア)我が国製造業における女性の就労状況

我が国の女性の就労状況について、2014年の「労働力調査」(総務省統計局)の年齢階級、職業別就業者数を用いて、就業率(就業者数÷15歳以上の人口)を算出することにより、業種・職種ごとの就業率における男女の水準の差やM字カーブの状況を分析する。

まず、全産業における年齢階級別の就業率を見てみると、30歳代の女性の就業率について、30~34歳が68.0%、35~39歳が68.3%と、他の年齢階級に比べて低下しており、いわゆるM字カーブを描く様子が見て取れる(図123-16)。

図123-16 全産業における年齢階級別就業率(2014年調査)

次に、製造業及び非製造業における年齢階級別の就業率を見てみると製造業については、女性の就業率は男性に比べてどの年代も大きく下回っており、男性は25~29歳から40歳代を通じて20%を超えているのに対し、女性は一番多い40歳から44歳でも9.5%と男性の半分にも及ばない低い水準である。ただし、M字カーブは生じていないことが分かる(図123-17)。一方、非製造業についてみると、女性の就業率は男性とほぼ同等の高い水準となっているものの、30歳代の就業率は低下しており、M字カーブが生じている様子が見て取れる(図123-18)。

図123-17 製造業における年齢階級別の就業率(2014年調査)

図123-18 非製造業における年齢階級別の就業率(2014年調査)

また、第1子出産前後の就業状況については、2005年から2009年には出産前の就業者が7割を超えている一方で、第1子出産後には就業者が26.8%まで減少しており、出産前に就業していた女性の約6割が出産後に離職していることになる。1985年から1989年と比較すると、出産前の就業者数は1割ほど増加しているが、出産後の離職率は約20年間変化がない状況が継続していることが指摘できる(図123-19)。

図123-19 第1子出産前後の就業状況

職業別就業者数については、製造業では、特に、「生産工程従事者」、「事務従事者」、「運搬・清掃・包装等従事者」に女性就業者がみられるが、「事務従事者」、「運搬・清掃・包装等従事者」は男性就業者と同等の水準であるものの、「生産工程従事者」は男性に比べて低い水準となっている。また、「販売従事者」、「専門的・技術的職業従事者」、「管理的職業従事者」については女性が非常に少ない状況となっている(図123-20)。

図123-20 製造業における職業別就業者数

また、新規学卒採用者に占める女性の割合を業種別に見てみると、女性の採用がない「製造業」企業は54.3%にも上り、「建設業」の73.1%に次いで高くなっている。「宿泊業・飲食サービス業」では約7割が採用の80%以上が女性となっており、業種によって女性採用の割合が大きく異なっている(図123-21)。製造業は女性の採用が増える余地が大きいと考えられる。

図123-21 新規学卒採用者に占める女性割合(2010年度)

このように製造業における女性の就労については、まず、女性の割合が圧倒的に少なく、採用段階から大きな男女差が生じていること、次に、女性はほとんど従事していない職種が存在しているということなどが課題として挙げられる。

コラム:理系女子応援イベントの開催 (一社)日本自動車工業会、(株)マイナビ

製造業における女性活躍が進んでいない理由として、理系に進学する女性や製造業に興味を持つ女性が少ないことも指摘されている。近年、これらに対応するためのさまざまな取組が始まっている。

自動車業界では、将来にわたり自動車産業を支える人材の育成を図るため、働く女性の裾野を広げていくことが課題となっている。

このため、(一社)日本自動車工業会と(株)マイナビは、自動車メーカーで働く女性のキャリアをイメージしてもらうことに加え、理系学問と仕事との繋がりを知ってもらい、進路選択の幅を広げることを目的として、理系女子応援イベント「MY FUTURE CAMPUS 1Dayイベント−『 Drive for the future ~あなたの想いを走らせる仕事~』」を2015年3月28日に開催した。

本イベントでは、2~3人の女性技術者が講義やパネルディスカッションを行う「レクチャールーム」、女性技術者と対話が楽しめる「フリートーク女子会ルーム」という2つのコンテンツが設けられた。参加者となる女子学生が、日本を代表する産業の一つである自動車業界で活躍する女性社会人や理系分野の女性が活躍する企業の話を聞いて、自分の将来を考えてもらえるようなイベントとし、中学生から大学院生までの幅広い層の女性176名の参加があった。なお、2015年度は年2回(関東及び関西)の開催が検討されているとのことである。

このような、採用段階のみならず、理系への進学や職業意識の醸成に向けた取組は、他業種においても参考になると考えられる。

私の仕事紹介

フリートーク

コラム:女性や外国人などの多様な人材の積極的な採用への取組 JFEホールディングス(株)

JFEホールディングス(株)は、JFEスチール(株)、JFEエンジニアリング(株)、JFE商事(株)を連結子会社とする持株会社であり、グループ従業員数は57,210人(連結ベース、2014年3月末現在)である。ダイバーシティ推進室の設置(JFEスチール(株))、企業内保育施設の設置(JFEエンジニアリング(株))、育児休業者を対象としたミーティングの開催(JFE商事(株))など、グループ会社それぞれの業態やニーズに応じた取組が評価され、2013年度、2014年度と2年連続で「なでしこ銘柄(後述)」に選定された。

鉄鋼事業を担うJFEスチール(株)では、女性や外国人などの多様な人材の積極的な採用を進めており、これらの人材の定着と戦力化を図るため、2012年1月、本社に「ダイバーシティ推進室」を設置した。同社ではこの「ダイバーシティ推進室」を中心として、女性の若手社員と一定のキャリアを積んだ社員との意見交換会を開催するなど細やかなフォローを行うとともに、制度面でも、法定を超える育児休業期間の設定や保育料補助制度の導入など、出産・育児をサポートし、職場への円滑な復帰を図るような取組がなされている。

「男の仕事」というイメージが強い製鉄所の現業職においても、2012年度から本格的に女性社員の採用を開始した。2013年には22名、2014年には23名の女性社員を採用し、現在、新卒採用全体に占める女性の割合は約10%となっている。

同時に、採用した女性が働きやすいよう環境の整備も行っている。製鉄現場の環境整備は、女性専用の休憩室やシャワールームの設置から始められ、バルブ位置を低くする、作業補助具の拡充を図るなど、作業面での作業負荷をより軽減するような工夫もなされている。このような設備の改善については、男性社員からも積極的な提案・協力があるという。

製鉄現場で働く女性社員が、出産・育児を経て、勤務を継続できるよう、このような環境作り・仕組み作りは今後も続けられる。こういった取組の広がりが、女性の活躍を後押しし、それがどのように企業活動に寄与していくのか、注目される。

JFEホールディングス(株)

コラム:キャリア教育アワード

経済産業省では、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」である「キャリア教育」の取組を推し進めている。具体的には、「職業体験活動」や「インターンシップ」といった職業に直接触れる体験だけでなく、国語・算数・理科などの授業の内容と実社会とのつながりを理解させる活動なども含まれる。

「キャリア教育アワード」は、企業や経済団体による教育支援の取組を奨励・普及するため、2010年度に創設した表彰制度であり、2011年度より最も優秀と認められる取組には経済産業大臣賞を授与している。

第5回キャリア教育アワード(2014年度)で優秀賞を受賞したスリール(株)は、「仕事と子育ての両立」について体験する機会の不足からくる「共働きへの漠然としたネガティブイメージ」を払拭するべく、職業選択前の大学生に対して「仕事と子育ての両立」のリアルを伝えるインターンシッププログラム「ワーク&ライフ・インターン」を実施している。

プログラムの核となる「両立体験プログラム」では、4ヶ月間にわたり月に数回、実際に共働き家庭にインターンに行くことで、「どうやって両立を実現させるか」などをリアルに体験する。共働きの家庭は学生にとってロールモデルとなり、ワーキングマザーとの会話から、長期的なキャリアに対する新しい視点を得ることができる。

女性にとって、将来の結婚や出産といったライフイベントにおいて、仕事を続けるかどうかは大きな選択である。このような取組が広まることによって、「キャリアを諦めずに仕事と子育てを両立できる」ということを具体的にイメージできるようになるのはないか。

キャリア勉強会

家庭でのインターンの様子

資料:スリール(株)提供

(イ)政府の取組

政府では、女性の活躍推進を最重要課題の一つに掲げ、「2020年までに、女性が指導的地位に占める割合を30%にする」ことを目標に様々な施策に取り組んでいる。

現状としては、我が国における役員・管理職の女性比率は、「管理的職業従事者」が11.2%、「役員」が2.1%と先進国の中で最低水準となっている。フランスやノルウェーが上場企業に対し、取締役会のクォータ制(女性比率30~40%)を導入するなど各国が積極的な取組を進める中、我が国も女性活躍推進に向けた取組を加速させていく必要がある(図123-22)。

図123-22 管理的職業従事者及び役員に占める女性の割合

また、2013年6月に策定された「日本再興戦略」、2014年6月に改訂された「「日本再興戦略」改訂2014」においては、待機児童対策や女性の活躍を促進する企業の取組を後押しするための施策を掲げ、取組を進めている。

例えば、企業における女性登用の「見える化」のため、有価証券報告書に役員の男女別人数と女性比率の記載を義務付ける内閣府令が2015年3月31日に施行された。

なお、働く場面での女性の活躍推進のための取組を加速化させるため、事業主たる国・地方公共団体、民間事業主といった各主体が、女性の採用状況や幹部への登用の状況など、女性の活躍に関する現状を自ら把握・分析し、数値目標の設定を含めた女性の活躍推進のための行動計画を策定・公表することなどを定めた「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」が2015年通常国会に提出された。

経済産業省では、女性の力を経済活性化につなげるために、「ダイバーシティ経営企業100選」と「なでしこ銘柄」の選定を2012年度から実施している。

「ダイバーシティ経営企業100選」は、女性を含め多様な人材の能力を活かして、イノベーションの創出、生産性向上等の成果を上げている企業を表彰し、ダイバーシティ経営の裾野の拡大を図る取組である。2012年度に43社、2013年度に46社、2014年度に52社を選定した(図123-23)。

図123–23 ダイバーシティ経営企業100選(2014年度表彰企業)

資料:経済産業省作成

「なでしこ銘柄」は、各社の取組を加速化していくことを狙いとして、東京証券取引所と共同で、「女性活躍推進」に優れた上場企業を、「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として業種毎に選定する取組である。2012年度に17社、2013年度に26社、2014年度は選定枠を拡大(企業数が相対的に多い業種については2社選定)し、40社を選定した(図123-24)。

図123–24 なでしこ銘柄(2014年度選定企業)

資料:経済産業省作成

また、各省庁及び各業界においても、建設業(けんせつ小町)、運輸業(トラガール)、農業(農業女子)といったこれまで女性活躍が少なかった分野において、表彰、普及啓発を行うなど女性が働きやすい職場作りに向けた取組を推進しており、製造業においても、素形材産業を始め、同様の取組を進めていく必要性が高まっている。

コラム:「素形材産業の競争力強化に向けた女性の活躍推進の取組指針」の策定

素形材産業の競争力の一つの源泉は、優れた技術・技能を支える人材にある。少子高齢化による生産労働人口が減少する中、素形材産業に求められる新たなニーズに対応していくためには、男女を問わず広い裾野から活躍できる人材を取り込むことが重要である。しかし、一方で子育てや介護なども考慮したワークライフバランスを実現し、男女・年齢を問わず誰にとっても魅力的な職場環境を創出することが課題である。

このため、経済産業省では、素形材企業の経営者や有識者、また他業界から成る「素形材産業における女性の活躍推進に向けた検討委員会」を開催し、素形材産業において女性の活躍推進を図る上での課題、その効果等を整理し、実際に女性が活躍している企業の取組例等を踏まえて、素形材産業の競争力強化に向けた女性の活躍推進の取組の方向性について、指針という形で策定した。

指針のポイント
1.マネジメント意識の改革◇女性活躍推進等に関する経営トップによる方針の明確化

◇理念・ビジョンの社内への浸透

2.誰もが働きやすい職場環境の整備(男女ともに働きやすい職場)◇仕事と育児・介護等の両立が可能な環境整備

◇女性の体力面への配慮や作業の危険性を軽減するようなハード面での対策等作業環境の整備

3.適材適所での人材活躍(男女を問わない社員の能力発揮)◇適材適所による製造部門や技術部門等幅広い職域への女性活躍の拡大

◇意欲ある人材に技術・技能の習得・向上の機会提供等人材育成の仕組み作り

◇複線的なキャリア形成を可能とする仕組み作り

4.人材獲得の裾野拡大(男女を問わない優秀な人材の確保)◇幅広い学校への積極的なPR等女性の継続的な採用

◇パート等から正社員への登用・再雇用・中途採用

なお、本指針を活用してもらい、素形材産業の競争力強化に向けた女性の活躍が推進されることを目的として、(一財)素形材センター主催、経済産業省後援による「素形材産業における女性活躍推進セミナー」を2015年4月24日に開催した。

本セミナーでは、指針を策定した「素形材産業における女性の活躍推進に向けた検討委員会」座長による基調講演「女性の活躍が企業の競争力を高める」と、女性活躍推進に積極的に取り組んでいる素形材企業等の経営者らを迎えパネルディスカッションを行い、全国の素形材企業等の関係者ら96名の参加があった。

素形材産業における女性活躍推進セミナーの様子

(ウ)ダイバーシティと女性活躍の推進の意義

ダイバーシティと女性活躍の推進を図る意義・効用は大きく次の4つがあると考えられる。

1つ目は、女性の積極的な採用・登用により、多様な市場ニーズに対応した商品やサービスの開発が促進されることである。2つ目は、組織の多様性を高めることによって、世界中の様々な市場への適応力を高め、リスクに対する耐性を高められることである。現に、「取締役会に女性が一人でもいる企業は、そうでない企業に比べ、破綻リスクが20%低くなっている」という調査結果もある。3つ目は、取締役会のダイバーシティがコーポレートガバナンスにおける重要な要素と認識されるようになっており、資本市場における評価の獲得、長期・安定的な資金調達につながることである。欧米の機関投資家の多くはダイバーシティを含むESG(環境・社会・ガバナンス)要因を考慮した投資を積極的に採用している。4つ目は、企業の採用・登用において、その母集団を拡大することにより、優秀な人材の確保につながることである(図123-25)。

図123–25 企業経営におけるダイバーシティ推進のメリット

資料:経済産業省作成

ダイバーシティと女性の活躍推進を図ることで、様々な効果がもたらされると考えられるが、実際、役員会の女性比率が高い企業は、女性役員がゼロの企業よりもROE(株主資本利益率)、EBIT(利払い前・税引前利率)が高いという調査もある(図123-26)。

また、経済社会における女性の参画が進んでいる国ほど、一人当たりGNIが上昇する傾向も見られる(図123-27)。

図123-26 女性役員の存在とROE、EBITの関係

図123-27 一人当たりGNIとジェンダーギャップ指数

製造業は他産業と比較しても女性の活躍が進んでいるとは言えない。女性活躍を始めとしたダイバーシティ推進への取組が、企業の継続的な発展に寄与することが期待される。

コラム:女性目線を生かして誰もが簡単に操作できる熟練技不要の「ダイヤモンド工具研削盤」を開発 (株)光機械製作所

(株)光機械製作所は、三重県津市内において工作機械の製造・販売を主業とする。専用研削盤の製造や切削工具のOEM生産を主力とし、高い技術力を生かして品質の高い製品づくりに努め、アジアのみならずアメリカやヨーロッパなど、海外へも輸出している。

ダイヤモンド工具研削盤は、物質の中で最も硬いダイヤモンドを刃先に持つダイヤモンド工具をダイヤモンド砥石というツールを用いて研削する機械である。その高い硬度と刃先の仕上げ精度から機械の操作には熟練者の勘と経験が必要とされた。しかし、製造現場において2007年問題など熟練者の引退が増え、同研削盤についても熟練工でなくても簡単に操作できる製品へのニーズが高くなっていた。

そこで、同社は2011年に「熟練技不要のダイヤモンド工具研削盤」の開発に着手した。通常の開発の場合には機械・制御等専門の男性の担当者で進めることが多いが、この新しい研削盤の開発には設計者、機械オペレーター、経営サポートから選抜した女性7名が関わり、新たな発想でプロジェクトを進めた。「誰もが簡単に操作できる」というのは、「腕力が弱い女性でも楽に使える」、「機械に熟練していない人でも使える」ということであり、開発にはこういった女性視点が役立った。

具体的には、女性社員の意見や感覚をもとに工夫され、①軽いハンドル操作、②押し易いボタンやそのレイアウト、③勘頼みの加工判断を画像で行う機能、④見やすい画面など、従来なら職人でなければ操作が難しかったものからシンプルな操作の機械となった。さらに、できあがった新製品は従来型のものから外観も機能も大きく異なり、機械のフォルムもゴツゴツしたものからソフトな美しいものに変わった。

また、同社では、社内「ものづくり道場」により、キサゲ(金属の平面を手作業で微細に削り仕上げること)等の熟練技能を若手、女性へ伝承し、高品質なものづくり、新製品開開発につなげるという取組もあわせて実施している。

今後、これまで男性中心であった職場でも女性が活躍していくためには、このような、女性でも扱いやすい工具の開発といった同社の取組は大いに参考になるだろう。

女性の視点を活かして開発した
「ダイヤモンド工具研削盤

熟練技能を伝承する「ものづくり道場」
(株)光機械製作所提供

 
コラム:障がい者は“戦力”、全社員の“インクルージョン”で、知らないが故に生まれる誤解や偏見をなくす (株)エフピコ

エフピコグループは、食品トレー容器の生産から配送・販売、関連資材の販売を行っている。また、スーパーなどから回収したトレーを白いもの、柄もの、不適品などに正確に分別した後、その中から選別したものを砕いて丁寧に洗浄し、溶かしてペレット状にし、それを原料に戻して表面に新しいフィルムを貼ることによって完成する「エコトレー」を製造している。

トレーのリサイクルには1990年から取り組んでおり、当初はトレーの選別を機械で行っていた。しかし選別の精度が十分でなかったため、障がい者による手選別を導入することとした。

スーパーなどから回収したトレー群をラインに投入するところから、危険物や不適品の除去、白物と柄物の区別、最終的な選別に至るまで、1ライン合計6名の障がい者が担当する。高速で流れるベルトコンベアを止めないように、各作業には速さと正確さが求められる。

1つのことに集中して取り組み、正確な作業ができるという知的障がい者の特性が活かされており、機械での選別と比べて選別誤差が格段に縮小された。

このように、福祉事業としてではなく、戦力として障がい者を雇用することで障がい者の能力を高めるとともに、会社の利益の中核となる基幹業務で能力を発揮することを可能としている。

(株)エフピコ提供

(2)地域を支える中堅・中小企業

ものづくり基盤の強化に向けて、人材育成・活用が重要であるが、これまで述べてきたとおり、少子化に伴う生産年齢人口の減少が続くことに加え、地方から都市部への人口流入も進んでおり、これらが地域の経済社会に及ぼす影響が大きくなると見込まれる。2014年における都道府県別の転入・転出超過数をみると、東京都は大幅な転入超過であるが、東京都以外で転出者数より転入者数が多いのは首都圏を中心とした6県のみであり、これら以外の40道府県では転出者数の方が多くなっている(図123-28)。

こうした状況の中、地域創生の観点から2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地方における安定した雇用を創出することが基本目標の1つに掲げられるなど、地方における雇用の受け皿としての企業の役割が期待されている。

図123-28 都道府県別の転入・転出超過数(2014年)

我が国における企業の総雇用者数をみると、総企業数の約386万社における常用雇用者数は3,759万人である。常用雇用者数を企業規模別にみると、雇用者数1,000人以上の大企業では1,196万人、雇用者数が1,000人未満の中堅・中小企業では、2,563万人が雇用されており、中堅・中小企業における雇用者数は大企業に比べて2倍程度多くなっている(図123-29)。

また、本社所在地域別に雇用者数をみると、雇用者数1,000人以上の大企業は三大都市圏に立地している割合が高く、雇用者数5,000人以上の大企業では、全体の6割超が三大都市圏に立地している。他方、雇用者数1,000人未満の中堅・中小企業では地方部に本社を構える企業の割合が高く、地方における雇用の受け皿となっている。特に、雇用者数が100人以上~1,000人未満の中堅企業は、雇用数が945万人と大企業と同程度の雇用者数を有しつつ、地方部に立地する割合が高く、地方の雇用創出において、重要な役割を果たしていることがうかがえる。

図123-29 中堅・中小企業の地域別の雇用者数

地方における雇用の受け皿として重要な役割を担う中堅企業には、国内の製造拠点を中心に製造しながらも特定分野の製品・技術に強みを持ち、ニッチな市場において国際競争力を有する企業が多数あり、地域経済の中核的な機能を果たすと同時に、我が国の輸出を支える優れた企業が多くみられる。このような中堅企業を各地域において振興、創出していくため、製造業における中堅企業の位置づけについて考察を行うこととする。

なお、ここでは製造業における中堅企業の定義として、年間売上高が1,000億円未満又は常用雇用者数が301人以上1,000人未満の企業を中堅企業(ただし、中小企業は除く)とする。

図123–30 本白書での中堅企業の定義(製造業)

企業規模 定義
大企業売上金額が1,000億円以上、又は常用雇用者数が1,000人以上の企業。ただし、中堅企業、中小企業は除く。
中堅企業売上金額が1,000億円未満、又は常用雇用者数が301人以上1,000人未満の企業。ただし、中小企業は除く。
中小企業売上金額が1,000億円未満、又は常用雇用者300人以下(ゴム製品製造業は900人以下)の企業

(参考1)ドイツの経営学者ハーマン・サイモンは、ドイツの中堅企業の中から特に優良な企業を「隠れたチャンピオン(HiddenChampion)」と呼び、①特定の分野で世界シェアが第1~3位、又は欧州で第1位、②売上高が40億ドル未満、③一般的にあまり知られていない、以上の3点を満たす企業と定義している。

(参考2)経済産業省が2013年度に実施したグローバルニッチトップ企業100選では、大企業のうち直近の会計年度の売上高が1,000億円以下の企業を中堅企業としている。

①製造業における中堅企業の位置づけ

全国の製造業の総企業数434,130社のうち、中堅企業数は約3,204社であり、製造業全体に占める中堅企業の割合は約1%である(図123-31)。

業種別に中堅企業数をみると、産業中分類別で最も多いのは「食料品製造業」524社で全体の16.4%を占めている。企業数の多い業種では、「輸送用機械器具製造業」が303社で9.5%、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」が261社で8.1%、「化学工業」が256社で8.0%となっている(図123-32)。産業小分類別に企業数の多い業種をみると、「自動車・同附属品製造業」が247社で最も多く、「その他の食料品製造業」が212社、「パン・菓子製造業」が128社と続いている(図123-33)。

図123-31 製造業の総企業数における中堅企業の割合

図123-32 産業中分類別の中堅企業数

図123-33 産業小分類別の中堅企業数

製造業全体の従業者数約1,004万人のうち、中堅企業における従業者数は約223万人であり、約22%を占めている(図123-34)。中堅企業1社平均では約696人を雇用していることになり、雇用の受け皿としての観点から、重要な役割を果たしていることがうかがえる。

従業者数が多い業種をみると、産業中分類別では企業数が多い「食料品製造業」が最も多く、約37万人で全体の16.7%を占めている。続いて、「輸送用機械器具製造業」が約22万人、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」、が約19万人、「化学工業」が約18万人となっている(図123-35)。産業小分類別に従業者数の多い業種は、「自動車・同附属品製造業」が約18万人で最も多く、「その他の食料品製造業」が約17万人、「パン・菓子製造業」が約9万人と続き、いずれも企業数と同じ傾向がみられる(図123-36)。

図123-34 製造業の総従業者数における中堅企業の割合

図123-35 産業中分類別の中堅企業の従業者数

図123-36 産業小分類別の中堅企業の従業者数

売上金額では、製造業全体の総売上金額の約343兆853億円のうち、中堅企業の売上金額は約77兆9,766億円であり、製造業全体の22.7%を占めている(図123-37)。

業種別では、産業中分類別に売上金額の大きな業種として、「食料品製造業」、「化学工業」、「輸送用機械器具製造業」の3業種が、製造業における中堅企業全体の売上金額に占める比率が10%を超えており、企業数や従業者数と同様に中堅企業の中では大きな位置づけとなっている(図123-38)。

付加価値額では、製造業全体の総付加価値額の約56兆4,659億円のうち、中堅企業の付加価値額は約13兆7,813億円であり、製造業全体の24.4%を占めている(図123-39)。

業種別では、産業中分類別に付加価値額の大きな業種として、「化学工業」、「食料品製造業」、「輸送用機械器具製造業」の3業種が、売上金額と同様に製造業における中堅企業全体の付加価値額に占める比率が10%を超えている(図123-40)。

以上について、中堅企業と中小企業を足し合わせてみると売上金額は約187兆5,967億円であり、大企業の売上金額である約155兆4,886億円を大きく上回っている。同様に、付加価値額においても、中堅企業と中小企業を足し合わせた金額は約38兆1,098億円であり、大企業の付加価値額の約18兆3,561億円を上回っており、経済効果の観点からは大企業以上に中堅企業と中小企業が重要な役割を担っていることがうかがえる。特に、中堅企業は製造業の総企業数に占める割合が1%程度にもかかわらず、売上金額、付加価値額とも製造業全体の2割超を占めており、雇用の受け皿としてだけではなく、経済効果の観点からも中堅企業が重要な役割を果たしているといえる。

図123-37 製造業の企業規模別の売上金額

図123-38 産業中分類別の中堅企業の売上金額と構成比

図123-39 製造業の企業規模別の付加価値額

図123-40 産業中分類別の中堅企業の付加価値額と構成比

雇用者1人あたりの経済効果を企業規模別にみると、中堅企業の雇用者1人あたりの売上金額は3,499万円であり、大企業の7,466万円の半分程度であるが、中小企業の1,914万円の2倍程度となっている。同様に、雇用者1人あたりの付加価値額は618万円であり、大企業の881万円と中小企業の425万円の概ね中間となっている(図123-41)。また、中堅企業は売上金額の全体平均3,418万円、付加価値額の全体平均562万円のいずれも上回っており、大企業ほどではないが、高い経済効果を生み出すことができるといえる。

図123-41 規模別の従業者1人あたりの売上金額・付加価値額

②地方で活躍する中堅企業

製造業企業の立地地域を企業規模別に比較すると、大企業は三大都市圏に立地する企業の割合が圧倒的に高く、全体の約82%が三大都市圏の立地となっている。中堅企業と中小企業は大企業と比較すると、三大都市圏以外の地方部への立地も多く、中堅企業は全体の約47%、中小企業は全体の約59%が地方部に立地している(図123-42)。

同様に雇用数をみると、大企業では三大都市圏に立地する企業の従業者数が全体の約83%を占めている。中堅企業と中小企業は大企業と比較すると、地方部に立地する企業の従業者数も多く、中堅企業は全体の約43%、中小企業は全体の約59%となっている(図123-43)。

このように、立地地域、従業者数ともに大企業は全体の8割超が三大都市圏に集中する一方、中堅企業は地方部で活動する企業の割合が高いことが特徴となっている。

図123-42 製造業企業数の地域別・企業規模別の割合

図123-43 製造業従業者数の地域別・企業規模別の割合

製造業企業がどのように立地地域を選定しているかについて、経済産業省が実施したアンケート結果をみると、中堅企業は「創業の地」が75.2%と最も高く、中小企業も同様に「創業の地」が最も高い割合78.6%となっている。大企業においても「創業の地」が51.7%と最も高いが、大企業では「交通アクセスのよさ」41.7%、「情報アクセスのよさ」25.0%が、中堅企業や中小企業と比較して大幅に高くなっている(図123-44)。

大企業は、都市機能を重視した立地理由を選択する割合が高く、これを受けて三大都市圏に立地する大企業が多くなっている一方、中堅企業は、創業の地に残って地域に根付いたビジネスを展開しており、地方部に立地する企業が多くなっていると考えられる。

図123-44 本社の立地理由

製造業企業の売上金額を地域別にみると、大企業では三大都市圏に立地する企業が全体の約86%を占めている。中堅企業と中小企業は大企業と比較すると、地方部に立地する企業の割合が高く、中堅企業は全体の約38%、中小企業は全体の約54%が地方部に立地する企業となっている(図123-45)。

付加価値額も同様の傾向がみられ、大企業では三大都市圏に立地する企業が全体の約84%となっている。中堅企業と中小企業は大企業と比較すると、地方部に立地する企業の割合が高く、中堅企業は全体の約38%、中小企業は全体の約55%が地方部に立地する企業となっている(図123-46)。

上記のとおり、売上金額、付加価値額のいずれも大企業は全体の8割超が三大都市圏に集中する一方、中堅企業は大企業よりも地方部の割合が高く、地域経済に与える影響が大きいことがうかがえる。

図123-45 売上金額の地域別・企業規模別の割合

図123-46 付加価値額の地域別・企業規模別の割合

都道府県別の売上金額における中堅企業の位置づけをみると、33道県が全国平均より高くなっている。特に島根県、石川県、宮崎県では製造業全体の4割強を中堅企業が占めており、中堅企業が大きな役割を担っていることがうかがえる(図123-47)。

同様に、都道府県別の付加価値額における中堅企業の位置づけをみると、23都府県が全国平均より高くなっており、山形県、石川県、宮崎県では中堅企業が高い割合を占めている(図123-48)。

図123-47 都道府県別の売上金額における中堅企業の割合

図123-48 都道府県別の付加価値額における中堅企業の割合

中堅企業が地域で担う役割に関して、製造業企業における調達額のうち主力工場が立地する都道府県と同一都道府県内から10%以上調達している企業の割合をみると、中堅企業の約7割、中小企業の約8割が同一都道府県内の企業から10%以上調達を行っている(図123-49)。他方、大企業の約4割は同一都道府県内の企業からの調達率が10%以下であり、地元との関連性が低い一方、中堅企業は地域に根付いたビジネスを行っており、地域経済の中核を担う位置づけとして重要な役割を果たしているといえる。

図123-49 全調達額のうち主力工場と同一都道府県内から調達している割合

コラム:地域を支える中核機能を担う中堅企業 多摩川精機(株)

多摩川精機(株)(長野県飯田市)は、長野県飯田地域の中小企業が精密機械加工の技術を結集し、地域一貫生産体制を可能とする共同受注体制「エアロスペース飯田」とともに飯田地域の航空機産業発展に貢献する中核企業である。多摩川精機は民間航空機用センサ、モータ、アクチュエータ並びに宇宙用製品の研究開発を行うとともに、徹底された品質管理のもとに生産を実施している。「エアロスペース飯田」との受発注関係を有するなど、共同受注生産体制の構築において重要な役割を果たしており、地域に対する貢献度が高く、地域の中核機能を担う中堅企業の代表例といえる。

資料:経済産業省作成

③中堅・中小企業の発展に向けて

これまで地方における雇用創出や地域経済の担い手として重要な役割を担う中堅企業の位置づけをみてきたが、地域を支える中堅・中小企業を取り巻く事業環境をみると、新興国や途上国が急速な成長を遂げており、ヒト・カネ・モノ・情報の流れが、これまでにない速さで世界的に広がりをみせている。地方にあってもグローバル化は不可避のトレンドであり、特に、地方の中核を担う中堅企業の発展にあたって、グローバル市場は挑むべき方向であると考えられる。

そこで、企業規模別に輸出の有無をみると、中堅企業は「輸出している」が半数を超える56.7%であり、中小企業の「輸出している」33.0%と比較して、多くの中堅企業が輸出を行っていることがわかる(図123-50)。他方、大企業は「輸出している」が96.7%であり、海外からも稼いでいることがうかがえる。地方部に多く立地しており、地域に根付いたビジネスを行う中堅企業、中小企業ではあるが、大企業に成長するには国内市場に加えて、輸出を通じて海外市場で稼ぐことが重要となっている。

図123-50 企業規模別の輸出の有無

輸出を行っている企業における直近の輸出金額の伸びについて、「大きく伸びた」と「やや伸びた」を足し合わせてみると、中堅企業は33.5%、中小企業は27.4%となっている一方で、大企業は53.6%と半数を超えている。特に「大きく伸びた」とする大企業は10.7%と中堅企業や中小企業に比べて大幅に高く、大企業は輸出を通じて海外市場での稼ぎを伸ばしていることがうかがえる(図123-51)。

図123-51 企業規模別の輸出の伸び

続いて、企業規模別に今後3年間の海外売上高の見通しをみると、「増加」、「やや増加」を考えている企業の比率は、大企業が87.8%と高い一方で、中堅企業は46.2%、中小企業は19.7%となっている(図123-52)。大企業の多くが成長する海外市場での稼ぎを増加させることを考えているのに対し、中堅企業の約3分の1、中小企業の約3分の2が「なし」となっており、海外市場で稼ぐことが検討されていない状況がうかがえる。

今後、中堅企業が地方の中核として、地域経済や我が国経済をけん引していくにあたり、成長するグローバル市場で稼ぎを出していくことが重要となっている。特に、中堅企業の中には、特定分野の製品・技術に強みを持つ企業も多く、競合相手の少ない特定分野に特化することで「グローバルニッチトップ企業」として、海外市場で稼いでいくことが期待される。

図123-52 今後3年間の海外売上高の見通し

コラム:成長する海外市場で稼ぐグローバルニッチトップ企業

経済産業省では、特定分野の製品・技術に強みを持ち、海外への輸出を中心に高い海外市場シェアと利益率を両立する、このような優れた企業を「グローバルニッチトップ企業100選」として2013年度に初めて顕彰を行っている。

グローバルニッチトップ企業の特徴として、特定の製品分野でトップクラスの世界シェアを確保し、海外市場での稼ぎ手であると同時に、雇用等の観点から我が国の経済への貢献に対する高いポテンシャルを有しており、今後、このようなグローバルニッチトップ企業をより多く創出していくことが重要である。

「グローバルニッチトップ企業100選」の表彰企業概要
・津田駒工業(株)(石川県金沢市)

1909年創業以来、最先端の織機開発にこだわりグローバルブランドへ

1909年の創業以来、高品質な織物を織る織機の開発において、シャットル織機、レピア織機、ジェットルームと常に最新技術の開発にこだわり業界をリードしてきた。世界的な人口増加の中で成長する繊維産業において、主力製品であるジェットルームの売上は9割が海外市場向けであり、すでに60カ国以上へ輸出され、その織物は世界的な高級ブランド衣料から産業資材まで幅広い分野で使用されている。

津田駒ジェットルームの最大の強みは、1分間に1,000本以上の緯糸を織り込む高速性と、あらゆる織物を製織する汎用性、10年、20年と高品質の織物を織り続けることができる耐久性であり、その織機稼動を支える部品加工技術と高度かつ独自の電子制御技術である。加えて、グローバルなネットワークを持つサービス体制によって、市場から高い信頼を得ている。さらにわが国唯一のサイジングマシンメーカー(ジェットルームの経糸に糊付けをする機械)として、近年流行の極軽量ダウンジャケットなどに使われる極細糸に糊付けする世界初の「低張力制御」技術を確立するなど、長繊維糸用サイジングマシンの世界シェアは9割を占める。

また、1937年からスタートした工作機械関連製品も、わが国の工作機械業界の成長とともに技術開発を進め、今日、高精度NC円テーブルの生産額では国内の4割程度のシェアを占めている。また、航空機産業の拡大に伴い、従来からある工作機械周辺装置の技術展開を進め航空機等の大型部材用の物流システム(APC=オートパレットチェンジャ)の製品群の拡大を図っている。

さらに複雑な電子制御と機械構造を持つ織機開発のノウハウを活用して日本初の炭素繊維複合素材の自動積層機や、スリッター、ドレープ装置など開発に成功し、航空機産業に採用されるなど、優れた技術とグローバル経験を活かした新規事業の展開を進めている。

ウォータージェットルーム

・ダイソー(株)(大阪府大阪市)

1915年の会社設立から独創的なものづくりを通じて、ダップ樹脂のオンリーワンメーカーに

会社設立の1915年当時に、世界最新技術であった電気分解法によるかせいソーダの工業化技術を確立し、日本におけるクロール・アルカリ事業の開拓者として、わが国の産業振興へ貢献してきた。創立100周年を迎える現在まで、独創性を重んじたものづくりに取り組み、事業領域を基礎化学品から高機能化学品、ヘルスケア関連まで幅広く事業を展開している。

代表製品の一つである、飲料パックの印刷用UV硬化インキなどに配合されるダップ樹脂は、愛媛県の松山工場にて原料であるアリルクロライドから一貫生産しており、現在の世界市場のシェアは100%を誇っている。ダップ樹脂は、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性など多くの優れた物性を持つことから、建材や高度な品質レベルが要求される電子・電気部品まで幅広い産業分野に使用されている。また、UV硬化インキに配合することで優れた速乾性等の特性が得られるため、多くの飲料パックの印刷にも使用されるなど身近な製品でもある。

この汎用性のあるダップ樹脂の製造にあたり、独自に開発した重合、精製技術の積み重ねによる製造コストの削減、様々な分子量のダップ樹脂の高品質かつ安定的な生産に成功することで他社に競り勝ち、今では海外市場を含め、ダップ樹脂のオンリーワンメーカーとしての地位を築いている。

ダップ樹脂とUV硬化インキ用途

以上のように、中堅・中小企業が我が国の輸出の担い手となって成長する海外市場において稼ぐことにより、調達面・雇用面における地方への大きな波及効果が期待できる。今後、地方における雇用創出や地域経済の担い手として、極めて重要な役割を果たす中堅企業の振興を図るとともに、このような中堅企業をより多く創出していく観点から、関係省庁が連携し、一貫した政策を通じて地域を支える中堅・中小企業を積極的に支援していくことが重要である。

コラム:地方の中核となる中堅・中小企業への支援パッケージ

中堅・中小企業の振興とグローバル展開を後押しすべく、政府は2014年12月に省庁横断的となる「地方の中核となる中堅・中小企業への支援パッケージ」を取りまとめている。今後、地方の中核となる中堅・中小企業が、グローバル市場を目指した戦略を実現しやすい環境を整備するため、関係省庁が連携して、人材の確保・育成から、製品開発・生産、活躍舞台の国際化まで、一貫した支援を実施することが重要である。

具体的には、中堅・中小企業による海外展開を支援する観点から、海外販路を開拓してグローバルニッチトップ企業を目指す企業の製品やニーズに合わせて、(独)日本貿易振興機構(ジェトロ)が海外ビジネス経験の豊富な民間出身の専門家を派遣し、海外輸出の戦略づくりから成約に至るまでの一貫した支援を実施するなど、多様な施策がまとめられている。

中堅・中小企業の発展に向けた施策体系

備考:詳細は「地方から世界への飛躍」パンフレットを参照。 http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/seizou/pdf/003_s03_02.pdf
資料:経済産業省 作成

(3)新たな担い手の育成

①ベンチャーを取り巻く環境

我が国の産業が、「稼ぐ力」を取り戻し、激しい国際競争に打ち勝っていくためには、成長分野への投資や雇用のシフトが重要である。既存企業の改善だけでは、日本企業の体質や慣行を一変させることは困難であることから、産業の変革のためにはベンチャー企業の育成が必要となる。産業の変革の旗手たるベンチャー企業が、技術、アイデア、人材を最大限に活用し、新たなフロンティアに果敢にチャレンジすることで、既存の大企業や地域を巻き込んだイノベーションの発生が期待される。

ただし、我が国の開廃業率は、英米の約半分程度であり、新陳代謝が進んでいないのが現状である(図123−53)。また、米国では、経済を牽引する代表的な企業の約3分の1は、1980年以降設立の新しい企業であり、こうした新しい企業の時価総額は約3.8兆米ドルと米国GDPの2割を超える規模になっている。一方我が国では、企業数は約8分の1、民営化・合併・ホールディングス化などの新規設立以外の企業を除いた時価総額は約700億米ドルにしか満たない状況である(図123−54)。

ベンチャー企業が次々と生まれ、世界をリードする新産業が創出され、経済のメインプレーヤーとして十分に活躍していくことが経済の好循環を回すうえで極めて重要である。

図123-53 開廃業率の比較

図123-54 世界トップ2,000社(Forbes Global 2,000)のうち、1980年以降に設立された企業数と時価総額の比較

②ものづくりベンチャーを取り巻く環境

ベンチャーといえばIT関連企業が多くを占め、ものづくり分野は少ないのが現状である。ITベンチャーと比較してものづくり分野で起業がしにくい点には、試作品の作成・改良に手間とコストがかかる、設備投資など大規模なコストがかかる、投資回収まで時間がかかる等が挙げられる。

一方で、ものづくり分野でも起業がしやすい環境が整ってきている。新ものづくり研究会報告書(2014年2月)でまとめたように、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション機器の普及により、試作品がすぐにできるようになり、また、クラウドファンディングや量産工場等とのネットワークにより、大企業のような設備投資や工場、サプライチェーンを持たずに量産品を作り、販売することができるようになったことで、ものづくりの裾野が拡大しており、ものづくりに参入するプレイヤーが拡大しつつある。

具体的には、デジタルファブリケーション機器やそうした機器を備えたファブラボなどの拠点の普及、部品調達・試作・製品試験・少量生産まで可能な設備があり資金調達・技術や事業のメンタリングが受けられる「DMM.make AKIBA」の登場、さらに、部品のモジュール化、ネットによるグローバルな仕入れ交渉の容易化、組み込み用のオープンソース・ソフトウェアの登場、量産工場における最低受注量の低下により、設備産業である製造業への参入のハードルが低下している。

また、新しい製品をいち早く紹介するメディア、新製品をいち早くグローバルに小売店に展開する販売事業者の登場、ソーシャルメディアの普及、グローバルなECサイト(Amazon等)が普及したことで、「CES」などの展示会に出品してマーケティング・PRを行い、クラウドファンディングにより商品を開発・生産・グローバルに販売、SNS等を通じて販売事業者を獲得又はECサイトで世界同時販売していくことが可能になった。

こうした環境変化に伴い、「さっさと作って、さっさと売ってみる」という「新しいものづくり」のやり方で、世界市場に対して新しい製品を提供するベンチャー企業等が登場してきている。こうした企業の特徴は、意思決定の早さ、それに伴うアイデアの実体化と商品化のスピードの早さである。イノベーションへチャレンジする、新分野でチャレンジするこうした企業、担い手を育成することが我が国産業の新陳代謝のためにも重要である。

上記問題意識を元に、経済産業省では2014年度に「フロンティアメイカーズ育成事業」を実施。先輩起業家等が公募により選定したものづくりベンチャーの卵をメンタリング(伴走型)支援し、ものづくりベンチャーの卵が新しいものづくりをグローバルに実施しその過程を報告することを通じて、ものづくりベンチャー創出・育成における課題を調査した。以下では、こうした調査等を基に、ものづくりベンチャーと彼らを取り巻くエコシステムの課題と今後の方向性をまとめる。

③ものづくりベンチャーと彼らを取り巻くエコシステムの課題と今後の方向性

アイデアソンやハッカソン、メイカソン等の隆盛によって、ものづくりに参入するプレイヤーが拡大しつつあるものの、ビジネスの担い手はまだまだ少ないのが現状である。

こうした現状を打破するには、先輩起業家から後輩起業家へのメンタリング(伴走型)支援が非常に重要である。特に、ものづくりにおいては、量産化のノウハウ、量産工場等とのネットワーク、試作品や量産品のPR、クラウドファンディングにおけるノウハウ等が成功率を高めるために必要であり、メンタリング(伴走型)支援の仕組みを構築できれば、ものづくりベンチャーの成功率を上げていくことができると思われる。なお、メンタリング(伴走型)支援の仕組みの構築においては、アクセラレーターの存在が重要であるが、日本ではまだ少ないのが現状である。

また、日本には製造大企業や町工場の集積などがあり、量産・製品開発拠点として大きな力をもっているが、ものづくりベンチャーとの協業はまだ十分とはいえない。製造大企業や町工場の集積とものづくりベンチャーとのネットワーク構築を促し、日本での量産・製品開発環境を向上させることで、国内外を問わずものづくりベンチャーを集積させ、日本でものづくりベンチャーの永続的なエコシステムを形成すること、日本がグローバルなエコシステムのコアとなることが重要である。

なお、ものづくりベンチャーに求められる能力の代表的なものとして、①製造に関する基本言語・知識、②試作品や量産品のPR能力、③プロジェクトマネジメント能力、等が挙げられる。

製造に関する基本言語・知識について、ものづくりベンチャーは、国内外の工場に試作や量産を依頼することが多いが、その際に、基本言語・知識を理解していないがために会話がかみ合わず、適正なコストや工数、実現可能なデザインと設計との乖離が発生することが往々にしてある。特に、少量の試作品と量産を見据えた量産試作品で実現可能なことの違い、量産化に伴う工場選定や品質コントロールに関する知識は、不可欠なポイントである。

試作品や量産品のPRについて、特に、試作段階からのPRの重要性を理解し、いかに世間の注目を集め、メディアが積極的に取り上げてくれるのかなどを熟知しておくことは、リソースの少ないベンチャー企業が製品を世界に認知してもらい、買ってもらう上で非常に重要なポイントである。

プロジェクトマネジメント能力について、ものづくり分野ではIT分野と異なり、設計・開発、試作、量産にいたるまで、異なる専門分野を職能として持つ人材・主体との連携が必要であり、全体をマネジメントするプロジェクトマネージャーの存在が重要である。

さらに、IoTベンチャーが登場してきており、ユーザーとのインターフェースとなるプロダクトからユーザーの情報を獲得し、ユーザーへの付加価値の高いサービスの提供につなげているなかで、ハードとソフトの両方を組み合わせて、ビジネス全体をデザインできる能力がますます重要になってきている。

コラム:「商品企画にPR戦略は必要不可欠」誰もが話題にしたくなるような製品設計と緻密なPR戦略・・・(株)Cerevo

「1か国で100台しか売れなくても、100か国で100台売れば1万台になる。」代表である岩佐氏がこう語るように、グローバルニッチに稼ぐのが家電ベンチャーの(株)Cerevoだ。汎用な部品を他社から調達し、顧客ニーズのコアとなる設計は自社で実施、SNS等により世界のニッチなマーケットを把握し、機能を絞った製品をスピーディーに投入している。

グローバルニッチ戦略で注目を集めることが多い(株)Cerevoであるが、それを支えるのが、緻密なPR戦略だ。技術的に良いものを作るのももちろん重要であるが、その先の売り方を考えながら製品開発をしなければ、売れる商品は作り出せない。

例えば、2015年1月に開催された「CES」において(株)Cerevoが出展した「SNOW-1」は、「Top Tech of CES 2015 award」のSports & Fitness部門を受賞した。「SNOW-1」は、Bluetooth通信モジュール等を搭載したスマートフォン連携型のスノーボードバインディング。荷重センサーで足裏荷重バランスを計測、ボードのたわみを分析することで、滑りのテクニックを可視化することができる。市場調査としてスノーボーダーが集まるコミュニティサイトでの交流などで、製品のコンセプトに確かな手応えを感じて開発に踏み切った。また、開発段階では、外付けのアタッチメントで十分という社内意見もあったが、話題にしてもらうためには、多少コストがかかったとしても、バインディングとして一体化をすることで、ビジュアル的な訴求力を追求することが大事であると判断、バインディングとしての製品化にこだわった。さらに、ベンチャーでありながら、PR経験者が在籍、プレスリリース、展示会への出展方法等に関して、PR方法を商品企画の段階から構想し、積極的な仕掛けを繰り返している。

ニッチ層が強烈に欲しがるものを作ること、そのうえで、皆が興味を持ち話題にしてくれるような製品設計にすることで、製品のコモディティ化が急速に進み、価格競争に陥りがちな社会でも、値崩れをおこさずに稼ぎ続けるのが(株)Cerevoの強みである。大企業と比べて資金が限られているベンチャー企業にとって、自社製品を戦略的に市場にアピールする(株)CerevoのPR戦略は大きな参考になるだろう。

SNOW-1

「CES」にて製品説明をする岩佐氏

資料:(株)Cerevo

コラム:安価な義手を世界中に届けたい・・・イクシー(株)

一般の人にも手が届く安価な義手作成を目指し設立されたイクシー(株)(以後、exiii)。筋電義手「handiii」を開発するベンチャー企業で、立ち上げたのはソニーとパナソニック出身の技術者。在職中の2013年6月に、本業とは別に趣味でものづくりをしたいという話で盛り上がり、創設者の一人である近藤氏の大学時代の研究テーマであった筋電義手で、2013年7月に開催されたジェイムス・ダイソン・アワードのコンテストに3人で応募したのがきっかけ。ここから、「Maker Faire Tokyo 2014」の展示会など、目標を決めては試作のクオリティーを上げる活動を行ってきた。開発を進めるうちに製品の実用化を目指すには、3人がフルコミットしなければ不可能だと感じ、2014年の6月頃にそれぞれ退職、exiii創業に至った。創業の決め手は森川氏という、実際に手をなくした方から実用化してほしいという希望の声を聞いたためで、まずは森川氏に製品を届けることを目標とする。

現在開発中の筋電義手は、スマートフォンによる動作制御、モーター数の削減による軽量化、3Dプリンタの活用等によって、従来100万円以上した筋電義手を低価格化することを目指している。

義手であることを隠すのではなく、一つの個性としてアピールする事を目指したデザインは非常にスタイリッシュなもので、「iF GOLD award 2015」にも選出、世界的にも認められている。また、2015年1月にはクラウドファンディングにおいて、5日で目標額の70万円を達成。最終的には目標額の5倍となる350万円を調達し、開発を加速化させている。

非常にニッチな市場ではあるが、グローバルに見れば十分にスケールする市場。exiiiが安価だが高性能な義手を世界に届ける日も近い。

筋電義手の実用モデル「HACKberry」

試作モデル

iF GOLD award 2015選出

SXSW(サウスバイサウスウエスト)出展

資料:イクシー(株)

コラム:こだわり抜いたデザインでグローバルニッチに勝負・・・zecOO(ゼクウ)

これまでにない電動バイクが秋葉原で誕生した。その名も「zecOO(ゼクウ)」。一般的な電動バイクは近距離移動や宅配等を想定したものが中心であったが「zecOO」は電動バイクのイメージを180度変えた。

まず、目を引くのがこれまでにないバイクと強く印象づけさせるようなデザイン性である。デザインには一切の妥協をせず、熟練した職人の技とともにすべてハンドメイドで組み立てられている。非常に特徴的なこのスタイリングは、そのユニークなメカニズムによって成立している。電気バイクならではの斬新なフレーム構成や、バッテリーの重量を少ない姿勢変化で受けとめるためのハブセンターステアリングは、その代表例である。部品やその配置の調整には困難が伴ったが、デザインだけは譲れないという思想を貫き通し、「zecOO」は体現された。

また、電動バイクの大きな魅力のひとつは、その圧倒的な加速性能である。「zecOO」のパワーユニットは、最大トルク144Nmを生み出すものを搭載、電動バイクならではのスムーズで途切れのない加速感を生み出すことを可能にした。

税抜き価格888万円、限定49台の発売と究極にグローバルニッチな製品であるが、海外から広く注目を集めているという。ニッチかつ高額な製品でもベンチャーがチャレンジできる環境が整ってきたことで、今後もこのような企業が増えることが期待される。

大型スポーツ電動バイク「zecOO」

資料:zecOO

コラム:センサーとLEDを内蔵した光るスマートシューズシステム「Orphe」・・・(株)no new folk studio

9軸モーションセンサー、Bluetoothモジュール、100個以上のフルカラーLEDなどを内蔵した「光る靴」が誕生した。スマートシューズシステム「Orphe」は、もちろんただ靴が光るだけではない。スマートフォンやタブレットのアプリを使い、LEDを制御、自由自在なコントロールが可能なのである。また、動きに応じた音楽演奏、映像演出のコントロールをするなど、ダンスパフォーマンスに新たな表現手法を提供できる可能性がある。さらに、ユーザーがデザインしたカラーパターンや音などをインターネット上でシェアするサービスや搭載されたセンサーによってダンサーのモーションを記録し、コンテンツ提供する予定としている。オープンな環境下でパフォーマーたちによる独創的な開発が進んでいくことが期待される。

大量の電子部品を靴に内蔵することにはかなりの苦労が伴ったが、靴職人を開発チームに招き入れ、エンジニアと靴職人が綿密に連携を取ることにより、ミニマルなデザインの中にインターフェースとしての機能とスニーカーとしての機能を両立させることに成功した。既にクラウドファンディング「Indiegogo」での資金調達に成功しており、2016年には一般販売も予定している。

靴という現代社会においては究極的にウェアラブルなものが、デバイスとして世に送りだされる。今後、あらゆるものがウェアラブルデバイス化していく流れのひとつの象徴と言ってよいだろう。

光るスマートシューズシステム「Orphe」

「Orphe」によるダンスパフォーマンス

資料:(株)no new folk studio

コラム:クラウドファンディングで市場規模を把握、「適量生産・適量販売」でグローバルに勝負・・・(株)FOVE

世界初の視線追跡機能を搭載するヘッドマウントディスプレイ(HMD)を開発中の(株)FOVE。3次元の仮想空間を360度見渡すことができ、内部カメラがユーザーの眼球の動きを検知することで、視線による3次元上の座標特定・操作を可能とするものである。

同社は、日本企業として初めて「Microsoft Ventures」によるアクセラレータープログラムに採択された。そのうえで、同社はクラウドファンディング「Kickstarter」に2015年5月に出展し、わずか3日で目標金額の25万米ドルの調達に成功した。Microsoftという強力な後ろ盾がありながらもクラウドファンディングを行うのには、もちろん資金調達という目的もあるが、VRユーザーが視線追跡機能を本当に必要としているのか把握をするためのマーケティングの観点から行う意味合いが強いという。同社への資金提供者のひとりである(株)ABBALabの小笠原氏が「クラウドファンディングで調達することができた資金の10倍は市場規模があると考えてよい」と語るように、どれだけの市場規模があるのか推し量ることが資金調達とともにできるようになったのである。

クラウドファンディングによって、資金集め、製品PR、市場規模を把握した後は、「適量生産・適量販売」でグローバルに稼いでいく。このような流れが、ものづくりベンチャーの世界でますます加速化していくものと思われる。

視線追跡型HMD「FOVE」

資料:(株)FOVE

コラム:「緩まないねじ」で有史以来のねじの構造に革新を起こす、ものづくりベンチャー企業・・・(株)NejiLaw

(株)NejiLaw(東京都江東区)は、ねじ等の接合技術の開発やライセンシングを手がけるベンチャー企業である。

有史以来、ねじは、我々の生活のあらゆる場面において、あまりにも身近な存在で、誰もがその構造を変えようとは思わなかったが、同社は従来とは全く異なる発想で革新を起こそうとしている。

ねじには「緩み」という問題があり、多くの場合、螺旋構造で摩擦力によって緩みにくくするものであった。しかし、同社は螺旋構造がないボルトを、特殊な三次元構造で左右回る向きが異なるナットで締めることで、構造的に「緩まないねじ」を開発することに成功した。このナットのバリエーションは多数有り、いずれも緩みを生じさせるような作用があった際には、それがどのような向きの作用であってもナット同士が、より強固に締め付け合うように結合して、機械構造的に緩まない状態になる。さらには、ナット1つでも同様の効果を発揮するタイプまで開発している上、「緩まないボルト」も発明しており、ねじやボルトに関連した100 件を超える構造、製造から検査プロセスにわたる広範な知的財産を創出している。

これらの「緩まないねじ」は、ねじの緩みから生じるトラブルや事故等を低減することで安全・安心に貢献しつつ、点検等によるメンテナンスコストを大幅に削減することにつながるものであり、東京都ベンチャー技術大賞を受賞するなど外部からの評価も高い。また、現在、(株)産業革新機構や大手が運用するファンドからも大型出資を得て、大手企業との量産システムの確立に向けた共同開発も進めている。

同社代表取締役社長の道脇裕氏は、「自社での製造販売のみならず、ライセンス供与、製品・分野ごとのパートナーとの共同事業運営も視野に、緩まないねじを含むファスニング関連分野に係るものづくり全体のイノベーションの実現を目指す」としている。

「緩まないねじ」

「緩まないねじ」の仕組み

資料:(株)NejiLaw

コラム:世界のニッチ市場で勝負するものづくりベンチャー「フロンティアメイカーズ」

ものづくり分野でも起業がしやすい環境が整ってきており、新ものづくり研究会報告書(2014年2月)でまとめたように、3Dプリンタなどのデジタルファブリケーション機器の普及により、試作品がすぐにできるようになり、また、クラウドファンディングや量産工場等とのネットワークにより、大企業のような設備投資や工場、サプライチェーンを持たずに量産品を作り、販売することができるようになったことで、ものづくりの裾野が拡大しており、ものづくりに参入するプレイヤーが拡大しつつある。

こうした環境変化に伴い、「さっさと作って、さっさと売ってみる」という「新しいものづくり」のやり方で、世界市場に対して新しい製品を提供するものづくりベンチャー企業等が登場してきている。経済産業省では、こうしたものづくりベンチャー企業等を「フロンティアメイカーズ」と名付け、2014年度に「フロンティアメイカーズ育成事業」を実施した。先輩起業家等が公募により選定したフロンティアメイカーズの卵10名(9件のプロジェクト)をメンタリング(伴走型)支援し、ものづくりベンチャーの卵が新しいものづくりをグローバルで実施しその過程を報告することを通じて、ものづくりベンチャー創出・育成の過程や課題等を調査し、最終的な活動の成果報告をリアル(東京、大阪、仙台、福岡の4地域)とネット(フェイスブック)で実施した。

2014年度プロジェクトマネージャー(先輩起業家等)

所属氏名
(株)Cerevo 代表取締役CEO岩佐 琢磨
(株)nomad 代表取締役小笠原 治
慶應義塾大学 環境情報学部 准教授田中 浩也
(株)ロフトワーク 代表取締役林 千晶
(株)トーンアンドマター 代表取締役広瀬 郁

資料:経済産業省

2014年度採択者・プロジェクト

No海外派遣者氏名(年齢※)海外派遣者所属※プロジェクト名
1青木 翔平(28)東京大学大学院市民クリエーターのための汎用動力ユニットのキット開発
2飯島 祥(21)九州大学自作アンプが生活を変える
3石渡 昌太(30)機楽(株)かわいいロボット掃除機の製品化
4岩本 尚也(26)早稲田大学大学院立体ステンドグラス作成支援ツールの開発
5武居 弘泰(25)大阪大学大学院一般消費者向け超小型プラズマ殺菌装置の開発とニーズ調査
6中澤 優子(29)CAFE by PREGO / Planning Studio by PREGOX Ben I the next bento-box
7久川 真吾(35)(株)鳥人間オープンソースDNA増幅機「NinjaPCR」の海外量産・セールス確立
8増田 恒夫(58)
徳島 泰(36)
(同)SHC設計国際協力機構等3Dスキャン・プリント技術を用いた途上国用低価格義足の開発
9山田 修平(34)(株)アップパフォーマサッカー選手とチームの軌跡を記録するウェアラブル端末の試作とアップデート、ユーザテスト、製造に向けた準備の実施

※年齢・所属は申請時のもの
資料:経済産業省

海外派遣者の多くは、「アイデア~設計」・「設計~試作」領域を行き来しながらデジタルファブリケーション等を活用した製品プロトタイプの製作・改良を行った。また、製作したプロトタイプを用いて、「CES」等の世界的な展示会への出展や現地インタビュー等によるユーザーからのフィードバック獲得により製品をさらにブラッシュアップさせ、製品を応援してもらうためのPRの実施等を行った。また、現地の文化・人々との交流を通じ、製品を提供する地域における価値観・製造環境などの理解を深めた。

「量産試作・量産」領域では、量産工場への訪問、量産ノウハウを持つ方々との交流を通じ、量産を見据えた設計の見直しや量産工程の全体像の把握を行い、今後のビジネス展開に必要な、部品の調達、生産工場の選定、物流、販売に至るまでのサプライチェーンをグローバル最適に構築するためのネットワーキングを行った。

海外で行った新しいものづくり活動、プロジェクトマネージャーの支援内容

海外で行った新しいものづくり活動の成果

資料:経済産業省

コラム:自動車や半導体で使われていた工業材料を「感性素材 BLANC BIJOU」としてフランスでブランド化、日本の素材力で新たな市場を開拓・・・NiKKi Fron(株)・(株)hide kasuga 1896

1896年創業のNiKKi Fron(株)(長野県長野市)は自動車や半導体の製造に必要とされる工業用材料をつくるものづくり老舗企業で、強酸でも変質しない耐熱性、耐薬品性に優れたフルオロポリマー(フッ素樹脂)という素材を扱っている。2009年にその創業家四代目社長に就任した春日秀之氏は、この素材が持つ「永遠の白さ」に着目。100年経っても変質しない純白、独特の手触り感(質感)、蛍石という希少な鉱石から作られる希少性といった神秘性に市場価値を見出し、感性素材「BLANC BIJOU」(フランス語で白い宝石という意味)として世の中に送り出した。

まず、アートの分野で使える素材としてフランスでブランドを立ち上げ、2012年に世界屈指のインテリアの見本市【メゾン・エ・オブジェ】でグランプリの「ハイライト・マテリアル」を受賞。そして、蛍石の原石からパウダー状に粒子化し、成形、焼成、表面仕上げ、切削、職人の手による仕上げという一連のプロセスを前面に打ち出すことで、「BLANC BIJOU」はアートとしてのみならず、日本のものづくりの底力としてフランス人を魅了した。世界ブランドとして発信していくため、NiKKi Fron(株)の工場も115周年記念事業としてリニューアルし、永遠に白い素材を生み出す工場にふさわしい空間を作り出し、この素材に魅了されて長野までやってくる海外からの来訪者に感動を与えている。

フランスで認知された「BLANC BIJOU」の国内ブランド化に全力を注ぐため、春日氏は現在NiKKi Fron(株)の経営を離れ、(株)hide kasuga 1896という「BLANC BIJOU」の企画運営をする会社を立ち上げ、三越・伊勢丹百貨店などで取り扱われる商品開発にも成功している。自動車産業や半導体産業の内製部品として人目に触れることがなかった素材を感性素材として商品化することで、足元に眠る日本の素材力をもっと昇華させて付加価値を生み出すことができるはず、と春日氏は主張している。

信州の大自然に囲まれた「永遠に白い工場」

BLANC BIJOUの初彫刻作品
JOKIO(うさぎ)
ジャック・オブザレック作
資料:(株)hide kasuga 1896

 
コラム:デザインとエンジニアリングの両分野に精通するデザインエンジニアが集うクリエイティブ・イノベーション・ファーム・・・(株)タクラム・デザイン・エンジニアリング

(株)タクラム・デザイン・エンジニアリング(東京都港区)は、デザインとエンジニアリングの両分野に精通するデザインエンジニアを中核に、建築家やグラフィックデザイナー、サービスデザイナー等の多様なプロフェッショナルが集うクリエイティブ・イノベーション・ファームである。

同社は、田川代表が、大学でエンジニアリングを学んだ後、英国Royal College of Art(RCA)のInnovation Design Engineering (IDE)に留学し、デザインとエンジニアリングの両分野を体系的に学んだことから、当時の日本では完全に分断されていたデザインとエンジニアリングを一貫して出来ないかと考え、2006年に共同創業。現在、東京表参道をベースに、英国ロンドンにも拠点を設け、総勢40名のメンバーが、多様なプロジェクトに取り組んでいる。

ハードウェアからソフトウェア、サービス、スペース、ブランディング、組織の教育プログラムまで、さまざまな企業・ベンチャー・組織から、多様な相談が日々持ち込まれており、プロジェクトでは、チェンジメーカーたちと協力し、創造と変革に取り組んでいる。

特に、具体的なメソッドとして、製品の新たなコンセプトを生み出し、そのコンセプトを短期間で具体的な製品やサービスに育て上げる「プロトタイピング」を重視している。今後、コンシューマー向けビジネスの処方箋の一つとして浸透していく可能性が高い。

田川代表は、「デザインエンジニアリングは、才能がある人だけが出来ることではなく、体系化したプロセスとして、人材育成の再現性を高めることが重要。今後は、BTCトライアングル、すなわち、ビジネス(Business)、テクノロジー(Technology)、クリエィティブ(Creative)の3要素の混合・配合率を柔軟に変えることで、ゼロから1を生み出すことが求められる。その中で、我々が人材輩出のプラットフォームとなり、10年で多くの人材を育て、産業にイノベーションを起こす。日本、東京を世界と伍して戦えるデザインエンジニアリングの拠点として、新たな産業が立ち上がる局面に関わりたい。」と強い想いを語った。

同社の事業イメージ

BTCトライアングル

資料:(株)タクラム・デザイン・エンジニアリング

④大企業発ものづくりベンチャーや大企業とものづくりベンチャーの連携

大企業には人材、資金、技術等が潤沢にあるが、既存事業の収益目標もあるため、既存事業と市場が重なる、もしくは既存事業に将来置き換わる可能性がある新しい事業や製品分野に資源投入しにくい傾向にある。また、会社の競争力の源泉ともなっている確立されたブランドイメージを大事にするため、斬新なアイデアや製品を世に出しにくいという面もある。

こうした状況を打破するための方策としては、大企業発ものづくりベンチャー、大企業とものづくりベンチャーとの連携、大企業の経営層の事業評価の方法の改革等が考えられる。

まず、大企業発ものづくりベンチャーであるが、別会社として新規事業・製品を既存事業・製品と切り分けることで、既存事業との関係や確立されたブランドイメージとの関係などで世の中に出すことができないアイデアや製品について、実現することが可能となる。

また、大企業とものづくりベンチャーとの連携であるが、大企業には有効活用されていない知財・アイデア・技術・人材が存在し、こうした資源をベンチャー企業に拠出し、それにより新しい事業や製品を世に出していく事例も出てきている。特に、イノベーションを起こすマインドを持っているにもかかわらず、大企業に長年在籍しながら世の中に自分が設計した製品を出したことがない人が大企業には少なからず存在している。そうした人材がアイデアの事業化・製品化にチャレンジする場として、ベンチャー企業を活用することも重要であると考えられる。

なお、大企業発ものづくりベンチャー、大企業とものづくりベンチャーとの連携においては、ベンチャーの優位性でもある意思決定のスピードや既存事業に将来置き換わる可能性がある新しい事業・製品の実現力という強みを消さないように、大企業本体があまり口をださないことが重要である。大企業がベンチャー企業に対して、一定程度の裁量を与え、市場調査や試作を高速で回転させることが求められている。

最後に、大企業内で既存事業に将来置き換わる可能性がある新しい事業や製品を実現するためには、新しい事業や製品については、既存事業並みの大きな目標を設定せずに、市場が無い新しい事業や製品に合った目標を設定すべきである。新規事業に既存事業と同程度の売上や収益を求めることは、「生まれたての子供に弁護士になれ」と言っているようなものである。

コラム:社内に埋もれたアイデアを活用、意志ある社員が自ら提案してチャレンジできる環境に・・・ソニー(株)

ソニー発の圧倒的な製品はこのプログラムから誕生するかもしれない。2014年4月に始まった「Sony’s Seed Acceleration Program」(通称:SAP)はそんな予感を少なからず感じさせるプログラムである。CEO直轄組織である新規事業創出部によって運営される同プログラムは、組織内で自らの意欲的なアイデアを製品化できずにもがいている社員に変革のきっかけを与えるものだ。

今までも同様の部署やプロジェクトはあったものの、トップダウン・ボトムアップどちらか一方の活動だけではうまくいかないことが多かった。しかし今回の取組は、ボトムアップの活動をトップダウンでサポートするという体制でできあがった部署。SAPでは、オーディションという形でやる気のある人が自ら提案をして、それを実現する可能性が社員に提示されている。採択されれば、既存部署から離れて3か月の開発期間が与えられるとともに数百万円の予算がつく。また、社内外の起業家や投資家がメンターとして後押しをする。大企業のなかでは、研究開発から製造販売までが遠くなりがちで、アイデア・試作段階からフィードバックを繰り返せるこの仕組みは企業にとっても、採択された個人にとっても、新たな成長の可能性を切り開く可能性を秘めている。

応募条件は、既存事業以外のものであれば受付けており、多少既存事業と近くても多くのチャレンジが必要であれば制限しない。実際、すでに多くのプロジェクトがオーディションで採択されている。また、グループ社員であれば誰でも応募することができるとともに、チーム内に1人でもグループ社員がいれば、あとは社外のメンバーがチームに入ることも認めている。

ただのアイデアコンテストに終わるのではなく、実際に開発期間が与えられ、その後の起業、JVなどの出口までストーリーを示すことで、社員にも本気度が伝わっている。今までは、「社内でできないから、外に行って個人レベルでやる」という社員もいたが、SAPによって社内で挑戦できる仕組みができた。

今後は、副業や知的財産などの契約関係をうまく整理して他の企業との連携を深めることで、さらなるイノベーションが誕生する余地がある。

SAP自体が、アイデアを製品としてなかなか世に出せないことに対する課題意識・危機感から始まった草の根運動とトップの想いと社員への信頼が一致して実現されている。開始から1年が経過し、社内の雰囲気も確実に変化した。「社内でできない理由」がなくなった今、自由闊達なアイデアがソニーを駆け巡っている。

SAPの取組の一環として設置された共創スペース「SAP Creative Lounge」

資料:ソニー(株)

コラム:大企業の技術・資源を活用し、競争激しい「スマートロック」市場で存在感を発揮するベンチャー企業・・・Qrio(株)

ここ1~2年、世界中で「スマートロック」の開発競争が活発化している。スマートロックとは、スマートフォン等のモバイル機器のアプリから、住宅等の鍵の施錠・開錠ができる電子鍵を指し、セキュリティ面での課題が解決されれば、将来的に確実な成長が見込まれるとして、「IoT(モノのインターネット)」分野の中でも特に注目されている。

このスマートキー分野では欧米企業が先行していると言われているが、日本国内にも有望な企業が存在する。その一つが、2014年12月に設立したばかりのベンチャー企業、Qrio(株)(東京都港区)である。同社が開発したスマートキー「Qrio Smart Lock」は、海外の他社製品に比べて小型でデザイン性が高く、高度な暗号技術によりセキュリティ性能も高いとして評価されており、同社が2014年12月に支援者募集を開始したクラウドファンディングのプロジェクトでは、目標金額の17倍近い2,500万円の調達に成功した。

同社は、多数の大手企業を出資者とするベンチャーキャピタル「(株)WiL」が、その出資者の一つ「ソニー(株)」と合弁で設立した異色のベンチャー企業で、WiL社の設立者の一人である西條晋一氏が代表者を務めている。WiL社では、日本の大企業の豊富な資源を国内外のベンチャー企業と結びつけてイノベーションを促すことをミッションの一つとしており、Qrio設立はその一環という位置づけである。

「日本の大手企業には、高度で多様な技術が蓄積されており、それを活かせる豊富な人材・設備も揃っている。一方で、ベンチャー企業の界隈には、先見性を持ち新しいビジネスモデルを構築する能力を持つ人材が少なからず存在する。その両者を結びつけることができれば、世界に通用する『日本発メガベンチャー』を生み出すことができるのではないか。」Qrioの事例は、このような仮説を実例をもって証明しようとしている。

実際に「Qrio Smart Lock」は、製品開発や試作・量産においてソニーの経営資源を存分に活用することで、プロジェクト発足から半年程度で実用レベルの試作機を完成、さらに1年以内に販売開始という早期の事業化を実現している。このようなスピードと製品の完成度は、ベンチャー企業が一から体制を構築していては不可能である。また、大企業単体であっても意思決定の面から実現不可能であった。大企業の豊富な資源とベンチャーのスピード感を掛け合わせることによって、はじめて実現できたプロジェクトである。

「Qrio Smart Lock」

資料:Qrio(株)

コラム:大企業で眠る技術をベンチャーが活用、日の目を見ない技術を日の当たる場所へ

大企業で眠っていた技術を活用し、製品開発をするベンチャーが現れようとしている。その名を「Listnr(リスナー)」という製品は、設置場所付近で鳴った音をクラウド解析し、処理を実行するIoTデバイス。インターネット接続機能とマイクを搭載した小型のデバイスで、録音した音声はクラウド上に存在するサーバーへ自動でアップロードされる。サーバー側の音声認識エンジンで音声を解析し、特定の音声を認識した場合に本体のLEDが光って通知するほか、スマートフォンのアプリへ通知を送信したり、スマート家電の操作を自動的に行なったりすることが可能となる。

開発当初は乳児の泣き声から「泣く」「笑う」「叫ぶ」「喃語(乳児が発する意味のない声)」といった4パターンの感情を認識し、スマートフォンアプリ上のアイコンで乳児の感情を通知する機能、スマートフォンからコントロールできる照明システム「Philips hue」をフィンガースナップ音(指を鳴らす音)で操作できる機能を提供する予定である。また、APIを公開し、開発者はListnr対応サービスやアプリを自由に開発できるようになる。APIは録音した音声ファイルを指定したサーバー(開発者が独自で実装するサーバー)にアップロードできるほか、同社が提供する音声認識サーバーの解析結果をAPI経由で自在に利用することも可能となる。

この製品の肝でもある、乳幼児音声から感情認識するソフトウェアはもともと(株)パナソニックの技術である。同社の研究開発部門が製品化の出口を探り同社をスピンアウトした(株)Cerevoの岩佐氏と開発を模索していた矢先、Listnrの元となるアイデアを引っさげて江原理恵氏が「DMM.make AKIBA」の門を叩いたことをきっかけにプロジェクトは大きく動き出した。同製品は未だ開発中ではあるが、今後(株)ABBALabの投資、(株)Cerevoの協力人員増加を予定しており、2015年内の発売を目指しているところである。

大企業で眠っていた技術を生かし、グローバルニッチな分野で勝負をかけようとするものづくりベンチャーが出てきた。また、このようなベンチャーに自社技術を提供しベンチャーならではのスピード感を利用して製品化をサポートする大企業、そして資金的・技術的な支援をするアクセラレーターが出始めた。ものづくりベンチャーを育む環境は着実に整備されつつある。

音をクラウド解析し、処理を実行するIoTデバイス「Listnr」

資料:江原理恵氏提供資料

⑤地場の中小製造企業との連携

自社で生産設備や量産化の技術を持たないことが多いものづくりベンチャーにとって、地域の中小製造企業はアイデアの製品化を実現する上で大事なパートナーである。特に、我が国の地域の中小製造企業は世界的に見ても高い技術力を有する企業が多く、日本は世界で有数の試作・量産がしやすい拠点となるポテンシャルを有している。

逆に、地域にとって、ものづくりベンチャーは経済の牽引役として大きな役割を果たすポテンシャルを持っている。国内市場が縮小する中で、取引量の減少に直面している地域の中小製造企業等にとっては、規模こそ小さいものの新たな取引先となる可能性を持っている。特に、製品の試作段階から量産まで一貫して受注できた方が規模も稼げ中小製造企業にとっては望ましいものの、製品の試作段階の取引規模だけでも十分に利益確保をする仕組みは構築可能であり、今まで想像もしなかったような技術の使い方や新しいことをしようとするベンチャー企業に触れることで、中小製造企業の社内活性化にもつながる効果がある。

このように、ものづくりベンチャーと地域の中小製造企業との連携は大きな可能性を有するものの、まだ十分に顕在化していないのが現状である。

要因としては、雇用と設備を抱える地域の中小製造企業にとってものづくりベンチャー企業との取引は、大企業との取引と異なり、新規かつ単発、小規模であることが多いため、リスクが高い割には、規模も利幅もあまり期待できないことが多く、連携を受け入れる企業が少ないことが挙げられる。また、ものづくりベンチャーを受け入れる地域の中小製造企業が可視化されていないことも要因として挙げられる。例えば、企業のHPを見ても、設備一覧があるだけで、どういった加工に強みを持っている企業なのかが一見して分からないことが多いことなどがある。多くのものづくりベンチャーは国内で連携先企業を探すことに難航しており、結果として、海外企業をパートナーとして選ぶケースも存在している。

解決の方向性としては、自社技術のPRのためにものづくりベンチャーと組む事例があるように、地域の中小製造企業にとってのメリットを明確化すること、新規かつ単発、小規模な取引でも稼げる仕組みを構築すること、埋もれがちな地場の中小製造企業の発掘、ハードウェアアクセラレーターと地場の中小製造企業ネットワークのハブとなる人物におけるネットワーク構築等が考えられる。

コラム:ベンチャーのアイデア実体化の障壁を取り去るパートナー・・・(有)安久工機

(有)安久工機は、医療機器や試験装置等、幅広く機械類の設計や試作を請け負う大田区の中小企業。早稲田大学や東京女子医科大学と提携して人工心臓の開発等を行う等、試作の領域での評価は高い。また、大学と提携して教育活動にも従事している。

従業員数6名の同社であるが、個人事業主やベンチャー企業からの問い合わせは一日数件程度あり、その多くは試作に関する相談である。試作製作にあたっては、特にヒアリングが重要であるという。依頼者が妥協できない点や、どの程度の精密性・耐久性が必要かといった点を試作品に盛り込むためである。依頼者から提示された設計図やヒアリングを通し、加工しにくい部分は加工しやすいように改良、材料の選別を行っていく。CADや3Dプリンタ等の普及でものづくりのハードルは下がりつつあるが、こうした機器では対応できない部分がものづくりの世界にはいまだ存在する。その代表例が寸法公差であり、CADの図面からはわからない。また、製品用途によって加工時の精度や強度は変わるため、材料選び等も重要になってくる。

「ベンチャー企業に必要なのは、やる気とアイデア」と同社の代表・田中氏は語る。そのうえで、作りたいものに対し、最適な技法はなにかということを知っていることが大切であるという。また、こだわりも必要ではあるが、意見をすりあわせての作業においては、時には人の意見を聞くという素直さもベンチャーには求められている。

ベンチャーとの取引採算は既存取引先と比較するとそれほど高くはないものの、「新分野進出・新技術の導入といった面ではメリットがある」という。自社に新たな風を吹かせ続けるためにも、ベンチャーとの取引は、今後も当社において主軸のひとつを担っていく。

社内の様子

ベンチャーと共同開発した「屋根融雪用散水素子」

資料:(有)安久工機

コラム:ベンチャーとのコラボレーションで自社技術をPR・・・武州工業(株)・ビーサイズ(株)

自動車向けの吸気系、ヒーター用のパイプを筆頭に、医療機器用のパイプまで手がける武州工業(株)であるが、近年はベンチャーやデザイナーとのコラボレーションで注目を集めている。

例えば、「1人家電メーカー」として有名なビーサイズ(株)の主力製品であるLEDデスクライト「STROKE」は当社とのコラボレーションによって生まれた製品。「STROKE」はシンプルかつ高いデザイン性が売りのひとつであるが、通常、パイプを曲げた部分は直線部分より太くなってしまい、当初このデザインを実体化するのは非常に困難であった。これを解決したのが同社の高いパイプ加工の技術であった。同社は、基本的にベンチャーやデザイナーからの依頼は断らない。依頼者と相談しながら、自社開発の設備や治具を巧みに使い、その高い技術力でアイデアの実体化を手助けしてくれる、ベンチャー企業にとって頼もしいパートナーである。

一方、当社にとってもベンチャーやデザイナーと取引することにはメリットがある。技術水準の高いデザイナーたちとコラボレーションすることで、世間に自社の技術力をPRすることができるというメリットである。実際、ビーサイズが脚光を浴びるにつれ、同社の知名度も上昇、ベンチャー企業以外からも問い合わせや受注が増加しており、その効果を実感しているという。

一般的に、ベンチャー企業は自らのアイデアやデザインへのこだわりが強い傾向にある。中小企業側がそうした彼らの性格を理解し、コラボレーションすることは非常に重要である。一方のベンチャー企業も、単に設計や試作を行うだけではなく、アイデア段階のものをどのようにしたら実体化できるのか把握するための、金型やパイプ加工等の技術的な素養を高める必要がある。

当社のように、ベンチャーのアイデアを実体化してくれる中小企業が増え、脚光を浴びることはベンチャー企業、中小企業双方にとって望ましいと思われる。

パイプ曲げ加工

資料:(株)武州工業

LEDデスクライト「STROKE」

資料:ビーサイズ(株)

 
コラム:「ソレコン」による人材育成と新たな市場創出のための取組・・・タカハ機工(株)

タカハ機工(株)は、ソレノイドを構成部品の金型からプレス、プラスチック射出成形・切削・組立まで社内一貫生産体制で対応できる中小企業である。ソレノイドとは電磁コイルに電流を流すことにより発生する磁力を応用し、プランジャー(可動鉄芯)を直線運動させる電気部品であり、自販機のつり銭機構、ドア等のロック機構、安全スイッチ等の電気製品に利用されている。

同社が2014年5月から開催しているソレノイド活用のコンテスト「ソレコン」は、技術的な視線での審査になりがちな製造業のコンテストとは一線を画すもので、審査員長に吉本興業所属のクリエーターでもある明和電機代表取締役社長の土佐信道氏を迎え、ソレノイドを使った製品のうち斬新な発想に対して表彰をする新しい形式をとっている。同社の狙いは、デジタルファブリケーションの流れの中で増加するIoTベンチャーとのコラボや起業を目指す個人や学生の人材育成である。

今後は、コンテストだけではなく、3Dプリンタ、レーザーカッター、CNC等の設備を一般開放し、個人起業家、学生、事業者が発想した製品について設計、試作の段階から、量産を見据えた量産試作、材料選定、加工条件、単価設定等に関するアドバイスを提供する量産化最短ラボ「デジタルファクトリーパーク(仮称)」を2015年秋頃にオープンする予定である。

ソレノイドの構造

今回の新たな取組は、多くのものづくりベンチャーたちが、深圳のEMSを活用して試作・量産をしている現状を見ていられず、信頼性の高い製品は日本メーカーが担うべきとの強い想いから始めたものという。ものづくりベンチャーが実現したいアイデアや設計を形にするための知恵出しをすることで、彼らのパートナーとして共に世界でチャレンジをしていきたいと考えている。

第2回ソレコン優勝者の様子

優勝者の製品「論文まもるくん」(保存忘れによるデータ消失防止のため「勝手にCtrl+S」をする電子ユニット)

資料:タカハ機工(株)

 
コラム:ものづくり中小企業との連携により研究開発を推進するベンチャー企業・・・(株)チャレナジー

(株)チャレナジー(東京都墨田区)は、次世代風力発電機の研究開発を手がけるベンチャー企業。同社の清水社長は、2011年の東日本大震災をきっかけに、再生可能エネルギーを広げていく必要があると感じ、強風や風向変化への対応が可能となる次世代風力発電機の原理を考案。多くの関係者から支援を受けながら、研究開発を進めている。

中でも、(株)チャレナジーを開発・試作面で全面的にサポートしているのが、墨田区で少量・多品種の金属加工業を営む中小企業(株)浜野製作所である。同社は、2014年にものづくりベンチャー向けのインキュベーション施設「Garage Sumida(ガレージ・スミダ)」を立ち上げた。同施設は、3Dプリンタやレーザーカッターなどの標準的なデジタル工作機械を備えているだけではなく、浜野製作所の熟練した職人が設計にアドバイスするとともに、板金加工やプレス加工などによる試作にも対応している。更に、浜野製作所が持つ墨田区を始めとする企業ネットワークを活かして、板金・プレス以外の試作ニーズにも幅広く応えていくことが可能である。チャレナジーも浜野製作所と連携することのメリットを感じ、その効果を最大限に享受するために「Garage Sumida」に入居、本社としている。

一般的に、ものづくりベンチャーの開発する製品のうち、3Dプリンタやレーザーカッター等で試作が完結するものはほぼなく、実際に量産・事業化まで見据えた場合には、設備や技術を持つ既存企業との連携が必要不可欠である。また、既存企業の側でも、ものづくりベンチャーとの連携は新たなビジネスチャンスを創出する可能性を秘めている。

ものづくりベンチャーと既存のものづくり企業の連携によってどのようなロールモデルが築けるか、「Garage Sumida」を舞台に、チャレナジーと浜野製作所の挑戦が始まった。

「Garage Sumida」での試作の様子

資料:(株)チャレナジー

コラム:多様な地域企業が集い、「この地域でしか生まれ得ない製品」を生み出す「コア・ブースター・プロジェクト」・・・情報科学芸術大学院大学(IAMAS)

近年、デジタル工作機械や設計ツールの低価格化、クラウドファンディング等の資金調達・情報発信手段の多様化などにより、製品開発・事業化の敷居が下がってきていると言われている。そして、そのような環境変化を背景として、アイデアや具体的なニーズを持つ個人や異業種の企業が、設備・技術を持つものづくり企業を巻き込みながら短期間・低コストで製品を開発し事業化する動きが活発化している。

今のところ、このような新しい動きが目立つのは、東京をはじめとする大都市圏であるが、一方で、大都市圏以外の「地域」においても、大都市圏とは異なるアプローチで新しいものづくりを実践する事例が登場している。

岐阜県大垣市にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)では、小林茂教授が中心となり、「コア・ブースター・プロジェクト」を実施している。このプロジェクトは、地域内のものづくり企業をはじめ、ソフトウェアエンジニア、デザイナーなど、分野の異なる多様な主体が集まってチームを組成し、短期間で製品を開発、事業化を目指すプロジェクトである。

ソフトウェア業界などでは以前から、技術者等が集って短期間で製品・サービスを開発する「ハッカソン」と呼ばれるイベントが頻繁に開催されているが、ここ数年はものづくり分野にも広がり、同様のイベントが開催されるようになってきている。

コア・ブースター・プロジェクトも、基本的にはこの「ハッカソン」の流れを汲むプロジェクトである。ただし、通常のハッカソンでは製品・サービスを「作る」こと自体に重きが置かれ、参加者がその製品・サービスを実際に事業化することは稀であるのに対し、コア・ブースター・プロジェクトでは始めから「事業化」を前提とした実践的な内容となっている点が特徴的である。さらに、一般的なハッカソンは「個人」単位で参加するものが多いのに対し、コア・ブースター・プロジェクトでは地域の「企業」単位での参加が基本となっており、参加企業各社の技術・資源を活用することで、個人レベルではできないような技術的に高度な製品を生み出すことも可能となっている。

このため、同プロジェクトには、新事業開発を本気で志す地域の企業が多数集まっている。そこには歴史ある枡メーカーや家具メーカーなど、この地域特有の地場産業企業も複数参加しており、その技術を活用することで、まさに「この地域でしか生まれ得ない製品」が生み出されている。

「現在、例えばIoTなどの分野では、世界中で画期的なアイデアに基づくこれまでにない製品(ガジェット)が次々と生み出されており、この動きは今後も加速していくと考えられる。一方で、日本の「地域」には、世界中でそこにしかない技術が地場産業という形で蓄積されている。これらのアイデアと地域の産業・技術が結びついていくことで、『地域でしか生まれえない製品』を生み出すことが可能であり、そうした事例を積み重ねていくことが、地域におけるものづくりの可能性を広げていく」と、小林茂教授は語っている。

地域の多くの企業にチャレンジをしてもらうには、やはり成功事例を作っていくことが何よりも重要である。コア・ブースター・プロジェクトのような取組が地域の企業や社会の意識を変革していくひとつのきっかけになることが望まれる。

2013年度コア・ブースター・プロジェクトの成果として生み出された製品「光枡」

資料: 情報科学芸術大学院大学(IAMAS)
ものづくり:(有)大橋量器
デザイン:サンメッセ(株)、(株)グラスプアットジエアー
ハードウェア開発:(有)トリガーデバイス
プロデュース・ソフトウェア開発:(株)パソナテック

コラム:林業×デジタルものづくり「飛騨の森から今までにないワクワクを」・・・(株)飛騨の森でクマは踊る(通称:「ヒダクマ」)

日本の国土の67%、飛騨市においては実に93%を森林が占めている。しかし、この豊富な資源をあまり有効活用できていないのが我が国の実情である。戦後大量に植林された木が安価な輸入材に押され、輸送費などのコストを考えた結果、使われずに放置されているのだ。整備がされなくなった森はやがて荒れ果て、土地が痩せた結果、保水力が低下、土砂災害を生みやすくなり、森の生態系も破壊してしまう。これを防ぐためには、木々の間引きをし、定期的に光が入るようなメンテナンスをする必要がある。そのために、今までにない、木材を「使う」ビジネスモデルが求められている。

これに対し、飛騨市、(株)トビムシ、(株)ロフトワークがそれぞれの強みを掛け合わせ、(株)飛騨の森でクマは踊る(通称:「ヒダクマ」)を設立、地域資源をグローバルに展開し、今まで収益が出しにくかった林業を価値あるものに変える取組が始動した。

ヒダクマの事業のなかでも特徴的なのが、飛騨の伝統である高度な木工技術とデジタルファブリケーションの融合である。例えば、伝統技術のひとつである「組木」を3Dデータベース化し、オンラインサービスを提供、世界中の建築家やデザイナーが飛騨の匠の技とコラボレーションできるような仕組みの構築を模索している。また、飛騨古川の古民家を改装し、デジタルものづくりカフェ「FabCafe HIDA」を2015年8月にプレオープン予定。デジタル工作機器を使いながら地域の職人と交流ができる新たなコミュニティ形成を目指している。

「木を木のまま運んだら負け」と(株)トビムシの竹本氏が語るように、地域内で加工をし、建材、割り箸、床材等、捨てる部分がない使い方をする。そのうえで、作った製品は地域内で完結させず、都市部の人たちが地域のファンになるような売り方をしていく。そのためには、飛騨の特性を生かせるクリエイターが集まって、アイデアを生み出し、かたちにしていく連鎖が必要である。すでに木工パーツと異素材を3Dプリンタでつなぐプロダクトの開発が始まっており、伝統技術が新たな進化を遂げる可能性が広がりつつある。日本中の森でクマが踊り出す。その第一歩が飛騨で始まった。

飛騨古川の美しい街並み

森と伝統技術を活かしたプロトタイプ作成

異素材を接合したプロダクト

資料:(株)飛騨の森でクマは踊る

コラム:市内のクリエーターと企業をマッチング、デジタルファブリケーションを有効活用し、創造性豊かなプロジェクトを発信する・・・神奈川県横浜市

市内に集まった多様なクリエーターと独自ノウハウの強みを活かした新たな高付加価値ビジネスを模索している企業をマッチングさせ、今までにない創造性豊かな新プロジェクトを創出する取組を横浜市が始めた。「創造的産業振興モデル事業」という名のこの取組は、2013年秋から始まった。マッチングコーディネーターが企業の状況・課題を把握した上で事業プランを企業に提案、その事業プランに最適なクリエーターをマッチングする。

例えば、人造でサファイア・ルビーなどの結晶の製造を得意とする(株)信光社では、無垢のルビーで指輪を開発中である。日本では天然の方が好まれるが、中国やアラブでは純度の高さから人工宝石の方がピュアと評価され、高値で取引されるためだ。しかし、今までは宝石を加工してアクセサリーとして販売するためには、デザインや価格設定を含む商品開発と販路獲得の課題があり同社としてもジュエリー分野は撤退し、腕時計のサファイアトップや、LEDなどの基盤部品などの事業に移行していた。そこで、マッチングコーディネーターである(株)トーン&マターの広瀬氏は3Dプリンタを活用することを提案。デザイナーが検討し出力した3Dモデルを企業側に提示し、技術的に作成可能か、不可能ならデザインをどう修正すればよいのか、コストの主要素である磨く面の数とデザインの制御等のすりあわせを行った。デザイン、3D出力、すりあわせと、試作を高速で検証することにより、3か月という短期間でルビーの指輪の試作品を製作することができた。

広瀬氏は「デジタルファブリケーションの力で、部品メーカーとしてエリアに潜んでいる高い技術力とデザインを結びつけ、価値の変換を行い新しいクリエイティブ産業として育成していきたい」と本事業の狙いを語る。今まで交わることのなかったクリエーターと高い技術力を持った企業、ここにデジタルファブリケーションが掛け合わさることで、今後、横浜発の魅力的な製品・サービスが世界中に発信されることに期待したい。

3Dプリンタで出力した試作品

ルビーの指輪の試作品

資料:広瀬氏提供資料

コラム:地域における「デジタルものづくり」の動き

(一社)九州地域産業活性化センター及び九州経済産業局では、2014年度に「デジタルものづくり研究会」を開催した。九州には3Dプリンタやレーザーカッターなどの機材が利用可能な工房・ファブラボの開設が相次いでおり、デジタル化やネットワーク化が進む中で3Dプリンタなどのツールがどのように活かされ、ものの作り方やビジネスがどのように変化していくのか、また、地域におけるファブスペースを拠点としたネットワークの形成、新たな生産スタイルによるビジネス創出と価値創造の実現に向けたデジタルものづくりのビジネス展開・モデル化のための仕組み作りについて、地域ものづくり企業やファブラボの参加のもと検討した。

日程テーマ開催地
10月1日(水)「3Dプリンタとものづくり革新のゆくえ」福岡市
10月23日(木)「3Dプリンタの新たな可能性」福岡市
11月15日(土)「オープンネットワーク時代のものづくり」北九州市
11月27日(木)「地産地消型ものづくりと人材育成1」福岡市
12月10日(水)「地産地消型ものづくりと人材育成2」福岡市

例えば、第4回の研究会に登壇した(株)三松(福岡県筑紫野市)は3次元データを活用した多品種小ロット生産と職人技をうまく融合させている。同社は1972年創業の板金加工会社。板金加工技術をベースに、半導体装置やコインパーキング、携帯電話基地局などのメインフレームを製造してきたが、近年では企画開発から製造までトータルで装置全体を製造するまでに事業領域を拡大し、客先のニーズに応じたサービスを展開している。同社では、従業員が高い技術を身につけるために「三松大学」という独自の教育カリキュラムや試験によって技術向上を図るとともに、「多品種少量生産の進行」と、設計に不可欠な「CADデータの重要度上昇」を契機に生産管理のシステム化に取り組んできた。

3Dプリンタを例にしてもCADデータがないと工作機械は動かず、ものづくりは成立しない。設計した3次元CADデータは生産情報の宝庫なので、そこから作業現場に必要最適な情報を提供するシステムを構築している。特に溶接ロボットのように職人技が必要な工程では、職人技術をサポートするために様々なプログラムの条件設定が必要となるので、この条件設定のプロセスが職人技術のデジタル化につながっている。さらに、3次元CADデータがより一層重要なインフラ機能となるなかで、これを応用する形で、多品種におよぶ部品の共通化、3Dプリンタの活用、社外との連携などの展開を模索している。

(株)三松の工場

資料:(株)三松

また、同じく第4回に登壇し、「ホームセンターと電子工作をつなぐ」をコンセプトに設立されたファブラボ太宰府(福岡県太宰府市)の運営母体は、ホームセンター「グッデイ事業」を展開する嘉穂無線(株)(福岡県那珂川町)。関連会社で「電子工作(エレキット)事業」を行う(株)イーケイジャパン(福岡県太宰府市)内に2014年9月20日に開設した。

ファブラボ太宰府の特徴は、「ホームセンター事業」と「電子工作事業」という小売とメーカーのそれぞれの機能をつなぎ、活かす役割を持っていることで、かつ企業主体でファブラボを作った国内で最初の事例である。この組み合わせにより、デジタルものづくりの関心層が女性や子供にも拡がりつつある。また、これまでは、売れるかどうか分からない中、企画段階での試作の金型製作コストが課題となって商品化してこなかった個人のものづくりが、「ファブラボで試作」→「グッデイで販売」→「売れたらエレキットで量産」という流れを作り、売ることのハードルやリスクを下げて、マーケティングに根差したものづくりを促進するという好循環を作っていくことを目指している。

ファブラボ日本会議の様子

ワークショップの様子

資料:ファブラボ太宰府

九州に整備されつつあるものづくり拠点、日本の強みとして地域に蓄積されてきた産業の技術や人材などの資源を活かしながら、革新や新事業を創出していくためには、多様な人材のコラボレーションやトライアンドエラーを加速するオープンネットワークの環境整備が求められる。

生まれたアイデアや試作品を商品化するための地域企業とのネットワーク構築、商品開発から販売までの一連のハンズオン支援のための産業支援機関との連携、地域の課題を解決するコミュニティの形成に継続して取り組んでいく必要がある。

⑥シードアクセラレーター・投資家

ものづくりベンチャーの創出・成長のために、メンタリング(伴走型)支援を行うアクセラレーター等の存在は非常に重要であり、海外では、アメリカの「Bolt」、「Dragon Innovation」、「Highway1」、中国の「HAXLR8R(ハクセラレーター)」といった、ものづくり分野のアクセラレーターが隆盛をしており、応募者が殺到、多くの起業家を輩出している。

一方我が国では、本格的なアクセラレーターの担い手がまだ少ないのが現状である。2014年11月にオープンした「DMM.make AKIBA」に入居している(株)ABBALabが提供する「ABBALab Farm Program Scholarship」はその数少ない例である。特にシード期のベンチャーを対象にしており、50~1,000万円程度の資金を投入、初期の量産までサポートをし、クラウドファンディングやその後のVC出資につなげる役割を担っている。また、様々なジャンルのメンターやパートナー企業による座学講義、実習講義、メンタリングを受けさせることで、試作や製造、企業経営に必要なノウハウや知識を起業家たちに供与している。

また、ものづくりベンチャーにとって、成長のための大きなハードルの1つとして資金調達がある。ものづくり分野は一般的にIT分野よりもお金がかかり、資金回収にも時間がかかるため、ものづくりベンチャーに出資をするエンジェル投資家やVCがまだ少ないのが現状である。なお、VCの投資対象となるためには、製品販売の実績が重要であるが、クラウドファンディングはこうした次の投資に向けた実績作りの一環にもなっている。

以上のように、シードアクセラレーターやものづくりベンチャーに出資をするエンジェル投資家やVCを増やしていくことが、我が国におけるものづくりベンチャーの創出・成長のために必要である。

コラム:DMMが設備を、(株)ABBALabが資金とノウハウを、そして(株)Cerevoが先達としてメンターの役割を果たす一大拠点「DMM.make AKIBA」

2014年11月、秋葉原にハードウェア開発に必要な最新機材を取りそろえた一大拠点がオープンした。「作れない言い訳をなくすための施設を作りたかった」と同施設に入居する(株)ABBALab代表でもあり、DMM.makeの統括プロデューサーを務める小笠原氏は想いを込める。

総額約5億円の工作機械や性能検査に必要な最新の機材を備え、100台程度の少量生産まで行うことが可能な施設を秋葉原のど真ん中に作ったことも驚きではあるが、シードアクセラレーションプログラムを提供する(株)ABBALabとものづくりベンチャーの先駆者である(株)Cerevoがメンターとしてベンチャーたちの育成に携わっていることが他の施設とは一線を画する大きな特徴である。

特に、(株)ABBALabが同施設に入居したことは特筆すべきことである。IT分野への投資家やアクセラレーターが主流を占めるなかで、製造業分野のアクセラレーターはまだまだ稀有な存在である。同社が提供する「ABBALab Farm Program Scholarship」は、トライアウトに合格し、その後の定期的な成果報告で、都度支援継続か否かが問われる厳しいプログラムである。資金提供金額に応じて、株式の一部や商品の販売権、商品に関わるライセンスなどに関するリターンが設定される。支援資金は50~1,000万円と量産試作まで行うには十分な金額である。その後のクラウドファンディングやVC出資などにつなげていく橋渡しの役割を同社が担っている。

ものづくりベンチャーにとって、同社の存在はたいへん貴重である。特に、シード期のものづくりベンチャーに投資をするVCは現在の日本では皆無に近い。IT系のシード・アーリーステージのベンチャーに資金は流れるが、製造業のシード・アーリーステージには流れ込まない。この流れを変えるのが(株)ABBALabであり、多くのものづくりベンチャーが世界にはばたくことをサポートすることで、このステージに流れこむエンジェル投資家やVCが現れるきっかけになるだろう。また、同社は現在、シード期のものづくりベンチャーを投資対象とするファンドを組成しようと計画しているところであるが、この動きに興味を示し、協力をしようとしているのは、残念なことに欧米や台湾の企業であり日本企業からの色よい返事はないそうだ。欧米や台湾企業が、今までの「大量生産・大量消費」の時代から、「適量生産・適量消費」に舵を切り、ものづくりベンチャーに対しても投資対象として、またビジネスパートナーとして、大きく評価をし始めているなかで、日本企業は世界の大きな動きから取り残されつつある。今チャレンジをすれば、まだまだ主導権を握れるチャンスはあるはずであり、我が国製造業の底力を見せるには、今が正念場である。

DMM.make AKIBAの様子

資料:DMM.make AKIBA

「ABBALab Farm Program Scholarship」のスキーム

資料:(株)ABBALab

⑦今後に向けて

IoT時代を迎え、ソフトとハードの両方を見据えた新しいビジネス構築が重要性を増しており、政策的な対応も両方を見据えて進めることが必要である。

また、ベンチャー企業にとって、先輩起業家から後輩起業家へのメンタリング(伴走型)支援は非常に重要である。特に、ものづくりにおいては、量産化のノウハウ、量産工場等とのネットワーク、クラウドファンディングにおけるノウハウ等が成功率を高めるために必要となる。国内でメンタリング(伴走型)支援の仕組みを構築し、ものづくりベンチャーの成功率を上げ、我が国の得意なものづくりで成功例を蓄積していくことが、ベンチャーエコシステム形成のために求められている。

一方で、ものづくりベンチャーの集積地として、資金調達のしやすさからシリコンバレー、量産・製品開発のしやすさから深圳、等という形で地域間競争が始まっている。日本においても、量産・製品開発のノウハウ・設備を持つ製造大企業や地場の中小製造企業の集積を発掘、製造大企業や中小製造企業の集積とものづくりベンチャーやアクセラレーター等関係者間のネットワーク構築を促し、量産・製品開発のしやすさを向上させることで、国内外を問わずものづくりベンチャーを日本に集積させ、日本でものづくりベンチャーの永続的なエコシステムを形成すること、日本がグローバルなエコシステムのコアとなることが重要である。

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